TPP協定はアメリカの多国籍企業が他国を収奪するための手段であって、トランプ大統領が指摘する通り、彼ら以外の国民にとっては「百害あって一利もない」ものです。
TPP協定はもともと彼らが日本を標的にして構想したものでした。日本以外の国では経済規模が小さいのでとても彼らの食欲を充たせないからです。
通常一方だけが被害を被るものであればそもそも協定などは成立しないし、仮に成立したとしてもその実態が分かった時点で該当国は離脱します。ところがTPPにはそれが出来ない仕掛けが盛り込まれています。「協定からの離脱は全てのメンバー国が了承しなければ出来ない」、がそれです。
一体参加したが最後そこから離脱できないという、ヤクザも顔負けの協定が過去にあったでしょうか。しかも締結してから数年間は国民に秘密にしておかなければならないというような協定が。
TPPのISD条項は、多国籍企業が世界銀行傘下の仲裁機関に訴えて、他国の政府から思うがままに高額の賠償金を取り立てることを可能にするものです。それが、他国の主権(政府)の上に多国籍企業を君臨させていると言われる所以です。
仲裁の審理はあくまで「他国の政府の政策が投資家にどれくらいの被害を与えたか」という点だけに向けられ、「その政策が公共の利益のために必要なものかどうか」は考慮されません。その審査は非公開で行われ、一審制で控訴することはできません。
したがってトランプ氏がTPPからの永久離脱を決めて協定を事実上廃棄したのは、植草一秀氏が言うように、まさに日本に取って「天祐」というべきものでした。それを安倍首相は全く理解することが出来ずに、「トランプ氏に再考を促す」などといまだに的外れなことを口にしています。何という認識不足でしょうか。
トランプ氏はTPPを廃棄する代わりに、関係国とはそれぞれ二国間協定(FTA)を結ぶと言明しています。その中でも「日米FTA」は、当然トランプ政権が最も注力する交渉になる筈です。もしも日米FTAが結ばれれば、前記したすべての悲劇がそこに盛り込まれることになります。なぜならTPPを承認している以上拒否できないし、そもそも安倍首相をはじめとする日本側の担当者はその危険性を殆ど認識していないからです。
2月10日に予定されている日米首脳会談ではそれを含めて様々な対日要求・・・というよりも対日強要が行われると思われますが、植草氏は、「安倍首相が隷属国の御用聞きのような気分で訪米し、米国の言いなりになってその要求を丸呑みするなら、TPPが消滅した天祐は消えてしまうどころか、大きな災厄に転じてしまう」、と述べています。
安倍首相に、一国の首相として一体国益を守り切る気概があるのかが注目されます。
植草一秀の「知られざる真実」に加えて、「米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか」とする2011年当時の中野剛志氏の論文を参考資料として紹介します。
当時中野氏は経産省から京都大学に出向していましたが、日本で最も早くTPPの危険性について警告を発したひとりです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
米国命令で二国間協議受入れは植民地の対応
植草一秀の「知られざる真実」 2017年2月 1日
米国のトランプ大統領が公約通り、大統領就任初日にTPPからの離脱を宣言し、TPP離脱の大統領令にも署名した。米国はTPP寄託国のニュージーランドに、TPPからの離脱を正式に通知した。
同時にTPP最終合意に署名した11ヵ国にTPPからの離脱を書簡で通知した。
NZへの通知のなかで、米国は「TPPから永久に離脱する」ことを明記した。これでTPPが発効される可能性は事実上消滅した。
それにもかかわらず、日本の安倍政権は米国の翻意を促す姿勢に変化はないと強弁しているが、これは、米国の新政権の外交政策に対する「敵意ある内政干渉」にあたる。
