2025年9月27日土曜日

27- 参政党はなぜ伸びたのか -「男性の逆襲」と「隠れトランプ」

 世に倦む日々氏が掲題の記事を出しました。
 先の参院選では参政党と国民民主党が躍進しました。どちらも民主勢力とは相容れない政党であり、取り分け参政党は、現憲法を「明治憲法」と同様の中身に変えることを党是とし、当面は「スパイ防止法」の制定を実現することに注力することを明言しています。

 それこそは戦後それなりに民主勢力による反戦思想が定着しつつあるという認識に真っ向から反するものなので、そんな政党が躍進するとは一体どう考えればいいのでしょうか。
 世に倦む日々氏は、NHKが 9/8に発表した最新の世論調査の結果について、政党支持率男女別と世代別に表示したデータの解析とそれの韓国の昨年の総選挙と今年の大統領選での同様(男女別と世代別)な調査との対比から一つの結論を得ています。
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参政党はなぜ伸びたのか -「男性の逆襲」と「隠れトランプ」
                       世に倦む日日 2025年9月24日
参院選が終わって2か月以上経ち、テレビは自民党総裁選レースで埋め尽くされている。全く興味がわかず、詳細を見ていない。気分が悪く、チャンネルを切り替えてやり過ごしている。今回は、参政党がなぜ伸びたのかを考えたい。その問題について分析し論評した記事は何本も出ているが、腑に落ちる考察がない。なので、幾つかのデータに着目しながら、独自に仮説を立ててみることにした。まず最初に注目して確認したい点は、今回の参院選の投票率が例年になく高かった事実である。58.5%を達成した。この数字は過去12年間9回行われた国政選挙の中で最も高く、過去8回の選挙の投票率平均を5.5ポイントも押し上げている。ざっくり、前回比500万人の新しい有権者を掘り出して投票所に運んだと言え、それまで永久凍土の如く固く眠っていた層の発掘と覚醒に成功している。その意味は小さくない。










それでは、投票率が高くなった理由は何だろうか。数字を押し上げた主役として焦点を当てるべきは、やはり参政党だろう。参政党は、昨年衆院選の187万票から今回参院選の742万票へと4倍増させたが、その増加分は555万票で、投票数全体の増加分である463万票と近い値となる。無論、新規増加の有権者がすべて参政党に投票したわけではない。参政党に投票した有権者は、政治に関心があって反共右翼のイデオロギーに染まった者が多く、東京新聞調査でも4分の1以上が自民党からの乗り換え組になっている。つまり、742万票のうちの200万票ほどは安倍晋三に強くコミットしていた極右だと想定される。いわゆる、現在マスコミが報道(プロパガンダ)しているところの、「保守離れした自民党を嫌った」層という表象だ。が、この東京新聞の調査は、参政党に投票した者の半分が支持政党なしで、自民乗り換え組ではないという事実も示している












すなわち、これまで選挙に行かなかった層が参政党に投票していて、その数が300万票ほどに上るという仮定が成り立つ。次のデータを観察・検討しよう。NHKが 9/8に発表した世論調査の結果で、最新の政党支持率に男女別と世代別のクロスを入れた統計を出している。ベーシックで当然な数字だという感想を持ちつつ、やはり興味深い。参政党の支持者は、圧倒的に男性と若年層に偏っているのである。このうち、若年層の右傾化については、国民民主と合わせてマスコミでずっと蝶々されてきて、今も自民党総裁選レースで言われ続けている。若者の「保守層」を自民党に取り返せと、5人の候補者と自民党応援団のマスコミ(田崎・佐藤・久江・松原)が騒々しいアジテーションを放っている。が、性別の支持分布の特徴に目を向けた議論は少ない。驚くことに、現在では、自民党や維新が、女性の支持率が男性の支持率より高いという奇妙な現象が生じているのである




















