2016年1月31日日曜日

非正規の自治体職員 格差是正求め決起集会

NHK NEWS WEB 2016年1月30日 
地方自治体で働く職員の3人に1人が非常勤などの非正規労働者となっている実態があるとして、正規の職員との格差の是正を求める決起集会が東京で開かれました。
 
自治体の職員で作る労働組合が30日開いた集会には、全国から地方公務員や非正規の職員などおよそ300人が集まりました。この労働組合によりますと、全国の自治体では財政再建などのため正規の職員を減らしていて、警察官や教員などを除くと3人に1人となるおよそ70万人が賃金の低い非正規労働者とみられるということです。
集会では、非常勤の給食調理員の女性が「正規の職員と同じ仕事をしているのに月給は手取り10数万円で1人では生活をしていけない。非正規の職員の中には、病気になっても休めない劣悪な労働環境の人もいる」と現状を報告しました。また、労働組合の幹部からは「非正規の職員に労働組合に入ってもらい、待遇改善の交渉を行う力を高めるべきだ」といった意見が出されました。そして、参加者全員で「頑張ろう」と声を上げ、正規の職員との格差の是正を求めていくことを確認しました。
集会に参加した51歳の非常勤職員の女性は「福利厚生を含め、すべての面で正規の職員とは格差がある。特に賃上げを求めていきたい」と話していました。 

沖縄は子どもの貧困率が30% 3人に1人が貧困

 子どもの貧困率はその家庭の貧困率なので、ある県の子どもの貧困率はそのまま県民の貧困率となります。
 沖縄県が全国に先駆けて独自に算出した子どもの貧困率は29・9%と、全国平均16・3%の約2倍であることが分かりました。
 貧困率と並行して行われた調査で、過去1年間に経済的理由で食料を買えないことがあったことが貧困世帯の約50ひとり親世帯で43%、両親がいる世帯で25に上ったこと、貧困世帯では4人に1人の親が、子どもの小学校入学時に大学進学は困難と判断していることが分かりました。
 
 県は子どもの貧困対策として30億円規模の基金創設検討しているということですが、琉球新報は社説で「より即効性の高い施策が求められる」としています
 しかしこれだけ決定的な差があるのを県だけで対応できるとは思えません。もしも沖縄の日本復帰の遅さが原因であるなど、歴史に起因するものであるならそれは国の問題であると言えます。
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社説子の貧困299% 県民一人一人が向き合おう
琉球新報 2016年1月30日 
 沖縄の子どもたちをめぐる厳しい現状があらためて浮き彫りとなった。官民挙げて新たな支援の枠組みを早急につくりたい。
 
 県が独自に算出した県内の子どもの貧困率が発表された。29・9%と非常に深刻な数字だ。
 国の算出基準に基づき、平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす18歳未満の割合を示した数値だ。全国の数値は最新の2012年で16・3%だから、沖縄はその2倍近い。全国最悪の数字だとみられる。
 県が独自に貧困率を算出した意義は大きい。今回は同時に発表した調査結果と併せて中間報告との位置付けだ。3月までに策定する最終報告に向け、さらに詳細な検討を求めたい。
 県は子どもの貧困対策として、30億円規模の基金創設も検討している。より即効性の高い施策が求められる。
 県は貧困率調査と併せて、家庭の経済状況と子どもの生活実態などに関する調査結果を発表した。それによると、家庭環境が子どもの成長や進路選択に大きく影響している実態がうかがえる。
 驚かされるのは、過去1年間に経済的理由で食料を買えないことがあったという回答が、貧困世帯の約50%に上っていることだ。ショッキングな数字であり、子どもの学年が上がるにつれ、状況が厳しくなる傾向も表れた。
 
 飽食による健康危機や大量の食品廃棄などが問題化する一方で、多くの子どもたちが空腹を我慢している。一刻も早くその是正に取り組まなければならないが、調査では貧困家庭の約半数が就学援助を利用していないなど制度の周知不足も浮かび上がっている。
 貧困世帯は地域社会との関わりが希薄で、子育てに関する相談相手も少ないといった課題も報告された。地域や行政機関などの積極的な関与によって、貧困世帯の孤立を防ぐとともに、さまざまなセーフティーネットをきちんと機能させていかなければならない。
 調査によると、貧困世帯では4人に1人の親が、子どもの小学校入学時に大学進学は困難と判断している。家庭の経済的事情によって、子どもの将来が左右されるような状況の改善なくして、沖縄社会の健全な発展などあり得ない。
 
 子どもの貧困問題の解消は、県民一人一人に突き付けられた重い課題だと再認識したい。
 
 
「食料買えず」43% ひとり親、深刻さ鮮明
琉球新報 2016年1月30日
 経済的な理由で過去1年間、必要な食料を買えないことがあった県内の子育て世帯は、ひとり親世帯で43%、両親がいる世帯でも25%に上っていることが、県が29日に公表した子どもの貧困実態調査結果で明らかになった。命を支える食事さえも十分に買うことができていない沖縄の子どもの貧困の深刻さが浮き彫りになった。県内8市町村のデータを活用して県がまとめた県内の子どもの貧困率は全国(16・3%)を大きく上回る29・9%と算出された。自治体が都道府県別に貧困率の数値を出すのは全国で初めて。県と研究チーム(統括相談役研究者=加藤彰彦・沖縄大学名誉教授)などが29日、県庁で中間報告として発表した。結果の一部は県が作成している子どもの貧困対策推進計画に反映される。
 
