2024年12月4日水曜日

終わりゆくEUやユーロ(田中宇氏)

「田中宇の国際ニュース解説」に掲題の記事が載りました。
「変わりゆく・・・」ではなく「終わりゆく・・・」である点が事態の深刻さを表しています。
 EUの経済的牽引車であったドイツは、米国主導の対露制裁に拠ってロシアからの天然ガスを停止された結果 先行きが真っ暗になりました。
 櫻井ジャーナルによればロシアからの天然ガス供給ラインは対露制裁が課されると
ベラルーシとポーランドを経由してドイツへつながるヤマル-ヨーロッパ・パイプライ
ウクライナを経由するソユーズ・パイプライン
がまず寸断されました。次に2022年9月26日27日に、
バルト海を通るパイプライン、「ノード・ストリーム1」
・同じく「ノード・ストリーム2」
米国によって海底配管を爆破されました。

 ロシア産天然ガスをEUへ供給するルート破壊されたことで欧州は苦境に陥りましたが、特に化学製品の原料として用いていたドイツの被害は決定的で、GDPの6・5%を失いました(来年のGDPは「ー2・2%」の見込み)
 事実上政権崩壊したドイツで、支持と議席を増やしている右派政党のAfD(ドイツのための選択肢)が11月末EUやユーロ、温暖化対策パリ協定から離脱し、対露制裁をやめてロシアから石油ガス資源類などの輸入を再開することなどを掲げた新公約を発表しまし
 EUやユーロの中心であるドイツが離脱すると、EUもユーロも崩壊してしまうということです。
 今度のウクライナ戦争で明らかにされたのはNATOは米国の完全な「従属体」であり、米国はEUの経済がどうなろうと一向に構わないし、バイデンはむしろさらに没落することを望んでいるかのようです。

 欧州の政権はこれまで(超)エリート層で占められていて 庶民がどんなに苦しもうともそれには無頓着で、疑似理想主義的対応をとってきましたが、近年その綻びが各所で顕れてきました。ドイツのAfDやBSW(ザーラワーゲンクネヒト同盟)は、エリート側の大間違いに気づいた有権者に支持され、議席を増やしていると見られます。

 併せて櫻井ジャーナルの記事「ヨーロッパ経済を破綻させた天然ガスのパイプライン爆破とノルウェーの役割」を紹介します。
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終わりゆくEUやユーロ田中 宇
                田中宇の国際ニュース解説 2024年12月2日
政権崩壊したドイツ政界で、支持と議席を増やしている右派政党(マスコミ権威筋リベラル派から見ると「極右」)のAfD(ドイツのための選択肢)11月末、ドイツがEUやユーロ、温暖化対策パリ協定から離脱し、対露制裁をやめてロシアから石油ガス資源類などの輸入を再開することなどを掲げた新公約を発表した
1月の党大会で正式決定し、来年2月の連邦議会選挙の公約にする。AfDは、これまでの公約でもEUを批判していたが、離脱を掲げたのは初めてだ。欧州最大の経済大国で、EUやユーロの中心であるドイツが離脱すると、EUもユーロも崩壊してしまう。on{}Germany's far-right AfD to campaign to leave EU, euro and Paris deal)(Germany's far-right AfD vows to part ways with EU, Paris deal, euro

AfDは、ドイツが通貨としてユーロを使い続けることは、ドイツが(借金体質の南欧諸国を含む)EUを救済し続ける不合理なことなので、ユーロを離脱して新たな自国通貨(新マルク?)を作り、EUに替わる国家間共同体を作ると言っている
温暖化問題については、温暖化人為説が政治圧力によって無誤謬な科学的合意だという話にされている(人為説は実のところ間違っている)ので、温暖化対策のパリ協定からドイツを離脱させると言っている。人為説が政治詐欺であるという話は、私から見ると全く正しい。欧米の自滅と多極化を招く温暖化対策

米欧日のマスコミ権威筋リベラル派(米エリート側)から見ると、AfDは間違った考えを掲げる危険な極右であり、AfDの選挙公約も大間違いな危険思想だということになる。ドイツのエリート側の諸政党(SPDやCDUなど)は、AfDを非合法化しようとしているThe End Of Democracy? Vote To Ban AfD Party Will Occur Before German Snap Elections

