2017年4月9日日曜日

09- シリア政権には毒ガスを撒く動機がない

 シリア北西部のイドリブ県で4日、毒ガスが撒かれ100人余りの人々が死亡しました。それに対してアメリカはシリア政府軍によるものだとして、間髪を入れず6日、地中海に展開する駆逐艦2隻から59発のトマホークミサイルを発射し政府軍の飛行場を爆撃しました。
 アサド政権は公営のメディアを通じて関与を正式に否定しましたが、西側のメディアは一斉に同政権が毒ガスを撒いたものと極めつけて、日本のTVコメンターなどはどこの倉庫から運び出したものかも米軍は特定しているなどとまことしやかに語りました。
 
 西側のメディアは、シリア政府軍の犯行であることが既定の事実であるかのように報道していますが証拠は何もありません。国連が調査を始めようと緊急安保理の開催を呼びかけた矢先の単独攻撃でした。
 そもそもシリアは化学兵器を持っていないというのが世界の共通認識で、櫻井ジャーナルは、「シリア政府軍が化学兵器を保有していないことは西側の政府もメディアも承知しているはずだ」と述べています。
 たまたま8日、9条を守る会主催の講演会で新潟市にきていた池田香代子氏も、全く同様に「シリア政府軍が化学兵器を持っていないことは世界中に明らかにされていた(要旨)」と語りました。
 それにもかかわらず安倍首相は、今回も世界に先がけてアメリカの攻撃を支持するコメントを出しました。
 共産党の笠井議員は記者会見で「化学兵器の使用は人道と国際法に違反する重大で許されない行為だが、国連安全保障理事会の決議もないままに、アメリカが一方的に攻撃を強行したとなると、国連憲章や国際法に反する」と批判しました。
 
 アメリカはこれまでもいわゆる有志連合を率いて存分にシリア国内を爆撃して来ましたが、何故今回はこんなに焦って単独行動を起こしたのでしょうか。そのうえ毒ガス散布の背後にはロシアがいる・・・とまで宣伝しています。
 シリアでは2013年8月21日にも首都ダマスカス郊外で毒ガスが撒かれ、その時は650人ともその倍ともいわれる人たちが犠牲になりました。アメリカはその時もアサド政権によるものだとして懲罰の軍事行動を主張し、それに同調した英政権は攻撃への参加を議会に提案しましたが否決されました。独と仏はシリア政府の仕業であることに懐疑的で行動に移ろうとはしませんでした。
 そうこうしているうちに8月30日AP通信の記者がシリア政府勢力が、化学兵器攻撃は自分たちが行ったと認める」というスクープ記事を出して決着しました。
 それは、サウジアラビアが反政府軍側に化学兵器提供したものの、ダマスカス郊外ゴウタ地区にいるシリアの反政府グループが取扱いに不慣れであったため、目的地に移送する途中で毒ガスを放出してしまったというものでした。サウジからの提供をアメリカが承知していたかは不明です。
 
 「世に倦む日々」氏は、まだAP通信のスクープが知られていない2013年8月30日のブログで、「シリアの化学兵器使用事件 - 動機から犯人を推理する」 と題して次のように述べています。 
 「シリア内戦で反政府軍が劣勢に陥り、政府軍側が優勢に進撃している」のであって、「結論から言って、アサド政権側にはこのような事件を起こす動機がない。このような残虐な事件を惹き起こして、国際社会から非難され指弾されることこそが、政府側にとって不利であり、欧米の直接軍事介入を招き、内戦を敗北に導きかねない過失である。有利に戦局を進めている政府側が、このような無意味で自殺行為になる軍事行動を起こす理由は何もないのだ」
 このことは今回においてもそのまま当てはまるもので、ロシアの参戦で反政府勢力を圧倒しているアサド政権には、毒ガスを使う理由はありません。
 同氏はまた、「シリア内戦の報道は、終始一環して、悪虐非道な独裁者アサドに苦しめられていた民衆が、『アラブの春』を機に果敢に蜂起し、自由と民主主義を求めて戦っているのだという、そういう勧善懲悪のメッセージで固められている」として、「アラブの春」はアメリカによる偽装だと暴露しています。
 
