2018年6月29日金曜日

29- 室井佑月が元官僚の古賀茂明氏に聞く(後編)

 元官僚の古賀茂明氏との対談の後編です。
 後編は、
「安倍首相の怖さは、残虐性、非人間性、執拗性。これらをすべて持っていて、それが徹底している。『こいつは!』と思ったら、辞めたからそれで終わりじゃないんです。辞めたあとも徹底的にやってくる」
 そんな話から始まります。
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室井佑月の連載対談「アベを倒したい!」第10回ゲスト 古賀茂明(後編)
古賀茂明が室井佑月に語った「安倍首相は残虐」の意味、
そして加計疑惑の決定的な問題とは?
LITERA 2018.06.28
 室井佑月対談連載「アベを倒したい」。古賀茂明氏を招いての前編は、安倍首相をかばう官僚たちの習性について突っ込んだ議論が交わされたが、最後に、古賀氏が口にしたのが「安倍さんはものすごく怖い人なんです」「執念深くて残虐」という言葉だった。後編ではその発言をきっかけに、古賀氏自身が受けた“報道圧力”や、安倍首相の官僚・メディア支配、さらには加計疑惑の本質までが次々暴かれていく。そこから浮かび上がってきたのは、想像以上に異様で卑劣な安倍首相の政治手法だった。
  なぜ、モリカケのようなとんでもない疑惑が浮上しても安倍首相の支持率は落ちないのか。シビアな現実にも踏み込んだこの対談をぜひ、最後まで読んでほしい。 (編集部)
 
●安倍の攻撃は官僚を辞めてからも続く! 古賀茂明が語った報ステ降板の真相
 
室井 安倍首相が「安倍さんはものすごく怖い人なんです」「執念深くて残虐」っておっしゃいましたけど、具体的にはどういうことなんですか?
古賀 残虐性、非人間性、執拗性。これらをすべて持っていて、それが徹底している。「こいつは!」と思ったら、辞めたからそれで終わりじゃないんです。辞めたあとも徹底的にやってくる。たとえば、前川さん(喜平・前文科省事務次官)のように、人格攻撃もやるし、講演にも横槍を入れる。僕も講演は最初はいっぱいあったけど、なくなっちゃった。そういうことをされるのが見えているし、多くの官僚にとってそれは恐怖でしかない。
室井 安倍さんに目をつけられるとそんなに怖いんだ。でも安倍さんに目をつけられた古賀さんは、ある意味一目置かれているということでもあるかもね。
古賀 安倍政権を批判している人はたくさんいるけど、その中で「こいつは抑えておかないとやばいな」と思われたら、徹底的にやられる。そういう意味では室井さんも覚悟したほうがいいかも(笑)。
室井 やだよ! あたしは普通のおばさんなんだから。それに作家、コメンテーターとしては権力をチェックして批判するのって当然のことだし、特殊なことをしているつもりはないんです。安倍さんや自民党の批判もするけど、民主党政権の時は民主党も批判した。でも確かに安倍さんはこれまでの首相、権力者の中でも怖いっていうのは実感しているけど。でも安倍さんって、第一次政権のときは残虐性はそんなに感じなかったと思うんです。第二次政権になってからすごく怖くなったと。
古賀 第一次安倍政権では、自分のお腹が痛くなって辞めたわだけど、でも安倍さんはそうは思っていない。「マスコミにやられた」と思っているんです。だから下野時代に「今度政権についたら、まずマスコミを抑える」と執念深く考えていたのでしょう。だから本気で批判してくるメディアやジャーナリストは自分にとって一番危ない“敵”とさえ思っているんです。
室井 だからか。朝日新聞に対する恨みは尋常じゃない。
古賀 そしてマスコミを抑える方法として、ひとつは見せしめ的に目立っていてかつ強いやつをやる。もちろん直接的な圧力では絶対にやらないで、干すんです。『報ステ』の出演者など格好のターゲットでしょう。僕の前にも浜矩子さんが降板した一件があったのですがこれも典型だと思っています。あまり騒ぎにならなかったし、浜さん自身もそういう意識がないかもしれませんが、でも、僕が聞いている話では、テレビ朝日の上層部が官邸を忖度して「報ステなんとかしろ」「浜か古賀、どちらかをあきらめと」という圧力がかかったということです。そう言えば、古舘伊知郎さんはいつも「古賀さんと浜さん、どっちも変え難い人たちなんですよね……」と言ってましたね。
室井 古賀さんがまさかここまで歯向かうとは思っていなかっただろうしね。
古賀 僕自身もそんなに歯向かうつもりはなかった(苦笑)。そもそも僕の名が知られるようになったのは民主党政権時代です。現職官僚として参議院予算委員会に呼ばれて、総理(菅直人)や仙谷由人さん、全閣僚がいる前で、小野次郎というみんなの党の議員が、「古賀さん、最近の民主党の公務員改革、天下りの政策はどう思いますか?」と訊かれたので、僕は思いきり、「民主党になってから、天下り規制の緩和措置が堰を切ったように実施されている」と批判しちゃったんですよ。そうしたら仙谷さんら閣僚はみんな頭に来て。でもその当時はすでに、大臣官房付という個室に入れられて仕事を干されていた。その理由は財務省なんです。民主党政権が発足した際、仙谷さんから「補佐官になってくれ」と打診があった。それで「行政刷新」について改革メニューを渡すなど打ち合わせもしていた。しかしその話が全部チャラになってしまった。仙谷さんは何も言わなかったけど、その後当時の松井孝治官房副長官に訊いたら、その直前に財務省が仙谷さんのところにきて「古賀は絶対に使うな」と止めたと言うんです。
 
