2023年7月31日月曜日

来秋 保険証廃止 道理なさ浮き彫り 存続がもっとも確実

 マイナカード問題は、システムの全体を見通した上でミスが起きないように具体的段取りを定める能力のないリーダーが財界の要求に応えようと功を焦った結果であって、一からやり直さないことにはミス(トラブル)の根絶はできないと言われています。

 いまとなっては体面上も費用上もそれが出来ないというのであれば、「ミスが皆無」になるまで十分な時間を取って見直すしかなく、無理な期限を決めて保険証を廃止するなどは言語道断です。また無理な期限を設けて自治体や保険関連機関にミスのチェックを要求してもミスの「完全な解消」は土台無理です。
 どうしても保険証を廃止したいというのであれば、まずはその期限を延長するしかありません。そうしたごく当たり前の対応が出来ないのは何故でしょうか。
 しんぶん赤旗の記事を紹介します。
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来秋 保険証廃止 道理なさ浮き彫り 存続がもっとも確実 参院特 マイナ閉会中審査
                       しんぶん赤旗 2023年7月28日
 26日に行われた参院地方創生デジタル特別委員会の閉会中審査では、現行の健康保険証の来年秋の廃止とマイナンバーカードへの一本化に固執する岸田政権の道理のなさが改めて浮き彫りになりました。

開き直る河野氏
 来年秋に現行の保険証を廃止する政府の方針には、世論調査でも7割超の国民が延期か撤回を求め、自民党からも延期論が出ています。今回の閉会中審査でも自民党の山田太郎議員が「期限ありきではなく、丁寧に国民からの理解を得るべきではないか」と主張しました。
 一方、河野太郎デジタル相は、「わが国の医療DX(=デジタル変革)は待ったなしだ。カードに保険証を統一した後も、安心して保険医療を受けていただけるという広報をきちんとやり、心配や懸念を払拭したい」などと開き直りました
 政府の個人情報保護委員会は、マイナンバーのトラブルを巡るデジタル庁への立ち入り検査は「事務方に対して行う」ものだとして、河野氏への聴取などは行わない意向を示唆。立憲民主党の杉尾秀哉議員は「本気度が問われている」と批判しました。

カードの現状は
 質疑ではマイナンバーカードの現状も改めて明らかになりました。
 厚生労働省の伊原和人保険局長は、保険資格を確かめるオンライン資格確認のうちマイナンバーカードによるものは、いまだ6%前後にすぎず、直近では、5月の約853万件から6月の約849万件へと減少していることを明らかにしました。
 杉尾氏は「ほとんどの人が保険証を使っており、マイナ保険証は使われてない。その理由の一つにはトラブルの問題がある。こんな状況で、あと1年で保険証の廃止ができるのか」と追及しました。

 政府が「マイナ保険証」を持たない人に交付するとしている「資格確認書」については、与党からも「資格確認書と保険証は機能的にはほぼ同等だ。結果的に職権で交付するのなら現在の仕組みと全く変わらないのではないかという意見もある」(公明党の上田勇議員)との指摘が。伊原局長は「いずれも同じような効果を有するが、資格確認書は原則本人の申請に基づき交付するものだ」などと答えました。
 日本共産党の伊藤岳議員は「保険医療をすべての人が受けられるようにするためには、保険証を残すことがもっとも確実で一番簡素な方法だ」と指摘。「財界優先で、社会保障削減、国民負担増に突き進むマイナンバーカード暴走は止めるべきだ」と求めました。

安倍元首相殺害の深層(田中 宇氏)

 去年の7月8日に安倍晋三・元首相が殺害されました。これはその2日後に国際ニュース解説者の田中宇氏が発表した記事です。
 田中氏は、この殺人事件は安倍氏が国に従属する一方で国とも良好な関係を保ち(米中両属)更にロシアとも友好関係を維持する路線を採っていることを許しがたいとする米諜報界が行ったものと見做しています。
 大変遅くなりましたが紹介します。
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安倍元首相殺害の深層
               田中宇の国際ニュース解説 2022年7月10日
7月8日の安倍晋三・元首相が殺害された事件の最大の要点は、安倍が自民党を仕切っている黒幕・フィクサーだったことだ。安倍は一昨年に首相を退いた後、後継の菅義偉と、その後の今の岸田文雄が首相になるに際して自民党内をまとめ、菅と岸田の政権が安全保障・国際関係などの重要事項を決める際、安倍の意向が大きな影響を与える体制を作った。安倍は首相時代から、対米従属を続ける一方で中国との親密さも維持し、日本を「米中両属」の姿勢に転換させた。安倍は、米国の「インド太平洋」などの中国敵視策に乗る一方で、日中の2国間関係では中国を敵視せず協調につとめ、世界の覇権構造が従来の米単独体制から今後の多極型に転換しても日本がやっていけるようにしてきた
 (米国の中国敵視に追随せず対中和解した安倍の日本

安倍はプーチンらロシアとの関係も維持しており、ロシア政府はウクライナ開戦後、岸田首相や林外相らを入国禁止の制裁対象にしたが、岸田の後ろにいて日本で最も権力を持っていた安倍は制裁対象にしなかった。ウクライナ戦争によって作られた米国側と非米側の対立の激化は、今後時間が経つほど資源類を握るロシアなど非米側が優勢になり、日本など米国側は資源調達がとどこおって経済的に行き詰まる。岸田政権は今のところ米国の言いなりでロシア敵視の姿勢を続けてきたが、今後はロシアなど非米側から石油ガスなどを止められる傾向が強まり、資源を得るためにロシアと和解せねばならなくなる。そのとき安倍がプーチンとの関係を利用して訪露などして対露和解を進め、日本を資源不足の危機から救う展開が期待できた。そのため、露政府は安倍を入国禁止の対象に入れていなかったと考えられる。

左翼リベラルなどは安倍を敵視してきたが、安倍は今後の日本に必要な権力者だった。だがその安倍は今回、ロシアなどが日本への資源輸出を止める報復措置を強め始め、安倍の出番が近づいたまさにそのタイミングで殺されてしまった。これから日本が資源を絶たれて困窮しても、日本を苦境から救うことができたかもしれない安倍はもういない。7月8日の安倍の殺害は、偶然のタイミングにしては絶妙すぎる。報じられているような、犯人の個人的な怨恨によるものとは考えにくい。今回のような大きく衝撃的な政治事件は、偶然の産物として起きるものではない。安倍の殺害は、日本がこれから困窮しても中露と関係を改善できず、中露敵視を続けざるを得ないようにするために挙行された可能性が高い。 
中立が許されなくなる世界

