2022年4月4日月曜日

04- ルーブル化で資源国をドル離れに誘導するプーチン(田中宇氏)

 この記事は3日付の記事「ガスをルーブル建てにして米国側に報復するロシア」の続です
 ロシアの天然ガス代のルーブル支払の要求は、パイプライン・ノルドストリームにより欧州が購入している「気体状」天然ガスに限定されていて、日本が購入している液化天然ガス=LNGには適用されないということです。
 日本は欧米の対露経済制裁に同調するように見せかけて、その実「サハリン2」などの日本の死命を制する事業からは撤退しないなどチャッカリ!? しています。
 何と言われようとも超資源小国である日本がこのさき生き延びるためには、勝手気ままな米国に百%追随するのは無理で、建前と本音が一致しないのは当然のことです。
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ルーブル化で資源国をドル離れに誘導するプーチン
                           田中  2022年4月3日
この記事は「ガスをルーブル建てにして米国側に報復するロシア」の続きです。

4月2日が過ぎても、EUなど米国側の諸国は天然ガスの輸入代金をルーブル払いしたと報道されていない。ロシアが求めたルーブル払いは米国側に拒否されている。ロシアは今後おそらく数日内に、欧州へのガスの送付量を減らすだろう。ロシアが欧州にガスのルーブル払いを要求したのは言葉だけの脅しであり、欧州がルーブル払いを拒否してもロシアが欧州に送っていたガスを減らすことはないという推測が出回っているが、その見方は間違いだ。 

この件でロシアが欧州へのガスを減らし、ロシアのガスに強く依存している欧州経済が大混乱に陥り、欧州が最終的にルーブル払いに応じると、それは世界的なエネルギー代金決済の非ドル化の流れを誘発し、ドルの基軸性と米国覇権の低下をもたらす。それが今回のルーブル化の狙いなので、プーチンは欧州へのガスの送付を必ず減らし、欧州に大混乱を引き起こす。プーチンの行為は脅しでなく、米国側とロシア側(非米側)の地政学的な果たし合い・覇権争奪戦なので、ロシアはその戦いに勝つために、これから必ずガス送付の削減や停止を挙行する。

ロシアは欧州へのガスの輸出を止めても困らない。石油ガス鉱物など資源全体が世界的に大きく値上がりしており、欧州へのガス送付の削減による収入減少は、他の資源の輸出収入の増加によって穴埋めされている。米国側はロシアの資源を買わなくなったが、中国やインドはどんどん買い増している。米国はインドに加圧してもロシアの石油を買うのをやめないので、インドの露石油輸入を「一定量まで」容認した。インドはロシアの兵器もどんどん買っている。米国から睨まれたら何もできなくなる他の同盟諸国が馬鹿を見ている。何だかんだでロシアの収入は増えている。対照的に、欧州はこれから深刻なガス不足に陥り、大混乱になる。

欧州は、ロシアからのガス送付が急減したら大混乱に陥るとわかっていたので、できればロシアのルーブル払いの要求に応じたかっただろう。しかし欧州の親分である米国が、それを許さなかった。ロシアが求めるガス代のルーブル化が実現すると、資源保有する世界中の非米諸国がロシアを真似て「ドルでなくうちの通貨で払え」と米国側に要求し始め、ドルの基軸性と米国覇権が低下してしまう。米国は、それを許すわけにいかないので、欧州に命じて、ガス代をルーブル払いを拒否させた。

しかし今後、ロシアからガスの送付を減らされた欧州はとても困窮し、最終的にガス代をルーブルで払う。それはイラン、イラク、サウジアラビアなど産油する非米諸国がロシアを見習って、米国側に石油ガス代金の決済をドルでなくイラン・リヤルなど自国通貨建てで払ってくれと求めることを誘発する。ロシアは最近、イランに対し、一緒に米国の経済制裁を迂回していこうと持ち掛けている。イランは大喜びだ。結局、ドルの基軸性と米国覇権の低下が引き起こされる。プーチンの策略が成功し、米国側が覇権を喪失する。 

