2025年11月1日土曜日

中国の台湾計画は、あなたの考えているものとは違う(賀茂川耕助氏)

 海外の記事を紹介する耕助のブログに掲題の記事が載りました。
 米国政府が2018年に 中国に対決を挑むと宣言したときは、米国が半導体分野で絶対的な優位性を持ってました。ところが中国の海岸から100マイル離れた場所に、突如として最高の半導体企業(TSMC)が現れ、台湾が地政学的にかつてない重要性を帯びてきました。
 米国がアフガニスタンからの撤退(21年8月に完了)を決めた時、バイデンはTVのインタビューの中で突然、「米国がアフガンから撤退したからと言って、もし中国が台湾を侵略できると思い込むなら、米国は台湾を守る」と述べました。
 これはそれまでの政策から大きく逸脱したものでしたが、彼は二度もその言葉を繰り返したため中国が激怒しました。台湾は中国の領土であり、バイデンの発言は内政干渉そのものですから当然です。そもそも中国には台湾進攻という構想はありません。
 イラク戦争に引き続きアフガニスタンでも大きな汚名を残したことで、バイデンとしては年間1兆ドルもの軍事予算を正当化する必要があったため、「中国が台湾を侵略しようとしている」と言うしかなかったのでした。要するに降って湧いたような「台湾有事」は、偏に米国側の事情で「作り上げられた」ものでした。それなのに近々中国が台湾を攻めるなどと単純に信じ込むのは愚かすぎます。
 中国は18年と21年に米国の挑発に屈しましたが、この間に着々と準備を進めていて25年にトランプが復帰し再び中国を圧迫しようとした時には、「米国が半導体に禁輸措置を取るなら 中国はレアアースに禁輸措置を取る。磁石に禁輸措置を取る。中国に関税をかけるなら米国にも関税をかける」と反撃して、逆に米国を屈服させました。
 レアアースが入手できなくなるとミサイル、ジェットエンジン、航空機、高性能モーター、電子機器、レーザー誘導装置など、殆どあらゆる兵器の製造が止まってしまうからでした。経済的に弱体化した上に兵器の供給がストップすれば、もはや「軍事力世界一」の座に留まることは出来ません。(文中の太字部分は原文に拠っています)
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中国の台湾計画は、あなたの考えているものとは違う
                 耕助のブログNo.2701 2025年10月31日
     China’s Taiwan Plan, It’s Not What You Think
                 by Louis-Vincent Gave, Thinkers Forum
2025年、再びトランプ大統領が就任して中国を殴ると、中国はこう言い返した。「よし、やりたいのか? なら手加減なしだ。やってみろ」。最初に断っておくが中国がすぐに台湾を侵略するわけではない。第一に、それをやり遂げられるか、彼らは確信が持てないからだ。ロシアのウクライナ侵攻で見て取れるように、他国を侵略するのは困難な事業である。ウクライナを侵略しようとする場合、本質的にそれは小麦畑やトウモロコシ畑を戦車で横断することだが、台湾侵攻は100マイル以上の海を渡る必要があり、しかも非常に危険な海域だ。だから可能性としてはるかに大規模な作戦になるだろう。これが最初のハードルだ。

次に台湾の政治情勢だ。台湾も他の国と同様分裂している。左派の民主進歩党(民進党)は独立派が強い。右派の国民党は親ビジネスで中国寄りの傾向がある。残りは流動的で、今は独立派の民進党が政権を握っているが支持率は20%台で、これほど低いのは初めてだ。だから中国側は次の選挙まで2年半待てばいいだけだ。おそらく民進党は壊滅するだろう。文字通り地球上から消えるかもしれない。民進党が生き残る唯一の方法は中国が威嚇を始めた時だ。そうすれば人々は民進党に回帰するだろう。だから今、中国から台湾への威嚇の声は聞こえてこない。国民党が権力に復帰するまで辛抱強く待つのだ。それから小切手帳を開け、数々の取引を結び、中国と台湾を経済的に結びつける