安倍の死去により、日本の権力は岸田のところに転がり込んだ。これまで岸田は安倍の傀儡だったが、安倍が死んだので岸田は好きにやれるようになった。岸田が今後も安倍が作った米中両属の路線を継続する可能性はゼロでない。しかし、安倍殺害犯を動かした背後の勢力は、岸田に勝手にやらせるために安倍を殺したわけでない。安倍を殺した勢力はおそらく、安倍を殺すと同時に岸田を傀儡化し、安倍が続けてきた米中両属の路線を潰し、傀儡化した岸田に中国やロシアに対する敵視を猛然とやらせるつもりだろう
 (日米欧の負けが込むロシア敵視

1964年に米諜報界(軍産複合体)は、自分たちに楯突いてきたケネディ大統領を殺したが、諜報界はケネディを殺すと同時に、副大統領から昇格して次の大統領になったジョンソンを傀儡化し、冷戦の再燃やベトナム戦争の激化など、ケネディが阻止しようとしたことを思い切りやれるようにした。それがケネディ殺害の目的だった(その後ベトナム戦争は泥沼化し、米国の覇権を自滅させる隠れ多極主義の流れに入り込まれたが)。今回の安倍殺害は、ケネディ殺害に似ている。安倍殺害犯を動かしていたのは米国の諜報界(軍産、ネオコン)である可能性が高い。彼らは、安倍が敷いた日本の米中両属路線を潰すために安倍を殺し、同時に岸田を傀儡化して、安倍の路線と正反対の露中敵視の強化路線を岸田に採らせていくのでないか。
 (英ジョンソン首相辞任の意味

安倍が殺される10日ほど前の6月末のG7サミットあたりから、岸田政権は米国(バイデン政権を牛耳るネオコン系の勢力)からの要請・加圧を受け、ロシアが輸出する石油の価格に上限を設定するG7の対露制裁案を積極的に推進するなど、米国側のロシア敵視の急先鋒を演じ出した。日本などG7から石油の輸出価格を抑止されたら、ロシアは石油をG7諸国でなく中国やインドに売ればいいだけの話で、ロシアは全く困らない。自滅的に困窮するのは、ロシアから石油ガスを輸出してもらえなくなる日本などG7の方だ。
 (Vladimir Putin: Anti-Russian Sanctions Have Backfired on Those Imposing Them

岸田政権のロシア敵視強化は、ロシアからの報復を招き、日本国民の生活と岸田自身を困窮させる自滅策だ(その分、露中など非米側の優勢が増し世界が多極化する)。岸田は米ネオコン(隠れ多極派)の言いなりで日本を自滅に誘導する策をやり出している。米ネオコン系はドイツにも露敵視を強要して自滅させているが、それと同じことを日本に対してやり出した。安倍は、日本側の自滅が顕在化するまで傍観し、自滅が顕在化したら岸田のために安倍がロシアと掛け合って日露を和解に持っていき、日本のエネルギー輸入を保全しようと考えていたのでないか。だがそれは安倍の殺害によって不可能になった
 (Germany’s developing economic crisis is a fascinating study in self harm

安倍殺害は、2日後の7月10日の参院選挙で同情票を得る自民党を有利にした。岸田政権は参院選に勝利して権力を強化するが、その権力強化は安倍が敷いた米中両属・対露和解の路線を潰すために使われる。安倍の死で、自民党は安倍の路線から離れる方向で優勢になる。安倍は自らの命を奪われれただけでなく、死によって自分の路線を破壊される。ひどい話だ。米諜報界は残酷で狡猾だ。

岸田は安倍路線を捨て、米国から誘導されるままに露中敵視を強めるが、それは日本が経済的に露中から報復されて窮乏することにしかつながらない。米諜報界とバイデン政権を牛耳るネオコン系は隠れ多極主義なので、露中を強化して多極化を進めるために、日独に自滅的な露中敵視をやらせて潰し、露中を優勢にしている。安倍は日本を米中両属にして国力の温存を図ったが、今回ネオコン系に殺され、代わりに日本の権力を握らされた岸田は、ネオコンの傀儡になって日本を急速に自滅させていく

安倍を殺した実行犯が逃げずに現場にとどまったことも、私怨による単独的な犯行でなく、後ろに巨大な勢力がいて犯人を動かしたことを思わせる。私怨による単独犯なら、犯行後に逃亡を試みるのが自然だ。犯人が逃げずに逮捕され、犯行の動機を警察に供述したことにより、安倍殺害は統一教会への怒りによって引き起こされたという頓珍漢な話が喧伝されることになった。統一教会の話は、実行犯の気持ちとして本当なのかもしれないが、事件の全体像としての本質から逸脱している。背後にいる米諜報界は実行犯に対し、犯行後に現場に残って逮捕されるよう誘導したのだろう。

安倍は死んだ。岸田の露中敵視もいずれ破綻する。その後の日本は弱体化し、経済的に露中敵視を継続できなくなり、米国も金融破綻や国内混乱で弱体化するので、いずれ日本は再び米中両属への道を模索するようになる。それを自民党の誰が主導するのか、まだ見えない。岸田自身が露中敵視の強化が自滅策だと気づいて方向転換を図るかもしれない。左翼リベラルなど野党やマスコミが事態の本質に気づく可能性はほぼゼロなので、そちらからの転換はない。マスコミ権威筋が頓珍漢なままなので、日本人のほとんども何も知らないまま事態が転換していく。 

31- 安倍元首相殺害の深層 その2(田中 宇氏)

 この22年8月8日付の記事は、田中宇氏が22年7月10日付記事「安倍元首相殺害の深層」の約1ヶ月後に発表した続報です。

 ここでは約1ヶ月が経過したものの日本のマスコミは、安倍氏と統一協会との関係を取り上げるのみで事件の真相に迫ろうとしていないことや、岸田首相が米諜報部の意向に反して明確な反中・反露に舵を切っていないことなどが指摘されています。
 後者についてはまだ1ヶ月ほどの期間に過ぎないことを考慮する必要があると思われます。
 大変遅くなりましたが紹介します。
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安倍元首相殺害の深層 その2
                  田中宇の国際ニュース解説 2022年8月8日
この記事は「安倍元首相殺害の深層」の続きです。
7月8日に安倍晋三元首相が殺されてから1か月が過ぎた。この間に異常なことが2つ起きている。異常さの一つは、日本のマスコミが、安倍や自民党を敵視する傾向の報道を続けていることだ。実行犯の山上が安倍を殺した動機が、安倍など自民党と親しかった統一教会に対する私怨だったことから始まり「山上が、母の資産を奪った統一教会を憎むのは当然だ」「統一教会は極悪な組織だ」「統一教会と親しかった安倍など自民党も極悪だ」「極悪な安倍の葬儀を国葬にするのは良くない」といった理屈の連鎖で「殺した山上よりも、殺された安倍や自民党が悪い」という方向の主張をマスコミは続けている。マスコミは、安倍を殺した側の味方をしている。後述するように、実行犯山上を動かしていた黒幕がいそうなので、日本のマスコミはこの黒幕の傀儡・一味である

