兵庫県知事選は、立花孝志氏の乱入によってこれまでに見られない様相を呈しました。「民意は重視しなければ」は鉄則ですが、誤情報を規制する手段をもたないSNS界ではそれに接する人たちに相応の「リテラシー(正誤についての判断力)」が求められるのも当然のことです。
あの結果は果たして当然とされるべきそうした常識に則ったものだったのでしょうか。
立花氏のそもそものストーリーは「故県民局長は10年間に10人以上の女性と不倫乃至不同意性交を重ねていた」ので、それが公開されるのを苦にして自殺したというもので、その反動が斎藤知事に及んだだけで斎藤氏は完全なデッチアゲの被害者というものでしたが、その後10人ではなく7人だったか6人に減り最後は1人になったものの、その根拠も明らかでないということです。 ⇒https://youtu.be/8kJbfK9B8Ig (哲学系ゆーちゅーばー)
要するに立花氏の主張には何の根拠もなかったことを事後に本人が認めている訳で、そうしたものを政見放送として吹聴するのは非常識であり、故県民局長を冒涜し選挙民を侮辱する犯罪というべきです。
ところで斎藤氏は副知事のなり手がなくて困っているようです。「県議会から陥れ」られた「正義の人」の味方になる人が県庁内にはいないというのをどう解釈すればいいのでしょうか。それは勿論 故県民局長とは対照的に「人望がない」からで、彼がそういう人物であることが少なくとも県庁内では知れ渡っているからです。
知事選挙戦をPR会社と一体となって行った=公職選挙法違反の疑いで、上脇教授と郷原弁護士が2日、斎藤氏本人と「陣営から広報戦略を任された」とするPR会社社長に対する告発状を兵庫県警と神戸地検に送付しました。この件では県警は動きにくいので地検にも送付したものです。
日刊ゲンダイの掲題の記事と、併せて「兵庫県知事選 問われる『違法性』と『適法性』弁護士 三輪記子」を紹介します。
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斎藤元彦知事は“無双”から絶体絶命に…公選法違反疑惑で刑事告発した上脇教授と郷原弁護士に聞いた
日刊ゲンダイ 2024/12/03
兵庫県政を巡る混乱は収束の兆しが見えない。
県議会では、再選した斎藤知事によるパワハラなどの疑いについて調査する百条委員会が開かれているが、議員らは元気がない。調査は継続中だが、不信任を突きつけ失職に追い込んだ斎藤知事のまさかの復活に意気消沈。ある県議が言う。
「全会一致で『NO』を突きつけた斎藤知事が、知事選で有権者から『YES』と評価され信を得たわけです。今度は我々の方に“不信任”が突きつけられている格好。一部の支援者から『辞職すべき』と迫られています。中には『自主解散すべき』と言う県議もいるほどです」
民意を受けて再選した斎藤知事は“無双”状態だが、ここへきて新たな展開だ。炎上中の公職選挙法違反疑惑について、神戸学院大学の上脇博之教授と元東京地検検事の郷原信郎弁護士が2日、斎藤本人と「陣営から広報戦略を任された」とするPR会社社長に対する告発状を兵庫県警と神戸地検に送付したと明かしたのだ。
公選法は、選挙戦略を主体的に企画した者に報酬を支払うことを禁じており、違反すれば同法違反の買収に問われる恐れがある。上脇教授と郷原弁護士は、県内のPR会社「merchu」の折田楓社長が、知事選に関するSNSの広報戦略の立案などの業務を斎藤側から受注したと指摘。斎藤知事が報酬として71万5000円を支払ったとして、それぞれを買収罪と被買収罪容疑で告発している。
折田氏が投稿サイト「note」に、広報戦略を担うに至った経緯を詳述したことから疑惑が浮上し、目下、大炎上中である。斎藤側は71万5000円の支払いは「ポスター・デザイン制作」といった選挙運動とは無関係な5項目への対価だったと説明。SNS上の広報戦略を担った折田氏については「ボランティアで個人参加した」とし、公選法違反を否定しているが、疑惑は拭いきれていない。
きわめて怪しい「note」の修正
2日、斎藤知事は告発について問われ「詳細は承知していない」と逃げたが、胸中、穏やかではないのではないか。上脇教授と郷原弁護士に相当痛いところを突かれているからだ。
上脇教授が言う。
