2022年4月30日土曜日

戦時下の参議院選挙 とんでもない結果になる予感

 れいわの山本太郎氏が強調するように、7月の参院選のあとは3年間 国政選挙がありません。もしもそこで自民・公明・維新が安定多数を占めるようであれば、改憲をはじめ軍備の増強などを国民の反対を押し切って強行する惧れがあります。

 NATO対ロシア という対立が鮮明になったウクライナ戦争についても、メディアはひたすらロシア軍の凶行を繰り返し報じるだけなので、自民党はそれを奇貨として 敵国攻撃能力を保有し、防衛費を5年間に年額11兆円以上に引き上げようと画策しています。
 しかしメディアはそれについても漫然と報じるだけでなので、世論もそのことにあまり抵抗を示さなくなっています。
 ウクライナ戦争から「軍備拡張の方針しか導けない」のであれば、これほど愚かなことはありません。日刊ゲンダイが「過去の歴史もそうだった 戦時下の参議院選挙 ろくでもない結果になる予感」とする記事を出しました。
 記事は「軍拡で本当に国民を守れるのかという議論もないままで、この戦時下の参院選はろくでもない結果になる予感しかない」と結ばれています。日本はそういう選択をしようとしているのでしょうか。これでは日本は救われません。
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過去の歴史もそうだった 戦時下の参議院選挙 ろくでもない結果になる予感
                          日刊ゲンダイ 2022/4/29
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 7月10日投開票が有力視される夏の参院選は、公示まで2カ月を切った。止まらない円安と、ロシアによるウクライナ侵攻。日本がどう対応していけばいいのか難題を抱える中での国政選挙なのだが、有権者の関心は高まっていない
 ひとつには、与野党対決の構図が見えないことにあるだろう。何が選挙の争点になるのか、与党も野党も示そうとしないのだ。
 自民、公明の与党は例によって、選挙前のバラマキを決めた。物価高騰の緊急対策という名目で、補正予算案を今国会中に成立させることで合意。今年度予算の予備費を活用し、約1兆円の燃油高騰対策を加えた2兆5000億円規模になる見通しだ。
 通常国会終盤に補正予算成立のための衆参予算委員会が開かれるから、野党は参院選直前に岸田政権追及の機会を手にすることになる。だが、本予算の審議も低調で野党は岸田政権を追い込めず、内閣支持率は高めで安定しているのが現状だ。参院選もこのまま無風で自民党が勝利するシナリオでは、選挙戦が盛り上がるはずもない。

「岸田政権は何もしていないとよく言われますが、それどころか、コロナ対策などで失策続きなのが実態です。それでも、2月24日のロシアによるウクライナ侵攻で求心力が高まり、支持率が上昇している。昨年末の時点では、自民党が改選議席を少し減らすとの予測が大半でしたが、今では上積みする可能性も囁かれている。自民党は安泰ムードで、対する野党は1人区での共闘も進まず、勝つ気があるのかどうかさえ分からない。政権与党と戦う気迫を見せているのは、その手法には批判もありますが、衆院議員のバッジを外して参院選に挑むことを表明したれいわ新選組の山本太郎代表だけという状況です。本来は最大野党の立憲民主党が、与党との対決姿勢を鮮明にすべきなのに、まったく存在感を示せていない。野党不在で、自民党内の力学だけで物事が進んでいく危険性が高まっています」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)

防衛費や敵基地攻撃の議論は憲法改正につながる
 ウクライナ危機に乗じて、自民党は防衛費のGDP比2%への引き上げや敵基地攻撃能力の保有などを言い出している。安倍元首相が口火を切った核共有や核保有論は、自民党だけでなく日本維新の会や国民民主党からも、非核三原則の見直しを議論すべきだとの声が上がっているのが現状だ。エネルギー価格の高騰で、原発推進の声も大きくなってきている。日本の政策、針路を決する大きなテーマだが、これらが参院選の争点になるのか。

自民党がウクライナ危機に乗じて防衛予算の拡大をことさらに主張するのは、憲法改正につなげたい思惑があるからでしょう。だったら、そんな姑息なことをしないで、参院選で正面から堂々と改憲の是非を問うべきです。それに対抗して、野党もあるべき国の形を示し、平和主義を捨てるのか否かを国民に問う。そうでなければ争点が見えず、投票率も低くなって、組織票に勝る自公両党が有利になるだけです」(山田厚俊氏=前出)
 ロシアの蛮行がメディアを席巻している現状では、プーチン大統領に対する怒りが先行し、国民の批判は岸田政権に向かわない。
 もちろん、プーチンを擁護する余地などないから、野党もロシア批判を繰り広げる。
 目下、国民の最大の関心事がウクライナ危機であれば、野党が攻勢を強めるチャンスはない。参院選は勝負にならないということだ。

日本にとっても東アジアにとっても戦後最大の危機
 「野党が総崩れになり、自公が堅調で日本維新の会が議席を増やすようなことになれば、予算案に賛成して与党に接近する国民民主党も合わせて、国会は大政翼賛化してしまう一気に憲法改正に突き進んでいく懸念が高まります。ロシアや中国の危機を煽って、軍拡も進んでいくでしょう。円安の加速で国民生活が危機にひんしているというのに、防衛費の増額なんて常軌を逸しているとしか思えない。その分の予算を捻出するには社会保障費を削るしかありません。防衛費の増額とは米国から武器を買うことであり、財閥と米国の軍事産業を喜ばせるだけなのです。そのうえ周辺国との緊張を高め、戦争の危険性が増すのだから、参院選で与党を勝たせても、国民生活にとって良いことは何ひとつありません」(政治評論家・本澤二郎氏)
 米国産の武器を大量に購入したところで、悪性インフレで国民生活が破綻してしまえばどうしようもない。エネルギー資源も食料も輸入に頼っている日本には、武器を買っている余裕などないはずなのだ。

「現実にロシアとの戦争が起きている今こそ、冷静に歴史の教訓を思い返すべきなのに、軍拡に舵を切る日本はおかしな方向に進もうとしているように見えます。第2次安倍政権で特定秘密保護法や安保法、共謀罪などが成立し、戦争をするための素地が整った。安倍元首相が韓国や中国を敵視してナショナリズムを煽り、それを菅政権も引き継いで戦後の平和主義がなし崩しにされてきたところへウクライナ危機が起きたことは、日本にとっても東アジアの安定にとっても戦後最大の危機と言えるでしょう。敵基地攻撃能力を反撃能力と言い換えたところで実態は変わらず、日本発の戦争が起きてもおかしくないし、米国の戦争に駆り出されるリスクもある。停戦や平和を求めるより『ウクライナ頑張れ』と応援する世論を見ていると、過去の歴史に重なって空恐ろしくなります」(本澤二郎氏=前出)

