2023年10月30日月曜日

ガザ「人道的休戦」決議 国連総会 日本は棄権(しんぶん赤旗)

 国連総会は27日、イスラエルとハマスの大規模衝突をめぐり、「人道的休戦」を求める決議を121カ国の賛成で採択しました。日本や英国など44カ国が棄権し、米国やイスラエルなど14カ国が反対しました。
 決議は加盟国の幅広い支持を得るため、当初案の「即時停戦」から表現を緩和。「敵対行為の停止につながる即時かつ持続的な人道的休戦」を要求しました。
 パレスチナのマンスール国連代表は、謝意を表明し、「この戦争を止めなければならないというメッセージを発した」と採択を歓迎しました。
 これに関連するしんぶん赤旗の3つの記事を紹介します。
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ガザ「人道的休戦」決議 国連総会 賛成121・日本棄権
                      しんぶん赤旗 2023年10月29日
【ワシントン=石黒みずほ】国連総会は27日、イスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスの大規模衝突をめぐり、「人道的休戦」を求める決議を121カ国の賛成で採択しました。
 決議は加盟国の幅広い支持を得るため、当初案の「即時停戦」から表現を緩和。「敵対行為の停止につながる即時かつ持続的な人道的休戦」を要求しました。
 アラブ諸国が主導した同決議は「地域のさらなる不安定化や暴力の拡大を防ぐことの重要性」を強調し、全当事者に最大限の自制を要求。ガザに対する人道的支援を「継続的に妨げることなく」行うことや、人質を即時かつ無条件に解放するよう求めています
 採択には棄権や無投票を除く投票総数の3分の2以上が必要。ロシアや中国の他、欧州からもフランスやノルウェーなどが賛成に回り、採択後には議場から拍手が起こりました。
 日本や英国など44カ国が棄権し、米国やイスラエルなど14カ国が反対しました。
 カナダなどが、ハマスの攻撃と人質拘束を非難する文言を盛り込んだ修正案を提案したものの、「名指しするならイスラエルも」など反論が続出。賛成88、反対55、棄権23、無投票27で、3分の2以上の賛同を得られず否決されました。
 パレスチナのマンスール国連代表は、謝意を表明し、「この戦争を止めなければならないというメッセージを発した」と採択を歓迎。一方、イスラエルのエルダン国連大使は「国連には正当性のかけらもない」と猛反発し、ハマス壊滅まで軍事作戦を続ける姿勢を示しました。

日本政府の棄権 志位委員長批判
 日本共産党の志位和夫委員長は28日、X(旧ツイッター)で、「日本政府がなぜ『人道的休戦』を求めた決議に棄権したのか。決議は、一方にだけ自制を求めるものでなく、『すべての当事者』(イスラエル・ハマスの双方)に国際法順守と最大限の自制を求めるものとなっている。賛成できない理由はどこにもないはずだ。説明を強く求めていく」と表明しました。


人道的休戦を求めた国連総会決議の採択を歓迎する
     国際社会は決議履行のための最大限の努力を
                      しんぶん赤旗 2023年10月29日
志位委員長が談話
 一、国連総会は27日、パレスチナ自治区ガザ地区の情勢に関して緊急特別会合を開き、敵対行為の停止につながる即時かつ持続的な人道的休戦を求める決議案を、121カ国の賛成で採択した。国連安全保障理事会が常任理事国の拒否権発動で動きがとれないなか、アラブやアジアの諸国が主導した同決議には、国際人道法に基づくすべての民間人の保護、ガザ北部から南部への市民の退避命令の撤回、人質の即時解放などが盛り込まれた。
 日本共産党は人道的休戦を求めた決議の採択を歓迎するとともに、国際社会が決議履行のための最大限の努力を行うことを呼びかける
 一、総会決議は、「パレスチナとイスラエルの市民を狙ったすべての暴力行為を非難」するとのべるとともに、すべての当事者に対して国際人道法および国際人権法を含む国際法の完全順守、暴力のエスカレートを防ぐ最大限の自制を求めている。イスラエルとハマスの双方をはじめすべての当事者が、この決議に従うことを強く求める
 一、この点にかかわって、イスラエルが、同日、継続中のガザ地区への大規模な空爆と地上作戦の拡大を発表したことは重大である。総会決議は、ガザ地区では、電力、食料、医薬品、燃料などが遮断され、「壊滅的な人道的状況」と「主に子どもたちを含む一般市民への甚大な影響」が極めて深刻となっており、人道支援を阻むあらゆる障害を取り除くことが急務となっていると強調している。ガザ地区にこうした人道的危機をもたらしている責任は、主要には国際法を無視して空爆、封鎖、地上作戦を進めているイスラエルにあることを厳しく指摘しなければならない。
 決議提案者となったヨルダンが「自衛権は免責の権利ではない」と強調したように、ハマスによる無差別攻撃が国際法に違反するものであるからといって、「自衛権」の名でイスラエルの国際法違反の行為が正当化されることには決してならない
 わが党は、イスラエルに対して、国際法に反する大規模な空爆と地上作戦を中止することを強く求める。
 一、日本共産党は、すべての当事者、関係各国、国際機関が、人道的休戦という一刻の猶予もならない決議を履行するための外交努力をおこない、世界の市民が即時停戦の国際世論を高めるために行動することを呼びかける。
 総会決議がのべているように、累次の国際合意に基づくパレスチナとイスラエルの二つの国家の共存こそが中東和平への道であることを重ねて強調する。


