2018年12月31日月曜日

立憲デモクラシーの会が、国会の空洞化を憂い立憲主義的な議会運営を求める声明

 立憲デモクラシーの会12月13日10月召集の第197回臨時国会では、出入国管理及び難民認定法改正案(入管法改正案)、水道法改正案など、将来の日本の社会のあり方や国民生活に大きな影響を与える法案であるにもかかわらず、その立法過程は異常なものであり、強引な議会運営により、ごく短時間の審議で法案成立させるなど、国会が「唯一の立法機関」とも「国権の最高機関」ともなりえていない実態が露呈したとして、憲法が規定し戦後日本において確立してきた立憲主義的な統治システムが危機に瀕しているとする声明を出しました
 そして、国会はずさんな議論で法案を通すところという虚無主義的な認識がこのまま流布するならば、日本の議会制民主主義は実質的に崩壊すると警告しました
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声明  国会の空洞化を憂い立憲主義的な議会運営を求める
 
 2018年10月召集の第197回臨時国会では、現在の国会が、憲法第41条に規定された「唯一の立法機関」とも「国権の最高機関」ともなりえていない実態が露呈した。
 
 議院内閣制では、大統領制と異なり、議会が内閣総理大臣を選出するため、慎重な運用をしなければ、行政権と立法権とが癒着し、議会が内閣の翼賛機構に堕すという形で、政治権力の暴走が発生する危険性がある。しかるに現状では、そうした慎重さが失われ、憲法が規定し戦後日本において確立してきた立憲主義的な統治システムが危機に瀕している
 
 この国会では、出入国管理及び難民認定法改正案(入管法改正案)、水道法改正案など、将来の日本の社会のあり方や国民生活に大きな影響を与える法案が審議されたが、立法過程は異常なものであり、強引な議会運営により、ごく短時間の審議で法案は成立した。委員会審議では、外国人労働者の資格や待遇に関して野党が指摘した問題点について、政府側は具体的な運用規則は政省令で決めるとの一点張りで、その答弁は著しく誠実さを欠いていた
 
 これまで事実上、外国人労働の法的枠組みとなってきた技能実習制度について、多数の失踪者が出るなどさまざまな問題点が指摘されながら、法務省はこの制度の欠陥を隠蔽するためか、失踪の理由について虚偽の説明をした。野党議員からの調査原票の閲覧要求に対し、法務省が複写・撮影を禁止した結果、野党議員らは調査票の筆写を強いられた。その姿は、政府による国会軽視を象徴するものであった。
 
 大島理森衆議院議長は8月の通常国会終了後に、行政府によるデータ改ざんや情報隠蔽について「民主主義の根幹を揺るがす問題」と指摘する異例の所感を公表したが、事態は改善されるどころか悪化している。
 
 与党の有力議員からは、「議論をすればするほど問題点が出て来るから」早急に採決を行うという趣旨の発言もあった。問題点が明らかになれば、さらに議論を深めるべきであり、議会審議の意義を真っ向から否定する発想が蔓延しているとすれば、容認できない。
 
 入管法改正案のように、空疎な法案を国会で審査させ、具体的な内容をすべて政令等に委ねることは、国会の立法権の侵害であり、行政権への白紙委任を強いるに等しい。ナチス・ドイツで、全権委任法によって行政府にあらゆる権限が集中され、議会の関与が否定されたのと同質のことが今、日本において始まろうとしている。あるいは、内閣が君臨し、国会は議論なしでその政策を追認した戦前の翼賛体制への退行である。
 
 国会を、内閣提出法案を成立させる下請け機関であるかのように位置づけ、次々に法律を成立させることを「生産性」と見なすような見方が広まっている。しかし、そもそも多数決原理と党議拘束を前提とすれば、法案成立は提出の段階で決まっているとも言える。それでは国会審議は何のためにあるのか。審議を尽くして法案の問題点を洗い出し、修正、さらには再考を迫るためではないか。野党に求められるのは、何よりもそうした役割である。
 
 マスメディアは、政府与党と野党を等距離で批判する態度で臨み、野党は法案阻止の決め手を欠く等と論評するが、与党側が現在のように強引な運営を進めた場合、野党の対抗手段が限られていることは否定できない。
 
 国会はずさんな議論で法案を通すところという虚無主義的な認識がこのまま流布するならば、日本の議会制民主主義は実質的に崩壊する。熟議の場としての国会の一刻も早い再構築が望まれる。
2018年12月13日 立憲デモクラシーの会

31- 日本国民と政府に対し、沖縄県民の民意を尊重することを求める決議

 沖縄弁護士会1210辺野古新基地建設の問題は、沖縄と政府の間だけの問題ではなく、国民全体の問題であるにもかかわらず、日本国民の多くは、着々と埋め立て工事を進めている政府の方針と行為につき、必ずしも強い関心を示していないように見受けられるとし、国民には日本の問題としてとらえ、同じ国民として痛みを分かち合い、苦しみを共有し、主体的に解決策を模索することを呼びかけるとともに、政府に対し、現状の不平等と不正義を改めて認識したうえで、住民自治の趣旨に則り、沖縄県民の意思を尊重し、これ以上沖縄県民の尊厳を重ねて傷つけることのないよう求める決議を行いました。
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辺野古新基地建設が、沖縄県民にのみ過重な負担を強い、その尊厳を踏みにじるものであることに鑑み、解決に向けた主体的な取り組みを日本国民全体に呼びかけるとともに、政府に対し、沖縄県民の民意を尊重することを求める決議
 (1210 沖縄弁護士会)
 
