沖縄弁護士会は12月10日、辺野古新基地建設の問題は、沖縄と政府の間だけの問題ではなく、国民全体の問題であるにもかかわらず、日本国民の多くは、着々と埋め立て工事を進めている政府の方針と行為につき、必ずしも強い関心を示していないように見受けられるとし、国民には日本の問題としてとらえ、同じ国民として痛みを分かち合い、苦しみを共有し、主体的に解決策を模索することを呼びかけるとともに、政府に対し、現状の不平等と不正義を改めて認識したうえで、住民自治の趣旨に則り、沖縄県民の意思を尊重し、これ以上沖縄県民の尊厳を重ねて傷つけることのないよう求める決議を行いました。
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辺野古新基地建設が、沖縄県民にのみ過重な負担を強い、その尊厳を踏みにじるものであることに鑑み、解決に向けた主体的な取り組みを日本国民全体に呼びかけるとともに、政府に対し、沖縄県民の民意を尊重することを求める決議
(12月10日 沖縄弁護士会)
1 現在、政府は、普天間飛行場の代替用地として米軍に提供すべく、沖縄県北部の辺野古崎海域において、埋め立て工事を行っている。沖縄県知事が埋立承認を取り消し、また撤回し、幾度となく上京して説明をし、また集中協議等の場で再考を求めても、遠い沖縄側の意向は何ら顧みられることなく、きょうも、淡々と工事が継続されている。
この間、沖縄県民を除く日本国民の多くは、かかる政府の方針と行為につき、必ずしも強い関心を示していないように見受けられる。
2 沖縄県民の多くは、辺野古新基地の建設に明確に反対をしている。このことは、同基地建設の是非を主たる争点として実施された過去二度の県知事選挙において、いずれも同基地建設に反対した候補が大差で勝利した事実に端的に表れている。
これは、沖縄県民の4人に1人が亡くなったともいわれる熾烈な地上戦が繰り広げられた地に、戦後70年以上の長きに亘り戦勝国の広大な基地が置かれ、その間も県民に様々な理不尽を引き受けてさせてきた挙句に、生物多様性に富む美しい自然を不可逆的に破壊してつくる新たな外国軍基地を受け入れよというのであるから、人間の心理、感情として、ごく当たり前のものといわなければならない
3 自国の防衛が、国民の合意の下で国が重点的に担う事項であり、国民が平和の恩恵を受ける対価として一定の負担を甘受しなくてはならないとしても、その負担は、合理的理由のない限り、全ての国民が等しく負うべきものであり、特定の地域の、それも歴史的・文化的に際立った特徴を有する地域の僅かな数の国民に、合理的理由なく、その明確な反対を押し切って大部分を負わせるなどという不正義・不平等は、あってはならない。
事情により負担の著しい偏りが避けられない場合であれ、我々国民は、全体として、負担の偏重を緩和ないし解消すべく、現状の措置に止むにやまれぬ理由が認められるか、更なる負担の加重を避ける方策はないかということを絶えず、真摯に検討し、たゆまぬ努力を続ける必要がある。それが、憲法の下で、不断の努力によって自由及び権利を保持する義務を負い(第12条)、法の下の平等を保障(第14条)された、国民全体の責務である。
4 普天間飛行場の返還は、その基地形成過程及び沖縄県民にこれまで課された過度な負担からすれば当然の施策であり、平成8(1996)年のSACO合意を待たずとも、決定、実行されなければならなかった施策である。
では、同飛行場の代替施設という名の下に、辺野古に新基地を建設することは、我が国の防衛上、止むにやまれないものと認められるであろうか。米国海兵隊が沖縄に引き続き駐留し、ローテーションの中で訓練を行うことは、我が国の防衛上、代替性のない唯一の選択肢といいうるであろうか。
政府はこれまで、この点についての合理的な説明を何らなしえていない。むしろ、日米両政府の元高官らの数々の発言からは、米国海兵隊の沖縄駐留が、軍事的に代替不可能な唯一の選択肢として把握されているわけではないことが明白である。
5 世界人権宣言前文、国際人権規約前文、そして日本国憲法第13条は、個人の尊厳を保障する旨規定している。これは、一方において、他人の犠牲において自己の利益を主張しようとする利己主義に反対し、他方において、全体のためと称して個人を犠牲にしようとする全体主義を否定して、全ての人間を自主的な人格として平等に尊重しようとするものであり、かように人間固有の尊厳を承認することが、人権保障の核心であるとの人類共通の理解に基づいている。
そのため、「代替基地を沖縄県内に新たに設けることについての止むにやまれぬ理由」につき合理的な説明のないまま、長年基地負担に苦しんできた県民が繰り返し且つ明確に拒絶するなかでこれを建設することは、沖縄県民の自主的判断を軽視し、同県民を他県民と平等に扱わないこと、すなわち、同県民を他の県民と同様に「自主的な人格として平等に尊重していない」ことを意味するものであり、また、同県民の尊厳を軽んずる、極めて不当な施策であるといわなければならない。
同様のことが沖縄県以外の地域で問題となった場合、日本政府及び国民は、沖縄に対するのと同様に、不正義・不平等に目をつむり、唯一の解決策であるとして、当該施策を是認するであろうか。本州や九州、北海道や四国で同様の不正義・不平等が生じた場合、日本政府及び国民は、正義及び尊厳の問題としてこれをとりあげ、解決に向けて、全体で取り組むのではなかろうか。かような正義感は、沖縄の問題においては、何故に発揮されないのであろうか。
6 また、日本国憲法は「地方自治の本旨」(92条)を保障している。この「地方自治の本旨」の内容を構成する住民自らの意思に基づいて地域の事項を決定するという住民自治の趣旨からすれば、二度の沖縄県県知事選挙の結果に表れた辺野古新基地建設反対の民意は、最大限尊重されなければならないものである。
7 当会は、全ての日本国民に対し、沖縄の問題を自らの問題、日本の問題としてとらえ、同じ国民として痛みを分かち合い、苦しみを共有し、主体的に解決策を模索することを呼びかけるとともに、政府に対し、現状の不平等と不正義を改めて認識したうえで、住民自治の趣旨に則り、沖縄県民の意思を尊重し、これ以上沖縄県民の尊厳を重ねて傷つけることのないよう求める次第である。
以上、決議する。
2018年(平成30年)12月10日
沖 縄 弁 護 士 会
提 案 理 由
(長文につき省略します 全文は下記を参照ください)