公明の支持率で男性より女性が高くなるのは理解できる。だが、自民や維新でそれはないだろうと、誰もが意外に思うのではないか。これは、参政や国民や保守が、若年男性層を多く取り込み、新たな政治的現実を作り出している断面図だ。政党の支持層において、男性と女性の間の差異が大きく、特に参政党と保守党はその性格が際立っている。この男女比なり男女差の問題は、7月の選挙後の総括や解説で全く掘り下げて指摘されなかった。私はこの点にフォーカスすべきだと考える。政党や政治勢力の支持に男女の偏差が大きく影を落とし、国政全体に深い亀裂を生んでいる問題は、韓国の昨年の総選挙と今年の大統領選でクローズアップされ、日本でも報道されて広く周知されるところとなっていた。若い男性が右派を支持し、逆に若い女性が左派を支持し、男女間で明確に政治思想が分かれ、選挙をする度に分断と対立が深まっている。まるでアメリカの政治を模倣し追随するように

一般的な説明では、韓国の若年男性は女性と較べて社会的に不公平だという逆差別”の意識を持ち、男性の役割や義務に対して不満を抱き、左派が推進するジェンダー政策に反発していると言われている。そうした主張の根拠として、例えば兵役義務の負担感があり、育児や家事の負担が従来よりも増えた重圧と不具合があるらしい。どうやら韓国の男性たちは、ジェンダーの政策と思想が社会を変革する中で、それを抑圧と感じ、不利益を蒙っていると嫌悪し、フェミニズムに否定的感情を覚える者が多くなっている。それが政治意識に反映し、左派リベラルを拒否する態度に繋がっている。アメリカの福音派の台頭と右傾化・反リベラル化の動向や、最近のトランプとMAGAの言説にも感化されているかもしれない。韓国の右派は日本以上にアメリカべったりで、星条旗を振り回してデモをする。あれほど国粋的自尊心が強烈な民族なのにと信じられない光景だが、アメリカの左右対立をそのまま韓国に持ち込んでいる


今回の参院選の前、維新を追い出された梅村みずほが鞍替えしたことにより、参政党は国会議員が5人以上となって政党要件を満たす次第となった。それによりマスコミでの露出が圧倒的に増え、世間の注目を集める存在となる。極右諸派の一つを卒業した。台風の目となって742万票を集め得た最大の要因として、神谷宗幣は、マスコミが参政党に関心を集中させて認知度を上げてくれたからだと正直に語っている。そのとおりだろう。昨年の都知事選の石丸伸二と同じように、マスコミは「参政党人気」を吹聴・喧伝しまくり、スポットライトを浴びせ続け、選挙を祭りと心得る若い無党派保守層を参政党支持へと動機づけし続けた。あの中身空っぽの石丸伸二が、都知事選で蓮舫を凌ぐ次点票を稼ぎ出すくらいだから、マスコミの宣伝演出効果は絶対的であり、衆愚政治全盛時代の選挙の恐ろしさがある。だが、ここで想起しなくてはいけないのは、神谷宗幣が全国民の前でデビューを飾ったときの衝撃的メッセージだ

皆さん、おはようございます。参政党代表で参議院(議員)を務めています神谷宗幣です。いよいよ参議院選挙、本日からスタートいたしました。(略)最近やっとテレビに出るようになりまして、皆さんに参政党の名前を知ってもらうことができました。(略)

今まで間違えたんですよ、男女共同参画とか。もちろん女性の社会進出はいいことです。どんどん、働いてもらえば結構。けれども、子どもを産めるのも若い女性しかいないわけですよ。これ言うと差別だという人がいますけど違います。現実です。いいですか、男性や、申し訳ないけど、高齢の女性は子どもが産めない。だから、日本の人口を維持していこうと思ったら、若い女性に、子どもを産みたいなとか、子どもを産んだほうが安心して暮らせるなという社会状況をつくらないといけないのに、働け、働けってやりすぎちゃったわけですよ。やりすぎたんです

これは公示日 7/3 に神谷宗幣が銀座の街頭で行った演説で、NHKが全文を文字おこししてネット記事に載せている。きわめて衝撃的で挑発的な政見内容だったため、多くのテレビ報道で紹介され、マスコミから反発を受け、非難轟々の展開となった。まさしく参政党の「挨拶代わりの一発」となったメッセージであり、この発信で参政党のイメージがくっきり形作られ、台風の目の看板となってその後の選挙戦全体が引っ張られた。ジェンダー・多様性の現行の政策と思想に対する挑戦の宣告であり、既存政党の中で参政党と同じ立ち位置の党派はない。現代の常識と支配的観念をひっくり返す主張が、政党要件を満たした党からドラスティックに発された。マスコミからは袋叩きの反応となったが、進行と結果を見たとき、この主張が参政党躍進の足を引っ張ったとは言えず、むしろプラス材料として機能したと言っていい。この過激な訴えを新鮮な魅力に感じた層がいて、そうした層に刺さって共鳴されたと解釈できる