統一教会と安倍ら自民党のつながりは大昔からのもので、日本のマスコミはこの20年以上、統一教会をほとんど批判せず、言及すらしなかった。ところが安倍が殺されるや、マスコミは統一教会と親しかったことを理由に、安倍や自民党を急に猛然と批判し始めた。マスコミのこの展開は、明らかに他意がある。私から見ると日本のマスコミは、これから書くもう一つの異常さである安倍殺害時の状況の不可解さから目をそらすための目くらましとして、統一教会と安倍の関係を喧伝している。

安倍殺害事件に関するもう一つの異常さは、安倍が撃たれた状況について、不可解な矛盾や不確定な曖昧さが解消されず、追加説明がないまま放置されていることだ。どのような銃弾が、どこから撃たれ、どの方向から安倍の体内に入り、どう致命傷になり、銃弾はどうなったか。たとえば警察庁は、撃ち込まれた銃弾が安倍の体内を貫通せず、銃撃時に体外に出ていないことを確認している。銃弾は安倍の体内にあり、延命措置や検死の際に取り出されたはずだが、取り出されたはずの銃弾は残っておらず、紛失した形になっている。日本の当局は、事件に関する最重要の証拠品である銃弾を紛失してしまった。これは過失というより、当局内の誰かかが故意に隠匿した可能性が高いと私には思える。
 (【ぼくらの国会・第371回】ニュースの尻尾「消えた銃弾 安倍元総理暗殺」

安倍に向かって何発の銃弾が撃たれたのか。マスコミは当初3発と報じていたのがその後2発に訂正されたが、実際は3発撃たれたのでないかと根強く言われている。確定でないが、安倍を撃った実行犯は山上の他にもいた可能性がある。山上が至近距離から2発撃ち、それと同時に近くの建物の上階など離れた場所から別の狙撃犯が1発撃ったとか。安倍がどのように撃たれたかについて、当局が明確な追加説明をしないため、こういうネットに出回る説を無根拠な妄想として退けられない。

安倍の体内から取り出された銃弾は、そのとき病院にいた警察によって隠匿されている。それは、警察の組織的な行為ではない。警察の組織としては「銃弾は貫通しておらず、安倍の体内から取り出されたはずだが(行方がわからない。事実確認中)」という、不可解さを認める姿勢になっている。警察の中に、他の組織とつながった筋・勢力があり、その勢力が警察の指揮系統を無視して動き、安倍の体内にあった銃弾を医師が取り出した際に受け取って隠匿したと考えられる。銃弾の隠匿が必要だということは、その銃弾が実行犯山上の手製の銃から発射されたものでなく、別の狙撃犯が撃ったものであると感じられる。山上を動かしていた黒幕がおらず、山上だけが安倍を撃った完全単独犯行だったのなら、警察の誰かが他の組織からの依頼で安倍の体内から取り出された銃弾を隠す必要などない。

この「他の組織」が、安倍殺害の黒幕であり、その黒幕が安倍の行動予定を把握した上で、山上ともう一人の狙撃犯を用意し、山上の発砲と同時に他の場所からも本格的な銃で安倍を撃って確実に安倍が死ぬように仕組み、その黒幕から頼まれた警察幹部が事件後の病院で安倍の体内から取り出された銃弾を医師から受け取って隠匿し、証拠隠滅を行ったと考えられる。警察の上層部は、誰が銃弾を隠匿したかわかっているはずだが、隠匿者を動かした他の勢力に配慮して真相究明せず、事態を不可解なまま放置している。警察に真相究明を遠慮させるほど大きな力を持った「他の組織」が、安倍殺害の黒幕としていたことはほぼ確実だ。

この「他の組織」とは誰なのか。自民党内の分裂など、日本国内に権力闘争があるのなら、その権力闘争で安倍の敵だった組織が安倍を殺した可能性があるが、最近の日本の上層部には権力闘争がほとんどない。安倍は自民党の最高権力者として党内をうまくまとめていた。中露とパイプを持って独自の隠然非米化・米中両属路線を進めていた安倍は、首相時代から、対米従属一本槍で米諜報界のスパイとして機能していた外務省を外して冷や飯を食わせていた。外務省は安倍を恨んでいたかもしれないが、外交官たちは高給取りの気取った役人たちであり、組織的に外されたからといって安倍を殺そうとは思わない。日本国内には、安倍を殺す動機と技能がある組織がない。
 (従属先を軍産からトランプに替えた日本

となると、日本国外の外国勢力だ。中国やロシアや北朝鮮は、日本の当局を動かせない。安倍を殺した黒幕は、日本の敵の側でなく、味方の側、それも警察など日本の当局を内側から操れるほどの力を持った外国勢力だ。そんな外国勢力は一つしかない。米国だ。米諜報界は国防総省や国務省などを傘下に持ち、日本の官僚機構に横入りして日本国内の指揮系統に従わない筋を作って動かすことができる。日本の外交官たちは、自分たちの独力で安倍を殺そうとは思わないが、米諜報界が安倍を殺すなら、その後の日本で権力を取り戻せるかもしれないので喜んで機密情報の提供などの協力をする。
 (米国の中国敵視に追随せず対中和解した安倍の日本

日本の警察はテロ対策の名目で米諜報界の言いなりだし、日本の防衛省は米国防総省の言いなりだ。実行犯の山上は元自衛官だが、日本の警察や防衛省は、武器の使い方を知っている元自衛官たちの動向を把握している。米諜報界が安倍殺害を企画し、日本の官僚機構に横入りして準備を進めて実行し、事後に事件を曖昧化することは十分に可能だ。米諜報界は、日本外務省などを経由して日本のマスコミの論調を操作できる。安倍を殺した真犯人の黒幕は、米諜報界である可能性が高い

▼日本は中露敵視を強めていない
米諜報界が安倍を殺したのなら、その目的として最もありそうなのは、日本にもっと中露敵視をやらせることだ。私は事件直後の記事で「安倍殺害犯を動かしていたのは米国の諜報界である可能性が高い。彼らは、安倍が敷いた日本の米中両属路線を潰すために安倍を殺し、同時に岸田を傀儡化して、安倍が続けてきた米中両属の路線を潰し、傀儡化した岸田に中国やロシアに対する敵視を猛然とやらせるつもりだろう」と書いた。だが、その後の現実は、私の予測とかなり違っている。岸田政権は安倍殺害後、ロシア敵視を強めておらず、逆に、実質的な敵対関係を弱める方向に、目立たない感じで動いている。 
日米欧の負けが込むロシア敵視