 歴史は繰り返す。旧日本軍は、当時の国際社会から今のロシアのように見られていたに違いない。国家の誇りを守る、正義のための戦争などという大本営に感化されやすい国民性では、いつまたロシアのように転んでもおかしくないのだ。
 軍拡で本当に国民を守れるのかという議論もないままで、この戦時下の参院選はろくでもない結果になる予感しかない

超円安でも「為替介入」できない理由/「良い円安」などあり得ない

 円安は直接的には日米の金利差によるもので、米国側は量的緩和策が成功して逆にインフレが進行したため利上げで対応することになったのですが、日本は国債残高が膨大に過ぎて全く利上げができないのです。

 利上げが出来ない場合、別の方法として「為替介入」(⇒ドル売り・円買い)があります。ただそれを日本が単独でやれば米国と敵対的な関係になるので、了解を得て協調的に行う必要があるのですがその余地はなさそうです。この先も円安は進みやすい環境にあるということです。
 加谷 珪一氏が「 ~ それでも日本政府が『為替介入』できない本当の理由」という記事を出しました
 併せて浜矩子・同志社大教授の「『悪い円安』という言葉では正確な現状認識はできない ~ 」という記事を紹介します。
註.「財政ファイナンス」とは、「財政赤字を賄うために、政府の発行した国債等を中央銀行が通貨を増発して直接引き受けることで〝マネタイゼーション”ともいう。財政規律を失い悪性のインフレを引き起こす恐れがあるため、財政法第5条により原則として禁止されている(野村証券 証券用語解説集)」ものです。
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超円安で「日本人の生活」がピンチ…それでも日本政府が「為替介入」できない本当の理由
                     加谷 珪一 現代ビジネス 2022.04.27
急ピッチで進む円安に対して、一部から為替介入を実施すべきとの声が上がっている。だが、通貨安を防衛するための為替介入には制限が多く、あまり現実的とはいえない。しかも米国政府はインフレ抑制が最優先であり、ドル安を歓迎する可能性は低い。介入によって円安を阻止するという流れにはなりにくいだろう。

円安の原因は、日米の金融政策の違い
このところ進んでいる円安は、近年、目にしたことのないペースである。2022年2月までは、1ドル=114~115円で推移していたが、3月に入って一気に円が下落。1カ月半で14円も下がり、一時は1ドル=129円台を付けた。これは20年ぶりの水準である。
今、急激に円が売られている理由は、主に日米の金利差、つまり日米の金融政策の違いによるところが大きい。世界各国はリーマンショックに対応するため、市場に大量のマネーを供給する量的緩和策を行ってきた。米国は一定の成果を上げ、すでに量的緩和策を終了。金利を引き上げ、市場からマネーを回収する金融正常化モードに入っている。
加えて、コロナ後の景気回復期待やウクライナ戦争などによって全世界的にインフレが激しくなっており、物価対策の必要性から、金利の引き上げが前倒しされる可能性が高まっている。ところが日本は依然として量的緩和策を継続中で、日銀は大量の国債を購入している。結果として日本は超低金利のままとなっており、日米の金利差は今後、大幅に拡大する可能性が高い
米国は金利を引き上げ、市場から資金を回収しているのに対して、日本は金利を引き下げ、市場にマネーを供給している状況なので、日本円の価値は減価しやすい(つまり円安が進みやすい)。日銀は当面、現在の金融政策を維持する方針を示しているので、日米の金利差は今後、さらに拡大すると予想する関係者がほとんどである。
つまり今、発生している円安は日米の金融政策の違いという構造的な要因であり、日本の金融政策が変わらない限り、同じ市場環境が続く
急ピッチな円安の進行を受けて、各方面から懸念する声が上がっている。
ファーストリテイリングの柳井正社長は、4月14日の決算発表において「円安のメリットはまったくない」「これ以上、円安が続くと日本の財政に悪影響」として懸念を示した。日本商工会議所の三村明夫会頭は、中小企業の多くが円安による悪影響を受けているとして「日本経済にとって良くない」と述べた。鈴木俊一財務相は「円安が進んで輸入品等が高騰している。悪い円安と言える」とかなり踏み込んだ発言を行っている。
輸出企業が多く加盟する経団連の十倉雅和会長は、「為替というのは経済のファンダメンタルズを表している」として、ある程度、容認する姿勢を示したものの、「急速な変動は良くない」として、安定的な推移が必要との見解を示した。

通貨安防衛の介入は極めて難しい
これまで日本では、基本的に円安を求める声の方が大きく、円安懸念の大合唱になるというのは、大きな変化といってよい。日本メーカーの海外現地生産が増え、円安のメリットを直接的に享受できないことに加え、生活必需品の輸入が増えたことで、円安による物価上昇の影響が大きくなってきた。円安のメリットをデメリットが上回る状況になっており、円安が歓迎されなくなったと見てよいだろう。
こうした状況を受け、一部からは為替介入によって円安を阻止すべきとの声も聞かれるようなってきた。だが、現実問題として、円安を阻止するための為替介入を実施するのは極めて難しい。その理由は、通貨安を防ぐ介入の場合、手持ちの外貨準備の範囲でしか、介入を続けることができないからである。
為替介入は財務大臣の権限で行われ、円高を阻止する介入であれば、円売りドル買いの介入が実施される。財務省は事実上無制限に円資金を調達できるので、効果が出るまで介入を続けることができる。だが円安を阻止する介入の場合、円買いドル売りの取引を行わなければならない。円を買うためには、手持ちのドルが必要であり、そのドルは外貨準備から拠出される。逆に言えば、ドル売りの介入は外貨準備の範囲でしか実施できないことを意味している。
通貨安防衛の介入には限度があるため、こうした介入に乗り出した政府に対しては、投資ファンドが空売りなどを仕掛けてくる可能性があり、政府が負けてしまうことも十分にあり得る。通貨防衛を目的とした介入は、基本的に無意味というのが、現代の金融市場における常識と言って良いだろう。
1997年から98年かけて政府は過度な円安を是正する目的で為替介入を行ったことがあるが、当時、財務官として介入の実務を取り仕切った榊原英資氏は、外準準備の10分の1を使ってしまい「あと9回しかないと思った」と発言している。同氏は国際金融局長時代に実施した円高是正の巧みな手腕から、「ミスター円」との異名を取っており、日本政府の市場に対する影響力は大きかった。結果として円安是正の介入も、数兆円の外貨準備を放出するだけで済んだが、こうしたケースは稀だろう。
ちなみに2022年3月末時点における日本の外貨準備は1兆3560億ドル(約173兆円)となっており、80%は証券運用となっている。証券運用の大半は米国債と思われるので、外貨準備を取り崩して介入を行う場合、米国債を売却する必要が出てくるかもしない。米国債の巨額売却は米国の長期金利を上昇させる作用をもたらすので、介入によって日米の金利差がさらに拡大し、逆に円安を加速させてしまうリスクもはらむ。

