2018年9月30日日曜日

日米の物品貿易協定 言葉で本質ごまかすな(中國新聞)

 安倍首相は、トランプ氏と合意した物品関税協定TAGは、包括的貿易協定FTAとは全く異なると強調しましたが、「日米共同声明」にTAGだけでなくサービス分野でも交渉を開始すると明記されていますTAG協議後は実質的なFTAに発展する可能性は大きく、AP通信など現地メディアは「FTA」と伝えています。
 日本にとって自動車の追加関税を当面回避するためのやむを得ない選択だったという見方もありますが、日本の農業が受ける被害は2兆円に上ると言われているので、それの代わりにこれを出すというような言い訳は通用しません。
 
 交渉が始まる前にTPPのレベルが最大限度の譲歩幅だと断ったのも、TPPに参加しない米国にまで無条件に日本の農産品を開放したに等しいものでした。
 
 中國新聞は、安倍首相トランプ氏との「蜜月」をアピールしてきたのだから、対等な同盟関係を目指して米国の無理難題を突っぱねる覚悟を見せて欲しかったのに、そんな胆力はなく、逆に新たな通商協定の本質を言葉でごまかそうとしていると批判しました。
 彼にはそんな胆力はなく、猛烈な北朝鮮排撃の演説を行って米朝宥和の足を引っ張ったかと思えば、その一方でトランプ氏に日朝首脳会談の口利きを頼むという無様さこそが彼の本性で、そんな虫のいい個人的な借りをトランプ氏に作ったことが、結局この巨大な国益の喪失に結びついたのでした。
 
 中国新聞の社説を紹介します。
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(社説) 日米の物品貿易協定 言葉で本質ごまかすな
中國新聞 2018年9月29日
 米国との2国間の通商交渉をこれまで否定してきた安倍晋三首相が、日米首脳会談で一転して交渉入りを決めた。貿易赤字の削減を掲げ、日本車への追加関税をちらつかせるトランプ大統領に屈した形だ。年明けにも関税引き下げなどの交渉に入るとみられるが、日本農業には大きな打撃となりかねない。
 首をかしげたくなるのは安倍首相の心変わりだろう。2国間交渉は、多国間の協定を重んじてきた従来の政府見解とも、幅広い国々と無理のない貿易自由化を目指す国際社会の流れとも、逆行しているからだ。
 首脳会談に先立って国連総会の一般討論演説でも「日本は自由貿易の旗手だ」と強調した。直後の日米合意を、国際社会はどう受け止めただろう。
 
 トランプ氏との「蜜月」を、安倍首相はアピールしてきた。対等な同盟関係を目指すのなら、米国の無理難題を突っぱねる覚悟を見せてほしかった
 日本に限らずトランプ氏が各国を制裁関税で威嚇するのは、政権の今後を左右する11月の米中間選挙を前に、成果を急いでいるからに他ならない。こうした内向きの政治を戒め、国際秩序や道理を説く役割こそ、安倍首相に求められていたはずだ。
 その胆力が日本政府に感じられなかったどころか、逆に新たな通商協定の本質をごまかすような言動が見受けられた。
 
 象徴的なのは交渉を「物品貿易協定(TAG)」と名付けたことだ。日本側の造語だと伝えられる。交渉項目が多岐にわたる自由貿易協定(FTA)を否定してきた安倍首相としては、これまでの政府見解との整合陛を図ったつもりだろう。
 首相は会談後「日本が結んできた包括的なFTAとは全く異なる」とし、茂木敏充経済再生担当相も「あくまで物品貿易に限定されたものだ」と述べた。しかし2人の説明と、日米の共同声明は異なる内容である。
 共同声明は物品を対象とするTAGだけでなくサービス分野でも交渉を開始すると明記。 TAG協議後は投資分野などでも交渉することも盛り込んだ。実質的なFTAに発展する懸念が拭えず、AP通信など現地メディアは「FTAだ」と伝える。
 
 日本にとっては、自動車の追加関税を当面回避するためのやむを得ない選択だったとの指摘もある。ただ、国内の農業がより厳しい立場に置かれることも忘れてはなるまい。
 環太平洋連携協定(TPP)や欧州連合との経済連携協定(EPA)が来年にも発効する見通しだ。 TPPを一方的に離脱した米国にまで農産物市場の開放を確約すれば日本の農家にとっては泣きっ面に蜂である。農業を柱とする地域の衰退や、食料安全保障も危ぶまれる。
 