安倍首相の霞ヶ関恐怖支配は内閣法制局長官人事から始まった
 
室井 財務省が経産省の人事にまで介入するの!? 
古賀 財務省は閣僚より強い。仙谷さんは財務を敵に回したら民主党政権は潰れると思ったんでしょうね。政治主導とは言っても官僚、特に財務省は強い。その強い官僚を震え上がらせたのが安倍さんです。安倍政権以外では、そういう政権はなかったと思います。
室井 でも官僚が「本当にこいつはヤバい」と思って省庁の枠をとっぱらって連合を組んだら、安倍さんにだって絶対勝てるでしょう?
古賀 いや。総理は強いんです。さきほども安倍さんの特異性は執念深くて残虐なことにあると言いましたが、その最大のあらわれが人事です。内閣人事局ができて官僚人事を官邸が握った弊害が指摘されていますが、しかし実はまったく関係ない。そもそも1年生のペーペー官僚の人事権まで大臣がもっている。でも大臣が全職員の人事を見るなんてできないから、役所が決めた人事が大筋通るんですが、しかし安倍さんは違う。細かいところまで見ているんです。たとえば人事検討会議というのがあり、官房副長官のもと各省から幹部人事をチェックしますが、これまではよほどのことがない限り変更はなかった。しかし安倍さんになってからは違った。内閣人事局ができる前から、好き勝手をやり始めました。一番すごかったのが、内閣法制局長官人事です。歴代長官が、集団的自衛権は憲法違反であると、当然のことを主張していたのですが、安倍さんは、それなら、法制局のトップを代えてしまえと考えたんですね。そこで、解釈改憲で集団的自衛権行使を容認できると言っていた外務官僚の小松一郎氏を抜擢した。安倍さんと仲が良くて「違憲じゃありません」と言ってくれる人を持ってきたんです。慣例では内閣法制局次長の横畠裕介氏が昇格するはずだったんですが、これはかなり異例、というか、官僚たちから見れば、「とんでもない」ことであり、衝撃でした。
室井 集団的自衛権はほとんどの専門家が「違憲」と言ってたのに、それを覆すために、子飼いの官僚を登用したってことか。やっぱり安倍ちゃんは、加計幸太郎理事長だけでなく、自分の意のままになる子分と、お友だちばっかりを優遇しているんだな。
古賀 日本中の官僚も、ほぼ99.9%は集団的自衛権は違憲だと思っていますよ。とくに法律専門の人は東大法学部を出ているわけですけど、東大法学部の教授はみんな、「集団的自衛権は違憲です」と教えている。法制局長官も法律の専門家の中の専門家だから、頑なに「違憲です」と言ってきた。さらにその後、小松さんの体調が悪くなると、今度は横畠さんを登用したんですが、安倍さんの怖さを思い知らされていた横畠さんは、安保法制などで安倍政権の意向に沿った判断を下すようになった。
室井 安倍さんって異常。権力の私物化って言うけど、これまでの首相も私物化しようと思えばできたけど、それは国のためにならないとか、恥ずかしいことだと知っていたわけですよね。独裁は国を滅ぼすって。でも安倍さんにはそうした考えがない。しかも羞恥心もない。自分にとっての勝ち負け、敵味方だけを考えて、そのためにはなんでもやる。平気で嘘をついてね。安倍さんの体には、事実を認めたり、謝罪すると爆発する装置でも埋めこまれてるのかと思うくらい。
古賀 いや彼の発想は、勝つか負けるかなんて甘いものじゃない。自分が生きるか死ぬか。それは、相手を生かすか、殺すかという意味ですよね。自分に歯向かってくるやつは、「自分を殺そうとしている」という発想です。「こいつは放っておくと俺を殺す。それなら先に殺してしまえ」と。
室井 ゲームの「コールオブデューティ」みたい(笑)。戦国時代のお話にも聞こえる。
古賀 まさにそういう感覚だと思いますよ。だから、自分にとって危ない存在だと思ったら徹底的に潰す。
 
古賀茂明「加計学園問題はまだ、安倍首相の致命傷になる可能性がある」
 
室井 そんな危ない人なのに、どうして周りの人がそれに乗っているのか不思議。潰されるなら、その前に潰しておけばよかったのに。
古賀 まさか安倍さんにそんなに実力があると思わなかったんでしょう。最初は「バカなぼんぼんが」とみんな甘く見ていたから。それとお金はあるんでしょうね。自民党は今、数が多いでしょう。だから、政党助成金だけでもめちゃめちゃ増えた。使えるお金が多いんです。
室井 スポンサーもいっぱいいるっていいますよね、アパホテルとか。あと加計さんも。加計さんが酒席で「1年に1億かかるんだよ、安倍と付き合うと」と言っていたとか、安倍さんのほうも「加計さんは俺のビッグスポンサーなんだよ。学校経営者では一番の資産家」だと話してた、って「週刊文春」(2017年4月27日号)とかに書いてありました。
古賀 そこに大きな鍵がある。安倍さんがなぜあれだけ加計さんをかばうのか。2017年1月20日まで獣医学部新設構想を知らなかったという説明に途中から切り替えましたよね。「すみません。私いろいろ混乱して間違えたんです」とわざわざ前置きして、それまでの答弁を修正してまで「1月20日に初めて知った」と言い換えた。それはなぜかというと、収賄の問題が出て来るからなんです。安倍さんは総理大臣であり、すべてに職権、権力があるんですが、だからと言って、何でもかんでも安倍さんが具体的に決めている訳じゃない。収賄罪は、「職務に関し、賄賂を収受」したらアウトです。加計さんから年1億円ももらっていたとしたら、それが、“職務に関して”なら収賄罪になる可能性が出て来る。裁判では、「職務に関し」というのがいつも議論になりますが、国家戦略特区は、議長が総理だから、まさに安倍さんに“具体的な権限”があるということになり、これはどうやっても言い逃れできない。もちろん、加計さんが特区に申請しているのを知らなければ、賄賂だという認識がなかったことになりますが、知っていて、その間ゴルフに行ったり会食したり、いろいろな形で年1億円とか贈与されていたとなれば、普通に考えたらアウトでしょう。収賄はそれによって不正行為があったかどうかは関係ない。職務に関連してお金をもらってしまったらアウトなんです。お金を貰った結果、もし何もしなかったとしてもダメ。これは安倍さんにとって、致命傷になり得るし、かなり危ない。
室井 そうなんだ。だから必死であんな不自然な答弁を続けたのか。しかも愛媛県の担当者の記録では、それ以前に安倍さんと加計さんが会っていて「獣医大学の考え、いいね」と言っていたというのに、加計側は面会じたいが嘘だったと謝罪までしたしね。いろんな人の多くの嘘の影に収賄が隠れていたのか。大変な犯罪。これで倒せるじゃないですか!
古賀 でも忖度マスコミはそんなこと本気で追及しないんです。
室井 “腹心の友もとい”爆心の友”の加計さんは、籠池さんと違って今のところ裏切りそうにないしね。でももし寝返られたら安倍さん、犯罪者になっちゃうんだ。それじゃあ、必死になるな。
古賀 加計さんのほうも贈賄になる可能性がありますから、仮にやってても裏切ることはないでしょうね。
 