米国が協調介入に応じる可能性は低い
しかも、今回の円安は日米の金利差という構造的な要因であり、米国政府がドル安を望む可能性は低い。米国は金融政策の正常化という従来の目的に加え、このところ顕著となっているインフレの是正という政治的課題を抱えている。景気を失速させない範囲において、可能な限り金利高、ドル高にしたいというのが米国政府のホンネでありドル高是正(つまり円安是正)の為替介入について同国を説得するのは困難と考えるべきだろう。
実は、日米の協調介入について、奇妙なニュースが流れている。
鈴木財務相は4月22日、米国のイエレン財務長官と会談し、為替や経済の現状について意見交換を行った。協調介入について議論したのかとの質問に対し鈴木氏は「コメントしない」と述べたが、TBSは、日本の政府関係者の話として、「(米国側は協調介入について)前向きに検討してくれるトーンだった」と報じた。
このニュースを聞いた時、筆者は首をかしげざるを得なかったが、その後、ロイターが財務省幹部の話として「事実ではない」との報道を行っている。
TBSに対し、介入について協議したと話した人物も、ロイターに対してそれを否定した財務省幹部も名前は明らかにされていない。ただ、TBSやロイターが発言をねつ造することは基本的にあり得ないので、どちらの発言も存在したと考えるのが妥当だろう。だとすると日本側は、米国と力強く交渉していることを示す政治的目的で、関係者が協議したというリークを行ったものの、影響が大きかったことから、財務省が火消しに回ったという図式が考えられる。
いずれにせよ、一般常識として米国が素直に協調介入に応じるとは考えにくく、先ほど説明した外貨準備の上限という制限もあり、市場関係者の多くは、介入は行われないとの見方に立っている。そうなると、円安がどこまで進むのかについては、日銀の方針次第ということになるだろう。
日銀が金融正常化を想起させる動きを見せれば、為替市場も相応に反応するだろうが、現時点で日銀は利上げに転じる姿勢はまったく見せていない。金利が上がれば、政府の利払いが増加し、日銀も含み損を抱える可能性が高い(日銀が保有する国債は簿価評価だが、市場はそう認識しない)。国内経済も、融資の低迷で逆風が予想されるし、住宅ローンの返済額が増えるなど弊害も多い。
何より、日銀の黒田総裁はアベノミクスの強力な推進者であり、銀総裁が交代しない限り、政治的にも金融政策を変更するのは難しいだろう。相場は常に行ったり来たりを繰り返すので、今後も一方調子に円安が進むとは限らない。だが、黒田氏の任期はあと1年残っているという現実を考えると、基本的には円安が進みやすい環境が続く。

加谷 珪一
1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。


特別寄稿 浜矩子
「悪い円安」という言葉では正確な現状認識はできない まともな経済力学の逆襲が始まった
                         日刊ゲンダイ 2022/04/29
 「悪い円安」という言い方に違和感を覚えます。そこには、基本的には円安は良いものだという発想が底辺にある。しかし、わざわざ「悪い」と接頭語を付けるのは、時代錯誤であり、精緻さに欠ける認識。
 日本は債権大国になって久しい。通貨の価値は上がるのが自然体であって、とうの昔に購買力の上昇と一致した経済運営になっていてしかるべきでした。当然の方向転換をせず、円高阻止を続けてきた結果、とうとう通用しなくなった、というのが現状です。
 日銀の黒田節もようやく「急激な円安はマイナス」と言い始めました。これまで「円」というボタンを押すと、機械的に「安は日本経済にとってプラス」と出てくるような回路でしたから、今さら何を言っているのか。その「悪い円安」を日本の金融政策の突出した異様さがつくり出してきた。世界的に利上げモードになっている中で、日本では断じて金利上昇許すまじと大量に国債を購入するピント外れな政策を続けている。
 そうなってしまうのは、異次元緩和が当初から「財政ファイナンス」以外の何ものでもなかったからです。まともな金融政策としての判断とは無関係なところで、狂った政策を展開し「悪い円安」なることを招いた落とし前をどうつけるつもりなのか。
 さらには「国際収支の発展段階説」という問題が横たわる。これについては、私は以前から警鐘を鳴らしてきました。いまの調子で貿易赤字が定着すれば、いずれ経常収支レベルでも赤字になるでしょう。国内で貯蓄不足・需要超過になっているので、それを補うために海外からの資本流入を獲得しなければ経済が回らない。
 こうした状況を「債権取り崩し国」と言いますが、果たして、いまのような体たらくの日本に経常赤字に見合う資本が流入するのでしょうか。

異様な金融政策が日本経済を心肺停止に陥らせている
 何をやってもうまくいかず、韓国がうらやましい、みたいな状態で、海外との金利差が広がるばかりでは、お金を引き寄せることはできません。そうなると日本は金欠病で窒息死。以前もお話ししたミイラ化が、ついに眼前に迫ってきた。
 日本の異様な金融政策が日本経済を心肺停止状態に陥らせているという現実を、真正面から受け止めないといけない。「悪い円安」などという言い方をしているようでは正確な現状認識ができていないと言わざるを得ません
 ここを切り抜けるには、もはや金利を上げざるを得ない。物価も上昇したわけですし、緩和をやめ、財政ファイナンスに終止符を打ち、本気で財政再建に舵を切る。そうして、まともな方向に歯車が回り始めることになればいい。
 逆に、それでも財政負担を増やすことをしないのなら、日本経済を死に至らしめることになる。メディアは、アホダノミクス男がどう答えるのか、問いただすべきです。
 異様な金融政策に対し、いつ、どのような形で修正が迫られるのだろうかとずっと考えていました。ついに来た。いま、これがそうです。まともな経済力学の逆襲が始まったのです。

浜矩子 同志社大学教授
1952年、東京生まれ。一橋大経済学部卒業後、三菱総研に入社し英国駐在員事務所長、主席研究員を経て、2002年から現職。「2015年日本経済景気大失速の年になる!」(東洋経済新報社、共著)、「国民なき経済成長」(角川新書)など著書多数。

30- ウクライナ戦争で最も悪いのは米英(田中宇氏)

 フリーの国際情勢解説者田中宇氏が、NATOの要員として2014年以降にウクライナ軍のテコ入れ策を担当していたスイス軍の元情報将校ジャック・ボーの述懐を紹介する記事を出しました。