 忘れてならないのは、トランプ氏が「ディール(取引)」を口癖としていることだ。TAG交渉で米国にとって十分な成果が得られていないと判断すれば再び追加関税のカードをちらつかせ、日本に大幅な譲歩を迫ってくる恐れも十分考えられる
 来年は統―地方選や参院選がある。先の自民党総裁選で安倍首相が訴えた「謙虚で丁寧な政権運営」という言葉の重みが改めて問われていよう。政府はTAGの本質を隠す言葉に頭をひねるのではなく、国民に対して正直に真実を伝えるべきだ。

マハティール首相 憲法9条の導入を検討と

 5月9日マレーシアで下院選挙で勝利し、15年ぶりに政権に復帰したマハティール首相(93)は28ニューヨークの国連本部で記者会見し、
「世界は国連創設時よりも結束できていないように見える」「国連創設時は戦争予防について多くの国が考えていたが今の世界は本当の方向性を持っていないように見える」と苦言を呈しました。
 一方、日本の憲法9条について「侵略戦争を認めない日本の憲法にならうことを検討している」と述べ、日本の憲法改正の動きにクギを刺しまし
 
 マハティール氏は8月に訪日して福岡県で高校生を前に演説した際も「日本には模範とすべき平和憲法がある。マレーシアでも同様の憲法を作りたい」と意欲を示していました
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世界の結束、国連創設時より劣る 憲法9条の導入「検討」 マレーシア首相
時事通信 2018年9月29日
 【ニューヨーク時事】マレーシアのマハティール首相(93)は28日、ニューヨークの国連本部で記者会見し、地域機構が弱体化して未解決の問題もそのままになっていると指摘し「世界は国連創設時よりも結束できていないように見える」と危機感を表明した。5月の総選挙で首相に返り咲いたばかりのマハティール氏は、前回首相を務めていた最後の年である2003年以来の国連総会出席となった。
 
 マハティール氏は、中東の紛争が広く拡散し、パレスチナ問題もいまだ解決しない現状に触れ「国連創設時は戦争予防について多く(の国)が考えていたが(今の)世界は本当の方向性を持っていないように見える」と苦言を述べた。国連が発足した1945年、マハティール氏は20歳だった。
 また、国連安保理などによる制裁を、罪のない人まで巻き込む「現代の包囲攻撃」と表現。米国による対イラン制裁を念頭に「マレーシアがイランと問題がなくても、イランと貿易できない」と批判した。一方で「われわれが大国に制裁をかけたくてもそれは不可能だ」と語り、大国と小国の間に横たわる不平等を訴えた。
 
 一方、日本の憲法9条について「(侵略)戦争を認めない日本の憲法にならうことを検討している」と述べ、マレーシアの憲法改正に意欲を示した

30- 厚労省の賃金統計急伸は「実態表さず」と有識者

 厚労省有識者会議「統計委員会」は28日に会合を開き今年から賃金の算出方法を変えたため、統計上の賃金が前年と比べて大幅に伸びている問題で、発表している賃金伸び率が実態を表していないことを認めました。
 
 これは、賃金を高く見せるために1月に、賃金統計のサンプル対象の半数弱について、大企業の比率を増やし中小企業を減らす操作をした結果です。この問題は以前にも指摘されていましたが、厚労省は従来ベースの賃金も「参考データとして表示」するから問題ないとしていました。
 
 しかしそんな詐術まがいの方法が問題にならない筈はなく、有識者会議で改めて指摘されました。
 
追記)ところで参考値は、大企業に入れ替えなかったグループ(半数強)単独の集計値のことを指すようなのですが、大企業に入れ替えなかったということは、もともと大企業であるか乃至はその比率が高いグループなので、その統計も当然従来の値よりも高めを示すことになります。つまり参考値も「参考にならない」ということです。
 GDPの計算もそうですが、統計の対象を変えてしまうのは詐術と呼ばれても仕方がなく、あざといやり口と言うしかありません。
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厚労省の賃金統計「急伸」 実態表さずと認める 政府有識者会議
東京新聞 2018年9月29日
 厚生労働省が今年から賃金の算出方法を変えた影響により、統計上の賃金が前年と比べて大幅に伸びている問題で、政府の有識者会議「統計委員会」は二十八日に会合を開き、発表している賃金伸び率が実態を表していないことを認めた。賃金の伸びはデフレ脱却を掲げるアベノミクスにとって最も重要な統計なだけに、実態以上の数値が出ている原因を詳しく説明しない厚労省の姿勢に対し、専門家から批判が出ている。
 
 問題となっているのは、厚労省が、サンプル企業からのヒアリングをもとに毎月発表する「毎月勤労統計調査」。今年一月、世の中の実態に合わせるとして大企業の比率を増やし中小企業を減らす形のデータ補正をしたにもかかわらず、その影響を考慮せずに伸び率を算出した。企業規模が大きくなった分、賃金が伸びるという「からくり」だ。
 