ロシアから欧州へのガス送付の削減がこれから長引くと、欧州の政治状況も転換していく。独仏など西欧諸国の市民がガス不足に非常に困らされ、欧州市民の心境は、輸出を止めたロシアを恨む状態から、事前準備せずにロシアを敵視してガス不足を引き起こした自国や米国の上層部を恨む状態に変質していく。それが続くと、やがて西欧諸国で反露・対米従属の既存の政権が選挙で転覆され、親露・対米自立の新政権に転換していく流れになる。すでにフランスでは親露反米のマリーヌ・ルペンの人気が上がっている。

▼日本はルーブル払いを免れている
一昨日に配信した記事に間違いがあった。私は、ロシアのサハリンから日本に輸出される液化天然ガス(LNG)も、4月1日から日本側が代金をルーブルで支払わないと売ってもらえなくなると思っていたが、それは間違っていた。ルーブル払いを義務づけられるのは非友好諸国(米欧日。米国側)がロシアから輸入する「気体状の天然ガス(природного газа в газообразном состоянии)」(ガス田から気体のままパイプラインで輸出される天然ガス)だけが対象だ。プーチン大統領が3月31日に発した大統領令にそう書いてある(1のaの1行目)。

プーチンが決めた今回のガス代ルーブル払いの義務化は気体状のガスだけで、液化して液体状でロシアが輸出するLNGは含まれていない。日本はロシアから気体のガスを買っておらず、液体のLNGしか買ってないので、ルーブル払いを義務づけられていない。米国側で、気体のガスをロシアからパイプラインで輸入しているのは独仏EUなど欧州大陸諸国だけだ。EUは消費するガスの4割が、ロシアからパイプラインで送ってくる天然ガスで、ガスを止められたらとたんに経済が破綻する。プーチンはEUを狙い撃ちして困らせる策をとっている。

日本の政府や権威筋は、日本がプーチンによるルーブル払い義務化攻撃の対象にされていないことをよく知っている。それなのに日本政府は「ルーブル払いは全く認められない。断固拒否する」と怒ってみせる演技をやっている。日本政府は、日本がルーブル払い義務の対象になっていないので大混乱を免れて良かったと心底思っているが、その気持ちを全く表に出していない。表に出せない。

米国の覇権低下が続く中、いずれ米軍は日本から出ていき、日本は対米従属だけで生きていけなくなり、ロシアや中国との敵対を解消していかざるを得なくなる。日本政府は、こうした国際情勢の先行きを知っているので、本当はロシアと敵対したくない。今の日本は「素」の姿は、どこかの外国を敵視するほどの国際パワーを持っていない。素の日本は、反露でも反中でも反韓でもない。反露と反中は、米国が反露や反中だからやっている。反韓は、日韓が仲良くして安保協定を結んだりすると、そのぶん在日と在韓の米軍がいなくても良いことになり、日本も韓国も米軍撤退はダメだということで、相互に敵対(というより痴話喧嘩)を続ける策をとっている。

私は南京大虐殺も従軍慰安婦も(ホロコーストも)、誇張された大戦時のプロパガンダを「正史」にしてしまった話だと思っているが、それと同時に、素の戦後日本は外国を敵視したがるほどの国際パワーを持つ国でないとも思っている。反露反中反韓は、米国の傀儡国にされたことからくる、日本らしくない邪念だ。北方領土問題は、日本を親露の方向に行かせず対米従属一本槍の状態にしておくための策として存在してきた。日本のロシア敵視は以前から、対米従属を続けるために、米国が同盟諸国に強要するロシア敵視をやっているだけだ。 