この政治現象を、韓国のトレンドと共通する「男性の逆襲」として仮説しよう。7/30 に書いた記事で、3本の対立軸のうちの3番目として「ジェンダー・マイノリティ・多様性」を挙げ、この軸で分けた配置では参政党だけが右派・保守派であるという見方を示したが、今回の結論もその延長線上のものである。「ジェンダー・マイノリティ・多様性」の言説が社会に浸透し、そのイデオロギーが全体を覆ったのは、日本では90年代以降の出来事である。30年かけて体制的支配的な価値観となり、あらゆる社会経済制度をこの価値基準で設計する地平にまで至った。それは新自由主義が全体を覆うのとパラレルの現象だった。ポリコレ差別的な表現を正すと呼ばれ、アイデンティティ・ポリティックス共通の政治的目標に向かって結束することと呼ばれ、政治的には左派を構成するこの思想と運動は、リベラリズム(自由主義・個人主義)が成した二卵性双生児の一つである。それが本質だ。そして、日本の30年を振り返ったとき、ネオリベ⇒新自由主義)もポリコレも日本人を幸福にせず、矛盾と病理ばかり増殖させた

こうした観点から「3本目の対立軸」の意義を浮上させ、参院選の結果に適用すると、参政党が躍進した原因と事情が前向きに納得できる。日本は(世界も)何かが間違っていて、何かが行き過ぎていて、その一つがネオリベ原理の支配と横溢であり、もう一つがポリコレ主義の蔓延と放縦だろう。二つは明らかに同じ思想を淵源としていて、この双頭の神の教義を世界に敷衍させ信仰させたのはアメリカだ。そして直観的に判断できるのは、この二つの価値観(ネオリベ・ポリコレ)で社会の永久革命を続け、リベラリズムの理想社会をどこまでもめざしていると、出生数が減り、外国人が増え、元々の社会や国家を維持できなくなる結末を迎えることだ。神谷宗幣は、子ども一人当たり月10万円の給付金を出すと言い、この措置によって若い女性が出産と育児を選択してくれると述べている。が、これは、ネオリベの弊害を国家が緩和する政策であり、従来からのピケティ政策でしかない。私は、これだけでは出生数減を解消する抜本的対策にはならないと思う

出生数の問題を根本的に解決するためには、イデオロギーの劇的なチェンジが必要だ。そう確信する。ピケティ的な給付策の単純な実行では、格差是正を目論んだはずが、日本人ではなく外国人の子どもの方が増える顛末となる。西欧諸国の経験が証明するとおりで、それは右翼の逆上と過激化を誘うばかりだろう。給付策は移民労働者を呼ぶインセンティブ⇒動機付け)
として効果的かもしれないが、出生数を増やして若年人口を増やす上では、もっと革命的なトータルな転換と改造が必要なのだ。それが何かは、まだ考えが整理できておらず、理論的提起を纏められる自信がない。しかし、関連して最近少し思うようになったのは、9年前のアメリカ大統領選で言われた「隠れトランプ」という問題である。人前では民主党支持を言い、世論調査でもそう答えながら、内心で密かにトランプを支持して投票していた者が多くいた、という説明だった。当時は全く他人事であり、内在的理解を及ぼす範疇ではなかった。アメリカ特有の現実で、日本とは無縁の奇事だと思っていた

が、今は類似の状況をリアルに身近に感じてしまう。正義についてホンネとタテマエが分裂し混乱し始めている。第3の対立軸をめぐって、アンビバレント相反する感情や考えを同時に抱いている状態でストレスな課題に直面している環境的変化の実感を否めない。日本の未来のためには、ネオリベもポリコレも揚棄される必要があるのだ