主張国連ガザ休戦決議 壊滅的な人道状況 即刻止めよ
                      しんぶん赤旗 2023年10月29日
 国連総会は緊急特別会合で、イスラエルとイスラム組織ハマスの交戦が続くパレスチナ自治区ガザに関して「即時、永続可能、持続的な人道的休戦」を求める決議を採択しました。採択に必要な、投票総数の3分の2以上の121カ国が賛成しました。アラブ諸国を代表してヨルダンが提案し、45カ国以上が共同提案に加わりました。総会決議に法的拘束力はないものの、国連安全保障理事会が一致した行動をとれない中で国際社会の意思を示しました。イスラエルとハマスは直ちに決議を受け入れ、戦闘を停止すべきです。

地上侵攻の強行許されぬ
 7日のハマスによる攻撃とイスラエルによる報復攻撃が始まってから安保理で4回、決議案が採決にかけられましたが、常任理事国のうち米国、ロシア、中国がそれぞれの思惑で拒否権を行使し採択されませんでした。
 その間にもガザではイスラエルによる激しい空爆で死傷者が急増し、電力、水、食料、燃料の欠乏で200万人を超える住民の命の危機が深まっています
 決議は「すべてのテロ行為や無差別攻撃」「パレスチナとイスラエルの市民を狙ったすべての暴力行為」を非難し、国際人道法に基づいて民間人が保護されなければならないことを強調しています。「ガザ地区における壊滅的人道状況」「主に子どもたちを含む一般市民への甚大な影響」を打開するため、人道支援物資が届くようアクセスの確保を求めています。急速に高まった国際世論を反映した内容です。
 イスラエルは決議に反対し、緊急特別会合のさなかにも空爆を激化させました。地上作戦も拡大しています。停戦を求める国際社会の努力に対する挑戦です。イスラエルはガザに人道危機をもたらしている、すべての行動を中止すべきです。大規模な地上侵攻の強行は許されません。
 イスラエルを名指しで非難せず、ハマスによるテロと人質拘束を非難する文言を加えるよう求めたカナダの修正案は採択に必要な賛成数を得られませんでした。討論では、長年の占領や入植拡大によってパレスチナの自決権が侵害されている不公正を指摘して、カナダ案を批判する声が上がりました。
 決議は双方の市民に対する暴力を非難し「不法に拘束されているすべての民間人の即時かつ無条件の釈放」を明記しています。ハマスによる民間人攻撃や拉致が国際人道法違反であることは明白です。ハマスが人質にとった民間人を即時解放しなければならないのは当然です。

戦闘停止の声を世界で
 米国はイスラエルの自衛権が明記されていないことなどを理由に決議に反対しました。イスラエルのガザ攻撃は、住民全体に懲罰を加える国際人道法違反の行為です。ハマスによる無差別攻撃に対する自衛の名で正当化されるものではありません。
 紛争の公正で永続的な解決がパレスチナとイスラエルの二つの国家の共存に基づく平和的手段によるしかないことを決議が改めて強調したことは重要です。
 戦闘停止には一刻の猶予もありません。決議を受けた国際機関と各国政府の外交努力が急がれます。戦闘を即刻やめよとの声を世界で高めることが必要です。

イスラエルが ガザの通信を遮断したのは 殺人者は目撃者を好まないためだ

 イスラエルの国防相は9日、ハマスの人たちをヒューマンアニマル(人間獣)と呼びました。ある評論家は、これは今後起こされるガザでの大虐殺への批判を緩和する意図からの発言だと評しました。イスラエルの首相の様々な発言も「ガザ」での大虐殺を思わせます。

 西側の諸国はハマスのこの度の攻撃を許されないこととしていますが、それは長い間顔を踏み続けられた人がその足に嚙みついたということに過ぎないと見る人もいます。
 空爆で既にガザの人たち8000人超が亡くなっています(イスラエル側は少なくとも1400人)が、この先どこまで拡大するのか見当もつきません。
 ケイトリン・ジョンストンが掲題の記事を出しました。
 人道支援団体や主要報道機関によれば現在ガザの連絡先との連絡は自家発電用の燃料が無くなったために途絶えたということです。
 併せて櫻井ジャーナルの記事:「イスラエル軍はガザで取材中のジャーナリストを爆撃の目標にしている可能性 」と「イスラム国のイスラエル包囲網に露国と中国が連結、窮地に陥った米政府」の2つの記事を紹介します。
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ガザの通信をイスラエルが遮断したのは、殺人者は目撃者を好まないためだ
              マスコミに載らない海外記事 2023年10月29日
 自分の犯罪が白日の下に記録され、世界と共有されるのがいかに不利か、おそらく地球上他のどの政府より、イスラエルは痛感している。
                 ケイトリン・ジョンストン 2023年10月28日
 イスラエル地上部隊はガザでの活動を強化しており、匿名アメリカ当局者が報道機関に語ったところによると、これは長年期待されていた地上侵攻の「ローリング・スタート」だ。
 他の全てを叩きのめし、同時に、イスラエルは、飛び地に最後に残った外界との接点だったガザ最大の通信サービスを麻痺させた。現代未曾有レベルの情報遮断により、ガザの連絡先との連絡は途絶えたと人道支援団体主要報道機関は述べている。
 「この情報遮断は、大規模残虐行為を隠蔽し人権侵害をしても何のおとがめもなく済むのを助長する危険性がある」とヒューマン・ライツ・ウォッチは正しく指摘している
 一歩先に進んで、それはおそらくイスラエルにとって単に都合の良い偶然ではないはずだと私は言いたい。真っ暗闇の中での大量虐殺は虐殺をする連中に非常に有利に働く
 イスラエル包囲戦がガザの人々を電気と通信両方から遮断する中、ガザの明かりがさまざまな形で消えるのを我々は目の当たりにしている。