1 現在、政府は、普天間飛行場の代替用地として米軍に提供すべく、沖縄県北部の辺野古崎海域において、埋め立て工事を行っている。沖縄県知事が埋立承認を取り消し、また撤回し、幾度となく上京して説明をし、また集中協議等の場で再考を求めても、遠い沖縄側の意向は何ら顧みられることなく、きょうも、淡々と工事が継続されている。
 この間、沖縄県民を除く日本国民の多くは、かかる政府の方針と行為につき、必ずしも強い関心を示していないように見受けられる
 
2 沖縄県民の多くは、辺野古新基地の建設に明確に反対をしている。このことは、同基地建設の是非を主たる争点として実施された過去二度の県知事選挙において、いずれも同基地建設に反対した候補が大差で勝利した事実に端的に表れている。
 これは、沖縄県民の4人に1人が亡くなったともいわれる熾烈な地上戦が繰り広げられた地に、戦後70年以上の長きに亘り戦勝国の広大な基地が置かれ、その間も県民に様々な理不尽を引き受けてさせてきた挙句に、生物多様性に富む美しい自然を不可逆的に破壊してつくる新たな外国軍基地を受け入れよというのであるから、人間の心理、感情として、ごく当たり前のものといわなければならない
 
3 自国の防衛が、国民の合意の下で国が重点的に担う事項であり、国民が平和の恩恵を受ける対価として一定の負担を甘受しなくてはならないとしても、その負担は、合理的理由のない限り、全ての国民が等しく負うべきものであり、特定の地域の、それも歴史的・文化的に際立った特徴を有する地域の僅かな数の国民に、合理的理由なく、その明確な反対を押し切って大部分を負わせるなどという不正義・不平等は、あってはならない。
 事情により負担の著しい偏りが避けられない場合であれ、我々国民は、全体として、負担の偏重を緩和ないし解消すべく、現状の措置に止むにやまれぬ理由が認められるか、更なる負担の加重を避ける方策はないかということを絶えず、真摯に検討し、たゆまぬ努力を続ける必要がある。それが、憲法の下で、不断の努力によって自由及び権利を保持する義務を負い(第12条)、法の下の平等を保障(第14条)された、国民全体の責務である。
 
4 普天間飛行場の返還は、その基地形成過程及び沖縄県民にこれまで課された過度な負担からすれば当然の施策であり、平成8(1996)年のSACO合意を待たずとも、決定、実行されなければならなかった施策である。
 では、同飛行場の代替施設という名の下に、辺野古に新基地を建設することは、我が国の防衛上、止むにやまれないものと認められるであろうか。米国海兵隊が沖縄に引き続き駐留し、ローテーションの中で訓練を行うことは、我が国の防衛上、代替性のない唯一の選択肢といいうるであろうか。
 政府はこれまで、この点についての合理的な説明を何らなしえていない。むしろ、日米両政府の元高官らの数々の発言からは、米国海兵隊の沖縄駐留が、軍事的に代替不可能な唯一の選択肢として把握されているわけではないことが明白である。
 
5 世界人権宣言前文、国際人権規約前文、そして日本国憲法第13条は、個人の尊厳を保障する旨規定している。これは、一方において、他人の犠牲において自己の利益を主張しようとする利己主義に反対し、他方において、全体のためと称して個人を犠牲にしようとする全体主義を否定して、全ての人間を自主的な人格として平等に尊重しようとするものであり、かように人間固有の尊厳を承認することが、人権保障の核心であるとの人類共通の理解に基づいている。
 そのため、「代替基地を沖縄県内に新たに設けることについての止むにやまれぬ理由」につき合理的な説明のないまま、長年基地負担に苦しんできた県民が繰り返し且つ明確に拒絶するなかでこれを建設することは、沖縄県民の自主的判断を軽視し、同県民を他県民と平等に扱わないこと、すなわち、同県民を他の県民と同様に「自主的な人格として平等に尊重していない」ことを意味するものであり、また、同県民の尊厳を軽んずる、極めて不当な施策であるといわなければならない
 同様のことが沖縄県以外の地域で問題となった場合、日本政府及び国民は、沖縄に対するのと同様に、不正義・不平等に目をつむり、唯一の解決策であるとして、当該施策を是認するであろうか。本州や九州、北海道や四国で同様の不正義・不平等が生じた場合、日本政府及び国民は、正義及び尊厳の問題としてこれをとりあげ、解決に向けて、全体で取り組むのではなかろうか。かような正義感は、沖縄の問題においては、何故に発揮されないのであろうか
 
6 また、日本国憲法は「地方自治の本旨」(92条)を保障している。この「地方自治の本旨」の内容を構成する住民自らの意思に基づいて地域の事項を決定するという住民自治の趣旨からすれば、二度の沖縄県県知事選挙の結果に表れた辺野古新基地建設反対の民意は、最大限尊重されなければならないものである
 
