2018年7月4日水曜日

日米地位協定 動かぬ改定 独伊は事故を機に見直し

 沖縄で米軍絡みの事件・事故が後を絶たない原因は、在日米軍の特権的な立場を定めた日米地位協定にあると言われます。
 第二次世界大戦の敗戦国である日本、ドイツ、イタリアにはいまも米軍が駐留していて、それぞれが米国との間で地位協定を結び、米軍の特権的な立場を保証しています。
 
 日本は60年に日米地位協定を締結して以来一度も改定することなく現在に至っていますが、ドイツでは93年に改定し、「米軍機にもドイツの航空法が適用され、夜間飛行が制限される。訓練はドイツ航空管制の事前許可が必要」などの改善を勝ち取りました。
 イタリアでも98年、米軍機がロープウエーのケーブルを切断して20人が死亡した事件を機に、新たな協定を締結し、米軍の訓練の許可制度や、訓練飛行への規制が大幅に強化されました。
 沖縄県はそうした実態に鑑み、今年、基地対策課の職員をイタリアとドイツに派遣し、在欧米軍基地の運用実態、特に基地の排他的管理権について調査しました。
 
 日本には、さらに日米地位協定の運用を協議する日米合同委員会という機関があり、各省庁から選ばれた日本の官僚と在日米軍のトップが委員になって月2回、60年以上に渡って定期的に開かれています。かつてそこに初めて出席した米国務省の部長は、そこに「米軍が日本官僚に指示を与える占領中にできた異常な関係」が温存されていることに驚き、廃止を主張しましたが、在日米軍はそれを拒否しました。
 日本政府はこの屈辱的な組織をあたかも聖域であるかのように扱い、手を付けるのはおろか組織の存在自体を事実上秘匿して来ました。ところが昨年11月、韓国※では「米韓合同委員会」の合意内容について、「軍事機密や米軍の内部情報」を除いて、基本的に公表することになりました。それは韓国の市民が訴訟などを通じて合同委員会の内容を公開するよう働きかけた結果だということです。
 
 イタリアのディーニ元首相は、沖縄県の調査員に「米国の言うことを聞いているお友達は日本だけだ。沖縄が抱える問題は、日本の政治家が動かないと解決が難しい」と話したということです。トランプ氏との「特別」の友情を海外にまで主張する安倍首相が、こうした地位協定の改定に取り分け消極的なのはどういう訳なのでしょうか。
 
 沖縄県の調査結果にも触れた東京新聞の記事を紹介します。
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日米地位協定 動かぬ改定 独伊は事故を機に見直し
東京新聞 2018年7月3日
 沖縄県うるま市で二〇一六年に女性会社員が元米軍属の男に殺害された事件で日米両政府は、日米地位協定に基づかない形で、遺族に賠償金を支払うことで合意した。在日米軍の特権的な立場を定めた地位協定は、沖縄で米軍絡みの事件・事故が後を絶たない原因とされる。県は、日本と同じ第二次世界大戦の敗戦国であるドイツ、イタリアが米国と結んだ協定と比べて、抜本的な改定を訴えている。(村上一樹)
 
 うるま市の事件後、日米は軍属の範囲を縮小する補足協定を結んだが、地位協定の見直しに踏み込まなかった。賠償金を巡っても、日本側は地位協定に基づく賠償を求めたが、米側は、元米軍属の男は「米軍の被用者」に当たらないと主張。協定外の「自発的、人道的な支払い」にだけ応じた。不足した場合、日本側が見舞金として対応する。
 
 沖縄では米軍絡みの凶悪事件や米軍機の事故が繰り返され、県は地位協定に問題があるとして改定を求め続けてきた。その一環として、米軍が大規模に駐留するドイツとイタリアに職員を派遣し、両国と米国との地位協定を調査。県のサイトで公表した。
 
 ドイツでは東西統合前の一九八八年、航空ショーで米軍機が墜落し、七十人以上が犠牲になる事故が発生。これをきっかけに九三年、地位協定が改定された。米軍機にもドイツの航空法が適用され、夜間飛行が制限される。訓練はドイツ航空管制の事前許可が必要。
 米軍基地内に自治体職員の立ち入り権も認められ、ドイツの警察官が常駐。騒音軽減委員会が設置され、自治体の意見を米軍が聴く仕組みもある。
 
 イタリアでも九八年、米軍機がロープウエーのケーブルを切断してスキー客二十人が死亡したことを受け、その後、新たな協定を締結。米軍の訓練の許可制度や、訓練飛行への規制が大幅に強化された。
 
