国内のメディアは目下 「五輪招致成功」祝賀ムード一色に染まっていて、それを批判することなど許されないという雰囲気も出来上がっています。
しかしこのところのオリンピック開催国における収支決算をみると、決してバラ色などではありません。日本が大きく飛躍する契機となった、50年前の東京オリンピックのときとは全く事情が異なっていて、むしろギリシア・アテネ(2000年)のような巨額の赤字を出さないように、鉢巻を締め直すことが一番大事なことのようです。
中国人民網は17日、今度は日本の五輪招致に関連して「五輪で稼ぐ時代は終わった」とする分析記事を載せました。
それによるとオリンピックは1984年の米国・ロサンゼルス五輪で初めて収支がプラスになり、1000億円近い利益を上げました。その後も1988年の韓国・ソウル五輪、1992年のスペイン・バルセロナ五輪、1996年の米・アトランタ五輪と黒字を維持できましたが、2000年以降は2008年の北京五輪を除き、巨額の赤字を出し続けています。
その北京五輪も当初は巨大な経済的利益を予想したのですが、終わってみると僅か162億円あまりの黒字にとどまりました。日本の長野冬季五輪でも、その後経済縮小に見舞われています。
オリンピックの経済効果を時系列的にまとめると下記の通りです。
1984年 米・ロサンゼルス 1000億円の黒字(初の黒字)
1992年 スペイン・バルセロナ 黒字
1996年 米・アトランタ 黒字
2000年 オーストラリア・シドニー 巨額の赤字
2004年 ギリシャ・アテネ 巨額の赤字
2008年 中国・北京 小幅(162億円)の黒字
2012年 イギリス・ロンドン 1580億円の赤字
人民網は、東京五輪に日本経済の活性化や振興を託そうとしても成功する可能性は小さいとして、以下の三つの理由を挙げています。
① 東京五輪が「五輪で稼ぐ時代」が終わった時期に開催される
② 東京五輪には4500億円が投入される見込み(招致活動だけで600億円を投
入)だが、さらにどれだけ増加するか分からない(新たに30カ所の施設を建
設※)
※ 石原都知事のときは、確か「東京で開催すれば殆どが現有の施設で賄えるから、環境破壊の少ない開催が図れる」ということが「売り」だった筈ですが、それがいつの間にか変わっていたようです。結局ゼネコンだけが儲かる五輪になりそうです。
③ ロス五輪やソウル五輪の成功例にみる、五輪を契機とした都市の改造と不動
産経済が強い牽引作用を発揮する要因がない
そして記事は、五輪の成功に向けて問われるのはスポーツイベントとしての組織力だけではなく、近隣諸国との有効に向けて日本政府と日本国民の政治的な賢明さと外交の水準がより問われることになる、と結んでいます。
いずれにしても日本は暢気に浮かれているのではなく、早いところ頭を冷やすことが必要です。
そして何よりもまず一刻も早く福島汚染水の解決を図ることです。
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五輪で稼ぐ時代は終わり 日本経済を救うのは困難
中国 人民網日本語版 2013年9月17日
日本の東京証券取引所は先週、五輪招致の成功という好材料を受けて大幅に上昇し、円安が進んだ。ある市場関係者によると、2020年に東京で開催されることになった夏季五輪は、日本経済を再び成長の軌道に乗せる可能性があるという。国際金融報が伝えた。(文:王健 復旦大学アジア経済研究センター副センター長、博士)
東京の五輪招致成功をみていると、どうしてもかつての北京五輪招致成功の一瞬を思い出してしまう。当時は多くの人が2008年の北京五輪によって巨大な経済的利益がもたらされると予想した。だが国家審計署(監査部門)が09年6月に発表した09年3月15日までの実際の収支額、それ以後の収入の見込額、決済待ちの支出額などの監査結果によると、北京五輪組織委員会の収入は205億元、支出は193億4300万元で、収入から支出を引くと10億元(162億円)あまりの黒字にとどまった。12年の英国・ロンドン五輪も高い期待の中で行われたが、結果的には「収益ゼロ」で幕を閉じた。
