2024年12月28日土曜日

「路上のラジオ」資料の紹介(ファンクラブニュース第23号)

  「路上のラジオ」(主宰者・西谷文和さん)から送られてきた資料を預かりましたので紹介します。


1.主宰者・西谷文和さんの挨拶状

路上のラジオに募金していただいたみなさん
              講演会に参加されたみなさんヘ
 ラジオを関いてくださり、そしてご支援をいただきありがとうございます。
 今回のニュースで分析した通り、立花孝志という人物の行為について、このままなんの咎めもなしでは、日本の民主主義が破壊されてしまいます。立花個人とその員者たちは、100条委員会の奥谷委員長自宅を突撃し「出て来い、引きこもるな」とマイクで叫び、インターホンを鳴らした上で「これ以上脅かしたら自死するかもしれないので、これくらいにしておく」と演説。その姿を員者たちがはやし立てるという構図。奥谷氏の母親は避難を余儀なくされました。
 100条委員会で鋭く追及していた竹内県議や丸尾県議の事務所にも脅迫や嫌がらせが殺到、竹内議員のご家族が心を痛められて議員は辞職に追い込まれました。丸尾議員への攻撃(半犯罪行為)もひどいものでしたが、丸尾氏は名誉毀損で告発される予定です。これらの犯罪行為がスルーされたら、おそらく今後選挙に立候補する人は立花&NHK党者ににらまれぬよう、萎縮した論陣を張らねばならず選挙や言論の自由が歪められていくでしょう。実際、対抗馬だった稲村氏は「今後は立花氏が出る選挙には怖くて立候補する人がいなくなるのではないか」と述べています。「立花&NHK党は反社カルト集団。サリンをまかないオウムみたいなもの」と断じた言説に、立花側が名誉毀損で提訴していましたが、裁判所は「名誉毀損に当たらない」と判断。つまり立花&NHK党員集団は「サリンをまかないオウムみたいなもの」と認定されています。奥谷さんが提訴し、稲村陣営も刑事告発、そして丸尾県議の告発、さらには上脇教授も告発されるとのことで、今後は選挙の正当性が問われる事態に発展するでしょう。
 見逃せないのは吉村知事の言動。さっそく「斎藤が選挙に勝ったのだから、不信任を出した県議会は反省し、自主解散しろ」と迫る始末。折田楓氏の選挙買収疑惑が出てきて、斎藤の評価がジェットコースターのように上下している中、あせった維新の目くらまし戦術なのかもしれません。背景にあるのが万博とカジノ。吉村、斎藤のツートップで関西万博、カジノを仕掛けてきているので、斎藤再選の流れにのって、このまま突っ走って強行したい。邪魔な県会議員は選挙の洗礼を受けろ、ということでしょう。
 トランプ、ネタニヤフ、橋下徹、立花孝志に共通するウソ体質とそれを信じてしまう群集心理については、今後のラジオで、何のタブーも忖度もなく分析していきたいと考えています。
 引き続きのご愛聴とご支援をよろしくおねがしいます。

                       202412月  西谷文和

2.. 路上のラジオ ファンクラブニュース 24.12.5  23号(全4ページ)PDF版
  ファンクラブニュース第23号の主なテーマは
 ・〝兵庫県知事選挙″ ウソ宣伝で民意がゆがみ、選挙が盗まれた
 ・ 小出先生に聞く その17 金食い虫リニアは電気も食べる SDGsにも逆行
 ・「編集長より」/「編集後記」
です。
 下記をクリックするとご覧になれます。画面を拡大また縮小する場合は画面下の(+)マークまたは(ー)をクリックして下さい。(以下同) 2ページ以降は画面を下にスクロールするとご覧になれます。
本文4頁 PDF版
https://drive.google.com/file/d/1ZjZ5KZdnTfm-lrxRwvup6fIv-r8GnfvT/view?usp=sharing 

ブログの更新を再開いたします

 パソコンの「ワード(・エクセル)」の不具合で長らく記事の更新を休止しておりました。
 23日にソフトをインストールして復旧しましたが、年末の雑事や大雪の到来で忙しくブログの再開が本日まで遅れてしまいました。
 今後ともどうぞよろしくお願い致します。

個人情報外部漏洩の犯罪性(植草一秀氏)

 植草一秀氏が掲題の記事を出しました。

 植草氏は、「兵庫県知事選問題に関する報道が下火になり始めているが、斎藤氏にかかる公選法違反疑惑事案と兵庫県における個人情報の取り扱いの問題はまったく解決していない(要旨)」と述べています。
 前者については、郷原弁護士らの告発状が神戸検察庁にも兵庫県警にも異例のスピードで受理されたことから、年明けには何らかの進展が見られるものと思われます。

 問題は、亡くなられた元西播磨県民局長に関する「個人情報」が悪意を持って拡散されていることです。この「人権侵害と名誉棄損の犯罪行為」は一刻も早く是正されなければならないもので、それは知事の権限で即座に阻止し解明できるものであるにもかかわらず、斎藤知事は1月以上も前から、「弁護士を含めた第三者委員会を立ち上げて 云々」と口にするだけで何も進んでいません。
 要するに事態を迅速に解決しようとする意志がなく、第三者委員会などという的外れな構想以外には何の適切な判断も持っていないということです。
 斎藤氏は総務省に入ったもののデスクワークが不得意だったため、ひたすら出先官庁などの現場回りをさせられていたということも言われています。こんな初歩的な問題の解決能力に欠けるのであれば「知事不適格」と見做されても仕方がありません。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
個人情報外部漏洩の犯罪性
                植草一秀の「知られざる真実」2024年12月23日
兵庫県知事をめぐる問題に関する報道が下火になり始めているが問題はまったく解決していない。
二つの重大問題がある。
一つは斎藤元彦氏にかかる公選法違反疑惑事案
もう一つは兵庫県における個人情報の取り扱い
いずれも重大な問題である。見落とせないのは死者が発生していること
一人は兵庫県の元総務課長
オリックスの優勝パレード実施に際して寄付金を集めることが課題になった。この問題で当該総務課長が苦境に追い込まれたとされる。
もう一人は元播磨県民局長
この局長が内部通報を行ったことが一連の騒動の端緒。兵庫県の斎藤知事は元県民局長の内部通報について「嘘八百」と断定し、元県民局長を懲戒処分した。
その後、百条委員会が設置され、元県民局長の証言が予定されていたが、その前に元県民局長が自死した。

