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2025年6月30日月曜日

30- 米国やイスラエルによるイランの核濃縮工場空爆にIAEA事務局長が協力した疑い

 トランプは米軍にイランの核施設を空爆させました。特にフォルドにあるウラン濃縮工場に対しては、B-2戦略爆撃機7機、偵察機、空中給油機、戦闘機などを含む125機以上の航空機を投入し、6発のバンカー・バスター(大型地中貫通爆弾)を使ったといわれています。
 IAEAのグロッシー事務局長は、アメリカによる攻撃後 イランが核活動を兵器化に転用したことを示す証拠はないと発言していますが、理事会は6月12日、トランプがイランに突きつけた60日間の猶予期間が終わる日に会議を開き、イランがIAEA加盟国としての義務を遵守していないとする決議を可決し、米国がイランを空爆する口実を与えました米国も決議案が可決されるように工作していました
 これでは米国と対立しているイランなどが軍事用ではない核施設を所有しても、米国はいつでも空爆できる(条件が整っている)ということになります。
 櫻井ジャーナルは、イラクを先制攻撃した当時のエルバラダイ・IAEA事務局長に懲りた米国は、以後 自分たちに従順な人物をIAEAの事務局長に据えるようにしていると述べています。恐ろしい話です。

 併せて田中宇氏の記事「イランとイスラエル 停戦の意味」を紹介します。
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米国やイスラエルによるイランの核濃縮工場空爆にIAEA事務局長が協力した疑い
                         櫻井ジャーナル 2025.06.27
 ドナルド・トランプ米大統領は自国軍にイランのフォルドにあるウラン濃縮工場を空爆させた。B-2戦略爆撃機7機、偵察機、空中給油機、戦闘機などを含む125機以上の航空機を投入、6発のバンカー・バスター(大型地中貫通爆弾)GBU-57を使ったと言われているが、予想通り、構造物を破壊することはできなかったようだ。勿論、アメリカ側もそうしたことを認識、地下施設へ続く入り口や通路を破壊、出入りできなくしようと計画したとされている。
 その計画通りになったかどうかは現地を調べなければわからない。そこで登場するのがIAEA(国際原子力機関)のラファエル・グロッシー事務局長。アメリカによる攻撃後、グロッシーはイランが核活動を兵器化に転用したことを示す証拠はないと発言しているが、この事務局長はイスラエルの情報機関が2018年に発表した報告書に基づいて調査を開始IAEA理事会がイスラエルと米国に望む戦争の口実を与える決議を可決するよう仕向けた
 イランと核兵器を結びつける根拠とされたのは施設で濃縮ウランが発見されたことだとされている。イスラエルの諜報機関モサドやそのイラン協力者であるモジャヘディネ・ハルク(MEK)などが置いたとする反論にIAEAは公に説明していない

 ちなみに、イスラエルは2006年にレバノン南部を攻撃したが、キアムとアトティリで着弾地点でクリス・バスビー博士は濃縮ウランを発見している。新タイプの核分裂装置/兵器、あるいは濃縮ウランを使用した爆弾をイスラエルは使ったのではないかと疑われたが、大きな問題にはされなかった。
 IAEA理事会は6月12日、トランプ大統領がイランに突きつけた60日間の猶予期間が終わる日に会議を開き、イランがIAEA加盟国としての義務を遵守していないとする決議を賛成19カ国、反対3カ国、棄権11カ国、無投票2カ国で可決アメリカがイランを空爆する口実を与えた。アメリカは6月10日に理事会メンバー8カ国と連絡を取り、決議案が可決されるように工作していたと伝えられている。採択中、イスラエル軍は攻撃の準備をしていたわけだ。アメリカとイスラエルの政治家はイラクを2003年に先制攻撃するときと同様、イランが核兵器を製造する寸前だと叫び始めた