 田中氏が付けたタイトルは「ウクライナ戦争で最も悪いのは米英」です。
 米英が長い時間を掛けて、ロシアを今日のウクライナ戦争に誘導してきた経過が良く分かります。そしてウクライナの兵士たちが必ずしも好戦的でも勇敢でもないこと、米英から訓練を受けた海外のメンバーを含めたネオナチグループが戦闘員の中心的な勢力であることなども分かります。
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ウクライナ戦争で最も悪いのは米英
                 田中宇の国際ニュース解説 2022年4月29日
NATOの要員として2014年以降にウクライナ軍のテコ入れ策を担当していたスイス軍の元情報将校ジャック・ボーは、私が見るところ、今回のウクライナ戦争が起きた経緯について、最も詳しく語っている専門家だ。ボーによると、ウクライナ政府軍は当時(も今も)士気がとても低く、ウクライナ東部ドンバス2州のロシア系住民の親露派民兵団と戦っている時期、脱走者が多く、戦死者よりも、病死や交通事故、自殺、アル中などの死者の方が多かった(2018年の実績)。米英は、2014年にウクライナの政治運動を扇動して当時の親露政権を転覆し、ロシア敵視・米英傀儡の極右政権を作って、ドンバスの親露派を攻撃させてウクライナ内戦を引き起こした。だがウクライナ政府軍が弱すぎたため、米英主導のNATOがウクライナ軍をテコ入れすることになり、ボーがその担当者の一人としてウクライナに駐在した。ボーはまさに、今回のウクライナ戦争の前段階の状況を作った当事者だった。軍事専門家のボーは国連要員などとしてソ連崩壊直後のロシアに派遣され、ソ連軍・ロシア軍の改革を手伝った経験があり、ロシアやウクライナの軍事状況に詳しい。

ウクライナ軍は腐敗していたため国民に不人気で、2014年の政権転覆・内戦開始後に徴兵制を敷いたものの、徴兵対象者の7割が不出頭だった(2017年秋の実績)。多くの若者が徴兵を嫌って海外に逃げ出していた(若者の海外逃亡の結果、国内で若手の労働力が不足した)。予備役を集めて訓練しようとしても7割が出頭せず、訓練の会合を重ねるほど出席者が減り、4回目の訓練に出席したのは対象者の5%しかいなかった(2014年3-4月の実績)。ボーらNATOの担当者たちはウクライナ国内での政府軍のイメージを改善しようとしたが短期間にできるものでなく、行き詰まった。 

(ウクライナで政権が極右側に転覆されて内戦が始まると、政府軍からの脱走兵が急増した。ロシア語が母語のロシア系住民と、ロシア系でないが極右政権がとても嫌いな人々を合計すると、かなりの割合〈国民の4割ほど?〉になる。軍内にいたその手の人々が集団で脱走し、兵器など装備を持って親露派民兵団に合流した兵士も多かった。部隊ごと親露側に寝返るケースも多発し、彼らがもたらす兵器や装備で、親露民兵団は政府軍と十分に戦えた。ロシア軍はドンバスに兵器を支援しなかったことがOSCEの監視で確認されているが、その理由は寝返りによる政府軍からドンバスへの兵器流入だった)

親露派民兵団やロシア側に対抗できる兵力を急いで持つことを米英から要請されていたウクライナ政府は、政府軍の改善をあきらめ、代替策として、ウクライナ国内と、NATO加盟国など19の欧米諸国から極右・ネオナチの人々を傭兵として集め、NATO諸国の軍が彼らに軍事訓練をほどこし、政府軍を補佐する民兵団を作ることにした。極右民兵団の幹部たちは、英国のサンドハースト王立士官学校などで訓練を受けた。民兵団は国防省の傘下でなく、内務省傘下の国家警備隊の一部として作られた。ボーによると、2020年時点でこの民兵団は10万2千人の民兵を擁し、政府軍と合わせたウクライナの軍事勢力の4割の兵力を持つに至っている。ウクライナ内務省傘下の極右民兵団はいくつかあるが、最も有名なのが今回の戦争でマリウポリなどで住民を「人間の盾」にして立てこもって露軍に抵抗した「アゾフ大隊」だ。

NATOの米英仏加は、2020年から民兵団の幹部たちを自国に招待して軍の学校で訓練をほどこす「センチュリア・プロジェクト」を行っていた。米英仏加はいずれもナチスへの礼賛を禁止しており、それなのにウクライナのネオナチ幹部を自国の軍事学校に招待して訓練したので、この事業はユダヤ差別反対運動やイスラエルから批判された。しかし米英仏加は、ウクライナのネオナチ幹部に対する軍事訓練をやめなかった。 

ウクライナ周辺はもともと中世にユダヤ教を国教の一つにしたハザール王国があった関係で、ユダヤ教徒が多数いる。ハザールは、ユダヤ人の多数派である「アシュケナジ(ドイツ系)」の発祥の地になっている(しかし、すべてのユダヤ人はローマ時代にイスラエルに住んでいた人の子孫であるという建前を守るため、中東と全く無関係な東欧人がユダヤ人の多数派であることは言ってはいけないことになっている。これはボーでなく私の認識)。ウクライナには世界最大のユダヤ人コミュニティがあった(現状で5万-40万人と概算されている。ウィキペディアによると世界で12番目に大きなユダヤ人コミュニティ)。同時にウクライナは、強いユダヤ人敵視の流れもある。かつてロシア革命の立案者・参加者(共産党幹部、NKVD)の中にユダヤ人が多く、革命後のソ連共産党がウクライナ人を大量に餓死させるホロドモールを引き起こしたことから、共産党=ユダヤ人を憎む文化的素地があり、それがウクライナでの極右・ネオナチ運動の根幹にあるとボーは説明している。

アゾフ大隊など極右民兵団は、2014年の米英による極右政権への転換後、ウクライナ国内のユダヤ敵視の流れに沿って、米英の動きと関係なく形成されたように最近の米国側のマスコミでは描かれている。しかし実のところ極右民兵団は、米英などNATO諸国が、ウクライナの親露派を攻撃するウクライナ軍を強化するために、ウクライナにもともといた極右に加えて、欧米諸国から極右ネオナチ勢力を傭兵として募集して人数を増やし、NATO諸国が軍資金を出して訓練をほどこして養成したものだ。政権転覆直後という時期的な一致から考えて、ウクライナの極右民兵団を創設・出資・養成した黒幕は米英だった可能性が高い。ボーの説明からそれが読み取れる。 ウクライナで妄想し負けていく米欧

米英は、それまでやくざなごろつきだったウクライナの極右ネオナチの人々を集めて訓練して武装させ、ウクライナ人だけでは足りないので欧米諸国からも募集して合流させたのだろう。極右やネオナチに対して極悪のレッテルを貼っている米英自身が、極右やネオナチを集めてカネを出して民兵団を作り、8年間にわたってロシア系住民を虐殺させた。米英の行為は極悪な戦争犯罪である。米英がウクライナに作って育て、親露派を虐殺し続けた極右ネオナチの民兵団を潰すのが、今回のロシアのウクライナ攻撃の目標の一つである「ウクライナの非ナチ化」になっている。正当な目標だ。ウクライナ戦争はロシアの「侵攻」でなく「正当防衛」だ、と言っているロシア側は正しい。 市民虐殺の濡れ衣をかけられるロシア

