2023年12月30日土曜日

資本主義の断末魔(植草一秀氏)

 経済学者の植草一秀氏が掲題の記事を出しました。
 「資本主義の断末魔」は最近同氏が上梓した書物のタイトルです。
 植草氏は、「資本主義の根幹は、市場原理の不可侵性私有財産制の神格化にあると捉え、「資本主義の行き着く先は際限のない格差拡大、少数による圧倒的多数市民の隷属である」として、「資本主義をいま一度考察する気運が増しているのは、資本主義が私たちを幸せにしない』ことが再確認されつつある」からと見ています。
 そして「現実にいかなる悪政がはびころうとも、それとは一線を画して、理想を求める考察を継続することが重要」であり、「人間にとって望ましい社会のあり方、政治のあり方、政府のあり方を考えなければならない」と述べています
 公表文は「2024年は日本政治変革の年になるだろう。日本の主権者はどのような政治・社会を構築することを目指すのかを考察して判断を下す必要に迫られることになる」と結んでいます
 但し、公表されている部分はメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第3665号「外国資本に利益供与する日本政府」の一部なので、全文をご覧になるには同メルマガを購読下さいと述べています。
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資本主義の断末魔
             植草一秀の「知られざる真実」 2023年12月28日



『資本主義の断末魔』(ビジネス社)https://x.gd/xIij4 の広告が12月28日付日経新聞朝刊に掲載された。
おかげさまで、アマゾンでベストセラー1位(金融・銀行)にランクイン賜った。
年末年始の読み物としてぜひご高覧賜りたい。
ウエブ上のニュースサイトであるNetIB-NEWSが上掲書を10名さまにプレゼントする企画を掲載されたのでご参照賜りたい。https://www.data-max.co.jp/article/68404

本書で論じるテーマは、
1.激動する現代経済金融動向の解析
2.世界経済の正体と行く末の展望ならびに政治哲学の考察
3.悪政を打ち破る最強投資戦略の提示
の三点にまたがっている。
全体を通読していただいても、関心のある領域のみをご高読賜りましてもありがたく思う。

資本主義の根幹は、「市場原理の不可侵性」と「私有財産制の神格化」にあると捉える。
この資本主義運動の行き着く先は際限のない格差拡大、少数による圧倒的多数市民の隷属だ。
資本は資本の原理として飽くなき利潤追求に走るが、成長の限界に直面して凶暴な素顔を露わにし始めている。
資本主義をいま一度考察する気運が増しているのは、「資本主義が私たちを幸せにしない」
ことが再確認されつつあることを背景にするものであると考える。

本書では世界経済の正体と行く末の展望並びに政治哲学について考察している。
現代社会の深層に潜む世界支配の策動にも目を配る必要がある。
現代社会はごく限られた少数によって支配され、運営されている側面を有している。
その策動の現実を抉り出すことが、現実社会を正確に理解する上で必要不可欠である。
陰謀と一笑に付すことは自由だが、一笑に付す者が真実を極めているわけではない。

激動する金融市場。その激動のメカニズムを正確に捉えることによって未来を洞察することが可能になる。
単なる経済問題ではない。政治、経済、金融、社会、地政学、そして世界を誘導する少数支配勢力の動向。これらすべての事象を欠落なく考察しなければ、正確な近未来予測は不能である。
他方で、人類はギリシャの古代から政治のあり方についての考察を続けてきた。
政治哲学の領域では、いまなおソクラテスもアリストテレスも光を放っている。
現実にいかなる悪政がはびころうとも、それとは一線を画して、理想を求める考察を継続することが重要である。
人間にとって望ましい社会のあり方、政治のあり方、政府のあり方を考えなければならない。

本書について「共生共栄友愛社会を目指して」ブログさまが書評を掲載くださった。
「植草一秀氏「資本主義の断末魔-悪政を打ち破る最強投資戦略」を上梓-リバタニアズムにリベラリズムで対抗」 https://x.gd/cXl8Y 感謝申し上げるとともにご高覧賜りたい。
「市場原理と自由主義を神格化する限り-政治哲学としてのリバタニアズムを信奉する限りそうなる-、貧富の極端な拡大と一般的な国民(海外諸国を含む)の絶対的な貧困化は避けられない。
植草氏はリバタニアズムに対置する意味でのリベラリズムを根本原理とする「ガーベラ革命」を起こすことで、悪政を重ねる自公政権、とりわけ岸田文雄政権と「けもの道」から脱却できない日本銀行(植田和男新総裁は前任の黒田東彦前総裁の呪縛から逃れようとはしている)に変わる新たな政権・正常な日銀の樹立を目指されている。」
と記述されている。