米国のトランプ大統領は選挙公約にTPP離脱を明記しており、この公約を踏まえて米国の主権者がトランプ氏を新大統領に選出した。そして、トランプ大統領が公約通りに、大統領就任初日にTPPからの離脱を宣言し、寄託国のNZに正式に通知した。
その米国の決定を覆すように働きかけるというのは、友好国の行動として適切でない。安倍首相は、米国民の選択に基づくトランプ新大統領のTPP離脱決定に対して敬意を払うべきである。
TPPは最終合意に署名した12ヵ国のうち、6ヵ国以上、かつ、署名国GDP合計値の85%以上の国が署名しないと発効しない。
米国のGDP比が約60%あるため、米国が署名しなければTPPは発効しない。
この米国が「TPPから永久に離脱する」ことを正式に通知したため、この米国の方針が変わらない限り、TPPは発効しない。
交渉参加国の一部に、米国を除く11ヵ国でTPPを発効してはどうかとの提案があるが、そのためにはTPP最終合意を修正する必要がある。「再交渉」が必要になる。
昨年秋の臨時国会でTPP批准案を強行採決して可決させた安倍政権は、TPP再交渉には絶対に応じない」と繰り返した。
「TPP最終合意に一切手を入れさせないために、批准を急ぐ」としてきたのであり、現在のTPP最終合意の見直しは、安倍首相の国会答弁に反するものである。したがって、TPPが発効するには、米国の方針変更が必要不可欠になるが、トランプ新大統領が「永久に離脱」と明言している以上、トランプ政権下での米国の方針転換は想定されない。
唯一の可能性は、トランプ大統領を物理的に消滅させて、後任の大統領がTPP参加方針を提示するケースだけである。
トランプ大統領が選挙で勝利して以来、メディアは異常な勢いのトランプ攻撃を継続しているが、これは、
トランプ大統領の物理的除去の環境づくりを進めているものであるとの見方も可能である。
そうなると、安倍政権の米国の翻意を引き続き求めるとのスタンスは、トランプ氏の物理的除去を目論む、米国支配勢力の意向と通じるものであるとの疑いも生じてくる。このような非礼な外交姿勢が許されるわけがない。
安倍政権は米国のトランプ新政権がTPP離脱を正式に決定したことを受けて、TPPの発効可能性が消滅したことを謙虚に受け入れるべきである。
他方、トランプ大統領は日本との間の二国間交渉を求める可能性が高い。
何よりも警戒するべきことは、これまで米国の言いなりになってきた安倍政権が、トランプ新政権の新たな要求を丸呑みすることである。そもそも、TPPは日本の主権者にとって、「百害あって一利なし」の条約である。
このTPPがトランプ大統領の登場によって消滅することは、天祐と言ってもよい吉報である。ところが、そのなかで、安倍政権が米国の言いなりになって、日米の二国間交渉で、米国の要求を丸呑みするなら、TPPが消滅した天祐は消えてしまうどころか、大きな災厄に転じてしまう。
安倍首相は2月10日に訪米して日米首脳会談を行うとしているが、隷属国の御用聞きのような気分で訪米するなら、日本国民には災厄しかもたらさない。
安倍政権の対米隷属外交を、国民が監視し、これを未然に阻止しなければならない。
【参考資料】
米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか
「TPP亡国論」著者が最後の警告!
中野剛志 ダイヤモンドオンライン 2011年10月24日
京都大学大学院工学研究科准教授
TPP交渉に参加するのか否か、11月上旬に開催されるAPECまでに結論が出される。国民には協定に関する充分な情報ももたらされないまま、政府は交渉のテーブルにつこうとしている模様だ。
しかし、先に合意した米韓FTAをよく分析すべきである。TPPと米韓FTAは前提や条件が似通っており、韓国が飲んだ不利益をみればTPPで被るであろう日本のデメリットは明らかだ。
(中 略) しかし、TPPの正体を知る上で格好の分析対象がある。 TPP推進論者が羨望する米韓FTA(自由貿易協定)である。
米韓FTAが参考になるのはTPPが実質的には日米FTAだから
なぜ比較対象にふさわしいのか?