 イスラエル軍によるジャーナリスト殺害の横行により、光はさらに暗くなった。ウィキペディアは、悪名高い不正編集システムで、アメリカ情報権益に有利なよう情報を歪曲する傾向があるが、それでも現在、この猛攻撃で、イスラエル国防軍によりガザで殺害された17人のジャーナリストと南レバノンで殺害されたジャーナリスト人を列記している。NPRはもう少し多い数値を挙げているが誰が殺害したかは都合よく言うのを避けている。
 ガザ地区でのイスラエル空爆で妻、息子、娘、幼い孫を失い、死んだ息子の遺体にひざまずきながら「連中は私たちの子供を殺して復讐しているのだ!」とアルジャジーラ記者ワエル・ダフドゥーは放送で語った。報道によると、彼はイスラエルの退避命令に従って、それが彼らの安全を守ると信じて彼らをガザ市の南に移動させていた。
 ロイター通信によると、現在イスラエル国防軍は、ロイター通信とAFP通信両社に対し、ガザ地区で活動を続ける記者の安全は保証できないと伝えている。過去3週間、イスラエルがジャーナリストに対し歴史的に未曾有の攻撃をしているのを考えると、これは脅迫としか解釈できない。
 以前にもお話しした通り、スマートフォンの登場とソーシャル・メディアの普及により、人権侵害の生のビデオ映像を共有し、流通させる能力が出現したため、益々悪化するPR危機にイスラエルは何年も苦しんでいる
 「内部告発、異議申し立て、説明責任国際フェスティバル」で2021年にビデオ出演した際、イスラエルを拠点とするジャーナリスト、ジョナサン・クックはイスラエルがガザ地区の全ての明かりを消そうと躍起になっている中、私がしばしば考えていることと同じ発言をした。スマートフォンとインターネットによって同情的な欧米活動家の活動に対するパレスチナ人の依存度が下がり、自ら虐待映像の直接共有が可能になったとクックは説明している。
 以下は引用だ。

 「悲しいことに、ほとんどの企業ジャーナリストは、これら活動家の活動にほとんど注意を払っていなかった。いずれにせよ彼らの役割は直ちに消し去られた。それは、イスラエルが、彼ら何人かを銃撃することが、他の人々に近づかないよう警告する非常に効果的な抑止力として機能すると学んだためだ。」
 「しかし、それはまた、テクノロジーがより安価で利用しやすくなり、やがて誰でも持つと期待される携帯電話に到達するにつれ、仲介なしに、即座に、自分たちの苦しみをパレスチナ人が記録できるようになったためでもあった。
 「兵士や入植者によるパレスチナ人への虐待を描いた初期の粗い画像を『パリウッド』(パレスチナのハリウッド)としてイスラエルが切り捨てたことは、イスラエル自身の支持者にとってさえ益々説得力がなくなった。やがて、パレスチナ人は自分たちが虐待される様子を高解像度で記録し、YouTubeに直接投稿するようになった

 自分の犯罪が白日の下に記録され、世界と共有されるのがいかに不利かをおそらく地球上の他のどの政府より、イスラエルは痛感しているそれが、ガザの明かりを消した理由だ。殺人者は目撃者を好まないためだ
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 私の記事は完全に読者に支持されているので、この記事を良いと思われた場合、必要に応じて私のチップ入れにお金を入れる選択肢がいくつかある。私の記事は全て、自由にコピーでき、あらゆる方法、形式で利用可能だ。皆様が望むことは何であれ、記事を再発行し、翻訳し、商品に使える私が公開している記事を確実に読む最良の方法は、Substackメーリングリスト購読だ。全ての記事は夫のティム・フォーリーとの共著。

記事原文のurl:https://caitlinjohnstone.com.au/2023/10/28/israel-cut-off-gazas-communications-because-murderers-dont-like-witnesses/


イスラエル軍はガザで取材中のジャーナリストを爆撃の目標にしている可能性 
                          櫻井ジャーナル 2023.10.29
 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は9月22日、国連総会で演説した際、パレスチナを消し去った地図を示した。現在、イスラエル軍はガザに対する攻撃を始めているが、これはパレスチナを地図から消し去ることを目的にしているのだろう。