2024年は日本政治変革の年になるだろう。
日本の主権者はどのような政治・社会を構築することを目指すのかを考察して判断を下す必要に迫られることになる。

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続きは本日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第3665号
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5人がかりで怒鳴られ 生活保護の水際作戦 常態化 桐生市(しんぶん赤旗)

 日本では本来生活保護を受けるべき人たちの2割(=捕捉率)しか受給していません。
 海外での生活保護受給世帯の比率は、ドイツが9・7%、イギリスは9・3%、フランスは5・7%であるのに対して、日本は僅かに1・6%(205万人)に過ぎません17年ベース)
 これは「生活保護申請を受け付けない水際作戦」などの行政の不作為・嫌がらせに拠るものであって、日本が豊かであるからではないのは言うまでもありません。
 保護の申請に来た市民に対し申請書を交付せず,口頭による申請を「申請」扱いしないで追い返すといった福祉課の対応は「水際作戦」と呼ばれ,小泉政権時代に、厚労省の役人が九州地方に出向して指導したのが始まりと言われています。
 健康で文化的な生活をする権利は憲法25条で保障されています。憲法を順守すべき公務員が生活保護の申請を恣意的に蔑ろにすることは許されません。
 しんぶん赤旗が、桐生市であくどい水際作戦や生活保護費を一部だけ支給等の行為が常態化していることを報じました。これらは桐生市のみに留まるものではないことは容易に推測されます。
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社会レポート
5人がかり怒鳴られ 生活保護の水際作戦 常態化
                      しんぶん赤旗 2023年12月29日
 50代の生活保護利用男性に1日1000円しか手渡さず、全額支給をしていなかった群馬県桐生市。その後、新たに2018年以降の調査分だけで11世帯で全額支給をしていないことが判明し、86世帯に本人の同意なしに受領印を押すなどの事実も判明。長年にわたり大声で利用者を怒鳴り、申請書をわたさないなどの水際作戦が常態化していました。 (横田和治)

群馬・桐生市
 同市は18日に荒木司市長が記者会見で謝罪し内部調査チームと第三者委員会設置を表明。市議会では日本共産党の渡辺恒市議が追及、市側は反省を繰り返す一方で違法性の認識の欠如や大声を出して威圧する行為について、利用者が先に大声を出したから、といって責任転嫁をしています

追いこまれ転居
 市で生活保護を9月から11月まで利用ていた現在他市に在住している倉田雅子さん(仮名)とその息子の和夫さん(仮名)。雅子さんは心臓に持病を抱え労働が困難で、和夫さんは成人していますが障害を抱え働けません。在住している市で生活保護を利用していましたが、桐生市にすると「なぜ桐生に来た! 申請したからといって出るか出ないかわからないからな!うるさく言うようだったら支給しないぞ!」と5人がかりで怒鳴られたと倉田さんは話します。他にも9月に保護が決定したにもかかわらず、10月末に初支給をするなどの対応に精神的に追い詰められたと言います。
 かかりつけ病院を桐生市内に変えないと支給しない、何かったら領収書を都度持って来い、と言われました他の人が窓口で怒鳴られているのを何度も見たし、民生委員が来て利用をやめさせるようなことを言ってきたことも」と倉田さん。
 市のひどい対応に倉田さん親子は他市に転居。和夫さんは精神的ショックで家から出られなくなりました。

金銭管理までも
 他にも桐生市は太田市にある一般社団法人日本福祉サポートに利用者の金銭管理をさせている例も。連絡をしないとお金を下ろせず生活に困っていると党市議に相談がありました。市担当者は本紙取材に対し、あくまでも法人を紹介しているだけと返答しています。
 日本共産党の関口久市議は約30年間市で市議を務めてきましたが、他市の生活保護率が上昇する中、桐生市が年々下がっていることを指摘。
 「議会で追及してきたが、利用している高齢者が亡くなるので保護率が下がると言ったり、大声についても担当職員の力量不足と責任転嫁され改善に至らなかった。相談を受けた人々の被害は多岐、長期にわたり、改善をしない市の福祉行政・水際作戦が方針になっているのは明らかだ」

 今後、1月に被害を受けた当事者らが市相手に国家賠償請求訴訟を行う予定です。また、全国生活と健康を守る会連合会などが中心になり現地調査団を結成し「市の職員、当事者双方に話を聞き市民に報告して運動に発展させる」と司会の吉田松雄会長は話しまた。 