だが私から見ると、ウクライナ戦争(ロシア敵視)、中国敵視(貿易停止)、地球温暖化、移民問題、財政、以前の新型コロナ対策、覚醒運動(ジェンダーなどの歪曲・逆差別)など、いくつもの分野で大間違いで危険な策を強行し、反対する人々を潰す全体主義を強めてきたのはエリート側だ。
ドイツのAfDやBSW(ザーラワーゲンクネヒト同盟)は、エリート側の大間違いに気づいた有権者に支持され、議席を増やしている。
エリート側がAfDを非合法化しようとするほど、有権者の間でAfDの人気が高まる。AfDは、人々の不満を汲み取って政策化しており、民主主義的だ。大間違いな策を強行するエリート側は、AfDなど反対派を弾圧する全体主義に走ることで、権力にしがみつこうとしている。 リベラル全体主義・リベ全の強まり

AfDの方が正しく、エリート側は間違っており「悪」だ。EUはフォンデアライエンなど、全体主義化したリベラル派が上層部を支配し、露敵視や温暖化対策や移民問題、覚醒運動などで大間違いで自滅的な策をやり続けている。AfDとその支持者たちが、ドイツのEU離脱を望むのは当然だ。
ユーロは、AfDが政権を取る前に金融崩壊を引き起こすかもしれない。ユーロが健全な状態なら離脱は困難だが、崩壊するならむしろ離脱して当然だ。
ウクライナ戦争が米欧側の敗北で終わりそうな中で、ロシア敵視も不合理な策になっている。米欧側の敗色をわざと無視して報じず、米国側の人々を無知な状態にしたマスコミは極悪だ。
少し前まで「過激な策」に見えていたEUとユーロからの離脱、パリ協定離脱、対露和解などAfDの策は今後、まっとうな政策に見えるようになっていく欧州エリート支配の崩壊

ドイツの社会活動機関Bertelsmann StiftungがEU27か国の市民に聞いたところ、欧州は対米従属を離脱して自立的に安保政策を決めるべきだと思っている人が、2017年の25%から今年の63%に増加している。欧州の従来の支配層(リベラル派エリート)は対米従属でやってきたが、それは民意の多数派でなくなくっている
(この世論調査で言うところの対米自立は「NATO内で欧州が米国と対等になり、欧州が米国から自立した安保政策を採れるようになること」を意味しているようだが、NATOにいる限り加盟諸国は徹底的な対米従属を強いられ、米国と対等などあり得ない。マスコミ権威筋によくあることだが、この設問は非現実的だ。欧州が対米自立するなら、NATOから出ていくしかないEuropeans prefer greater independence from the US)(Most EU citizens back breaking from US - poll

AfDだけでなく、フランスのルペン、ハンガリーのオルバン、スロバキアのフィツォなど、欧州各地で右派政党が支持を拡大している。最近は、ルーマニアの大統領選挙で右派のジョルジェスクが勝ちつつある(ロシアの選挙介入があったとか、米英傀儡のエリート層がイチャモンつけてるが)。
リベラル派のエリートは、権力にしがみつくために全体主義化し、不人気が増して駆逐されていく。フランスでは、マクロン傘下の連立政権に入った左翼政党がマクロンとの喧嘩を激化し、政府予算が成立せず政権崩壊していく流れにある。ドイツもフランスもエリートの政権が崩壊し、右派が強くなる。この傾向は今後も続くRight-Wing NATO Critic Wins First Round Of Romanian Election)(French Govt Collapse Imminent As Le Pen Piles On Pressure Over Budget Vote

AfDの強気は、米国選挙のトランプ勝利も追い風になっている。社会の自滅や不合理な負担増になっているリベラルな移民受け入れ積極策をやめるとか、インチキな人為説に基づく不合理な温暖化対策をやめるなどの点で、トランプとAfD(や多の欧州諸国の右派)の政策は似ている
トランプは人為説のインチキさに踏み込まずに石油ガス開発の再開を掲げているが、ドイツ人はくそまじめなので、AfDは人為説のインチキさからしっかり指摘している。良い。歪曲が軽信され続ける地球温暖化人為説