元県民局長が行った内部通報に公益性があるのかどうかが一つの焦点。
これまでに明らかにされている情報を踏まえると、斎藤元彦知事を筆頭とする兵庫県が行った対応に問題があったと考えられる。
内容を十分に精査せず、元県民局長の内部通報を「嘘八百」として懲戒処分したことと、元県民局長の個人情報の取扱いに瑕疵があったと思われる。
また、知事選に際しての斎藤元彦氏陣営の行動に公選法違反の事実があった疑いも濃厚である。

元県民局長による内部通報の内容についても「公益性があった」と見られており、そうなると斎藤知事の対応に問題があったことになる。
これらの問題をうやむやにせずに明らかにする必要がある。
この問題に関するメディアの取り扱いを見ると、一部に著しく偏った情報流布が行われていることを確認できる。

例えば「講談社」の情報流布に著しい偏りが感じられる。
2024.11.08「【スクープ】齋藤元彦事件「優勝パレード協賛金キックバック疑惑」渦中の信金理事長が実名告発「前知事を陥れようとする思惑が…」
   ⇒ https://gendai.media/articles/-/140837 
2024.11.08「前兵庫県副知事が語る「告発文書は、齋藤県政転覆のためだった」…キックバック、パワハラ内部告発、そして百条委員会の「深層」」
   ⇒ https://gendai.media/articles/-/140869 
2024.11.22「「齋藤新党」創設も…齋藤元彦知事の再選で維新代表・吉村洋文知事らが目論む「参院選での大旋風」の現実味」  ⇒ https://gendai.media/articles/-/141832
2024.12.17「【独占インタビュー】兵庫県知事・齋藤元彦「失職したあの日の朝、地元・須磨駅に立った私が考えていたこと」」 ⇒ https://gendai.media/articles/-/143160
2024.12.17「【独占インタビュー】齋藤元彦が再選後初めて語った「県政改革の内幕」「告発文書問題」そして「百条委員会」のこと」
   ⇒ https://gendai.media/articles/-/143161 
2024.12.18「「せっかくの優秀な人材があんな形で足を引っ張られるなんて…」《選挙の神様》藤川晋之助から見た「齋藤知事と立花孝志」」
   ⇒ https://gendai.media/articles/-/143390 
斎藤氏を擁護するスタンスが鮮明である。

講談社はリニア建設問題でも川勝平太前静岡県知事を攻撃する主張を多く掲載してきた。
何らかの政治的背景をベースに論考を流布している疑いがある。
これ以外にも、高橋洋一氏、弁護士の高井康行氏、北村晴男氏などが斎藤氏擁護の主張を展開する。全体として「維新人脈」が斎藤氏擁護の姿勢を固めているように見える

元播磨県民局長による内部通報が斎藤県政打倒の思惑を背景に行われたことは十分に考えられる。問題は通報内容に真実相当性があったのかどうかである。
兵庫県は担当部局が12月11日に「パワハラがあったとの確証までは得られなかった」としたが、この担当部局が「財務部」であり、しかも、そのトップが斎藤氏の側近部下であることが明らかにされている。
「「なぜ財務部が?」…斎藤知事パワハラ「確証なし」発表のウラ側 重用される「知事の後輩」」   ⇒ https://x.gd/h9dIV 
この論考は弁護士で元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔氏によるもの。

県知事選で斎藤氏が再選されたことに、知事選に立候補した立花孝志氏が元県民局長のプライバシー情報を流布したことが強く影響したと見られる。
立花氏は元県民局長の人間性を貶めて内部通報に対する不信感を県民に植え付けることに成功したと見られる。既存メディアは立花氏が流布したプライバシー情報についての論評を控えたことから元県民局長を貶める作戦が奏功したと考えられる。
問題は元県民局長のプライバシー情報が流布された点にある。
この情報流布が不正なものであったなら、この情報に影響を受けた選挙結果に疑義が生じることになる。
これらの点を含めて兵庫県知事問題は現段階において何も解決していない。
このことを明確にしておくことがまずは重要だ。

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イスラエルによるガザでの大量虐殺を無視する西側諸国と国連特別報告者

 イスラエルによるガザでの大量虐殺は今も続いています。

 この国際人道法にも国連憲章にも違反する蛮行の根拠として、ネタニヤフは今から3600年も前のことを述べた「われわれの聖書」(それはキリスト教における「旧約聖書」中の申命記やサムエル記と重なる)を持ち出して正当化していますが、逆にそれ以外には正当化する方法がないわけです。これ以上の時代錯誤はありません。
 しかし米国をはじめとする西側諸国はこの蛮行を無視しています。これまで国際的な人権団体、例えばアムネスティ、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、国境なき医師団などはスポンサーである米国を厳しく批判することはありませんでしたが、イスラエルが強制収容所化したパレスチナで行っている大量虐殺はあまりにも露骨で深刻なため、その明白な事実を報告書として発表しています
 トランプに変わっても米国の態度は変わらないといわれています。
 櫻井ジャーナルの記事を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
イスラエルによるガザでの大量虐殺を無視する西側諸国と国連特別報告者
                         櫻井ジャーナル 2024/12/27
 シリアではアメリカなどの外国勢力が送り込んだ武装勢力によってバシャール・アル・アサド政権は倒され、ハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)を中心とする親欧米派の新体制が樹立されようとしている。このHTSはムスリム同胞団やサラフィ主義者を主力とするジハード傭兵の一派であり、指導者のアブ・ムハンマド・アル・ジュラニはダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国とも表記)と関係が深い。どこかの時点でNTSやアル・ジュラニが「穏健派」に豹変したということはない。雇い主の都合でタグを付け替えるだけだ
 送り込まれたジハード傭兵はシリアで殺戮、破壊、略奪の「三光作戦」を展開し、キリスト教徒も殺戮の対象だ。シリアの戦乱が始まった翌年の2012年6月、メルキト・ギリシャ典礼カトリック教会のフィリップ・トゥルニョル・クロス大主教はシリアを調査、ローマ教皇庁のフィデス通信に対し、「誰もが真実を語れば、シリアの平和は守られる。紛争の1年後、現地の現実は、西側メディアの偽情報が押し付けるイメージとはかけ離れている」と報告している。クロス大主教が調査した理由のひとつはそこにある。