7 当会は、全ての日本国民に対し、沖縄の問題を自らの問題、日本の問題としてとらえ、同じ国民として痛みを分かち合い、苦しみを共有し、主体的に解決策を模索することを呼びかけるとともに、政府に対し、現状の不平等と不正義を改めて認識したうえで、住民自治の趣旨に則り、沖縄県民の意思を尊重し、これ以上沖縄県民の尊厳を重ねて傷つけることのないよう求める次第である。
 
 以上、決議する。
2018年(平成30年)12月10日
沖 縄 弁 護 士 会
 
提 案 理 由
 
(長文につき省略します 全文は下記を参照ください)

2018年12月30日日曜日

30- 天皇陛下 お誕生日会見 全文

 天皇陛下は12月23日、85歳の誕生日を迎えられ、記者会見で「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに心から安堵しています」と振り返えられました。
 陛下は2019年4月30日に退位されるため、平成最後の誕生日会見となりました。
 
 会見の内容は多岐にわたっていますが、それらはすべて、「象徴天皇は如何にあるべきなのか」について国民の誰よりも深く考えられ、それを身をもって実践された姿勢と観点に貫かれたものでした。(それに比べると、かつて天皇譲位問題が起きた時の安倍晋三系の学者たちの発言は、なんと異様で軽かったことでしょうか)
 
 皇后さまへの感謝を語られた場面はTVで繰り返し放映されましたが、とりわけ感動的でした。
 
 なお、会見の動画は下記で見ることが出来ます。
https://youtu.be/-pYdCurcXtk 18分57秒)
 
 このお誕生日会見に臨席した産経新聞の伊藤弘一郎記者が、周囲の記者たちの様子にも触れながら会見を回想する記事を書いていますので、「前置き」に替えて以下に紹介します。
 
陛下の「涙」と「旅」 誕生日ご会見から
産経新聞 2018年12月27日
 沖縄の歴史に触れた際、陛下の声色が高くなられた。最初はのどの調子がお悪いのかと思ったが、被災地、皇后さまへの思いへと続くと、その回数が増える。取材ノートでは、涙をこらえられるように声が変わった部分に「☆」をつけたが、その印は6カ所に上った。
 
 側近は後日、陛下はお風邪気味だったと明かした。だが、間近で拝見した限り、歩みを振り返られる中での「万感」の表出だったことは明らかだった。陛下の思いを感じ、何人かの記者は会見中、陛下を前に泣いていた。一方で、陛下が実際に涙されることはなかったことも記録として述べておきたい。
 
 個人的には声色以上に、会見で4度使われた「旅」という言葉が心に刻まれた。皇太子、天皇として歩まれてきた道と、地方訪問などの公務の双方を意味していた。天皇の務めは国民の安寧と幸せを祈り、人々の思いに寄り添うこと-。一昨年のビデオメッセージで陛下はそう述べたが、2つを結ぶのが国民と触れ合う旅であり、模索されてきた象徴の在り方の1つの答えと受け止めた
 
 陛下が会見室を出られた後、足音が遠ざかり、聞こえなくなるまでの時間は不思議な感覚だった。国民のため「無私」を貫かれてきた陛下の「私」の一端に初めて触れた気がしたからかもしれない。陛下は来年4月末、旅の区切りを迎えられる。(伊藤弘一郎)

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天皇陛下お誕生日に際し(平成30年)
  宮内庁ホームページより
宮内記者会代表質問 
 天皇陛下として迎えられる最後の誕生日となりました。陛下が皇后さまとともに歩まれてきた日々はまもなく区切りを迎え,皇室は新たな世代が担っていくこととなります。現在のご心境とともに,いま国民に伝えたいことをお聞かせ下さい。 
 
天皇陛下
この1年を振り返るとき,例年にも増して多かった災害のことは忘れられません。集中豪雨,地震,そして台風などによって多くの人の命が落とされ,また,それまでの生活の基盤を失いました。新聞やテレビを通して災害の様子を知り,また,後日幾つかの被災地を訪れて災害の状況を実際に見ましたが,自然の力は想像を絶するものでした。命を失った人々に追悼の意を表するとともに,被害を受けた人々が1日も早く元の生活を取り戻せるよう願っています。
 
ちなみに私が初めて被災地を訪問したのは,昭和34年,昭和天皇の名代として,伊勢湾台風の被害を受けた地域を訪れた時のことでした。
 
今年も暮れようとしており,来年春の私の譲位の日も近づいてきています。
 
私は即位以来,日本国憲法の下で象徴と位置付けられた天皇の望ましい在り方を求めながらその務めを行い,今日までを過ごしてきました。譲位の日を迎えるまで,引き続きその在り方を求めながら,日々の務めを行っていきたいと思います。
 
第二次世界大戦後の国際社会は,東西の冷戦構造の下にありましたが,平成元年の秋にベルリンの壁が崩れ,冷戦は終焉えんを迎え,これからの国際社会は平和な時を迎えるのではないかと希望を持ちました。しかしその後の世界の動きは,必ずしも望んだ方向には進みませんでした。世界各地で民族紛争や宗教による対立が発生し,また,テロにより多くの犠牲者が生まれ,さらには,多数の難民が苦難の日々を送っていることに,心が痛みます。
 