その兆候の一つは、日本にLNGを送っているサハリン2の天然ガス田の開発事業に出資してきた日本の商社2社に対して、ロシアが事業を国有化した後も事業に参加・出資し続けるよう、岸田政権が7月中旬に要請したことだ。ロシア政府は6月末、サハリン2を国有化して日本の2社など外国勢を締め出そうと動き出していた。日本側は、ロシアと交渉してサハリン2への参加・出資を続けるか、ロシア敵視を続けてサハリン2から追い出されるかの二者択一を迫られた。岸田政権は、ロシア敵視を強化せず、ロシアと交渉して日本勢がサハリン2に参加・出資し続ける道を選んだ。 
Japanese firms told to stick with Russian LNG project

サハリン2は日本のガス輸入の1割を占めており、閉め出されら日本のいくつかの都市がガス供給に困る事態になっていた。それを避けるため、日本側はサハリン2への参加・出資を続ける以外の道はなかったと考えることもできる。しかし、今は世界的に非常時だ。ドイツは、国内がガス不足に陥って国民生活が破綻して経済が自滅しても、ロシア敵視やめずにガスの輸入を止める道を選んでいる。米国は、対米従属のドイツに露敵視を強要して経済自滅への道を歩ませている。ドイツと同じ対米従属の日本も、日露間の政治的なパイプ役だった安倍晋三が7月8日に殺された後、米国から岸田への圧力が増し、国民生活を破綻させてもロシア敵視を優先してサハリン2のガスを止める可能性があった。だが、事態はその方向に進まなかった。
 (ドイツの失敗

また日本は英米カナダに比べて、自国企業をロシアから撤退させることをやっていない。ロシアには168社の日本企業が進出しており、ウクライナ開戦直後、そのうち4割がロシア撤退の意志を表明したが、実際に撤退したのは3%にあたる5社のみだった。日本企業の撤退の少なさと対照的に、ロシアに進出していた米国企業の27%、カナダ企業の33%、英国企業の46%がウクライナ開戦後に撤退している。撤退するかどうかは最終的に企業自身の判断だが、判断する際には自国政府の意向が大きく影響する。米英カナダは政府が企業にロシアから撤退すべきだと加圧している半面、日本は政府が企業に撤退しなくて大丈夫だろうと言っていることになる。
 (Japanese Companies Appear To Be "In No Rush" To Exit Operations In Russia

日本政府は表向きロシア敵視を続けており、安倍の国葬にプーチンが参加したいと言っても禁止するなどと言っている。しかしロシア政府は、もともとプーチンが安倍の国葬に参加する予定などないと言って、日本の表明は空論だと反論している。こうした表向きの敵対的な演技の下に、日本勢がサハリン2のガス田開発への参加を続け、実質面で日本がロシアと協調し続け、ロシアがそれを受け入れる体制が維持されている。私は安倍殺害直後の記事で「岸田は米ネオコン(隠れ多極派)の言いなりで(ロシア敵視を拡大して)日本を自滅に誘導する策をやり出している」と書いたが、それは外れている。
 (Putin has no plans to visit Japan to attend Abe's funeral

中国敵視の方はどうだろう。8月4日のカンボジアでのASEAN外相会談で、岸田の右腕である林芳正外相が中国の軍事演習を批判したところ、中国とロシアの外相が怒って退席し、中国は日中外相会談もドタキャンした、と騒ぎになっている。だがもしかするとこれは、林外相がもともと「親中派」で、中国敵視を強める日本国内や米欧のマスコミ権威筋で「林は親中派だ」と批判されることを弱めるため、林が強めに中国を批判し、中露は林の「中国敵視演技」をもり立てるために、中露外相がそろって怒って退席してみせたのでないか日露は表向き敵対だが裏の現実は協調している。日中も同様だろうと私には感じられる
 (Infuriated China Cancels Bilateral Meeting With Japan Over G-7 Statement On Taiwan) (Japan's Hayashi Says 'Logic of Brute Force' Gaining Traction in Indo-Pacific

米国のペロシ下院議長の台湾訪問に関連して、米国の言いなりで中露敵視を強めて間抜けに自滅しているドイツでは、ベアボック外相が「中国が台湾に侵攻したら、ドイツは台湾を助ける」宣言した。それと全く対照的に、建前は対米従属だが近年中国寄りの姿勢を強めている韓国の政府は、台湾を訪問した後のペロシが韓国を訪問したのに、大統領も外相も理由をつけてペロシに会わなかった(大統領は夏休み、外相はASEAN会合でカンボジア)。韓国政府は、中国を怒らせることをしたくない。韓国は、米同盟諸国の中で最もロシア敵視をやりたがらない国の一つでもある。 
Germany Vows "Will Help Taiwan" If China Attacks, While Russia Blasts "Purely Provocative" Pelosi Visit) (Pelosi Arrives In Seoul, But South Korea's President Won't Meet With Her

自滅的に中露敵視なドイツと、現実的に中露協調し続ける韓国は、両国とも対米従属が国是なのに姿勢が正反対だ。今の日本は、ドイツと韓国の間に位置している。私は、日本をドイツの方向に引っ張り込むために、中露とのパイプ役だった安倍が殺害されたのだろうと事件直後に考えたが、そっちの方向には動かなかった。岸田は、親分だった安倍を殺された後も、ロシアや中国と実質的に協調する安倍の路線を踏襲し、米国に引っ張られて自滅路線に入り込むドイツのような道をたどることを拒否している

▼日本を非米化するための事件
私が見るところ、今回の安倍殺害以降の流れ(銃弾の隠匿など)は黒幕なしに起きないものだ。黒幕になりうるのは米国(米諜報界)だけで、他の勢力が黒幕である可能性はかなり低い。米国が安倍を殺すなら、その目的は日本に中露敵視を強化させることぐらいしかないが、実際のその後の岸田の日本政府は、中露敵視を強化せず、むしろ隠然と中露と協調していた安倍の路線を意識的に踏襲している。岸田は次の内閣改造で、安倍の路線について最も詳しい前首相の菅義偉を副首相として迎え入れるかもしれないが、この人事構想は岸田が安倍の路線を積極的に踏襲したがっていることを示している。