 しかし、それ以上の殺戮がパレスチナのガザでイスラエル軍によって行われてきた。すでに4万5338名が殺され、そのうち約4割が子どもであり、女性を含めると約7割に達する。そのほか医療関係者やジャーナリストも狙われている。こうした人びとは「戦争の巻き添え」で殺されているわけではない。イスラエル軍は意図的に非戦闘員を殺している
 実は、こうしたことをイスラエル政府は隠していない。昨年10月7日に戦闘が始まった直後、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は「われわれの聖書(キリスト教における「旧約聖書」と重なる)」を持ち出し、パレスチナ人虐殺を正当化しているのだ。
 聖書の中でユダヤ人と敵だとされている「アマレク人があなたたちにしたことを思い出しなさい」(申命記25章17節から19節)という部分を彼は引用、「アマレク人」をイスラエルが敵視しているパレスチナ人に重ねたのである。その記述の中で、「アマレク人」を家畜と一緒に殺した後、「イスラエルの民」は「天の下からアマレクの記憶を消し去る」ことを神は命じている。
 サムエル記上15章3節には「アマレクを討ち、アマレクに属するものは一切滅ぼし尽くせ。男も女も、子供も乳飲み子も牛も羊も、らくだもろばも打ち殺せ。容赦してはならない。」と書かれている。これこそがガザでイスラエルによって行われていることだと言えるだろう。ネタニヤフによると「われわれは光の民であり、彼らは闇の民」なのである。
 ネタニヤフ政権はパレスチナ人だけでなく家畜も皆殺しにした上、彼らの存在を歴史から抹殺すると言っているのだ。そのイスラエルをアメリカやイギリスをはじめとする西側諸国は支援している

 そうした中、ローマ教皇フランシスコは12月21日、ガザでの爆撃は残虐行為であり、戦争ではないと非難、ピエルバティスタ・ピッツァバラ枢機卿がガザへ入れなかったことを批判した。22日にイスラエル当局は枢機卿のガザ入りを許可したが、その日、教皇はイスラエルがガザで続けている子どもの虐殺を改めて非難している。
 教皇に言われるまでもなく、イスラエルはパレスチナ人を大量虐殺してきた。その事実を覆い隠すために「反ユダヤ主義」という呪文が使われてきたが、アメリカやイギリスを後ろ盾としてイスラエルが行っていることの基盤はシオニズムだ。
 シオニズムとは「シオンの地」にユダヤ人の国を作ろうというカルト的な運動。ユダヤ人の間ではなくイギリスで始まったようだ。それが「ブリティッシュ・イスラエル主義」で、エリザベス1世が統治していた16世紀後半にイギリスで出現している。アングロ-サクソン-ケルトは「イスラエルの失われた十支族」であり、自分たちこそがダビデ王の末裔だとする信仰だ。
 イギリスのエリートにはそう信じる人が少なくなかったようで、イングランド王ジェームズ1世は自分を「イスラエルの王」だと信じていたという。その息子であるチャールズ1世はピューリタン革命で処刑されるが、そのピューリタンを率いていたオリヴァー・クロムウェルの周辺にもブリティッシュ・イスラエル主義を信じる人がいたようだ。

 近代シオニズムの創設者とされている人物は1896年に『ユダヤ人国家』という本を出版したセオドール・ヘルツル。シオニズムという用語は1893年に初めて使われたのだが、その直前からテル・アビブを中心とする地域の土地を買い占める富豪がいた。フランス人のエドモンド・ジェームズ・ド・ロスチャイルドだ。
 実際にパレスチナに「ユダヤ人の国」を作るという動きが現れるのは20世紀に入ってからだ。イギリスの外相だったアーサー・バルフォアが1917年にウォルター・ロスチャイルドへ出した書簡が始まりだと考えられている。
 いうまでもなくパレスチナにはアラブ系の人びとが生活していた。その人びとを追い出すか殺害し、ユダヤ人を連れて来なければ「ユダヤ人の国」を作れない。そうした中、ドイツでユダヤ人弾圧が始まった

 ドイツでは1933にナチスが国会議事堂放火事件を利用して実権を握るが、この年の8月にシオニストはナチス政権との間でユダヤ系ドイツ人をパレスチナへ移住させることで合意した。「ハーバラ合意」だ。ユダヤ人弾圧はシオニストにとって好ましいことだった。
 第2次世界大戦が終わって間もない1948年4月、「ユダヤ人の国」を作るために先住民であるアラブ系の人びとの排除に乗り出す。そこで4月4日に「ダーレット作戦」を発動、6日の未明にハガナの副官、イェシュルン・シフがエルサレムでイルグンのモルデチャイ・ラーナンとスターン・ギャングのヨシュア・ゼイトラーに会い、ハガナのカステル攻撃に協力できるかと打診。イルグンとスターン・ギャングは協力することになる。
 まず、イルグンとスターン・ギャングはデイル・ヤシンという村を襲うが、この村が選ばれた理由はエルサレムに近く、攻撃しやすかったからだという。村の住民は石切で生活し、男が仕事で村にいない時を狙って攻撃するプランだった。早朝ということで、残された女性や子どもは眠っている。
 4月9日午前4時半にイルグンとスターン・ギャングはデイル・ヤシンを襲撃。マシンガンの銃撃を合図に攻撃は開始、家から出てきた住民は壁の前に立たされて銃殺され、家の中に隠れていると惨殺、女性は殺される前にレイプされている。
 襲撃の直後に村へ入った国際赤十字のジャック・ド・レイニエールによると、254名が殺されていた。そのうち145名が女性で、35名は妊婦だった。イギリスの高等弁務官、アラン・カニンガムはパレスチナに駐留していたイギリス軍のゴードン・マクミラン司令官に殺戮を止めさせるように命じたが、拒否されてしまう。ハガナもイルグンとスターン・ギャングを武装解除しようとはしない。(Alan Hart, “Zionism Volume One”, World Focus Publishing, 2005)
 そして5月14日、エドモン・アドルフ・ド・ロスチャイルドやアブラハム・フェインバーグといった富豪をスポンサーとするシオニストはイスラエルの建国を宣言したのだが、ユダヤ人はシオニストの思惑通りに集まらなかった。ナチスによる弾圧で多くのユダヤ教徒がドイツ国外へ逃れたが、ヨーロッパの生活様式に慣れた人びとはパレスチナでなくアメリカやオーストラリアへ向かった。(Will Banyan, “The ‘Rothschild connection’”, Lobster 63, Summer 2012)
 フェインバーグはアメリカン・バンク・アンド・トラストの会長を務めた人物で、アメリカ民主党の重要な資金提供者。ハリー・トルーマンやリンドン・ジョンソンのスポンサーとしても知られている。また熱心なシオニストで武装組織ハガナのエージェントだったとも言われている。(Jonathan Marshall, “Dark Quadrant,” Rowman & Littlefield, 2021)
 こうして出現したイスラエルはパレスチナで殺戮、破壊、略奪を繰り返すことになり、先住民であるアラブ系の人びとにとっては地獄のような日々が続くことになる。現在、ガザで行われていることを理解するためには、こうした歴史を理解する必要がある。
 そしてローマ教皇はイスラエルの大量虐殺を非難したのだが、イスラエルのヤロン・サイドマン駐バチカン大使は教皇のジェノサイド批判は「根拠がない」と主張、またイスラエル政府はバチカン大使を召喚したという。