(ボーがそれまでの沈黙を破ってウクライナにおける米英の8年間の戦争犯罪の経緯をしてはし始めた理由は、彼も米英のやり口に対する人道的な怒りを持ち、マスコミ権威筋が歪曲的なロシア敵視報道に終止していることにも怒りがあって、義侠心から自分の経験を話し出したのだと思われる。彼は正しいことを言ったので、マスコミ権威筋から陰謀論者のレッテルを貼られている

なぜ米英はウクライナを傀儡化して親露派を殺す内戦をやらせたのか。親露派はウクライナ国内での自治の復活を求めていただけで、米英にとって何ら脅威でなかった。米英はウクライナに傀儡政権を作って親露派が2012年から持っていた自治を剥奪し、親露派が怒って分離独立を宣言すると極右民兵団を作って親露派を殺す内戦を起こした。なぜこんなことをしたのか。おそらく、ロシアを怒らせ、親露派を守ってやらねばという気にさせて、露軍をウクライナに侵攻させるためだろう。露軍がウクライナに侵攻したら、米英はロシアを経済制裁する口実ができる。米欧とロシア(露中)が鋭く対立し続け、ロシアや中国を弱体化する新冷戦体制を作れる。米英は今回の戦争をロシアに起こさせるために、8年前にウクライナの政権を転覆したことになる

(米国は2014年にウクライナの政権を転覆してロシアを怒らせるウクライナの内戦を引き起こしたが、同時期の2015年には米国が起こしたシリア内戦の後始末をやりきれなくなった米国が、ロシアに頼んでシリアへの軍事支援を開始してもらっている。米国は、ウクライナでロシアを弱体化しようとした半面、シリアではロシアを影響圏拡大・中東の覇権国の地位へと誘導しており、矛盾している。今回のウクライナ戦争も、これから金資源本位制の導入などでロシアと非米諸国が覇権を得ることにつながるので、今後予測される展開も含めて考えると、シリアもウクライナもロシアと非米側を強化する隠れ多極主義の策なのだが) シリアをロシアに任せる米国) (プーチンが中東を平和にする

私独自の論に入りすぎた。ジャック・ボーの話に戻る。ボーも、米国がウクライナに介入するのはウクライナを守るためでなく、ウクライナを傀儡化してロシア(国内親露派)にかみつかせ、ロシアを怒らせてウクライナ侵攻させることが目的だった、と指摘している。しかし、プーチンのロシアはなかなかウクライナに侵攻しなかった。ロシアは当初、ウクライナ内戦を停戦させる交渉の参加者にもならなかった。最初の停戦協議であるミンスク合意は、プーチンの盟友(子分)であるベラルーシのルカシェンコ大統領によるお膳立てで進められ、ウクライナ政府が、国内の親露派(ドンバスの民兵団)から剥奪した自治権を戻すことでいったん合意した。ロシアは、ドンバスが自治を再獲得してウクライナ領内にとどまることを望んでいた。しかし、米英傀儡のウクライナ政府は合意を履行せず、ドンバスの内戦は続いた。2015年に仏独がロシアを誘ってミンスク合意の交渉に参加し、仏独露が参加したことで合意は「ミンスク2」に再編されたが、それでもウクライナ政府はドンバスに自治を再付与せず、内戦が続いた。 ウクライナ再停戦の経緯

独仏は米英の傀儡として、ロシアを交渉に引っ張り込むことでロシアを交渉当事者に仕立て、ロシアが怒ってウクライナに侵攻することに道を開こうとしたが、ロシアはウクライナに侵攻せず、ウクライナの政府とドンバス民兵団が交渉して自治を再生することを目標にし続けた。ロシアがウクライナに侵攻すると、米欧とロシアの関係が決定的に悪化し、今起きているような新冷戦体制になってしまう。プーチンはそれを望まず、米露関係が何とか維持され、ロシアが米国の覇権を尊重する見返りに、ロシア経済が米経済覇権体制下で発展していく道をあきらめていなかった。プーチンの希望と裏腹に、米英は過激(私から見ると隠れ多極主義的)なロシア敵視をやめず、ウクライナ内戦を扇動し続けた。まだまだ続くロシア敵視の妄想

ウクライナ政府に内戦を終わらせて親露派に自治を再付与させるというロシア側の希望が潰えたのは昨年(2021年)3月、ゼレンスキー大統領が、ロシアに奪われたクリミアを軍事的に再征服する法律に署名し、その法律を根拠として、ウクライナ軍が南部のドンバスとの境界の近くに兵器を蓄積する動きを始めた時だった。このウクライナの新戦略は、米国のランド研究所が2019年に作った、ウクライナに兵器を支援してロシアと長い戦争を戦わせる戦略に沿った動きだった。昨年秋になると米国側が「いつロシア軍がウクライナに侵攻してもおかしくない」と言い出すようになった。そして、今年2月16日、ウクライナ軍が蓄積した兵器を使って、それまでの30倍の激しさでドンバスを攻撃し始めた。その後、激しい猛攻撃が連日続いた。米バイデン大統領は2月11日から「間もなくロシアがウクライナを侵攻する」と言っており、2月16日からのウクライナ軍のドンバスへの猛攻撃は、露軍の侵攻を誘発したい米国の指示で行われた可能性が高い。 ロシアがウクライナ東部2州を併合しそう) (ロシアは正義のためにウクライナに侵攻するかも

ロシア側も、ウクライナ軍がドンバスを猛攻撃し始めることは知っていたようで、2月14日にロシア議会がドンバスが望むウクライナからの分離独立をロシアが承認することを決議し、あとはプーチン大統領の署名だけで発効するようにした。2月22日にプーチンが署名し、ロシアとドンバスが安保条約を結び、ウクライナ軍から猛攻撃を受け続けるドンバスが2月23日にロシアに軍事支援を依頼し、新条約に沿って2月24日に露軍がウクライナに侵攻(特殊作戦)を開始した。ロシアを制裁できない欧米

露軍はドンバス周辺だけでなく、キエフなど他の地域にも侵攻し、ウクライナ全体の制空権を奪取した。ドンバスを守るならもっと小規模に、ドンバスだけに侵攻するのでも良かったはずだが、露軍は大胆に、ウクライナ全体を作戦の対象にした。その理由についてボーは「露の進軍先がドンバスだけだったとしても、手ぐすね引いて待っていた米国は、ロシアを過激に全面的に経済制裁したはずだ。それならドンバスにとって脅威になるウクライナ側の軍事施設を全て破壊した方が良いとプーチンは考え、広範な攻撃に踏み切った」という趣旨の分析をしている。 