コロナで高齢者施設内死亡者が多数 第8波16・5% 新潟県は25%

 寒気に入りコロナ患者の拡大が報じられています。
 コロナは今年5月に5類に移行しました。コロナに対応できる体制が整わない中での移行なので、当然危険を伴っています。5類に移行後も厚労省は、「医師が入院の必要がないと判断した場合を除き原則入院としています。
 直近の第8波では、判明しているだけで死亡者の2割近くが高齢者入所施設で亡くなっており、新潟県は25%と死亡率が高い県に属します。それなのに新潟県は公然と「原則、施設内療養」を掲げているので、高齢者は大いに注意する必要があります。
 しんぶん赤旗の記事を紹介します。
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コロナ 入院できず死亡多数 第8波165% 高齢者施設内
                      しんぶん赤旗 2023年12月29日
 新型コロナ感染症の国内死亡者は分かっているだけでも累計約7万5000人にのぼります。死者数が過去最大になった2022年秋から23年初旬の第8波では、判明しているだけで死亡者の2割近くが高齢者入所施設で亡くなっていることが28日までに本紙調査により明らかになりました。政府・厚生労働省は新型コロナの感染症5類移行後(今年5月)も、高齢者施設のコロナ患者は「医師が入院の必要がないと判断した場合を除き原則入院」(同省老健局)としています。施設留め置きによる大規模な死亡者の発生は、人命軽視の自民党政治の責任を鋭く問うものです。(内藤真己子)

 日本共産党地方議員団の調査や本紙の取材・公文書開示請求で分かったもの。全都道府県・政令市におおむね22年11月~23年2月の死亡場所別死者数をたずね、28日現在「整理中」と回答した北海道を除き集計しました。一部県が保健所設置自治体分を明らかにせず、一部政令市が「把握不可能」(横浜市)など詳細を回答しませんでした
 それによると全国平均では死者の16・5%が高齢者施設で死亡しています。香川・宮崎(35%)、大分(32%)、徳島(31%)各県はとりわけ施設内死亡率が高く、3割を超える人が高齢者施設内で亡くなっています。ほかにも岩手・栃木(29%)、秋田・新潟・岡山(25%)、静岡(24%)など14県が2割を超えています。

 コロナ禍では検査体制の不足やワクチン接種の遅れなど政府の無策のため、たびたび感染が大爆発。医療崩壊が繰り返され高齢者施設ではクラスター(感染者集団)が多発しました。ところが政府・厚労省は、医療崩壊がより深刻になるのを回避するため高齢者施設内での療養を認め、補助金も付け事実上進めてきました。そのもとで公然と「原則、施設内療養」を掲げる県(新潟、山形両県など)も現れました
 さらに、施設療養中に容体が悪化しても「人工呼吸など延命治療を希望していない人は施設にいても同じで入院させない」「高齢者は施設で看取(みと)ってほしい」など入院調整する自治体が入院を断る例もあとを絶ちませんでした。

 特養ホームの施設長らでつくる21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会(21・老福連)の第8波の調査では4割が「入院できなかった」と回答。このうち23%が「行政や病院から施設で看取ってほしいと言われた」と回答しています。「命に優先順位をつけるトリアージだ」「高齢者を差別するもの」との批判が広範に起こりました。
 施設の介護職員は、医療の専門職でないのに施設内療養に駆り出され大勢が感染しています。

 歴代自民党政権による医療費抑制政策で医療供給体制が脆弱(ぜいじゃく)にされるなか新型コロナ感染症が大爆発し、感染が拡大しやすく重症化リスクの高い施設の高齢者の命が多く失われたものです。 

北朝鮮とロシア(田中 宇氏)

 田中宇の国際ニュース解説」に掲題の記事が載りました。
 コロナが一先ず「収束」したことで、それまで北京・平壌線だけだった北朝鮮の旅客機の国際定期便にモスクワ平壌線が加わりました。12月には、中朝国境でトラックの往来が再開され中朝貿易が復活しました。ロシア沿海州の経済代表団が平壌を訪問し、貿易・農業・観光など朝間の経済活動の活発化話し合われました。
 ウクライナ侵攻を機にロシアは米国側から強烈な経済制裁を課されましが、逆に経済的に発展しており、北朝鮮は人手不足のロシアに労働力を輸出する集団出稼ぎを再開しドンバスの街々の再建工事に労働者を派遣する準備があると表明しました