視聴者には台湾問題をネット検索することを勧める。米国のメディアで「台湾戦争」と検索して分かるのは、長い間誰も気にしていなかったこの問題が話題になり始めたのが2021年だということだ。
2020年から21年にかけて2つのことが起きた。まず、TSMC台湾の半導体製造企業がインテルを追い抜いた。TSMCが、5ナノメートルチップをインテルにはできない方法で量産できるようになったのだ。2021年まではTSMCの時価総額はインテルの約3分の1だった。それが今日ではインテルの10倍以上である。TSMCは2021年を境に世界トップの半導体メーカーとなったのである。

2018年、米国政府は中国に対決を挑むと宣言した。戦いの戦場は半導体だった。なぜなら米国は、半導体分野で最大の比較優位性を持っているからだ。そこで中国を打ち負かせる。ところが中国の海岸から100マイル離れた場所に、突如として最高の半導体企業が現れたのだ。これで米国は「ちくしょう、最高の半導体企業はもはやインテルじゃない。もはや米国には存在しない。あっちだ」ということに気がついた。このため突然、台湾が地政学的にかつてない重要性を帯びてきた。これが第一点だ。
第二点は、率直に言うと、これは少し物議を醸すかもしれないがGoogleの検索キーワードを見れば明白だ。米国がアフガニスタンからの撤退を決めた時、その撤退は完全にカオスだった。バイデンは「60ミニッツ」の番組に出演し、その混乱を正当化しようとしたが、そのインタビューの中で突然こう言ったのだ。「米国がアフガンから撤退したからと言って、もし中国が台湾を侵略できると思い込むなら、米国は台湾を守る」。これはそれまでの政策から大きく逸脱したものだった。これまでの米国の政策は戦略的に曖昧なものだった。つまり「台湾を守る」とは明言しなかった。しかし彼は二度もその言葉を繰り返したため、中国が激怒した。それまでの米国政策からの転換だからだ。ちょうどこの時期、ペロシが台湾訪問を決断する。これは米国政治家として史上最高位の台湾訪問だった。こうした動きが中国を逆上させた。それまで存在していた穏やかな現状維持の合意を揺るがしたからだ。その後、事態は沈静化しているが、この時期を経て、個人的には疑問に思う。なぜアメリカは台湾を戦場に投入したのか?半導体問題か?それともイラクで大きな打撃を受けアフガニスタンでも大きな汚名を残した後、年間1兆ドルもの軍事予算を正当化する必要があったからか。一度も戦争に勝てないという事実を正当化する最良の方法は「ほら、中国が台湾を侵略しようとしている。我々は次の空母を建造する必要がある。もっとF-35が必要だ、万が一のために」と言うことだろう。こうした要因が複合的に作用して、この状況が生まれたのだ

今我々ははるかに健全な環境にいる。そして健全な環境にあるのは、2018年に米国が中国を殴り、中国はその一撃を受けたからだ。2021年、米国が再び中国を殴り、中国は再びその一撃を受けた。しかしこの間、中国は準備を進めていた2025年、トランプが復帰し、再び中国を殴った。そしてこの時、中国は言った。「よし、やりたいのか? 構わない。やろうじゃないか。米国が半導体に禁輸措置を取るなら、中国はレアアースに禁輸措置を取る。磁石に禁輸措置を取る。中国に関税をかけるなら、米国にも関税をかける」と。中国だけがトランプに反撃したのである。ご存じの通りEUは打撃を受けた。カナダ、メキシコ、彼らはパンチを受けた。インド、ブラジル、皆パンチを受けた。しかし中国は反撃した。そして、この反撃の中で米国は、待てよ、磁石なしではどうなる?と気づいたのだ。2週間後、GMの工場は閉鎖される。レイセオンとロッキード・マーティンは「1か月後には、イスラエルに武器を供給できなくなる」と警告している。ミサイルも供給できなくなる。在庫が底をつき、レアアースがなければ生産できないからだ。そうして突然、米国は、確かに中国は米国に対して脆弱だが米国も実際には中国に対して脆弱であることに気づいたのである。
こうして不安定な現状が生まれた。過去4か月間を見ると、突然、米国は台湾について話さなくなった。繰り返すが、Googleで検索してみるといい。話題から消えた。メディアの風景から消えたのは米中間が休戦状態に達したからだと思う。米国は中国を強く押しすぎると、実は自国に大きな損害となって返ってくることに気づいたのだ。米国がミサイルを生産できない国になったら、それはまだ米国と言えるだろうか?

