ラベル ・教育 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル ・教育 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2019年12月19日木曜日

19- 英語試験民営化・記述式見送り 政治の責任を問うべき

 萩生田文科相は17日、2020年度からの大学入学共通テストのうち国語と数学の記述式問題を取りやめ白紙に戻すと発表しました。受験生にとっての土壇場になっての変更で文科省の責任厳しく問われます
 その一方で、英語民間検定試験の導入は延期されただけで、24年度には実施する姿勢を崩していません。長年検討してきながら合理的な方法が見つからなかったものを、短期間で解決できるというのは甘い考えというしかなく、民間導入にからむ利権を確保したいという思惑が垣間見られます。

 そもそも英語試験の民営化は安倍首相の私的諮問機関「教育再生実行会議」13年10月に出した「第4次提言」、「TOEFL等の語学検定試験」を入試に活用するように促したことに端を発していて、それを受けて下村博文文科相(当時)が20年に実施するよう指示を出したことが今日の混乱につながりました。
 誤った政治主導がもたらしたものである以上、「政治」の責任において記述式問題と同様に英語試験の民営化も白紙に戻すべきです。

 神戸新聞の社説「記述式見送り/政治の責任も問うべきだ」を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
社説 記述式見送り/政治の責任も問うべきだ
神戸新聞 2019/12/18
 萩生田(はぎうだ)光一文部科学相はきのう、2020年度からの大学入学共通テストで導入予定だった国語と数学の記述式問題を取りやめると発表した。「安心して受験できる体制を早期に整えることは難しいと判断した」と述べた。
 何を今さら、である。
 実施まであと1年という土壇場になって、やっと正式に見送りが表明された。しかし、教育現場の混乱は収まる気配がない。説明も至って不十分だ。

 記述式を巡っては採点ミスの恐れや自己採点の難しさなど、数年前から入試の根幹にかかわる課題が指摘されてきた。ところが文科相はつい2週間ほど前まで実施ありきのかたくなな姿勢だった。
 受験生を翻弄(ほんろう)した文科省の責任は厳しく問われねばならない。うやむやにすれば、同じ失敗を繰り返す恐れがある。
 まずは国語と数学の問題作成や配点の見直し、試験時間の配分などをできるだけ早く詰めて公表する必要がある。今のままでは対策の取りようがなく、受験生の不安は膨らむばかりだ。

 現在の大学入試センター試験の後継となる共通テストは、「1点刻みからの脱却」を掲げた大学入試改革の核という位置付けだ。その目玉が記述式問題と英語民間検定試験の導入だった。
 しかし、どちらも中止に追い込まれた。制度設計のずさんさを考えれば当然の結果だが、入試改革そのものの意義が問われる異常事態に陥った

 共通テストの導入に至る経緯をたどると、安倍政権の教育再生実行会議の提言に行き当たる。
 中でも英語の民間検定試験の導入は、グローバル人材を求める産業界の強い意向を受けて決まった。政治主導の入試改革といえる。
 入試制度の見直しには、そうした経緯を明らかにすることが不可欠だ。政治の責任は極めて重い。

 きのうの会見で文科相は「記述式は期限を区切った延期ではない。まっさらな状態から対応したい」と話した。一方、英語は24年度をめどに新形式の試験を始める意向を示している。
 英語についても実施時期ありきではなく、一から問題点を洗い出さねばならない。50万人以上が受ける試験でありながら、民間に採点などを丸投げすることが果たして適切か、再考すべきだ。
 神戸新聞は、これまでも社説で入試制度の抜本的な見直しを訴えてきた。記述式の見送りが決まった今、改めて公平性を重視した丁寧な議論を求めたい。

2019年12月17日火曜日

民間に依拠した入試システムの「改革」は基本的な誤り

 来年度から実施される大学入学共通テストで、「英語民間試験」は延期され、採点業務を民間に委ねた「国語・数学の記述式」も今週、実施見送りを正式に決定する運びになりました。
「英語民間試験」「国語・数学の記述式」の問題点では多少意味合いが違いますが、民間受験業者との利権を背景にした自民党の政治主導に、文科官僚がやむなく従わされたことの理不尽さが、土壇場になって方法論の未熟さ・拙さとして露わになったという点では同じです。
 文科省が数年かけて作り上げた方式が、受験生や教官らの批判に堪えないものであったのに、それを今後1年程度掛ければ満足なものに仕上がる筈などありません。

 そもそも政治主導の方針が間違ったものであれば、どんなに努力したところで不満足で実施するに堪えないものしか出来上がりません。「英語民間試験」「国語・数学の記述式」は、実施を延期するのではなく廃止するのが筋です。

 安倍首相は第一次安倍内閣の時代から教育改革(実体は右翼化・改悪)に殊のほか熱心でした。彼は取り分け道徳教育の必要性を強調していましたが、ウソを吐き、自分の非は決して認めず、証拠になる公文書は全て改竄するか破棄するという彼自身こそが「道徳・倫理」の対極にあると明らかになったのはまことに皮肉なことです。
 今回の大学入学共通テスト問題は、まさに安倍内閣の醜悪さが露呈されたものと見るべきです。

