6月21日付けの東京新聞に、「『原子力の憲法』こっそり変更」と題する記事が載りました。それによると原子力の憲法=原子力基本法の2条(基本方針)に、第2項 「原子力利用の安全確保は国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として行う」が追加されました。これは、付則の12条に上記の条文を盛り込むことで実質的に本則の2条を変更する、という変則的な手法で行われ、殆ど議論もなかったということです。
18日の衆院通過を見て、「世界平和アピール7人委員会」は19日に、「実質的な軍事利用に道を開く可能性を否定できない」「国益を損ない、禍根を残す」とする緊急アピールを発表しましたが、同法案は20日に成立しました。
以下にその記事を紹介します。
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「原子力の憲法」こっそり変更
東京新聞2012年6月21日 朝刊
20日に成立した原子力規制委員会設置法の付則で、「原子力の憲法」ともいわれる原子力基本法の基本方針が変更された。基本方針の変更は34年ぶり。法案は衆院を通過するまで国会のホームページに掲載されておらず、国民の目に触れない形で、ほとんど議論もなく重大な変更が行われていた。
設置法案は、民主党と自民、公明両党の修正協議を経て今月十五日、衆院環境委員長名で提出された。
基本法の変更は、末尾にある付則の12条に盛り込まれた。原子力の研究や利用を「平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に」とした基本法2条に1項を追加。原子力利用の「安全確保」は「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として」行うとした。
追加された「安全保障に資する」の部分は閣議決定された政府の法案にはなかったが、修正協議で自民党が入れるように主張。民主党が受け入れた。各党関係者によると、異論はなかったという。
修正協議前に衆院に提出された自公案にも同様の表現があり、先月末の本会議で公明の江田康幸議員は「原子炉等規制法には、輸送時の核物質の防護に関する規定がある。核燃料の技術は軍事転用が可能で、(国際原子力機関=IAEAの)保障措置(査察)に関する規定もある。これらはわが国の安全保障にかかわるものなので、究極の目的として(基本法に)明記した」と答弁。あくまでも核防護の観点から追加したと説明している。
一方、自公案作成の中心となった塩崎恭久衆院議員は「核の技術を持っているという安全保障上の意味はある」と指摘。「日本を守るため、原子力の技術を安全保障からも理解しないといけない。(反対は)見たくないものを見ない人たちの議論だ」と話した。
日本初のノーベル賞受賞者となった湯川秀樹らが創設した知識人の集まり「世界平和アピール7人委員会」は19日、「実質的な軍事利用に道を開く可能性を否定できない」「国益を損ない、禍根を残す」とする緊急アピールを発表した。
◆手続きやり直しを
原子力規制委員会設置法の付則で原子力基本法が変更されたことは、二つの点で大きな問題がある。
一つは手続きの問題だ。平和主義や「公開・民主・自主」の3原則を定めた基本法2条は、原子力開発の指針となる重要な条項だ。もし正面から改めることになれば、2006年に教育基本法が改定された時のように、国民の間で議論が起きることは間違いない。
ましてや福島原発事故の後である。
ところが、設置法の付則という形で、より上位にある基本法があっさりと変更されてしまった。設置法案の概要や要綱のどこを読んでも、基本法の変更は記されていない。
法案は衆院通過後の今月18日の時点でも国会のホームページに掲載されなかった。これでは国民はチェックのしようがない。
もう一つの問題は、「安全確保」は「安全保障に資する」ことを目的とするという文言を挿入したことだ。
ここで言う「安全保障」は、定義について明確な説明がなく、核の軍事利用につながる懸念がぬぐえない。
この日は改正宇宙航空研究開発機構法も成立した。「平和目的」に限定された条項が変更され、防衛利用への参加を可能にした。
これでは、どさくさに紛れ、政府が核や宇宙の軍事利用を進めようとしていると疑念を持たれるのも当然だ。
今回のような手法は公正さに欠け、許されるべきではない。政府は付則を早急に撤廃し、手続きをやり直すべきだ。(加古陽治、宮尾幹成)
<原子力基本法> 原子力の研究と開発、利用の基本方針を掲げた法律。中曽根康弘元首相らが中心となって法案を作成し、1955(昭和30)年12月、自民、社会両党の共同提案で成立した。科学者の国会といわれる日本学術会議が主張した「公開・民主・自主」の3原則が盛り込まれている。原子力船むつの放射線漏れ事故(74年)を受け、原子力安全委員会を創設した78年の改正で、基本方針に「安全の確保を旨として」の文言が追加された。
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HP事務局追記:
【原子力基本法】
第2条 原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。
【付則により追加された条項】
2 原子力利用の安全確保は国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として行う。