 アメリカ主導軍がイラクを先制攻撃した当時のIAEA事務局長、モハメド・エルバラダイイラクが核兵器を開発しているという証拠は見つかっていないと安全保障理事会に繰り返し報告、ネオコンがたてた侵略計画の障害になっていた。そこでアメリカのエリートたちは自分たちに従順な人物を事務局長に据える。それが天野之弥、そしてグロッシーにほかならないIAEAがイランの核科学者に関する情報をイスラエルへ漏らし、暗殺につながったという疑惑がある。
 イラン議会はアメリカによる攻撃の後、核施設の安全が保証されない限り、IAEAとの協力を停止することを決議したが、エルバラダイは今回の空爆を受け、2025年6月17日に「交渉ではなく武力に頼ることは、NPTと核不拡散体制(不完全ではあるものの)を確実に破壊する道であり、多くの国々に『究極の安全保障』は核兵器開発であるという明確なメッセージを送ることになる」と書き込んだ。

 また、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はIAEAがイランに対して核施設への即時アクセスを認めるよう強く求めていることに対し、その情報が漏洩しないという保証はないと主張、イランがIAEAへの協力を停止することを理解するとしている。
 イランのアッバス・アラグチ外相は核開発に関する交渉について、それは攻撃計画を隠すことが目的だったのであり、アメリカを信頼することはできなくなったとジュネーブで発言している。イランのマスード・ペゼシュキヤン政権は新欧米派だが、その政権からそうした発言が出てくるようになった。ただ、政権内にはまだ欧米に従属したがっている勢力がいるようだ。その中にペゼシュキヤンが含まれている可能性も否定できない。

 イスラエルはアメリカと手を組んでイランを空爆したが、彼らはガザをはじめパレスチナで住民を大量虐殺、そうした行為を西側の「民主主義国家」は容認してきた。
 その現実をドイツのフリードリヒ・メルツ首相はG7サミットが開催されたカナダで正直に語っている。イスラエルの行動は欧米諸国のために「汚れ仕事」を行なっているのだと主張、自分たちは感謝しなければならないというのだ。イラク、リビア、シリアなどにおけるアル・カイダ系武装集団やウクライナにおけるネオ・ナチもイスラエルと同様、欧米諸国のために「汚れ仕事」を行なっている。「自由」や「民主主義」という看板を掲げながら帝国主義を推進する仕掛けだとも言える。


イランとイスラエル 停戦の意味
                 田中宇の国際ニュース解説 2025年6月25日
トランプ米大統領は、6月22日にイランの3箇所の原子力施設を大深度用爆弾(バンカーバスター)などでミサイル攻撃した後、6月24日に、イランとイスラエルが停戦で合意したと発表し、今回の戦争を一段落させた。Shaky Israel-Iran Ceasefire Appears To Hold After Trump Tells Israel To Stop the Bombing

イランは6月25日、自国への民間航空機の飛来を開戦以来12日ぶりに再開した。イスラエルは、開戦から5日目にイランの制空権を握り、制空権を奪われたイランは軍事的な危機にあった。今回、イランが空域を再開したのは、イスラエルが停戦に合意してイランを攻撃しないと決めたからだ。停戦は現実だ。Iran Reopens Airspace To Commercial Flights As Ceasefire With Israel Finally Holds

イスラエルは、もうイランを攻撃しないのか??。ネタニヤフ首相は6月24日、イランの軍事施設や核施設など、イスラエルにとって脅威となる拠点をすべて破壊し、今回のイラン攻撃作戦(Rising Lion)の目標を達成したので、トランプが提案したイランとの停戦に同意した、と発表した。
もしイスラエルが今後もさらにイランを攻撃し、政権転覆までやる(今回はトランプに頼まれ、とりあえず停戦したが、今後折を見てさらに攻撃する)つもりなら、「目標を達成した」とは言わないだろう。Netanyahu: Israel agreed to ceasefire with Iran after achieving all war goals