 日刊ゲンダイが、大内裕和・中京大教授教育社会学)に「注目の人 直撃インタビュー」を行いました。

註)文中「eポートフォリオ」という聞きなれない言葉が登場しますが、ネットによれば「生徒の「学び」の記録を電子化し、教師と共有することで進学や就職に活用するもの」と説明されています。⇒ https://resemom.jp/article/2018/04/19/44151.html 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
注目の人 直撃インタビュー 
大内裕和氏 民間背後の教育改革は格差拡大の失敗繰り返す
日刊ゲンダイ 2019/12/16
 30年続いた「センター試験」に終止符を打ち、来年度から実施される大学入学共通テスト。「英語民間試験」は延期され、採点業務を民間に委ねた「国語・数学の記述式」も実施見送りの公算が高まっている。入試改革の目玉だった民間活用は総崩れの様相だ。なぜ、こんなポンコツ入試がギリギリまで導入されようとしていたのか――。大学教授らでつくる「入試改革を考える会」代表の中京大教授・大内裕和氏に聞いた
◇   ◇   ◇
 ――大学入学共通テストに民間業者を参入させる入試改革が迷走しています。英語民間試験は延期されました。
 英語民間試験にかなり問題があるということは、以前から専門家の間では広がっていましたが、メディアの扱いが小さく、世間一般にはあまり伝わっていなかった。私は今年8月からこの問題に取り組み、焦点を絞りました。英語民間試験は、経済的な負担が増加することも含めて、経済格差、地域格差が拡大するという論点が一番わかりやすく、伝わりやすいと考えました。
 ――9月以降、英語民間試験についての報道は急増しました。
 大学入試が、公平・公正に行われないということは、保護者を含めてとても関心が強いのです。そんな中、10月24日のテレビ番組で、萩生田光一文科相から、格差を容認する「身の丈」発言が飛び出した。世間で話題になっていたから、キャスターは格差の問題を質問したのです。
 ――ベネッセの子会社に採点業務を委託する国語と数学の記述式も中止すべきとの声が拡大しています。
 短期間に大規模採点することの問題や、自己採点が困難など、物理的に実施は無理との見方が大勢です。文科省も国語の記述式の結果を、国公立大の2次試験の足切りで使わないよう要請することを検討しているくらいです。正確に採点できないことを半ば認めている
 ――記述式の意味がなくなっているとの指摘もあります。
 模範解答があっても、違う解答がたくさん出てくるのが記述式。大規模採点は難しい。そこで、採点しやすくするために、問題の方にいろんな誘導や規則をつけているのです。記述式は選択問題と違って、自由に書いたり、表現したりするから、思考力や表現力を判定できるのですが、記述式の長所を完全に奪う矛盾に陥ってしまっている
 ――採点しやすい問題の極みが数学の記述式です。
 途中経過を書かせるのが数学の記述式なのに、数値や記号を書くだけで、マーク式でもできる問題になっている。加えて、同じ解答でもさまざまな別の表現があり得るのが数学なのに、模範解答と違ったら「×」にされてしまうという問題もある。民間参入の英語も国語・数学の記述式もすべて破綻しているのです。

疲弊した学校現場に民間がつけ入る
 ――なぜ、政府は無理な制度を導入しようとするのですか。
 メリットがないのに導入しようとするのは、何か他に理由があると考えるのが論理的です。ベネッセをはじめとする民間業者と政治家や文科省との利権関係を疑わざるを得ない。ただ、個々の癒着問題も重要ですが、公教育への民間参入という大きな流れで見ないといけない。
 ――と言いますと。
 教育の新自由主義改革です。教育を公の費用ではなくて、民営化するという流れがずっと続いている。教育予算を削って、教育に税金を回さない。加えて、減らされた後のなけなしの税金は、公教育ではなく何とベネッセに回るのです。
 ――具体例はありますか。
 英語のスピーキングです。民間試験を導入するよりも、英語教員を増やし、1クラス40人から20人にして、生徒が話す時間を倍増させた方が話せるようになりますよね。ところが、教員増ではなく、民間参入の方向に進むのです。
 ――民間業者は喜んでも、教育現場は大変ですね。
 ますます現場は疲弊しています。自前の教材やテストを作ろうと思っても、そんな余裕はない。そこにベネッセが現れ、「うちを利用すれば便利ですよ」と持ち掛ける。先生も人間ですので、疲れていたら頼りたくなります。
 ――少子化でマーケットが縮小する中、教育ビジネス関係者にも危機感があった。
 そうですね。新規市場を開拓しなければならない。例えば、小学校の英語導入は、中高の6年に小学校の6年を入れて、12年にすれば、子どもの人数が半分になっても市場は維持できる。その流れに大学入学共通テストへの民間参入があります。これまでは模擬試験や対策ビジネスだったが、本番の試験までやってしまうと。問題作成や採点業務の売り上げだけでなく、本番の試験の一翼を担えば、「うちの教材や模試は役立ちますよ」とPRできるので、対策ビジネスは拡大します。実際、ベネッセは、共通テスト検証事業の「採点助言事業」を受託していることを営業活動に使っていました
 ――民間参入により出来上がった共通テストは、撤回せざるを得ないようなデタラメだった。文科省の官僚はブレーキをかけられなかったのか。
 昔なら官僚が、これは試験としては成り立たないと止めたはずです。しかし、内閣人事局をつくって、官邸の官僚コントロールが利いているので、ここまで引っ張ってしまったのです。教育政策について、官僚が持っている最低限の合理性や客観性を飛び越して、安倍官邸と少数の政治家のパワーによって、政策がねじ曲げられたのです。