 これまで国際的な人権団体、例えばアムネスティ、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、国境なき医師団などはアメリカ支配層を厳しく批判することはなかった。スポンサーに刃向かうことは避けたかったのかもしれないが、イスラエルが強制収容所化したパレスチナで行っている大量虐殺はあまりにも露骨で深刻なため、その明白な事実を報告書として発表している。こうした団体はイスラエルがパレスチナ人の絶滅を目指しているとも指摘している。
 一方、拷問や残虐で非人道的な行為などに関する国連特別報告者を務めているアリス・ジル・エドワーズはガザで拘束されている「人質の即時かつ無条件の解放」を求めと表明、これは国際法に違反する違法行為であり、残虐行為であり、戦争犯罪だと主張したのだが、イスラエルが拘束しているパレスチナ人に対して行っている性的暴力を含む拷問には触れなかったことを批判する人がいる。パレスチナの人権団体が提出した記録を無視しているというのだ。昨年10月以来、拘束されているパレスチナ人の数は急増していると言われている。

 エドワーズに限らず、西側では根拠のないイスラエル側の主張は大々的に取り上げられるが、根拠が示されているパレスチナ側の主張は無視されてきたエドワーズに対する公開書簡をパレスチナの人権団体などは発表しているが、これでアメリカを中心とする勢力が変化することはないだろう。ただ、その書簡によって状況を知る人は増えるかもしれない。

渡辺恒雄の死とその正体 ~ (世に倦む日々)

 渡辺恒雄・読売新聞主筆が19日、98歳で亡くなりました。

 世に倦む日々氏が22日付で掲題の記事を出しました(長いタイトルなのでその後に続く、「偽装と演出の裏のコアは安倍晋三と表裏一体の保守」の部分は省略しました)。
 かなり辛辣な記事になっていますが、渡辺氏の生き方については 限られた字数の中でそれなりに丁寧に触れています。
追記 「渡辺恒雄」で検索しても 追悼記事や動画が多数表示されて「ウィキペディア」に中々到達しないので「ウィキペディア 渡辺恒雄」で検索して下さい。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
渡辺恒雄の死とその正体 - 偽装と演出の裏のコアは安倍晋三と表裏一体の保守
                       世に倦む日日 2024年12月22日
12月19日、渡辺恒雄が98歳で死去。その夜、渡辺恒雄にかわいがってもらった大越健介が、長々と報ステで冒頭からこのニュースを伝えていた。19日の大きなニュースは、小倉で中学生2人を殺傷した男が事件から5日目に逮捕された件で、どの報道番組もトップは当然その編成だったが、大越健介にとっては、渡辺恒雄死去の方がヨリ重大で、最初から大きく時間を割いて視聴者国民に伝えるべきニュースだったらしい。大越健介がなぜ(他と違って特別に)この判断と行動に出たのか、勘ぐれば薄々察せられる。単なる学閥の紐帯とかではなく、奸佞な点数稼ぎと言うか、この独自行動を見せたかった相手がいるのだ。政治である。それがどういう政治なのかは後ほど触れよう。渡辺恒雄の死去に際して何か書くとして、率直に感じるのは、騙されたという後悔であり、不覚と憎悪の混じった忸怩の念である。そしてこの妖怪の魑魅魍魎であり、知性や知識というものの信用ならなさである

何をどう騙されたのか。二点ある。一点は、靖国問題についての渡辺恒雄の主張と態度だ。この点は大越健介の番組でも紹介されたし、いわゆる「渡辺恒雄の毀誉褒貶」と言う場合の「誉」や「褒」に該当する部分である。渡辺恒雄は、総理大臣の靖国参拝に強硬に反対する立場であり、A級戦犯合祀を拒絶して、国立追悼施設を建立すべきと提言する有力論者だった。20年近く前のブログにも書いた記憶があるが、Wiki に短く経緯が説明されている。終戦間際に陸軍二等兵で召集され、内務班の初年兵へのリンチ暴力を受けた被害体験が忘れられず、それへの憤怒を常に口にし、靖国神社と軍国主義への批判の舌鋒が鋭かった。しかし、渡辺恒雄は、小泉純一郎には手厳しかったけれど、安倍晋三にはデレデレのべったりで、後見役の老執事のようにくっつき、手取り足取り溺愛の蜜月関係だった。あれはいったい何だったのだ。安倍晋三の執拗な靖国参拝には文句を言わなかった

靖国神社参拝と言えば、現在では閣僚や議員だけでなく自衛隊が堂々とやっている。朝日の報道では、昨年5月、海自の幹部候補生学校の卒業生119名が、練習艦隊の司令官に引率されて制服姿で参拝している。陸自でも今年1月、幕僚副長(陸将)が引率して、陸自航空事故調査委員会の22名が靖国神社を参拝、うち13名が私費から玉串料を納めていた。この件は「部隊参拝」ではないかと国会で追及されたが、防衛省・自衛隊は頬かむりして開き直ったままだ。防衛大学生の東京行進・靖国神社参拝の行事も、ずいぶん以前から公然と行われている。これらは、渡辺恒雄の本来の思想と持論なら、身震いして激怒するべき、絶対に許されない日本軍国主義の復活に違いない。が、読売が社説で筆誅を加えたとか、渡辺恒雄が談話を発したとか聞いた覚えがない。容認している。渡辺恒雄がこの靖国参拝問題で気炎を吐いたのは2007年頃が最後で、安倍政権以降は音沙汰なし