 多くの人が目にする毎月の発表文の表紙には「正式」の高い伸び率のデータを載せている。だが、この日、統計委は算出の方法をそろえた「参考値」を重視していくことが適切との意見でまとまった。伸び率は「正式」な数値より、参考値をみるべきだとの趣旨だ。
 本給や手当、ボーナスを含めた「現金給与総額」をみると、七月が正式の1・6%増に対し参考が0・8%増、六月は正式3・3%増に対し参考1・3%増だった。実態に近い参考値に比べ、正式な数値は倍以上の伸び率を示している。
 
 厚労省がデータ補正の問題を夏場までほとんど説明しなかった影響で、高い伸び率にエコノミストから疑問が続出していた。統計委の西村清彦委員長は「しっかりした説明が当初からされなかったのが大きな反省点」と苦言を呈した。
 SMBC日興証券の宮前耕也氏は「今年の賃金の伸び率はまったくあてにならない」と指摘した上で「影響が大きい統計だけに算出の方法や説明の仕方には改善が必要」と提言している。 (渥美龍太)
 
<毎月勤労統計調査のデータ補正> 厚生労働省が一定数の企業を選んで賃金などを聞き取るサンプル調査。対象になった大企業や中小企業の割合は世の中の実態と誤差が出るため、総務省が数年ごとに全企業を調査したデータを反映させ、補正する。賃金の伸びを正確に把握するため、このデータを更新した年は過去の分も補正し、連続性を持たせてきたが、今年は「統計改革の一環」(厚労省)として補正をしていない。その結果、規模が大きい企業の割合が多い2018年と少ない17年を比べることになり、賃金の伸び率が実態よりも大きくなった。

2018年9月29日土曜日

北朝鮮は対話する用意があるというのに何故応じないのか

 6月12日の第1回米朝首脳会談に引き続き、第2回目も近く行われる雰囲気です。
 それなのに日朝首脳会談の方はいまだにその見通しすら立っていません。日本政府は北が応じないからと述べていますが、本当にそうなのでしょうか。
 
 今月中旬に行われた南北首脳会談で金正恩委員長は文在寅大統領に「適切な時期に日本と対話をして、関係改善を模索する用意がある」旨のメッセージをし、それは日韓首脳会談で安倍首相に伝えられました。ところがそれを受けた安倍氏は「北朝鮮との相互不信の殻を破り、金正恩委員長と直接向き合う用意がある」と紋切り型の対応でやり過ごしたということです
 要するに安倍氏には「日朝対話を行う決断ができていない」ということで、国際ジャーナリストの太刀川正樹氏は、
安倍首相は腹を決めて交渉に臨む覚悟ができておらず、日朝対話の再開を少しでも先延ばしにしたいのではないか
と述べています。一体何を惧れているのでしょうか。たとえどんな理由であろうとも、日朝首脳会談を忌避するなどということはあり得ない話で、国民は納得しません。
 
 ところが金正恩氏は、安倍首相本心では日朝対話の再開を望んでおらず、「求心力維持するための方便に過ぎないと見抜いているということです。これでは、日朝首脳会談どころではありません。自分の体面だけを考えて行動する、不正直で不誠実な人間が必然的に招いた破綻です。
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北「対話用意」に右往左往…安倍首相“やってる感”でドツボ
日刊ゲンダイ 2018/09/28
 拉致被害者家族の期待は高まる一方だが、安倍首相はどう応えるつもりなのか。「適切な時期に日本と対話をして、関係改善を模索する用意がある」という北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の発言が波紋を広げている。国連総会が開催中の米ニューヨークでは26日午前(日本時間27日未明)、河野外相が李容浩外相と「約20分間」「着席した形」で会談したと大ハシャギだったが、雲行きは相当に怪しい。
 
 金正恩の発言は今月中旬の南北首脳会談で文在寅大統領に託されたもの。日朝外相会談に先立つ日韓首脳会談で文在寅が安倍に伝えた金正恩は史上初の米朝首脳会談でも「安倍首相と会う可能性がある。オープンだ」と言及していて、さらに踏み込んだ格好だ。ところが、これを受けた安倍は「北朝鮮との相互不信の殻を破り、金正恩委員長と直接向き合う用意がある」と紋切り型の対応でやり過ごしたという。日朝対話にまったくヤル気が見えないのだ。
 