それとも、目標達成の表明はイランを油断させるための目くらましとか??。近年のイスラエルは、分析者たちの予測を外し続けているので、確定的な見方ができない。
しかし少なくとも、ネタニヤフはトランプに「目標達成」を伝えたと考えられる。トランプとネタニヤフの間の信用問題から見ても、イスラエルは当面イランを追加攻撃しそうもない。"They Don't Know What The F**K They're Doing" - Furious Trump Slams Israel As Fragile Ceasefire Crumbles

長期的な流れをみると、イスラエルは911テロ事件を起こした後の四半世紀で、中東でイスラエルにとって脅威になりそうな諸国を次々と潰している
2003年にはサダム・フセインのイラクを、イスラエル系のネオコンたちが政策担当に入り込んだブッシュ政権の米国に潰させた。
次のオバマ大統領は、イスラエル系に牛耳られた中東覇権運営を自分の手に取り戻そうとしたが、イスラエルが逆襲として「アラブの春」を起こし、カダフィのリビアを潰して恒久内戦の状態にした。

イスラエルは、アラブの春で、シリアのアサド政権も転覆しようとしたが、オバマはロシアとイランに頼んでアサドを守ってもらった。しかしこれも、オバマやバイデンの民主党が弱まり、イスラエルと連携して覇権の多極化を進めるためにトランプが大統領に返り咲く過程で昨秋、イスラエルがテコ入れしたアルカイダ系のHTSがアサド政権を倒し、シリアはイスラエルの隠然傀儡国となった。
中東で、イスラエルに楯突く力を持っているのは、イランとトルコだけになった。サウジやエジプトなどアラブ諸国は、イスラエルに楯突くちからや気持ちがない。UAEやサウジは、イスラエルと組みたがっている。

そのような流れを見ると、今回、イスラエルがイランのイスラム共和国体制を破壊するまでイランを攻撃しても不思議でない。
イスラエルが、中東の覇権国になりたいなら、イランを潰した後、米国がNATOから離れるのを待って、トルコのエルドアン政権も転覆するだろう。これまで、トルコはNATO加盟国なので、イスラエルがトルコを潰すことを英欧が許さなかった。

だが今後いずれプーチンがウクライナ戦争を終わらせるころには米国がNATOから抜け、英欧もすっかり弱体化する。そうなると、イスラエルがトルコを転覆して無力化する可能性が強まる。政権転覆は、中世の宮廷ユダヤ人時代からのイスラエルの特技だ。
エルドアンは、イスラエルに潰されたくないので、ガザ戦争に本気で反対しない。イスラエルは石油の多くを、アゼルバイジャンからトルコを通るパイプラインで輸入しており、トルコがパイプラインを閉めるとイスラエル制裁になる。だが、エルドアンはそれをせず、イスラエルへの他の輸出品も止めていない。Turkish Public Increasingly Worried About Direct Conflict With Israel

トランプやロックフェラー系など、米上層部の「隠れ多極主義者(多極派)」たちは、米覇権を自滅させて国際政治の構造を多極型に転換したい
イスラエル(旧来の英傀儡の労働党系でなく、反英的なリクード系)は、多極化した今後の世界の中で、中東地域の覇権を握りたい。このような相互の目標のもと、多極派とリクード系は、ラビン暗殺や911以来、結託して動いてきた。
イスラエルは諜報界の元祖だから、リクード系は、大英帝国以来ユダヤ人の諜報力を剽窃して覇権を運営してきた英国系を押しのけて、911以来、米諜報界を乗っ取っていった(その起爆剤としてリクード系と多極派が911テロ事件を起こした)。

トランプは、こうした流れのクライマックスを作る役回りとして出てきた。トランプは、露中印など、今後の多極型世界の極になる諸国と仲良くしたい。中共とも、貿易交渉のふりをして世界戦略を語り合っているはずだ。米中が戦争しそうだという話は100%目くらましだ。
トランプは、イランとも話し合いをしたいはずだが、イスラエルがイランを潰すというのなら仕方がない。多極型世界では、他の極の大事なことに口出ししないのが原則だ。旧来の英米覇権体制のように世界的に人道主義が優先するという(表向きだけの)決まりは二の次だ。