私自身は、この要素に加えて、米国側の対露経済制裁がロシアでなく米国側の経済を破壊することになる特性が勘案されたのでないかと考えている。露軍のウクライナ攻撃が広範なものであるほど、米国側は激怒し衝撃を受けてロシアを過激に経済制裁し、その後の米国側の経済的な自滅もすごいものになる。米国側の経済自滅をすごいものにするために、プーチンは米国側をできるだけ激怒させる広範な攻撃をウクライナに行ったのだろう。優勢なロシア、行き詰まる米欧、多極化する世界) (ドルを否定し、金・資源本位制になるロシア

実際の露軍の攻撃はウクライナの諸都市の市街をできるだけ壊さないように進められたのに、欧米の諜報機関は露軍がウクライナ諸都市を無差別に大破壊しているという大間違いの分析をしている、とボーも言っている。諜報界の人であるボーは嘆いている。米軍は侵攻したイラクでもリビアでも、真っ先に国全体のインフラを全破壊した。対照的に露軍は今回ウクライナのインフラをできるだけ破壊せず、機能させ続けている。交通網も電力ガスもインターネットも、ウクライナ軍が猛攻撃してきた一部地域を除き、機能し続けている。こうした状況を米国側は無視している。ボーは、分析を歪曲しているのは政治家だとも言っている。 

2022年4月29日金曜日

サンフランシスコ条約・日米安保条約発効70年 ~ (しんぶん赤旗)

 4月28日は、サンフランシスコ平和条約と日米安保条約の発効から70年に当たります。

 サンフランシスコ条約により、沖縄、奄美、小笠原が日本から切り離されて米軍の全面支配下に置かれました。また旧安保条約により、日本は世界に例のない対米従属の道を歩むことになりました。日本の主権があらためて問われています。
 平和条約以降70年の歴史は、日米安保条約下の対米従属の歴史ということもできます。
 しんぶん赤旗が「サンフランシスコ条約・日米安保条約発効70年 問われる主権と領土」という記事を出しました。
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サンフランシスコ条約・日米安保条約発効70年 問われる主権と領土
                        しんぶん赤旗 2022年4月28日
 日本が形式的に主権を回復したサンフランシスコ平和条約と、日米安保条約の発効から28日で70年を迎えます。サンフランシスコ条約により、沖縄、奄美、小笠原が日本から切り離されて米軍の全面支配下に置かれ、千島列島を旧ソ連に奪われました。また、旧安保条約により、世界に例のない対米従属の道を歩むことになりました。日本の主権と領土があらためて問われています。 (竹下岳)

闇の交渉で押しつけ
 1945年8月、日本は第2次世界大戦での無条件降伏を勧告した米・英・中・ソ連のポツダム宣言を受諾し、米軍を中心とした占領軍の支配下に置かれました。
 ポツダム宣言では、日本に「責任ある政府」が樹立されたら、占領軍は「直ちに撤退する」と明記されています。ところが47年3月、米政府がソ封じ込め政策(トルーマン・ドクトリン)を採用したことで状況は一変します。の核実験(49年8月)、中国革命(同年10月)、鮮戦争(50年6月~)などが続き、「反共のとりで」としての日本の重要性が飛躍的に高まりました。’
 最終的に、米政府は50年9月8日、対日平和条約と一体で、日本との2国間協定(安保条約)を結び、米軍を維持する方針を決定。ポツダム宣言を公然と踏みにじるものでした。
 しかも、安保条約は「必要な限り、(日本の)いかなる場所でも米軍を維持する」=いわゆる「全土基地方式」を採用。これが、日本が世界でも類を見ない「米軍基地国家」の元凶です。
 平和条約締結をめぐっては中ソを合む全連合国との「全面講和」か西側諸国のみとの 「単独講和」かの論争がありましたが、当時の吉田茂首相は米国のダレス国務長官と密議を重ね、「単独講和」に踏み切り、日本は「西側」陣営に入りました。
 51年9月8日、48力国の署名により平和条約が締結。その後、吉田氏はただ一人、米,政府高官に囲まれながら、サンフランシスコ市内の米軍士官クラブで安保条約に署名しました。他の日本側代表団は一切、条約の内容を知りませんでした。日本の占領を継続する安保条約が、闇の交渉で押し付けられたのです。

日本の防衛とは無縁
 安保条約の本質は、日本の主権回復後も基地を置き、部隊を駐留させ、地球上のどこでも自由に出撃する「権利」を米軍に保証することにあります。゛
 実際、条約の実質的内容は、第1条で「アメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍を日本国内及びその附近に配備する権利を、日本国は、許与」すると明記しているだけで、米軍の駐留継続以外の内容は一切ありません。
 安保条約は60年1月に改定されましたが、「全土基地方式」はそのまま維持。さらに、①核持ち込み密約 ②朝鮮半島への自由出撃密約 ③基地の管理権密約-などが同時に交わされ、国民の目に見えない密約で、米軍の特権が維持されています。
 安保改定で新たに加わったのが第5条です。日本の施政下で日米いずれかに対する武力攻撃が発生した場合、「自国の憲法上の規定」に従い「共通の危険に対処するように行動する」というものです。外務省は「米国の対日防衛義務を定めたもの」だと説明しますが、米側は「われわれは地上にも空にも、日本の直接的な非核防衛に関する部隊は持っていないJそれ(日本防衛)は、完全に日本の責任である」(70年1月26日、米上院外交委員会の秘密会、ジョンソン国務次官)との発言を繰り返しています。
 在日米軍の大半を占める海軍と海兵隊は1年の半分を海外遠征に、残る半年を、そのための訓練や休養、整備などに充てています。在日米軍は日本防衛とは無縁の海外派兵部隊なのです。

「植民地化するもの」
 「要するに、この協定は日本を植民地化するものですナ」。当時、若手代議士だった中曽根康弘氏(のちの首相)がもらしたのが、日米地位協定の源流である日行政協定(安保条約と同日発効)です。
 同協定は米軍や軍属、その家族に、日本の国内法を上回る特権を与えていました。なかでも、刑事裁判権をめぐっては、「公務中」「公務外」にかかわらず、米側は米兵や軍属らの犯罪に対して、排他的な裁判権を有していました。さらに、米軍による基地の治外法権的な管理権や空域の使用、日本への自由な出入りなどの特権が明記され、これらは手つかずのまま、現行の地位協定に引き継がれています。
 刑事裁判権については、53年9月の行政協定改定で、「公務外」の犯罪は日本側が第1次裁判権を有するとされましたが、その際「裁判権放棄」の密約が交わされました。安保条約に対する「思考停止」から脱却し、あるべき安全保障の姿を模索する必要があります。