 調査は子どもや保護者の生活実態把握を目的に、県教育委員会や市町村の協力を得て県子ども総合研究所(龍野愛所長)が実施した。県内全域から抽出した公立小学校の1、5年生、中学校の2年生と児童・生徒と保護者が対象。2015年10~11月、子どもの暮らしや精神状況、保護者の就労や家計、子育ての負担などをアンケートした。子どもの貧困率は、市町村から提供された収入や社会保障給付のデータから算出した。
 保護者に聞いた調査では、厚労省の相対的貧困基準(等価可処分所得122万円)未満の貧困層のうち、小1では57%が就学援助を利用しておらず、厳しい世帯を支援する既存の制度が十分に活用されていないことも明らかになった。非貧困層を含めた全体での利用は小1が13%、小5が18%、中2が19%で、いずれも子どもの貧困率29・9%より大幅に少ない。大阪市で行われた同様の調査(2012年)では、貧困層の割合が12%であるのに対し就学援助は約3割が利用している。
 
 今回の発表内容は調査の一部。統括主任研究者を務めた立教大学の湯澤直美教授は「来年度も分析を続けてアンケートに回答した子どもや保護者に応えたい」と強調した。県子ども生活福祉部の金城武部長は「態勢強化に取り組みたい」、青少年・子ども家庭課の大城博課長は「調査の継続を検討する」と意欲を見せた。

31- 首相靖国参拝原告の差し止め請求棄却 大阪地裁 憲法判断せず

 安倍首相は第二次政権発足から年の1312、現職首相として公用車を使って靖国神社を参拝し、「内閣総理大臣 安倍晋三」名で献花しました。
 それが政教分離を定めた憲法に反するとして戦没者遺族ら765人が国と安倍首相、靖国神社に将来の参拝差し止めと人当たり万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が、28日大阪地裁であり、参拝の公私に関する区別や違憲かどうかの判断は示さずに請求を棄却しました。
 
 それは小泉純一郎元首相の参拝をめぐる06年の最高裁判決の判断手法をほぼ踏襲したもので、「神社に参拝する行為自体は他人の信仰や生活に干渉するものではなく、原告に法的利益の侵害があったとはいえない」というものでした。
 記者会見で福岡市の僧侶木村真昭さん(65)は「後退どころか、裁判所の存在理由を失わせるようなでたらめな判決だ」と批判しました。
 安倍首相の靖国参拝をめぐる訴訟は東京地裁でも起こされており、そちらはまだ判決に至っていません。
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首相靖国参拝憲法判断せず=原告の差し止め請求棄却
法的利益侵害認めず・大阪地裁
ウォールストリートジャーナル 2016 年 1 月 28 日
 安倍晋三首相が2013年12月に靖国神社を参拝したのは、政教分離を定めた憲法に違反し、平和的生存権の侵害だとして、全国の戦没者遺族ら765人が首相や国、靖国神社を相手に、将来の参拝差し止めと原告1人当たり1万円の慰謝料を求めた訴訟の判決が28日、大阪地裁であった。佐藤哲治裁判長は「参拝による原告らの法的利益の侵害を認めることはできない」と述べ、請求を棄却した。違憲性の判断はせず、参拝が首相の職務行為か公私の区別にも言及しなかった。
 
 安倍首相の靖国参拝に関する訴訟は、東京、大阪両地裁に起こされ、判決は初めて。原告らは控訴する方針。
 
 佐藤裁判長は、首相の参拝について「特定の個人の信仰を妨げたりして圧迫、干渉するような性質のものではない」と指摘。内心の自由や信教の自由の侵害との原告の主張に関して、最高裁判決を踏襲し、「自己の心情や宗教上の感情が害されたとして不快の念を抱いたとしても、直ちに損害賠償を求めることはできない」と退けた。
 
 過去には小泉純一郎元首相の参拝で違憲判決が出ているが、佐藤裁判長は「社会情勢や国民の権利意識の変化で裁判所の判断が変わることもあり得る」とした。
 
 原告は首相の参拝について、憲法前文や9条で保障された「平和的生存権」の侵害と訴えたが、判決は「平和的生存権として保障すべき権利、自由が現時点で具体的権利性を帯びているか疑問」と退けた。
 安倍首相側は参拝は私的行為で、原告らの法的利益を侵害していないとして、請求棄却を求めていた。首相は第2次政権発足から1年となった13年12月26日、靖国神社を昇殿参拝した。「内閣総理大臣 安倍晋三」と記帳した。
 
 萩生田光一官房副長官は28日の記者会見で、判決について、「国の主張が認められたものと承知をしている」と述べた。首相が参拝に公用車を使用したことに関しては、「警備上の問題だとか、緊急対応の問題などを考えると、公用車以外の車で移動するということは想定できない」と話した。 [時事通信社]

2016年1月30日土曜日

甘利氏の金権腐敗体質(植草一秀氏)

 植草一秀氏が、甘利元大臣の金権腐敗体質を痛烈に批判するブログを書きました。
 
 「職務権限の有無が問題にされているが、甘利明氏を含む甘利事務所が動き、建設会社が補償金を獲得したことは紛れもない事実であり、事案の細部の検証、捜査が絶対に必要である。通常であれば、直ちに検察が家宅捜索に入るべきである。重要な証拠が隠滅される恐れがある」としています
 
 また「世に倦む日々」氏はブログ(有料)で、「甘利明の会見を聞いて、50万円の現金授受の場面をよく覚えていて、リアルに記者団の前で語ったこと強い違和感を覚えさせられた記憶がきわめて鮮明だ。121以降の記者会見や国会質疑では、現金授受を否定しないまま、記憶を整理しているとか記憶が曖昧などと釈明していた。つまり、ウソをついていたということだ」、「本当は、記者会見の席で記者が機転をきかせて詰問すべきだった。甘利明の面前で誰かが痛言甘利明の弁解を取るべきだった」(要旨)と述べ、この事案は東京地検に刑事告発すべきだとしています
 