二点目は、渡辺恒雄のネオリベ批判の問題である。渡辺恒雄は竹中平蔵が大嫌いのはずで、嘗て口を極めて罵っていた時期があった。この事実については、最近は検索してもネット情報をよく発見できず、Wiki にも記載がないので不安になるが、2006年頃はマスコミやネットで確かに発言が確認されていた。新自由主義を猛然と非難する正論を唱えていて、ナベツネらしい見識だなと好感を持ったものだ。その渡辺恒雄が安倍晋三と睦み合うようになって後、アベノミクスを肯定し、新自由主義批判を封じて冬眠してしまった。嘗ては中身が異なっていたはずの、渡辺恒雄の「保守」と安倍晋三の「保守」の二つが一致して重なってしまった。このことは、私にとって不興と失望を買う一事で、渡辺恒雄の青年期の経歴や表面的印象に惑わされたという遺憾を強く持つ。渡辺恒雄が巧みに演技して自ら偽装していたところの、囮の毛鉤に釣られ、この男に多少期待する気分を持ってしまっていた

読売新聞がアベノミクス批判の論陣を張っていれば、この国の2010年代は少しは違った進行になっただろう。2012年の総裁選で渡辺恒雄が石破茂に与し、石破政権が続いていれば、集団的自衛権(安保法制)もなく、格差拡大も抑制されたかもしれないという想像を抱く。一見すれば、渡辺恒雄は、安倍晋三よりも石破茂に近似した政治思想の表象を漂わせている。左派の視線からはそう映る。だが、おそらく右派からは、渡辺恒雄は石破茂よりも安倍晋三に近い位置と性格に見えたに違いない。そうしたカメレオン性が渡辺恒雄の特徴であり、左派から微妙に頼りにされ、ウィングの広さを錯覚させる点が武器だった。本人はそれをよく自覚して巧妙に操作していた。そして左派をリップサービスで騙していた。本心と本質は、極右軍国主義と同地平に立ち、新自由主義の賛同者である。言動からは別類型に見えるが、真実は安倍晋三の同志であり、櫻井よしこや統一教会や竹中平蔵と同類

少し脱線すると、竹中平蔵は元民青同盟員である。筋金入りの(かつ知識もある)右翼やネオリベには、その種の凄味のある経歴の手合が少なくない。それでは、渡辺恒雄とは本当はどんな人物で、どのような思想的正体なのか。Wiki の記述を読み進むと、正力松太郎に引き立てられたという過去が登場する。1955年(29歳)頃だ。また、児玉誉志夫と懇意になったという逸話も出てくる。1958年(32歳)頃。さらに、1968年(42歳)のときワシントン支局長になっている。①正力松太郎、②児玉誉志夫、③ワシントン支局長、この三つのキーワードが放つ光線が焦点を結んで像を描くところは、すなわち米CIAに他ならない。屡々、陰謀論的に、日本のマスコミ幹部の出世の登竜門として「ワシントン支局長」のポストが挙げられ喋々されるが、具体的な個々の顔を並べると、ある種フリーメーソン的な、秘密結社的な何かがあるのではと邪推と憶測を覚えるのを否めない

20代後半から40代前半、人生の土台と人脈を築き、終生の展望と目標を定めていた時期、渡辺恒雄を取り巻く環境はこういうものだった。そこから考えれば、渡辺恒雄の最晩年、安倍晋三の老執事として日本を安倍政治の業火に投げ込み、何もかも燃やし尽くし、灰になった日本をアメリカに献上して本懐を遂げたのも、何となく頷ける物語ではある。怪物的に肥大した渡辺恒雄の自我と野望と権力欲のエンジンは、アメリカ(CIA)というシステム基盤と制御プログラムがあって初めて全開し稼働させられ、方向づけできたのだろう。正力松太郎はCIA工作員のコードネームが明らかになっている。戦後も60年代を過ぎれば、コードネームなどという古典的管理仕様は消えたのだろうが、渡辺恒雄も何らか関係性を隠していておかしくない。日本で最大発行部数を誇る新聞社にCIAが触手を伸ばさない方がおかしいし、アメリカの対日政策に反対すれば、渡辺恒雄は即排除されていただろう

だが、渡辺恒雄の勉強熱心とか豪放磊落とか軽妙洒脱のスタイルが、そうした本人のコアの政治思想の洞察や測定から人を遠ざけ、世間の目を欺く効果になるのである。有名な、中曽根康弘との古典読書会は本当の話で、決して誇張した自慢話ではあるまい。二人とも疑似インテリなのだ。実際に精読してスタディを重ね、人文社会・政治経済の視野を広げたに違いない。この知性と教養の点は石原慎太郎も似ている。が、どれほど高度に豊穣に知識を習得しても、渡辺恒雄はその活用の動機と目的が根本的に間違っていた。例えばここに、渡辺恒雄と石破茂と安倍晋三の3人がいる。渡辺恒雄と石破茂は読書家だ。渡辺恒雄は、蔵書を類推してもインテリらしい読書家と認められる。石破茂は、時折書棚がテレビに映るが、ヨリ大衆的というか世俗的というか、一般人が読む本が並んでいる。でも、真面目に読んでいるのは間違いなく、そこに多少の好感が持てる。本を読んでいるから議論で言葉が出て来る

3人目の安倍晋三は百田尚樹の本を平気で愛読書に上げるほどで、つまり読書や学問には全く縁がなく、無知を恥と思わず、生きる上で知性・教養の必要を感じてない男だ。マンガしか読まない麻生太郎も同様。そこで、もし渡辺恒雄が知を愛する男であり ー 保守主義でも何でもいいが - 純粋に哲学と理論に殉ずる男であったなら、安倍晋三ではなく石破茂を選択・推挙しなければならなかった。真のインテリであれば、安倍晋三など顔を見ただけで反吐が出たはずで、勉強家のインテリが最も生理的に毛嫌いするタイプが安倍晋三だろう。ここに、リトマス試験紙のように渡辺恒雄のインテリ性の真偽が証明される。その意味で、渡辺恒雄のインテリ表象は偽物で、世間を騙す仮面であり、疑似インテリだと分析し総括できよう。最終的に、渡辺恒雄を見ていると、ソクラテスは偉大だという結論に逢着する。知を愛すソクラテスは権力と富を求めず、ただ誠実に真理を探求し、冤罪に抗弁せず毒杯を仰いで死に就いた

