2024年12月9日月曜日

09- アメリカ製ミサイルをウクライナがロシアに発射するのをバイデンが許可した理由

 New Eastern Outlookに掲題の記事が載りました。
 アメリカ製ミサイルをウクライナがロシア領内に発射するのを許可することにバイデン政権は長い間抵抗してきたのに、ここにきて突然ロシア領内への発射を許可したのは、トランプによってウクライナ戦争が収拾し、停戦に向かうことを妨害するためです。
 逆にバイデンがそれに「長い間抵抗」してきた理由は、来る大統領選に悪影響を及ぼすと考えたからでした。ところが先般の大統領選でも国会議員選でも民主党は敗れ、共和党がトリプルレッドを達成した以上、最早何も躊躇する必要はないと考えたのでしたが、それは民主党の利益のみを考えたものでした。
 ウクライナ戦争で明らかにされたのは、NATO体制の中で米国によってEUが完全に牛耳られている姿でした。ウクライナ戦争によっていまや経済的にそして政治的にも破綻しつつあるEUは現状のままで推移することに堪えられなくなりました。

 いずれにしても、トランプにはアメリカの外交政策上の利益を推進するために軍事紛争を利用するつもりもNATOへの執着もなく、彼の中心にあるのは「アメリカ第一主義」です。
 早くも独首相はロシア大統領と会談し、ウクライナ戦争終結後の二国間関係を確保しやがてはロシアからの天然ガス買い取りも復活することでしょう。
 NATO体制が破綻すれば、EUはロシアとの関係を含め独自外交政策に向かうことでしょう。1950年頃の情勢に基づいて「対ソ連軍事同盟」としてスタートしたNATOは、いまや時代錯誤の遺物というべきで、いまでは米国の強制の下でEUを経済的(・政治的)に破綻させる効果しか持ちません。
「ディープステート」に支配されたバイデンや民主党の狭い考えは排されるべきでしょう。
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アメリカ製ミサイルをウクライナがロシアに発射するのをバイデンが許可した理由
                マスコミに載らない海外記事 2024年12月 8日
                   Salman Rafi Sheikh 2024年12月5日
                        New Eastern Outlook
 ロシアへのミサイル発射をウクライナに許可したワシントン(とロンドン)の決定は明らかに緊張を高めるが、決定の背後にある謎のほとんどはタイミングで説明できる

アメリカ製ミサイルをウクライナがロシアに発射するのをバイデンが許可した理由
 バイデンが無謀だというだけではない。単なる狂気でもない。これは世界的地政学の要素を帯びた政治なのだ。
 大統領選挙と議会選挙の両方で共和党に敗れたバイデン政権は焦土作戦をとっているようだ。2025年に、トランプが就任して、交渉によるロシア・ウクライナ(NATO)軍事紛争解決に向かう前に、退任する政権は、問題を現在より遙かに複雑、致命的にするつもりのようだ。この計算されたエスカレーションの中心にあるのは、トランプの成功と、彼がNATOをウクライナから撤退させ、アメリカ覇権を覆す可能性に不満を抱く、アメリカの「ディープステート」だ。トランプは選挙運動中、戦争を終わらせると主張していた。
 アメリカの「ディープステート」は少なくとも彼に簡単にそうさせたくないのだ。
 NATOの失敗は欧州諸国が独自外交政策の方向性を決める新たな機会を生み出すだろう