 ロシアは中国と一緒に、米覇権衰退に備え911と同時期の2000年から上海協力機構、2008年からBRICSを作っており、露中結束やBRICSを基盤に制裁されて米国側と永久に断絶しても経済を発展させていける非米側独自の経済システムの立ち上げを加速しました。そしてウクライナ開戦から1年以上が経ち、政治経済の両面で非米的な世界システムの構築が進みましたが、逆に米覇権はいますでに政治経済の両面で破綻しているし、ガザ大虐殺では、その「精神面」に対しても世界から呆れられるに至りました。馬脚を露わしたということです。
 田中氏は「米覇権はこれから崩壊が進んで日韓から撤退していくのだから、北制裁でない戦略が必要だ」と述べています。ひたすらバイデン追随の岸田氏に通じるかどうか。
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北朝鮮とロシア(田中 宇氏)
              田中宇の国際ニュース解説 2023年12月27日
北朝鮮がロシアの協力で経済発展していきそうだ。北朝鮮とロシアが急接近したのは今年7月、ロシアのショイグ国防相が訪朝してからだ。訪朝の目的は、ロシアがウクライナ戦争で使う兵器を北から買い、見返りにロシアが北に軍事技術を供与する案件の推進だったと思われる。その後、北は弾道ロケット(ミサイル)・軍事衛星の打ち上げを繰り返し、ロシアの技術で軍事技術が向上している。ロシアと北朝鮮の接近

9月には、東方経済フォーラム出席のため北朝鮮近くのウラジオストクにきたプーチンが金正恩と会った。11月には、それまで北京・平壌線だけだった北朝鮮の旅客機の国際定期便に、モスクワ平壌線が加わった
12月には、遼寧省丹東の中朝国境でトラックの往来が再開され、コロナで停止していた中朝貿易が復活した。ロシア沿海州の経済代表団が平壌を訪問し、貿易・農業・観光など露朝間の経済活動の活発化について話し合っている。
ウクライナ開戦後、米国側に強烈な経済制裁されたロシアは、制裁で経済破綻するどころか逆に経済発展しており、人手不足になっている。韓国諜報部によると、北朝鮮はロシアに労働力を輸出する集団出稼ぎを再開している。北朝鮮は、ウクライナ戦争で破壊されたドンバスの街々の再建工事に労働者を派遣する準備があると表明してきた。
Russian Airlines To Launch Regular Flights To Pyongyang For First Time
North Korean and Russian officials discuss economic ties as Seoul raises labor export concerns

米国が北朝鮮やイラン、シリア、キューバなどを極悪視して制裁・転覆画策し続けるのは誇張歪曲だらけで理不尽だが、世界最強の覇権国だから黙認するしかないと考えている国は多い。ソ連崩壊からウクライナ開戦まで、ロシアもそうだった。ロシアは、米主導の国連の北制裁に賛成し、北への協力も最小限にしていた。
だが米国は、覇権が衰退しつつある中で、ウクライナ政府を傀儡化して国内ロシア系住民を殺し続ける策を2014年からやり続け、ロシアを正当防衛的なウクライナ侵攻(特殊作戦)に誘導し、猛烈な対露制裁を開始した 資源の非米側が金融の米国側に勝つ

この過程でロシアは、米国の理不尽な制裁戦略を容認するのをやめ、米国の覇権を認めない態度に転換した。ロシアは中国と一緒に、米覇権衰退に備え、911と同時期の2000年から上海協力機構、リーマン倒産ドル崩壊後2008年からBRICSを作っており、露中結束やBRICSを基盤に、制裁されて米国側と永久に断絶しても経済を発展させていける非米側独自の経済システムの立ち上げを加速した。
米覇権がうまく回っているなら、替わりの非米経済システムは必要ない。だが米覇権は、今すでに政治経済の両面で破綻している。政治面は、米中枢(諜報界)が過激で稚拙な好戦派のネオコンに牛耳られ、米国が覇権を行使するほど世界が不安定になり、何も解決されない。
経済面は、実体経済の何百倍もの規模がある米金融システムが市場の需給でなく、米連銀が銀行救済名目で裏から資金注入(隠れQE)する資金で延命している機能不全の「ゾンビ状態」だ(金融バブルは騙されて買う人の需要で膨張するが、造幣依存の現状はそれですらない)。崩壊する米覇権に替わる非米的な新世界システムが必要だ。
多極型世界システムを考案するロシア