■「eポートフォリオ」も要注意
 ――この先、要注意の「教育改革」はありますか。
 大学入試改革では主体性を重視するといわれていて、「eポートフォリオ」の導入が検討されています。高校での学習や部活動の記録を生徒自身が入力し、電子データにまとめるのです。これを高校教諭が作成する調査書と連動させて大学入試に使う案が出ています。
 ――主体性ですか。
 高校生は、入試に有利なのかどうかを考えて、活動するようになります。評価のために主体性を発揮するなんて、主体的ではありませんよね。
 ――高校生活全体の活動が監視、管理され、評価されるのですか。背筋がゾッとしますね。
 高1、高2をサボっていても、高3でエンジンかけて受かる人が出にくくなる。また、さまざまな活動には資金も必要。出身家庭の経済力に左右されることにもなる。
 ――何でも入試につなげてやろうとしていませんか。
 主体性を重視するなら、入試で評価するのではなく、高校時代に自由に活動できるようさまざまな基盤整備をするのが筋。入試は、大学に入ってからついていける能力を公平なやり方で選抜することが最も大切。当日の試験だけで選抜するのが一番公平だと思います。
  ――「eポートフォリオ」の導入にも裏がありそうですね。
 教育改革の背後に民間あり。「eポートフォリオ」をリードしているのもベネッセなのです。高校生の日々の活動はとても貴重な個人情報です。個人情報を手に入れて、ビジネスを展開するのではないかという疑いを持ちます。
  ――公教育軽視と民営化の構造が変わらなければ、この先も同じことが起こりませんか。
 公教育と私教育は別なのに、公教育のトップである文科大臣まで区別ができなくなっている。萩生田文科相の「身の丈」発言の際、都心部で経済的に豊かな生徒が民間試験の準備をたくさんできるのは「あいつ予備校に行ってズルい」というのと同じだと言いましたが、大間違いです。予備校は私教育だから、行きたい人が行けばいい。共通テストは公の制度の問題なんです。公教育がどこまでを扱い、私教育はここまでだとはっきり線引きする。その上で、公教育をひたすら縮小したり、市場化する方向にブレーキをかけ、公教育に予算と人員をちゃんとつける――。そういう方向に持っていかないと、今回の共通テストの迷走のようなことが再び起こるのは目に見えています。教育改革の全体像そのものを問う視点が問われていると思います。
 (聞き手=生田修平/日刊ゲンダイ)

▽おおうち・ひろかず 1967年、神奈川県川崎市生まれ。東大大学院教育学研究科博士課程を経て、2011年から中京大国際教養学部教授。専攻は教育社会学。「奨学金が日本を滅ぼす」「ブラックバイトに騙されるな!」など著書多数。

2019年12月7日土曜日

07- 共通テスト 国・数の記述式は見送りへ/衆院憲法審の開催見送り

 2020 年度開始の大学入学共通テストにおける国語と数学への記述式問題導入に関しては、約50万人の答案を短期間で公平に採点するのは不可能といった批判が相次いでいるため、政府は5日、導入を見送る方向で最終調整に入りました。
 この件では立憲民主党、国民民主党、共産党、社民党の4党は、すでに導入の中止法案を国会に提出しており、自民党も5日午後文部科学部会で、受験生らに不安が高まっているとし、安心して試験に臨める体制を早くつくるよう求める決議文を、文科省に提出することを決めました。

 「自らの力で考えをまとめたり、相手が理解できるよう根拠に基づいて論述したりする思考力・判断力・表現力を評価することができる」からというのが記述式を導入する理由なのですが、そうした能力を「公正に」評価できる方策がないのであれば絵に画いた餅です。文科省は「やらないよりはやった方がいい」ということで突き進んできたということですがそれこそ暴論であって話になりません。

 それとは別に、衆院憲法審査会は5日、今国会最後の定例日を迎えましたが、与野党間の調整がつかず、開催は見送られました。 「桜を見る会」をめぐる問題が拡大したことも審査会が開かれなかった要因です。
 衆院憲法審は今国会中、審査会メンバーによる9月の欧州視察をテーマに、これまで計3回の自由討議を実施しまし
 しかしおよそ憲政とは無縁の暴政を強行している安倍政権の下で、憲法改正に向けた憲法審査会が粛々と開かれるなどはあり得ないことです。国民投票法改正案の審議一つとって見ても、与党には公正な投票を実現しようとする誠意などまったく見られません。
 与党は来年1月召集の通常国会で仕切り直しを図ろうとするでしょうが、スムーズに進むとは思われないし、またそうすべきでもありません。

 東京新聞と時事通信の記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
共通テスト 記述式見送りで調整 理念に現実追いつかず
東京新聞 2019年12月6日
 二〇二〇年度開始の大学入学共通テストを巡って政府は五日、先月の英語民間検定試験に続き、国語と数学への記述式問題の導入についても見送りに向けた最終調整に入った。五十万人分に上る答案を公平に見ることはできないと、教育関係者や高校生からの風当たりは強まっていた。高い理念を掲げてきた文部科学省は打開策を示せぬまま、瀬戸際まで追い詰められた。

▼防戦
 「問題の解決に向けて努力しているが、受験生の不安を解消できるか、どこかできちんと判断しなければならない」。五日の参院文教科学委員会。萩生田(はぎうだ)光一文科相は、記述式の導入に反対する野党議員の質問に神妙な面持ちで答弁した。
 英語民間試験の導入見送りが決まった先月一日以降、野党は記述式に次の焦点を合わせた。「五十万人分の採点をミスなく終わらせることができるのか」「自己採点が正確にできなければ受験生は出願先も選べない」-。高い公平性が求められる入試の採点を、民間企業に委ねることの是非も国会審議の場で追及した。
 防戦一方の文科省。ある幹部は「採点ミスをゼロにするのはほとんど不可能。野党の指摘は当たっている」と明かす。