嬶ちゃんの尻に敷かれ、地位も得ず、財産もなく、ただ讒謗されて訴追の身になり、潔く「悪法も法なり」と言い残して逝った。そして、ギリシャ哲学どころか世界の哲学の父となって尊敬され、高校倫理教科書の主役となった。フィロソフィアの永遠の神となった。ソクラテスは、知識する目的は精神を善にするため、善をなしてポリスに貢献するためだと言っている。宗教のようにシンプルな思想だ。ソクラテスを基準にすれば、渡辺恒雄の知はフェイクであり、その知性は失格で、その勉強熱心は無意味で無価値だろう。渡辺恒雄について思うと、一つ年上の梅原猛の顔が立ち浮かぶ。どちらも哲学青年で、中曽根康弘に接近して癒着した点が同じだ。左を篭絡し包摂して無力化するのが中曽根康弘の得意技だった。梅原猛は神道政治連盟の集会壇上で挨拶の音頭をとるなど、政治的にかなりアクロバティックな立ち回りをやっている。だが、絶妙のバランス感覚で、九条の会のファウンダーの一人となった

あれがなければ、梅原猛の現在および将来の評価はなかっただろう。晩節を汚したまま終わっていて、善をなすために知を求める者の範疇から外れていた。最後に、プロ野球と渡辺恒雄の関係についてだが、間違いなく、渡辺恒雄は日本のプロ野球をだめにした。面白くなくしたし、環境を悪化させた。例えば、原辰徳と中畑清の暴力団との繋がりとか、そのお咎めなしの裁定とか、清原和博らの覚醒剤常習とか、笠原将司らの野球賭博とか、阿部慎之助のパワハラ虐待とか。これらの悍ましい劣化と荒廃が渡辺恒雄の指導性と無関係ということはなく、渡辺恒雄の責任に帰さないものはない。本来のプロ野球のスポーツとしての健全性を、この男は暴慢な権力で潰し、ボス的支配力を濫用して、ヤクザ型の薄汚れた文化性に変質させた。プロ野球がすっかり新自由主義的な経営に変わったことも、この男の存在が影響している。選手は育てず使い捨てが当たり前の態勢になり、ドラフト指名からわずか3年で自由契約通告となった

その一方、野球人気を支える庶民(中低所得者層)はどんどん貧乏になっているのに、ほとんど名前も知られてない主力選手が数億円の年俸を取る格差運営形態となり、試合の観戦チケットもどんどん値上がりして、庶民の手の届きにくいものになった。プロ野球を毒々しく新自由主義化させた主犯は、やはり渡辺恒雄だったと断言できよう。知が悪と結びつき、人を騙して弄ぶとき、人は不幸になる。ソクラテスの倫理こそ問われる

28- 仏発ニュース15 歴史の改ざんとフェイクニュースに覆われた虚構の世界

 毎月20日頃に出る土田修氏の記事が11月だけ途切れましたが、12月分は無事登場しました。タイトルは掲題のとおり衝撃的ですが、実態を正確に表したものと思います(今回から「フランス発・グローバルニュースNo.15」という表示を「仏発ニュース15」と短縮します)。
 記事は日本の実態についても、「各チャンネルに持ち回りで出演する米国ネオコン情報の信奉者のような学者や専門家も同じで、単純明快な善悪二元論に終始し、地政学的・歴史的背景を踏まえたコメントを開陳することはない」と見られていると述べていて、そのまま納得できます。
 後半の「マスコミが醸成してきたSNS上の偽情報」のところでは、SNSを上手く選挙運動に利用したのが都知事選挙での石丸伸二氏であり、兵庫県知事選挙で再選を果たした斎藤元彦氏であるとした上で、この「SNS選挙」の「監修者」を名乗った広報・PRコンサルティング会社の女性社長O氏についても、やや詳しく言及されています。
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フランス発・グローバルニュースNo.15 歴史の改ざんとフェイクニュースに覆われた虚構の世界
                       レイバーネット日本 2024-12-24
                             土田修 2024.12.24
                  ル・モンド・ディプロマティーク日本語版前理事
                     ジャーナリスト、元東京新聞記者
 世界はフェイクニュースであふれかえっている。主要メディアを掌握する者たちは歴史を書き換え、自らの利益に適ったストーリーを錬金術のように作り出し、そのストーリーに沿った世論を形成するのに大いに貢献してきた。さらに、権力に従順なメディアがフェイクニュースを増殖してきた結果、IT技術とソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の進展によって恐ろしいスピードで偽情報や誤情報が拡散する時代になった。フランスの月刊評論紙ル・モンド・ディプロマティークは、編集責任者ブノワ・ブレヴィル氏の論説記事「操作された歴史に騙されるな」(2024年10月号、日本語版は11月号)を掲載し、歴史の改ざんに貢献してきた主要メディアを批判している。

 ブレヴィル氏は、国際社会の集合的記憶が「時代のパワーバランス、その時々の利害に応じて変化する」と指摘する。第2次世界大戦で最も戦死者数の多かった国はソ連だった(連合国軍の戦死者数1600~1700万人のうちソ連軍の戦死者は860万人~1140万人といわれる)。戦後間もない1945年の世論調査で、「ドイツの敗北に最も貢献した国は?」との質問に対する回答は「ソ連57%」「米国は20%」だったが、2024年の調査では「米国60%」「ソ連25%」と逆転している。戦後、『史上最大の作戦』『プライベート・ライアン』『パットン大戦車軍団』など数多くのハリウッド映画が米兵の英雄的行動を称賛し、「アメリカを世界の救世主に仕立て上げた」結果だ。

 戦後の長い期間、ノルマンディー上陸作戦は重要視されておらず、毎年6月6日に催される記念式典の規模も小さく、米大統領が参加したことはなかった。1964年にはシャルル・ドゴール将軍が「新たな占領のきっかけとなるところだった彼らの上陸を記念するために行けというのか、冗談ではない」と、ノルマンディー行きを拒否した。それが米ソ間の緊張が高まった80年代になって大きく変わった。フランソワ・ミッテラン大統領がアメリカの大統領はもちろん、英国の女王、カナダの首相らを招待することで、「記念式典は『自由世界』が団結を示し、自らを民主主義の守護者であるとアピールする場になった