今回のプーチンのルーブル払い義務化攻撃は、ドルの基軸性と米国覇権を拒否する政治攻撃であり、プーチンから攻撃されている米国は、同盟諸国を強く巻き込んでルーブル払いを断固拒否するロシア敵視の姿勢をとる必要があり、対米従属の日本は、自国が攻撃対象になっていなくてもロシア敵視の姿勢をとらねばならない。LNGもルーブル払いの対象にされていたら、日本政府自身はルーブル払いしても良いと考えただろうが、米国がそれを許さず、日本は他のG7諸国と歩調を合わせ、泣く泣くルーブル払いを拒否して困窮し、ロシアへの恨みを募らせる事態になっていただろう。日本を除外するのがロシアにとっての得策だった。同様に、韓国もロシアからのガス輸入がLNGだけなので除外されているが、韓国は日本以上に親露的で、かつ対米従属だ韓国政府はウクライナ開戦直後から、わが国は米国側ですがロシアとの貿易は絶対やめませんと表明している

今回、プーチンからルーブル払い義務化の狙い撃ちをされているドイツなど欧州諸国も、本心ではルーブル払いに応じたい。私は一昨日の記事で「ドイツ(など欧州)はウクライナ開戦後に自国内のロシア側の資産を没収したので、ドイツがガスプロム銀行に新口座を作ってガス代のユーロ資金を入れたら、ロシア政府に報復措置として没収されかねないからでないか」という趣旨を書いた。しかし、ドイツが事前にロシアと話をつけて没収しないという口頭の確約をとっておけば、送金しても安全なはずだ。プーチンの目的は米国側にルーブルで支払わせ、ロシアがドルや米国覇権を拒否していることを米国側に認めさせることにある。ロシアがドイツに対し、送金しても没収しないと約束する可能性は十分にある。 

欧州諸国がルーブル払いを拒否した理由は、冒頭に書いたように、自国の覇権低下を引き起こすことを恐れた米国に強く禁じられたからだ。しかし、これからロシアが欧州へのガスを止めると、欧州は困窮してルーブル払いに応じ、米国の覇権低下につながっていく。そして、欧州諸国も反露・対米従属から親露・対米自立に転換していく。欧州が屈服するのが予想されたので、プーチンは、ドイツなど欧州を狙い撃ちしてルーブル払いを強要した。日韓に強要してもこういうダイナミックな展開にならないので、日韓は許すことにしてLNGを対象から外した。

ドイツなどEUは冷戦終結以降、2014年の米国によるウクライナ政権転覆あたりまで、ロシアと仲良くする戦略を採っていた。その間に、ロシアの天然ガスを海底パイプラインでドイツに送るノルドストリームの計画が推進された。当時の欧州は、永久にロシアと仲良くするつもりで、米国がロシアを敵視することも永久にないと予測していた。だからこそ欧州は、消費するガスの半分をロシアに依存する構造を喜んで作った。しかし2014年以降、米国はどんどんロシア敵視を強め、対米従属の欧州は米国に引きずられてロシアを敵視せざるを得なくなり、今に至っている

ドイツは昨年ノルドストリーム2のパイプラインを完成させたのに、米国から反対されて稼働できず放置している。欧州にとって、米国は全く信用できない親分(従属先)である。米国が事前にドイツなど欧州に十分説明した上でロシア敵視を強めていたら、こんなことにならなかった。近年の米国は、ブッシュもトランプもバイデンも突然豹変するので予測不能だ(オバマは米国をまともな覇権国に戻そうとして道半ばで終わった)。日本は、米国が豹変するたびに無能な小役人を演じ、しょうもない従属国と批判されつつ、最低限の追随で済ませてもらって何とかなっている。だが米国は、ドイツなど欧州に対してもっと細かく意地悪で、欧州を困窮させている。プーチンは今回、こういう状況に便乗してロシアや非米側の対米自立や覇権拡大を実行しようとしている。欧州が今回のことに懲りて対米従属をやめていけるのかどうか。かなり怪しい。

ロシア政府は、いずれロシアが輸出するすべての産品をルーブル建てで決済したいと希望している。いずれ日本が輸入するLNGもルーブル払いになるかもしれない。そのころには世界的に、ルーブル払いに対する抵抗がなくなっていると予測される。もしくは日露関係が改善して円払いできるようになっているかもしれない