▼外堀
 実は官邸側も記述式問題導入については後ろ向きだった。懸念を抱えたまま導入に踏み切って受験生らの混乱を招けば、新たな政権のリスクにつながりかねないためだ。官邸主導で行った英語民間試験の見送りが「世論から一定の評価を受けた」(政府高官)との感触を得たことも大きい。
 関係者によると、政権幹部は文科省幹部に対し「受験生が納得できる仕組みが作れないなら見送りも検討するように」と指示していたという。官邸筋は「冬休みに入る前に受験生を安心させてやるべきだ」と指摘する。
 官邸と連動するように、与党の動きも加速。公明党の斉藤鉄夫幹事長は五日午後に萩生田氏との面会を急きょ入れ、記述式の導入延期を求めた。公明党幹部は「関連予算が入った二〇二〇年度予算が閣議決定される前に流れをつくるべきだ」と述べた。
 自民党も提言をまとめ、六日に萩生田氏に提出する方向で、外堀は埋まりつつある。

▼変容
 「自らの力で考えをまとめたり、相手が理解できるよう根拠に基づいて論述したりする思考力・判断力・表現力を評価することができる」。文科省は記述式導入の意義を繰り返し強調し、マークシート式の大学入試センター試験からの変革を示す象徴として位置付けてきた。
 一方、同省や大学入試センターも採点の難しさは早くから認識。国語では解答の条件をいくつも設定して正答の幅を限定し、短い文章を記す出題を検討していた数学も、試行調査の低正答率などを受けて方針を変更し、主に数式で答えさせることにした。政府の教育再生実行会議が一三年に「知識偏重の一点刻みの試験からの脱却」を掲げた理念は薄らぎ、出題は変容していったが、「やらないよりはやった方がいい」(同省幹部)と突き進んできた。
 既に学校で記述式対策に取り組んでいる東京都の高校二年の男子生徒(16)は、導入見送り検討の報道を受け、こうつぶやいた。「英語の民間検定試験も記述式もやらないなら、今のセンター試験と何ら変わらない」


衆院憲法審、開催見送り 最後の定例日、「桜」余波も
時事通信 2019年12月06日
 衆院憲法審査会は5日、今国会最後の定例日を迎えたが、与野党間の調整がつかず、開催は見送られた。首相主催の「桜を見る会」をめぐる対立も影響したとみられる。与党は来年1月召集の通常国会で仕切り直しを図るが、野党は対決姿勢を強めており、国会論議の環境を整えるのは容易ではない。

 衆院憲法審は今国会中、審査会メンバーによる9月の欧州視察をテーマに、これまで計3回の自由討議を実施した。与党側はこの流れを定着させるため、5日も審査会の開催を目指したが、野党側と折り合えなかった。
 与野党は5日、それぞれ幹事懇談会を開き、今後の対応を協議。ただ、いずれの会合でも、審査会見送りの責任を相手に押し付ける声が上がるばかりで、与野党の憲法論議が進展する兆しは見えないままだ。
 「桜を見る会」をめぐる問題が拡大したことも、5日の審査会が開かれなかった要因になったとみられる。野党側は、安倍晋三首相に国会で説明責任を果たすよう求めているが、与党側は拒否。今国会の会期末を9日に控え、与野党の攻防が激化しているためだ。
 自民党関係者は「野党側が『今の雰囲気では審査会を開ける状況にない』と言っている」と指摘。これに対し、立憲民主党の福山哲郎幹事長は記者団に「今国会でわれわれは憲法審査会に出てしっかり議論した」と反論した。
 与党は、今国会成立を断念した国民投票法改正案と併せ、通常国会で改めて衆院憲法審の議論を進めたい考え。ただ、野党は引き続き「桜を見る会」をめぐる問題を追及する構えで、先行きは見通せない。

2019年11月29日金曜日

アベ政治の食い物にされた教育行政の惨状 その2 (寺脇 研氏)

 寺脇 研氏によるシリーズ「アベ政治の食い物にされた教育行政の惨状」の6と7を紹介します。このシリーズは今回で終了します。

 これまでの「共通1次試験」~「センター試験」は700の会場で行われましたが、それでも離島や山間部に住む者にとっては宿泊の必要があるなど地域格差があったし、受験料も国公立を目指す場合1万8000円と決して安くはなかったのですが、それらは不可避的なものとして大きな問題とされたことはありませんでした。試験の公平性に疑いがなかったからと考えられます。
 しかし民間試験はそうではなく、(700よりはるかに少ない)会場数も受験料も民間の試験実施者の都合で決められた上に採点の公平性は全く期し得ないものなので、大反対が起きたのは当然でした。実施企業のベネッセコーポレーション唯一の営利企業他は公益法人など)下村博文元文科相や文科省とのズブズブの関係が周知されたことも勿論影響しました。
 しかも国語、数学の記述試験の採点にベネッセの子会社を選定した理由は競争入札で、教育的見地と無縁のものでした。
 萩生田文科相2024年度実施を目指し「今後1年をめどに結論を出す」と述べましたが、5年以上議論し導入準備が全く評価できない結果だったのに、それをたった1年で納得できる結論を出せるかは大いに疑問です20年度実施と初めから時限を切ったのが拙速を招いた愚を、再び犯してしまう可能性高いと見られています

 寺脇氏は、いずれにしても共通テストを民間に委託するのは無理で、各大学が行う2次試験との役割分担を時間をかけて改めて議論すべきであるとしています。英語4技能とか記述式とか、民間の手を借りなければならない種類のものは、各大学がその責任において2次試験に導入すればよく、受験生も、志望する大学からの要求であれば納得しやすいだろうとしています

