2018年12月30日日曜日

東京新聞 <税を追う> 歯止めなき防衛費 15 (最終回)

 当ブログの休刊によって、「東京新聞 <税を追う> 」の紹介が「歯止めなき防衛費(4)」で止まっておりました。
 同シリーズは「歯止めなき防衛費(10)」(11月25日)で終了しましたので、残りの(5)~(10)の6編をここに紹介します。
 
 このシリーズは、アメリカの対日兵器商売が如何にデタラメでボロいものであるかを如実に示したもので、並みの商業新聞が敢えて触れないものを報じた画期的な企画でした。
 
 トランプ大統領は、先に安倍首相が訪米して米国兵器の大量購入を約束させられた後、記者たちに「シンゾウ(晋三)は、私が脅かせばいくらでも買ってくれる」と語ったと伝えられています。
 アメリカに言われれば、数百億~数千億円の無駄で無能力の米国兵器をいくらでも即座に買う一方で、国内では犯罪的な統計手法まで用いて、生活保護世帯から年額160~210億円を削減しようとしています。
 
 兎にも角にも、自らが売国奴であるという認識をまるっきり持たないという点が、安倍首相が政治家の風上にも置けない失格者であることを何よりも雄弁に証明しているのですが、そうした人間を首相にしている国民も決して「無責」ではありません。
 トーマス・カーライルの警句「この国民にしてこの政府あり」を、我々は繰り返し思い起こす必要がありそうです。
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<税を追う> 歯止めなき防衛費(5) 貿易赤字解消図る米大統領
                  「兵器買え」強まる流れ
東京新聞 2018年11月18日
 「武器」と「カジノ」。
 今年の夏以降、訪ねてくる旧知の米国関係者たちから、何度この言葉を聞いたことだろうか。
 「彼らに訪日の目的を尋ねると、用件は必ずこの二つの利権だ」。日本総合研究所の寺島実郎会長は、急速に矮小(わいしょう)化している日米関係を肌で感じている。
 訪ねてきた人の多くは、知日派の元政権スタッフや元外交官ら。「日本通であることで米国の防衛やカジノの関連企業などに雇われた彼らが、対日工作のため動き回っている構図が、ここに来てくっきり見える」と明かす。
 一基で一千億円以上する迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に象徴されるように、安倍政権は国難を理由に米国製兵器の購入にアクセルを踏む。
 
 右肩上がりで増える日本の防衛費に、米軍需メーカー幹部は「安倍政権になってビジネス環境はよくなった」と手放しで喜ぶ。
 追い風を吹かしているのがトランプ米大統領だ。約七兆円に上る対日貿易赤字をやり玉に挙げ、日米首脳会談のたびに、安倍晋三首相に米国製兵器や化石燃料などの購入を迫ってきた
 通商と安全保障をパッケージにして、兵器を「ディール(取引)」として売り込む。その姿は、さながら武器商人だ。元米海兵隊大佐で、日本戦略研究フォーラムのグラントF・ニューシャム上席研究員は「トランプ氏は、日本が自分の防衛を十分果たさず、米国にただ乗りしていると考えている」と指摘する。
 「私は(安倍首相に)『われわれは巨額の赤字は望まない。あなたたちはもっと買わざるを得なくなるだろう』と言った。彼らは今も大量の防衛装備品を買い続けている」。米紙ワシントン・ポストによれば、トランプ氏は九月下旬のニューヨークでの記者会見の際、直前に行われた安倍首相との会談で、そう迫ったことを強調した。
 
 対日貿易赤字の多くを占める自動車は、日本経済を支える基幹産業。トランプ氏が赤字削減のため、日本車の追加関税に手を付ければ、国内経済への打撃は避けられない。
 「米国装備品を含め、高性能な装備品を購入することが日本の防衛力強化に重要だ」と応じた安倍首相。大統領の得意のせりふ「バイ・アメリカン」(米国製品を買おう)への抵抗はうかがえない。
 「TPP(環太平洋連携協定)交渉で、自動車の輸出と農産物の輸入をてんびんに掛けられている農協の気分だ」。国内の防衛産業は、自分たちの食いぶちを奪われかねないと戦々恐々だ。ある大手メーカー幹部は、自民党の国会議員から「自動車を守るためのバーターとして、米国から高い武器をどんどん買えという流れになっている」と打ち明けられたという。
 小切手を切ってくれそうなところに請求書が行くように、増大する日本の防衛費に米国が群がっている。「今や米国にとって日本は草刈り場だ」という寺島氏は、対米交渉に警鐘を鳴らす。
 「日本に東アジアの安全保障に対するしっかりした構想がないから、米国に武器を売り込まれる。トランプ政権の期待に応えるだけでは利用されるだけだ」
 