ウクライナ開戦から1年以上が経ち、政治経済の両面で非米的な世界システムの構築が進んでいる。政治面はBRICSを拡大し、米国側と非米側が衝突して機能不全の傾向である国連安保理の機能を代替しそうな勢いだ。経済面は、BRICS諸通貨での貿易決済やユーラシア内陸部の貿易路建設など、米国側と断絶した状態で非米諸国が経済活動できる態勢が、簡素だが形成されている。
ロシアがソ連崩壊後途絶えていた北朝鮮との交流を突然復活した今夏は、ちょうど非米世界システムの構築が軌道に乗りだした時期だった。ロシアは、ウクライナ戦争での武器弾薬不足や、露経済の成長で人手不足が深刻化したので、武器弾薬や出稼ぎ労働力を北朝鮮から買っただけ、と考えるのは多分近視眼的だ。
ロシアは、もっと巨視的・長期的に、北朝鮮を非米的な世界システムに招き入れるために、武器弾薬や労働力の購入を皮切りに北朝鮮に接近したと考えられる。
US claims North Korea provided Russia 1,000 containers of military equipment for Ukraine war

北朝鮮は核兵器を開発しており、北と貿易して資金を与えることは(米主導の)国連の北制裁決議で禁止されている。ロシアは北に軍事技術を与えて、北の核ミサイル・軍事衛星打ち上げロケットを向上させた。ロシアが北に接近したのは「国際法違反」と非難される。(北は、宇宙開発は国家の権利だと言っている)
だが、米主導の北制裁は、北に貿易を禁止しして困窮させ、北がますます好戦的に振る舞って朝鮮半島の軍事緊張を恒久化し、北を孤立させ、日韓を対米従属させるためのものだ。北制裁は極東を安定させない。米覇権は、これから崩壊が進んで日韓から撤退していくのだから、北制裁でない戦略が必要だ。ロシアはそのため(日韓のため??)に北に接近したともいえる。 North Korea Says Space Program Is a Sovereign Right, Vows to Defend Satellite

ロシアから北への軍事支援は、北の核兵器開発を前倒ししている。一見「けしからん」ことだが、よく考えるとそうでもない。北の核兵器はすでに完成しているかもしれないが、米国側は、北が完成していたとしてもわざと無視し、まだ完成してないと言い続けている。完成したら抑止力が確立し、核兵器保有国として認めざるを得なくなる。未完成なら、まだ北を軍事力で倒せる前提となり、米日韓の軍事費増額を進められる
北の核が完成し、非米システム導入で経済的にも貧困を脱して発展していくと、北は米日韓に支援金をせびる必要もなくなる。経済発展は金家支配の政治正統性も強め、北を安定させる(逆に金家支配が崩壊したら、北はリビアみたいに半永久的に失敗国家になって韓国や中国に混乱が波及する)。
北が安定したら、南北和解が近づく。ロシアが北を非米システムに誘ったのは東アジアの安定策である。

ロシアは北朝鮮より先に、アフリカ諸国との関係を強化して、非米的な経済システムを導入してアフリカを繁栄させようとしている。アフリカ諸国の地下資源の開発を手伝い、その資金でインフラなどを整備する。これは中露協調でやっている。ロシアは、アフリカでやり出したことを北朝鮮に対してもやろうとしている。北にはレアメタルなどがある。
アフリカの非米化とロシア

近年の北朝鮮を支えてきたのは、ロシアより先に中国だ。北朝鮮に対しては1990年代に米国(クリントン政権)が日韓と組んで北に発電用軽水炉を作って核兵器開発用原子炉を止める策を進めていたが、911で好戦策に転じた子ブッシュ政権になって米国は北敵視に転換した
代わりに北の面倒を見るようになったのは中国で、トウ小平式の自由市場策(経済自由化)を北(金正日)に勧めてやらせた。だが、経済を自由化すると政権の政治正統性がゆらぎかねない。中国は天安門事件(米国による政権転覆の画策??)を経験した。ソ連はゴルビーが政治まで自由化したら崩壊した。北が経済を自由化したら、そこから米諜報界が入り込んで北の転覆を試みかねない。
金正日は経済自由化に前向きで、経済官僚を登用して軍部を格下げしたが、正日の死後にあとを継いだ正恩は逆に進んだ。軍部にそそのかされた正恩は経済官僚を処刑し、軍部を再登用し、中国を遠ざけた。中国が北支援をやめると北が経済崩壊しかねないので、中国はやむを得ず黙って北に石油などを送る支援を続けた
北朝鮮・張成沢の処刑をめぐる考察