だから台湾問題で今噂されていることや取引は、話半分に聞いていた方がいい。国民党が政権に復帰した時にというが、それが成立するには国民党が議会の3分の2の議席を必要とする。なぜなら議会の3分の2がなければ何も変更できないからだ。だから実現しないかもしれない。なので、今後50年間は、台湾は現状維持が継続する。その後50年間は香港のような「一国二制度」を実施する。通貨も議会も維持できる。軍隊も警察も維持できる。つまり、お前らはお前ららしくやればいい。だが中国が国際的な代表となる。だから旅先でパスポートを紛失しても中国領事館に行けばいい。国連などでも中国が代表する。中国は台湾に軍事レーダーを設置できる、などだ。これで100年が経過する頃には、完全な統合が行われる。その頃には中国がどうなっているか誰にもわからない。この「一国二制度」の合意を結んだ者たちは、皆とっくにこの世を去っているだろう。

この合意は第一に緊張を緩和する。次に、この合意により台湾はGDPの3.5~4%を米国から武器を購入する防衛費として支出する必要がなくなる。つまり即座に資金が解放されるが、最も重要なのは、全ての企業にとって不確実性が減るということだ。こうして投資の波が解き放たれ、市場の再評価が起こる。例えば今日のNvidia⇒米国の半導体企業)を見れば、時価総額は4.5兆ドル、いや4.3兆ドルだ。TSMCは1.3兆~1.4兆ドルだ。今やNvidiaはTSMCなしでは生きられない。だがTSMCはNvidiaなしでも生きられるTSMCこそが世界で最も価値あるテクノロジー企業だと思う。なぜなら彼らは間違いなく他を一歩リードしているからだ。TSMCがやっていることは、他社が真似できない。だが投資家の半数は保有を避けている。なぜなら「もし明日中国が台湾を侵略したら、TSMCは跡形もなく消え、1.5兆ドルの時価総額が一夜でゼロになる」という懸念があるからだ。このリスクを除けば、1.5兆ドルはおそらく3兆ドル、4兆ドルに膨らむだろう。

昨年1月に会った時、皆が「中国が台湾を侵略するから、中国には投資できない」と言っていた。そこで私は、「わかった、それで?あなたはNvidiaの株を持っているのか?ブロードコムの株を持ってるか?テスラの株は?アップルの株は?」と聞いた。するとみんなは「もちろん持ってるよ」と言った。私はこう言った。「なるほど、素晴らしい。じゃあ、中国が台湾を侵略しようとしてるって言うのか?中国が台湾を侵略したら、Nvidiaの価値は?ゼロだろ?」と。Nvidiaはチップを生産できなくなる。中国が台湾を侵略したら、Nvidiaは事実上終わりだ。

はっきり言っておくが、私は中国が台湾を侵略しようとしているとは思っていない。だが人々のポートフォリオ⇒所有株式銘柄の組み合わせ)にはある種の矛盾がある。台湾問題のせいで、中国は投資対象にならないといいながら、もう一方ではもしそんなことが起きたら完全に壊滅する株をたくさん持っているのだから。
https://www.youtube.com/watch?v=s7zcJ7wHCCw