以上のような世界情勢の中で日本は戦後の道のりを歩んできました。終戦を11歳で迎え,昭和27年,18歳の時に成年式,次いで立太子礼を挙げました。その年にサンフランシスコ平和条約が発効し,日本は国際社会への復帰を遂げ,次々と我が国に着任する各国大公使を迎えたことを覚えています。そしてその翌年,英国のエリザベス二世女王陛下の戴冠式に参列し,その前後,半年余りにわたり諸外国を訪問しました。それから65年の歳月が流れ,国民皆の努力によって,我が国は国際社会の中で一歩一歩と歩みを進め,平和と繁栄を築いてきました。昭和28年に奄美群島の復帰が,昭和43年に小笠原諸島の復帰が,そして昭和47年に沖縄の復帰が成し遂げられました。沖縄は,先の大戦を含め実に長い苦難の歴史をたどってきました。皇太子時代を含め,私は皇后と共に11回訪問を重ね,その歴史や文化を理解するよう努めてきました。沖縄の人々が耐え続けた犠牲に心を寄せていくとの私どもの思いは,これからも変わることはありません。
 
そうした中で平成の時代に入り,戦後50年,60年,70年の節目の年を迎えました。先の大戦で多くの人命が失われ,また,我が国の戦後の平和と繁栄が,このような多くの犠牲と国民のたゆみない努力によって築かれたものであることを忘れず,戦後生まれの人々にもこのことを正しく伝えていくことが大切であると思ってきました。平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに,心から安堵どしています。
 
そして,戦後60年にサイパン島を,戦後70年にパラオのペリリュー島を,更にその翌年フィリピンのカリラヤを慰霊のため訪問したことは忘れられません。皇后と私の訪問を温かく受け入れてくれた各国に感謝します。
 
次に心に残るのは災害のことです。平成3年の雲仙・普賢岳の噴火,平成5年の北海道南西沖地震と奥尻島の津波被害に始まり,平成7年の阪神・淡路大震災,平成23年の東日本大震災など数多くの災害が起こり,多くの人命が失われ,数知れぬ人々が被害を受けたことに言葉に尽くせぬ悲しみを覚えます。ただ,その中で,人々の間にボランティア活動を始め様々な助け合いの気持ちが育まれ,防災に対する意識と対応が高まってきたことには勇気付けられます。また,災害が発生した時に規律正しく対応する人々の姿には,いつも心を打たれています。
 
障害者を始め困難を抱えている人に心を寄せていくことも,私どもの大切な務めと思い,過ごしてきました。障害者のスポーツは,ヨーロッパでリハビリテーションのために始まったものでしたが,それを越えて,障害者自身がスポーツを楽しみ,さらに,それを見る人も楽しむスポーツとなることを私どもは願ってきました。パラリンピックを始め,国内で毎年行われる全国障害者スポーツ大会を,皆が楽しんでいることを感慨深く思います。
 
今年,我が国から海外への移住が始まって150年を迎えました。この間,多くの日本人は,赴いた地の人々の助けを受けながら努力を重ね,その社会の一員として活躍するようになりました。こうした日系の人たちの努力を思いながら,各国を訪れた際には,できる限り会う機会を持ってきました。そして近年,多くの外国人が我が国で働くようになりました。私どもがフィリピンやベトナムを訪問した際も,将来日本で職業に就くことを目指してその準備に励んでいる人たちと会いました。日系の人たちが各国で助けを受けながら,それぞれの社会の一員として活躍していることに思いを致しつつ,各国から我が国に来て仕事をする人々を,社会の一員として私ども皆が温かく迎えることができるよう願っています。また,外国からの訪問者も年々増えています。この訪問者が我が国を自らの目で見て理解を深め,各国との親善友好関係が進むことを願っています。
 
明年4月に結婚60年を迎えます。結婚以来皇后は,常に私と歩みを共にし,私の考えを理解し,私の立場と務めを支えてきてくれました。また,昭和天皇を始め私とつながる人々を大切にし,愛情深く3人の子供を育てました。振り返れば,私は成年皇族として人生の旅を歩み始めて程なく,現在の皇后と出会い,深い信頼の下,同伴を求め,爾来じらいこの伴侶と共に,これまでの旅を続けてきました。天皇としての旅を終えようとしている今,私はこれまで,象徴としての私の立場を受け入れ,私を支え続けてくれた多くの国民に衷心より感謝するとともに,自らも国民の一人であった皇后が,私の人生の旅に加わり,60年という長い年月,皇室と国民の双方への献身を,真心を持って果たしてきたことを,心から労ねぎらいたく思います。
 
そして,来年春に私は譲位し,新しい時代が始まります。多くの関係者がこのための準備に当たってくれていることに感謝しています。新しい時代において,天皇となる皇太子とそれを支える秋篠宮は共に多くの経験を積み重ねてきており,皇室の伝統を引き継ぎながら,日々変わりゆく社会に応じつつ道を歩んでいくことと思います。
 
今年もあと僅かとなりました。国民の皆が良い年となるよう願っています。

東京新聞 <税を追う> 歯止めなき防衛費 15 (最終回)

 当ブログの休刊によって、「東京新聞 <税を追う> 」の紹介が「歯止めなき防衛費(4)」で止まっておりました。
 同シリーズは「歯止めなき防衛費(10)」(11月25日)で終了しましたので、残りの(5)~(10)の6編をここに紹介します。
 