 拉致問題に詳しい国際ジャーナリストの太刀川正樹氏は言う。
「拉致被害者12人全員の帰国を“公約”する安倍首相と、ストックホルム合意に基づく再調査でも〈8人死亡、4人未入国〉とする北朝鮮の主張は平行線をたどっている。日朝関係が再び動き始めれば、この問題は絶対に避けて通れません。安倍首相は腹を決めて交渉に臨む覚悟ができておらず、日朝対話の再開を少しでも先延ばしにしたいのではないか
 
 金正恩にしたって、膠着状態の米朝交渉を進展させるので手いっぱいだ。にもかかわらず、安倍首相に“秋波”を送る意図はどこにあるのか。
金正恩氏は、安倍首相は本心では日朝対話の再開を望んでいないし、求心力維持の方便に過ぎないと見抜いています。あえて対話のドアを開くことで安倍氏を追い込み、減らず口を塞いでやろうという思惑なのです」(日朝関係筋)
 金正恩に揺さぶられているわけだ。渡米前に拉致問題の「国民大集会」に出席した安倍首相は、「最後は私自身が金正恩委員長と直接向き合わなければならない。これを行う以上は、拉致問題の解決に資するものにしなければいけない」とまた大口を叩いていたが、“やってる感”を振りまいているだけ。ウソ八百の「外交の安倍」に拉致問題の解決はムリだ。 

米の無法な圧力に屈し 二国間交渉を受け入れた責任

 安倍首相は、日米首脳会談で、農産品についてはTPP協定など、過去に締結した協定の水準を上回る関税の引き下げには応じない等の歯止めをつけた上で、「日米物品貿易協定」=TAGの締結に向けて2国間交渉を開始することで合意したと述べました。
 また米国との二国間交渉(FTA)には応じないとしたことに反した点については、農産品等の「関税に限定」したTAGなので貿易協定とは異なると強調しました。
 
 しかしそんな綺麗ごとで済む筈がありません。現実にトランプ大統領は、
「われわれは今日、FTA交渉開始で合意した。これは日本がこれまで拒否していたものだ」
と記者に向かって明言しています。これこそは少なくとも日米交渉の実態を暗示するものです。
 
 日経新聞は、「TAGはFTAと違うのか 国内配慮との見方」の見出しを打ち、東京新聞は社説で「『実質FTA』日本譲歩 日米関税交渉入り合意」と断じました
 28日の各紙の社説は、安倍政権が当初の「日米二国間協議は拒否する」の言明に反して「危険水域に踏み込んだ」ことに、ことごとく危惧の念を示しました。
 
 たとえば神戸新聞は「新通商交渉 理解に苦しむ物品限定」というタイトルで、
理解に苦しむのは政府の説明だ。TAGは物品取引に限り、投資やサービスも含めFTAではないと強調する。一方でトランプ政権は最終目標として日米FTAを掲げており、今回の交渉をその入り口とする思惑がうかがえる。一部だけを取り上げてFTAと異なるとする主張に、国民は納得できるだろうか
と述べています
 
 因みに、いくつかのタイトルだけを紹介すると以下の通りです。
日米物品貿易協定 理不尽な要求は回避したい」(宮崎日日新聞
日米2国間協議 要求に屈さぬ通商交渉を」(西日本新聞
 日米首脳会談 通商交渉 安易な妥協許されない」(愛媛新聞
日米首脳会談 互恵的関係と言えるのか」(徳島新聞
日米首脳会談 2国間交渉で大丈夫か」(秋田魁新報
日米新通商交渉 威圧に屈した方向転換」(北海道新聞
「日米の新たな貿易交渉 トランプペースを危ぶむ」(毎日新聞)
 
 しんぶん赤旗の主張と天木直人氏のブログを紹介します。
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主張日米首脳会談 米の無法な圧力に屈した責任
 しんぶん赤旗 2018年9月28日
 日米間の閣僚級の貿易協議に続いて、安倍晋三首相がトランプ大統領と首脳会談を開き、農産品など物品貿易協定(TAG)の協議に入ると合意しました。2国間交渉に固執し、日本車の関税を引き上げると脅して農産品などの輸入拡大を迫ったトランプ政権の圧力に屈服した形です。交渉中は自動車関税を引き上げず、農産品の関税引き下げは環太平洋連携協定(TPP)を上限にするとしていますが、TPPそのものが日本の農業に重大な犠牲を押し付けるもので、合意自体守られる保証はありません。アメリカの無法な要求に屈した責任が問われます
 
