2025年7月3日木曜日

03- 停戦で時間稼ぎせざるをえなかったイスラエルとその支援国は新たな戦争に賭ける

 櫻井ジャーナルが掲題の記事を出しました。
 イスラエルはイランに対して国際法違反の不意打ちを掛けて、多大な人的・物質的な損害を与えました。それを容認した米国も追っかけてイランに対し宣戦布告なしの攻撃を仕掛け、核施設に大損害を与えました。
 その後イランはイスラエルに対して大々的な反撃を加え、櫻井ジャーナルによれば、経済を支えるインフラを破壊され「イラン以上に大きな痛手を被った」イスラエルは、停戦の時点でミサイルが「あと10日分程度」という状態だったということです。イランもまた大きな痛手を負っていたので、米国の身勝手な仲裁を受け入れて現在「停戦状態」にあります。
 ウクライナ戦争における「ミンスク2」同様に、この停戦を機にイスラエルが新たな対イラン戦争の準備を進めていることは間違いありません。戦争の資材さえそろえばイスラエルが戦争を止めることはありません。

 併せて櫻井ジャーナルの記事「イスラエルのイラン攻撃に協力した疑いがあるIAEAに英情報機関の工作員が潜入」を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
停戦で時間稼ぎせざるをえなかったイスラエルとその支援国は新たな戦争に賭ける
                          櫻井ジャーナル 2025.07.01
 ガザで住民虐殺を続けるイスラエルが新たな対イラン戦争の準備を始めていることは間違いなく、遠くない将来、新たな戦闘が始まる可能性が高い。それを見据えてイスラエルは「停戦」を望み、イランはそれを受け入れた。この展開を見て、ウクライナのケースを思い出す人は少なくないだろう。
 アメリカのバラク・オバマ政権は2013年11月から14年2月にかけてキエフでクーデターを実行、ビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒したものの、ヤヌコビッチの支持基盤だったウクライナの東部や南部では住民の大半がクーデター体制を拒否し、軍や治安機関ではメンバーの約7割が離脱、一部は東部の反クーデター軍へ合流したことからクーデター体制の戦力を強化しなければならなくなった。そこでドイツやフランスが仲介する形で停戦交渉が始まり、2014年には「ミンスク1」、15年には「ミンスク2」が締結されたのだ。
 同じように、イスラエルは停戦を望み、イランは同意した。今回の攻撃はイスラエル軍単独ではなく、アメリカ軍、少なくともアメリカ中央軍のマイケル・E・クリラ司令官が関与している可能性が高い。この軍人は熱烈な親イスラエル派で、アメリカとイスラエルだけでなく、アラブ首長国連邦、バーレーン、ヨルダンなどを巻き込んで連合体を作ろうとしてきたことでも知られている。

 6月13日にイスラエル軍はイランをミサイルとドローンで攻撃したのだが、その際、イランの防空システムを麻痺させ、ドローンやミサイルを発射したと言われている。この攻撃で軍の幹部や核科学者らが殺害されたが、その攻撃に使われてドローンやミサイルはイラン国内から発射されている。その攻撃にはアメリカの軍や情報機関が協力していただろう。
 この先制第一撃でイラン軍の指揮系統が麻痺、降伏するとアメリカ軍やイスラエル軍は考えたのかもしれないが、防空システムは8時間から10時間ほどで回復、死んだとされた軍の幹部の一部は生きていることが後に判明している。ドローンやミサイルはイラン国内で組み立てたようだが、その材料を持ち込ませてしまった治安当局の責任は問われるだろう。
 しかし、防空システムの能力が不十分であることは否めない。ロシア製のS-400防空システムがなかったことも大きいのだが、これはロシアが売却しなかったのではなく、イランが購入を断ったということが今回判明。シリアで有効性が証明されている短距離用防空システムのパーンツィリS1やECM(電子対抗手段)も配備されていなかったのだろう。今後、イスラエルやアメリカからの新たな攻撃に備え、こうした防空システムをロシアから入手するかもしれない

 そのイラン以上に大きな痛手を被ったのがイスラエル。ネゲブ砂漠にあり、F-15戦闘機とF-35戦闘機の大半が配備されているネバティム空軍基地をはじめとする軍事基地、あるいはイスラエル軍のアマン情報本部が破壊され、同時にモサドの本部にも命中。軍事研究の中枢であるワイツマン科学研究所も壊滅的な被害を受けた
 イスラエルでは、イランによる攻撃を受けた建造物や市街の状況を発信することが禁じられ、西側の有力メディアはそうした規制に従い、宣伝機関としての役割を果たしている。曲がりなりにも停戦が実現したことから、そうしたメディアは「アメリカとイスラエルが勝った」というイメージを広げようとしているが、撮影機能が搭載されたスマートフォンが社会に広まっている現在、路上やバルコニーから攻撃や被害の様子を撮影、発信する人を取り締まることは至難の業だ。イスラエルのあるニュースキャスターは白々しい嘘を発信したくないと考えたのか、「イスラエル国防軍の基地や私たちがまだ報道していない戦略拠点に多くのミサイルが命中した」と伝えている
 イランの攻撃はテル・アビブのほかハイファに対しても実行され、イスラエル内務省の国内軍事調整を担当する支部が入ったビルに命中しているが、イスラエル最大級の石油精製所が攻撃され、閉鎖された。そのほか空港、港、発電所、軍事生産の拠点などが狙われたドナルド・トランプ米大統領が言うように、イスラエルは甚大な被害を受けたのだ。