 このシリーズは、アメリカの対日兵器商売が如何にデタラメでボロいものであるかを如実に示したもので、並みの商業新聞が敢えて触れないものを報じた画期的な企画でした。
 
 トランプ大統領は、先に安倍首相が訪米して米国兵器の大量購入を約束させられた後、記者たちに「シンゾウ(晋三)は、私が脅かせばいくらでも買ってくれる」と語ったと伝えられています。
 アメリカに言われれば、数百億~数千億円の無駄で無能力の米国兵器をいくらでも即座に買う一方で、国内では犯罪的な統計手法まで用いて、生活保護世帯から年額160~210億円を削減しようとしています。
 
 兎にも角にも、自らが売国奴であるという認識をまるっきり持たないという点が、安倍首相が政治家の風上にも置けない失格者であることを何よりも雄弁に証明しているのですが、そうした人間を首相にしている国民も決して「無責」ではありません。
 トーマス・カーライルの警句「この国民にしてこの政府あり」を、我々は繰り返し思い起こす必要がありそうです。
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<税を追う> 歯止めなき防衛費(5) 貿易赤字解消図る米大統領
                  「兵器買え」強まる流れ
東京新聞 2018年11月18日
 「武器」と「カジノ」。
 今年の夏以降、訪ねてくる旧知の米国関係者たちから、何度この言葉を聞いたことだろうか。
 「彼らに訪日の目的を尋ねると、用件は必ずこの二つの利権だ」。日本総合研究所の寺島実郎会長は、急速に矮小(わいしょう)化している日米関係を肌で感じている。
 訪ねてきた人の多くは、知日派の元政権スタッフや元外交官ら。「日本通であることで米国の防衛やカジノの関連企業などに雇われた彼らが、対日工作のため動き回っている構図が、ここに来てくっきり見える」と明かす。
 一基で一千億円以上する迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に象徴されるように、安倍政権は国難を理由に米国製兵器の購入にアクセルを踏む。
 
 右肩上がりで増える日本の防衛費に、米軍需メーカー幹部は「安倍政権になってビジネス環境はよくなった」と手放しで喜ぶ。
 追い風を吹かしているのがトランプ米大統領だ。約七兆円に上る対日貿易赤字をやり玉に挙げ、日米首脳会談のたびに、安倍晋三首相に米国製兵器や化石燃料などの購入を迫ってきた
 通商と安全保障をパッケージにして、兵器を「ディール(取引)」として売り込む。その姿は、さながら武器商人だ。元米海兵隊大佐で、日本戦略研究フォーラムのグラントF・ニューシャム上席研究員は「トランプ氏は、日本が自分の防衛を十分果たさず、米国にただ乗りしていると考えている」と指摘する。
 「私は(安倍首相に)『われわれは巨額の赤字は望まない。あなたたちはもっと買わざるを得なくなるだろう』と言った。彼らは今も大量の防衛装備品を買い続けている」。米紙ワシントン・ポストによれば、トランプ氏は九月下旬のニューヨークでの記者会見の際、直前に行われた安倍首相との会談で、そう迫ったことを強調した。
 
 対日貿易赤字の多くを占める自動車は、日本経済を支える基幹産業。トランプ氏が赤字削減のため、日本車の追加関税に手を付ければ、国内経済への打撃は避けられない。
 「米国装備品を含め、高性能な装備品を購入することが日本の防衛力強化に重要だ」と応じた安倍首相。大統領の得意のせりふ「バイ・アメリカン」(米国製品を買おう)への抵抗はうかがえない。
 「TPP(環太平洋連携協定)交渉で、自動車の輸出と農産物の輸入をてんびんに掛けられている農協の気分だ」。国内の防衛産業は、自分たちの食いぶちを奪われかねないと戦々恐々だ。ある大手メーカー幹部は、自民党の国会議員から「自動車を守るためのバーターとして、米国から高い武器をどんどん買えという流れになっている」と打ち明けられたという。
 小切手を切ってくれそうなところに請求書が行くように、増大する日本の防衛費に米国が群がっている。「今や米国にとって日本は草刈り場だ」という寺島氏は、対米交渉に警鐘を鳴らす。
 「日本に東アジアの安全保障に対するしっかりした構想がないから、米国に武器を売り込まれる。トランプ政権の期待に応えるだけでは利用されるだけだ」
 
 
<税を追う>歯止めなき防衛費(6)対外有償軍事援助 米優位 
         もの言えぬ日本
東京新聞 2018年11月19日
 いつ電話してもつながらず、留守電に要件を吹き込んでも連絡がない。らちが明かずワシントン郊外の米国防総省から一キロ先の米軍のオフィスに乗り込んだ。中に入ると、あちこちで電話が鳴っていた。それでもスタッフらは構わずに目の前の業務を続けていた。
 これは二十年ほど前、米国駐在だった防衛省職員が目にした「対外有償軍事援助」(FMS)を巡る米側の対応だ。米国から兵器を輸入する際、FMSでは米政府が窓口になる。
 職員は「米軍の担当者は高飛車というか、売ってやっているという、上から目線を感じた」。防衛装備庁有償援助調達室の森伊知朗室長は「今も状況はほとんど変わらない」と語る。
 