トランプ流の「強制外交」
 中国やカナダ、メキシコ、欧州諸国など各国と、アメリカの「利益第一」の立場から激しい「貿易戦争」を繰り広げているトランプ政権の態度は、関税引き上げや制裁で相手を脅して、自らの要求を強引に押し通す、文字通りトランプ流の「強制外交」というべきものです。トランプ大統領は「国内産業保護」のためだといいますが、中国などへの高関税措置が報復を招いてアメリカ国内の産業にも被害を与えているように、国内産業も守ることはできず、自らの政権と一握りの多国籍企業の利益のために相手を脅し上げる、理不尽なものです。
 
 日本に対しても、前政権が推進したTPPから一方的に離脱して、2国間交渉を迫り、鉄鋼やアルミに続いて自動車の関税引き上げで脅迫し、農産品などの市場開放を迫るやり方は、「強制」以外のなにものでもありません。
 日本がアメリカから輸入する自動車の関税はゼロなのに、アメリカが日本車に関税を追加することは不当です。安倍首相も国連総会での演説で、日本の自動車会社はアメリカで現地生産を拡大し雇用を提供していると言及したように、トランプ政権の要求はどこから見ても道理がありません。コメや牛肉などの農産品も、一方的なTPP離脱について米国内の生産者から不満が出たため、日本に輸入拡大を迫る身勝手さです。
 安倍政権はこれまでトランプ政権にTPPへの復帰を働き掛けるとしてきましたが、茂木敏充経済再生担当相とライトハイザー米通商代表との貿易協議でも相手にされず、2国間交渉を受け入れました。TPPに固執し続けた安倍政権の政策の破綻は明らかです。
 
 TAGの交渉中は自動車関税を引き上げないといっても、交渉が終われば引き上げることになりかねません。農産品の関税などをTPPの合意にとどめるというのも、あくまでも日本としての希望の表明で、アメリカは「尊重」(共同声明)するだけです。TPPそのものがコメや牛肉など重要5品目を含む農産品を関税引き下げや輸入拡大の対象にしており、枠内でも日本農業への打撃は重大です。
 
国民と国益を守り抜け
 安倍首相は先の自民党総裁選の中で「戦後日本外交の総決算」を口にしました。しかしその実態は、アメリカの要求を一方的に受け入れる言いなり外交の見直しとは程遠い限りです。
 日本の国益と国民の暮らしを守るためには、アメリカ言いなりをやめることがますます必要です。TPPへの固執はもちろん、事実上の自由貿易協定(FTA)になるTAGなど2国間交渉も直ちに中止すべきです。
 
 
安保法に始まり管理貿易で終わった安倍首相の対米売国外交
天木直人のブログ 2018年9月28日
 予想通りだの結末だったとはいえ、ここまで譲歩してしまったらお終いだ。
 TAG(日米物品貿易協定)という名の管理貿易受け入れの事である。 
 思えば安倍総理がワシントンを訪れ、日本の総理としてはじめて米国連邦議会の上下両院合同会議において演説を行ったのは2015年4月29だった。
 そして、その演説の中で、安倍首相は、日本の国会の承認がないまま(つまり国会で賛否の議論が激しくたたかわされていた中で)、米国に安保法を成立させて見せると約束したのだ。
 そのあまりの日本国民無視と憲法違反に、私は怒りを込めて新党憲法9条の結党宣言をHPで公開した。
 日米同盟と言う名の対米従属から決別し、憲法9条を日本の国是とすることを正面から訴える政党が日本の政治の中に現れない限り、国民は覚醒せず、日本は永久に米国から自立できないまま衰退していくという警鐘を込めて。
 その安倍首相が、それから3年半ほどを経て、今度はニューヨークを訪れ、日本が最も反対して来た管理貿易を、国民の了承どころか、国民にウソをついて、あっさり飲んでしまった。
 自由貿易原則からもっとも利益を受けて来たのは日本だ。
 戦後の日本経済の復興・成長の源であった。
 その日本の国是をかなぐり捨て、米国第一主義のトランプの米国に屈服したのだ。
 命(外交・安全保障)と暮らし(経済)を、自らの保身の為に、ここまで米国に差し出した安倍首相は、後にも先にもない本物の売国首相だ。
 安倍政権がこのままさらに続くなら日本の未来はない。
 いまこそ日米同盟を国是とする安倍自公政権と決別し、憲法9条を国是とする政権を誕生させなければいけない。
 しかし、それは容易な事ではない。
 戦後70年のこの国の八百長政治によって、国民もまた日米同盟が絶対的だと思い込まされてきたからだ。
 しかし、このまま対米従属が進み、在日米軍が日本の国土の固定化され、国民が働いて収めた血税が、国民の為ではなく、米国第一主義の米国にどんどんと注ぎ込まれては、国民生活は疲弊する一方だ。
 いまこそ新党憲法9条が必要な時だ。
 一人でもいいから新党憲法9条から政治家を国会に送り込む。
 そこからすべてが始まる。
 そして、強い信念で結ばれた一騎当千の本物の政治家を数名擁するまでに新党憲法9条が発展すれば、どのような政権が出来ようとも、日米同盟一辺倒のこの国の政治に歯止めをかける事ができる。
 連立政権の一角を占め、キャスティングボートを占めることすら出来る。
 いまこそ新党憲法9条が必要だ。
 新党憲法9条こそ、安倍暴政を阻止できる最強の政党である(了)