菅の登用は、安倍を殺した米国に対する岸田の隠然とした「抗議」「反抗」を示していると私には見える。岸田や、その周りの自民党の人々は、安倍を殺した米諜報界を許さない。米国は、安倍を殺して岸田を傀儡にしようとしたが、見事に失敗している。岸田の自民党は、日本の非米化を隠然と加速していく。米諜報界の傀儡である日本のマスコミは、日本を非米化していく自民党を敵視する傾向を開始している。安倍殺害前、マスコミは自民党を批判しなかった。マスコミと自民党は、対米従属の同志だった。安倍の隠然親中親露路線も、ほとんど無視されていた。だが、状況は安倍殺害で劇的に変化した。米諜報界の傀儡のままのマスコミは、非米化を強める自民党を猛然と非難し始め、マスコミと自民党は敵どうしになっている。マスコミはこれまでも国民に嫌われる傾向だったが、安倍の死を愚弄中傷するマスコミはますます嫌われて自滅していく。

安倍を米国に殺された自民党やその系統の勢力は、日本の国是を対米従属から引き剥がし、隠然とした非米化から、顕然とした非米化・対米自立を模索していくようになるかもしれない。「日本が防衛を在日米軍に頼っている限り、それはない」と悲観的に考える人が多いかもしれない。だが私は、安倍殺害が日本をそっちの方向に動かしていく転機として用意されたのでないかと勘ぐっている。米諜報界は、隠れ多極派によって牛耳られている。彼らは、露中イランなど反米諸国を稚拙に過激に敵視することで結束・台頭させ、世界を多極化している。同時に彼らは、ドイツや豪州など同盟諸国に対して過激で稚拙な露中敵視をやらせて失敗に誘導し、同盟諸国が対米従属に行き詰まって非米化・米国離れに転換したくなるように仕向け、米覇権の自滅と多極化を進めている。米諜報界による安倍殺害は、こうした隠れ多極主義の策略として引き起こされたのでないかと私は考え始めている

2023年7月29日土曜日

ビッグモーター兼重宏一前副社長と損保Jの会見必須(植草一秀氏)

 26日に行われたビッグモーターの謝罪会見は、遅すぎた上にいわば「不正行為が行われていた」ことについてトップは何も知らなかったという異様な会見でした。

 危機管理の専門家にいわせると、兼藤宏行社長の謝罪会見は、当事者が踏まえておくべきのいくつかの鉄則をことごとく無視した、「しくじり会見」であったということです。
 これにはビッグモーターの問題を「強権組織が起こした不正行為」と見做していた記者側も虚を突かれたかもしれません。

 植草一秀氏は、ネットメディア等によって伝えられている多くの関係者の証言によると不正事案のカギを握っているのは兼重宏行氏の子息である兼重宏一副社長氏とのことで、5年ほど前に会社の指揮命令発出の中心が兼重宏行社長から兼重宏一副社長に移行したに伴って同社の不正事案が目立ってきたことから、それを指揮したのは副社長だったのではないかと考えられると述べています。
 そして記者会見で「組織ぐるみでない」と明言した宏行社長に対して、「組織ぐるみでないという説明は、宏一副社長の関与有無を含めても明言できることか」と問う必要があり、もしも副社長の関与の可能性が高まれば同氏の会見を改めて開く確約を取る必要があったと指摘しています
 そしてより重大な問題として不正事案に関して損保ジャパンが承知の上で関与した可能性があることを挙げました。
 損保ジャパンは一旦はビッグモーターの不正行為によって過大な修理代を支払うものの、それによって事後の保険掛金が跳ね上がるので十二分に元が取れる関係にあります。従って両者がタイアップすれば正にウィンウィンの関係になると同時に、その不正行為による損害=2社の儲け を全て金銭的に支えているのは自動車保険に入っている国民の側なので、この問題も徹底的に解明する必要があるとしています。
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宏一前副社長と損保Jの会見必須
               植草一秀の「知られざる真実」 2023年7月28日
記者会見を開いても質問者が的確な質問を振り向けなければ意味を失う。
ビッグモーター社が記者会見を開き前社長ならびに新社長が出席した。
顧客から預かった修理のための自動車を損壊し、保険会社に過大な保険金支払いを行わせていた行為が明るみに出て、企業の責任を明らかにするために会見が開かれた。
ビッグモーター社の創業者であり社長を務めていた兼重宏行氏は不正行為を知らなかったと述べた。
企業の代表権を持つ役員が不正行為を認識していた、あるいは指示していたのか、経営幹部がまったく知らず、関与しないかたちで不正が行われたのかによって責任追及の対象は変化し得る。
兼重社長は組織ぐるみということはないと発言したが信ぴょう性は低い。
ネットメディア等によって伝えられている多くの関係者の証言によると不正事案のカギを握っているのは兼重宏行氏の子息である兼重宏一氏であるとのこと。
兼重宏一氏はビッグモーター社の取締役副社長を務めてきた。5年ほど前に会社の指揮命令発出の中心が兼重宏行社長から兼重宏一副社長に移行したと伝えられている。
ビッグモーターの不正事案が目立つのは5年前以降のこと。
経営の実権が宏行氏から宏一氏に移行したのと不正行為が多く観測され始めたことが軌を一にしていると見られている。

兼重宏行前社長が不正行為の詳細を把握していなかった可能性はある。
しかし、一連の不正行為等を指揮命令したトップが宏行社長ではなく宏一副社長であった疑いが強い。
したがって、記者会見で「組織ぐるみでない」と明言した宏行氏に対して、
「組織ぐるみでないという説明は、宏一副社長の関与有無を含めても明言できることか」と問う必要があった。
仮に宏行社長が不正行為の詳細を把握しておらず、会見でその事実を述べたとするなら宏行前社長の直接的関与の疑いは消失する。
しかし、このことが、不正事案に対するビッグモーター経営幹部=役員の関与がなかった証明にはならない。

元従業員等の事実を知る関係者の多くが、一連の不正行為に直接関与していると見られるのは宏一副社長であると証言している。
したがって、記者会見を開く場合に、絶対に出席する必要があったのが宏一副社長ということになる。
会見で質問する記者は、ビッグモーター関係者への事前取材をもとに、多くの関係者が宏一副社長の関与を指摘しているため、宏一副社長会会見出席が必要不可欠であることを明確に表明する必要があった
その上で、ビッグモーター経営陣から宏一前副社長出席の会見を改めて開く確約を取る必要があった。
宏行前社長が不正事案の詳細を完全に把握していない可能性は存在する。
しかし、現場が独断でリスクが極めて大きい不正事案を実行する可能性は高いと思われない。
多数の部署で同時並行して不正が実行されたことは組織的な指揮命令が存在したことを推認させるもの。
ビッグモーター社の板金・塗装部門トップが指揮命令を行った可能性はあるが、このことを踏まえれば、板金・塗装部門の責任者が会見に出席しなければ十分な説明ができないことも明らかだ。