 ガザに対するイスラエル軍の攻撃は全てのパレスチナ人が対象で、破壊と虐殺が繰り広げられている。そうした残虐行為に対する怒りはイスラム世界だけでなく、全世界に広がった。アメリカのバラク・オバマ政権がウクライナで実行したクーデターがロシアと中国を戦略的同盟国にしたのと同じように、今回のガザ攻撃はイスラム世界を団結させてしまった。
 イスラエルやアメリカに対する怒りが広がらないように情報統制が図られている。ガザの惨状が外部に知られないようにするためで、通信が遮断されたほか、現地で取材しているジャーナリストやその家族が狙われている。
 すでにイスラエル軍の空爆で20名以上のパレスチナ人ジャーナリストが殺害され、アルジャジーラ・アラビックのガザ支局長を務めているワエル・ダフドウの場合、彼の妻、息子、娘、そして孫が殺された。情報を伝えないよう、アメリカやイスラエルは脅しているのだ。(​ココ​や​ココ​や​ココ​など)
 アル・ジャジーラはカタールの国営メディアだが、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は10月13日、ドーハでカタールの首相と会談した際、「ガザでの戦争に関するアルジャジーラのレトリックを弱めるよう」求めたと伝えられている。その後、イスラエル軍の対ジャーナリスト攻撃は始まった。記者を狙っていることをイスラエルは隠していない。ソーシャルメディア・プラットフォームも統制の対象になり、イスラエルにとって都合の悪い情報を発信するアカウントは停止されている。
 アメリカをはじめとする西側の支配者たちは事実を恐れる。内部告発を支援する活動をしてきたウィキリークスを敵視したのはそのため。そして2019年4月11日、ウィキリークスの看板的存在だったジュリアン・アッサンジはロンドンにあるエクアドル大使館の中でロンドン警視庁に逮捕された。
 その後、イギリス版グアンタナモ刑務所と言われているベルマーシュ刑務所で拘束され、ウェストミンスター治安判事裁判所は2022年4月20日、アッサンジをアメリカへ引き渡すように命じている。ヨーロッパを活動拠点にしてきたオーストラリア人をアメリカ政府はイギリスに逮捕させ、自国へ引き渡させようとし、その命令にイギリスは従っているのだ。
 アメリカの当局はアッサンジをハッキングのほか「1917年スパイ活動法」で起訴している。本ブログでは繰り返し書いてきたが、ハッキング容疑はでっち上げだ。アッサンジがアメリカへ引き渡された場合、懲役175年が言い渡される可能性がある。
 ウィキリークスが公表した情報の中に、​アメリカ軍のAH-64アパッチ・ヘリコプターが2007年7月に非武装の一団を銃撃、十数名を殺害する場面を撮影した映像​がある。犠牲者の中にはロイターの特派員2名が含まれている。その映像を見れば、武装集団と間違ったわけでないことは明白。この映像は2010年4月に公表された
 その情報源だったアメリカ軍のブラドレー・マニング(現在はチェルシー・マニングと名乗っている)特技兵はすぐ逮捕され、スウェーデンの検察当局は2010年11月にアッサンジに対する逮捕令状を発行している。
 こうした情報統制を行なっても、ガザでの虐殺は隠しきれない。虐殺はイランを戦争へと導く可能性があり、イスラム世界は一致団結して欧米と戦うと考えなければならない。すでにロシアや中国はアメリカからの攻撃に応じる準備を始めているようだ。


イスラム国のイスラエル包囲網に露国と中国が連結、窮地に陥った米政府
                         櫻井ジャーナル 2023.10.30
 イスラエル軍のガザに対する攻撃で8000人以上の住民が殺されたと言われている。イスラエル軍は地上部隊も投入しているようだが、まだ総攻撃を始めたわけではない。総攻撃を始めた場合、ハマスは全長500キロメートルのトンネルで結ばれた地下施設から反撃する。
 2006年7月から9月にかけてイスラエル軍の地上部隊がレバノンへ侵攻した際、ヒズボラに敗北、イスラエルが誇る「メルカバ4」戦車も破壊された。イスラエル軍はガザの地下施設を化学兵器で攻撃するとも言われているが、そう簡単ではない。
 今回の戦闘でハマスはアメリカ製の武器を使用していることが映像から確認されているが、これはアメリカ/NATOがウクライナへ供給したものだと推測されている。そうした兵器の約7割が世界の闇市場へ流れているという。
 ハマスは10月7日に奇襲攻撃したのだが、攻撃の準備に1年程度は必要だろう。その間、イスラエルの情報機関が察知できなかったのなら、大変な失態だ。ガザを収容所化している壁には電子的な監視システムが設置され、人が近づけば警報がなるはずだが、そうしたことはなかったようだ。
 また、アメリカ政府はハマスの奇襲攻撃から数時間後、2隻の空母、ジェラルド・R・フォードとドワイト・D・アイゼンハワーを含む空母打撃群を地中海東部へ移動させたレバノンにいるヒズボラ、あるいはイランの軍事介入を牽制することが目的だとされているが、それほど早く艦隊を移動できたのは事前に攻撃を知っていたからではないかと考える人もいる。
 そもそもハマスの創設にはイスラエルが深く関係している。ハマスは1987年12月にシーク・アーメド・ヤシンがイスラム協会の軍事部門として創設した。イスラム協会が設立されたのは1976年。その前、1973年にはムジャマ・アル・イスラミヤ(イスラム・センター)が作られているが、いずれもシン・ベト(イスラエルの治安機関)の監視下で行われた。
 イスラエルは第3次中東戦争で占領地を拡大させた。その際、イスラム諸国は動きが鈍く、最も勇敢に戦ったのはヤセル・アラファトが率いるファタハだった。PLO(パレスチナ解放機構)はファタハが中心的な組織だ。そこでイスラエルはアラファトを失脚させようと必死になる。そのアラファトを抑え込むため、イスラエル政府はハマスを創設させたのだ。
 シーモア・ハーシュも書いているように、ベンヤミン・ネタニヤフは首相に返り咲いた2009年、PLOでなくハマスにパレスチナを支配させようとしている。そのためネヤニヤフはカタールと協定を結び、カタールはハマスの指導部へ数億ドルを送り始めたという。ところが今回、カタールはイスラエルを厳しく批判、敵対関係にある。
 アメリカのジョー・バイデン政権はウクライナでロシアに敗れた惨状から人びとの関心をパレスチナへ向けることに成功、ガザからパレスチナ人を一掃、さらにレバノンやシリアを占領して地中海東岸の天然ガスをイスラエルに独占させるという道筋がハマスの奇襲攻撃で見えたのだが、ガザに対する攻撃がそうした道筋を消した。
 ムーサ・アブ・マルズークが率いるハマスの代表団は10月26日、モスクワでロシアの政府要人と会談した。マルズークはロシアへ向かう前、ドーハでイランのバゲリ・カニ外務副大臣と会っている。そして10月29日、イランのエブラヒーム・ライシ大統領はイスラエルが「レッドライン」を越えたと宣言、またロシアのミハイル・ボグダノフ外務副大臣によると、近日中にパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長がモスクワを訪問してウラジミル・プーチン大統領と話し合うという。
 すでにレバノンとの国境周辺でイスラエル軍とヒズボラが戦闘を始まり、イラクではアメリカ軍基地だけでなく、シリア領内に不法駐留しているアメリカ軍も攻撃されている。イラン軍は軍事演習を始めた。
 ヒズボラ単独でもイスラエル全域を攻撃できる戦力があるが、イランが関与してくるとイスラエルだけでは対応できない。アメリカ軍が介入してくると、世界大戦へ発展する可能性があると懸念されている。さらに、イランはホルムズ海峡を封鎖できる。ガザに対するイスラエル軍の攻撃ではサウジアラビアもパレスチナ側につくはずで、中東から「親イスラエル国」へ石油が供給されなくなる事態も想定できる。
 ハマスの代表団がロシアを訪問する数日前、プーチン大統領がロシア軍参謀総長のヴァレリー・ゲラシモフと会談するため、ロシア軍の南部軍司令部を訪れた。原子力潜水艦から射程5500キロの弾道ミサイルを発射したこと、カムチャッカから射程1万2000キロの弾道ミサイルを発射したこと、TU-95爆撃機から射程5500キロの巡航ミサイルを発射したことについて、ゲラシモフはプーチンに報告したようだ。アメリカに対する報復攻撃のテストだったと見られている

