2021年10月10日日曜日

10- シリーズ <検証・東京五輪> 1~3 (東京新聞)

 東京新聞が「検証・東京五輪」という連載記事を始めました。
 1~3回目(8~10日)分を紹介します。
 1~2回目は予算関係です。五輪に経済効果が期待出来ないことは当初から分かっていたことでした。 13.09.18五輪に経済効果は期待できない
 最終的にどれくらいの赤字になるのか分かるのはまだ先になるということです。
 今回のことでIOCの実態も明らかにされました。この先、五輪の開催地として立候補する国(都市)が安定的に出てくるのかは疑問です。
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<検証・東京五輪> 
巨額赤字、開催都市ばかりが負担…見直し問う記者にバッハ氏「演説ありがとう」
                         東京新聞 2021年10月8日
 「Thank you for your statement(演説ありがとう)」
 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は8月6日の記者会見で、皮肉を込めてそう発言した。

◆チケット収入の損失900億円 IOCに負担求めず
 発言は「ほぼ無観客になり大赤字。開催都市が全てのリスクを負う大会は見直すべきではないのか」という本紙の質問への返答。バッハ会長は続けてこう説明した。「IOCにとって中止することは簡単だった。保険をかけていたからだ
 発言は、中止しても構わなかったという意味に取れる。大会組織委員会幹部は「赤字補填はしないというIOCの意思表示だった」と受け取った。ほぼ無観客となり、東京五輪・パラリンピックのチケット収入の損失は900億円近い。それでも、武藤敏郎事務総長は先月、IOCに負担を求めない考えを示した。


◆「IOCは絶対」の開催都市契約
 根拠は、都がIOCと交わした「開催都市契約」だ。ブエノスアイレスで開催地が東京に決まった2013年9月7日、当時の猪瀬直樹都知事がサインした契約書には「IOCは本大会を中止する権限を持つ」「IOCは組織委に対して拠出金を提供する、いかなる法的義務も負わない」などと、IOCの優先的な地位が示されている。
 この契約内容は、過去の大会とほぼ同じ。「IOCは絶対。交渉の余地はなかった」。招致に携わった都関係者はそう振り返る。

◆暑さ承知の上、招致「勝つこと最優先だった」
 テニスやサッカー選手らから不満が相次ぎ、4競技で日程変更を余儀なくされた「真夏の開催」も当初から避けられなかった。「7月15日~8月31日」の開催が絶対条件だったからだ。
 世界のプロスポーツ日程と重複しないのが、この期間。IOCは放映権やスポンサー権利を高額で売却するため、プロ選手の参加や競技数を拡大しており、この期間以外での開催は難しくなっている。
 都はそれを承知の上で、開催都市に立候補した。近年は気温が30度を超す日も多いが、IOCへの報告書には「晴れる日が多く、かつ温暖」と書き込んだ。都の関係者は「うそではないぎりぎりの表現。選挙公約と同じで勝つことが最優先だった」と話す。

◆「都市にどこまで求めるのか」
 「低予算」も開催都市の選考基準。都は「可能な限り小さく」経費を見積もり、7340億円と報告した。その後、2倍超の1兆6440億円に膨らんだが、延期分をのぞけばある程度は織り込み済み。また、ピーク時、国と自治体から組織委に出向した約1800人の給与は、大会経費の枠外で税金から支払われている。
 菅政権(当時)は新型コロナウイルス感染者が急増しても開催以外の選択肢を示さなかった。組織委幹部は「国際公約した大会を中止すれば、日本の国際的地位が大きく落ちた」と説明する。もともと、無理をして勝ち取った五輪・パラの東京開催を返上する意思は、日本側にはなかった。
 五輪とは、IOCとは何か。コロナ禍で祝賀ムードが後退し、見込んだ経済波及効果を得られず、そうした疑問が強調された東京大会。組織委の中村英正大会開催統括は「コロナがなくてもどうだったのか、根っこの議論が必要。負担の総量がどれくらいで、都市にどこまで求めるのか。今後のパリ大会、ロス大会でも課題になる」と指摘した。(原田遼)
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 今夏の東京五輪・パラリンピックは、開催の是非を巡って国民の意見が割れた。コロナ禍であらためて浮き彫りになったIOCや開催都市、大会の問題点を5回にわたって検証する。


<検証・東京五輪> 

経費は倍以上に膨張…「ぼったくられたのでは」 赤字のつけ国民に
                         東京新聞 2021年10月9日
◆警備中にスマホゲー夢中
 観客のいない東京五輪・ビーチバレー会場(東京都品川区)の通路。業務中の民間警備員がスマートフォンを持つ手をせわしく動かしていた。不審に思ったボランティアの女性が背後からのぞくと、警備員が興じていたのはゲームだった。
 他の会場で目撃したのは、消毒液など新型コロナウイルス対策の備品を入れた段ボール箱の山。女性は「人も物も余っていた。無観客の決定が五輪開幕の2週間前でキャンセルできなかったのだろう。経費の無駄だった」と明かす。
 観客を入れないなら必要ない仮設の観客席やテントの設営も既に終わっていた。大会組織委員会の橋本聖子会長は大会中、「『もっと早く無観客と決断していれば経費を抑えられた』という意見については受け止める」と陳謝した。