より重大な問題が別に存在する。不正事案に関する損保ジャパンの関与だ。宏一前副社長は損保ジャパン前身の日本興亜損保に在籍したあとでビッグモーター社に入社している。
自動車が事故に遭遇し、保険を適用して修理を受ける際、保険会社は修理費用請求が適正であるかを審査する。
ビッグモーター社は器物損壊行為などを通じて保険会社に過大請求していたと指摘されている。保険会社の審査機能が適正に機能していれば、審査段階で不正の発見等が可能になったと考えられる。
現に、いくつかの保険会社から不正請求の可能性が指摘されていたと見られている。
ところが、ビッグモーター社が過大請求と引き換えに特定の損保会社に対して利益供与していた疑いが存在する。
不正請求を見逃してもらう見返りに自賠責保険の購入を当該特定損保会社に優先的に配分することが実行されていた疑いがある。

特定の損保会社は過大請求で保険金支払いが過大になるが、ビッグモーター社から提供される自賠責保険購入拡大で差し引きプラスになれば、不正請求を容認することが可能になる。
ビッグモーター社は板金・塗装部門の売上が拡大し、当該損保会社は全体として業容を拡大できることになるが、保険業界全体で考えると本来不要な保険金支払いが発生することになり、その分だけ、最終的には任意保険の保険料が跳ね上がる結果につながる。
つまり、ビッグモーター社と当該特定損保企業の不当利益を消費者である自動車を利用する保険ユーザーが負担することになる。損保ジャパンの不正への関与が疑われている
重大な問題である。この問題の徹底追及が必要不可欠である。

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自業自得の岸田政権 ひと皮剝けばシッチャカメチャカ 自民党は末期症状

 岸田政権のデタラメさについてはこれまで数限りなく紹介して来ました。
 メディアは、内閣支持率が大幅に下がり、マイナカード問題に木原内閣官房副長官問題が重なったので、岸田政権はいつ倒れてもおかしくないと報じる一方で、岸田氏は“党内政局”に絶対の自信を持っているので簡単に倒れることはないという見方も同時に示しています。
 要するに岸田首相は、ほとぼりが冷めれば支持率はまた自然に上昇すると楽観しているということなのですが、「壊憲」・「壊国」の岸田政権の長続きを阻止するためには、繰り返し岸田政権のデタラメさを報じるしかありません。
 日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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自業自得の岸田政権 ひと皮剝けばシッチャカメチャ いよいよ自民党は末期症状
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                        (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 岸田政権が強引に推し進めているマイナンバー制度に対して、ついに身内からも批判が噴出しはじめた。岸田官邸は大慌てだろう。
 26日に行われた閉会中審査──。かたくなに現行の「健康保険証」を来年秋に廃止しようとしている政府に対して与党議員から異論が続出した。
 トップバッターとして質問に立った自民党の山田太郎参院議員は、「マイナンバー制度の信頼が揺らいでいる」と指摘し、「来年秋の保険証廃止は、期限ありきではなく丁寧に国民からの理解を得るべきではないか。与党からもそういう声が大きくなっている」と注文。さらに、政府の対応にも「厳しく言わざるを得ない」と批判した。
 連立を組む公明党の上田勇参院議員も「マイナカードの利用拡大について、理解が広まっていない」と政権を追及。
 ここ数日、自民党では、萩生田光一政調会長や世耕弘成参院幹事長も「来年秋という期限にこだわる必要はない」などと政府の方針に異論を唱えている。
 時の政権が掲げる「重要政策」に、身内の自民党議員がここまで公然と“ノー”を突きつけるのは、異例のことだ。内閣の支持率だけでなく、自民党の支持率まで下落しはじめたことに危機感を強めているのは間違いない。
 それ以上に、これは自民党内の“権力闘争”だとの見方が流れている。政権のアキレス腱となっているマイナンバー問題を批判することで、岸田首相を揺さぶっている、という解説である。自民党関係者がこう言う。
「自民党のなかには、このままでは“岸田1強”となってしまう、と本気で危惧する声があります。なにしろ、気がついたら岸田首相の立場はどんどん強くなっている。決定的なのは、高市早苗や河野太郎など“ポスト岸田”候補が次々に傷ついていることです。来年秋の総裁選は、誰も手を挙げられず、岸田首相の“無投票再選”となっておかしくない状況です。党内最大派閥の安倍派も、分裂含みで力を失っている。ああ見えて岸田首相は“党内政局”に絶対の自信を持っている。ただでさえ人事権と解散権、公認権を持つ岸田首相に、これ以上、力をつけさせたくないという潜在意識が、自民党議員にあるのは確かでしょう。安倍派幹部の萩生田さんと世耕さんの発言は、秋に内閣改造を控えているので、“人事で冷遇したら黙っていないぞ”“マイナ問題を騒ぎ立てるぞ”と揺さぶりをかける狙いもあったのではないか」
 国民不在の権力闘争など、犬も食わないが、このままマイナ問題が大きくなり、党内からの批判が強まれば、岸田政権は一気に窮地に追い込まれる可能性がある。政界はキナ臭くなってきた。

