植草一秀氏が掲題の記事を出しました。
植草氏は、貿易収支(経常収支)が赤字の国は海外からお金を借りてたくさんお金を使っている一方、貿易収支が黒字の国は余ったお金を海外に融通しているが、生活水準は稼いだお金よりも少ないつつましい暮らしになっているのが実態と述べ、米国は貿易赤字を計上しているが、不足資金の調達=ファイナンスに困っている状況でないので、「トランプ大統領が貿易赤字を敵対視する理由が十分に明快でない」としています。
さらに「トランプ大統領の関税率引き上げは国内製造業を繫栄させることを目指しているようだが、果たしてそうなるか」と疑問を呈し、かつてマッキンリー大統領が関税を引き上げた時代は、米国製造業が上り坂の時代であったので その発展に一定の寄与があったと思われるが、二期目に入ると早くも自由主義重視に見解を変えたと指摘します。
そもそも米国製造業が世界の工場であった時代は終焉したので、それが簡単に復興することはなく「夢よもう一度」は無理な話です。
そして工業製品に対する関税率の大幅引き上げは米国消費者の実質所得を減少させるので経済全体にプラスの影響を与えない。その一方で米国は新しいハイテク分野で米国は世界の先頭グループを走っているのだから、世界景気の後退リスクを高めるのはやめるべきだとしています。
早くも金融市場はトランプ関税始動に伴う世界経済の悪化を警戒し、株価は大幅に下落しました。そのためかどうかトランプは9日、突如「相互関税措置を90日間停止」すると発表しました。それを歓迎したニューヨーク株式市場は、ダウ平均株価が前日比2900ドルを超える大幅な上昇(過去最大の上げ幅)となりました。
これは「トランプ関税」が簡単には意図した効果を生まないことを証明するもので、暫定措置が本当に90日で終るのかどうかが注目されます。
併せてしんぶん赤旗の記事「WTO違反 撤回求めよ 参院委 トランプ関税巡り山添氏」を紹介します。
共産党の山添拓議員は8日の参院外交防衛委で、いわゆる「トランプ関税」は国際貿易機関(WTO)協定に明白に違反すると強調しました。
また、「トランプ氏は対日貿易赤字額を輸入額で割った数値で関税率を決定しているが、グーグルやアマゾンなどの多国籍企業が日本であげた巨額の収益は必ずしも日米間の収支に反映されず、米国に流れている」と指摘しました。そして、「経済主権を脅かし多大な犠牲を強いる自由貿易ルールの行き詰まりがはっきりした」と強調し「経済主権・食料主権に即した公正な貿易ルールを日本が主導し、新たに構築すべきだ」と述べました。
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トランプ金融波乱のゆくえ
植草一秀の「知られざる真実」 2025年4月 8日
トランプ台風が吹き荒れて世界の金融市場に波乱が生じている。
原因はトランプ大統領が指揮する関税政策。米国との貿易収支で黒字を出している国からの輸入に高率関税をかけるというもの。
トランプ大統領は、貿易赤字はけしからんという判断を有しているように見える。
貿易収支(経常収支)が赤字の国は収支尻の赤字部分を海外からの資金流入で帳尻を合わせる。
海外からお金を借りてたくさんお金を使っているということ。
貿易収支(経常収支)が黒字の国はモノをたくさん売って資金を稼ぐが、余ったお金を海外に融通することになる。
生活水準が何によって決定されるかと言えば消費水準によって決まる。
貿易収支(経常収支)が赤字の国は所得以上の派手な暮らし(消費水準)を謳歌して、足りない資金を海外からの資金流入で賄っている。
貿易収支(経常収支)が黒字の国は国内でお金が余り、余ったお金を海外に融通しているが、生活水準(=消費水準)は稼いだお金よりも少ないつつましい暮らしになる。
アリとキリギリスのような関係だが、海外からの資金流入が途絶えなければ、米国は身の丈以上の派手な暮らしができているわけで悪い話ではない
「アリとキリギリス」の寓話は夏に遊びを謳歌するキリギリスと夏もせっせと働くアリの話で、冬になって何の貯えもないキリギリスは困窮し、アリは冬も豊かに暮らせたというもの。
しかし、現代版の「アリとキリギリス」は冬になって困窮したキリギリスがアリの家にたどり着くと、夏に懸命に働いたアリは倒れて動けなくなっていて、キリギリスがアリの貯えで冬も豊かに暮らすというもの。
米国は貿易赤字を計上しているが、不足資金の調達=ファイナンスに困っている状況でない。