古賀「アベノミクスは中身が何もない」室井「大企業を儲けさせているだけ」
 
室井 安倍さんがいつも自慢してる経済については、古賀さんから見てどうなんでしょう。
古賀 安倍さんがやっているアベノミクスは中身が何もない。たとえば第1の矢は「異次元の金融緩和」で、円を大量にばらまいて金利を下げるという作戦です。これで建前上は金利が下がり、いま投資したほうがお得だと思わせて、みんなが借金して新しい工場を作ったりして、景気が良くなり雇用も増える、という建前です。だけど実際には、「日本に工場なんか作ってもダメだよな」とみんな思ってるから、それができない。でもいいことはひとつだけあって、円安になること。円の金利は低いから、みんなが「円を買うよりドルのほうがいいだろう」となり、ドルやユーロが高くなる。民主党の最後あたりは、1ドル80円の円高で大変だったのが、安倍政権で120円以上の円安になり、今は110円くらいでしょう。でも、これは、世界から見ると、日本人全体が貧乏になっているということなんですよね。だって、時給800円が、1ドル80円なら10ドルだけど、120円なら6.7ドルっていうことだから。
室井 わたしがもっている貯金が目減りする、ということですもんね。
古賀 加えて安倍政権はデフレ脱却のために物価を上げようとしている。物価が毎年上がるということにしておかないと、「来年は物価が下がる」となるとみんながいま物を買わなくなるから。「来年上がるんだぞ。早く買ったほうがいいぞ」と買うように仕向けるというね。変な発想です。結局それは、借金をしている人が得になる。お金の価値が毎年目減りするから。貯金をしている普通の庶民が、200万円貯金した場合、インフレになって毎年 2、3%目減りするということです。1億円借金している企業や、一千兆円借金しているような国は、その分借金の価値が小さくなる。知らないうちに、一般庶民が損をして企業や国が得する政策なんです。しかも円安で、輸出企業は何もしなくても利益が何倍にもなる。毎年トヨタみたいな輸出大企業が「史上最高益更新」とか言っているでしょう。それにはこうしたカラクリがある。
室井 だから大企業の社長たちの安倍政権支持率は70%以上なのか。
古賀 法人税下げてくれましたしね(笑)。
室井 でも怖くないですか。安倍政権って普通の人を窮地に陥れて、大企業や富裕層を大儲けさせているんだから。なのに、モリカケ問題もあったのに、支持率は思っていたほど下がらない。国民は本当に騙されてる。
古賀 絶対的右翼というか、タカ派路線をすごく支持している、何がなんでも安倍支持という人が支持者のなかで4分の1くらい。あとは、雰囲気で「安倍さんになって景気がよくなった」という支持層も多い。今年大学を卒業した人の98%が就職したというニュースとかを見て支持する人もいるでしょう。一方で、「アベ大嫌い」という人がいる。安保法制や原発でダメという人は、何があっても変わらないわけです。一方で、「安倍さんのタカ派なところが好きです」という人も変わらない。だから中間層が安倍政権をどのくらい支持するかどうかで、現在の政権の将来が決まると思います。
 
室井佑月が古賀茂明に「応援しますから、選挙に出て!」
 
室井 でも、その中間層がいまも支持してるわけでしょう。あんな嘘つきなのに。
古賀 嘘をついても景気が良くなったほうがいい、という人がたくさんいるんです。
室井 景気が良くなっても時給があがっても私は嫌い。っていうか、原稿料とか全然あがってないし。
古賀 僕はアベさん別に嫌いじゃないですよ(笑)。そもそも、僕は嫌いな人自体、あまりいないです。安倍さんはあまり好きじゃないけど、安倍さんが「古賀さん仲良くしましょう」と言ったら、「じゃあ土下座してくれ」とちゃんと言えるよ。土下座したらハグします(笑)。
室井 土下座するような男じゃないわけでしょう。殺されるよ!
古賀 まあ、それは冗談ですけど。確かに室井さんが先ほど言ったように、安倍さんは謝れないから困るんです。日本の外交はこれから本当に大変です。中国にも韓国にも北朝鮮にも謝れない。もし北朝鮮問題が解決して、中国と韓国、北朝鮮が一緒になって「安倍さん、太平洋戦争って間違いでしたよね」と責められたら、安倍さんは思考停止して固まってしまうと思うんです。それで官僚が一生懸命根回しして、「その話言わないでくれたら一兆円出します」とかやる。もし僕が総理だったらいちばん最初に韓国や北朝鮮や中国に、「本当にすみませんでした! あの安倍って人はちょっとおかしくて、あれ違います! 日本国民は戦争なんか大嫌いです。朝鮮を植民地にしたり、太平洋戦争で本当にひどいことをしたし、自分たちもひどい目にもあったから。だから憲法9条があるんです。信じてください! 土下座? いくらでもしますよ」とか言って仲良くしましょうとやりますけどね。
室井 そういう人のほうが本当に強いリーダーだと思います。古賀さん応援しますから、選挙に出て! 選挙のたびに名前が上がっているでしょ。都知事選のときも、今度の新潟知事選も。
古賀 いやいや(苦笑)。それは勘弁してください。僕のスローガンは、「改革はするけど戦争はしない」なんです。なぜそれを言う人がいないんですかね。「改革する」というと、みんな「嫌だ」となる。「改革したら僕たちは取り残されちゃう」と。実は、安倍さんさえ倒れればいいと思っている人がいるけど、その後にまた石破さんになっても意味がない。安倍さんよりタカ派ですからね。ですから安倍さんが代わってもらったあとの政策が大事ですよ。そのとき、戦争をしないことと並んで大事なのが改革です。なかでも僕がいちばん主張しているのが、とにかく既得権をぶち壊すこと。でも、たぶん日本は本当にこのまま終わりますから。どんどん世界から取り残されていきます。
室井 もう既存の野党の人じゃダメだと思うんです。もっと違う分野、古賀さんだけじゃなく芸能人なら渡辺謙、坂本龍一、吉永小百合さんとかを口説く。あっ、護憲で言えば天皇陛下ですよ。来年引退するから選挙に出てもらう!
古賀 いやいや、それは無理でしょう(苦笑)。 〈了〉 