超ド級の“木原爆弾”
 マイナンバー制度を批判する自民党内の声は、簡単には消えそうにない。
 さらに岸田を追い詰めるのが、側近の木原誠二官房副長官を巡る特大スキャンダルだ。
 これが事実なら内閣が吹っ飛んでもおかしくない超ド級の醜聞である。
 4週連続で報じている「週刊文春」によると、木原の妻のX子は、死別した前夫・安田種雄さん(享年28)の不審死事件に関し、重要参考人として警視庁から聴取されていたという。最新号では、種雄さんが亡くなってから12年後に再開した捜査に関わった捜査官が実名で告発。自殺として片付けられた本件について「はっきり言うが、これは殺人事件だよ」などと語っている。捜査官がX子を聴取したシーンは生々しい。
 記事には木原がX子に「俺が手を回しておいたから心配すんな」と話した一幕まで掲載されている。さらに、週刊文春は、木原の愛人が、木原本人から「俺がいなくなったらすぐ(妻が)連行される」と聞かされたことを打ち明ける音声まで公開している。
 問題なのは、当時、自民党情報調査局長という要職に就いていた木原が、権力を乱用し、捜査の幕引きを図った疑いまで指摘されていることだ。
 これが事実なら、木原は即アウトだろう。“爆弾”を抱えた木原を政権中枢に置いておけば、岸田も大打撃は必至だ。しかし、岸田には木原を切れない事情がある。政治評論家の本澤二郎氏がこう言う。
「木原氏が殺人事件の捜査に『手を回した』のが事実であれば、政権を揺るがす大問題です。普通に考えれば、岸田首相は即刻、更迭するしかありません。しかし、岸田首相は簡単にはクビにできないのではないか。木原氏は政権発足以降、内閣が打ち出す政策立案のほぼ全てに関わり、官邸を仕切ってきたキーマンだからです。岸田首相には、木原氏以外に官邸に置ける側近が見当たらない。そもそも、岸田首相には、派内にも頼りになる子分がいない。木原氏を切れば政権は空洞化し、立ち往生しかねません」
 岸田は任命責任も問われかねない。木原のスキャンダルを事前に知っていた可能性があるからだ。
 文春によると、警察が再捜査していた2018年当時、自民党の二階幹事長が木原に「X子と別れろ」「取り調べにはちゃんと素直に応じろ」と伝えたのだという。他派閥の二階が把握していたのだから、親分の岸田が知らなかったとは考えづらい。岸田は木原のスキャンダルを知っていながら、官房副長官に任命したのではないか。
ひと皮剥けば、岸田自民党はシッチャカメッチャカな状況だ。
 この先、岸田政権はどうなるのか。昨年の参院選で勝利した時、しばらく国政選挙がない「黄金の3年間」を手にするといわれていたが、3年どころか、岸田政権は明日も見通せなくなってきた。
 9月中旬に内閣改造を実施し、政権の浮揚を図ろうとしているようだが、逆に「岸田降ろし」が吹き荒れるきっかけになる可能性がある。
 政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。
「岸田首相は人事で刷新感を出したいのでしょうが、過去に内閣改造で支持率が上がった政権はほとんどありません。そもそも、政権は解散すれば強くなり、改造すれば弱体化する--というのが政界の通例です。閣僚や役員を代えれば目先を変えられると思っているのでしょうが、国民は騙されないでしょう」
 人事を行えば、登用されなかった「待機組」や、ポストから外された議員から恨みを買ってしまう。心機一転どころか、党内に火種をつくることになりかねない。10月22日に予定される衆院長崎4区と参院徳島・高知選挙区の補欠選挙で大敗を喫すれば、求心力はさらに低下するだろう。
 打ち出す政策も完全に行き詰まっている。炎上中のマイナカードの問題は終わりが見えない。「異次元の少子化対策」も小粒で的外れな上、財源も曖昧なままだ。

人事が「岸田降ろし」のきっかけになる
 この先も失政続きで支持率が下がれば、さらに党内の反岸田の動きが加速するだろう。野党も勢いづくに違いない。
 もはや、この政権には何も期待できないのは明らかだ。
岸田首相は“新しい資本主義”や“異次元の少子化対策”をブチ上げてきましたが、結局どれも中身がハッキリせず、実現しそうもない。それもこれも、この国をどこに導くのかビジョンがないからです。かつて、小渕恵三氏は外相時代に『対人地雷禁止条約』加入に注力し、福田康夫元首相は『クラスター弾禁止条約』制定に汗を流しました。ところが、岸田首相はリベラルな宏池会のトップなのに、やっていることは、米国言いなりの大軍拡です。これでは支持率が下落するのも当然でしょう」(本澤二郎氏=前出)
 漂流政権は破滅も近いのではないか。

益々はびこる戦争政治屋 まっとうな論客が次々と去る寂しさと危うさ

 日刊ゲンダイが掲題の記事の中で、反戦の論客が次々と去ったことを報じました。

 24日、小説「人間の証明」やノンフィクション「悪魔の飽食」などで知られる作家の森村誠一さん肺炎のため亡くなりました。90歳でした。「悪魔の飽食」シリーズでは、中国で細菌兵器の実験などを行ったとされる旧日本軍731部隊の実情を明らかにし社会的な反響を呼びました。
 森村氏は13年の時点で、国民に愛される自衛隊としての存在をシビリアン・コントロールから脱出して国民を補給源とする軍事優先国家となった例は、かつての日本、今日のエジプト以下、アラブ諸国やミャンマー、中国などに見る通りである」と警告しました。
 3月末に「世界のサカモト」こと、ミュージシャンの坂本龍一さん71歳で逝去しまし音楽家として活動する傍ら、反戦運動や環境問題にも取り組み、東日本大震災以降は東北の復興支援と脱原発に情熱を注ぎました
 沖縄タイムス紙のインタビューに、「じわじわと自主規制させるような空気がすでに気が付かないうちに始まっている」「できるだけ明確に反対意見を言わないと、全体主義体制になってしまう」訴えていました。
 22年5月には、東京大空襲・戦災資料センター名誉館長で作家の早乙女勝元さんが亡くなりました。90歳でした。早乙女さんが各メディアで繰り返し強調していたのは、東京大空襲の体験を振り返り、戦争を二度と繰り返してはいけない──という強い思いでした。
 22年3月に87歳で亡くなった俳優の宝田明さんは、小学生時代を旧満州国のハルビンで過ごし、つらい戦争体験から“魂の叫び”とも言うべき強い言葉で反戦を訴え続けました。
 15年2月の日刊ゲンダイに生き残らせてもらったひとりとして、無念の死を遂げた声なき人の声を語り継いでいかなきゃいけない。黙っていれば認めたことになっちゃう。声をあげないと、なかったことになってしまいますから」と述べています。
「戦後政治の生き証人」と称され政治評論家の森田実さん2月に亡くなりました。90際でした。
 深い洞察の下でTVなどでも舌鋒鋭く政権を批判し続けた森田さんは、2000年代(小泉内閣)に入るとTVに登場する機会を完全に奪われてしまいました。政権によるメディアへの不法な介入ですが、それだけ批判が鋭かったという証拠です。
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益々はびこる戦争政治屋 まっとうな論客が次々と去る寂しさと危うさ
                         日刊ゲンダイ 2023/07/26
                      (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 戦争の惨禍や愚かさを後世に伝える「語り部」とも言うべき重鎮がまた一人亡くなった。小説「人間の証明」やノンフィクション「悪魔の飽食」などで知られる作家の森村誠一さんのことだ。
 24日、肺炎のため東京都内の病院で死去。90歳だった。
 森村さんは32歳で作家デビューし、1969年、「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞。81年から新聞連載を始めた「悪魔の飽食」シリーズでは、中国で細菌兵器の実験などを行ったとされる旧日本軍731部隊の実情を明らかにしたと主張。社会的な反響を呼んだ。
 12歳で敗戦を経験した森村さんが生前、強く訴えていたのが、第2次安倍政権以降、平和憲法をないがしろにし、どんどん強権的、好戦的な姿勢を示す政府に対する憤りと危機感だった。
 2013年7月には日刊ゲンダイに「日本を覆う9条改憲に異議あり」と題して特別寄稿。こうつづった。
「日本は決して軍事力空白国家ではない。軍ではない自衛隊という強い用心棒によって守られている。用心棒は軍ではない。戦前・戦中、軍事政権により人間的自由の悉くを圧殺され、八紘一宇の精神のもと、世界戦争に暴走した報いとして広島、長崎、また三百万を超える犠牲を払って手に入れた不戦憲法を改め、優秀な用心棒を、なぜ軍に昇格する必要があるか」
「九条が自衛隊を守り、自衛隊が国を守っている。国民に愛される自衛隊としての存在を、戦争誘発的な国防軍に改変する必然性はない。戦力が強大化すれば、シビリアン・コントロールから脱出して国民を補給源とする軍事優先国家となった例は、かつての日本、今日のエジプト以下、アラブ諸国やミャンマー、中国などに見る通りである」