 植草一秀氏のブログを紹介します。
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甘利に金権腐敗な体質で政局に潮目の変化
植草一秀の「知られざる真実」 2016年1月29日
甘利明経済相が閣僚を辞任したが、会見は、あたかも悲劇のヒーローを演出するようなものであった。
用意された原稿に、政治家甘利明の美学 だの 閣僚甘利明の・・・ などと表現するのは、悪事が発覚して引責辞任する人物の辞意表明会見にはまったくふさわしくないものだった。
 
甘利明氏は、口利きを依頼した企業の社長と面会して2度にわたって現金を受領した。
もらった紙袋を秘書に渡したら、中に金の包みが入っていたと説明したが、この説明を立証する証拠は存在しない。金封を確認して受領した可能性は十分にある。
  2013年11月14日に  50万円
  2014年  2月 1日に   50万円
の現金を受領したことを認めた。その際に、秘書に適切に処理するように指示したという。
 
政治資金収支報告書においては、 自民党神奈川県第13選挙区支部に対して 建設会社から 2014年2月4日に100万円の寄付金 があったとの記載があるとのことだが、これが、11月14日の50万円と2月1日の50万円であるとは言えない。
別の100万円の寄附が2月4日にあって、これを収支報告書に記載した可能性を否定できない。
 
会見で甘利氏は、自分自身には違法性がないが、秘書の違法性の責任をとって閣僚を辞任し、悲劇のヒーローを演じたように見えるが、現段階で、甘利氏の違法性の疑いはまったく消えていない
政治にすり寄るヤメ検が、受領した50万円× の現金について、秘書に適切な指示をしたなら、甘利氏の違法性を問うことはできないとの見解を示しているが、このような御用ヤメ検弁護士のコメントを求めること自体がいかがわしい。
また、URに対する職務権限がないことから、甘利氏のあっせん利得罪の立件も難しいとの見解が示されているが、これも偏向報道そのものである。
 
かつて、小沢一郎氏は、正当な事由なく、強制捜査を繰り返された。
正当な事由もなく、1年間にわたって家宅捜索などを繰り返されたのである。
テレビは、小沢一郎氏が岩手県の胆沢ダムの工事受注に関して、あっせんの口利きをしたかのようなイメージ映像まで制作して、虚偽情報を垂れ流した。
このとき、小沢一郎議員は胆沢ダム工事に関する職務権限を有していない。
それにもかかわらず、何の証拠も、何の根拠もないのに、あっせん利得罪での立件が可能であるかのようなイメージ報道が繰り返された。
御用ヤメ検弁護士は、あっせん利得罪での立件が十分にあるとのコメントを流布していた。
 
本当に日本が腐り切っていることが明らかになっている。
企業の陳情者が事務所や大臣室を訪問して、手土産代わりに50万円単位のカネを供与して、それを政治家自身が挨拶代わりに受け取って何の疑問をも感じないというのが、いまの安倍政治の現況なのである。
甘利氏は会社社長と会って、秘書から現金提供があったことを知らされ、秘書に適切な処理を指示したと言うが、そうであるなら、なぜ、国会質疑で、現金受領があったのかどうかについて、答弁できなかったのか。
まったく辻褄が合わない。
 
そして、会社社長が甘利氏を訪問したのは、URとのトラブルがあって、補償交渉を有利に進めるためであった。
そして、現に甘利事務所が動き、巨額の補償金獲得に成功しているのである。
建設会社はその謝礼に甘利事務所を訪問し、巨額の現金供与をしている。
この件に関して、甘利明氏自身がまったく関知していなかったということではない
 
昨日の会見で、建設会社社長と面談した際に、保有地地下の産業廃棄物についての説明を受けている。
そして、甘利氏自身が秘書に資料を提示することを指示し、この秘書がURと12回も協議を重ねて、建設会社が巨額の補償金を獲得しているのである。
絵に描いたようなあっせん利得の構図が浮かび上がる。
職務権限の有無が問題にされているが、甘利明氏を含む甘利事務所が動き、建設会社が補償金を獲得したことは紛れもない事実であり、事案の細部の検証、捜査が絶対に必要である。
通常であれば、直ちに検察が家宅捜索に入るべきである。
重要な証拠が隠滅される恐れがある。
このような手順も踏まずに、甘利氏辞任を美談に仕立て上げるのは、この国の腐敗を象徴している。
以下は有料ブログのため非公開

30- 甘利大臣の辞任会見を称賛するテレビ局の異常 メディアの権力迎合

 建設会社にからむ口利き謝礼(あっせん利得)受け取り疑惑の渦中にあった甘利大臣は、28日夜記者会見し、合計100万円を受け取ったことを認めて大臣を辞任しました。
 この事案は「甘利氏がワナに嵌まった」ものだと官邸がいいだして、マスメディアもその線に沿った報道に傾いていたので、記者会見までは甘利氏は大臣を続投する」という雰囲気になっていました。しかし28日に発売された「週刊文春」の告発記事第2弾を見て、もはや無傷では済まされないと判断したもの思われます。
 甘利氏が大臣を辞任するとメディアは潔いとばかりにそれを称賛しました。しかし大臣の辞任は極めて当然のことで、野党・民主党などは大臣辞任だけでは済まされないとしています。勿論〝あっせん利得” の疑いです。
 
 日本のメディアは、この問題でも官邸に迎合して「あっせん利得」の疑惑を深く追及することはしませんでした。もしも甘利氏がシラを切り通して大臣に留まった場合、官邸の意向どおりにメディアはそれを当然視し、多くの国民もまたそれを受け入れたのではないでしょうか。嘆かわしい話です。
 