今年ロシアは、中国と協議しながら北との関係を強化している。これは中露合同で北を非米側の仲間に入れる策だ。かつて中国は「市場主義」を北に勧めたが、今ロシアが北(やアフリカなど非米諸国)に勧めているのは「国家主義」「国家主導」の経済戦略だ。北朝鮮の金家は、自分たち(=国家)が中心でなければならず、国家主義は大好きだが、金家より市場(もしかすると米諜報界の「見えざる手」)が偉い市場主義は嫌いだ。北朝鮮には、トウ小平式よりプーチン式が似合う
中国も習近平になってトウ小平式を棄て始め、毛沢東時代の国家主義を復活している。習近平は、中共上層部に残っているトウ小平派との暗闘があるので、米国主導の市場主義を否定して非米的な国家主義を標榜することをあまりやってない。非米側の経済システム作りはロシア発案になっている。これと連動して、今回の北との関係強化も中国でなくロシアが目立っている 多極世界でロシアから中国を見る

今のロシアの前身であるソ連も、英米の覇権体制とは別の世界システムを、国際共産主義体制として百年前に作ろうとした。今のロシアの非米世界システムの構築提案は、百年前からのロシアのお家芸を継いだものだ。ロシアが世界システム構築の才能を持っているというよりも、内陸側のロシアが、海洋側の英米と地政学的に対立する存在なので、非英米的な世界システムの提案をロシアが担当している感じだ。
この見立てに沿って、ロシア革命から現在までの世界史の裏の流れを再構築してみようとしたのだが、途中で頓挫しているのと、今回の北朝鮮の話からかけ離れていくので、それは改めて考えて書くことにする。 資本の論理と帝国の論理

ワシントンの中国封じ込めの執念は続く(賀茂川耕助氏)

 米国が「台湾有事」を吹聴したのは、中国がGDPで米国を抜く前に中国と戦争して、叩いておきたいという作戦に他なりません。「台湾有事」と聞いて何故か舞い上がったのは岸田首相だけで、中国はそんな言説は歯牙にも掛けませんでした。実際中国は焼け野原になった台湾を望まないし、台湾もなおさらそうです。

 このところバイデンは中国との融和的な関係を演出していますが、それは刹那的で意図的な「揺らぎ」に過ぎないもので、経済、外交、軍事的手段を通じて中国の台頭を包囲し封じ込める政策は、米国が第二次世界大戦以降一貫して維持している戦略です。
 米中戦争には至らないものの、米国はフィリピンを「台湾有事」の際の時の中継基地にし、ミャンマーの武装勢力に働きかけて、中国が支援したパイプラインを損傷させました。
 これは南シナ海とその周辺における米国の軍事的プレゼンスの増大によって脅かされている航路を回避するために、中東方面からの中国船ミャンマーのラカイン州港で荷揚げすることができるようにするための施設でした。

 「耕助のブログ」に掲題の記事が載りました。それは幾つかの文献に基づいた考察で、一見平和に見える状況の中でも米国によって中国封じ込めのための妨害行為が精力的に行われていることが分かります。
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ワシントンの中国封じ込めの執念は続く
                 耕助のブログNo. 2019  2023年12月29日
  Washington’s Obsession with Containing China Continues
                           by Brian Berletic
11月中旬にサンフランシスコで行われた中国の習近平国家主席とジョー・バイデン米大統領との会談は、中米関係の雪解けと解釈する向きもあるが、ワシントンは経済、外交、軍事的手段を通じて中国の台頭を包囲し封じ込める政策を拡大し、前進を続けている。
今回の会談は、米国が外交を追求しているように見せかけながら、実際には外交を弱体化させるという、ワシントンのおなじみのゲームである可能性が高い。