 シリーズとは別に27日の日刊ゲンダイに「文科省やはりベネッセありき数学記述式死守に躍起の愚」とする記事が載りました。
 何としてもベネッセを除外したくない文科省は、数学の記述問題は実施したい意向のようなのですが、ではどんな問題になるのか ・・・「お笑いの記事」です。併せて紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アベ政治の食い物に 教育行政の惨状 6
共通1次から40年 なぜ「地域・経済格差」は問題視されず?
寺脇研 日刊ゲンダイ 2019/11/23
  寺脇  京都造形芸術大学客員教授
1952年、福岡市生まれ。ラ・サール中高、東大法学部を経て、75年に文部省(当時)入省。初等中等教育局職業教育課長、大臣官房審議官、文化庁文化部長などを歴任し、2006年に退官。ゆとり教育の旗振り役を務め、“ミスター文部省”と呼ばれた。「危ない『道徳教科書』」など著書多数。前川喜平元文科次官との共同企画映画「子どもたちをよろしく」が2月公開予定。

 従来のセンター試験では全国約700カ所の会場を使い、受験生の便宜を図ってきた。それでも、離島や山間部に住む者にとっては、宿泊の必要があるなど地域格差がなかったわけではない。受験料も、国公立を目指す場合1万8000円と決して安くはない。それでも、前身の共通1次試験以来40年間にわたり、地域格差や経済格差が大きな問題とされたことはなかった。
 それは、公が行う試験だからだろう。国会で決めた法律に基づいて行われるということは、いわば国民的合意によるというわけであり、いくぶんの格差があったとしても受容する範囲内と感じられる。民間試験はそうではない。会場数も受験料も試験実施者の都合で決められ、大学入試センターも文科省も口出しできない仕組みだ。事実、今回明らかになったように会場数ははるかに少ないし、受験料も高額だったりする上、大学入学共通テストの受験料にさらに上乗せされる。

 どう考えても、入試センターで新しい英語試験を行う方が受験生にとっては安心ではないか。予算がかかるとしても、それは必要なコストだ。時間がかかって英語力向上が遅れてしまうというのなら、それが完成するまでの期間は、2次試験において各大学がそれぞれの判断で独自試験を行うなり民間試験を活用するなりすればいい。
 にもかかわらず、準備も議論も不十分なまま導入を実施しようとしていたのである。その過程では、入試センターが選定した試験実施7団体のうちTOEICが参加を辞退するなどの一幕もあった。また、唯一の営利企業(他は公益法人など)であるベネッセコーポレーションは、下村博文元文科相や文科省との利害関係の深さが週刊誌報道などで指摘されている。そうした疑念が起きないよう「李下に冠を正さず」の姿勢も必要だった。

 ベネッセに関しては英語だけでなく、2020年度から新しく実施予定の国語や数学の記述問題の採点を子会社に全面委託することも問題視されている。採点に大量のアルバイトを使うというのが受験生を不安にさせた。採点基準は当然、出題する入試センターが決めるものの、そのすり合わせのために問題を事前にベネッセ側に示す点には、漏洩の心配が生ずる
 このため、記述問題についても導入中止を求める声が高まってきている。共通テスト初実施まで1年余りに迫った現時点でこれほどの問題続出は、異例の極みとしか言いようがない。


アベ政治の食い物に 教育行政の惨状 7
経済原理の政治主導…「24年度実施」は再び同じ愚を犯す
寺脇研 日刊ゲンダイ 2019/11/24
 国語、数学の記述問題には、民間企業に採点を丸投げすることだけでなく、受験生を混乱させる要素がある。個別大学への出願の目安となる「自己採点」が難しいというのだ。大学入学共通テストの成績は、大学側には2次試験前に届くのだが、受験生本人には4月に通知されるので、自己採点してそれに見合う出願先を考えなければならない。成績によっては2次試験を「門前払い」されてしまうからだ。
 こうした不安を解消するために、文科省は国公立大学に対し、国語記述問題の成績を「門前払い」の判断材料に使わないよう要請すると報道されるなど、にわか対応策に追われているようだ。ドタバタ劇はまだまだ続きそうである。記述問題の採点にベネッセコーポレーションの子会社を選定した根拠は、なんと競争入札。教育的見地と無縁の経済競争原理に基づいて政治主導で拙速導入しようとしたことのツケは大きい

 英語民間試験に関しては、導入延期を決めた萩生田文科相が、2024年度実施を目指し「今後1年をめどに結論を出す」と述べている。5年以上議論した導入準備が、問題噴出で延期せざるを得ないほどズサンだったというのに、たった1年で結論を出せるのか。20年度実施と初めから時限を切ったのが拙速を招いた愚を、再び犯してしまう可能性は高い
 この際、共通テストと各大学が行う2次試験との役割分担を、時間をかけて改めて議論してみてはどうか。これまでの大学入試センター試験は、マークシートを採用して公平公正に採点できる方式を使い、受験生全員の5教科の基礎基本学力を測り、大学側に提供してきた。その上で各大学は、自らの開設する学部学科の専門性に沿って必要な学力を2次試験で測る。
 民間試験を導入すれば、センター試験に比べ地域格差、経済格差が大きくなるのは当然だ。英語4技能とか記述式とか、民間の手を借りなければならない種類のものは、各大学がその責任において2次試験に導入すればいい。受験生も、志望する大学からの要求であれば納得しやすいだろう。
 そして新しい共通テストは、出題を工夫してセンター試験の弊害といわれてきた暗記に頼る受験対策では対応できないような問題を用意し、これからの高校教育に求められる「主体的・対話的で深い学び」によって得られる学力を測れるようにすることにこそ全力を注ぐべきだと思う。 (おわり)