 LITERAと田中龍作ジャーナルの記事を紹介します。
 
   (関連記事)
       甘利大臣、続投方針も「文春」が第二弾でトドメの詳細証言! 
       告発者は安倍首相の「桜を見る会」に参加していた(LITERA 2016.1.27)
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甘利大臣の“茶番”辞任会見を称賛するテレビ局の異常!
 日本テレビは会見当日朝のラテ欄で「幕引き」を宣言
LITERA 2016年1月29日
「国会議員としての秘書の監督責任、閣僚の責務、政治家としての矜持に鑑み、本日ここに閣僚の職を辞することを決断しました」
 ──とんだ茶番である。甘利明経済再生相は昨日28日、そう述べて大臣辞任を表明したが、これは「週刊文春」(文藝春秋)がスクープした疑惑の説明責任を果たすにはほど遠い“ごまかし会見”であった。
 
 会見のなかで甘利氏は、2013年11月と14年2月の2回にわたって、千葉県内の建設業者の関係者から計100万円を受け取ったことを認めたが、のちに政治資金収支報告書に寄付扱いで記載したと弁解。さらに、告発者が「五十万円の入った封筒を取り出し、スーツの内ポケットにしまった」「甘利さんは『ありがとう』と言って、封筒を受け取りました」(「週刊文春」より)としたことに関しては、「人間としての品格を疑われる行為だ。そんなことはするはずがありません」と言い張ってみせた。
 呆れざるを得ない。甘利が人間としての品格に欠けるのはもちろんだが、問題はそういうことではないのだ。甘利氏にかけられている疑惑のもっとも大きなものは「あっせん利得」である。ようするに、甘利氏は自分が受け取った100万円については政治資金規正法違反に当たらないと強調することで、国民の目をくらませようとしているにすぎない。
 
 実際、先日発売の「週刊文春」2月4日号の第二弾(外部リンク)で、告発者である総務担当者は、14年2月の事務所での金銭授受の当日に甘利大臣に対してURとのトラブルについて資料を用いて説明したと話している。その際、甘利氏から「パーティ券にして」と要求された総務担当者は「個人的なお金ですから(受け取ってください)」と言って、「甘利氏は内ポケットに封筒をしまわれた」のだ。ようは、甘利氏は陳情の直後にカネを受け取っていたわけである。
 これは誰がどう見ても「不正の請託」だ。このとき、受け取ったカネが「寄付」だろうが収支報告書に記載されていようが関係ない。明らかに、報酬を得る見返りとして“口利き”をしたという「あっせん利得処罰法違反」に該当するだろう。
 つまりこういうことだ。甘利氏が収支報告書の記載を強調していたのは、問題のスリカエとしか言いようがなく、秘書の監督責任だの国会審議の遅れだの政治家としての矜持だのと、涙まで浮かべてさんざん“勇退”ムードを作り出していたのは演技。結局、甘利氏にかけられている疑惑は少しも晴れていないことには変わらない。
 
 ところが、会見を中継したテレビメディアといえば、この茶番っぷりをほとんど批判せず、ましてや「これで幕引きだ」と言わんばかりのムードを醸し出しているのだから、開いた口がふさがらない。
 しかも、この雰囲気を“予言”していたマスコミまでいる。日本テレビだ。昨日の夕方には各局とも甘利大臣の会見の生中継が予定されていたが、28日付けの読売新聞朝刊のラテ欄を見てみると、日本テレビの夕方のニュース番組『news every.』の箇所に、こんな驚くべき“予告”がされていたのだ。
〈自らの受け取り否定へ 甘利大臣が会見で説明 疑惑はこれで幕引き?〉
 全国紙の朝刊は、だいたいその日の午前1時ごろまでに原稿が締め切られて印刷に回される。当然、他局の同時間帯のラテ欄は〈注目の会見どう説明〉などとだけ記されていた。しかし、日本テレビは甘利大臣の会見のはるか前から〈自らの受け取り否定へ〉〈疑惑はこれで幕引き?〉などと書いていたのである。この“予言的口調”はどういうことか。
 安倍政権とべったりの読売グループのことだ。実は「会見で甘利氏が金銭授受を否定して事態の幕引きを図る」というシナリオを官邸から吹き込まれていたのだろうか。いや、それよりも〈自らの受け取り否定へ〉というのが外れたところをみると(もっとも午前中までは甘利留任が規定路線ではあったが)、これは“願望のあらわれ”だったのか。
 
 事実、『news every.』の放送内容は、まさに甘利大臣を擁護どころか大絶賛、間違いなく「幕引き」を狙った放送としか思えないものだったからだ。会見で甘利大臣が文春報道の調査結果を報告すると、スタジオではコメンテーターの元東京高検検事の高井康行弁護士が、こんな露骨な援護射撃を行ったのである。
 「大臣はよく調べた。全部調べて、物証にもあたっている。短期間にしてはよい」
 「結論からいうと犯罪性は極めて乏しい
 「すくなくとも国交省絡みの権限があるかどうかわからない。影響力を行使して口利きをしたわけではないので、あっせん利得処罰法にはあたらない
 あからさまに政権側についた発言だが、続いて甘利氏が辞任を表明すると、高井氏は今度はこんなことまで言い出した。
 「見事な進退。違法性はまったくない。違法性はないが、いろいろなことを考慮した。極めて見事」
 
 金銭授受を認めたのに「極めて見事」って、おかしすぎるだろう。ようは“甘利大臣は悪くないが男を見せた”というようなことが言いたいらしい。しかし繰り返すが、甘利氏の弁明は疑惑を矮小化するもので、本来なら議員辞職を避けられないところをごまかして逃げたにすぎない。見事でもなんでもなく、そもそもこんな会見をせねばならない時点で、政治家として完全に失格なのである。
 しかも高井氏は「あっせん利得処罰法にはあたらない」などと断言するが、もしかして、この人は弁護士なのにこの法律ができた経緯も知らないのだろうか? 
 そもそも、あっせん利得処罰法は2000年に成立したが、これは、受託収賄罪から漏れるような、政治家による金銭を授受しての口利きを禁止するためにつくられた法律である。
 その第1条1項には、〈衆議院議員、参議院議員又は(略)〉が〈国若しくは地方公共団体が締結する〉請負や契約、あるいは〈特定の者に対する行政庁の処分〉に対し、〈請託を受けて、その権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるように、又はさせないようにあっせん〉をし、報酬として利益を得たときに3年以下の懲役が科せられる、とある。また、第2条では〈衆議院議員又は参議院議員の秘書〉が同様のことを行った場合には懲役2年以下が科せられることになる。
 