 
<税を追う>歯止めなき防衛費(6)対外有償軍事援助 米優位 
         もの言えぬ日本
東京新聞 2018年11月19日
 いつ電話してもつながらず、留守電に要件を吹き込んでも連絡がない。らちが明かずワシントン郊外の米国防総省から一キロ先の米軍のオフィスに乗り込んだ。中に入ると、あちこちで電話が鳴っていた。それでもスタッフらは構わずに目の前の業務を続けていた。
 これは二十年ほど前、米国駐在だった防衛省職員が目にした「対外有償軍事援助」(FMS)を巡る米側の対応だ。米国から兵器を輸入する際、FMSでは米政府が窓口になる。
 職員は「米軍の担当者は高飛車というか、売ってやっているという、上から目線を感じた」。防衛装備庁有償援助調達室の森伊知朗室長は「今も状況はほとんど変わらない」と語る。
 
 FMSは米国に有利な取引で、価格や納期は米側が主導権を握る。昨年十月、会計検査院が装備庁に注文を付けたFMS取引の不備は、米国にもの言えぬ日本の立場を物語るものだ。
 パーツ番号が合わない、数量が異なる、空欄のままになっている…。検査院が調べたところ、早期警戒機など二〇一四~一五年度の六十四契約(総額六百七十一億円)すべてで、米側から届いた納品書と精算書の記載に食い違いがあった。検査院の担当者は「官の会計処理としてありえない」とあきれる。
 しかも、食い違いは常態化していた。原因は米側にあるというのに、森室長は「こういうものだと思って米政府には改善を求めてこなかった」と釈明する。
 
 契約金額は高額で、一歩間違えば日本に大きな損失が出る。米側に請求ミスがあっても、一年以内に通知しなければ補償してもらえない。にもかかわらず、確認を求めても回答は遅い。
 検査院によると、米政府から「あまりに問い合わせが多いので、もっと絞ってくれ」と言われた職員までいたという。
 食い違いを米側に問いただすのは最終手段で、米軍サイトで照合したり、書類の別の記載で類推したりしていたという。結果的にチェックは甘くなる。検査院は「十分に疑義を解明しないまま、装備庁は精算していた」と指摘する。
 
 「日本は足元を見られている」。そう語る元航空幕僚長の田母神俊雄氏も、かつてFMS取引の理不尽さを味わった一人だ。
 空幕装備部長だった約二十年前のこと。「リンク16」と呼ばれる米軍の情報共有システムの導入を決めた途端、米国は価格を一億三千万円から二億五千万円に引き上げてきたという。
 「米軍幹部に直接、『信義にもとる』と抗議すると一カ月後、元の価格に戻った」と田母神氏。「なぜ価格が上がったのか、なぜ元に戻ったのか説明もない。FMSって常に米国の勝手なんですよ」。今も米国の言い値であることに変わりはなく、FMSへの依存度を強める日本の将来に危機感を抱く。
 昨年十二月、検査院に背中を押されるように装備庁は、米政府に納品書と請求書の食い違いがないように求めた。だが米側の対応は鈍い。今年一~八月の六十六契約のうち、食い違いは実に七割超の五十契約(総額二千百八十億円)で見つかっている
 
 
<税を追う>歯止めなき防衛費(7)国内防衛産業 
         機関銃価格 米の7倍
東京新聞 2018年11月21日
 「日本は米国の七倍の値段で買っている
 今年四月、財務省で開かれた財政制度等審議会の分科会。葛西敬之・JR東海名誉会長や永易(ながやす)克典・三菱UFJ銀行特別顧問ら経済界の大物委員の前で、主計局防衛係の内野洋次郎主計官が説明した。
 やり玉に挙がったのは住友重機械工業がライセンス生産する軽機関銃「MINIMI(ミニミ)」。ベルギーの銃器メーカー「FNハースタル」が開発、一分間に七百五十~千発撃つことができる。住友重機はハースタル社にライセンス料を払って設計図を購入、部品製造から組立まで行う。
 自衛隊はMINIMIを一九九三年度から購入し始め、陸・海・空で約五千丁を保有する。以前は毎年二百丁前後調達していたが、二〇一三年に機関銃の試験データ改ざんが発覚した以降は大幅に減少。一七年度は四十八丁だった。
 調達数の減少に伴い、単価が高騰した。同じライセンス生産をしている米国が一丁四十六万円、オーストラリアが四十九万円なのに対し、日本は三百二十七万円と七倍前後だ。
 
