2022年4月24日日曜日

自民「安保提言」に抗議 学者・平和団体 「憲法の原則を逸脱」

 全国の大学教授や平和団体関係者ら20人が21日、自民党(安保調査会)の「安保提言」に対して「憲法の原則を逸脱し戦争への危険を高める自民党安保提言に抗議する緊急声明を発表しました。

 平和構想研究会が作成した声明文は「こうした攻撃能力を持つことは、日本が憲法の下で防衛の基本政策としてきた専守防衛を事実上反故にするもの」であり、防衛費「対GDP比2%以上」に倍増するという目標示は、軍拡競争を加速させるものだと指摘し日本に求められるのは、平和憲法に基いて「周辺諸国との相互的軍縮や緊張緩和の外交であり、国連を中心とした国際法秩序の回復のための努力である」と訴えています。
 しんぶん赤旗が報じました。
 併せて「声明文(全文)」を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
自民「安保提言」に抗議 学者・平和団体 「憲法の原則を逸脱」
                       しんぶん赤旗 2022年4月23日
 全国の大学教授や平和団体関係者ら20人が21日、自民党「安保提言」に対して「憲法の原則を逸脱し戦争への危険を高める」として抗議する緊急声明を発表しました。

 実質的な敵基地攻撃能力の保有を提言し、攻撃対象を「相手国の指揮統制機能等も含む」としており専守防衛を反故(ほご)にするものだと批判。
 防衛費の「対GDP比2%以上」に倍増する目標を提言しており、軍拡競争を加速させるものだと指摘しています。
 防衛装備移転三原則を見直し、侵略を受けている国に殺傷能力を持つ兵器提供も検討するよう求めていると述べ、武器輸出管理政策の根幹といえる「紛争を助長しない」という原則を放棄するものだと批判しています。日本に求められるのは、平和憲法にもとづいて「周辺諸国との相互的軍縮や緊張緩和の外交であり、国連を中心とした国際法秩序の回復のための努力である」と訴えています。

 名前を連ねたのは、次の通り(敬称略)。秋林こずえ(同志社大学教授)/阿部浩己(明治学院大学教授)/雨宮処凛(作家・活動家)/池内了(名古屋大学名誉教授)/伊藤和子(弁護士・ヒューマンライツナウ副理事長)/内海愛子(早稲田大学平和学研究所招聘(しょうへい)研究員)/岡野八代(同志社大学教授)/奥本京子(大阪女学院大学教授)/川崎哲(ピースボート共同代表)/清末愛砂(室蘭工業大学教授)/栗田禎子(千葉大学教授)/志田陽子(武蔵野美術大学教授)/杉原浩司(武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表)/田中煕巳(てるみ)(日本原水爆被害者団体協議会代表委員)/中野晃一(上智大学教授)/西川純子(獨協大学名誉教授)/菱山南帆子(許すな!憲法改悪市民連絡会事務局長)/松井芳郎(名古屋大学名誉教授)/水島朝穂(早稲田大学教授)/元山仁士郎(「辺野古」県民投票の会元代表)


【緊急声明】
憲法の原則を逸脱し戦争への危険を高める自民党「安保提言」に抗議する
                              2022年4月21日
                               平和構想研究会
 今年末までに予定されている「国家安全保障戦略」など安全保障関連の3文書の改定に向け、自民党が本日提言をとりまとめた。その内容は、日本の平和憲法の原則を逸脱した、戦争への危険を高める軍拡政策の提言といわざるをえない。
 第一に、実質的な敵基地攻撃能力の保有を提言している。このたび弾道ミサイル攻撃等に対する「反撃能力」という名称が付けられたが、党内議論の経緯からして、これが敵基地攻撃能力のことを意味するのは明らかである。提言はさらに、攻撃の対象を「ミサイル基地に限定されるものではなく、相手国の指揮統制機能等も含む」としている。こうした攻撃能力を持つことは、日本が憲法の下で防衛の基本政策としてきた専守防衛を事実上反故にするものである。提言は、これが「専守防衛の考え方の下」にあると強弁しているが、実際には、日本による先制攻撃に限りなく近づくきわめて危険な政策といわざるをえない。攻撃力をもつことで、ミサイルの脅威がなくなるわけでもなければ、敵ミサイルの飛来を完全に阻止できるわけでもない。日本がこのような攻撃態勢をとれば、相手国も当然同様に反応をするだろう。いたずらに地域の軍事的緊張を高め、日本が攻撃される可能性をむしろ高めるものである。
 第二に、防衛費を「対GDP比2パーセント以上」という目標を念頭に5年以内に拡大すると提言している。すなわち、防衛費を倍増させようという宣言である。日本がこのような軍拡姿勢をとることは、アジアにおける軍備競争を加速させるものである。そもそも、防衛費の増額を政治目標として掲げるという姿勢じたい、効果的な防衛・安保政策を追求することとは相容れない。これまで、政府と防衛産業の契約や米国からの兵器導入において、さまざまな浪費や不透明性が指摘されてきた。これらを正すことが先決である。
 第三に、防衛装備移転三原則を見直し、侵略を受けている国に対しては「幅広い分野の装備の移転を可能とする」との言い方で、殺傷能力を持つ兵器の提供も検討するよう求めている。これは、日本が憲法の下で維持してきた武器輸出管理政策の根幹といえる「紛争を助長しない」という原則を放棄するものである。恣意的な解釈で歯止めが利かなくなる可能性がきわめて高い。日本が輸出する武器によって人々が殺傷されるような事態が起きることは、受け入れがたいものである。
 こうした軍拡政策を、ロシアによるウクライナへの侵略戦争で人々が不安を抱いているのに乗じて提案することは、きわめて扇動的で挑発的な行為である。抑止力の強化という名目でとられるこうした政策は、実際には、日本の平和主義に対する不信を生み、周辺国を軍事的に刺激し、結果として戦争の危険性をむしろ高めるものである。

 2年以上続くコロナ禍により、世界各国と同様、日本の社会・経済は疲弊している。医療や福祉の拡充や、格差や貧困への対策こそが急務である。ウクライナにおける戦争の長期化は、さらなる社会的・経済的悪影響をもたらしかねない。今、お金は武器にではなく、人々にこそ回さなければならないはずだ。
 与党自民党がこのような提言を出したことは、政府による安保政策改定に大きな影響をもつだろう。しかし今、日本に求められているのは軍備競争を煽ることではなく、周辺諸国との相互的な軍縮や緊張緩和のための外交であり、国連を中心とした国際法秩序の回復のための努力である。今回の自民党提言を所与のものとせず、平和憲法に基づく外交・安全保障の基本に立ち返って、与野党による幅広い視点から冷静な議論を求めるものである。

                              2022年4月21日
                              (賛同者名簿は省略)