五輪やサッカーのワールドカップと開催国の経済発展との関係を研究する学術関係者らによると、国際的大型競技大会が開催国の経済に与える活性化作用は相対的に限定的なものであり、競技大会を開催したために深刻な財務上の損失を出した国の例にも事欠かない。冬季五輪を開催した日本・長野、ロシア・ソチやカナダ・モントリオールなどは、「ポスト五輪症候群」に陥り、経済発展が拡大せず、かえって縮小するという情況に見舞われた。日本の安倍晋三首相の政権は20年の東京五輪に疲弊した日本経済を活性化させる望みを託すが、こうした考え方は現実的でないと言わざるを得ない。実際、東京五輪によって「財政の奇跡」を起こすことの難しさを説明する要因はたくさんあり、順調に開催されればそれで御の字だといえるのだ。
第一に、東京五輪の開催時には、五輪をめぐる富の動きが底を打った状態にある。五輪による利益のこれまでの「成績表」をみてみると、収支をプラスにするのに初めて成功したのは1984年の米国・ロサンゼルス五輪で、10億ドル近い利益を上げた。88年の韓国・ソウル五輪、92年のスペイン・バルセロナ五輪、96年の米・アトランタ五輪も黒字を維持した。だが00年のオーストラリア・シドニー五輪と04年のギリシャ・アテネ五輪は巨額の赤字を出し、08年の北京五輪ではやや黒字になったものの、12年のロンドン五輪は10億ポンド(約1576億円)の赤字だった。投資がますます増え、観客はますます減り、最近の五輪は「五輪で稼ぐ時代」は終わったことをはっきりと教えてくれる。
第二に、東京五輪の招致申請の前期段階に投入した金額は予算をはるかに上回り、後期段階の建設投資も巨額に上る。このたびの申請計画と予算をみると、政府からの投資は約3300億円で、ほかからの投資を合わせると、少なく見積もっても東京五輪には最終的に4500億円が投入されることになる見込みだ。申請だけでもすでに500億円から600億円を投入しており、これで総投資額の12%を占めている。これから7年間におよぶ建設期間や開催年の20年に、日本政府がどれくらいの資金を投じることになるのか、今はっきりとわかる人はいない。会場建設を例に取れば、米国政府が94年のロス五輪のために建て替えたメーン会場は数カ所だが、東京五輪では30カ所を新たに建設するという。
第三に、ロス五輪やソウル五輪の成功例をみると、五輪開催で黒字を上げることができた原因の一つは、五輪を契機とした都市の改造と不動産経済が強い牽引作用を発揮したことだ。五輪開催前、ロスの不動産は低迷しており、ソウルは旧市街地の改造に直面していた。五輪が両都市に歴史的なチャンスをもたらし、インフラ建設を通じて都市のイメージアップとブランド力向上が実現し、観光産業の発展が推進され、都市の発展と経済的な利益の獲得が直接的・間接的に推進された。だがアテネ五輪の開催期間には、コントロールを失った不動産バブルが開催国の経済発展を効果的に支えなかっただけでなく、人々の生活コストを増大させ、社会の矛盾や不満を増大させ、こうしたことが直接の引き金となって、その後ギリシャはユーロ圏で一番目に債務危機が発生した国になってしまった。こうした意味からいっても、システム上の経済危機に陥り、不動産価格が長期的に低迷する日本が「溺れる者のワラ」として五輪にすがり、日本経済の活性化や振興や救済を託そうとしても、成功する可能性は小さい。
最後に、日本が東京五輪を順調に開催したいなら、これから数年間はしっぽを巻き、「いい人」でいなければならない。二国間関係や多国間関係における敏感な問題では、よくよく注意して慎重な態度を取らなければならない。たとえば、今後数年間は釣魚島(日本名・尖閣諸島)、南千島群島(日本名・北方領土)、独島(日本名・竹島)の問題では、中国、ロシア、韓国との関係をそれぞれ考えていかなければならない。こうした問題で日本がうかつな態度を取れば、周辺国が五輪をいろいろな形でボイコットする可能性が出てくる。
以上の分析をまとめると、東京が20年の五輪招致に成功したことはもとより喜ぶべきことだが、7年の準備期間がある大規模な国際的競技大会に最終的な課題として問われるのは、スポーツイベントとしての組織力だけではない。日本政府と日本国民の政治的な賢明さと外交の水準がより問われることになる、ということだ。(編集KS)