「折田氏はnoteが炎上して以降、中身を修正。選挙に主体的に関わったことを示す文言を変えたり、削除したりしています。問題を隠す意図があった疑いは濃厚です。また、斎藤氏側は71万5000円の支払いについて『選挙運動とは無関係な5つの項目への対価』としていますが、これらは折田氏がボランティアとして担ったSNSの広報戦略と切り分けることは不可能でしょう。支払いは『買収』だったと見るのが自然です」
斎藤知事が起訴される展開はあり得るのか。郷原弁護士はこう言う。
「県の組織のトップである知事を捜査対象にするのは、警察としては非常にやりにくいでしょう。そのため、今回は神戸地検にも積極的に関わってもらいたいという思いがあり、両者を並べる形で告発状を提出しました。最終的には検察の判断になるでしょうが、noteの内容や斎藤陣営関係者のSNSを精査したところ、買収罪は成立すると考えられます」
司直の手が伸びれば、また失職か。斎藤知事は絶体絶命だ。
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元明石市長でコメンテーターの泉房穂氏は兵庫県知事選の投開票日である先月17日夜に出演したフジテレビ「Mr.サンデー」で、斎藤氏との中継時に再選を祝う言葉と同時に謝罪するも、その後テレビ露出が激減。ファンの間からは《テレビから消えた?》の声が。果たして真相は? ●関連記事【もっと読む】『泉房穂氏は斎藤元彦知事に謝罪後「テレビから消えた」騒動が…"物言う"コメンテーターの現在地』で詳報している。
それ、当たり前のことですか? 弁護士 三輪記子
兵庫県知事選 問われる「違法性」と「適法性」
日刊ゲンダイ 2024/12/02
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
2024年、このコラムを書くようになって公職選挙法について触れることが多い気がする。7月は「事前運動」について触れ、それだけで起訴され有罪になる事案は見当たらないと指摘した。選挙人買収(公選法221条1項1号)と一緒に起訴されている事案が多い。
さて、今回の兵庫県知事選ではインターネットを使った選挙運動において選挙人買収の疑惑が生じている。総務省のホームページでは〈インターネットを利用した選挙運動を行った者に、その選挙運動の対価として報酬を支払った場合には買収罪の適用があります〉〈一般論としては、業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行う場合には、当該業者は選挙運動の主体であると解されることから、当該業者への報酬の支払いは買収となるおそれが高いと考えられます〉とある。
この点、知事はPR会社社長の行為は「ボランティアだった」と主張している。つまり無償行為であり、選挙運動の対価を支払ったわけではないという。ここで問題なのは当事者の弁解というよりも、その実態、内実。
PR会社社長がボランティアで選挙運動に従事していたら即セーフかというとそうとも限らない。従業員をも動員して選挙運動に従事していたとしたら、社長に買収罪が適用される可能性もある。買収罪は立候補者のみに成立する犯罪ではない。
仮に、PR会社社長に買収罪が適用されたとして、「組織的選挙運動管理者等」に当たることが連座裁判等により確定した場合には、公職の候補者本人に連座制が適用され、当選無効や立候補制限が課せられることとなる(公職選挙法第251条の2及び第251条の3)。つまり、この理路の場合、今回の選挙について当選無効となる可能性もある。
もちろん、指摘しているのはあくまでも「可能性」であって証拠状況によっては公職選挙法上の違法性から免れることもあるだろう。
しかし、このような疑惑にまともに答えず、事実関係さえ弁護士に回答させようとする(しかもその弁護士は事実関係を正確に押さえていないようだった。いやむしろ正確な事実を提供してもらっていないようだった)知事は、果たして政治家としての適格性があるのだろうか。説明責任から逃げ続ける者は公職に値しないと私は考える。あらためて強く言っておきたい。そのような政治家を戴くことを「当たり前」にしてはならない。
三輪記子 弁護士
1976年、京都市生まれ。東大法学部卒、立命館大法科大学院修了。2010年に弁護士登録。コメンテーターとしてテレビなどのメディア出演のほか、「弁護士三輪記子のYouTubeチャンネル」などネットでも発信。