◆コロナなくても経費膨張
 だが、全てをコロナのせいにはできない。コロナとは別のところで、増え続けた大会経費の問題も見過ごせない。都は開催都市に立候補した際、予算は7340億円と説明したが、大会を終えた現時点では2倍超の1兆6440億円に膨れあがった。
 例えば、都は当初、新設する競技施設の整備費を1538億円と発表した。これは本体工事だけの金額で、東京都での開催が決まった後、周辺工事を含めた額は3倍と明らかになった。その後、一部を既存施設に切り替えたが、当初の1・47倍の2260億円となった。
 組織委は、競技会場で観客を誘導するスタッフなどの人件費を150億円と見積もったが、約165億円に。そうした超過額が積み上がり、全体では1兆円超に。組織委の幹部だった男性は「適正価格を精査できない幹部が多かった業者にぼったくられた事業も多かったのでは」と振り返る。官公庁やスポンサー企業からの出向者がほとんどで、イベントのノウハウを知る人が乏しかった。

◆「五輪は金かかる」抜本改革できず
 国際オリンピック委員会(IOC)は昨年、膨らむ経費が不満で大幅な節減を求めた。「五輪は金がかかる」という負のイメージがつけば、招致を望む都市が減る。組織委は昨年10月、大会ロゴを入れた看板の削減など52項目で予算を見直したものの、選手、競技数の削減や日程短縮など抜本的な改革にはつながらず、削減額は計300億円にとどまった
 大会の経費総額はまだ未確定。見通しについて武藤敏郎事務総長は9月28日の記者会見で「現在担当部署で調べているところで答えられない」と話した。無観客で約900億円近いチケット収入が消え、赤字は確実。来年、組織委は解散するが、赤字のつけは都民、国民に回る。(原田遼)


<検証・東京五輪> 3
「話が違う」感染者対応で保健所や地域医療に負担と混乱 専門家は「第5波」との関連否定も
                         東京新聞 2021年10月10日
 「陽性者は国内在住者なので、対応お願いします」。東京五輪が開幕した7月下旬、東京都内のある区の保健所に、大会組織委員会から電話がかかった。区内のホテルに宿泊する大会関係者が新型コロナウイルスに感染したので、療養の調整をしてほしいという。保健所の職員は「6月の話と違う」と拒否。だが、組織委から「最初からそういう運用だ」と押しつけられた
 保健所職員の言う「話」とは、6月に組織委と都が作ったマニュアルを指す。大会施設の通行証を持つVIPや競技団体職員、警察官、委託業者ら大会関係者が感染した場合は、組織委が担当することになっていた。保健所の担当は、通行証を持たない都市ボランティア、観客らにとどまっていた。

◆食い違う運用…感染急増と重なり負担
 しかし8月、都から区に新たなマニュアルが届き、保健所の担当に「警察官、委託事業者」が加えられていた。つじつまを合わせるかのような対応に対し、都防疫・情報管理課は「運用の変更ではなく、開幕後多様なケースが生まれたので役割を明確化した」と説明した。
 この時期、東京では感染者が急増していた。保健所職員は「五輪関係者も感染者が増え、組織委が対応できなくなったのでは」と推測する。大会期間中、この保健所で数十人の関係者の面倒を見た。「区民の感染拡大と重なり、負担はあった」と明かす。
 一方、会場などには1日最大540人の医療従事者が動員され、選手のけがなどに対応した。1日4~5人の医師、看護師をトライアスロン会場に派遣した昭和大学病院(東京都品川区)は7月中旬にコロナ病床が埋まって対応に追われたが、派遣をやめられなかった。
 参加した八木正晴医師は「感染の急拡大時期に、病院が持つ最大パワーが落ちていた。地域医療への負担はあった」と振り返る。

◆「地域医療に支障きたさない」の約束は?
 結局、東京五輪・パラリンピックは感染拡大に影響したのか。選手、関係者で感染したのは875人。入院した25人の多くは国内在住者だったが、受け入れ先の1つ国際医療研究センター(同新宿区)の大曲貴夫医師は「想定より受診や入院は少なく、混乱はなかった」と語る。
 また、五輪で人出が増えて感染が拡大するという懸念も、政府のコロナ対策分科会のメンバーで五輪のコロナ対策を助言した岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は「夜間繁華街の人出が開幕前より減った。第5波の引き金になったとはいえない」と評価した。
 組織委の橋本聖子会長は先月の理事会で「コロナ対策が機能し、社会の営みを継続するモデルを示せた」と誇った。しかし、少なからず現場の混乱や負担を招いたのは事実。「地域医療に支障をきたさない」とした開幕前の約束を果たせたとはいい難い。(原田遼)