2018年6月28日木曜日

「働かせ放題」法案は10数年来の財界の要求

 政府は「働き方改革」一括法案を28日にも参院厚労委で強行採決しようとしていますが、その柱である「残業代ゼロ制度」(高度プロ制度)は、労働者の要望ではなく、財界の要求であることが国会審議で明らかになりました。
 この労働者の残業代をただにすることは財界の悲願であり、それを受けて第一次安倍政権は2005年6月に「ホワイトカラー・エグゼンプション」構想を打ち上げました。当時は対象が年収400万円以上で、極めて広範囲の労働者の残業ただ働きを狙ったものでした。
 幸いなことに第一次安倍政権はその後崩壊したのでこの法案も沙汰止みになりました。
 
 それから10数年を経て登場したのが名前だけを変えた「裁量労働制」と「高プロ制」でした。しかしもともと労働者にはそんなニーズはないので、根拠となるデーターは捏造するしかありませんでした。「高プロ」の前身と言える「裁量労働制」はそんな経過があって結局取り下げざるを得なくなりましたが、同じことを、高年収労働者を対象にした「高プロ」は止めようとしません。
 それは先ず高年収を条件にした形で成立させてしまえば、あとは省令で「年収1075万円以上」という制約はいくらでも変えられるので、「残業代タダ」の制度が広い範囲で実現出来るからです。安倍内閣がこれまで強行成立させてきた他の諸々の悪法同様に、これもまた労働基準法を根本的に破壊する稀代の悪法に他なりません。
 
 しんぶん赤旗が「『働かせ放題』は財界要求 ~ 」とする記事を出しました。
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「働かせ放題」は財界要求 安倍首相 国民の命と生活犠牲に
 しんぶん赤旗 2018年6月27日
 参院厚生労働委員会で採決強行がねらわれている「働き方改革」一括法案。その柱である「残業代ゼロ制度」(高度プロフェッショナル制度)は、労働者の要望ではなく、財界・大企業の要求であることが国会審議で明らかになりました。労働者の命と健康を犠牲にする「働かせ放題」の制度をもくろむ財界いいなりの安倍政権の本質が浮き彫りとなっています。
 
「残業代ゼロ」10年来の野望
 「高プロは、産業競争力会議で経済人などから意見があり、取りまとめられた。経団連会長から高プロを導入すべきと、ご意見いただいた」
 6月25日の参院予算委員会で安倍首相は、高プロに労働者のニーズがあるのかと問われ、財界要求に応えたものだと語りました。
 「残業代ゼロ制度」は、財界・大企業による10年余の野望です。
 経団連が「残業代ゼロ制度」の導入を最初に求めたのは2005年6月。「ホワイトカラー・エグゼンプション」(エグゼンプションは除外の意味)という名前で、年収は400万円以上。高プロより幅広い一般労働者が対象でした。競争力強化の名で労働時間に関係なく働かせる制度を求めたのです。
 同年9月に第1次安倍政権が発足すると検討を開始。しかし、「残業代ゼロ制度」と大きな批判をあびて国会提出を断念し、政権ごと崩壊しました。
 
 12年に第2次安倍政権が成立すると、労働者代表を除外した産業競争力会議で「残業代ゼロ制度」の導入を14年に決定。15年4月に「残業代ゼロ」法案を提出しました。
 名前を「高度プロフェッショナル制度」と称して実態を隠そうとしたものの、国民・労働者の反対にあい、審議入りもできないまま17年9月に衆院解散で廃案となりました。
 
 18年になり、「過労死ライン」容認の残業上限とセットで出し直したのが、「働き方改革」一括法案です。
 衆院厚労委で安倍首相が出席して質疑を行った5月23日。安倍首相は、官邸前で座り込んだ過労死遺族の面会要請を一顧だにせず、東京・銀座の日本料理店「東京吉兆」で経団連歴代会長と会食に向かいました。
 
 中西宏明経団連会長(日立会長)は6月25日、「高度プロフェッショナル制度は必要な制度だ。日本企業の生産性を向上させるという挑戦だ」と述べ、生産性向上のために高プロ導入を強く求めました。
 
ねつ造とウソで固めた法案
「働き方」法案は、財界の要求を実現するために、法案作成の前提となるデータや調査をねつ造とウソで塗り固めたものです。
 「法案の出発点」とされた労働時間データは、ねつ造や異常値が発覚し、2割を削除。再集計しても加藤勝信厚労相が「数値に変動がある」と認めざるをえず、信用性は完全に失われています。
 加藤氏は「法案の位置づけは変わらない」(19日)と強弁するしかできません。
 法案提案理由の「労働者ニーズ」の唯一の調査とされるわずか12人のヒアリングは、すべて法案作成後に行われた「後付け」で、立法事実をでっち上げたものでした。
 ウソで塗り固めても本音は隠せません。
 