中国を封じ込める: 数十年にわたる米国の政策
西側メディアは米国の対中政策を政権ごとに異なるものとして描いているが、実際には第二次世界大戦の終結時から中国を包囲し、封じ込めることに一貫して執着してきた
米国務省の公式ウェブサイトでは、その歴史部を通じて数十年にわたる米国の外交政策を明確にした多数の公電、覚書、その他の文書を公開している。
ロバート・マクナマラ国防長官(当時)がリンドン・ジョンソン米大統領(当時)に宛てた1965年発表のメモ{1}は「ベトナムにおける行動方針」と題され、ベトナムにおける米軍の作戦が「共産中国を封じ込めるという長期的な米国の政策」にいかに直結しているかを強調している。
同じメモによれば米国はこの封じ込め政策を「(a)日韓戦線、(b)インド・パキスタン戦線、(c)東南アジア戦線」の3つの戦線で追求している。
当時の中国は、現在と同様、世界を「われわれの望む方向へ」動かすというワシントンの最終目標にとって邪魔な存在と見なされていた。
ワシントンは過去も現在も、国境内および国境を越えた問題の管理方法を世界に指図したいという明確な願望を持っている。十分な経済力、政治力、外交力、軍事力を持つ国(あるいは多極化した世界秩序の下にある国)は、ワシントンが世界中で優位に立ち、いつでもどこでも堂々と行動することの妨げとなるからである。
1965年のメモにはこう書かれている:
     中国は、1917年のドイツのように、30年代後半の西側ドイツと東側日本のように、そして1947年のソ連のように、世界におけるわが国の重要性と有効性を低下させ、より遠隔ではあるが、より脅威的に、アジア全体をわが国に対して組織化しようとする大国として迫ってきている
中国がアジアを結集して米国に対抗することを恐れたのではなく、米国の沿岸から何千キロも離れたアジア太平洋での米国のプレゼンスに対抗することを恐れたのである。当時のソ連と現在のロシア連邦も同様に、米国の国境内ではなく、米国の東部海岸線から大洋を隔てたヨーロッパでの情勢に口を出す米国の能力を脅威としていた。
ロシアがヨーロッパとの協力を強めていることも(それが2022年の特別軍事作戦(SMO)につながった)同様の脅威を表している。それは米国本土に対してではなく、ヨーロッパ大陸に対する米国の影響力への脅威であった。
中国は当時も今も、同じような「脅威」の象徴である。その台頭は周辺国を強化し、労働搾取工場や軍事基地を建設するのではなくインフラや貿易を発展させるなど、ウォール街やワシントンの搾取的なやり方に代わる選択肢を提供している。中国も、インド太平洋地域の国々も、もはやアメリカの要求には従わず、国内政策や外交政策に関してますます自己主張を強めている
米国は何十年間もベトナム、ラオス、カンボジアとタイ、フィリピン、さらには日本やオーストラリアをも巻き込んだ破壊的な戦争を戦うなどして、このような展開を阻止してきた。べトナム戦争が終結して以来、米国はCIAや後に設立されたNED(全米民主化基金)やその関連組織を通じて、秘密行動や政治的干渉を行ってきた。
米国がヨーロッパを再び支配するために破壊的で不安定化させるような手段をとったことを考えると、米国がインド太平洋地域でも同じようなことをするのではないかという懸念は正当化できるように思われる。

地域紛争への回帰
インド太平洋地域に対する米国の優位性を再確認するために、米国は秘密行動と政治的干渉の政策を続けているが、中国との潜在的な衝突を前にこの地域での軍事的足跡を増やしている。
中国の雲南省と国境を接するミャンマーは暴力的な不安定化の標的となってきた。2021年の軍事クーデターでアウン・サン・スー・チー率いる米国の隷属政権が追放された後、米国の支援を受けた武装勢力がミャンマーを内戦状態に陥れた。
米国に支援された武装勢力は、モスクワと北京の緊密な同盟国であるミャンマーの中央政府と戦っているだけでなく、中国の援助で建設された共同インフラ・プロジェクトを特に攻撃している。米国政府が出資する『Irrawaddy』紙の記事{2}「中国が支援するパイプライン施設がミャンマーの抵抗勢力の攻撃で損害を受けた」によると、昨年初めに攻撃された中国が建設したパイプラインもこれに含まれる。
このパイプラインは、南シナ海とその周辺における米国の軍事的プレゼンスの増大によってますます脅かされている航路を回避するための中国の努力の一部である。ミャンマーを経由するパイプラインによって、中国船はミャンマーのラカイン州にある港で荷揚げすることができ、通常マラッカ海峡を通り、南シナ海を渡り、中国の南・南東沿岸の港に向かうために必要な時間と労力を大幅に節約することができる。
南シナ海とその周辺における米軍のプレゼンスは「航行の自由」を守るためだと主張しているが、米政府と軍需産業が出資するシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は、「南シナ海を通過する貿易の量はどのくらいか」と題したプレゼンテーション{3}の中で、南シナ海を通過する海運の大部分は、実際には中国とこの地域の貿易パートナーとの間のものであることを認めている。従って米国はこの海運を保護するためではなく、威嚇し、完全に遮断するために存在しているのである。
さらに最近では、『グローバル・タイムズ』紙{4}によると、ミャンマーで米国が支援する武装勢力がミャンマーと中国の国境地帯を不安定化させ始め、貿易や旅行をより困難なものにしている。
これは、米国が北京との外交を進めているように見せかけながらも、中国に対して行っている「代理敵対行為」の一例に過ぎない。