30- 最新パレスチナ情勢 なぜイスラエルと衝突? ハマスとは(NHK)

 18年から19年までエルサレムに留学経験があり、多くのパレスチナ問題に関する論文のほか、著書を発表している鈴木啓之・東大特任准教授による題記の解説記事がNHKホームページに載りました。かなり長文ですが紹介します。
 原記事には豊富な写真が載っていますので、興味のあるかたは原記事にアクセスしてご覧になってください。
    ⇒ 最新パレスチナ情勢 なぜイスラエルと衝突?ハマスって?解説
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パレスチナ イスラエル 中東
解説最新パレスチナ情勢 なぜイスラエルと衝突? ハマスって? 
                    NHK NEWS WEB 2023年10月16日
イスラエル軍はいつ地上侵攻に踏み切るのか。懸念が高まるパレスチナ情勢。
そもそも、イスラム組織「ハマス」ってどんな組織? 狙いは何?
今回の攻撃をパレスチナの人たちは支持しているの?
そんな「そもそも」を、パレスチナ情勢に詳しい東京大学の鈴木啓之 特任准教授に解説してもらいました。(国際部記者 松本弦)

話を聞いたのは東京大学の鈴木啓之 特任准教授
鈴木氏は、東京大学中東地域研究センターの特任准教授です。
専門は中東の近現代史、特にパレスチナ問題です。自身も2018年から2019年までエルサレムに留学経験があり、多くのパレスチナ問題に関する論文のほか、著書を発表しています。
(以下、鈴木特任准教授の話)

ハマスとは? どう生まれた?
ハマスが設立されたのは1987年12月です。それまでガザ地区を中心として、社会福祉活動を行っていた団体が、第1次インティファーダ(イスラエルに対するパレスチナ住民の大規模な蜂起)の発生を受けて、実力行使部隊を伴って形成されました。これがハマスです。つまり、政治運動としての姿を現したのが1987年12月というわけです。
その後、ハマスは1990年代半ばから2000年代初め頃にかけて、パレスチナ政治の中で、PLO=パレスチナ解放機構が主導する政治方針、それはイスラエルとの和解であるとかイスラエルと共存した形でのパレスチナ国家の樹立といったことに、批判を向けまして、そして、自らの直接行動ということに乗り出していきます

その中で編み出されていくのが「自爆攻撃」です。1990年代に最初に行われ、その後、2000年代、第2次インティファーダまたはアルアクサインティファーダと呼ばれる時期に、ハマスは多くの自爆攻撃を実行しました。これによって、ハマスはテロ集団、テロ組織であるということでイスラエルによって強く非難をされていたわけです。
一方で、2000年代の中頃から、ハマスの中で、政治部門の主導が強くなり、選挙に参加をする、選挙を通して自分たちの支持を獲得するという動きを見せていきました。2006年1月、パレスチナの自治政府で2回目の選挙が行われます。この選挙にハマスは参加を表明し、ハマスの政党が過半数の議席を取りました
この段階で、ハマスには「3つの顔」ができたと言っていいと思います。
①政党としての姿
福祉団体としての元々の姿
③実力行使部隊としての軍事部門、軍事組織としての姿です。
全ての面がハマスを構成しているわけですけれども、この3つのどの面が出てくるのか、どの面から見るかによって、ハマスのイメージというのは大きく変わってきます。

なぜハマスがガザ地区を実効支配?
ハマスは2006年の選挙で勝利しましたが、このあとイスラエルだけではなく国際社会から「ハマスが参加するパレスチナ自治政府に対しては支援を与えることができない、承認することができない」という声が上がりました。これは、アメリカ、EU、国連、ロシアが形成する中東和平カルテットと呼ばれたグループからも発せられました。
これに乗じる形で、選挙でハマスに負けた「ファタハ」というPLOの主力勢力が、ハマスの追い出し、追い落としを図ります。この結果、パレスチナのヨルダン川西岸地区ではハマスが追い出されるわけですけれども、一方で、ガザ地区では逆にハマスが「ファタハ」の勢力を追い出す形で実効支配を始めました。これが2007年6月のことです。
これ以降、イスラエルは、ガザ地区はハマスが管理、実効支配をしている地域であるということで、ガザ地区全体を封鎖下に置く、封じ込めるという政策を取ってきました。この封鎖が15年間続いていて、いまのガザ地区の環境につながっています

