日本学術会議が安倍晋三政権が推進する「軍学共同」を拒否し、学術の健全な発展を求める画期的な声明を決定したことを、しんぶん赤旗が高く評価する「主張」(=社説に相当するもの)を掲げました。
政府の研究推進制度の創設を契機に、学術会議は昨年5月に検討委員会を設け計11回の会議を重ねて、同制度は「将来の兵器装備開発につなげるという明確な目的に沿って」いて「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と結論を出しました。同時に、大学などの研究機関に対して、軍事研究とみなされる研究について審査する制度の設置を求めました。
同紙は、声明は、こうした真摯(しんし)な議論を経て合意に達したもので、学術界の総意であることは明らかとして高く評価しています。
声明の全文を併せて紹介します。
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(主張)学術会議の新声明 軍事研究への明確な拒否回答
しんぶん赤旗 2017年4月1日
日本の科学者を代表する機関である日本学術会議が、「軍事研究を行わない」とした1950年と67年の声明を「継承する」とした新しい声明を先週末に決定しました。安倍晋三政権が推進する「軍学共同」を拒否し、学術の健全な発展を求める画期的な声明です。過去の声明を今日的に発展させた「軍事研究拒否宣言」というべき意義をもっています。
真摯な議論を重ねた総意
今回の声明が、過去の二つの声明の背景に「科学者コミュニティの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった」ことを明確にし、軍事研究が学術の健全な発展と緊張関係にあることを踏まえて過去の声明を「継承」したことは、極めて重いものがあります。政府の干渉を許さないため、憲法23条に「学問の自由」が刻まれたのであり、学術の健全な発展には「研究の自主性・自律性、そして特に研究成果の公開性が担保されなければならない」と強調しています。
防衛省が2015年度に創設した兵器開発のための基礎研究を研究者に委託する「安全保障技術研究推進制度」(研究推進制度)について、「将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って」いるとし、「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と断じたことは重要です。むしろ「民生分野の研究資金の一層の充実」こそ必要だとしています。現在の日本学術会議として出しうる最大限に強いメッセージで “研究推進制度には応募すべきでない” との警告を発したものといえます。
声明は、「研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用」される危険があるため、「研究資金の出所」について「慎重な判断が求められる」とし、大学などの研究機関に対して、軍事研究とみなされる研究について審査する制度の設置を求めました。
すでに、広島大、東北大、関西大、法政大など少なくない大学が、研究推進制度には応募すべきではないとの指針を定めています。各大学には、学術会議の声明を生かし、軍事研究拒否の明確な指針をもつことが望まれます。
学術会議は、研究推進制度の創設を契機に、昨年5月に検討委員会を設けて議論を重ねてきました。検討委員会は11回の会議を開き、学術会議会員の意見を集約し検討を深めました。当初は「自衛のための基礎研究なら許容される」との意見がありましたが、「自衛目的の技術と攻撃目的の技術との区別は困難」との認識で一致しました。
市民も参加したフォーラムでは、研究推進制度を「民生利用が目的の研究だから軍事研究ではない」と容認する意見に対し、「防衛省の資金をもらいながら軍事研究でないというのはごまかしだ」「科学者こそが戦争や軍事を残虐化してきた歴史があり、人道的責任を考えるべきだ」など、科学者の社会的責任を問う声が相次ぎました。
声明は、こうした真摯(しんし)な議論を経て合意に達したもので、学術界の総意であることは明らかです。
研究推進制度の廃止を
安倍政権は研究推進制度の今年度予算を前年度比18倍の110億円に急増させ、科学者をさらに取り込む狙いですが、明確な拒否回答が突き付けられました。政府は、この声明を重く受け止め、研究推進制度を廃止すべきです。
軍事的安全保障研究に関する声明
日本学術会議が1949年に創設され、1950年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明を、また1967年には同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発した背景には、科学者コミュニティの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった。近年、再び学術と軍事が接近しつつある中、われわれは、大学等の研究機関における軍事的安全保障研究、すなわち、軍事的な手段による国家の安全保障にかかわる研究が、学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることをここに確認し、上記2つの声明を継承する。
科学者コミュニティが追求すべきは、何よりも学術の健全な発展であり、それを通じて社会からの負託に応えることである。学術研究がとりわけ政治権力によって制約されたり動員されたりすることがあるという歴史的な経験をふまえて、研究の自主性・自律性、そして特に研究成果の公開性が担保されなければならない。しかるに、軍事的安全保障研究では、研究の期間内及び期間後に、研究の方向性や秘密性の保持をめぐって、政府による研究者の活動への介入が強まる懸念がある。
防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」(2015年度発足)では、将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募・審査が行われ、外部の専門家でなく同庁内部の職員が研究中の進捗(しんちょく)管理を行うなど、政府による研究への介入が著しく、問題が多い。学術の健全な発展という見地から、むしろ必要なのは、科学者の研究の自主性・自律性、研究成果の公開性が尊重される民生分野の研究資金の一層の充実である。
研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的な目的のためにも使用されうるため、まずは研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる。大学等の各研究機関は、施設・情報・知的財産等の管理責任を有し、国内外に開かれた自由な研究・教育環境を維持する責任を負うことから、軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである。学協会等において、それぞれの学術分野の性格に応じて、ガイドライン等を設定することも求められる。
研究の適切性をめぐっては、学術的な蓄積にもとづいて、科学者コミュニティにおいて一定の共通認識が形成される必要があり、個々の科学者はもとより、各研究機関、各分野の学協会、そして科学者コミュニティが社会と共に真摯(しんし)な議論を続けて行かなければならない。科学者を代表する機関としての日本学術会議は、そうした議論に資する視点と知見を提供すべく、今後も率先して検討を進めて行く。