まずTPPは、日本が参加した場合、交渉参加国の経済規模のシェアが日米で9割を占めるから、多国間協定とは名ばかりで、実質的には“日米FTA”とみなすことができる。また、米韓FTAもTPPと同じように、関税の完全撤廃という急進的な貿易自由化を目指していたし、取り扱われる分野の範囲が物品だけでなく、金融、投資、政府調達、労働、環境など、広くカバーしている点も同じだ。
(中 略) だが政府もTPP推進論者も、米韓FTAの具体的な内容について、一向に触れようとはしない。その理由は簡単で、米韓FTAは、韓国にとって極めて不利な結果に終わったからである。
では、米韓FTAの無残な結末を、日本の置かれた状況と対比しながら見てみよう。
韓国は無意味な関税撤廃の代償に環境基準など米国製品への適用緩和を飲まされた
まず、韓国は、何を得たか。もちろん、米国での関税の撤廃である。
しかし、韓国が輸出できそうな工業製品についての米国の関税は、既に充分低い。例えば、自動車はわずか2.5%、テレビは5%程度しかないのだ。(中 略)そもそも韓国は、自動車も電気電子製品も既に、米国における現地生産を進めているから、関税の存在は企業競争力とは殆ど関係がない。これは、言うまでもなく日本も同じである。グローバル化によって海外生産が進んだ現在、製造業の競争力は、関税ではなく通貨の価値で決まるのだ。(中 略)さて、韓国は、この無意味な関税撤廃の代償として、自国の自動車市場に米国企業が参入しやすいように、制度を変更することを迫られた。米国の自動車業界が、米韓FTAによる関税撤廃を飲む見返りを米国政府に要求したからだ。
その結果、韓国は、排出量基準設定について米国の方式を導入するとともに、韓国に輸入される米国産自動車に対して課せられる排出ガス診断装置の装着義務や安全基準認証などについて、一定の義務を免除することになった。つまり、自動車の環境や安全を韓国の基準で守ることができなくなったのだ。また、米国の自動車メーカーが競争力をもつ大型車の税負担をより軽減することにもなった。(中 略)
コメの自由化は一時的に逃れても今後こじ開けられる可能性大
農産品についてはどうか。
韓国は、コメの自由化は逃れたが、それ以外は実質的に全て自由化することになった。
海外生産を進めている製造業にとって関税は無意味だが、農業を保護するためには依然として重要だ。従って、製造業を守りたい米国と、農業を守りたい韓国が、お互いに関税を撤廃したら、結果は韓国に不利になるだけに終わる。これは、日本も同じである。
(中 略) カーク[Ron Kirk]通商代表も、今後、韓国のコメ市場をこじ開ける努力をし、また今後の通商交渉では例外品目は設けないと応えている。
つまり、TPP交渉では、コメも例外にはならないということだ。
このほか、韓国は法務・会計・税務サービスについて、米国人が韓国で事務所を開設しやすいような制度に変えさせられた。知的財産権制度は、米国の要求をすべて飲んだ。その結果、例えば米国企業が、韓国のウェブサイトを閉鎖することができるようになった。医薬品については、米国の医薬品メーカーが、自社の医薬品の薬価が低く決定された場合、これを不服として韓国政府に見直しを求めることが可能になる制度が設けられた。
農業協同組合や水産業協同組合、郵便局、信用金庫の提供する保険サービスは、米国の要求通り、協定の発効後、3年以内に一般の民間保険と同じ扱いになることが決まった。
(中 略) 米国は、日本の簡易保険と共済に対しても、同じ要求を既に突きつけて来ている。日本の保険市場は米国の次に大きいのだから、米国は韓国以上に日本の保険市場を欲しがっているのだ。
米韓FTAに忍ばされたラチェット規定やISD条項の怖さ
さらに米韓FTAには、いくつか恐ろしい仕掛けがある。
その一つが、「ラチェット規定」だ。
ラチェットとは、一方にしか動かない爪歯車を指す。 ラチェット規定はすなわち、現状の自由化よりも後退を許さないという規定である。
締約国が、後で何らかの事情により、市場開放をし過ぎたと思っても、規制を強化することが許されない規定なのだ。
このラチェット規定が入っている分野をみると、例えば銀行、保険、法務、特許、会計、電力・ガス、宅配、電気通信、建設サービス、流通、高等教育、医療機器、航空輸送など多岐にわたる。どれも米国企業に有利な分野ばかりである。
加えて、今後、韓国が他の国とFTAを締結した場合、その条件が米国に対する条件よりも有利な場合は、米国にも同じ条件を適用しなければならないという規定まで入れられた。
もう一つ特筆すべきは、韓国が、ISD(「国家と投資家の間の紛争解決手続き」)条項を飲まされていることである。