 対照的に日米地位協定は六〇年の締結以降、一度も改定されていない。原則として米軍に国内法は適用されず、訓練の詳細情報は知らされない。地域の委員会も設置されていない。沖縄県の翁長雄志(おながたけし)知事は先の「慰霊の日」平和宣言で「県民は、広大な米軍基地から派生する事件・事故、騒音に苦しみ続けている」と訴えた。
 しかし、安倍政権は協定の見直しに消極的。外務省の担当者は「日米地位協定が、他の地位協定に比べて不利ということはない」と言い切る。
 
 イタリアのディーニ元首相は、沖縄県の調査にこう話したという。「米国の言うことを聞いているお友達は日本だけだ。沖縄が抱える問題は、日本の政治家が動かないと解決が難しい」
米国との地位協定の比較 (沖縄県調査)
 
駐留米軍への国内法の適用
米軍基地への立入権
訓練演習への関与
日 本
国内法は原則適用され
日本側の施設区域内
日本側に規制権限なし。
 
 ない
への立入権の明記なし
訓練の詳細な情報通報なし
ドイツ
米軍施設の使用や訓練
ドイツ連邦、州、自
米軍訓練・演習にドイツ側
 
 ・演習に国内法適用
 治体の立入権明記
 の許可、承認など必要
イタリア
米軍の訓練行動などに
イタリア軍司令官は
イタリア軍司令官への事前
 
対し手国内法順守義務
 米軍基地に自由に
通告や、イタリア側の承認
 
 
 立入可能
 など明記

反基地座り込み350回 築上町「平和といのちをみつめる会」

 福岡県築上町の住民などでつくる「平和といのちをみつめる会」は2日、同町の航空自衛隊築城基地近くで、350回目となる基地反対の座り込みを行いました。
 同会は1987年2月、築城基地を拠点とした日米共同訓練の発表を受けて発足し、89年4月2日、旧社会党系団体など約2500人が、基地南側フェンス沿いに約2・8キロの「人間の鎖」を作ったことを機に、同年6月から毎月「2の日」に座り込み行動を続けて来ました。この日は約30人ほどが参加し、「滑走路延長反対」の巨大なのぼり旗を掲げました。
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反基地座り込み350回 「平和といのちをみつめる会」
築城基地「滑走路延長」白紙撤回求める(福岡県)
西日本新聞  2018年7月3日
 築上町の住民などでつくる「平和といのちをみつめる会」(渡辺ひろ子代表)は2日、同町の航空自衛隊築城基地近くで、350回目となる基地反対の座り込みを行い、古園敬児渉外室長に対し、小野寺五典防衛相宛ての滑走路延長計画の白紙撤回申し入れ書を提出した。
 
 同会は1987年2月、築城基地を拠点とした日米共同訓練の発表を受けて発足。F15戦闘機の配備直前の89年4月2日、旧社会党系の団体を中心に約2500人(主催者発表)が、基地南側フェンス沿いに約2・8キロの「人間の鎖」をつなぐ抗議行動を実施したことにちなみ、同年6月から毎月「2の日」、座り込み行動を続けている。
 今回は同会のメンバーら30人ほどが参加。先月下旬、防衛省が築城基地の滑走路を約300メートル延長して2700メートルとする延長計画を公表したため、「滑走路延長反対」の巨大なのぼり旗を急きょ掲げた。参加者は「次期主力戦闘機F35Aや輸送機オスプレイなどの配備につながり、騒音軽減にはつながらない」などと訴えた。
 
 渡辺代表(70)は「たとえ参加者が少なくても、地元に基地反対の声を上げる住民がいる。滑走路延長反対の大きなうねりを地元からつくりたい」と話した。

築城基地の滑走路延長計画の白紙撤回などを求め、座り込みをする「平和といのちをみつめる会」のメンバーら
築城基地の滑走路延長計画の白紙撤回などを求め、座り込みをする
「平和といのちをみつめる会」のメンバーら

04- 大企業役員報酬1億円以上が530人超え 日立は該当者が2倍以上に

 アベノミクスの下、大企業は大儲けをして企業の内部留保は16年度末の段階で406兆円に達しましたが、その反面、国民の実質所得は年々大幅に減少しています。
 
 そんな中、18年3月期で、上場企業で1億円以上の報酬を得た役員が530人を超え、過去最高を更新したということです。
 1億円以上の役員数が最も多かったのは三菱電機の22人、1億円以上の役員が急増したのは日立製作所で、前年度の7人から18人へと2倍以上に増えました。
 ため息が出るというよりも呆れ返るような話です。
 