沖縄県民「屈辱の日]
 サンフランシスコ条約は第3条で、沖縄、奄美、小笠原諸島を、米国を「唯一の施政権者とする信託統治制度」の下におき、米国は「行政、立法及び司法上の権力の全部及び一部を行使する権利を有する」ことを定め、全能の支配者としての地位を得たのです。(その後、奄美は53年12月に返還、小笠原は686月に返還
 日本が少なくとも形式上、「主権」を回復したのに、沖縄が日本から切り離された4月28日は、沖縄県民にとっての「屈辱の日」とされています
 米軍は沖縄を本格的な軍事拠点とするため、53年以降、「銃剣とブルドーザー」によ る土地強奪を開始。さらに年以降、核兵器の配備を開始し、ピーク時の67年には1300発が置かれ、県民は核と隣り合わせの生活を強いられました。
 増強された基地はベトナム侵略戦争への出撃拠点となり激しい訓練によ事件・事故も相次ぎました。
 また、米兵による殺人、交通事故、性的暴行といった凶悪犯罪を裁くこともできず、県民は無権利状態に置かれてきました。
 こうした状況を打破するため、県民は「祖国復帰」を掲げ、たたかってきました。68 年には行政主席選などで本土復帰を掲げた勢力が圧勝し、日米両政府に、条約上不可能とされた「沖縄の施政権返還}を決断させます。
 72年5月15日、沖縄の本土復帰が実現しました。しかし屋良朝苗主席が政府に提出した「建議書」に明記された「基地のない平和な島」の願いは実現されず、むしろ増強が続いています。地位協定さえ踏みにじる米軍の横暴な訓練も増えています。復帰50年の今年、県民願いを実現する政治への転換が求められています。

道理ある領土交渉を
 サ条約はさらに、日露戦争でロシアから得た樺太の一部に加え、日本の領土である千島列島の放棄も定めました(第2条)
 千島列島は、1875年の樺太千島交換条約で日本の領土として確定しました。ところが1945年8月、ソ逓のスターリン政権が千島と北海道の一部である歯舞、色丹を軍事占領します。ソ連は、米英と結んだヤルタ協定45年2月)で「千島引き渡し」が明記されていることを理由に領有を主張しました。しかし、この協定は秘密協定であり、当時、日本はその内容を知らされていませんでした。
 米・英・中国が発表した43年の「カイロ宣言」は戦後の領土不拡大を宣言し、ポツダム宣言もこうした立場を引き継いでいました。の行為はこうした原則に反しており、明白な国際法違反の侵略行為です。ところが日本政府は、ソとの交渉で国際法に立脚した立場をとらず、「南千島(国後、択捉)は千島にあらず」との立場をとります。これに歯舞・色丹を加えた「4島」を「北方領土」と呼んで返還を求めるというものです。
 しかし、こうした立場に道理はなく、やがて頓挫。そこで安倍音三首相は「4島」から「2島返還」に後退させ、さらにプーチン大統領との「個人的な信頼関係」を構築するとの理由から、ロシアとの経済協力最優先、クリミア併合などロシアの覇権主義を一切不問にする屈従路線をとってきました。ロシアのウクライナ侵略により、そうた対ロ外交が大破綻に陥りました。今こそ、ロシアとの領土問題の原点に立ち返り、道理に立った交渉の立場に立つことが求められます。

今度の参院選には明確な争点 「戦争する国」にするかしないか

 日経新聞が22~24日に実施した世論調査で、「防衛費のGDP比2%以上への増額」について聞いたところ、賛成が55%反対は33%でした。18~39歳の若い世代の賛成65%で、60歳以上でも50%が賛成でした

 現行の防衛費は約5・5兆円/年ですが、それには海上保安庁費と旧軍人恩給費が除外されている(NATOは含めている)ので金子勝立正大名誉教授氏によれば「それらを含めると実は日本の防衛費はすでに米国、中国に次いで世界3位」だということです。
 軍事費を増額するなら、その分は社会保障費や文教費などの民生費から回すしかないので、軍事費が増えればその分国民生活は貧しくなります。
 世論が防衛費倍増賛成に傾いた背景には、ロシアのウクライナ軍事侵攻が起きているなかで自民党が敵地攻撃能力の保有や防衛費の倍増を当たり前のように提言し、メディアもそれを当たり前のように報じているという実態があります。

 ところで国を守るには万全の軍備体制を整えるしかないのでしょうか。それではいつか来た道で、第二次世界大戦前の日本に戻るだけです。あのときの反省はどうなって、9条の精神はどこに行ったのでしょうか。
 平和主義の9条の精神は、諸外国とりわけ近隣諸国とは友好関係を維持するということをベースにしています。その点でウクライナは余りにも米国に偏り過ぎて、隣国ロシアへの敵意があからさまでした。またロシア語住民に対して迫害しました。
 現在の悲惨なウクライナの現状をみれば批判がましいことは言いたくありませんが、少なくともゼレンスキーは指導者としてロシアとも友好関係を維持する道を採るべきでした。

 いずれにしても本当に防衛費をそんなに増やさなくてはならないのか、憲法9条を持っているのにメディアは何故問題提起をしないのでしょうか。自民党ウクライナ戦争を奇貨として、日本を戦争のできる国に作り替えようとしているいま、その暴走に歯止めをかけるのがメディアの役割である筈です。
 政治評論家の森田実氏「戦後積み上げてきたものが、こんなに一瞬にして崩れ去るとは政治はもちろんのこと、あまりのメディアの惨状に戦中を知る世代として怒りが込み上げます」と述べています
 日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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今度の参院選には明確な争点 「戦争する国」にするかしないか
                        日刊ゲンダイ 2022年月27日
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 来たる参院選の前哨戦だった参院石川選挙区補選(24日投開票)は散々だった。2カ月後に迫る本番での共闘が期待される野党の動きはバラバラ。結果、野党第1党の立憲民主党が擁立した新人は当選した自民党候補にトリプルスコアの大惨敗。2012年以降、自民が衆参両院の全選挙区を押さえる保守王国とはいえ、ひどすぎた。立憲民主トップに就任後、初の国政選挙となった泉代表は「力量差が与党とある中、ベテランから新人までが精力的に応援に入って一体感につながった。間違いなく活気につながる」と強がっていたが、五輪じゃあるまいし、野党のドンが「参加することに意義がある」なんて調子じゃ先が思いやられる。
 泉が「兄弟政党」と秋波を送る国民民主党は、自民にあからさまなスリ寄り。野党としてはあり得ない今年度予算案に賛成したほか、参院山形選挙区(改選数1)をめぐっては事実上の候補者一本化を画策。そうしたことから、石川補選で共同通信が実施した出口調査によると、国民民主支持層の45%が自民候補に投票していた。溝は埋めがたい。
 昨秋の衆院選で議席を増やし、“最大ゆ党”として勢力を伸ばす日本維新の会にも急接近し、参院静岡選挙区(改選数2)や京都選挙区(改選数2)で相互推薦をまとめようとしている。京都は泉のお膝元だ。国民民主は立憲民主にとって、もはや縁戚とも言えないだろう。