29- 米軍は日本の防衛に駆け付けない(孫崎 享氏)

「アメリカの若者が日本を守るために血を流すのに・・」は、安倍首相が得意とするセリフで、「日本も国を守る気概をもって、軍備を拡張し・・・云々」という文脈の中で使われてきました。しかし当の米軍からそんなことはあり得ないと否定されたのはもう以前のことで、それ以後国会ではあまり使わなくなりましたが、他の場面では相変わらず使われています。
 
 元外交官で、防衛大学校教授務めた孫崎 享氏が、日経ビジネスのインタビューに答えて、米軍は簡単には日本の防衛に駆け付けないとして、4つの理由を挙げました。
 
 また、日本はアメリカの「核の傘」に入っているから国連の核兵器禁止決議に賛成できない(し、先の核兵器禁止条約にも加盟できない)というのも久しく聞かされてきた言い訳ですが、アメリカが日本の防衛のために核兵器を使うことはあり得ないことも明らかにしました。
 日米安保条約で議論することは出来るとしても、ことさらに「核の傘」論を振り回すのは国民を欺くものという訳です。
 
 因みに同記事で紹介されている孫崎氏のプロフィールは下記の通りです。
 1943年生まれ。1966年東京大学を中退し外務省に入省。駐ウズベキスタン、国際情報局長、駐イラン大使を歴任。その後、2002~2009年防衛大学校教授を務める。著書に『日米同盟の正体』『情報と外交』など。
 
 長文の記事のため一部を省略しました。原文には記載のURLからアクセスしてください。
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米軍が日本防衛に来援しない4つの理由 核の傘は機能しない
孫崎 享 日経ビジネス 2018年9月28日
編集・聞き手 森 永輔   
(前 略)
 
米軍が日本の防衛に駆けつけない4つの理由
 
――孫崎さんは、防衛大綱を改訂するに当たって、新たに盛り込むべき点や修正すべき点、削る点として何が重要とお考えですか。
孫崎:現行の防衛大綱は現在書かれていること以外の選択肢を挙げていない点が問題です。政府が選択した防衛政策が正しいことを証明するためにも、他の選択肢を提示し、比較検討する必要があるのではないでしょうか。
 
――例えばどんな選択肢がありますか。
孫崎:日米同盟が機能せず、日本が他国から攻撃を受けても米国が来援しない状況です。私はこの可能性が極めて高いと考えています。
 
――米国の首脳が繰り返し、「尖閣諸島は日米安全保障条約の適用範囲内にある」と発言しているのでは。2010年に尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の監視船に衝突する事件が起きました。この時、ヒラリー・クリントン国務長官(当時)が尖閣諸島が適用範囲であることを認めました。2012年に日本政府が魚釣島を購入し、中国が反発した際には、カート・キャンベル国務次官補(同)が同様の発言をしています。2014年にはバラク・オバマ大統領(同)が安倍首相との首脳会談の後、同趣旨の発言をしました。
孫崎:おっしゃる通りです。
 米国が助けに来ない理由は大きく4つあります。米軍が来援しないと考える理由の第1がその安保条約の規定です。米国が日本を防衛すると定めたとされる第五条を見てください。
第五条:各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」とあります。米憲法は、宣戦布告の権限を議会に与えています。政府ではありません。したがって、時の米国政府は同条に則って日本を防衛すべく議会に諮るかもしれませんが、そのあとの保証はありません
 議会は、米国人の若者の血を尖閣諸島防衛のために流させることを決して許容しないのではないでしょうか。つまり、安保条約の適用範囲にあることと、尖閣諸島を防衛することとは別の話なのです。米政権は安保条約を適用するとは言っていますが、軍事行動を起こすとは言っていません。
 