全体主義化に懸念を示していた坂本龍一さん
 安倍政権が集団的自衛権の行使容認を進めた安全保障関連法案に対しても真っ向から猛批判。
「今回の安保関連法案とは、要するに米国との不公平な“商取引”なんです」「安倍首相は中国の尖閣諸島進出に対する『米軍の支援』に飛びつき、自衛隊の活動地域・水域を世界全域に拡大させる。米国は尖閣支援をエサに、自衛隊の軍事力を超安値で買い叩いたようなものです」と切り捨てていた。
 安保法案反対の集会にも精力的に参加するなど、ペテン政権の愚行に強く抗議していたが、ここ数年、森村さんのように戦争の悲惨さを知り、憲法違反の安倍・菅・岸田政治に警鐘を鳴らしてきた論客が次々と鬼籍に入っている。
 例えば、3月末に71歳で逝去した「世界のサカモト」こと、ミュージシャンの坂本龍一さんだ。音楽家として活動する傍ら、反戦運動や環境問題にも取り組み、東日本大震災以降は東北の復興支援と脱原発に情熱を注いだ。
 政権に対して辛口のコメントを発する人物が次々とお茶の間から姿を消す状況に対しても異論を唱え、「じわじわと自主規制させるような空気がすでに気が付かないうちに始まっている」「できるだけ明確に反対意見を言わないと、全体主義体制になってしまう」(ともに沖縄タイムス紙のインタビュー)と訴えていた。


軍拡万歳の大政翼賛会となりつつある恐怖
「二度と惨禍を後の世代に残さないという思いです。私にも子や孫がいます。孫が送るべき社会のありようを考えると、戦時下に民間人はどうなるかをきちんと伝えていかなければならない。それが戦争への道のブレーキになるかもしれない」
 22年5月に亡くなった東京大空襲・戦災資料センター名誉館長で、作家の早乙女勝元さん(享年90)が各メディアで繰り返し強調していたのは、東京大空襲の体験を振り返り、戦争を二度と繰り返してはいけない──という強い思いだ。
 坂本さんと同様、“政府批判は悪”かのような同調圧力ともいえる嫌な空気を感じ取ったのだろう。使命感のような思いを15年2月の日刊ゲンダイにこう明かしていた。
「生き残らせてもらったひとりとして、無念の死を遂げた声なき人の声を語り継いでいかなきゃいけない。不幸な時代を繰り返さぬという心構えを子供や孫に伝えなければならない。そう覚悟しています。黙っていれば認めたことになっちゃう。声をあげないと、なかったことになってしまいますからね」
 安倍政権以降、政府内ではびこり始めた「戦争政治屋」を批判していたのは、22年3月に87歳で亡くなった俳優の宝田明さん。小学生時代を旧満州国のハルビンで過ごし、つらい戦争体験から“魂の叫び”とも言うべき強い言葉で反戦を訴え続けた。

岸田は国民生活よりも政権維持のほうが大事
「戦後70年間、なんとか平和を守ってきたのが、いよいよタガが緩んできた。かつて毎朝朝礼で満州から東を見て、まだ見ぬ憧れの祖国に深々と頭を下げた。その国がなぜこんなことになったのか。戦後生まれの安倍首相は、公約に掲げて選挙で勝ったわけでもないのに、たかが閣議決定で集団的自衛権の憲法解釈を変えてしまった。ガラガラと音を立てて、大切な何かが崩壊しつつあると感じます」(2015年6月の日刊ゲンダイのインタビューで)
 宝田さんの指摘通り、防衛予算の大幅増や敵基地攻撃能力の保有など、今やタガが外れた岸田軍拡の動きは止まらない。25日も、岸田首相は自民、公明両党に対して、防衛装備品の輸出緩和に向けた議論を加速するよう指示。両党の実務者協議が続いている防衛装備移転三原則の運用指針見直しを急ぐ狙いがあるとみられるが、国民や野党がどんなに反対の声を上げても知らんぷり。「命令は絶対で異論を許さない」という問答無用の姿勢は、保険金の不正請求問題が発覚した中古車販売大手ビッグモーターの悪しき組織体質と何ら変わらないだろう。

 芸能人の不倫は執拗に追い回す大手メディアも、政権に対してはすっかり沈黙の異常事態だからクラクラしてしまう。
 政治評論家の小林吉弥氏がこう言う。
岸田首相は『軽武装・経済重視』という出身派閥・宏池会の理念よりも、政権維持の方が大事。そのために党内最大派閥・安倍派の右派の意見を取り入れることばかり考えている。つまり、国民世論よりも党内重視なのでしょう。防衛力強化についても米国の言いなり。このままだと際限なく突き進んでしまうかもしれません」

戦争を知っている世代が政治の中枢にいるうちは心配ない。平和について議論する必要もない。だが、戦争を知らない世代が政治の中枢になった時はとても危ない
 こう言ったのは故・田中角栄元首相だが、まっとうな論客が次々と去ることになれば、どんな危うさが待ち受けているのか。元外務省国際情報局長・孫崎享氏は「今の日本で恐ろしいのは想像以上に言論統制が進んでいること」と言い、こう続ける。
「それは米国の意向に異論を唱える言動は封じ込められることです。防衛予算の大幅増についても米国のバイデン大統領は自身の手柄のように話していましたが、政界も経済界もすべてが米国の思うままに動いている。日本独自の戦略が見えません。メディアも異論を唱えない。これは主権国家として異常な事態です」

「戦後政治の生き証人」と称され、2月に亡くなった政治評論家の森田実さん(享年90)は今の社会全体が大政翼賛的な動きに進みつつあることを懸念していた。このまま軍拡万歳の方向に向かえば、いつか来た道にあっという間に逆戻りだ。心ある国民が声を上げるしかない。