 政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。
ホンモノの野党は一体どこへ行ってしまったのか。野党の追及で国会審議が止まることはほぼなく、野党の存在感はどんどん希薄になっている。野党も政策実現の一翼を担いたいとの思いが勘違いを増幅させているのかもしれませんが、大政翼賛会の再現に加担しているようなもの。本来の野党の仕事は権力の監視、政府与党の追及です。それができずに、野党第1党の立憲民主党が党勢を立て直せるわけがない。参院選向けのキャッチコピー『生活安全保障』も言わんとすることは分からないでもないですが、有権者に響くのかどうか。民主党時代の『国民の生活が第一』の方がよほど分かりやすかった」

「世紀の愚策」を拡大延長
 野党のダメさは目を覆うばかりだが、嘆いてばかりもいられない。この国を「戦争する国」にするか、しないか。参院選には明確な争点があることを忘れてはダメだ。
 岸田首相は26日、ようやく物価高騰対応の緊急対策を発表。コロナ禍からの経済回復に伴って昨秋から原油や穀物などの価格が高騰する中、日米金利差による円安進行で拍車がかかり、ロシアのウクライナ侵攻がダメ押しになった。ありとあらゆる生活必需品が急ピッチで値上がりし、暮らしを直撃。「悪いインフレ」によって実質賃金は目減りしているのに、対策の取りまとめを指示したのは先月29日のこと。そうして出てきたのは、参院選を意識した中途半端なバラマキ
 国費投入は総額62兆円。ガソリンなどの燃油価格抑制策などが柱で、新たに15兆円を投じ、「激変緩和策」として実施している石油元売りへの補助金支給を9月末まで延長する。上限額も1リットル当たり25円から35円に引き上げ、支援対象はガソリン、軽油、重油、灯油、航空機燃料だという。立教大大学院特任教授の金子勝氏(財政学)が日刊ゲンダイ連載で〈「ガソリン補助金」なんて世紀の愚策だ。石油元売り大手は便乗値上げで暴利をむさぼっているのに、なぜそこにカネを回すのか〉と書いていたが、臆面もなく拡大延長する破廉恥には恐れ入る。財源は22年度予算の予備費から15兆円を引っ張るほか、補正予算案を通して27兆円規模を捻出。民間資金も合わせた対策の事業規模は132兆円としている。

独立国の最低限の備え「食料安全保障」は無頓着
 一方で、食料の安定供給確保策は5000億円ポッキリ。パンや麺類などの値上げに直結する食用小麦対策として、輸入品から国産の米粉や小麦に原材料を切り替える取り組みや、国産小麦の生産拡大を後押しするというが、“やってる感”演出の弥縫策に過ぎない。
 安倍元首相を筆頭に、自民の連中は「安全保障」「戦略物資」「国家戦略」といった威勢のいいフレーズが大好物なのに、なぜ食料安全保障には無頓着なのか。欧米各国の食料自給率(カロリーベース)は軒並み100%を超えているが、日本は2020年度が37%。1965年の統計開始以降最低で、半世紀で半減した。先進国で自国民の食料を賄えないのは、この国くらいのものだ。その背景について、東大大学院教授の鈴木宣弘氏(農業経済学)は日刊ゲンダイのインタビューでこう話していた。
〈食料の安全保障に対する姿勢の違いです。自国民向けの食料を十分に確保した上で輸出力も蓄えておけば、世界的な災害で物流が止まっても国民が飢えることはない。戦略物資としても価値があり、褒められた話ではありませんが、兵糧攻めにも利用できる。国家戦略として食料を輸出しているのです。だから多額の補助金を投じて農業を守る。「攻撃的保護」と言ってもいいかもしれません。命を守り、環境を守り、国土や国境を守る産業は国が支える。それが諸外国の覚悟です。食料自給は独立国の最低限の備え。世界の常識が日本の非常識なんです〉
さかのぼれば対日占領政策に行き着きます。日本の農業をズタズタにし、米国産に依存する構造をつくれば、日本を完全にコントロールできる。総仕上げの段階にきていると言っていいでしょう。主要穀物の自給率は小麦15%、大豆6%、トウモロコシ0%〉
 今年で戦後77年。有事に国民を食わせる力もなければ、備える知恵もないのに、岸田自民は軍拡にシャカリキだ。参院選で大勝させたら、海の向こうの敵基地や中枢を先制攻撃する国へと確実に変わっていくだろう。

米国見据える27年に向け躍起
 自民の総務会などは政府の外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」(NSS)など3文書改定に向けた党安保調査会の提言を了承。党内手続きを終え、27日にも岸田に提出する。「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換えて保有を提言し、攻撃目標に敵の司令部などを想定した「指揮統制機能等」を含むと明記。防衛費についても、GDP比2%以上を念頭に5年以内に抜本的な防衛力強化を図るという内容だ。「防衛装備移転三原則」の緩和も打ち出した。岸田は「国家安全保障戦略」を含む安保関連3文書を年内に改定する方針で、丸のみ前提である。
 参院で審議中の経済安全保障推進法案は、平たく言えば軍事研究を加速させるための国策。先端技術開発に協力する研究者を集め、多額の国費を投じて官民一体で軍民両用(デュアルユース)が可能な技術開発に取り組むというもの。参院でもあっさり可決されれば、「経済安保」の名のもとに企業活動や学術研究にも国が関与、介入し、息苦しい戦時下監視社会になっていくだろう。
 立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)は言う。
「自民党政権の基本方針は一貫して日米安保条約の強化です。バイデン米政権は足元ではウクライナ戦争の対応に追われていますが、最も注力しているのは中国包囲網の構築。昨年3月、上院軍事委員会公聴会でインド太平洋軍司令官が中国による台湾侵攻の可能性について〈6年以内に危機が明らかになる〉と証言したことを契機に、27年を見据えて一気に動き出しました。日米豪印による枠組み『クアッド』が本格始動し、米英豪の『オーカス』が発足。昨年末には約110カ国・地域の首脳を招いた『民主主義サミット』を開催した。自民党の提言が防衛費引き上げを『5年以内』としたのは27年を目標としているからで、台湾有事が発生した場合に集団的自衛権を行使し、米軍が求める戦力を提供するためです。軍拡と並行し、米国と一緒に戦争ができる経済体制づくりを進めているのです。憲法9条をなし崩しにする緊急事態条項の創設に躍起なのも然り。岸田政権が参院選に勝ち、国政選挙のない『黄金の3年間』を手にすれば、この国は根底から変わってしまいかねない

 第2次安倍政権が強引に通した特定秘密保護法、共謀罪、安保法制の「戦争3法」によって、この国は米国と共に戦う国に変貌した。岸田政権を「信任」すれば、確実に有事体制へと向かっていく。
 ウクライナの惨劇を目の当たりにすれば、阻止以外に道はない。