 高井氏のいう「国交省がらみの権限があるかないか」でいえば、甘利氏は閣僚という有力国会議員であり、どう考えても権限を有していると言わざるを得ない。また、〈請託を受けて〉という部分に関しても、過去にはそれが具体的に特定されていなくとも起訴された例がある。それらを踏まえたうえで、甘利氏は建設会社側から計100万を授受したことを認めており、しかも、その授受の直前に陳述があったのだから、明らかに「請託」と考えるのが自然だ。そう、普通の感覚で考えれば、甘利氏は完全にクロなのである。
 つまるところ、先に紹介した日テレの“願望丸出しラテ欄”と、その放送内容をあわせて考えると、読売グループが政権を忖度して、ダメージを減らすような報道をしようと考えたようにしか見えないのである。
 
 頭が痛くなるような話だが、しかし、この日テレのケースは、おそらく、これからメディアで起きることの象徴にすぎないのだろう。断言できるが、マスコミの“幕引きムード”はこれから確実に濃くなっていくはずだ。たとえば、時事通信社特別解説委員の田崎史郎氏あたりが、今日にでも情報番組などで甘利氏擁護の弁を振るうと思われる。
 この茶番会見での言い分をそのまま垂れ流し、国民を裏切る重大犯罪を批判するどころか、アシストまでしてしまう御用メディア。官邸が手を回し甘利氏を不起訴にしたときのための“空気づくり”は、すでに行われているのだ。この汚職政治家とメディアの共犯関係に、私たちは目を光らせておく必要がある。 (宮島みつや)
 
 
甘利大臣辞任 政府ぐるみの隠ぺいを追及しないマスコミ  
田中龍作ジャーナル 2016年1月28日
 「道路工事をめぐるトラブルでUR(都市再生機構)に口利きした見返りに多額の現金を受け取った」・・・週刊誌が報道した疑惑で、甘利明TPP担当大臣が今夕、辞任した。
 「(カネは)適正に処理している」「秘書への監督不行届き」「S社は3年連続の赤字企業」…記者会見で甘利氏は用意してきた原稿を30分間にわたって読み上げた。
 現金授受は認めながらも口利きは否定。しかも自分は被害者であるかのような内容だ。
 
 ヤメ検の弁護士が書いたと分かる原稿の朗読が終わると質疑応答に移った。司会進行は内閣府の役人だ。
 記者クラブ6名、インディペンデント・メディア1名が指名された。「はい●●さん」「はい◇◇さん」と名指ししてゆく。インディペンデントに関しては「はい、そちらの方」だった。読売は2人続けて指名された。
 記者クラブメディアからの質問に追及らしきものはなかった
 酷いのになると甘利氏に弁明の機会をわざわざ与えた。甘利氏の答えを純朴な人が聞くと「悪い奴にハメられて甘利さんは気の毒ね」と思うだろう。
 長年記者をやっているが、これほどまでに権力者に寄り添う会見は初めてだ。
 
 記者も酷いが官僚も同じくらい酷かった。甘利氏の記者会見は午後6時から。民主党はこれに先立ち、午前と午後に一度ずつ国土交通省、URからヒアリングをした。
 口利きに関わったとして週刊誌に登場する国土交通省の局長やURの総務部長らが顔を揃えた。
 民主党議員の質問は至ってシンプルだった。週刊誌に報道されているような「口利き」「甘利事務所との接触」はあったのか? などとする内容だ。
 官僚たちは異口同音に「(事実関係は)まとめて公表する」と答えた。一点張りだ。
 甘利大臣の地元事務所を訪れたことが報道されているURの総務部長は、民主党議員から「大和(地元)の事務所に行ったのか?」と問い詰められても「まとめて公表する」としか言わない。壊れた蓄音機である。
 甘利大臣の記者会見と齟齬が出てはならないので、それまではダンマリを決め込む作戦だ。
 国交省とURからのヒアリングが終わって1時間後に開かれた記者会見で、甘利氏は現金授受は認めたが、口利きについては「記憶にない」とした。
 
 マスコミは政官一体となった隠ぺいを突かなかった。触ろうともしない。
 記者クラブ、官邸、霞が関による鉄のトライアングルが、幕引きを図ろうとしている。  ~終わり~

2016年1月29日金曜日

米大学が日本のTPPによる被害を試算 TPPの売国性

 米タフツ大学の世界開発環境研究所TPPの影響を分析した結果によると、TPP発効後10年間で、日本の国内総生産(GDP)0・12%落ち込み、7万4000人の雇用が失われます。
 同じく米国でもGDPは0・54%減少し44万8000人雇用が失われます。米国が主導したTPPのこの結果は一見意外ですが、米大企業の利益は米国民の利益にはつながらないということを示しています。
 米国民は、22年前に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)でこのこと体験してきたので、TPPに対して強い警戒感を持っています。
 それにしても最大の被害国になる日本で、TPPに対する国民の反対運動が起きないのは不思議なことです。
 