タイミング
 アメリカ製ミサイルをウクライナがロシア領内に発射するのを許可することにバイデン政権は長い間抵抗してきた。今回の発射は、モスクワにとって進行中の紛争の「新たな局面」を意味する。モスクワには、おそらくこれ以外には、物事を見る方法がない。民主党支持派の反応は、この決定は、今後の交渉の可能性を受けて、ロシアに対するウクライナの立場を強化したいというバイデン政権の願望が動機となっているというものだ。だが、これが本当に主な意図なら、なぜバイデン政権は大統領職の絶頂期、つまり例えば1年前に同じ結論に達しなかったのだろう? バイデン政権は、ロシアが交渉の席に着くことを期待して、同じエスカレーションができたはずだ。ただし、バイデン政権がそのような決定を下さなかったのには、一つ、主な理由がある。
 モスクワの対応が、より致命的なものとなり、ワシントンとNATOが対処できる範囲を超えて戦争が激化すると彼らは理解していたのだ。バイデン政権は、致命的な激化は選挙での敗北につながると主張した。彼らは既に選挙に負けており、今更どうすることもできないため、トランプ政権を潰すために意図的に戦争を激化させているのだ。戦争が激化すれば、トランプ政権がロシアと交渉するのが難しくなる。また、トランプ政権がヨーロッパの同盟諸国と交渉するのも難しくなる。問題が複雑になるほど、解決策を見つけるのに時間がかかる。全体として、これで紛争を迅速に終わらせることができなかった責任をトランプ政権に転嫁する政治的機会を民主党に与えることになる。民主党にとって、これは中間選挙で提起できる重要な論点の一つになる可能性がある。
 この決定の背後にある政治を、バイデン政権の主要関係者は間接的に認めた。国務省のマシュー・ミラー報道官は、この決定を擁護し「アメリカ国民はジョー・バイデンを3年10カ月ではなく4年の任期で選んだ。任期中は、毎日アメリカ国民の利益になると信じる外交政策の利益を追求する」と記者会見で述べた。ただし、ここで問題となるのは民主党の利益だけだという点に注意が必要だ。

反応
 この政治をトランプ政権は理解している。Xへの投稿で、この変更は「父が平和をもたらし、人命を救う機会を得る前に、第三次世界大戦を始める」ことが狙いだとドナルド・トランプ・ジュニアは述べた。これは「エスカレーションの階段をもう一歩上ったもので、これがどこに向かうのか誰にも分からない」とトランプ大統領が国家安全保障問題担当大統領補佐官に指名したマイク・ウォルツ下院議員がフォックス・ニュースで語った。「移行期間中にウクライナでの戦争をエスカレートさせる」動きをバイデンが見せていると元トランプ政権の閣僚リチャード・グレネルも非難した。「まるで彼は全く新しい戦争を始めようとしているかのようだ。全て変わった。これまでの計算は全て無効だ」と彼は付け加えた。
 この反応は当然だ。なぜなら、ウクライナはATACMSシステムを数十基しか受け取っていないからだ。ウクライナの立場をバイデン政権が本当に強化したいなら、まず必要なのはこの装置の十分な供給確保だったはずだ。ウクライナが備蓄の全てを余りに早く発射し、意味ある影響を及ぼさない可能性が高いとすれば、このエスカレーションが意味するものは、交渉による紛争終結を遙かに複雑にするだけだ。1月にトランプが政権を握る前に更にエスカレーションが起きれば、そしてエスカレーションは十分あり得るが、今後数ヶ月間、紛争が激化することになる。

大詰め
 トランプ政権が紛争を終わらせると、ほとんどの人が理解している。第一に、トランプにはアメリカの外交政策上の利益を推進するために軍事紛争を利用するつもりはない。第二に、トランプ政治の中心は「アメリカ第一主義」政策だ。軍事紛争がトランプ陣営にいかに不適合かを理解しているのは、民主党員だけでなく、ウクライナ大統領自身も含まれる。二週間前、トランプが勝利した今、紛争は「より早く」終わるだろうと彼は公言している。
 アメリカ「ディープステート」内の反ロシア陣営にとって、この予想は非常に不安だ。これ以上NATOがヨーロッパに拡大できなくなることを意味するのだ。NATOが失敗すれば、ヨーロッパ諸国がロシアとの関係を含め、独自外交政策の方向性を決める新たな機会を生み出すだろう。実際、これは既に起きている。最近ドイツ首相がロシア大統領と会談したのは、単に紛争終結の可能性について話すためだけでなく、紛争後の二国間関係を把握するためでもあった。更に重要なのは、ドイツが電話会談を開始したことだ。従って、ドイツはロシアからのガス供給を再開する可能性がある。実際、両首脳はエネルギー貿易における「協力」の可能性について話し合った。
 この電話がきっかけで他のヨーロッパ指導者たちが電話をかけてウラジミール・プーチン大統領と話すようになるのではないかとワシントンは恐れている。それはワシントンが状況を制御できなくなることを意味する。そんなことが起きるのをワシントンの連中は望んでいない。従って、紛争を激化させる主な地政学的理由は、既にかなり近づいている終戦を阻止することだ。

 Salman Rafi Sheikhは国際関係とパキスタンの外交・内政専門家。
記事原文のurl:https://journal-neo.su/2024/12/05/why-biden-allowed-ukraine-to-fire-us-missiles-into-russia/