2025年11月3日月曜日

西側の重大な戦略的失敗(賀茂川耕助氏)

 耕助のブログに掲題の記事が載りました。
 西側諸国はこれまで世界において覇権を奮って来ました。しかしそれを今後も維持できるという保証はなく、むしろ失ってゆく一方と見られます。覇権の源は技術的優位性に基づくもので、その大部分は米国が国内の大学や研究所で軍事関連研究に投じた膨大な支出から直接的・間接的に生まれたものでした。
 西側の民間企業は利益最大化すべく、実際の製造労働コストがはるかに安い中国などの国々に外注することでり大きな利益を得てきました。中国はその製造 雇用の大部分を引き受けるなかで、製品やサービスに内在する知的財産を吸収し改良を加えていきました。
 この長期的視野で考える特性は4000年の中国文明に起因するもので、科学的革新に基づく文明の利器の多くが膨大な量の希少金属を必要とすることを認識した結果、1970年代末~1980年代初頭にかけて「レアアースが戦略的資産になる」と認識し、これらの金属の採掘と精製を拡大し始め、ついに現在 世界のレアアース精製能力の85%から90%を掌握するに至ったのでした(占有率はもっと高いというデータもあります)
 ここに至らせたのは米国による重大な戦略的失敗であって、世界の12%の人たちが残りの88%の人々を支配するという「西側支配」の終焉がついに始まったのでした。
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西側の重大な戦略的失敗
                  耕助のブログNo.2700 2025年10月30日
    The West’s crucial strategic failures  by Les MacDonald
  地球には、自分たちは永遠だと信じていた帝国の廃墟が散らばっている。
                             – カミーユ・パリア
西側諸国は、その覇権を今後も維持できるかどうかについてますます焦りを見せている。西側の覇権は技術的優位性に基づいていた。多くの技術において優位性があり、その大部分は米国が国内の大学や研究所で軍事関連研究に投じた膨大な支出から直接的・間接的に生まれたものだ。こうした支出は、民間セクターが短期利益を生み出せないため資金提供しない長期開発事業に充てるべく、米国のエリート層によって設計されたものである。コンピュータ、スマートフォン、太陽光発電、風力タービン、宇宙旅行、先進通信技術、電気自動車、原子力技術、AI、半導体、遺伝子技術、そしてそれに基づく医薬分野の進歩――これらが今世紀初頭まで米国が主導権を握っていた主要領域である。

我々は過去40年間、新自由主義経済思想を採用してきた。これは民間部門の優位性を前提とし、公共部門は民間部門の起業家精神や効率性に追随できないと主張するものだ。この思想は、公共部門が担うべき役割を意図的に無視してきた。つまり、これらの分野における米国の成功の基盤となる、莫大な費用と長期にわたる研究開発支出を公共部門が担うべきだという役割である。
それらの技術の大部分は、西側諸国の公的資金による大学や研究機関で開発された。開発後は、基本的に無償か、あるいは低廉なコストで民間セクターに譲渡され、彼らが利益を得る仕組みだった。支配的なイデオロギーはこの現実を完全に無視し、公的資金による科学研究から生まれた多様な消費財を民間セクターが搾取する点にのみ焦点を当てたのである。

西側の民間企業は、利益の最大化というイデオロギーに駆られ、実際の製造を労働コストがはるかに安い国々にオフショアリングすることでより低コストで消費財を製造・販売し、より大きな利益を得られると判断した。中国はこの短期的な利益追求思考に潜む機会を見出し、その製造 雇用の大部分を引き受けたのである。その過程で、製品やサービスに内在する知的財産を吸収し、さらに改良を加えていった
中国人が長期的に考える傾向は、4000年にわたる組織化された中国文明から生まれた。彼らは未来を見据え、この製造技術から生まれた生活水準の向上を確固たるものとする長期戦略を構築したのだ。しかし、地政学的に重要なのは、これらの科学的ブレークスルー⇒革新)の多くが、完成品やサービスに実装するために保証された成長する希少金属の供給を必要とするという認識である。