このISDとは、ある国家が自国の公共も利益のために制定した政策によって、海外の投資家が不利益を被った場合には、世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」という第三者機関に訴えることができる制度である。
しかし、このISD条項には次のような問題点が指摘されている。
ISD条項に基づいて投資家が政府を訴えた場合、数名の仲裁人がこれを審査する。しかし審理の関心は、あくまで「政府の政策が投資家にどれくらいの被害を与えたか」という点だけに向けられ、「その政策が公共の利益のために必要なものかどうか」は考慮されない。その上、この審査は非公開で行われるため不透明であり、判例の拘束を受けないので結果が予測不可能である。
また、この審査の結果に不服があっても上訴できない。仮に審査結果に法解釈の誤りがあったとしても、国の司法機関は、これを是正することができないのである。しかも信じがたいことに、米韓FTAの場合には、このISD条項は韓国にだけ適用されるのである。
このISD条項は、米国とカナダとメキシコの自由貿易協定であるNAFTA(北米自由貿易協定)において導入された。その結果、国家主権が犯される事態がつぎつぎと引き起こされている。
たとえばカナダでは、ある神経性物質の燃料への使用を禁止していた。同様の規制は、ヨーロッパや米国のほとんどの州にある。ところが、米国のある燃料企業が、この規制で不利益を被ったとして、ISD条項に基づいてカナダ政府を訴えた。そして審査の結果、カナダ政府は敗訴し、巨額の賠償金を支払った上、この規制を撤廃せざるを得なくなった。
また、ある米国の廃棄物処理業者が、カナダで処理をした廃棄物(PCB)を米国国内に輸送してリサイクルする計画を立てたところ、カナダ政府は環境上の理由から米国への廃棄物の輸出を一定期間禁止した。これに対し、米国の廃棄物処理業者はISD条項に従ってカナダ政府を提訴し、カナダ政府は823万ドルの賠償を支払わなければならなくなった。
メキシコでは、地方自治体がある米国企業による有害物質の埋め立て計画の危険性を考慮して、その許可を取り消した。すると、この米国企業はメキシコ政府を訴え、1670万ドルの賠償金を獲得することに成功したのである。
要するに、ISD条項とは、各国が自国民の安全、健康、福祉、環境を、自分たちの国の基準で決められなくする「治外法権」規定なのである。気の毒に、韓国はこの条項を受け入れさせられたのだ。
このISD条項に基づく紛争の件数は、1990年代以降激増し、その累積件数は200を越えている。このため、ヨーク大学のスティーブン・ギルやロンドン大学のガス・ヴァン・ハーテンなど多くの識者が、このISD条項は、グローバル企業が各国の主権そして民主主義を侵害することを認めるものだ、と問題視している。
ISD条項は毒まんじゅうと知らず進んで入れようとする日本政府の愚
米国はTPP交渉に参加した際に、新たに投資の作業部会を設けさせた。米国の狙いは、このISD条項をねじ込み、自国企業がその投資と訴訟のテクニックを駆使して儲けることなのだ。
日本はISD条項を断固として拒否しなければならない。
ところが信じがたいことに、政府は「我が国が確保したい主なルール」の中に、このISD条項を入れているのである(民主党経済連携プロジェクトチームの資料)。
その理由は、日本企業がTPP参加国に進出した場合に、進出先の国の政策によって不利益を被った際の問題解決として使えるからだという。しかし、グローバル企業の利益のために、他国の主権(民主国家なら国民主権)を侵害するなどということは、許されるべきではない。
それ以上に、愚かしいのは、日本政府の方がグローバル企業、特にアメリカ企業に訴えられて、国民主権を侵害されるリスクを軽視していることだ。
政府やTPP推進論者は、「交渉に参加して、ルールを有利にすればよい」「不利になる事項については、譲らなければよい」などと言い募り、「まずは交渉のテーブルに着くべきだ」などと言ってきた。
しかし、TPPの交渉で日本が得られるものなど、たかが知れているのに対し、守らなければならないものは数多くある。そのような防戦一方の交渉がどんな結末になるかは、TPP推進論者が羨望する米韓FTAの結果をみれば明らかだ。
それどころか、政府は、日本の国益を著しく損なうISD条項の導入をむしろ望んでいるのである。こうなると、もはや、情報を入手するとか交渉を有利にするといったレベルの問題ではない。日本政府は、自国の国益とは何かを判断する能力すら欠いているのだ。
野田首相は韓国大統領さながらに米国から歓迎されれば満足なのか
(後 略)