 しんぶん赤旗の記事と天木直人氏のブログを紹介します。
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TPP 日本のGDP012%減 米大学試算 雇用は74万人減少
しんぶん赤旗 2016年1月28日
 米マサチューセッツ州にあるタフツ大学の世界開発環境研究所(GDAE)はこのほど、環太平洋連携協定(TPP)の影響を分析し、TPP発効後10年間で、日本の国内総生産(GDP)が0・12%落ち込み、7万4000人の雇用が失われると試算した調査報告書を公表しました。
 
 同試算によると、GDPは日本のほか、米国でも0・54%減少します。雇用は、TPPに参加する12カ国すべてで減少します。米国で44万8000人減、カナダで5万8000人減、オーストラリアで3万9000人減、ニュージーランドで6000人減など、合計で77万1000人減となっています。
 同試算はさらに、TPPによって、労働から資本への所得の再分配が進み、労働分配率が低下し、格差がいっそう拡大すると指摘しています。
 
 GDAEは試算にあたり、国連経済社会局のモデル(GPM)を使用。他のモデルで除外されている雇用への影響を織り込んでいるとしています。他方、日本政府は国際貿易分析プロジェクトのモデル(GTAP)で分析し、TPPの経済効果をGDP14兆円増、雇用80万人増と試算。GTAPモデルは広範に使用されているものの、問題点も指摘されています。 
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フォードの日本撤退報道が見事に暴いたTPP交渉の売国ぶり
天木直人のブログ  2016年1月28日 
 フォード社の日本からの完全撤退を報じるきょう1月27日の東京新聞の記事は、今度のTPP交渉の売国ぶりを見事に暴いて見せてくれた。
 さんざん報じられた今度のTPP交渉で、その交渉の中心は日米二国間交渉だった。
 そしてその日米二国間交渉の中でも、メディアがさかんに取り上げた項目は、農産品と並んで米国車の日本市場シェア拡大のための優遇的規制緩和策だった。
 ところが、日本が譲歩して与えた優遇策を盛り込んだTPP協定の発効を待たずして、フォードは日本からの完全撤退を発表した。
 それを知った日本政府の交渉担当者は「交渉の苦労は一体なんだったのか」と徒労感をにじませていると東京新聞は書いている。
 そこまではまだ許せる。
 そんな事も分からずに交渉していたの、と交渉担当者の情報不足を叱ればいいだけだ。
 ところが、日本政府の関係筋は次のようにも語っているというのだ。
 すなわち、米国政府も、米国車の販売不振が日本の規制のせいではないことを分かっていたはずだ、欧州車は順調に輸出を伸ばしており、日本の規制が外国車に不利とはいえないからだ、と。
 そしてさらに次の様に語っているという。
 それでも米国政府が日本に強硬な姿勢を取り続けた背景には、「米国内の議員や業界の理解を得るために強い姿勢を見せ続ける必要があっただろうし、軟化する時に農産品など別の項目で日本から譲歩を引き出す狙いもあっただろう」と。
 ここまでわかっていながら、日本は車もコメ大幅譲歩した。
 まさしくTPP交渉は売国的だったということだ。
 米国の不当な要求を知っていながら、日本の国内産業を犠牲にしてまでも米国の利益実現に協力した。
 それがTPP交渉の正体だったということだ。
 収賄疑惑に関する甘利大臣の発言はウソだらけだが、そのウソを追及して首を取る前に、TPPのウソも白状させなければいけない(了)

29- 「連合」に支配されている民主党はどうしても共産党とは組めない

 宜野湾市長選と八王子市長選、注目されていた直近の二つの市長選で反安倍系の候補が敗れたのを機に、日刊ゲンダイが「進まぬ野党共闘…“黒幕”は共産党嫌いの連合神津会長」とする記事を掲げました。
 
 野党共闘が一向に進まないのは勿論民主党に原因があり、前原氏のように幹部クラスのメンバーにも強い共産党アレルギーを持っている人たちが多いことがまず挙げられますが、日刊ゲンダイはより根本的には民主党が頼らざるを得ない支持団体の「連合」に極めて強い「共産党アレルギー」があることを強調し、ある時期に超対米従属者で保守の権化の故・岡崎久彦氏3年間密着した神津連合会長の経歴に着目しています。
 そして支持団体のトップが断固拒否なのに、民主党『共産党と手を組む』と宣言することはできないとしています。
 
 この問題については、「世に倦む日々」氏も19日のブログ(有料):「・・・なぜ連合は共産党を拒絶するのか http://critic20.exblog.jp/25201742/ で、極めて明確に
労組の世界で支配者として君臨する連合は、常に異端たる共産党(全労連)と緊張して対峙しているのであって、安倍政権や自公と対立しているわけではない。
・連合にとって共産党は、もしも彼らが勢力を伸ばせば自分たちの立場が危うくなるという「不倶戴天の敵である。
・民主党は選挙も「連合」におんぶにだっこで戦うしかないので、「共産党と手を組むな」という連合の指令に逆らえない
と整理しています。
 
 現実に民主党は八王子市長選挙では石森氏側につき、宜野湾市長選でも志村氏側にはつきませんでした。
 そろそろそうした現実を見据えて、これからどうするかを決める必要がありそうです。
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進まぬ野党共闘…“黒幕”は共産党嫌いの「連合」神津会長
日刊ゲンダイ 2016年1月27日
 7月の参院選の“前哨戦”とされた沖縄・宜野湾市、東京・八王子市の両市長選で、安倍政権との対決姿勢を鮮明にしていた候補が敗れた。考えたくはないが、このまま他の首長選や、4月の衆院北海道5区の補欠選でも自公が勝ったら最悪だ。参院選前に「勝負アリ」となる可能性が高まるからだ。一刻も早く「野党共闘」を急ぐべきだが、遅々として進まないのはなぜか。民主党のテイタラクは言うまでもないが、支持団体「連合」(日本労働組合総連合会)が足を引っ張っているのも原因だろう。
 