 産業競争力会議で高プロ導入を主張した派遣大手パソナの竹中平蔵会長は、「時間内に仕事を終えられない、生産性の低い人に残業代という補助金を出すのはおかしい」(「東京」21日付)と語り、狙いが「残業代ゼロ」であることを明かしました。対象者についても「拡大していくことを期待している」と明言しています。
 
論拠破たん 廃案しかない
 ウソで固めた法案は破綻し、ボロボロとなっています。
 高プロで「自律的に働ける」としていた安倍首相は26日、「労働時間を画一的な枠にはめる発想を乗り越える」と答弁。長時間労働の歯止めを外すことが目的だと明らかになりました。
 
 高プロ対象者は「裁量」があることが要件だと強調するあまり、加藤厚労相は「このミーティングに出なさいとなれば該当しない」(5日)と答弁。会議のない業務などありえないのに支離滅裂な答弁に陥っています。
 高プロで報酬増や労働時間短縮ができるかのようにアピールしていましたが、安倍首相は「報酬は個々の企業の労使によって決められるもの」「時短を目的とするものではない」と無関係なことを認めました。
 残業の「上限規制」も、単月100時間、平均80時間の「過労死ライン」まで容認。労働時間の削減効果についても、山越敬一労働基準局長が「効果を定量的に示すことは困難だ」と答えられませんでした(19日)。三井住友海上で残業協定を従来の年350時間から540時間へ延長するなど残業増を誘発しています。
 「同一労働同一賃金」についても、安倍首相は「どの程度是正されるか答えるのは困難だ」と答弁不能になっています。(4日)

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米国のイラン原油輸入停止要求に 日本はどうする積りなのか

 トランプ大統領は5月8日、突然イラン核合意を離脱すると宣言し、21日にはポンペオ国務長官がイランに対して「史上最強の制裁を科す」と宣言しました。
 オバマ前大統領が進めたイラン核合意は、中東で最も懸念されるイランの核兵器開発を封じ込めるための現実的で合理的なものでしたが、トランプは一貫して批判的でした。イランが反米・反イスラエルであったのでそれが気に入らないのだとしか考えられません。
 
 米国はこれまでも標的の国家を決めてはそれを徹底的に破壊して来ました。しかしイランは大国なので最終的にイラン・アメリカ戦争に発展する惧れがあります。
 いずれにしてもそれは「対岸の火事」、ということで従来は済んだのですが、安倍政権が狂気の戦争法を通し、そこに集団的自衛権の行使を謳ったために、事情はすっかり変わりました。
 
 それはともかくとして、6月27日、トランプはついに同盟国に対して「イラン産原油の輸入を11月までにゼロにするように」とする「最後通告」を出しました。
 天木直人氏が惧れていた事態が出現しました。
 
 同氏の27日のブログと、関連する5月14日と6月20日の2つのブログを併せて紹介します。
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安倍首相を苦しめる事になる米国のイラン原油輸入停止要求
天木直人のブログ 2018年6月27日
「ついに」、というべきか、「やはり」というべきか、トランプ大統領の米国が安倍首相の日本に対し、イランに対する経済制裁に参加しろと言って来た事が明らかになった。
 私は5月14日と6月20日のメルマガで二度にわたって警鐘を鳴らした。
 今度ばかりは米国の対イラン制裁要求に従ってはいけないと。
 米国・イスラエルとイランの戦争に巻き込まれてはいけないと。
 しかし、100%トランプ大統領の側に立つと言い続けて来た安倍首相は、最後はイラン原油輸入停止要求を飲む事になるだろう。
 そして日本の中東外交は、どんどんとイスラエル寄りになっていく。
 いまこそ、外務官僚や経産官僚は安倍首相に思いとどまるように進言すべきだが、人事を人質に取られたままでは、それも無理だろう。
 いまこそ財界は筋を通すべきだが、米国とのビジネスに悪影響が及ぶことを恐れて、安倍政権がモタモタしているうちに、先駆けて、対イラン取引を自粛するだろう。
 そしてメディアだ。
 これほど大きなニュースであるというのに、それを一面で取り上げた大手紙は日経新聞と読売だけだ。
 しかも、米国の対イラン制裁に参加してはいけない、と書くメディアはただの一つもない。
 日本は国をあげて対米従属の国になってしまったごとくである。
 泣く子とトランプの米国には勝てないといわんばかりである(了)
 
