2018年6月23日土曜日

拉致問題解決に必要なのは北朝鮮の非核化への直接関与(高橋乗宣氏)

 拉致被害者の実態は極めて悲惨であって、「殆どの人たちは既に亡くなっていて、生存者は2人いるものの日本への帰国の意思はない」というのが北朝鮮からの返事と言う説もあるし、以下に高橋乗宣氏が紹介しているような説もあります。
 
 いずれにしても日本としてはとても受け入れられないものですが、だからと言って安倍首相の様にそれを全く秘密にしておいて、「被害者全員の帰国を勝ち取る」などと国民や拉致被害者家族の前で「意気撒いて見せる」のも間違いです。
 安倍氏こそは北朝鮮からの回答に直接接しているのですから、それでは「拉致被害」を利用していると言われても仕方がありません。一体どう収まりをつけようとしているのでしょうか。つくづくいい加減な人間です。
 
 「日本経済一歩先の真相」を連載している高橋乗宣氏が、「拉致問題解決に必要なのは北朝鮮の非核化への直接関与」とする記事を出しました。
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  日本経済一歩先の真相  
拉致問題解決に必要なのは北朝鮮の非核化への直接関与
 高橋乗宣 日刊ゲンダイ 2018年6月22日
 安倍首相が日朝首脳会談の実現に向け、前のめりになっている。狙いはひとつ、拉致問題の解決だ。国会でも「米朝首脳会談を実践した指導力がある」と金正恩委員長を持ち上げるなど、数週間前まで「最大限の圧力」を訴えていた姿がウソのようだ。
 安倍政権が可能性を探っているのが、9月中旬にロシア極東のウラジオストクで開く「東方経済フォーラム」での接触だ。安倍首相が出席予定のフォーラムに、プーチン大統領は金正恩委員長を招待している。
 しかし、その場でいきなり日朝両首脳が一緒になったところで、2人は何をどう話すというのか。安倍首相が目指す「拉致被害者全員の即時帰国」にメドは立っていない。拉致問題の成果が見通せない中、安倍首相が金正恩委員長と会っても、あいさつを交わす程度で終わりかねない。
 
 日本政府認定の拉致被害者は17人。うち5人は2002年の小泉訪朝時に日本へ帰ってきたが、残る12人について、今なお北朝鮮は「8人死亡、4人は入国せず」との主張を崩していない。
 この主張について、日本政府は「死亡を裏付ける科学的な根拠が乏しい」と突っぱね、拉致問題はこじれにこじれてきた経緯がある。安倍首相は「拉致問題は政権の最重要課題」と繰り返すが、北の主張に耳をふさぐ状況を変えるつもりはない
 
 日朝双方が主張をぶつけ合い、堂々巡りを延々と続ける限り、拉致問題は動かない。だから、拉致問題は5人帰国から15年以上が過ぎても、1ミリたりとも前進していないのだ。安倍首相が「最重要課題」に本気で取り組むのなら、北の主張の「不自然さ」だけを突っついても仕方がないように思えてならない。
 かような現状で「拉致解決」という功を焦って、安倍首相は金正恩委員長との会談にこだわるべきではない。むしろ、北朝鮮の非核化プロセスに直接、関わることを優先させた方がいい
 北朝鮮が完全かつ検証可能で不可逆的な非核化を実現できるのか。国際社会が注視する中、日本は国際原子力機関(IAEA)の査察費用を負担するだけでなく、査察委員にも加わるべきだ。もちろん、技術も惜しみなく提供する。福島原発事故からの7年で得た廃炉作業による知見を、今こそ北の非核化に生かすべきである。
 非核化への関与を足がかりにして、北との対話の扉を開き、交渉を重ね、相互不信を解消したところで、拉致問題を議論すべきだ。議論の過程で時には日本にとって「不都合な真実」を受け入れる覚悟が必要な局面もあるかも知れない。はたして、安倍首相にそれだけの決意はあるのか
 
 高橋乗宣 エコノミスト
1940年広島生まれ。崇徳学園高から東京教育大(現・筑波大)に進学。1970年、同大大学院博士課程を修了。大学講師を経て、73年に三菱総合研究所に入社。主席研究員、参与、研究理事など景気予測チームの主査を長く務める。バブル崩壊後の長期デフレを的確に言い当てるなど、景気予測の実績は多数。三菱総研顧問となった2000年より明海大学大学院教授。01年から崇徳学園理事長。05年から10年まで相愛大学学長を務めた。