イランは多民族国家だが、古代ペルシャ帝国以来のまとまり・結束がある。英仏などが作った人造国家であるシリア(アサド家は仏植民地時代の治安部隊だったアラウィ派の頭目)やリビアと異なり、イランは国家の基盤が強く、政権転覆や恒久内戦化は難しい
だが、イスラエルは諜報力を駆使し、驚くべきことをやりうる。イスラエルがイランを転覆する気なら、しぶとくいろいろ試みるはずだ。もう米単独覇権体制でないから、トランプはそれを黙認せざるを得ない。

しかし、イスラエルは(とりあえず)イランをこれ以上潰さないと表明している。なぜなのか。理由がありそうだ。私が「もしかすると・・・」と思うのは、前にも書いた、パレスチナ抹消・ガザ市民追放策との関係だ。
イスラエルは、イランの現政体を潰さない見返りに、イランはハマスを加圧し、ガザ市民がこっそり大挙してフィラデルファイ回廊にイスラエルが作った抜け穴を通ってエジプトに出ていく流れを阻止せず認めさせるように動くとか??。
もしくは、建前的な分野であるが、イランがハマスに加圧して人質全員(遺体含む)を返してもらうとか。しかし、それだと市民がガザが残ったまま戦争終結せねばならず、パレスチナ抹消にならない。それはイスラエル上層部の希望でない。イスラエルはパレスチナ抹消を世界が認めるまでイラン攻撃する?

ガザ戦争は大事な点が全く不明だが、私の見立てでは、エジプトに出ていこうとするガザ市民をハマスが止めており(越境を試みる者を見せしめとして射殺するとか)、イスラエルが支援物資を入れないので市民が餓死しかけている。
イスラエルは、ガザ市街を徹底破壊したらガザ市民のほとんどがエジプトに逃げ出すと考え、エジプトとガザの境界線であるフィラデルファイ回廊をイスラエルがエジプトから乗っ取って抜け穴を作った(私の推測)。

これまでにエジプト側に30万-50万人のガザ市民が越境したと推測される(開戦の数カ月後の記事にあった概算が25万人)。
しかし、エジプトに入ったガザ市民がどこでどう暮らしているか全くわからない。エジプト側が隠している??。だとしたら、それはイスラエル側の希望でもある(エジプトはかなりイスラエルの言いなりなので)。
市民のほとんどがエジプトに逃げてガザが空っぽになったら、イスラエルはガザ抹消と戦争終結を宣言できる。しかし、まだかなりの市民がガザに残っているので、戦争が長引いている。
ほとんどの市民は、パレスチナの大義より、餓死や爆死の回避を優先する。しかし、ハマスが止めているので越境できない

イスラエルの要員はハマスに入り込んでおり、ハマスが市民の越境を阻止して戦争が長引くことをイスラエルは事前に予測できたはずだが、イスラエル内部の旧労働党系(英国系)の勢力がネタニヤフを窮地に陥れるために歪曲情報を入れていたとか。??。
すべて推測でしかないが、とにかくネタニヤフはガザ戦争を完遂できず困っている感じだ。ガザ市民のほとんどが餓死するのを待つぐらいしか、残っている手がない。

ここで、効果があるのか不明だが、もともとハマスを長く支援してきたイランを引っ張り出し、ハマスに加圧してもらうという手法があり得る。イランは、イスラエルに負けてヒズボラもアサドも見捨てざるを得なかった。弱体化したイランの言うことを、いまさらハマスが聞くのかどうか不明だが。
イスラエルは、イランを動かしてみてガザ抹消が完遂できたら、もしくはイランを動かしても効果がない場合、ガザ市民のほとんどが餓死して戦争が完遂したら、その後で再びイランを潰す策に戻るつもりかもしれない