2022年4月3日日曜日

03- ルーブルでの支払いを拒否したEUへガス輸送を止め 東へ流し始めたロシア

 ロシアのプーチンは、西側による経済封鎖に対抗してロシアの天然ガスを購入する場合、非友好国はロシアの通貨ルーブルで支払うように求めていましたが、ドイツをはじめEUはその要求を拒否しました
 いまのところロシアからの天然ガス供給は別のパイプラインで行われているようですが、もしも全面的に停止すれば、米国から融通されるにしても価格は急騰するので、ドイツ・フランスをはじめEUは深刻な危機に直面します。
 櫻井ジャーナルが伝えました。
 田中.氏も、「ガスをルーブル建てにして米国側に報復するロシア」とする記事を出しました。併せて紹介します。
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ルーブルでの支払いを拒否したEUへの天然ガス輸送を露国は止め、東へ流し始めた
                          櫻井ジャーナル 2022.04.03
 ロシアのウラジミル・プーチン大統領は同国の天然ガスを購入する場合、非友好国はロシアの通貨ルーブルで支払うように求めていたが、ドイツをはじめEUはその要求を拒否した。​ロシアは4月1日にヤマル-ヨーロッパ・パイプラインでドイツへ流していた天然ガスを止め、東側へ流れを変えた と伝えられている。
 アメリカのジョー・バイデン政権に歩調を合わせ、ロシアと敵対する政策を進めてきたEUは深刻な危機に直面している現段階では別のパイプラインから天然ガスはEUへ供給されているが、今後、それがどうなるかは不明。もしロシアからの天然ガスが全て止まると、EUは生産活動だけでなく社会生活を維持することも難しくなると見られている。
 アメリカやカタールから入手するとしても生産量には限界があり、価格の暴騰は避けられない。中期的に対応できたとしてもロシアには中国という大消費地がある。さらにブラジル、インド、南アフリカを含めたBRICS、またパキスタンもインドの政策を賞賛している。そのパキスタンでアメリカはクーデターを計画しているとも言われているが、実行されてもカザフスタンのようなことになりそうだ。

 中東ではシリアやイランだけでなく、イラクもロシアとの関係が緊密化している。さらにアメリカの友好国だったはずのサウジアラビアやペルシャ湾岸の産油国もロシアに接近している。西側の政府や有力メディアの宣伝とは逆に、アメリカが孤立しつつある
 形勢を逆転させるため、アメリカは強引なことを行ってきたが、それが状況をさらに悪化させている。

 ウクライナの政治家、オレグ・ツァロフは2月19日に​「大虐殺が準備されている」と題する緊急アピールを発表、ボロディミル・ゼレンスキー大統領がごく近い将来、ドンバスで軍事作戦を始めるという情報を得たと主張した。この地域を制圧した後、キエフ体制に従わない住民を「浄化」するという内容で、西側からの承認を得ているともしていたの作戦と並行してSBU(ウクライナ保安庁)はネオ・ナチと共同で「親ロシア派」の粛清を実行することにもなっていたとされている
 この計画が成功すればドンバスを制圧し、ウクライナからロシア語系の住民を消し去ることもできただろう。その上でクリミアを制圧することも想定していた可能性があるが、その計画は実行する前に挫折した。
 ロシア軍はウクライナを攻撃しはじめた後、ウクライナ軍が残した文書を回収、3月にドンバス(ドネツクやルガンスク)をウクライナ軍は攻撃する計画だったことが判明したという。ツァロフの情報が正しかったことになる
 こうした情報が正しいなら、アメリカがウクライナの軍と親衛隊を利用して計画したロシア語系住民の大量殺戮計画にEUも関与していた可能性があり、天然ガスの問題でもアメリカ政府に逆らうことはできないだろう。


ガスをルーブル建てにして米国側に報復するロシア
                           田中  2022年4月1日
ロシアを経済制裁している米国側の諸国は4月1日以降、ロシア(国営企業ガスプロム)から天然ガスを輸入する際、ロシアの通貨ルーブルで支払わないとガスを売ってもらえなくなった。ロシアは米欧日など米国側から経済制裁されており、ロシアの政府や企業はドルやユーロでの決済を大幅に制限され、ロシア政府が天然ガス代金としてドルやユーロを受け取っても、それを使って米国側から商品を買えない。そのためロシア政府は、ガス代金をドルやユーロでなくルーブルで受け取りたい。

経済制裁は、ロシアのウクライナ侵攻に対する処罰だが、ロシアから見ると2014年以来ウクライナを政権転覆してロシア敵視の米傀儡国として支配してきた米国側の方こそ極悪であり、ロシアがウクライナを中立国(露陣営側)に戻すことはロシアにとって正当防衛だ。ロシアから見ると、米国側の対露制裁は不法行為だ。ロシアがドルやユーロを使えなくなっているのは不当であり、ロシア政府はその不当さを迂回するための正当防衛策として、米国側に天然ガスの代金をルーブルで払わせることを義務づけた。ロシアのこの措置は、ロシアを経済制裁している「非友好諸国」に対してのみ適用される。米国側は今のところ、ガス代をルーブルで払うことをガスプロムの契約違反として拒否している。 