 「さすがに納税者は許さないでしょう」。日本の防衛産業界に広い人脈を持つ関係者はため息交じりに漏らす。住友重機の担当者は財務省の指摘にはコメントせず、「今後も企業努力を重ねていく」と話した。
 日本の防衛装備品が高額になる大きな要因の一つが「原価計算方式」。装備品は市場価格がないため、メーカー側が材料費や加工費などの原価を積み上げ、そこへ防衛省が一定の利益を上乗せして価格が決まる。利益率は製造業の平均を基にしており、関係者は「おおむね6%弱」と言う。
 「原価が増えれば利益も膨らむ構造になっており、企業が自主的に原価を下げる方向には向きにくい。そうした問題点は以前から認識していた」。防衛装備庁の担当者はそう話す。
 
 コスト意識が働きにくいだけでなく、原価を水増しして過大請求する事件も後を絶たない。最近十年間の主な事例でも、三菱電機の二百四十八億円など十三社で計四百九十五億円の過大請求が発覚。国庫に返納するとともに多額の違約金を支払っている。
 装備庁は抜き打ち調査を増やしたが、一六年度の契約実績は約六千七百件、二兆円近くに上り、別の担当者は「検査する人がとても足りない」と言う。
 防衛産業は専門性が高く自衛隊との関係は深い。防衛省と契約実績のある企業には毎年、自衛隊の一佐以上と本省課長相当以上の幹部だけで六十~八十人天下る。自衛隊のある元幹部は「再就職先の企業が仕事を取るためにOBを連れて来ることはある」と話す。
 
 防衛産業界から政界への献金も毎年多額に上る。防衛省の契約上位十社のうち八社は一六年、自民党の政治資金団体「国民政治協会」に計一億三千二百八十万円という多額の献金をしている。八社の一六年度の受注額は地方分を除いて八千八百五十一億円と、全体のほぼ半分を占める。
 改善されない高コストや繰り返される水増し請求。財務省幹部は「防衛産業というムラ社会で、競争力が落ちている」と指摘する。
 その背後に政界と業界、防衛省・自衛隊のもたれ合いが浮かび上がる。
 
 
<税を追う>歯止めなき防衛費(8)中期防兵器リスト
         「八掛け」で詰め込む
東京新聞 2018年11月23日
 「機動戦闘車、九十九両」
 「ティルト・ローター機(輸送機オスプレイ)、十七機」
 「戦車、四十四両」……
 二〇一三年十二月に閣議決定した現行の中期防衛力整備計画(中期防)。一四~一八年度の防衛費の総額を二十三兆九千七百億円程度と定め、購入する兵器の名前がずらりと記してある。中期防は五年ごとに策定される、いわば兵器の「買い物リスト」だ。
 各兵器の防衛省の見積額は、企業との取引に影響があるとして非公表だが、財務省が実際の購入額と比較すると、見積もりのずさんさが浮かび上がった
 
 機動戦闘車は一両四・八億円の見積もりに対し、購入額は七・一億円(48%増)。オスプレイは一機六〇・五億円→七四・六億円(23%増)、戦車は一両十億円→一一・五億円(15%増)など、二十二品目のうち十五品目で見積もりより高騰していた。
 価格が高騰すれば数量を減らす必要が出てくる。国産の機動戦闘車は十二両、戦車は四両減らした。C2輸送機(一機二〇六・四億円)も当初の十機から七機に。計九品目で目標を達成できないという、ちぐはぐな結果だ。一方、オスプレイは計画通り十七機を米国から輸入する。その分、他の兵器を減らした格好だ。
 「こんなに購入単価が上がってしまっては(購入する)数量が達成できないのは当たり前だ。コスト管理ができていない」。財務省幹部は指摘した。なぜ取得価格は上がったのか。
 