 そもそも当たり前の政権であれば毒ガスを自国民に使おうとはしないものです。
 ロシアは、今回のシリア政府軍空港への攻撃はアメリカが「事前」に準備したものであると非難しています。
 櫻井ジャーナルの記事を紹介します。
 
 追記)動機のない濡れ衣事件としては、2014年7月に起きた東ウクライナ上空でのマレーシア旅客機撃墜事件があります。事件が起きるや否やアメリカはロシア側の電話を盗聴したとする動画を流しましたが、早々に虚偽であることが明らかになり、代わりにウクライナ政府軍戦闘機2機が旅客機を追尾していたことがロシアによって暴露されました。またその後墜落された機体に機銃掃射を受けた弾痕が無数にある写真も公開されました。
    西側が行った旅客機ブラックボックスの解析は、普通なら10日もあれば出来るはずなのに、ほとぼりが冷めるのを待つかのように1年近くもかけてから、何の根拠もない「ロシアのブークミサイルで撃墜された」という当初アメリカが主張したストーリーに合致したものをひっそりと公表しました。
     (関係記事)
2014年7月22日  旅客機撃墜の犯人ロシア説は謀略?
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米軍が巡航ミサイルでシリア軍を攻撃、
そうした状況を利用してダーイッシュが反撃に出ている    
櫻井ジャーナル 2017.04.08 
アメリカ軍は4月日、シリアの軍事施設に59発の巡航ミサイル(トマホーク)を撃ち込んで23発が目標に命中、シリア軍にダメージを与えた。そうした状況を利用し、パルミラ周辺ではダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)が反撃に出ていると伝えられている。
 
2015年9月30日にロシア軍が空爆を始めてからアル・カイダ系武装勢力やダーイッシュの支配地域は急速に縮小、戦争の終結も近づいたと見られていた。そこでアル・カイダ系武装勢力やダーイッシュに替わってアメリカ軍が要衝へ入ってシリア軍の進撃を阻止する体制を整えていた。CIAが新たな戦闘集団を編成しているとも伝えられていたが、今回の巡航ミサイルによる攻撃は、そうした動きに連動している可能性がある。
 
シリア政府軍が化学兵器を保有していないことは西側の政府もメディアも承知しているはずで、今回のシナリオは嘘がばれることを承知で叫んでいる。2013年にも化学兵器の使用を口実にシリアへアメリカ/NATOは直接的な軍事介入をしようと試みたが、その時は攻撃から1週間ほどでアメリカ側の嘘が指摘されはじめた。今回、化学兵器使用が話題になってすぐにアメリカ軍は攻撃した理由はその辺にあるだろう。
 
 本ブログでも紹介したように、昨年8月、マイク・モレル元CIA副長官(2011年7月1日から9月6日、12年11月9日から13年3月8日の期間は長官代理)はチャーリー・ローズのインタビューでロシア人やイラン人に代償を払わせるべきだと語り、司会者からロシア人とイラン人を殺すという意味かと問われるとその通りだと答えている。
この発言の後、射殺を含め、ロシアの幹部外交官が相次いで急死、ウラジミル・プーチンの専属ドライバーは尋常でない交通事故で死亡している。乗っていた大統領専用車は大破した。この段階でアメリカの支配層はロシアと戦争を始めたと見る人もいる。
 
すでにアメリカはドルという基軸通貨を発行する特権で生きながらえる国になっている。その地位を維持するためにドルを回収する仕組みとして産油国にドル決済を要請、そうした国々を軍事的に守り、その支配層の地位を保証するという取り引きをしている。いわゆるペトロダラーだ。さらに、金融の規制緩和で投機市場を肥大化させ、ドルを吸収してきた。その仕組みが中国やロシアのドル離れで揺らいでいる。サウジアラビアは原油価格の下落や軍事侵略で財政赤字が深刻化、アメリカは救済せざるをえない。そのサウジアラビアがカネと戦闘員を供給、アメリカ/NATOが兵器を提供して戦闘員を訓練してきたのがアル・カイダ系武装集団やダーイッシュ。イスラエルも支援してきた。政権が交代してもアメリカはロシアや中国との戦争へ向かわざるをえなくなっている。