2006年のハマス選挙戦勝利の経緯は?
ハマスの選挙戦略が優れていたということに尽きると思います。ハマスもファタハも同じぐらい住民からの支持を得ているということです。2006年のパレスチナの選挙では当時、132議席のうち半分を比例選挙、比例区で争い、もう半分は大選挙区で争いました。比例区ではハマスとファタハの獲得議席はほぼ拮抗しました。ということは、この2つに対して人々が向ける支持というのは、そこまで大差が開いているものではありませんでした。
一方で、議席の獲得で大差が開いてしまったのは、大選挙区のほうでした。この時、ハマスは候補者を絞って、戦略的に候補者を立て、組織としてよく調整して選挙に臨んだといっていいと思います。一方でファタハは、ベテラン指導部と若手のメンバーたちの間で、意思統一が十分になされないままに選挙戦に突入しました。それぞれが候補者を立ててしまい、候補者の乱立という事態を招き、結果としてファタハに対する支持票が割れ、ハマスが大選挙区で圧勝したのです。それが、選挙全体でのハマスの勝利ということにつながりました。

ハマスの構成員の規模は? キーマンは?
ハマスの構成人員の数については諸説あるところではあります。ただ、ハマスの軍事部門に関していえば、1万5000人から2万人ほどがいるのではないかということが言われています。基本的には全員パレスチナ人と考えていいと思います。組織としては「シューラー会議」という議会のような、寄り合いのような諮問の場があります。そこで政治局のメンバーが選出され、組織としての意思決定をしていくということです。
何かこう、最高指導者のような、絶対的な指導者がいる、そういうタイプの組織ではありません。そのなかでも政治局局長のイスマイル・ハニーヤ氏が国際的には特に有名だと思います。
またハニーヤ氏の前にやはり政治局の局長を務めていたマシャル氏などもよく知られたハマスの幹部といえます。

今回の攻撃の意思決定は?
ハマスの中でどれほど集団的に意思決定がなされていたのかについて、慎重に判断をすべきではないかと思います。武装部門、カッサム旅団による非常に戦闘的なメッセージと、政治部局が出すガザへの人道的介入を求めるといったようなメッセージの間には明らかに温度差があると私自身は読み取っています。
この温度差は、国際社会に対して弁明をしなければならない政治指導部と、実際に戦闘に参加している軍事部門というだけのものなのか、それとも、少なくとも2つのハマスの部局の中で、調整が難しくなっている、または調整が取れていないような事態に陥っているのか。今後、出てくる情報を注意して見ていきたいと考えています。
当然、ハマスの幹部の中で、対イスラエルとの関係、また対ファタハとの関係において、政策の思考にグラデーション⇒濃淡があると考えていいと思います。だからこそ、集団合議によって組織としての意思決定を行うということをしていますし、1人の指導者が全ての意思決定を行わないという形にしてきたわけです。
ある意味で、この集団合意による意思決定というのは、ハマスがたどってきた組織的な歴史を反映しています。ハマスは設立後、幹部を大量摘発されたり、2000年代に入ると、「標的暗殺」というイスラエル軍による特殊作戦によって暗殺を受けたりすることもありました。
1人の幹部、または1人の指導者のもとに権力を集中させない、たとえメンバーが欠けたとしても、組織としての運営をなしていく。そのためにこの集団合議制が編み出されたということです。

ガザ地区をどう支配?
2007年6月、ハマスがガザ地区をファタハから奪取して掌握するということが起きて以降、ハマスはガザ地区内部で政府として振る舞うということをしています。それは、国際的またはイスラエルなどが認めない動きではあったわけですけれども、実際に市民サービスなども含めて、ハマスが運営する政府が担っているという状態になっています。
具体的には市役所での窓口業務など、私たちが想像するような業務ですね。例えば市役所に相談に行くであるとか、保健施設に健康上の話で相談に行くというときに、ハマスの公務員、またはハマスのメンバーがいて、日常的に目にするわけです。場合によっては、そうした人が窓口を担当してるということも当然あります。ハマスといっても、日常生活の中でその姿を目にする存在です。
ハマスの元になった団体というのはガザ地区の「シャーティ難民キャンプ」というビーチに面した難民キャンプのモスクで活動を開始した福祉団体だと言われています。当初行っていた活動は、若者に対するスポーツ教育のような場を提供すること、そして幼稚園の運営です。これは一般的な市民団体、または社会福祉団体が行っている活動に類するものであるといえます。
当時、ガザ地区はまだイスラエルの完全占領下にありました。1967年の第3次中東戦争からガザ地区はイスラエルの占領を受けていたわけですけれども、こうした占領地において、イスラエルは市民サービスというものを提供していませんでした。このため、基本的なサービス、教育なども含め、いわゆる託児所のようなタイプのものであるとか、相談所といったようなタイプのサービスというのを、パレスチナ社会は自分たちで作り出していかなければなりませんでした
そうした活動の中で、日本でいうとNGOやNPOと呼ばれるようなタイプの団体がいくつも活動しています。その中の1つがハマスに発展していく団体だったということです。