米国は核の傘を提供しない
 第2は米国が中国に対して核兵器を使用できないことです。米国と中国は今、「相互確証破壊」と呼ばれる状態にあります。確証破壊というのは、敵の第1撃を受けた後も、残った戦力で相手国の人口の20~25%に致命傷を与え、工業力の2分の1から3分の2を破壊する力を維持できていれば、相手国は先制攻撃を仕掛けられない、というもの。米国のロバート・マクナマラ国防長官が1960年に核戦争を抑止する戦略として提唱しました。
 この確証破壊を2つの国が相互に取れる状態が相互確証破壊です。敵対する両国はともに、核による先制攻撃ができません。
 中国と相互確証破壊の状態にある米国が、尖閣諸島を防衛するために核兵器を使用すれば、それは中国に対する核先制攻撃となります。中国が核で報復するため、米国も多大な被害を受けることになる。巷間、「尖閣諸島のためにニューヨークを犠牲にはできない」と言われる状態が生じるわけです。
 
――米国は核兵器を搭載する原子力潜水艦を太平洋のあちこちに遊弋(ゆうよく)させているといいます。他方、中国も南シナ海に、核ミサイル搭載潜水艦を2隻配備しているといわれる。どちらも海中を移動するため、その位置を捕捉しにくく、第1撃が実行されても“生き残る”可能性が大とされています。
孫崎:そうですね。こうした生き残る核兵器がある以上、米国が日本に核の傘を提供することはできないのです。
 第3は、東シナ海から南シナ海へと至る海域で、米国が通常兵器で参戦することも難しくなっていることです。米シンクタンクのランド研究所が「台湾(もしくは尖閣諸島)をめぐって米中が戦争すれば米国が負ける可能性がある」とのレポートを発表しました。
 これによると、中国は沿岸におよそ1200発の短中距離弾道ミサイルとクルーズミサイルを配備している。しかも、その命中精度は非常に高くなっています。中国はこれらを使って、沖縄・嘉手納にある米空軍の基地を攻撃し、滑走路を使用不能にするでしょう。そうなると、制空権を確保するための米軍の空軍能力は著しく低減します。横田や三沢の基地から飛ばすこともできるでしょうが、途中で給油する必要があります。
 米空母も、これらのミサイルを恐れて近づくことができません。
 
――中国が進めるA2AD戦略ですね*3
*3:Anti-Access, Area Denial(接近阻止・領域拒否)の略。中国にとって「聖域」である第2列島線内の海域に空母を中心とする米軍をアクセスさせないようにする戦略。これを実現すべく、弾道ミサイルや巡航ミサイル、潜水艦、爆撃機の能力を向上させている。第1列島線は東シナ海から台湾を経て南シナ海にかかるライン。第2列島線は、伊豆諸島からグアムを経てパプアニューギニアに至るラインを指す。
孫崎:そして第4は、米国にとって中国がアジアで最も重要なパートナーとなっている点です。近い将来、中国のGDP(国内総生産)が世界最大になることが予想されています。その巨大な市場を米国が敵に回すとは思えません。
 ドナルド・トランプ大統領が中国に貿易戦争を仕掛けています。中国からの輸入品に関税をかけたり、中国が進める「製造2025」を妨げる要求を出したり。しかし、これは短期的なものにとどまるでしょう。10年、20年という長い目で見れば、米国が中国を重視するのは変わりません
 ちなみに、米国家安全保障会議(NSC)でアジア部長を務めたマイケル・グリーン氏は2002年にものした論文「力のバランス」で、「中国のGDPが日本のそれを追い越せば、ワシントンにとって日米同盟の重要性が劇的に低下することは考えられないことではない」と指摘しています。同氏はその理由として、米中が先ほど説明したMADの状態にあることと、中国が多額の外貨準備を保有していることを挙げています。
 
――中国は依然として、多額の米国債を保有していますね。
 
敵地攻撃能力はナンセンス
 
――米国が日本の防衛のために来援しないとすると、日本はどうするべきなのでしょうか。
孫崎:できること、やらなければならないことが2つあります。1つは、自分の国は自分で守る、自主防衛力を高めること。もう一つは外交力を生かすことです。
 「日米同盟に頼ることなく、自分の国は自分で守る」というのは、新しい考えでも突飛なものでもありません。東條・小磯・鳩山一郎内閣で外相を務めた重光葵氏は1953年、「国民は祖国を自分の力で守る気概がなければならない」と発言しています。日米安保条約を改訂した親米派とみられている岸信介氏でさえ「他国の軍隊を国内に駐屯せしめて其の力に依って独立を維持するというが如きは真の独立国の姿ではない」と回顧録に記しています。
 1969年には当時の外務省中枢が「我が国の外交政策大綱」をまとめ、その中で以下を掲げました。 
•わが国国土の安全については、核抑止力及び西太平洋における大規模の機動的海空攻撃及び補給力のみを米国に依存し、他は原則としてわが自衛力をもってことにあたるを目途とする
•在日米軍基地は逐次縮小・整理するが、原則として自衛隊がこれを引き継ぐ
 さらに日米ガイドライン*4も「自衛隊は、島嶼に対するものを含む陸上攻撃を阻止し、排除するための作戦を主体的に実施する」と記述しています。米軍はあくまで「自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する」存在なのです。
*4:正式名称は「日米防衛協力のための指針」。自衛隊と米軍の役割分担を定める
 
