政府は今の臨時国会で、継続審議とされていた種苗法「改正」案を成立させようとしています。これは日本の農業を、種苗・農薬の販売で市揚の寡占を進めるバイオ大企業に売り渡そうとする、典型的な売国政策です。
しんぶん赤旗が、日本の食や農のあり方を大きく変質させる種苗法改定案の問題点について、鈴木宣弘・東大大学院教授(農業経済)に聞きました
併せて農民運動全国連合会が国会内で11日、苗法改定案を撤回するよう農林水産省に要請したニュースを紹介します。
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(11月10日)種苗法「改正」の問題点 日本の農業を守れ
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一部企業が趣旨独占も 菅政権が成立狙う種苗法改定案 鈴木宣弘・東大教授
しんぶん赤旗日曜版 2020年11月15日号
農業者や消費者から批判を受け、通常国会で継続審議となった臨時国会での成立を狙っています。日本の食や農のあり方を大きく変質させる種苗法改定案の問題点について、東京大学大学院教授(農業経済)の鈴木宣弘さんに聞きました。 矢守一英記者
東京大学大学院教授(農業経済学)鈴木宣弘さん
種苗法は新品種の「知的財産権を守る」ことを目的にした法律です。開発者が農林水産省に出願して登録された「登録品種」に対する権利を、著作権などと同様に保護します。ただし、農業者が収穫物の一部を、自らの農業経営で種苗として使うための「自家増殖」は例外として認められてきました。
農家の「自家増殖」原則禁止
今回の改定案は、自家増殖を認める条項を削除して、農家であっても許諾なしに登録品種を自家増殖してはいけないことにします。
農水省は日本で開発された優良品種の海外流出を防止するためだといいます。
優良な種苗の海外流出を防止することは必要です。しかし、そのために必要な措置は、海外で日本の種苗を品種登録することです。日本の農家の自家増殖に制限をかけることではありません。
たとえば、日本で開発されたプドウの「シャインマスカット」が韓国などで栽培され、アジア市場に輸出されています。こうした事態の根本的な原因は、開発者の日本政府が海外での品種登録を怠ったことにあります。
農水省は自家増殖の禁止は登録品種だけで、「ほとんどの品種は一般品種であり、今後も自由に自家増殖ができます」と説明しています。しかし、これは事実と異なります。
たとえば、「あきたこまち」など稲の「産地品種銘柄では5割以上が登録品種」です。2018年に生産された稲の品種のうち、登録品種は64%を占めています。
稲以外の農産物でも、その地方で力を入れている品種は登録品種の割合が高くなる傾向があります。
米・麦などの種子の開発・普及は都道府県の責任としてきたのが 「主要農作物種子法」でした。その廃止(18年)以来、.公共の種子や農家の営みを守ることから、企業が自由に利益を追求できる環境に変える流れが強まっています。
その中で農家の自家増殖が制限されれば、いずれ農家は種子・農薬多国籍企業(アグリビジネス)から高価な種子を買わざるを得なくなりかねません。
種子・農薬多国籍企業は「種子を制するものは世界を制する」という言葉通り、種子を独占し、それを買わないと生産・消費ができないようにしてもうけることを行動原理にしています。
食の安全にとっても脅威に
食の安全にとっても脅威です。すでに日本政府は昨年末、種子・農薬多国籍企業が遺伝子組み換え作物の種子とセットで販売している除草剤(グリホサート)の残留基準を、大幅に緩和しています。
23年4月からは「遺伝子組み換えでない」という表示も実質的に禁止されます。
種子は農業者が莫大(ぱくだい)なコストをかけて、連綿と引き継いできたものです。国民の共有財産である種子を一部の企業のもうけの道具にされないよう、歯止めをかけるべきです。
「種は農民の魂」高まる反対 共闘で廃案に 田村貴昭衆院議員
しんぶん赤旗日曜版 2020年11月15日号
種苗法の改悪の根っこには、主要農産物種子法の廃止法案と同時期に成立した「農業競争力強化支援法」があります。農業試験場などの公的機関が持つ種苗生産の知見を民間に提供せよという法律です。つまり、企業が種苗でもうけるためには、公的機関も自家増殖もじゃまというわけです。農家を単なる種苗の消費者にしてしまうなどとんでもありません。
「種は農民の魂」-。地域の特性に合わせて品種改良されながら、引き継がれてきた農業の歩みを止めてはいけません。
法案は衆議院で審議入りし、与党は早期成立を主張しています。しかし、反対の世論は急速に高まっています。
徹底審議で問題点を浮かび上がらせ、野党の共闘を広げ、廃案に追い込む決意です。
種苗法改定案撤回を 農民連が農水省に要請 田村・紙氏同席
しんぶん赤旗 2020年11月12日
農民運動全国連合会(農民連)は国会内で11日、苗法改定案を撤回するよう農林水産省に要請しました。同改定案は「登録品種」について農民が続けてきた自棄増殖を原則禁止するもの。農業生産だけでなく食の安全性・多様性を損なうものだとして反対の声が広がっています。
農民連の笹渡義夫会長は、知的財産の保護の名による自家増殖禁止が、日本も批准している「食料及び農業のための植物遺伝資源に関する条約」と矛盾すると指摘。許諾料の負担増もあげ、「私たちの声を聞き今国会は撒回を」と求めました。
農水省生産局知的財産課の担当者は「海外流出の防止」との説明を練り返す一方で、「負担は増えない」としてきた許諾料について「民間の話なのでわからない」と負担増の可能性を認めました。
笹渡氏は「改正されることも改正案の中身も知られていない。農民、消費者を含む国民的議論をするべきだ」と求めました。
日本共産党の紙智子参院議員、田村貴昭衆院議員が同席。紙氏は「育成者の権利とバランスをとりながら自家増殖の権利を守るのが国際的な潮流だ。海外流出防止は現行法で可能だ」と指摘。田村氏は「より懸念は深まった。育成者権を後押しする法案であり、農民の負担増への不安は当然だ」と述べました。