文科省やはりベネッセありき「数学記述式」死守に躍起の愚
日刊ゲンダイ 2019/11/27
 問題山積で来年度からの実施が疑問視されている「大学入試共通テスト」の国語と数学の記述式。臨時国会最終盤の大きな争点になっているが「国語は引っ込め、数学は残す」との落としどころが浮上している。
「国語は言葉の解釈の幅が広いこともあり、採点は、複数の採点者が議論しながら時間をかけて行います。50万人規模の採点を短期間で公平に行うのは物理的、技術的に不可能です。加えて、自己採点も難しい」(高校の国語教師)
 文科省は、国公立大学に共通テストの国語記述式試験を合否の判断材料としないよう要請する検討をしている。オススメできる代物ではないことは文科省も分かっているのだ。中止を求める声を抑えつけるのは簡単ではなく、実施見送りが現実味を帯びる。

 英語民間試験に続いて、国語記述式まで頓挫すれば、共通テストがらみの民間委託は数学記述式だけになってしまう。
数学まで見送ると、ベネッセに顔向けできない。文科省は何が何でも、数学記述式だけは死守しようと躍起になっている。記述式導入ありきで、いっそう採点しやすい問題になるとみられています」(文科省関係者)
 採点しやすい問題――。18年度に行われた共通テストの試行調査「数学I・数学A」の記述式問題を見て驚いた。例えば、第1問[1](あ)では、<「1のみを要素にもつ集合は集合Aの部分集合である」という命題を、記号を用いて「記述せよ」>という問題が出されている。答えは、{1}⊂Aなのだが、思考力や表現力が必要な論述からは程遠く、知っていて、書ければ解ける。選択肢から選ぶ「マークシート式」で問うのとほとんど変わりはない。思考力や表現力を問うという記述式の趣旨は完全に破綻している

■マークシートと変わらず無意味
「入試改革を考える会」の予備校講師・吉田弘幸氏が言う。
「文科省は、数学の記述式について“採点の精度”を強調して、実施しようとするでしょう。しかし、採点しやすさを追求するあまり、マークシートと変わらない問題になってしまっています。多額の費用をかけて記述式を導入する意味はもはやありません」
 国・数の記述式の採点業務は、ベネッセの100%子会社「学力評価研究機構」が、来年度から23年度まで約61億円で請け負っているが、今年度の契約費用は約1億900万円だ。文科省が優先すべきはベネッセのビジネスより受験生だろう。傷が浅いうちに国・数両方の見送りを決めるべきだ。

2019年11月23日土曜日

アベ政治の食い物にされた教育行政の惨状 (寺脇 研氏)

 文科省の官僚であった寺脇研氏が、日刊ゲンダイに「アベ政治の食い物に 教育行政の惨状」と題した連載記事をこれまで5回に渡り出しています(11/15~11/22)

 今回批判の的になった共通試験への「英語民間試験」導入は、徹頭徹尾、誤った政治主導によって産み出されたものでした。受験生の「共通ID」の発行申し込み手続きが始まる11月1日に、それまで実施すると宣言していた「導入」が一夜にして「延期」になったのは、10月25日の菅原経産相に続き1031日朝河井法相辞任したこと、これ以上萩生田文科相野党や世論の攻撃を浴びては政権そのものが危なくなるという危機感からでした。
 そもそも英語試験民営化は自民党の在野時代から構想されていたものを、安倍首相の私的諮問機関「教育再生実行会議」が1310月に第4次提言」として、TOEFL等の語学検定試験」を入試に活用するようにしたことで具体化しました。しかしその提言は単に「民間試験の活用を唱え」ただけで具体的方策のイメージを備えたものではありませんでした。
 それを下村博文文科相(当時)が天下り的に20年に実施するよう指示を出した結果、文部官僚は以後その具体化に忙殺されることになりました。
 しかしそもそもが検討不足で基本を誤ったものなので、合理的な方策が出来る筈はなく、実施直前の910になって「全国高等学校長協会(全高長)」から「導入を延期した上で制度を見直すよう求める要望書」が提出されるという醜態を演じました。前代未聞のことでした

 寺脇研氏によれば、導入を決定した下村元文科相は、一人一人の「生産性の向上」が教育の目的だと語っているということで、教育という極めて公共性の高い分野にまで、新自由主義を持ち込もうとしたと述べています。

 こんな不都合な民間試験の導入が4年後に復活することはあり得ませんが、果たして何処まで合理的な方策が出せるのか注目されます。 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アベ政治の食い物に 教育行政の惨状 1
1日でスピード決定 政局の産物だった「英語民間試験」延期
寺脇研 日刊ゲンダイ 2019/11/15
  寺脇  京都造形芸術大学客員教授
1952年、福岡市生まれ。ラ・サール中高、東大法学部を経て、75年に文部省(当時)入省。初等中等教育局職業教育課長、大臣官房審議官、文化庁文化部長などを歴任し、2006年に退官。ゆとり教育の旗振り役を務め、“ミスター文部省”と呼ばれた。「危ない『道徳教科書』」など著書多数。前川喜平元文科次官との共同企画映画「子どもたちをよろしく」が2月公開予定。

 11月1日朝、萩生田文科相が2020年度から実施する大学入学共通テストに英語民間試験を導入する既定路線の変更を突如宣言した。実施を延期し、何と4年後の24年度を目指して再検討するというのである。
 え? 今? 何故? との驚愕が、全国の教育関係者の間に起きる。それもそのはず、この日は、来年度からの導入に伴い民間英語試験の成績を大学側に提供するための「大学入試英語成績提供システム」に使用する「共通ID」の発行申し込み手続き初日だった。
 20年度に受験して21年4月入学を目指すのは、現在の高校2年生だ。彼らは、各自「共通ID」を取得した上で希望する英語民間試験に受験申し込みを行い、3年生になったら4月から12月の間に2回まで試験を受ける。その結果が大学入試に反映されていく。
 つまり、「共通ID」発行申し込みからすべてが始まるわけで、大半の高校では、大学受験を志望する2年生全員の申込書を取りまとめて郵送したところだった。1日朝、職員室に激震が走ったのは言うまでもない。受け付ける側の大学入試センターは、7日になってようやく返送手続きを発表する慌てぶりだ。
 これだけならまだいい。最も多くの受験が予想された「英検S―CBT」は、既に予約段階で3000円の払い込みを受けており、30万人にも及ぶ大量の返金騒動となっている。