トランプ大統領が貿易赤字を敵対視する理由が十分に明快でない。
海外の米国への輸出に高い関税をかける。関税を負担するのは輸入者である。
関税分を価格に転嫁すれば、輸入品の米国での販売価格は上昇する。このとき、輸入品の価格が上昇し消費者が輸入品から国産品にシフトすれば国内製造業の生産が増大する。
トランプ大統領は関税率引き上げで国内製造業を繫栄させることを目指しているようだが、果たしてそうなるか。
かつて、マッキンリー大統領が関税を引き上げた時代は、米国製造業が上り坂の時代。
世界の工場が英国から米国に移動する時期だったから、米国製造業の発展に一定の寄与があったと思われる。
しかし、マッキンリー大統領も2期目を迎えると判断を変えて、自由主義重視に見解を変えた。
米国製造業が世界の工場であった時代は終焉した。世界の分業体制は時代とともに変化する。
同じ性能の生産物を他国が安価に提供する場合、その財を海外から輸入し、自国は自国が比較優位を持つ産業の生産を増大して海外に供給する。
これが自由貿易のメリットでウィンウィンの関係が構築される。
ただし、国内で保持しなければならない産業もある。食料生産産業がその第一だ。
どの国も食料は国民の生存に欠かせない財であるから、国内一次産業を保護して食料の自給体制を確保しようとする。これは正しい対応。
しかし、工業製品の立地は変化する。
米国に強い産業がないなら別だが、新しいハイテク分野で米国は世界の先頭グループを走っている。
工業製品に対する関税率の大幅引き上げは米国消費者の実質所得を減少させる効果を発揮して、経済全体にプラスの影響を与えない。
ただ、米国の場合、関税収入を財源に所得減税を行うなら、輸入品の価格上昇による実質所得減少を所得税減税が埋め合わせることになる。
他方、関税率の引き上げが米国に輸出する国の製造業生産額減少をもたらせば、海外景気の悪化が生じる。このことにより、世界経済の成長率が低下することは世界景気の後退リスクを高めることになる。
トランプ関税始動を背景に海外諸国が輸入関税の引き下げに動き、その動きを確認してトランプ大統領が、今回設定した関税率の引き下げを表明することになるかも知れない。
金融市場はトランプ関税始動に伴う世界経済悪化を警戒し、株価下落で反応しているが、今後のトランプ言動によって逆の市場反応が表面化する可能性は低くないと考えられる。
(後 略)
WTO違反 撤回求めよ 参院委 トランプ関税巡り山添氏
しんぶん赤旗 2025年4月9日
日本共産党の山添拓議員は8日の参院外交防衛委員会で、各国への関税を一方的に引き上げるトランプ米大統領による措置は国際貿易機関(WTO)協定との整合性がないと追及し、米国に説明を求め、措置を撤回させるべきだと主張しました。
WTOの主要原則である「最恵国待遇」は関税率を国によって差別してはならないとし、一方的な措置も禁止しています。山添氏が、過去に日本が関税の引き上げによるWTO協定違反を理由に紛争解決の申し立てを行った実績をただしたのに対し、外務省の小林賢一審議官は2021年に中国、19年にインド、00年に米国に対し実施と答弁。山添氏は「トランプ関税」が過去の申し立て事例と比べ対象が広く規模は大きいとして「WTO協定違反は明白だ」と強調しました。
また、トランプ氏は対日貿易赤字額を輸入額で割った数値で関税率を決定しているが、グーグルやアマゾンなどの多国籍企業が日本であげた巨額の収益は必ずしも日米間の収支に反映されず、米国に流れていると指摘。各国に新自由主義的な国際経済秩序を押しつけながら多国籍展開し、安い労働力で利益をあげ、国内で高収益のIT企業に傾斜した結果、米国内での格差と貧困が広がることになったとして、トランプ氏の主張する貿易赤字は「米国自身の責任だ。それを他国との貿易戦争で解消しようなど言語道断だ」と批判しました。
石破首相が米国への巨額の投資を理由に他国と同じように扱うことは認められないとして措置の見直しを求めているが、「日本さえよければという姿勢か」と認識をただしました。
岩屋毅外相は「関税戦争に勝者はいない」としたうえで、「これだけ経済がリンクする国際社会で一国のみが繁栄するなどありえない」と答弁。山添氏は、経済主権を脅かし多大な犠牲を強いる自由貿易ルールの行き詰まりがはっきりしたと強調し「経済主権・食料主権に即した公正な貿易ルールを日本が主導し、新たに構築すべきだ」と述べました。