トランプは、就任日にウクライナを停戦すると公約した。プーチンは、非米側の結束強化を維持するため、米国側から敵視され続けることをこっそり望んでいる。停戦したら、米国側と非米側の対立が解け、非米側の中で米欧との付き合いを再開したがる国が出てきて、非米側の結束が弱まる懸念がある。
だがプーチンはサイン、トランプのウクライナ和平案を受けることにしたと言われている(ウクライナのNATO加盟を延期でなく永久否定にしろと条件を付けたとか)。'Contours Of A Trump Peace Deal': Kremlin Insiders Discuss Putin's Initial Reaction

これと連動する話として、ロシア軍は、ロシア領のクルスクを占領しているウクライナ軍を追い詰め始め、クルスクの土地の4割を奪還した。
ロシア政府は、ウクライナがクルスクを占領している限り停戦や和平交渉に応じないと言っていた。そして同時に、ロシア軍が本気を出せばクルスクはすぐ奪還できるのに、それをしてこなかった。ロシアはわざとウクライナにクルスクを占領させ、和平交渉を不可能にしてきた。
そのロシアが最近、クルスクからウクライナ軍を追い出していく過程を続けている。1月下旬のトランプ就任のころに、ちょうど露軍がクルスクからウクライナ軍を追い出し、プーチンが和平交渉に応じるかもしれないUkraine has lost over 40% of territory previously gained in Kursk incursion, Reuters reportsウクライナ戦争で米・非米分裂を長引かせる

だがウクライナ停戦してしまうと、非米側の結束が弱まり、プーチンの思惑から外れるのでないか??。それを考える際に、新たな動きとして、ドイツなど欧州各国で右派がリベラルエリートを蹴散らしていく過程が本格化していくことを加味すると。結論が違ってくる。
欧州が崩壊して政治経済の強さを失っていくと、非米側は、たとえウクライナが停戦して露中と欧州との関係が改善しても、もう欧州が魅力的な取引相手でないので、非米側の結束が崩れなくなる。
米国はトランプで、ドルの利用を忌避して米覇権を崩そうとする非米側に懲罰的な高関税をかけて制裁してやると息巻いている。ウクライナがどうなろうが、トランプと非米側(とくに中国)との関係は好転しない。How Trump’s dump on de-dollarization affects BRICS

トランプは、ウクライナとロシアを仲裁して停戦するかもしれないが、同時に、欧州ではドイツもフランスも政権崩壊が進んでおり、欧州が米国と並ぶ世界の中心である状態から急速に遠ざかっている
ウクライナが停戦しても、米欧は世界の中心に戻らない。トランプが非米諸国を経済制裁するほど、非米側は「米国要らず」の世界体制を構築していく。その全体状況を見て、プーチンはトランプのウクライナ和平策に乗ることにしたのでないか。

トランプは、ウクライナを停戦して停戦ラインをNATOの欧州諸国の軍勢が守る案を出している。だが、独仏が政権崩壊しているので、欧州諸国はウクライナに軍を出せる状況にない
欧州のエリートは、ロシアを潰すまでウクライナを支援すると言ってきたが、その非現実な姿勢が国民の支持を失い、下野しつつある。エリートに替わって多数派になっていく右派政党は、対露和解して石油ガスの輸入を再開し、ゼレンスキーへの支援をやめる現実策を採っている。ウクライナは停戦しても不安定な状態が続く。Trump’s national security advisor pick reveals Ukraine peace vision


ヨーロッパ経済を破綻させた天然ガスのパイプライン爆破とノルウェーの役割
                         櫻井ジャーナル 2024.12.03
 ドイツをはじめとしてヨーロッパ経済は破綻、社会は崩壊しつつある。最大理由はロシア産の安い天然ガスを入手できなくなったからだ。それはなぜなのか?
 アメリカのバラク・オバマ政権はネオ・ナチを使ったクーデターでウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒したのは2013年11月から14年2月にかけてのことだった。