 FMSは米国に有利な取引で、価格や納期は米側が主導権を握る。昨年十月、会計検査院が装備庁に注文を付けたFMS取引の不備は、米国にもの言えぬ日本の立場を物語るものだ。
 パーツ番号が合わない、数量が異なる、空欄のままになっている…。検査院が調べたところ、早期警戒機など二〇一四~一五年度の六十四契約(総額六百七十一億円)すべてで、米側から届いた納品書と精算書の記載に食い違いがあった。検査院の担当者は「官の会計処理としてありえない」とあきれる。
 しかも、食い違いは常態化していた。原因は米側にあるというのに、森室長は「こういうものだと思って米政府には改善を求めてこなかった」と釈明する。
 
 契約金額は高額で、一歩間違えば日本に大きな損失が出る。米側に請求ミスがあっても、一年以内に通知しなければ補償してもらえない。にもかかわらず、確認を求めても回答は遅い。
 検査院によると、米政府から「あまりに問い合わせが多いので、もっと絞ってくれ」と言われた職員までいたという。
 食い違いを米側に問いただすのは最終手段で、米軍サイトで照合したり、書類の別の記載で類推したりしていたという。結果的にチェックは甘くなる。検査院は「十分に疑義を解明しないまま、装備庁は精算していた」と指摘する。
 
 「日本は足元を見られている」。そう語る元航空幕僚長の田母神俊雄氏も、かつてFMS取引の理不尽さを味わった一人だ。
 空幕装備部長だった約二十年前のこと。「リンク16」と呼ばれる米軍の情報共有システムの導入を決めた途端、米国は価格を一億三千万円から二億五千万円に引き上げてきたという。
 「米軍幹部に直接、『信義にもとる』と抗議すると一カ月後、元の価格に戻った」と田母神氏。「なぜ価格が上がったのか、なぜ元に戻ったのか説明もない。FMSって常に米国の勝手なんですよ」。今も米国の言い値であることに変わりはなく、FMSへの依存度を強める日本の将来に危機感を抱く。
 昨年十二月、検査院に背中を押されるように装備庁は、米政府に納品書と請求書の食い違いがないように求めた。だが米側の対応は鈍い。今年一~八月の六十六契約のうち、食い違いは実に七割超の五十契約(総額二千百八十億円)で見つかっている
 
 
<税を追う>歯止めなき防衛費(7)国内防衛産業 
         機関銃価格 米の7倍
東京新聞 2018年11月21日
 「日本は米国の七倍の値段で買っている
 今年四月、財務省で開かれた財政制度等審議会の分科会。葛西敬之・JR東海名誉会長や永易(ながやす)克典・三菱UFJ銀行特別顧問ら経済界の大物委員の前で、主計局防衛係の内野洋次郎主計官が説明した。
 やり玉に挙がったのは住友重機械工業がライセンス生産する軽機関銃「MINIMI(ミニミ)」。ベルギーの銃器メーカー「FNハースタル」が開発、一分間に七百五十~千発撃つことができる。住友重機はハースタル社にライセンス料を払って設計図を購入、部品製造から組立まで行う。
 自衛隊はMINIMIを一九九三年度から購入し始め、陸・海・空で約五千丁を保有する。以前は毎年二百丁前後調達していたが、二〇一三年に機関銃の試験データ改ざんが発覚した以降は大幅に減少。一七年度は四十八丁だった。
 調達数の減少に伴い、単価が高騰した。同じライセンス生産をしている米国が一丁四十六万円、オーストラリアが四十九万円なのに対し、日本は三百二十七万円と七倍前後だ。
 
 「さすがに納税者は許さないでしょう」。日本の防衛産業界に広い人脈を持つ関係者はため息交じりに漏らす。住友重機の担当者は財務省の指摘にはコメントせず、「今後も企業努力を重ねていく」と話した。
 日本の防衛装備品が高額になる大きな要因の一つが「原価計算方式」。装備品は市場価格がないため、メーカー側が材料費や加工費などの原価を積み上げ、そこへ防衛省が一定の利益を上乗せして価格が決まる。利益率は製造業の平均を基にしており、関係者は「おおむね6%弱」と言う。
 「原価が増えれば利益も膨らむ構造になっており、企業が自主的に原価を下げる方向には向きにくい。そうした問題点は以前から認識していた」。防衛装備庁の担当者はそう話す。
 
 コスト意識が働きにくいだけでなく、原価を水増しして過大請求する事件も後を絶たない。最近十年間の主な事例でも、三菱電機の二百四十八億円など十三社で計四百九十五億円の過大請求が発覚。国庫に返納するとともに多額の違約金を支払っている。
 装備庁は抜き打ち調査を増やしたが、一六年度の契約実績は約六千七百件、二兆円近くに上り、別の担当者は「検査する人がとても足りない」と言う。
 防衛産業は専門性が高く自衛隊との関係は深い。防衛省と契約実績のある企業には毎年、自衛隊の一佐以上と本省課長相当以上の幹部だけで六十~八十人天下る。自衛隊のある元幹部は「再就職先の企業が仕事を取るためにOBを連れて来ることはある」と話す。
 
 防衛産業界から政界への献金も毎年多額に上る。防衛省の契約上位十社のうち八社は一六年、自民党の政治資金団体「国民政治協会」に計一億三千二百八十万円という多額の献金をしている。八社の一六年度の受注額は地方分を除いて八千八百五十一億円と、全体のほぼ半分を占める。
 改善されない高コストや繰り返される水増し請求。財務省幹部は「防衛産業というムラ社会で、競争力が落ちている」と指摘する。
 その背後に政界と業界、防衛省・自衛隊のもたれ合いが浮かび上がる。
 