――自主防衛力を高める手段はいくつか考えられます。本格的な戦争に遠い想定から順に伺います。
 まず領域警備法の制定について。尖閣諸島を日本が自分で守るためには、グレーゾーン*5をなくし対応するための法整備が必要ではないですか。
*5:自衛隊が出動すべき有事とは言えないが、警察や海上保安庁の装備では対応しきれない事態。
孫崎:私はそうは思いません。尖閣諸島周辺で起こる事態に日本が主権を行使して対応すれば、中国も同様の行動に出ます。これは危険な事態を招きかねません
 
――北朝鮮によるミサイル攻撃に対する自主防衛力を高めるため、敵基地攻撃能力*6を保有すべきという議論があります。これはどう評価しますか。
*6:北朝鮮が発射を意図する弾道ミサイルを最も高い確率で迎撃できるのは、発射台に設置されたとき、もしくは発射直後で飛行速度が遅い段階。このタイミングを突いて攻撃する能力のこと
孫崎まったく意味がありません。北朝鮮は日本を攻撃できるミサイルを200~300発保有しているといわれています。日本が敵基地攻撃能力を持つならば、これらを同時にすべて攻撃できる高い能力を持つ必要があります。漏れが出れば報復されますから。その高い能力を整えることができるでしょうか。
 加えて、日本はこれらのミサイルの発射基地をすべて見つけ出す能力を持っていないのです。この状態で、敵基地を攻撃する装備だけを整えてもナンセンスでしょう。
 
――関連して、イージス・アショアは有効でしょうか。地上配備型の新たな迎撃ミサイルシステムです。政府は2017年12月に導入を決定しました。
孫崎こちらも役に立つとは思えません。着弾地が事前に明らかになっているのであれば、北朝鮮が発射したミサイルの軌道を計算して迎撃ポイントを推定することができるでしょう。しかし、どこに行くのか分からないミサイルの軌道を瞬時に計算できるとは思えません。
 
自衛隊が耐えられなくなればゲリラ戦も
        (中 略)
 
金体制を保証、尖閣諸島は棚上げする
 
――外交力はどのように発揮しますか。
孫崎:最も重要なのは、攻められる理由を作らないことです。北朝鮮に対しては、その指導者の安全を侵さない、体制の転換を図らない姿勢を明らかにすることです。それでも北朝鮮が日本を攻撃すれば国際社会が許しません。北朝鮮は存続できなくなります。こうした国際社会の雰囲気を作るのも外交力の一環です。
 
――日本がそのような姿勢を示しても、北朝鮮は在日米軍の基地を攻撃目標にするのでは。
孫崎:在日米軍の基地にそれだけの価値はなくなっていると思います。大陸間弾道ミサイルが開発され、米本土からでも北朝鮮を核攻撃できるようになりました。在日米軍の基地を攻撃しても、北朝鮮が自らの安全を高めることはできません。
 
――中国との間ではどのような外交をすべきですか。
孫崎日本と中国が軍事的な対立に至る要因は尖閣諸島しかありません。これを棚上げすればよいのです
 ここで参考になるのは、1975年および2000年に発効した日中漁業協定です。尖閣諸島周辺の海域では、「相手国民に対して、漁業に関する自国の関連法令を適用しない」ことで合意しました。日中それぞれの法執行機関が、相手国の漁船と接触する事態を生じさせないことで、漁業を発端とする紛争が起きないようにしたのです。
 先人たちが知恵をしぼった賢い仕組みです。同様の知恵をわれわれも生み出していくべきではないでしょうか。
(中 略) 
 尖閣諸島をめぐる問題を棚上げすれば、経済的に見ても、中国が日本と戦争する意味はありません。さらなる経済大国を目指す中国は日本の市場および日本企業が持つ技術を欲しています。戦争になれば、これらを手に入れることができなくなってしまう。戦争しなくても、日本企業を買うだけの経済力を彼らはすでに持っているのです。
 これまでにお話ししたようなシナリオも想定し、比較・検討したうえで、日本の防衛政策を考え、防衛大綱を改訂すべきではないでしょうか。