通信、宇宙探査、衛星、ロケット技術その他の軍事応用、コンピュータ、電気自動車、太陽光発電、風力タービン、量子コンピュータ、AI、その他数多くの技術は、レアアースに決定的に依存しており、しかも膨大な量を必要とする。1970年代末から1980年代初頭にかけて、中国はレアアースを戦略的資産と認識し、これらの金属の採掘と精製を拡大し始めた。これは、欧米諸国がこれらの鉱物の使用動向を予測し始めた時期よりもはるかに前のことだった。
その結果、中国は現在、世界のレアアース精製能力85%から90%を掌握している。これは高コストで複雑な製造プロセスであり、開発・構築に数年を要する技術と機械を必要とする。また、世界的に確認されている採掘可能埋蔵量の34%を保有している。中国はBRICS同盟の創設メンバーでもあるため、この同盟には他の加盟国も参加している。これらの国々が共同で既知の世界埋蔵量の70~80%を支配している。実際の現在の採掘生産量では、中国が世界総量の70%を占める。重希土類の精製分野ではさらに支配的であり、これらの重要金属の精製量の99.9%を支配している。高強度鋼、半導体、リチウムイオン電池、極超音速兵器の生産に不可欠なニオブはその良い例である。

このレアアース産業を採掘から加工まで支配する国は、次世代技術に対する驚異的な支配力を得ると同時に、自国の先端産業がこれらの技術を利用できるかどうかの決定権も握る。中国は、トランプが狂気の関税戦争政策を実施するまでは、これらの供給を望むいかなる国にも精製製品を供給する意思があった。その意思は、「アメリカを再び偉大にする」と称される関税政策によって強要された地政学的現実の犠牲となった。
中国は、米国が兵器やその他の軍事装備に使用する目的でのレアアース供給を制限しているが、民生用途での供給は継続している。もし米国がこの貿易制限を拡大し、中国に対する軍事行動の可能性まで示せば、これらの鉱物の供給も完全に遮断される可能性がある。それは米国産業にとって壊滅的だが、さらに重要なのは米軍にとって壊滅的だという点だ。原子力艦艇(潜水艦を含む)や弾道ミサイル・その他のミサイルは、効果的に機能するために大量のレアアースを必要とする。戦車、自走砲、ドローンその他の無人航空機など、他の広範な米軍装備も同様だ。この支配が持つ地政学的な重要性は、米国や英国といった国家が他国に対して数十もの侵略戦争を遂行する能力に根本的な変化をもたらしている点にある。こうした戦争は、西側諸国が人類の支配を維持し続けるための決定的な手段であった。現代のハイテク戦場兵器には、大量のレアアースへのアクセスがますます不可欠となっているのだ。

つまり今後少なくとも5年から10年間、中国はこれらの金属の供給を停止するだけで、西側の戦争遂行能力を麻痺させたり大幅に低下させたりすることができる。米国は(トランプが国防総省を戦争省と改称したことからも明らかなように)侵略と戦争遂行を国際支配の主要な手段としてきた。中国のレアアース支配は、長期紛争におけるこの戦略を大きく阻害している。インドのモディ首相も、レアアース採掘・精製における優位性をさらに強化するため、BRICS諸国による重要鉱物同盟の構築を提案している。これはより戦略的で長期的視野を持つ公共部門よりも短期利益を追求する民間部門を経済的に優先させる新自由主義経済に傾倒した西側諸国の完全な戦略的失敗である。
このイデオロギー的傾向はまた、欧米がウクライナに供給する武器の製造を民間企業に委ねた原因でもある。それらの武器のコストと、その製造における短期利益優先のアプローチは、ロシアの国家管理下の兵器庫が自国軍に必要な武器を供給する能力に全く及ばない

米国の第二の戦略的失敗は、国際通貨・貿易システムに対する従来の支配力を、米国が何らかの形で戦争状態にある国々を長期にわたり支配する武器として利用できるという幼稚な信念にある。BRICSプラスとその他のグローバル・サウス諸国は今、ドルによる国際決済の独占的支配を断固として排除する動きを見せている。国際準備資産におけるドルの割合と、国際貿易債務決済におけるドルの使用は急激な減少期に入った。
BRICSは貴金属取引所を設立中であり、これは西側諸国が支配する取引所とは完全に分離・独立したもので、金、プラチナ、ダイヤモンドを取引する。BRICS諸国は世界中央銀行の金保有量の22%を保有しており、この割合は自国通貨での取引拡大と米ドル回避の進展に伴い継続的に増加している。この方向性は、米国と欧州が国際中央銀行制度を支配する立場を利用して、他国の金や通貨保有を没収し、場合によっては強奪して政権転覆を図る傾向によって推進されている。

BRICS諸国間の貿易の68%は既にドルシステム以外で行われている。これにより各国は、米国や西側諸国による金融制裁という違法な強制から急速に脱却しつつある。こうした動きは地政学における権力の根本的な再分配と、米国による重大な戦略的失敗を意味し、世界の残り88%の人々に対する西側支配の終焉の始まりを示している。
https://johnmenadue.com/post/2025/10/the-wests-crucial-strategic-failures