 こんな大混乱を招いた決定は、極めて短時間のうちに行われた。10月24日夜の「プライムニュース」(BSフジ)で萩生田文科相が「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえば」と発言。これが教育格差の容認ではないかと批判が集まり、謝罪、撤回に追い込まれたのだが、試験自体は予定通り実施すると言い続けてきた。
 それが、10月31日朝の河井法相辞任劇で一転する。25日の菅原経産相に続き1週間のうちに閣僚2人が不祥事辞職となる中で、「身の丈発言」が尾を引く萩生田文科相に対する野党や世論の攻撃を回避しないと政権そのものが危なくなる――。そんな懸念が政権中枢に湧いてきたのではないか
 その結果が、わずか24時間後の延期発表となった。これほど迅速な対応は、首相官邸など政権内の極めて高いレベルの意向を感じさせる。
 つまり今回の導入延期ドタバタ劇は、教育的見地からのものではなく、政局の産物以外の何ものでもない。 =つづく

アベ政治の食い物に 教育行政の惨状 2
野党時代から構想 英語試験民営化は自民政権復帰で急加速
寺脇研 日刊ゲンダイ 2019/11/16
 閣僚2人の相次ぐ不祥事辞任に続く3人目になりかかっていた萩生田文科相を守り、政権への打撃を最小限に抑えるために画策された大学入学共通テストへの英語民間試験導入延期は、典型的な政治的判断だった。受験生たちは、安倍内閣の延命策に翻弄されてしまったわけだ。
 被害は、導入初年度の受験生になるはずだった現在の高校2年生だけではない。民間試験導入を見越して準備を始めていた1年生や中学生にも及ぶ。また、高校3年生は「浪人すると英語試験制度が変わってしまう」との危惧から、志望校選択を手堅くしている生徒もおり、いまさら変更も難しい。このたびの政治的判断の影響は、それほど大きいのだ。

 しかも、そもそも導入を決めたのも政治の力なのである。最初に提言したのは、政府ではなく自民党だった。2012年12月に政権復帰した半年後の13年5月、「自民党教育再生実行本部」は第2次提言を発表している。この組織は、安倍首相が自民党総裁に返り咲いた直後の12年10月、まだ野党だった時代にいち早く設置したものだ。提言には、「TOEFL等の外部試験の大学入試への活用の促進」が記されている
 その後を追うように、第2次政権をスタートさせた安倍首相の私的諮問機関「教育再生実行会議」が13年10月に出した第4次提言で、「TOEFL等の語学検定試験」を入試に活用するよう大学に促すことを国に対して求めている。こちらも、首相の「お友達」の委員が多数入るなど、政治的要素の強い会議だ。
 どちらの提言も、英語教育や民間試験制度に通じた専門家によるものではなく、思いつきの産物とみられても仕方がない。民間試験の活用を唱えるだけで、具体的方策のイメージが論じられた形跡は見当たらない

 しかし、この2つの提言で流れは決した。前者は自民党文教族議員による直接の政治判断、後者は首相直属会議で文科相がこの会議の担当相でもある。当時の下村博文文科相は、最高諮問機関である中央教育審議会(中教審)に速やかな検討を命じ、14年12月に20年度からの新しい「学力評価テスト」の実施と、その中で民間英語試験を活用する答申を得た。この「学力評価テスト」が大学入学共通テストになっていくのである。
 英語民間試験は、政治的理由で導入延期されただけでなく、導入決定もまた、政治の産物だったのだ。

アベ政治の食い物に 教育行政の惨状 3
五輪開催20年度の改革は下村元文科相「公言」で既定路線化
寺脇研 日刊ゲンダイ 2019/11/19
 英語民間試験導入は、首相直属の「教育再生実行会議」が提言するなど政治の側の決定だったから、教育行政を担当する文科省としてもそれを最重要課題とせざるを得ない。森友・加計問題で忖度が横行したように、首相官邸の内閣人事局に人事権を握られて以来、官僚は与党政治家の忠実な下僕でなければならないからだ。
 現政権は、何よりスピードを重視する。特定秘密保護法も集団的自衛権の閣議決定も、安保法制も外国人労働者受け入れ拡大も、拙速と思えるほどの急ぎ方だった。まして、英語民間試験の導入決定時の文科相は、2012年から15年まで3年近くその座に君臨し、権勢を振るった下村博文氏である。急激な改革を求め、細密な工程表を作って官僚たちを意のままに使おうとしていた。
 その下村元文科相が、最高諮問機関である中央教育審議会(中教審)の答申が出る前の14年秋ごろから東京五輪が開催される20年度には入試改革を実施すると公言していたのだ。20年度実施は既定路線とされ、5年間のうちに準備を完了することが文科省の官僚たちの必須課題となったのは言うまでもない。
 1979年度から実施された共通1次試験は、71年に決定されてから7年間の準備期間があったし、大学入試センターという国がつくった機関が責任を持って運営する仕組みだった。対して今回は、これまで全く国が関与してこなかった英語民間試験を導入する難題を抱えているのである。
 中教審答申に先立つ14年9月に提出された専門家中心の「英語教育の在り方に関する有識者会議」の報告書でも、入試センターが独自の問題作成を行うか、民間試験を導入するかについて結論を出しかね、さらに検討が必要とされていた。報告書は、「受験料など経済格差の解消、受験機会など地域格差の解消等に関する具体的な検討が必要」と問題点を指摘していた。