 冷戦終結後はロシアの代表者も記念式典に招待されていたが、2024年6月の式典に招待されることはなかった。代わりにウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が出席し、「ノルマンディー上陸作戦とウクライナ国民の正義の戦いが重なり合っている」と訴え、称賛の拍手を浴びた。「このようにして、スターリングラードでヒトラーの戦力を粉砕したロシアは、いつの間にかナチス政権と同列に置かれた」(同記事)。

 第2次世界大戦の歴史の書き換えはそれだけにとどまらない。中東欧や北欧でソ連兵を称える像や記念碑の破壊が進んだほか、第2次世界大戦は「ドイツとソ連に共同の責任がある」とする考えが西欧にも徐々に広がった。2019年に欧州議会は東欧諸国の提案に従って、「戦争は悪名高い独ソ不可侵条約の直接的な結果だった」とする決議を採択した。一方のプーチン大統領も負けてはいない。反ロシア的な修正主義を非難し、戦争勃発に対する西側の責任を追及するだけでなく、「ウクライナの非ナチス化」を正当化し、「ソヴィエト政府がソヴィエト・ウクライナを作るより前にウクライナは存在しなかった」と、ウクライナ独自の歴史を否定することに執着している。

 ブレヴィル氏はこう指摘する。「紛争を煽るために操作されている歴史は、本来、それらを理解し、その根源や争点を把握するために利用されるべきだ」。だが、主要メディアの解説者は現在起きていることを都合よく説明することに終始している。日本の各チャンネルに持ち回りで出演する米国ネオコン情報の信奉者のような学者や専門家も同じだ。単純明快な善悪二元論に終始し、地政学的・歴史的背景を踏まえたコメントを開陳することはない。「彼らにとっては、すでに結輪が出ているのだ。すなわち、ウクライナ戦争は2022年月24日に始まり、ガザの戦争は2023年10月7日に始まったということだ」(ブレヴィル論説記事)。

ウクライナ戦争が明らかにした「西洋の敗北」
 事実はこうだ。ウクライナ戦争は、ソ連崩壊後も米国が北大西洋条約機構(NATO)を存続させ東方への拡大を進めたこと、2014年にウクライナの親ロシア政権が崩壊した後、ロシア語話者の多い東部ドンバス地方で内戦が始まったことを抜きして語ることはできない。フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏は著書『西洋の敗北』(文藝春秋)の中で、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授の2023年2月の分析を引用し、こう書いている。「ロシアは何年もの間、ウクライナがNATOに加盟することは許容できないと言い続けてきた。その一方でウクライナの軍隊は同盟国、つまりアメリカ、イギリス、ポーランドの軍事顧問たちによって軍備強化が進められ、NATOの「事実上」の加盟国になろうとしていた。だから、ロシアは以前から予告していた通りに戦争を始めた

 ミアシャイマー氏は「ロシアは戦争に勝つだろう」と早々と予測していた。ウクライナ戦争の原因は「ウクライナ人を介したアメリカとロシアの対立」にある。ウクライナはロシアにとって「自国の存亡に関わる死活問題」だが、アメリカにとってはそうでない。「ワシントンは、8000キロも離れた地で、わずかな利益のために戦争をしているにすぎない」からだ。しかもロシアは国際決済システムSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されるなど西側諸国から厳しい経済制裁を受けているが、金融・経済面での自立を進めてきたロシアの抵抗力は強く、反対に「西側金融の全能性」に対する信頼が揺らいでいる。

 だから、ウクライナ戦争によって現実になりつつあるのは「ロシアの敗北」ではなく、「西洋の敗北」なのだ。ドイツはエネルギー供給の要だった天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム」の破壊を抵抗もなく受け入れた。米国の調査報道記者シーモア・ハーシュ氏はCIAがNATO加盟国のノルウェーと組んでパイプライン爆破の秘密作戦を実行したと指摘しているが、ドイツだけでなく世界が沈黙を守っている(ハーシュ記者のブログ記事「米国はいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したか」を参照)。「西洋の危機、とりわけアメリカの末期的な危機こそが地球の均衡を危うくしている。その危機の最も外部の波が、古典的で保守的な国民国家ロシアの抵抗に突き当たったというわけだ」(トッド『西洋の敗北』)。

 日本においても、権力に依拠した偏向報道を続けてきたマスメディアのあり方そのものが、メディアを批判的に読み解く能力である「メディアリテラシー」を否定してきたのではないか。いまだに新聞やテレビはバイアスのかかったフェイクニュースを平気で流し続けている。例えば、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の代表委員がノーベル平和賞の授賞式での演説で世界に広がる「核の脅威」を強調したが、日本のメディアは「プーチン氏は2022年2月のウクライナ侵略開始以降、核兵器使用に繰り返し言及してきた」(12月11日付読売新聞)、「これは22年のロシアによるウクライナ侵攻後、プーチン露大統領らが度々「核使用」を示唆する現状への警鐘でもある」(同日付毎日新聞)などと、「核の脅威」の責任を一方的にロシアに押し付ける報道を繰り返した

 だが、ウクライナ戦争をめぐって最初に「核兵器の使用」という脅しをかけたのは欧米側だったことはあまり知られていない。2022年8月24日、英国のリズ・トラス外相(後の首相)はロシアに向かって「必要であれば核のボタンを押す準備をしている」と宣言した。2023年2月にはスペインに配備されている米国の核戦略爆撃機B-52H4機がポーランド国内の基地を出発し、ヘルシンキ西の上空まで飛び、そこでUターンしてポーランドの基地に帰還するという、ロシアを標的にした「核攻撃シミュレーション」を実施した。ヘルシンキからサンクトペテルブルクまではB52でひとっ飛びの距離だ。その2週間後にプーチン大統領がベラルーシ国内への核兵器配備を求めるルカシェンコ大統領の申し入れを受け入れたのは、自国防衛のためだった。