ガザ地区の状況は?
ガザ地区は世界的にも有数の貧困地帯です。地域が単に貧しいというだけではなくて、15年近くにわたって続いてきたイスラエルによる経済封鎖の影響ということを指摘せざるをえません。
国連が2012年にガザ地区に関するレポートを発表しています。このレポートのタイトルは「ガザは2020年に人は住めるんだろうか」。結論としては、人が住むにはふさわしくない土地になるだろうというものでした。
ガザ地区の大きな問題は飲料水の確保と食料の安全です。ガザ地区に対して提供される電力はガザ全体の電力を賄うほどの量にはなっていません。その中で、汚水を処理するための浄化槽に回っていないということが、たびたび指摘されています。
そうなると、生活用水はどこに行くのかということなんですけれども、住宅地の少し離れた場所に大きなため池を作って汚水をためる、または海に直接流すということが行われてきました。しかし、これによって水源の汚染が起きてしまったと言われています。
このためガザ地区には安全に飲むことができる井戸水がほとんどないとされていて、ガザは人が住めなくなる土地になってしまうということを言っていたわけです。
また、ガザ地区における貧困状態、または失業状態というのは非常に深刻です。去年(2022年)の段階ですが、ガザ地区の失業率は47パーセントに達しています。若者だけに限れば、失業率は64パーセントとも言われているわけです。
また、貧困ライン以下で生活をする人口はガザ地区住民の65パーセントであると言われていまして、ガザの住民には、かなりの多くのパレスチナ難民、難民家庭が含まれるんですが、この難民家庭に絞って言えば、ガザでの貧困率は80パーセントを超えています。
非常に貧しい、生活が苦しい地区を反映するもう一つのデータが、ガザ地区の住民のうち人道支援に頼っている人の割合です。住民の80パーセントが何らかの人道的支援に頼って生活をしています。食料支援かもしれないし、医療的な支援かもしれません。支援がなければ生活が成り立たない人たちが80パーセントいる、これがガザ地区の現実です。
限界はもうすでに数年前から超えているというふうに言えると思います。だからこそ、今回、ハマスやイスラム聖戦など武装勢力によって壁が打ち破られた時に示された強烈な怒り、憎しみといった感情が生まれてくる背景というところにもつながってくると私は思います。

ガザ地区の住民は今回のハマスの攻撃を支持?
現在のガザの住民にとってですが、ハマスによる行為を評価するという余裕があるのかというのは疑問です。現在、大規模な軍事作戦がとられるのではないかと、命の危険に思いをはせている、それで精一杯だというふうに言っていいのだろうと思います。
ガザ住民というのは全員がハマス支持者ではないし、ハマスはガザの人々全員ではないということは、常に言われていることです。ガザの人々の中にもハマスの構成員もいるけれども、ハマスに対して非常に批判的な人物もいますし、場合によってはハマスによって拘束をされる、捕らえられるという経験をした方もいます。
ガザ地区には多くの民間人、住民が暮らしていて、その数は200万人を超えています。そうした人々の命がいま危機にさらされていることに私たちは思いをはせる、理解をしていく必要があります。
これは決してガザだけに当てはめられることではないです。イスラエル領内で犠牲になった人は1200人または1300人とも言われています。前代未聞の人命が奪われたわけですが、これもやはり許し難い行為であるということです。
国際社会の1つの声として、日本からも、私たちは特に民間人の命、生活が脅かされる事態を認められないという姿勢は示しておく必要があるのではないでしょうか。

そもそもパレスチナ問題はなぜ起きた?
パレスチナという土地はもともとオスマン帝国領の一部でした。しかし、第1次世界大戦後にイギリスとフランスによって委任統治領に切り分けられました。いわゆる植民地という位置づけになりました。こうした植民地は当時、パレスチナだけに限らず世界各地にあったわけです。
特にアフリカ、アジア、中東といった場所に多かったわけですが、これらの国は第2次世界大戦後に植民地支配を脱して独立をしていきます。その際には、その現地の人々を主体とした国家が誕生するというのが基本的な流れでした。
ところが、パレスチナで起きたのは、その直前まで、約半世紀から30年ほどの間に大量に流入していたユダヤ人による国家が建設をされるということが国連の決議によって採択をされました。パレスチナ全土ではなくて、パレスチナという土地を割って、分割をしてユダヤ人の国を作るということはもちろん決められたわけですけれども、現地に、長らく暮らしてきたアラブ人にとってみれば、自分たちが植民地支配から脱したにもかかわらず、または脱する機会であったにもかかわらず、別の国家主体、自分たちの民族ではない国家主体が地域に誕生してしまうことでした。
これは認められないということで、ユダヤ人とアラブ人の間での民族的な対立というものがパレスチナの地で深まっていきます。
これに周辺のアラブ人を主体とするアラブ諸国が加勢する形で始まっていくのが、1948年の「第1次中東戦争」です。第1次中東戦争の結果、新たにできたユダヤ人国家、イスラエルは領土を確定させ、その領土の中にかつて住んでいたアラブ人たちが難民になるということで、戦争の結末を迎えたわけです。

この難民たちはパレスチナ出身のアラブ人でしたが、だんだん呼び方が変わっていって、パレスチナ人と自称するようになっていきました。当初はこのイスラエルの建国に対して、周辺のアラブ諸国が何度か争いを仕掛ける、挑みかかっていくということになりました。
1956年の「第2次中東戦争」、1967年の「第3次中東戦争」、そして1973年の「第4次中東戦争」と、国家同士の争いが続いていきます。しかし徐々に周辺のアラブ諸国というのは、イスラエルとの敵対関係というものを実動レベル、行動レベルでは示さなくなっていきます。
それは、イスラエルという国家が軍事的に非常に強固であること、また1979年にはエジプトがアメリカの強い仲介姿勢によってイスラエルと単独和平を結び、アラブ諸国の中での足並みが乱れてしまったという事情がありました。
この頃から、パレスチナ人が自ら政治組織を率いてイスラエルに対して闘争を挑むという時代が訪れます。その時に中心になったのは、パレスチナ人の代表組織PLOです。当初はヨルダンを拠点にしていましたが、1970年、ヨルダン政府がこのパレスチナ人の勢力が国内で活動することによって、国内情勢が悪化するということを理由に国外に追い出すということがありました。これは「ヨルダン内戦」と言われています。
それから1982年までの間、PLOはイスラエルの北にあるレバノンを拠点にしながら、イスラエルに対してゲリラ兵士の潜入であるとか、越境攻撃などを行っていたわけです。そして1982年、イスラエルはレバノンに部隊を派遣し、「レバノン戦争」と呼ばれるものが起きます。