 目的のひとつは、ウクライナをNATOの支配下に置くことでロシアに対する軍事的な圧力を強め、弱体化させることにあったが、天然ガスで結びついていたロシアとEUを分断するためにパイプラインをアメリカの管理下に置くという目的もあった。

 まずベラルーシとポーランドを経由してドイツへつながるヤマル-ヨーロッパ・パイプライン、ウクライナを経由するソユーズ・パイプラインがまず寸断されたが、ウクライナを迂回するため、バルト海を通るパイプライン、「ノード・ストリーム1」と「ノード・ストリーム2」が2022年9月26日から27日の間に爆破されている。その直後、ポーランドで国防大臣や外務大臣を務めたラデク・シコルスキーは「ありがとう、アメリカ」と書き込んだ。こうしてロシア産天然ガスをEUへ供給するルートは破壊され、ヨーロッパは苦境に陥った
 ちなみにビクトリア・ヌランド国務次官は2022年1月27日、ロシアがウクライナを侵略したらノード・ストリーム2は前進しないと発言、同年2月7日にはジョー・バイデン大統領がノード・ストリーム2を終わらせると主張、記者に実行を約束している。

 事故の可能性は小さく、ロシアには破壊する理由がない。​調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュは2023年2月8日、アメリカ海軍のダイバーがノルウェーの手を借りてノードストリームを爆破したとする記事を発表した​。工作の拠点はノルウェーだという。
 ハーシュによると、ジョー・バイデン米大統領は2021年後半にジェイク・サリバン国家安全保障補佐官を中心とする対ロシア工作のためのチームを編成し、その中には統合参謀本部、CIA、国務省、そして財務省の代表が参加している。12月にはどのような工作を実行するか話し合い、2022年初頭にはCIAがサリバンのチームに対し、パイプライン爆破を具申している。
 ノルウェーの海軍はアメリカと連携、デンマークのボーンホルム島から数キロメートル離れたバルト海の浅瀬で3本のパイプラインにプラスチック爆弾C4を設置、2022年9月26日にノルウェー海軍のP8偵察機が一ソナーブイを投下、信号はノード・ストリーム1とノード・ストリーム2に伝わり、数時間後に爆発した。

 スカンジナビアでは国のあり方を変える出来事が引き起こされたことがある。例えば、スウェーデンでは1986年2月28日、アメリカとは一線を画していたオロフ・パルメ首相が妻と映画を見終わって家に向かう途中に銃撃され、死亡している。
 パルメが首相に返り咲いたのは1982年10月8日のこと。その直前、10月1日からスウェーデンでは国籍不明の潜水艦が侵入したとして大騒動になるが、潜水艦は捕獲されず、根拠が曖昧なままソ連の潜水艦という印象だけが広められた。ノルウェーの研究者、オラ・ツナンデルによると、西側の潜水艦だった可能性が高い
 1980年までソ連を脅威と考える人は国民の5~10%に過ぎなかったスウェーデンだが、この出来事の結果、83年には40%へ跳ね上がり、軍事予算の増額に賛成する国民も増える。1970年代には15~20%が増額に賛成していただけだったが、事件後には約50%へ上昇している。(Ola Tunander, “The Secret War Against Sweden”, 2004)

 ノルウェーでは2011年7月22日に77名が殺害される事件が引き起こされている。犯人としてアンネシュ・ブレイビクが逮捕、起訴されているのだが、単独犯という公式見解に疑問を持ち、米英の情報機関が組織した「NATOの秘密部隊」が背後で蠢いているのではないかという推測もある。
 この事件では、まずオスロの政府ビル前に駐車していた自動車が爆発して8名が死亡、さらに与党だった労働党の青年部がウトヤ島で行なっていたサマーキャンプが襲撃されて69名が殺されているのだが、複数の目撃者が別の銃撃者がいたと証言している。

 その当時、ノルウェーの首相だったイェンス・ストルテンベルグは2014年10月から今年10月にかけてNATO(北大西洋条約機構)の事務総長を務め、ロシアとの戦争に向かって邁進する。そのストルテンベルグの友人も犠牲者に含まれていた。