 イスラエルのベン・グリオン国際空港は閉鎖され、コンテナ船を扱えるふたつの港、ハイファとアシュドッドのうちハイファ港は閉鎖状態。アシュドッド港への寄港ができなくなると、イスラエルの物流は麻痺、生活必需品の深刻な不足に直面する。
 停戦の時点でイスラエルに残されたミサイルは10日分程度だったと言われていたが、それだけでなく、経済を支えるインフラの破壊も深刻な状況である。

 現在、中国のBRI(一帯一路)とロシアを中心とするユーラシア経済連合を連結させる動きがあり、それに対抗するためにアメリカをはじめとする西側諸国はIMEC(インド・中東・欧州経済回廊)プロジェクトを進めている。


イスラエルのイラン攻撃に協力した疑いがあるIAEAに英情報機関の工作員が潜入
                          櫻井ジャーナル 2025.07.03
 イスラエル軍は6月13日にイランを攻撃した。アメリカ軍と連携していた可能性は高い攻撃の口実として、IAEA(国際原子力機関)の報告書が利用されことは否定できない。報告書の作成を主導したのは同機関のラファエル・グロッシ事務局長だ。
 報告書の中にIAEAへ「申告されていない核物質を用いて秘密裏に核活動を行っていた」とする記述があり、それを根拠にして、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツは理事会に対し、イランが核不拡散義務に違反していると宣言するよう働きかけた。6月12日、ドナルド・トランプ米大統領がイランに突きつけた60日間の猶予期間が終わる日に行われた採決では賛成19カ国、反対3カ国、棄権11カ国、無投票2カ国で可決された。
 決議の翌日に攻撃、数百人の民間人のほか、少なからぬ軍の幹部、そして核科学者9名が殺されている。科学者の名前をはじめとする極秘の個人情報がIAEAからイスラエルへ伝えられていた疑いがある。

 グロッシ事務局長は6月17日、CNNのクリスチャン・アマンプール記者に対し、イランが核兵器開発に向け、組織的に取り組んでいたことを示す証拠はないと語っている。核兵器を開発している証拠はないことを承知の上でグロッシは核兵器の開発を匂わせる報告書を出したわけで、責任を問われるのは当然である。
 イランの核開発を監視するIAEAのシステムで中核を担っているのはパランティア・テクノロジーズ。その報告書は同社のAI(人工知能)によって作成されたという。
 パランティアは2003年、CIAのベンチャー・キャピタル部門であるIn-Q-Telからの資金で創設された。この年にジョージ・W・ブッシュ政権はアメリカ主導軍にイラクを先制攻撃させたが、そのイラク、そしてアフガニスタンにおける軍事作戦にパランティアは加わっている。また同社はイスラエルの情報機関とも関係が深く、共同創設者のひとりで現在会長を務めているピーター・ティールはドナルド・トランプ大統領を支持、J・D・バンス副大統領は彼の弟子的な存在だ。

 IAEAの内部にアメリカやイギリスの情報機関員が潜入していると以前から疑われていたが、そうしたことを裏付ける機密文書が出てきたインターネットメディアのグレイゾーンが入手した文書によると、潜入していたのはイギリスの対外情報機関MI6のニコラス・ラングマン
 この情報機関員は1997年8月31日にダイアナ妃がパリで交通事故で死亡する数週間前、パリに入り、ダイアナ妃の死はイギリスの情報機関によるものだという世論の憶測を逸らすための情報作戦を行ったとされ、2005年にはアテネでパキスタン人28人を拉致・拷問した罪でギリシャ当局から告発されている。
 そして2006年から08年にかけて彼はイギリス外務省のイラン局長を務め、イラン政府の核開発計画に対する「理解を深める」ためのチームを率いていたとされている。
 2010年から西側はイランに対して厳しい「制裁措置」を開始、イスラエルはイランの核科学者に対する強力な秘密作戦を強化するが、この時期、ラングマンはイギリス外務省の核拡散防止センターに勤務していた。

 この年の6月に国連安全保障理事会は決議1929を採択し、イラン革命防衛隊の資産を凍結し、海外の金融機関によるテヘランへの事務所開設を禁止。その1か月後、バラク・オバマ政権は包括的イラン制裁説明責任投資撤退法案を採択、2012年3月にEUはイランの銀行をSWIFT国際銀行ネットワークから排除することを全会一致で決定した。オバマ政権は2015年7月に包括的共同行動計画(JCPOA)を締結、その条項に基づき、イランは制裁解除と引き換えに核研究活動を制限することに同意している。

 イスラエルがイランを攻撃する直前、イランの当局者はイスラエルの機密文書を押収したと発表、その中にはイスラエル占領下のプロジェクトと核施設に関する数千点の文書が含まれ、イラン側によると、グロッシ事務局長とイスラエルとの連携を示す情報が存在することも判明したという。