この時にイスラエル軍は、首都ベイルートを包囲し、PLO部隊に対して同国からの退去を要求しました。このあとPLOの部隊は、イエメンやチュニジアなど、中東各地に散らばっていくことになります。結果として、パレスチナ人が続けてきた対イスラエル闘争というのは、大きな打撃をここで受けることになったわけです。
ところが当初想定していなかったことが起きます。イスラエルが第3次中東戦争で占領した地域である「ガザ地区」と「ヨルダン川西岸地区」に住んでいたパレスチナ人の市民たちによる大規模な大衆蜂起=インティファーダというものが イスラエルに対して起こされたのです。ハマスが設立を宣言するのもこのタイミングです。人々が武器ではなくて、石などで、イスラエルの重火器を持った兵士に対して、戦いを挑んでいく事態にイスラエルは直面をしていきます。
これを解決する方法として編み出されていくのが、パレスチナ人に対して自治を認め、そこにある自治区と、自治区が将来的にパレスチナ国家になっていったとして、イスラエルと共存する政治体というものを近くに作るというものでした。これが公の形で宣言をされたのが1993年の「オスロ合意」でした。
この「オスロ合意」によって、PLOは、パレスチナ人の代表としてイスラエルを承認し、イスラエルもそれまでテロリスト集団であると言っていたPLOを政治的なパートナーとして承認し、今後は武力ではなくて、話し合いによって問題を解決していこうということが決定づけられました。
話し合いの期間は5年間と決められ、パレスチナ暫定自治がここから始まっていきます。ところが、この暫定自治を脱することができないまま、現在を迎えているというのが実際のところです。
将来的にパレスチナという国家ができるということを期待した人も多くいました。ところが、ヨルダン川西岸地区の中にはイスラエルの入植地が残ったままになります。
つまり、領土的な統一感というものが得られないまま現在まで来ているのです。オスロ合意が結ばれた段階で、東エルサレムを除くヨルダン川西岸地区にはイスラエル人の入植者がおよそ11万人いたと言われています。その人数は現在は50万人を超えたと言われています。
パレスチナの自治というものが行われている間も、イスラエル人の入植者は増え続け、入植地の建設が続けられていたわけです。これは逆にいえば、パレスチナ人にとっては明らかに土地を奪われていく、そうした30年間だったわけです。

ハマスとイランの関係は?
ハマスにとっての外交的な展開というのは、諸外国を拠点としながらハマスの正当性というのを国際的に高めようとする活動になると思います。イランとの関係に関していえば、イスラエルとハマス、イスラエルとイランの関係を抜きにしては考えられない、考えてはならないものだと思います。
イランとイスラエルは敵対関係です。そして、ハマスとイスラエルも敵対関係ということになります。ある意味で『同じ敵』を持っている、共通の敵を抱いているこの2つの主体というのは、同じ陣営に属しているという認識になります。だからこそ、イランとしてはハマスの行動に対して支援する、支持するというふうな言い方になりますし、ハマスとしてもイランの政府関係者と面会をすることができる。つまり対イスラエル関係でどういった協力があり得るのかといった点などについて、イラン政府の高官と、ハマスの幹部が会談を持つことができる、そうした関係にあります。
ただ、これはあくまでイスラエルとの対抗という点での関係性です。イランがハマスを使ってイスラエルを攻撃するとか、イランが自らの駒としてハマスの行動を指示するといったような関係性ではありません。あくまでハマスはイスラエル・パレスチナの文脈の中で行動していますし、イランもハマスという組織が自分たちの陣営の側にいるとは意識しつつも、やはりイスラエルとの関係では国家同士の関係のところに注力をせざるをえません。
その時にはアメリカという要素が関わってくるので、政治的にレベルを上げた政策が取られてくるということになります。この点は、意識しておくべきだと思います。

北から攻撃するレバノンのシーア派組織「ヒズボラ」との関係は

これもイランとの関係と類似して考えた方がいいと思います。ヒズボラはイスラエルがレバノンに対して侵攻してきた時代に誕生した組織です。つまりレバノンにやってくる、イスラエルにやはり抵抗する組織であるということになります。抵抗という面でイスラエルは共通の敵で、両派の間での共通性を生んでいるんです。 















ただ、ヒズボラとしては、イスラエル軍がレバノンの領内に入ってくるような行動がない限り、大きな形での軍事行動ということは基本的には取らないところです。このため、この2つの組織が同じ指示系統の中にあるのかというと別です。
ヒズボラはレバノンの抵抗運動組織として、ハマスはパレスチナの政治組織として、それぞれ行動しています。だからこそ、今回のガザ地区に対してのこれからイスラエルによる軍事侵攻が起きるかもしれないという段階でも、ヒズボラとしては、若干関わろうとする姿勢は示すわけですけれども、自分たちの組織の命運をかけてでもイスラエルに挑もうといった動きは今のところ見せていないのです。

今後の展開は? 今、伝えたいことは?
今後の予測は難しいところではありますけれども、過去の事例を見る限り1~2か月ほどでイスラエル側の軍事作戦は完了する可能性が高いです。その後、散発的な戦闘が続き、停戦に至るという形が考えられます。
ただ、イスラエルとパレスチナの衝突のなかで、命の危険・尊厳に対する脅威を抱えているのはそこに住んでいる人々です。それはイスラエル人かパレスチナ人かということにかかわらず、そこに暮らしている人達の命が、そして生活が脅かされています。
このことをやはり私たちは真剣に考えなければならないと思います。それに対して、日本社会、国際社会としてどういった対応をするべきなのか。どういったアプローチができるのか。これを模索する努力を忘れてはならないと思います。