 
<税を追う>歯止めなき防衛費(8)中期防兵器リスト
         「八掛け」で詰め込む
東京新聞 2018年11月23日
 「機動戦闘車、九十九両」
 「ティルト・ローター機(輸送機オスプレイ)、十七機」
 「戦車、四十四両」……
 二〇一三年十二月に閣議決定した現行の中期防衛力整備計画(中期防)。一四~一八年度の防衛費の総額を二十三兆九千七百億円程度と定め、購入する兵器の名前がずらりと記してある。中期防は五年ごとに策定される、いわば兵器の「買い物リスト」だ。
 各兵器の防衛省の見積額は、企業との取引に影響があるとして非公表だが、財務省が実際の購入額と比較すると、見積もりのずさんさが浮かび上がった
 
 機動戦闘車は一両四・八億円の見積もりに対し、購入額は七・一億円(48%増)。オスプレイは一機六〇・五億円→七四・六億円(23%増)、戦車は一両十億円→一一・五億円(15%増)など、二十二品目のうち十五品目で見積もりより高騰していた。
 価格が高騰すれば数量を減らす必要が出てくる。国産の機動戦闘車は十二両、戦車は四両減らした。C2輸送機(一機二〇六・四億円)も当初の十機から七機に。計九品目で目標を達成できないという、ちぐはぐな結果だ。一方、オスプレイは計画通り十七機を米国から輸入する。その分、他の兵器を減らした格好だ。
 「こんなに購入単価が上がってしまっては(購入する)数量が達成できないのは当たり前だ。コスト管理ができていない」。財務省幹部は指摘した。なぜ取得価格は上がったのか。
 
 防衛省の末永広防衛計画課長は「消費税率が5%から8%に上がり、装備品によっては加工費や材料費も上がった」と説明。為替レートが円安になり、米国から兵器を調達するコストが増えたことも原因に挙げたが、財務省は為替の影響額を除いて計算しているので理由にならない。
 現場からは、別の声が聞こえる。「『ポツハチ』を掛けたりするんだよ」。十年ほど前に退官した元自衛隊幹部が明かした。ポツハチとは「見積もりを0・8倍する」という意味だ。
 「中期防のリストに(兵器の)アイテムが載っていないと、絶対に事業化されない。だから、見積額を八掛けにして無理やり入れている、というのが実態だ」
 このため調達の際には当然価格が上がり、逆に数量が減る事態が起きる。会計部署を経験したことがある現役自衛官の一人は「中期防に詰め込むだけ詰め込むやり方は、今も変わっていない」と証言する。
 
 「F35戦闘機や無人偵察機グローバルホーク、(ミサイル防衛に使う)イージスシステムなど、日本は高価な装備品を好むようだ
 そう指摘するのは元米海兵隊大佐で日本戦略研究フォーラム上席研究員のグラント・ニューシャム氏。例に挙げた兵器はいずれも米国製だ。政府は来月、一九~二三年度の新しい中期防を決定するが、ニューシャム氏は戦略的視点が欠けているとする。
 「必要なものが何か。包括的・体系的に評価しないまま兵器を購入している。買うだけでなく、金額に注意を払い、必要に応じてお金を使うべきだ」
 
 
<税を追う>歯止めなき防衛費(9)米軍再編費、
         要求ゼロ 膨らむ予算「裏技」駆使
東京新聞 2018年11月24日
 「要求額を見掛け上、小さくしていると批判が来ることは分かっていた。でも、そうせざるを得ないほど、後年度負担がのしかかっている」。防衛省の幹部が正直に打ち明けた。
 
 二〇一九年度予算の概算要求は、本年度当初予算から2・1%増となる過去最大の五兆二千九百八十六億円。防衛費の概算要求上限のぎりぎりの額だが、実はそれでも足りず、本来盛り込むべき費用を外していた。本年度二千二百億円を計上した米軍再編関係費だ。
 原因は後年度負担と呼ばれる国産・輸入の兵器ローンにある。安倍政権による米国製兵器の輸入拡大に伴い、一九年度の返済は二兆七百億円に。同時に返済額より四千四百億円多い新たなローンが発生する。まさに自転車操業。ローン残高はわずか六年間で二兆一千億円も増え、来年度は五兆三千億円を超す
 
 幹部は「概算要求に米軍再編関係費を入れるとパンパンになる。そこで上の判断でゼロにした」と言う。毎年発生する経費のため、通常は前年度と同額を仮置きするが、今回は額を示さずに項目だけ入れ、判断を政府に投げる異例のやり方にした。例年通りに盛り込んでいれば総額は五兆五千億円を超え、6・3%の伸びとなる。それを「小さく見せた」のだった。
 防衛費は北朝鮮情勢や中国の海洋進出などを理由に六年連続で増加している。第二次安倍政権発足後、毎年1%超と伸びているのは他に社会保障費だけだ。
 戦闘機F35や輸送機オスプレイ、早期警戒機E2Dなど、米国の対外有償軍事援助(FMS)に基づく輸入兵器のローン残高は、一三年度の千九百十九億円から本年度は約六倍の一兆一千三百七十七億円。そこへ機動戦闘車や潜水艦など高騰する国産兵器が輪を掛ける。
 