■民主・前原元代表も難色…
「野党がバラバラでは、巨大与党である安倍政権に太刀打ちできない」――。民主党の前原誠司元代表と、生活の党の小沢一郎共同代表は24日夜、都内で会談。参院選に向け、野党勢力の結集が不可欠との認識で一致した。このままトントン拍子で進めばいいが、この期に及んでも「共産党」と手を組むことについて、前原元代表が難色を示した、というからどうしようもない
 
前原元代表ら民主党内の保守系議員が共産党アレルギーを持っているのは周知の通りですが、かたくなに共闘を拒んでいる理由として連合の動きがあると指摘されています。連合の神津里季生会長は新年の交歓会で『共産党は目指す世界、目指す国家体系が異なる。同じ受け皿には成り得ない』とあいさつしました。支持団体のトップが断固拒否なのに、民主党も『共産党と手を組む』とは宣言はできないでしょう」(野党関係者)
 
 これじゃあ、いくら時間が経っても野党共闘は期待できない。八王子市長選なんて、共闘どころか、自公推薦の与党に民主党が相乗りした。敗れた政治学者の五十嵐仁氏もブログで選挙戦をこう振り返っている
〈自民党市議の後援会、創価学会や町内会、労働組合の連合などの力が、そのまま石森さん(現職)の得票になって現れています〉
 八王子市は、安倍首相の側近である萩生田官房副長官の地元。そんな敵の“本丸”で連合は自公候補を支援したのだ。
 
 新日鉄出身の神津会長はなぜ、共産党を嫌うのか。「カギ」は90年から3年間、タイの日本大使館に「労組外交官」で派遣されたこと。当時のタイ大使は「安倍外交の師」と呼ばれた故・岡崎久彦氏。「強固な日米同盟がアジアでの日本の発言力を高める」と主張し、集団的自衛権の行使容認に向けて設置された懇談会のメンバーだ。
 
 元外務省国際情報局長の孫崎享氏は「岡崎氏は外務省内でも日米安保の旗頭だった人物。自分の考えをストレートに伝える強烈な性格で、神津氏の思想にも影響を与えた面は否めません」とみる。もともと「労組外交官」は日米安保賛成者から派遣されたらしいから、保守色にどっぷり染まっても不思議じゃない。つまり、今の連合幹部の考え方は安倍政権と同じではないか、と疑いたくなる。政治評論家の森田実氏はこう言う。
 「いずれにしても、このままだと野党共闘はうまくいかず、相手を利するだけ。とはいえ、連合を見限ればそれまで。連合内部にも執行部の方針に批判的な意見は多数あり、そういった意見を少しずつ掘り起こし、民主党や他党がどう連携していくか。それに尽きるでしょう」
 まさに正念場だ。 

2016年1月28日木曜日

「この国に、戦前がひたひたと迫っていることは確か」(野坂昭如氏)

 昨年末亡くなった野坂昭如氏の『絶筆』が「新潮45』1月号に掲載されたのを、水井多賀子氏がLITERA紙上で紹介し、その最後の言葉が『この国に、戦前がひたひたと迫っていることは確かだろうだったことを伝えています。
 
 安倍政権下で進められている戦争への道を、野坂氏が如何に現実感をもって受け止めていたのかがよく分かります。
 彼は幼い身で戦下の悲劇と戦争直後の悲惨さを強烈に体験した人でした。
 その悲惨さはあの「火垂るの墓」にも描き切れなかったほどに深刻であったため、書き上げた後はその小説を読み直すことをしなかったということです。
 
 野坂氏の絶筆で語られたものが「杞憂だった」と言える日が一日も早く来るように頑張りましょう。
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「この国に、戦前がひたひたと迫っていることは確か」
  野坂昭如が死の直前、最後の日記に書き遺したひと言
水井多賀子 LITERA 2016年1月27日
 昨年末、立て続けに飛び込んできた野坂昭如氏、水木しげる氏の訃報に接し、この国のゆく末を案じた人も多かったはずだ。ご存じの通り、水木氏は左手を失った南方での苛烈な戦争体験をマンガ作品に、野坂氏は戦争によって家族を失い孤児となった体験を小説やエッセイで発表。“戦争のリアル”を伝えつづける貴重な表現者だったからだ。
 
 そんななか、野坂氏の“絶筆”が、「新潮45」(新潮社)1月号に掲載された。その文章には、死の間際にもやはり野坂氏の意識から「戦争」が失われることはなく、最期の最期まで、現在の日本にはびこる“戦前の空気”に警鐘を鳴らしていたことがわかる。
 
 絶筆となったのは、2007年から連載をつづけてきた「だまし庵日記」。最終回となってしまったこの連載第106回には、12月8日と翌9日の日記が綴られている。野坂氏が心不全によって息を引き取ったのは、9日の午後10時半ごろ。つまりこの日記は死の前日、当日のものだ。
 
 まずは、野坂氏の8日の日記を見てみよう。
 
〈12月8日と聞けば、ぼくなどはすぐさま昭和16年に結びつく。
  日本軍によるハワイ真珠湾攻撃。この戦争の始まった年、ぼくは神戸成徳小学校5年生。8日の朝、校庭の鉄棒にぶら下がり前まわりをくり返していた〉
 
 少年時代を振り返る野坂氏は、〈相撲、鉄棒、短距離は得意だった〉という。このことが象徴しているのは〈道具が要らない〉遊びだということ。〈日本軍が中国大陸に押し渡り、勝っている、と言うわりには、物資はどんどん欠乏。ボールも失せた〉が、そのうち鉄棒も供出されてしまった。しかし、この段階では、まだかろうじて外で遊ぶ“日常”と呼べるものがあったのだろう。
 
〈昭和16年12月8日午前6時頃、帝国陸軍部大本営発表がラジオで流れた。二度と耳にしたくない音。
  だが、あの時、ぼくにはまだ両親がいた。ごく当たり前の日々があった〉
 