 
日本は米国の対イラン制裁強化要求に応じてはいけない
天木直人のブログ 2018年5月14日
 きょうのテーマは何といってもこれだ。
 きょう5月14日の産経新聞が、日本外交の真価を問うことになる一大スクープ記事を報じた。
 すなわちトランプ米政権が、離脱した欧米6カ国とイランとの核合意に代わるあらたな合意を目指しているというのだ。
 その合意とは、北朝鮮に「最大限の圧力」をかけて非核化に応じさせたのと同様に、対イラン制裁強化を通じ、イランの非核化に向けた「あらたな核合意」を目指すものだという。
 しかも前回の核合意は、英仏独ロ中を含めた欧米6カ国とイランとの交渉を通じた欧米6カ国とイランとの合意だったが、今度はアジア、中東の同盟国をも含めた交渉であり、合意であるという。
 もちろん、日本もその中に含まれている。
 そして、驚くべきことに、すでに12日までに米政府当局者は日本政府とその協議を始めていたというのだ。
 つまり米朝首脳会談における北朝鮮の非核化の話をしていた時に、同時に米国は日本に対し、イランの非核化に向けた制裁強化を要求していたのだ。
 日本も対イランへの制裁強化に加われと圧力をかけていたのだ。
 間違いなくこの米国による対イラン制裁強化への協力要求は、これからの日米外交の大きな懸案として急浮上するだろう。
 しかし、日本は対イラン経済制裁強化に協力してはいけない。
 米国・イスラエルの対イラン戦争に巻き込まれるからだ。
 2003年にブッシュ米政権がイラクを先制攻撃しようとしていた時、私は駐レバノン大使として、小泉政権に対し、米国にイラク攻撃をさせてはいけないと意見具申した。
 たとえそれが日本にできなくても、日本は決して米国のイラク攻撃にくみしてはいけないと意見具申した。
 いまの私は、安倍政権に意見を具申する立場にはない。
 しかし、あの時以上に強い警告を発したい。
 米国に対イラン制裁強化をさせてはいけないと。
 たとえ日本にそれができなくても、日本は決して米国の対イラン制裁強化にくみしてはいけないと。
 これ以上の対イラン制裁強化は米国・イスラエルとイランの戦争につながる。
 そして米国・イスラエルとイランの戦争が起きれば、それが中東や世界にもたらす混乱と犠牲の深刻さは、あの米国のイラク攻撃の比ではない。
 こんどこそ日本は米国の戦争を阻止しなければいけない。
 たとえ阻止できなくても、少なくとも日本は米国の戦争に巻き込まれてはいけない。
 安倍政権は苦しい決断を迫られることになる。
 敵前逃亡の得意な安倍首相だ。
 一日も早く日本の総理を辞めたほうが身のためである(了)
 
 
日本は米国の対イラン制裁強化要求に応じてはいけない(続)
天木直人のブログ 2018年6月20日
 私は5月14日のブログで書いた。
 日本は米国の対イラン制裁強化要求に応じてはいけない、と。
 なぜならば、イランへの制裁強化に応じるなら日本はこれから始まろうとしている米国・イスラエルとイランとの戦争に巻き込まれる事になるからだ。
 そして、ついに米国は日本に対する対イラン制裁について本格的に要求して来た。
 きょう6月20日の読売新聞が一段の小さな記事で報じた。
 日米両国はきのう6月19日、イラン核問題をめぐる外務省局長協議を東京都内で開いたと。
 しかし、その記事には詳細な事は一切書かれていない。
 ただ、米側が制裁内容を説明し、日本側が、日本企業に悪影響のないようにしてほしいと申し入れた、としか書かれていない。
 そこでインターネットで関連情報を探したら、より詳細な記事が流されていた。
 すなわち、アメリカ国務省のイラン問題担当であるアンドリュー・ピーク次官補代理が来日したと。
 トランプ政権がイラン核合意から離脱したことを受けて、日本の政府や経済界に対イラン投資の抑制を働きかけるために来日したと。
 そしてピーク次官補代理はJNNのインタビューに答えて次のように語っている。
 イランの経済は、国家および各地でテロを支援している革命防衛隊が支配していると。
 そんなイラン経済に対しアメリカは制裁を強化しているのだと。
 アメリカは今後とも、イランに対する圧力を最大化し、イランの核開発だけでなく、ミサイル開発やレバノン・シリア・イエメンなどへの武装勢力支援を止めさせることを目指すと。
 こんな米国の対イラン制裁に協力したら、間違いなく日本は米国・イスラエルの対イラン戦争に巻き込まれる事になる。
 そして、こんな米国の危険な要請に対して、きっぱりと「反対だ」と言えず、日本企業に悪影響のないようにしてほしい、などと申し入れているようでは、その先は見えている。
 最後は米国の経済制裁に従う事になるのだ。
 これだけは避けなければいけない。
 あの時よりもはるかに深刻な事態に巻き込まれる事になるからだ。
 メディアは米国の対イラン制裁の動きについて、もっと大きく報じるべきだ。
 それに対する安倍政権の対応を国民に知らせなければいけない。
 なによりも、今度こそ、米国の戦争には、日本は一線を画さなければいけないと書かなければいけない(了)

28- 『国体論』の著者・白井聡氏インタビュー(前・後編)

 白井聡氏がこの4月に「国対論―菊と星条旗」を出しました。5年前の「永続敗戦論」の後編に当たるものと言われています。
「国体」は明治維新から敗戦に至るまでの日本社会の基軸となってきたものですが、戦後においても別に「死語」ではなく、この国を強く規定しています。
 しかしその内容は激変しました。右翼や極右の安倍首相を始めとする歴代の首相が、無前提的に対米従属を貫いている姿がその象徴です。
 
 NEWS WEEKが白井氏をインタビューしました。
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「トランプは合理的、バカと切り捨てられない」
『国体論』著者・白井聡インタビュー(前編)
NEWS WEEK 2018年6月26日
深田政彦(本誌記者)
<敗戦を境に天皇を頂点とする日本の統治体制「国体」は、アメリカへの従属にとって代わられた――注目の新書『国体論』の著者が語る戦後日本の矛盾>
アメリカと米同盟諸国との対立が目立ってきている。6月のG7ではその対立が際立っていた。一方、日本は、6月12日の米朝首脳会談で非核化費用の負担ばかり求められ、北朝鮮をめぐる外交において「蚊帳の外」かと騒がれた。
 
そんななか、『国体論――菊と星条旗』(集英社新書)が注目を集めている。1945 年の敗戦を境に、天皇(菊)を頂点とする日本の統治体制であった「国体」が、アメリカ(星条旗)への従属にとって代わられた、と歴史的に分析。この特殊な従属体制から脱却しなければ、日本は敗戦に続く二度目の破綻に向かうと警告する。著者・白井聡に本誌編集部・深田政彦が話を聞いた。
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――ドナルド・トランプ大統領は従来の米政権とは異質だ。その点で、戦後史の考察から日米関係を論じた本書の視点は通用しにくいのではないか。
いや、米大統領が誰になろうとも、日本の側は何にも変わらないということが、この間証明された。大統領がどんな人であろうが、何を言おうが、安倍晋三は迎合するだけだ。しかも、必死に媚びを売る安倍の姿が日本国民を憤激させることもない。むしろ、「よくやっている」などと喧伝されている。だから、『国体論』に書いたことは、より一層明白になったと言える。
つまり、トランプ政権の登場によって「戦後の国体」の矛盾は、いよいよ隠せなくなってきている。「戦後の国体」の頂点たるアメリカに、恭順し、媚を売れば売るほど、日本が収奪の対象とみなされていく構図がはっきりしたからだ。
 