 防衛省の末永広防衛計画課長は「消費税率が5%から8%に上がり、装備品によっては加工費や材料費も上がった」と説明。為替レートが円安になり、米国から兵器を調達するコストが増えたことも原因に挙げたが、財務省は為替の影響額を除いて計算しているので理由にならない。
 現場からは、別の声が聞こえる。「『ポツハチ』を掛けたりするんだよ」。十年ほど前に退官した元自衛隊幹部が明かした。ポツハチとは「見積もりを0・8倍する」という意味だ。
 「中期防のリストに(兵器の)アイテムが載っていないと、絶対に事業化されない。だから、見積額を八掛けにして無理やり入れている、というのが実態だ」
 このため調達の際には当然価格が上がり、逆に数量が減る事態が起きる。会計部署を経験したことがある現役自衛官の一人は「中期防に詰め込むだけ詰め込むやり方は、今も変わっていない」と証言する。
 
 「F35戦闘機や無人偵察機グローバルホーク、(ミサイル防衛に使う)イージスシステムなど、日本は高価な装備品を好むようだ
 そう指摘するのは元米海兵隊大佐で日本戦略研究フォーラム上席研究員のグラント・ニューシャム氏。例に挙げた兵器はいずれも米国製だ。政府は来月、一九~二三年度の新しい中期防を決定するが、ニューシャム氏は戦略的視点が欠けているとする。
 「必要なものが何か。包括的・体系的に評価しないまま兵器を購入している。買うだけでなく、金額に注意を払い、必要に応じてお金を使うべきだ」
 
 
<税を追う>歯止めなき防衛費(9)米軍再編費、
         要求ゼロ 膨らむ予算「裏技」駆使
東京新聞 2018年11月24日
 「要求額を見掛け上、小さくしていると批判が来ることは分かっていた。でも、そうせざるを得ないほど、後年度負担がのしかかっている」。防衛省の幹部が正直に打ち明けた。
 
 二〇一九年度予算の概算要求は、本年度当初予算から2・1%増となる過去最大の五兆二千九百八十六億円。防衛費の概算要求上限のぎりぎりの額だが、実はそれでも足りず、本来盛り込むべき費用を外していた。本年度二千二百億円を計上した米軍再編関係費だ。
 原因は後年度負担と呼ばれる国産・輸入の兵器ローンにある。安倍政権による米国製兵器の輸入拡大に伴い、一九年度の返済は二兆七百億円に。同時に返済額より四千四百億円多い新たなローンが発生する。まさに自転車操業。ローン残高はわずか六年間で二兆一千億円も増え、来年度は五兆三千億円を超す
 
 幹部は「概算要求に米軍再編関係費を入れるとパンパンになる。そこで上の判断でゼロにした」と言う。毎年発生する経費のため、通常は前年度と同額を仮置きするが、今回は額を示さずに項目だけ入れ、判断を政府に投げる異例のやり方にした。例年通りに盛り込んでいれば総額は五兆五千億円を超え、6・3%の伸びとなる。それを「小さく見せた」のだった。
 防衛費は北朝鮮情勢や中国の海洋進出などを理由に六年連続で増加している。第二次安倍政権発足後、毎年1%超と伸びているのは他に社会保障費だけだ。
 戦闘機F35や輸送機オスプレイ、早期警戒機E2Dなど、米国の対外有償軍事援助(FMS)に基づく輸入兵器のローン残高は、一三年度の千九百十九億円から本年度は約六倍の一兆一千三百七十七億円。そこへ機動戦闘車や潜水艦など高騰する国産兵器が輪を掛ける。
 
 ある幹部自衛官は「予算は増えても全然足りない。もっとつけてもらわないと日々の活動費を削らなければならない」と言う。
 増え続ける本予算だけでは足りず、防衛省は補正予算にもローン返済を組み込む「裏技」を使うようになった。
 補正は災害対応などが本来の趣旨だが、一四年度以降は艦船やミサイルの取得費の計上が常態化している。政府ぐるみでなければ、とてもできない。予算編成に詳しい防衛省の元幹部は「かつて補正で装備品を買うことは考えられなかった。何でもありになっている」と懸念している。
 