戦争を仕掛けるアメリカ
中国のインフラと周辺地域の貿易を標的にした代理戦争を超えて、米国はアジア太平洋における軍事的プレゼンスを高め続けているが、それは主に中国の海洋貿易を脅かし、中国の島嶼部である台湾を巻き込んだ挑発に先んじるためである。
最近のロイターの記事{5}「米国はいかにしてフィリピンに求愛し、中国を阻止したか」では、米国が中国の台頭を封じ込めるためにフィリピンを利用していることを全面的に認めている。
記事はこう認めている:
    台湾の南の隣国であるフィリピンは、中国が攻撃してきた場合、米軍が台北を支援するために不可欠な中継地点になるだろうと軍事アナリストは言う。中国を統治する共産党は、台湾を民主的に統治された中国の不可分の一部と見なし、島を自らの統制下に置くために武力行使を排除しない立場を取っている。
ロイターは言及していないが、実際には中国はフィリピンにとって最大の貿易相手国であり、フィリピンが他の台頭する東南アジア諸国に追いつくために必要な近代的インフラを建設できる唯一のパートナーでもある。
フィリピンは中国と協力して鉄道、港湾、発電所を建設する代わりに、米国が列島国家とその周辺に軍事的プレゼンスを拡大することを容認し、マニラ自身を北京とのエスカレートする対立に追い込んでいる。2014年から米国による政治的な影響を受け、ロシアとの経済的なつながりを断ち切り、経済を深刻な状態に陥れたウクライナと同様に、フィリピンも積極的な米国の代理としての役割で自己破滅への道を歩んでいる
米国はフィリピンを南シナ海での緊張を継続させるためだけでなく、軍事的足跡を台湾に近づけるためにも利用している。台湾そのものが、北京とワシントンの主要な争点であり続けている。
というのも、ワシントンは「一つの中国」政策の下、公式に台湾に対する中国の主権を認めているが、非公式には、あらゆる場面で国際法とともにこの政策を貶めているからだ。米国は、台湾に駐留する米軍の数を増やし、台北の政権への武器売却を続け、台湾の地方政治システムに対する長期にわたる政治干渉に投資している。
長年にわたり米国は台湾の民進党(DPP)を政権に就かせる手助けをし、台湾と中国の間の協力関係を後退させる政治運動に投資し、最近では台北の分離主義者を支援している。2024年1月13日の選挙に先立ち、民進党の頼党首の伴走者が米国人とのハーフであるシャオ・ビキンになることが発表されたが、彼は台湾で政界入りする前に一時は米国市民権を持っており、長年ワシントンの米国議会と共に中国に対して積極的に活動してきたとニューヨーク・タイムズ紙は報じている{6}。
米国は、中国に対する軍事、政治、経済的挑発を通じて、数十年にわたる封じ込め政策を継続している。これらの挑発行為は、もし中国が同じように米国に対応すれば、戦争行為と見なされるだろう。北京は戦争を急ぐのではなく、時間が味方してくれると確信し、米国ができるだけ早く中国との対立を求めていることを完全に認識しながら、粘り強い忍耐を保っている。
北京は、年を追うごとに米国の影響力と力が弱まり、中国の経済力と軍事力が増大すると考えている。中国が不可逆的に米国を凌駕する変曲点がやってくる。そのとき中国は、米国が国境沿いや国境内で引き起こした多くの問題を、理性的かつ建設的な方法で解決することができるだろう。北京の目標はこの変曲点に達する前に、ミャンマーのような場所で紛争に巻き込まれたり、台湾のように自国の領土を焼き払おうとする挑発行為を避けることなのである。
中国の忍耐力と自国と地域全体を発展させる能力が、すべてを台無しにし焼き払おうとするワシントンの能力を凌駕できるかどうかは、時間が経って初めて明らかになるだろう。今のところ、ワシントンが北京に対して表面的な外交的誘いをかけているにもかかわらず、何十年にもわたる北京封じ込め政策がそのまま維持され、ますます緊急性を帯びていることは明らかである。

Links:
{1} https://history.state.gov/historicaldocuments/frus1964-68v03/d189
{2} https://www.irrawaddy.com/news/burma/china-backed-pipeline-facility-damaged-in-myanmar-resistance-attack.html
{3} https://chinapower.csis.org/much-trade-transits-south-china-sea/
{4} https://www.globaltimes.cn/page/202311/1302483.shtml
{5} https://www.reuters.com/investigates/special-report/us-china-philippines-marcos/
{6} https://www.nytimes.com/2023/01/21/us/politics/taiwan-diplomat-china.html

https://journal-neo.su/2023/12/07/washingtons-obsession-with-containing-china-continues/