トランプの言動には、「われわれアメリカは公明正大なのに、その善意に同盟諸国は付け込んでいる」といった被害者意識が感じられる。日本のような、アメリカ頼みの同盟国の付け込みを止めさせれば、「アメリカを再び偉大に」できるというわけなのだろう。
「アメリカを再び偉大に」という、このスローガンの元祖はベトナム戦争後の暗い世相を打ち破ったレーガン大統領だと思う。レーガノミクスは製造業復活を唱えながらドル安誘導をせず、「強いドル」を支持。ブードゥー(いんちき)経済と呼ばれるほど矛盾だらけだったのに、レーガンの颯爽とした姿に米国民は「偉大なアメリカの復活」を見て熱狂した。
 
その後の大統領も皆、「偉大なアメリカ」を演出しようとした。次のジョージ・ブッシュは宿敵ソ連を崩壊に追い込み、湾岸戦争で「世界の警察官」になったが経済運営に失敗。ビル・クリントンは製造業復活を目論見ながらも、レーガン同様の金融資本主義化でしのいだ。ブッシュ・ジュニアはネオコンのイデオロギーに基づいて対テロ戦争にのめり込む一方、金融資本主義化のツケがリーマンショックによって爆発的に露呈してきた。
ここでいよいよ行き詰まりが酷くなり、バラク・オバマが登場した。オバマはインテリで弁舌さわやかな黒人大統領。人種融和という「アメリカの夢」を象徴する存在だった。彼の姿に世界中が「偉大なアメリカの復活」を期待した。しかしながら、何もできなかった。格差は広がり、荒廃している。つまり、歴代大統領が皆「偉大なアメリカ」を演じながら、繰り返し失敗してきたということだ。
 
そこで、「偉大なアメリカ」をスローガンとして直接打ち出すことで政権を取ったのがトランプだ。アメリカが衰退局面にあるなか、他国よりも自国中心に、という姿勢で、日本に厳しくあたる。
日本では、特にリベラル派に「トランプ当選にがっかりした」との論調がある。だがアメリカはずっと「アメリカ・ファースト」だったし、「偉大なアメリカの復活」というプロジェクトを繰り返してきただけだ。日本がそんな物語を共有する必要はない。米大統領は偉大でなければ、と期待することこそ、日本が「魂の従属」下にある証拠だ。
 
――本書ではアメリカ流新自由主義に従属する日本を批判しているが、トランプはTPP(環太平洋自由貿易協定)を離脱。他の先進国と対立している。
この間、TPPについて後押しをしてきた日本の「識者」たちのインチキぶりが白日の下にさらされた。彼らは「TPPは自由貿易の推進だから良いものだ」と言っていた。ところがいま、トランプ政権が日米FTA交渉へ日本を引きずり出すべく圧力を高めてくると「これは困ったことだ」と論評している。けれども、FTAだって自由貿易の推進だろう。何の一貫性もない。
つまり、彼らがTPPを支持していた本当の理由は、「自己利益をゴリ押ししてくるアメリカを多国間で抑え込む」ということだったわけだ。それを隠して、「自由貿易=善」という抽象的図式を喧伝することで、アメリカは「慈悲深い天皇」であるかのように演出されてきた。しかし、もうこんな猿芝居も限界だ。
 
TPPの交渉過程でせり上がってきたことだが、本質的な問題は、非関税障壁という概念の危険性や、大資本の権力のさらなる肥大化であり、それらが自由貿易推進の大義名分のもとで昂進してきたことなのだ。本当はこれらの問題に目が向けられるべきなのだが、対米従属の「戦後の国体」を仕切っている連中は、「トランプは《アメリカ・ファースト》だから大変だ」と言ってオロオロするしか能がない。『国体論』は、こうした「馬鹿につける薬」だ。
 
――トランプの問題は政策そのものよりも政策決定がいい加減で、選挙アピールばかりなことにあるのでは。
ただ11月の中間選挙で負ければ、政権運営に支障が出る。ここのところの大統領はみな中間選挙で負けてしまい、指導権を失っている。首尾一貫性がなくても、選挙に勝つことを狙うのはある意味で合理的なところがある。
現時点でトランプを無暗に称賛できないが、「バカ」と切り捨てる議論にもくみしない。米朝交渉でも、リビア方式が持論だったジョン・ボルトン大統領補佐官を抑え込んだことに、トランプの強固な意志を感じた。確かにトランプ政権は官僚のポストが大量に空席で片肺飛行なのに、国家は崩壊していない。驚くべき政権だろう。
 
――駐留米軍撤退論もトランプ独特の持論だ。
トランプが中長期的にどうするつもりなのかよくわからないが、米韓軍事演習を中止すると言っただけで、日本の親米派は「やめないで」と騒ぎだした。朝鮮戦争が終わるくらいなら、再開して日本に核ミサイルが飛んできた方がマシだというのが彼らの本音だということが明らかになった。「異次元の圧力」というのは、そういうことだ。それもこれも対米従属を続けるためであり、この「国体」を維持するためならどんな犠牲もいとわないというわけだ。第二次大戦中の指導者層と全く同じ発想だ。
 