■議事録は公開されぬまま…
 それらの問題解決のため省内に設置され、16~17年に議論を行った「検討・準備グループ」の議事録は公開されぬままだし、実施直前の18年12月に設置され、最終調整を行ってきたワーキンググループでも異論が出ていたらしいのに、こちらも非公開で議事録も作成していないという。
 こんな乱暴な検討は官僚として不本意なはずだが、既定路線を崩すわけにはいかなかったのだろう。初めから、実施という結論ありきの事前検討だったのである。これでは受験生の不安を払拭できるはずがない。

アベ政治の食い物に 教育行政の惨状 4
新制度開始直前 前代未聞だった「全高長」の導入延期要請
寺脇研 日刊ゲンダイ 2019/11/20
 政治の意向で導入され、今度も政治の意向で導入延期となった英語民間試験だが、導入ありきで強引に進めてきた結果、経済格差、地域格差の問題が解決できていなかったことが明白になってきた。それゆえ、延期を決めた萩生田文科相の「英断」だとヨイショする政権の御用コメンテーターがいたりする。当の文科相自身、導入延期決定後は「9月に文科大臣に就任して早々、これは止めた方がいいなと思った」と発言している。
 しかし、9月11日の就任会見以来、記者からの質問に対して実施の方向で答え続け、10月8日には「当初の予定通り2020年度から導入することとします」と明言していた。「身の丈発言」を撤回して陳謝した同29日も、導入延期したらどうかとの問いに「ぜひ、これは予定通り実施をさせていただきたいと思っています」とはっきり答えていたではないか。

■文教族の抗議は「ガス抜き」
 第一、「身の丈に合わせて頑張って」という発言自体、格差の存在を前提としたものであり、問題があるから止めた方がいいと思っている人間の口から出るはずのないものだ。導入延期は「英断」どころか、自己保身と政権擁護のためだったとしか見えない。
 一方で、柴山昌彦前文科相ら、導入を推進してきた自民党文部科学部会メンバーが萩生田文科相に抗議の決議文を手渡し不満の意を表明。しかし、その模様を伝える写真に部会メンバーと文科相が仲良く並んで納まっているのを見ると、推進派論者や民間企業などに配慮したいわゆる「ガス抜き」のようだ。現政権下では、官邸レベルの決定に彼らも従わざるを得ない。
 本来は、20年度導入を遮二無二に通してきた推進派の責任こそ問われなければならないはずだ。当初から指摘されてきた格差問題をはじめとする多くの問題点にきちんと対応しようとせず、破綻を招いたのだから。特に意思決定に関わった政治家は、森友・加計問題のように官僚に責任をなすりつけてはいけない。
 結果的に見送りになった「共通ID」発行受け付け開始日の11月1日が新制度のスタートだった。そのわずか50日前の9月10日、「全国高等学校長協会(全高長)」が導入を延期した上で制度を見直すよう求める要望書を文科省に提出した。全高長は全国の国公私立高校の校長が集まる団体であり、高校側の総意を代表する。
 その団体から実施段階で異論が出るのは、おそらく前代未聞。それほどひどい準備不足、議論不足だったのである。

アベ政治の食い物に 教育行政の惨状 5
目的は生産性向上 教育にも入り込んだ新自由主義の危うさ
寺脇研 日刊ゲンダイ 2019/11/22
 これほど準備、議論ともに不足していた中で、どうして安倍政権はこんなにも英語民間試験導入にこだわったのだろうか。
 1979年度以来40年にわたって共通1次試験、センター試験と続いてきた全国一斉入試においては、問題作成も試験実施も採点も、全て公的機関である大学入試センターによって行われてきた。2006年度から実施の英語リスニングも、ICプレーヤーを使う方式まで含め入試センターで対応してきている。
 英語4技能のうち「読む」だけだった試験に「聞く」を導入した際は入試センターに任せたのに、「話す」「書く」が入る今回はなぜ民間なのか。民間試験はこの4技能全部を有機的に結びつけて問い、結果を評価するので総合的な英語力を測れる――。これが理由とされている。入試センターが新たに同様の試験問題を開発するには、コストの問題もあるが、何より、時間を要して改革が遅れるのが痛いというのだ

 それなら、いっそ英語試験は全て民間に任せたらいいじゃないかという話になる。「読む」「聞く」だけは入試センター作成のマークシート式試験とダブるからだ。
 実際、文科省での検討過程では、その案も有力だったという。しかし、それでは全体を入試センターの責任で行っている試験の英語部分だけを完全に民間に委ねてしまうことになる。これに関しては、受験生や高校、大学の不安が大きく、こんな変則形になったのである。
 もともと民間試験導入推進派には、コストや時間面で合理性があるなら公的機関でなく営利企業も含めた民間に任せればいい、という発想が根底にある。国鉄などの民営化にはじまり、経済性や自己責任を強調する、いわゆる新自由主義だ。

■下村元文科相「生産性向上」が教育の目的
 文科省の内部検討会で民間試験活用を強力に主張した楽天の三木谷浩史会長は、その考え方を代表する経済人だ。また、導入を決定した下村博文元文科相は、一人一人の「生産性の向上」が教育の目的だと語っている。教育という極めて公共性の高い分野にまで、新自由主義を持ち込もうというのである。
 英語4技能を同時に測り、総合的な英語力を身につけてもらうのが、これから大学で学ぶ者にとって不可欠なまでに重要だというのなら、経済格差、地域格差など多くの懸念を抱える既存の民間試験を使うのではなく、じっくり準備して入試センターによる新しい試験をつくればいいではないか。それが本来の教育的配慮というものだ。