 野坂氏は生まれる直前に両親が別居、実母は出産後まもなく死去し、神戸に養子に出されている。その養子として迎えられた家も、昭和20年の神戸大空襲で焼失、養父も失い、野坂氏は妹とともに西宮の親戚に預けられた。このあたりの話は代表作『火垂るの墓』に詳しいが、そうして野坂少年の〈ごく当たり前の日々〉は、空襲によってズタズタに切り裂かれてしまったのだった。
 
 作家としての出発点であり、そして最期まで忘れられなかった戦争の記憶。本サイトでも既報の通りだが、じつは野坂氏は昨年の8月にもこのことに言及している。
 
〈ぼくは焼け野原の上をさまよった。地獄を見た。空襲ですべて失い、幼い妹を連れ逃げた先が福井、戦後すぐから福井で妹が亡くなるまでの明け暮れについてを、「火垂るの墓」という30枚ほどの小説にした。空襲で家を焼かれ一家離散、生きのびた妹は、やがてぼくの腕の中で死んだ。小説はぼくの体験を下敷きにしてはいるが、自己弁護が強く、うしろめたさが残る。自分では読み返すことが出来ない。それでも戦争の悲惨さを少しでも伝えられればと思い、ぼくは書き続けてきた。文字なり喋ることだけで、何かを伝えるのは難しい。それでもやっぱりぼくは今も戦争にこだわっている〉(毎日新聞出版「サンデー毎日」2015年8月23日号)
 
 このとき、野坂氏は〈戦争は人間を無茶苦茶にしてしまう。人間を残酷にする。人間が狂う。だが人間は戦争をする。(中略)戦場で殺し合いをする兵士が、家では良き父であり、夫である。これがあたり前なのだ〉とも書いている。戦争によって人間は平穏な生活や大切な家族を奪われるが、他方で戦争を行い、命を奪うのも人間なのだ。そのことをよく知る野坂氏は、前述の日記でも、いま世界に蔓延する“テロリスト憎し”のムードに注意を呼びかける。
 
〈テロが世界を脅かしている。
  当たり前だった日常が、テロによって奪われた。
  残虐な行為は許せるわけがない。だが、軍事力では何ひとつ解決は出来ない。これはすでに立証されている。
  戦争が戦争を呼び、テロリストを生んだ。どんどん根が深くなっている。
  テロリストは、空爆で根絶など出来ない。負の連鎖を止めなきゃ終りはない〉(12月8日の日記より)
 
 そして、野坂氏が最期まで警告を発してきたのが、安倍政権と安保法がいかに危険なものであるかということだった。
 
〈安保法がこのまま成立すれば、やがて看板はともかく、軍法会議設立も不思議じゃない。これは両輪の如きものとも言える。すでに特定秘密保護法が施行され、さっそくの言論弾圧。そのうち再びの徴兵制へと続くだろう。言論弾圧が進めば、反戦的言辞を弄する者は処罰される。すでにマスコミにも大本営発表的傾向がみられる。これがこのまま続けば国民の国防意識を急速に高めることも可能。たちまち軍事体制が世間の暮らしの仕組みの上に及んでくる。戦争ならば覚悟しなければならない。往年の国民精神総動員令がよみがえる〉
 〈今は軍国主義の世の中ではない。だが、世間が反対しようと無謀であろうと、無理のごり押しを平気でする。決めたらひたすら突き進む。この政府の姿勢は、かつてとそっくり〉(前出「サンデー毎日」より)
 
 この文章をしたためた夏を過ぎた後、野坂氏は死の危機を迎えていたらしい。12月9日の日記によると、〈秋のはじめに誤嚥性肺炎とやらに見舞われ、スッタモンダ。どうにか息を吹き返したらしい〉と綴っている。〈ベッドと椅子と、半々位の生活をしている。移るのが一仕事〉という生活のなか、しかし野坂氏は、着替えが楽なパジャマを揃える妻と病人くさい格好よりおしゃれにさせろと言う娘の意見対立についても、他人事のように〈オレはどっちでもいい〉と書いたり、年の瀬に思い出として〈飲み屋のツケ払いに奔走していた〉と回想したりと、日記にはじつに最期まで野坂氏らしい飄々さが貫かれている。
 
 そんな具合に病状について記したあと、〈さて、もう少し寝るか〉と書いているのだが、次の段落で野坂氏は唐突に、こう書き付けるのだ。
 
〈この国に、戦前がひたひたと迫っていることは確かだろう〉
 
 死の当日、野坂氏は日記をこのように締めた。これが最期に遺した一文である。〈もう少し寝るか〉という文章とはつながらない、でも“書かずにはいられない”という強い思いがあふれる一文──いまとなっては、これが野坂氏の遺言だったのだと思えてくる。
 
 安倍首相は22日の施政方針演説で改憲について「逃げることなく堂々と答えを出していく」と勇ましく口にした。この総理によって憲法にまで手がつけられれば、野坂氏が言葉として遺したように、その後、わたしたちを待っているのは“戦前”の社会だ。
 
 病床の野坂氏には、軍靴の足音がはっきりと聞こえていたのだろう。しかしこの社会のメディアはまさに「大本営発表」化し、そんな音などどこにも響いていないかのように平然さを演出しつづけている。すでに戦争状態ははじまっている、そう言ってもいい状況だ。野坂氏は、こう述べていた。
 
〈どんな戦争も自衛のため、といって始まる。そして苦しむのは、世間一般の人々なのだ。騙されるな。このままでは70年間の犠牲者たちへ、顔向け出来ない〉(前出「サンデー毎日」より)
 
 野坂氏の遺言を、いまこそ肝に銘じなくてはならない。 (水井多賀子)