米国側のうち、米英はロシアから天然ガスをあまり買っていないのでルーブル払いを拒否しても悪影響をあまり受けないが、ドイツを始めとするEU諸国は、消費するガスの半分近くがロシアからの輸入だ。EUがこのままルーブル化を拒否してガス代を払わないと、4月2日以降、ロシアからEUへのガスの輸出が止まり、すぐに化学品など各種の工業製品の生産が急減するなど、経済に深刻な被害が出る。欧州がロシア以外からの天然ガス輸入を大幅に増やすには5年以上かかる。日本も、消費する天然ガスの1割がロシアからの輸入だ。 

ロシア政府が米国側に「4月1日からガス代をルーブルで払え」と言い始めたのは3月25日ごろからだ。米国側は当初、これは政治的な脅しにすぎず、米国側がルーブルでなく従来どおりドルやユーロで次回のガス代を払ってもロシアは受け取ってガスを輸出し続けるだろうと考えていた。ロシア大統領府(クレムリン)の広報官は3月30日に、米国側がガス代をルーブルで払うまでに時間がかかるのは仕方がない(米国側のルーブル払いが遅れても、すぐにロシアがガスを止めることはない)と言っていた。 

しかしプーチン大統領は3月31日に、4月1日から非友好諸国にガス代のルーブル払いを義務づける大統領令に署名して発効させた。米国側がルーブルで払わない場合、4月2日以降、米国側はガス代をロシアに払っていない状態になることが確定した。4月2日以降、米国側がルーブル未払いの場合、ロシア側がガスの供給を減らすのかどうかは明確でない。だがドイツなどは、ロシアからのガス送付が減った場合にガス供給を配給制にするなどの応急策を検討している。プーチンの署名後すぐに欧州のガス先物相場が110ドル台から148ドルへと急騰した。 

米国側はロシアを経済的に完全排除しており、ロシアと米国側は厳しく対立している。ロシアはルーブル払いの義務化に従わない米国側への天然ガス供給を本当に減らす可能性が高い。ガスを止められたら欧州は大混乱と大不況になり、とても困る。とりあえずルーブル払いしておくのが得策だ。しかし、ドイツなどEUはルーブル払いを拒否し続けている。ロシア側は、ルーブル払いにするのは簡単だよ、と言っている。しかし米国側は、ガスを減らされたらすぐに大混乱に陥るEUでさえ、ルーブル払いを拒否し続けている。なぜなのか。私なりに考えてみた。

ロシア側によると、米国側がルーブル払いをするには、ガスプロム銀行に口座を新規開設し、そこにドルやユーロでガス代を預け、ガスプロム銀行に両替を頼んで口座内の資金をルーブルに替えてもらい、そのルーブルでガスプロムにガス代を払えば良い。しかし、米国側はこの手続きをやらないと言っている。3月30日、ドイツのショルツ首相とプーチンが電話会談し、プーチンがショルツに上記のやり方を説明したが、ショルツは断った。ドイツが断った理由について私が推測したのは、ドイツ政府は米国から強要された対露経済制裁の一環としてロシア政府の資産を凍結・没収しているので、ドイツ側がガスプロム銀行に口座を作ってユーロ資金を入れたら、没収された資産の一部を回収する名目で、ロシア政府がその資金を没収し、ガス代として使わせてくれないと予測されたからでないか、ということだ。

この推測が正しいのかどうかわからないが、とにかくドイツなどEUはロシアにガス代のルーブル払いを拒否しており、このままだとロシアが欧州へのガス送付を減らし、欧州経済は大混乱に陥る。土壇場の今日明日じゅうにEU側がルーブル払いの手続きを実行すればこの問題は解決するが、まだわからない。

独仏は国内にあるロシア側の資産を凍結・没収したが、日本政府は国内にあるロシア側の資産を凍結・没収していない。日本政府は「没収はG7で決めたことなのでやりたいですが、外国政府の資産を没収できる法律がないので実行できません」と言っている。実際は、資源大国であるロシアとの対立を強めたくないので放置してあるのだろう。日本政府は今のところ米欧と歩調を合わせてガス代のルーブル払いを拒否しているが、今後、ロシアが日本へのガス送付を止める(サハリンからのLNGの船積みを止める)展開にったら「やむを得ない」と言いつつルーブル払いをやるかもしれない。EUはロシアの資産を没収しているので対抗的な没収を恐れてルーブル払いに対応できないが、日本はロシア資産を没収していないのでルーブル払いに対応できる。「法律がありません」と無能な小役人を演じる日本政府は、実は賢い。

最終的に欧州や日本は、ルーブルでガス代を払うことになる。もしくは金地金など、ロシアがほしがる他の資産で支払うことになる。米国側は、プーチンの言うことをきかないわけにいかないことを露呈していく。この展開を見ている中国やインドや中東アフリカ中南米などの非米諸国は、ロシアとの関係を切らずに維持する傾向を強める。