――米軍基地問題に関して、トランプの撤退論に期待する声もあった。
対米従属を自己目的化した支配体制を取り除かない限り、日本にはそれをチャンスにできる主体性がない。政官財学メディア全てに言えるが、その主流派は従来の対米従属システムを維持することで自分の権益を守るのが行動原理になっている。「原子力ムラ」という言葉があるが、「安保ムラ」はもっと巨大で、政官財学メディアの主要部分全体が安保ムラだと言えるくらいだ。
 
「アメリカの一の子分」として戦後復興に邁進した時代には、その問題性が表面化しにくかったし、単なる子分でよいというメンタリティーもなかったはずだ。むしろ復興を支えた日本のエートス(社会規範)は、アメリカに従属しながらも「(経済戦争で)今度こそアメリカに勝つ」という、戦前の教育を受けたリーダー層の複雑な感情にあったと思う。アメリカに反発しながらも、自国の繁栄がアメリカのパワーによって保障されているという矛盾や葛藤がそこにはあった。
ところが世代交代でそうしたエートスが失われ、親米スタンスは、日本の支配層の階段を上る単なるパスポートのようなものになった。そして、復興の成功体験があまりに強烈で、何のための従属が分からなくなってしまった。
だから、無条件に従属のための従属をしている。そこには以前のような葛藤がない。葛藤のない人間は成熟せず、幼児化する。
 
冷戦以降、アメリカが日本を保護する理由がなくなる一方、東アジアは激動の時代に入った。中国の国力の大幅な増進が第一のファクターだが、それに加えて朝鮮戦争の終結が視野に入ってきた。東アジアにおける冷戦構造の残滓の一大要因がなくなる。これが実現すれば、在韓米軍は不要となり、今度は在日米軍の問題に議論は移行するだろう。一方で中国共産党政権は、台湾を版図に治めないと国家が完成しないという神話を持ち、それを長年国民にプロパガンダしてきた。台湾問題は朝鮮半島問題よりも難しい課題だ。
 
 
「ショーンKに騙された、恥ずかしい日本人」
『国体論』著者・白井聡インタビュー(後編)
NEWS WEEK 2018年6月27日
深田政彦(本誌記者)
<今の日本は自発的に主権を放棄し、国民は政治的自由を自ら放棄している――『国体論』の著者・白石聡による現代日本への警告>
『国体論――菊と星条旗』(集英社新書)の著者・白井聡へのインタビュー後編。日本はどうすれば対米従属から抜け出せるのか。
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――日本を取り巻く国際情勢の緊張を目前にして、日本はどう主体性を取り戻すのか。
対米従属を止める一番確実で簡単な方法を言うなら、中国と戦争して負けることだ(笑)。そうすれば今度は対中従属の時代が始まって、これまで対米従属の合理性を説いてきた識者たちが「日本文明はそもそも中華文明の一部だった」などと理屈をつけて従属を合理化してくれるだろう。
 
冗談はさておき、人口や経済規模の観点から巨大な国家から圧力を受けることは避けようがない。主権国家といっても孤立して生きていける国はない。問われるべきは、そうした現実的な制約の下、どれだけの努力をしているのかということだ。少しでも自由でありたい、制約を脱したいというのが本来の人間だ。今の日本は自発的に主権を放棄し、その国民は政治的自由を自ら放棄している。かつて批評家・東浩紀氏が「動物化」という概念を提起したが、その通りだろう。こういう在り方は人間的とは言えない。
 
――まずは対米従属を脱してから合理的に日中同盟や日ロ同盟の可能性を......。
あらゆる可能性を吟味したうえで日米同盟が最も合理的な選択肢として選ばれるのならば、それは理解できる。しかし、現実はそうではない。弁護士・猿田佐世氏が「ワシントン拡声器」という概念によって明らかにしていることだが、日本の政官メディアがやっていることは、言うなれば「アメリカの神社化」だ。
対米従属エリートたちは、渡米してアメリカの政財界やシンクタンクなどに、日本国民の血税を原資とする「賽銭」をばらまいて拝む。そうすると、「神のお告げ」、つまり日本の親米派に都合のいいことが書かれたレポートが出て来るので、日本に持ち帰って、「神様はこう言っておられる!」と言って触れ回る。公金を何億円も使って命令してもらっているのだ。
 
――中国の脅威に日米同盟で対抗するのは合理的だが。
戦後日本の対米従属の理由づけは、対ソ連、対北朝鮮、そして対中と、ころころ変わってきた。外交は常に相互関係だ。中国からすれば、日本は世界がどう変わろうが言い訳を見つけて、アメリカと一緒に中国を封じ込めようとしているように見えるだろう。それならこっちにも考えがあると、中国は習近平政権になってから強硬姿勢を増している。
 
――対米従属からの自立はこれまでも反米保守派からも唱えられてきた。
石原慎太郎なんかが典型だが、威勢のいい発言は全て日本国内向けで、ワシントンに行けば対中脅威論をあおって、日米同盟を称賛する。かつて占領憲法はけしからんといいながら、政権を握ったら「ロン・ヤス」「不沈空母」と言いだした中曽根康弘首相も同じだ。
当世流行のネトウヨの諸君もそうだが、戦後日本では、「愛国的」「右翼的」であればあるほど対米従属的であるというのが常識となっている。だから、この国の右側にはナショナリズムなど存在しない。愛国ごっこに姿を借りた奴隷根性があるだけだ。
 
冷戦構造が厳しかった時代でさえ、アジアの親米国家の指導者でアメリカと軋轢を生じさせて暗殺された人物は、その疑惑を含め複数いる。日本の親米保守派は面従腹背を気取ってきたかもしれないが、誰も暗殺されたことがない。
あらためて2010年に沖縄米軍基地問題のために退陣した鳩山政権の挫折の異様さを肝に銘じるべきだ。普天間基地の沖縄県外移転という方針に、アメリカが直接怒ったのではなく、「アメリカの言いそうなこと」を日本のメディアや官僚、民主党政権の閣僚までが先回りして騒いで倒閣した。アメリカに対していささかなりとも主体性を見せることが、「反国体」的なのだ。