 ある幹部自衛官は「予算は増えても全然足りない。もっとつけてもらわないと日々の活動費を削らなければならない」と言う。
 増え続ける本予算だけでは足りず、防衛省は補正予算にもローン返済を組み込む「裏技」を使うようになった。
 補正は災害対応などが本来の趣旨だが、一四年度以降は艦船やミサイルの取得費の計上が常態化している。政府ぐるみでなければ、とてもできない。予算編成に詳しい防衛省の元幹部は「かつて補正で装備品を買うことは考えられなかった。何でもありになっている」と懸念している。
 
 見た目以上に膨張している防衛費。安倍晋三首相は年末に策定する新しい「防衛大綱」と、向こう五年間の「中期防衛力整備計画(中期防)」に向け、ことあるたびに「従来の延長線上ではない防衛力」を強調してきた。防衛費拡大の布石は至るところに打たれている。
 「今のような政策を続け、中期防で予算を積み増していけば、どこかで財政的にパンクする。専守防衛で許される防衛力とは何か。根源的な議論が必要だ」。軍事ジャーナリストの前田哲男さんは、なし崩しの防衛費増大に危機感を覚える。
 予算増大の圧力が国の内外で強まり、専守防衛が揺らぐ。財政が危機的状況の中で、軍備増強を進める北朝鮮や中国と競うように、日本は軍拡へと転換するのか。来月示される政権の結論を注視する必要がある。
 
 
<税を追う>歯止めなき防衛費(10)辺野古新基地建設 
         県民抑え 際限なき予算
東京新聞 2018年11月25日
 ボートの舳先(へさき)に座る黒ずくめの乗員が威嚇するように、抗議船にビデオカメラを向けている。サングラスに黒のマスクで顔を覆った乗員は拡声器を手に、ひっきりなしに警告する。「ここは臨時制限区域です。速やかに退去してください」
 沖縄県名護市辺野古(へのこ)の米軍キャンプ・シュワブから約五百メートルの沖合。今月二十日、海上で新基地建設に抗議する小型船に同乗した。工事区域への立ち入りを規制するフロートの内側にいたのは、防衛省沖縄防衛局から警備業務を請け負った民間警備艇だった。
 一日から海上工事が二カ月ぶりに再開。美(ちゅ)ら海(うみ)は再びフロートで仕切られた。基地反対運動を撮り続ける名護市の写真家、山本英夫さん(67)は「国はカネがないと言いながら、ここでは基地反対の民意を抑えるために毎日二千万円も使っている。モリカケ疑惑なんかの比じゃないよ」と、警備艇に怒りをぶつけた。
 
 新基地建設が本格化した二〇一四年度以降、海上保安庁の警備に加え、民間の警備艇が二十四時間態勢で監視している。海上警備の予算は一五~一七年度で計百六十一億円。座り込みが続くシュワブ・ゲート前での陸上警備の予算を合わせると、三年間の総額は二百六十億円に上る。
 「一日二千万円の警備費」は、新基地に反対する「沖縄平和市民連絡会」メンバーで元土木技術者の北上田毅(きたうえだつよし)さん(72)が防衛局への情報開示請求で暴いた。「一日の人件費が一人九万円で積算されており、あぜんとした。国策だったら何でもありなのか」と嘆く。
 その後、会計検査院が海上警備費を調べると、防衛局は「業務の特殊性」を口実に国の単価ではなく業者の見積もりをそのまま採用していたことが発覚。一五~一六年度で計一億八千八百万円を過大発注していた。
 コスト意識の乏しい防衛局。それが、かえって県民の反感をあおっている。名護市の自営業、島袋正さん(58)は訴える。「ヤマト(本土)の人は、辺野古は沖縄だけの問題と思ってるかもしれないが、自分たちの税金が無駄に使われているわけさ。国民一人一人にしわ寄せが来てるんよ」
 
 そもそも政府は当初から「禁じ手」を使っていた。
 一三年十二月、当時の仲井真弘多(なかいまひろかず)知事が辺野古埋め立てを承認すると、政府は一四年七月、建設費百四十二億円を予備費から支出した。国会審議を経ずに閣議決定だけで支出できる予備費は、災害などの緊急時に限られる。沖縄では当時、建設反対の大きなうねりが広がっていた。
 「野党の追及を避け、基地建設を強行したい政権の姿勢が表れている」と分析するのは新藤宗幸・千葉大名誉教授(行政学)。「予算は国会の議決が必要という財政民主主義に反する姑息(こそく)な行為」と批判する。
 埋め立てすら手付かずなのに、辺野古には既に千二百七十億円が支出されている。政府が当初、想定した総事業費は三千五百億円以上。巨額の税金を垂れ流しながら、今後いくらかかるのか、見通しさえ国民に明らかにしようとしない。
 沖縄選出の赤嶺政賢衆院議員(共産)は金に糸目を付けない政府のやり方に憤る。「辺野古で予算なんてあってないようなもの。県民を黙らせることが予算の最大の要件なんだ」 =おわり
(鷲野史彦、原昌志、中沢誠、望月衣塑子、藤川大樹が担当しました)