 真っ先に「核の脅し」をロシアに仕掛けたのは英国のトラス外相であり、米国のバイデン大統領なのだが、日本を含む西側メディアはその事実を隠蔽し、「核兵器をベラルーシに配備する」との声明を出したプーチン氏を、核兵器で欧米や世界を脅しまくる悪魔に仕立て上げることに成功した。このように、事実を隠蔽し捏造する偏向報道が当たり前になった社会の中で、真実を伝えようとしない主要メディアに対する信頼が低下するのは当たり前のことだ。その代わり、SNSや動画サイトを情報源とする人々が増えているが、そこでは主要メディアが発生源となっていることの多い偽情報や誤情報が急速なスピードで、しかも人目を引くように誇張されて拡散している。それに対し、マスコミは反省し検証するどころか、SNS上を飛び交っている単純な敵味方論や歴史修正主義の言説にあっけなく取り込まれているようだ。

 FacebookやX(旧ツイッター)などSNSが人々の日常生活や価値観、感情をコントロールするデジタル社会の進展がそれを後押ししているのは間違いない。確かにSNSは感情に強く訴える情報や扇情的な内容を拡散させやすい。ネット社会は「情報社会」を大きく発展させてきたが、その一方で、ネット上の情報を真偽不明のまま言葉通りに受け取る人々を生み出し、偽の情報や誤った情報を大量に流布・拡散させるのに大いに貢献している

マスコミが醸成してきたSNS上の偽情報
 こうした感情に訴える不確かな情報が蔓延する社会を選挙にうまく利用したのが、東京都知事選挙で大躍進した石丸伸二氏であり、兵庫県知事選挙で再選を果たした斎藤元彦氏ではなかったか。特に兵庫県知事選挙ではSNSを使った斎藤陣営の選挙戦略が話題になったが、ネット上でこの「SNS選挙」の「監修者」を名乗った広報・PRコンサルティング会社の女性社長O氏は、選挙期間中に自ら撮影した斎藤氏の演説のライブ配信を行い、斎藤氏のフォロワーは選挙前の約7万8000人から24万3000人に増えたという。

 実はO氏はフランスの高校を卒業し、慶應大学に在学中、フランスでも有数のビジネススクールであるエセック・ビジネス・スクール(高等経済商業学校)に留学している。慶應大学卒業後はフランス大手銀行BNPパリバに就職し、営業職を通してグローバルな視点でのコミュニケーション能力を身に付けたといわれる。フランスの金融・投資会社は政治と密接な関係を取り結んでいる。フランスの金融・経済界も政界もエリートたちはこぞって、エコール・ポリテクニーク(高等理工科専門学校)、国立行政学院(ENA)、パリ政治学院(シアンスポ)などグランゼコールの出身者で占められている。輝く将来を保証するエリート製造工場に目をつけたのがフランスの大富豪たちだ。

 O氏が留学したエセック・ビジネス・スクールも欧州ランキングでトップ10に入る商業系の名門グランゼコールだ。同校はフランス財界に多数の人材を輩出しており、彼らがロスチャイルド銀行出身のマクロン大統領の支持基盤の一角を占めている。マクロン氏は大富豪によって買い取られたメディアによる選挙戦略によって大統領選挙を勝ち抜いたが(ホアン・ブランコ『さらば偽造された大統領~マクロンとフランスの特権ブルジョワジー』岩波書店)、フランスの選挙は広告事業・マーケティングの世界最大手オムニコムの影響を受け、ネットを駆使したSNS戦略がごく普通に行われるようになった。アメリカの大統領選挙もそうだが、フランスでも選挙のたびに偽情報や誤情報がネット上を飛び交い、中傷合戦が始まるようになった。O氏が行った「チームさいとうLINE」のSNS選挙は、まさにフランスのネット戦略を彷彿とさせる。

 兵庫県知事選挙で斎藤氏が再選を果たした際、新聞各紙は「マスコミがネットに負けた」と書いた。斎藤氏の街頭演説の場でマスコミ記者が聴衆から「偏向報道」と罵声を浴びたこともあった。NHKの出口調査で、「何を参考に投票したのか?」という問いへの答えはSNSや動画」(30%)が一番多く、「新聞・テレビ」(24%)を上回った。こうした状況に対し、マスコミの多くは「メディアリテラシー」の重要性を叫びだしたが、日本のマスメディア・ジャーナリズムは記者クラブ制度に依拠し政府や官庁、行政のプロパガンダ・フィルターの役割を果たしてきた。それは戦前の体制翼賛体制に時代から変わっていない。「われわれが報道しなければ、その事実は存在しない」というゲートキーパー論に基づき、権力に都合よくニュース価値を差別・選別してきたのが日本のマスメディア・ジャーナリズムの実態だ(土田修『調査報道?公共するジャーナリズムをめざして』緑風出版)。

 「マスコミがネットに負けた」のではない。マスコミ自らが培ってきたメディアのあり方をネット社会が受け入れ、増幅・拡散・蔓延させてきたのだ。だから、「マスコミがネットに負けた」というのは責任逃れの言説でしかない。ブレヴィル氏の記事に戻ろう。彼は「歴史はこのように広範囲にわたって操作されている」と端的に指摘する。「自らの利益にかなう物語に沿って世論を形成する戦いにおいて、主要メディアを掌握する者たちは強力な武器を持っている。彼らの主な力は、議論の範囲を設定し討論の枠組みを定義することから成るので、自由民主主義のイメージを傷つける可能性のある出来事を『埒外』にとどめておこうとする」(ブレヴィル論説記事)。

 ル・モンド・ディプロマティーク紙は、固定観念を打ち破りフェイクニュースや意図的な偽情報を見極める「メディリテラシー」の道具として、増刊号Le Manuel d’autod~fense intellectuelle(知的自己防衛の手引き)を発刊した。「(ギリシャ神話に登場する)歴史の女神クレイオも、この手引きをオリンポスの売店に並べたいと思うに違いない」というブレヴィル氏の言葉に、同書を世に出す自信のほどがうかがえる。ル・ モンド・ディプロマティーク日本語版(https://jp.mondediplo.com)では来春、この手引きの日本語訳を出版する予定だ。この10数年、リーマンショックやコロナ禍、それにネット社会の進展によって経営が低迷している日本の新聞・テレビは、「公共するジャーナリズム」をかなぐり捨て、ネオリベ資本主義と権力に奉仕することで生き残りを図っている。同書が日本型マスメディア・ジャーナリズムの悲惨な現状に一矢報いることを期待したい