 見た目以上に膨張している防衛費。安倍晋三首相は年末に策定する新しい「防衛大綱」と、向こう五年間の「中期防衛力整備計画(中期防)」に向け、ことあるたびに「従来の延長線上ではない防衛力」を強調してきた。防衛費拡大の布石は至るところに打たれている。
 「今のような政策を続け、中期防で予算を積み増していけば、どこかで財政的にパンクする。専守防衛で許される防衛力とは何か。根源的な議論が必要だ」。軍事ジャーナリストの前田哲男さんは、なし崩しの防衛費増大に危機感を覚える。
 予算増大の圧力が国の内外で強まり、専守防衛が揺らぐ。財政が危機的状況の中で、軍備増強を進める北朝鮮や中国と競うように、日本は軍拡へと転換するのか。来月示される政権の結論を注視する必要がある。
 
 
<税を追う>歯止めなき防衛費(10)辺野古新基地建設 
         県民抑え 際限なき予算
東京新聞 2018年11月25日
 ボートの舳先(へさき)に座る黒ずくめの乗員が威嚇するように、抗議船にビデオカメラを向けている。サングラスに黒のマスクで顔を覆った乗員は拡声器を手に、ひっきりなしに警告する。「ここは臨時制限区域です。速やかに退去してください」
 沖縄県名護市辺野古(へのこ)の米軍キャンプ・シュワブから約五百メートルの沖合。今月二十日、海上で新基地建設に抗議する小型船に同乗した。工事区域への立ち入りを規制するフロートの内側にいたのは、防衛省沖縄防衛局から警備業務を請け負った民間警備艇だった。
 一日から海上工事が二カ月ぶりに再開。美(ちゅ)ら海(うみ)は再びフロートで仕切られた。基地反対運動を撮り続ける名護市の写真家、山本英夫さん(67)は「国はカネがないと言いながら、ここでは基地反対の民意を抑えるために毎日二千万円も使っている。モリカケ疑惑なんかの比じゃないよ」と、警備艇に怒りをぶつけた。
 
 新基地建設が本格化した二〇一四年度以降、海上保安庁の警備に加え、民間の警備艇が二十四時間態勢で監視している。海上警備の予算は一五~一七年度で計百六十一億円。座り込みが続くシュワブ・ゲート前での陸上警備の予算を合わせると、三年間の総額は二百六十億円に上る。
 「一日二千万円の警備費」は、新基地に反対する「沖縄平和市民連絡会」メンバーで元土木技術者の北上田毅(きたうえだつよし)さん(72)が防衛局への情報開示請求で暴いた。「一日の人件費が一人九万円で積算されており、あぜんとした。国策だったら何でもありなのか」と嘆く。
 その後、会計検査院が海上警備費を調べると、防衛局は「業務の特殊性」を口実に国の単価ではなく業者の見積もりをそのまま採用していたことが発覚。一五~一六年度で計一億八千八百万円を過大発注していた。
 コスト意識の乏しい防衛局。それが、かえって県民の反感をあおっている。名護市の自営業、島袋正さん(58)は訴える。「ヤマト(本土)の人は、辺野古は沖縄だけの問題と思ってるかもしれないが、自分たちの税金が無駄に使われているわけさ。国民一人一人にしわ寄せが来てるんよ」
 
 そもそも政府は当初から「禁じ手」を使っていた。
 一三年十二月、当時の仲井真弘多(なかいまひろかず)知事が辺野古埋め立てを承認すると、政府は一四年七月、建設費百四十二億円を予備費から支出した。国会審議を経ずに閣議決定だけで支出できる予備費は、災害などの緊急時に限られる。沖縄では当時、建設反対の大きなうねりが広がっていた。
 「野党の追及を避け、基地建設を強行したい政権の姿勢が表れている」と分析するのは新藤宗幸・千葉大名誉教授(行政学)。「予算は国会の議決が必要という財政民主主義に反する姑息(こそく)な行為」と批判する。
 埋め立てすら手付かずなのに、辺野古には既に千二百七十億円が支出されている。政府が当初、想定した総事業費は三千五百億円以上。巨額の税金を垂れ流しながら、今後いくらかかるのか、見通しさえ国民に明らかにしようとしない。
 沖縄選出の赤嶺政賢衆院議員(共産)は金に糸目を付けない政府のやり方に憤る。「辺野古で予算なんてあってないようなもの。県民を黙らせることが予算の最大の要件なんだ」 =おわり
(鷲野史彦、原昌志、中沢誠、望月衣塑子、藤川大樹が担当しました)