 しんぶん赤旗の記事を紹介します。
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大企業役員報酬1億円以上500人超え
本紙調査 日立は2倍以上に
 しんぶん赤旗 2018年7月1日
 2018年3月期(17年度)に上場企業で1億円以上の報酬を得た役員が530人を超え、過去最高を更新したことが本紙調査でわかりました。500人を超えるのも初めてです。29日までに公表された3月期決算上場企業の有価証券報告書から集計しました。1億円以上の役員が急増したのは日立製作所で、前年度の7人から18人へと2倍以上に増やしました。
 
 1億円以上の役員数が最も多かったのは三菱電機の22人。4年連続で20人以上でした。22人の報酬額合計は32億9000万円で、前年度から7億2000万円の増加でした。
 2番目の日立製作所は、中西宏明会長が今年度から経団連会長を務めています。中西会長の報酬額は2億4300万円でした。
 続いてファナック、東京エレクトロンの10人でした。
 
 役員報酬額がもっとも多かったのはソニーの平井一夫前社長の27億1300万円でした。内訳は基本報酬2億4400万円のほか、業績連動報酬6億4700万円、ストック・オプション(自社株購入権)4億900万円など。さらに、今年4月の社長退任による退職金11億8200万円を加え、前年度の9億1400万円から大きく増やしました。
 2位はソフトバンクグループのロナルド・フィッシャー副会長の20億1500万円、3位もソフトバンクグループのマルセロ・クラウレ副社長で13億8200万円でした。
 
 安倍晋三政権による大企業優遇や株価つり上げ政策、トランプ減税の恩恵を受けて、高額報酬を受け取る役員が増えています。生活を切り詰めざるを得ないほど労働者の実質賃金が低迷を続けているのとは対照的です。
 
表:報酬が1億円を超えた役員の多い主な企業(各年3月期)


表:役員報酬ランキング(6月29日現在)

2018年7月3日火曜日

自由と権利の保持のための不断の努力を国民に求めた憲法12条

 憲法第12条ー「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。・・・」について、五十嵐仁・法政大名誉教授が、
「最近、憲法の条文のなかでも特に重要なのは、12条ではないかという気がしてきた。とりわけ、政治・社会運動に関わる人々にとって、12条は運動理念にも等しい重要な意味を持っているのではないか」として、取り上げました。
 
 憲法は権力者の権力を縛るものとされている中で、12条は「憲法が保障する自由と権利を守るための不断の努力」を国民に要請している点で特異な条文です。
 
 五十嵐氏は、これによって政治や行政・司法は、このような国民の努力を支える憲法上の義務を負っていることになるとして、国民と政治・行政・司法は、中立ではなく、それを「保持」するために「不断の努力」を行わなければならないことを憲法が要請していると述べています。
 冒頭の「12条は運動理念にも等しい」というのもそうですが、これらの指摘は新鮮です。
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自由と権利の保持のための不断の努力を国民に求めた憲法12条の重要性 
五十嵐仁の転成仁語 2018年7月2日
 最近、憲法の条文のなかでも特に重要なのは、12条ではないかという気がしてきました。とりわけ、政治・社会運動に関わる人々にとって、日本国憲法12条は運動理念にも等しい重要な意味を持っているのではないでしょうか。
 まず、その条文を確認しておきましょう。それは次のようになっています。
 
〔自由及び権利の保持義務と公共福祉性〕
第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
 
 この条文は、後段にある「自由及び権利」の「濫用」防止という点で注目され、「公共の福祉のために」用いる「責任」が強調されてきました。しかし、それ以上に重要なのは、前段にある「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」という部分だと思われます。
 憲法は権力者に対する命令書であって、99条に定められている憲法尊重擁護義務から国民は除外されています。権力者の恣意的な権力行使を制限し、その暴走を抑えるための「檻」のようなものだからです。
 しかし、この12条は他の条文とは異なり、国民に対する直接的な要請が書かれています。この憲法が「保障する自由及び権利」は、国民自身による「不断の努力」によって「これを保持しなければならない」と。
 
 7月1日付『東京新聞』の一面に「<世界の中の日本国憲法> 『世界最古』の未改正憲法 人権規定充実 平和主義貫く」という記事が大きく出ていました。この記事に登場するのは「あらゆる憲法の条文を比較研究しているケネス・盛(もり)・マッケルウェイン東大准教授」です。
 准教授は、「約四十本ある未改正の現存憲法の中では、日本国憲法は一番古い」と指摘しています。その理由として、人権規定が多く制定当時は「とても進歩的」(准教授)だったし、今でも十分世界に通用する水準であること、統治機構の規定が少なく、憲法を変えなくても法改正で対応できること、「日本国憲法は軍の最高司令官や兵役、軍事裁判所も書いていない。全部ない憲法はすごく珍しい」平和憲法であることなどを挙げ、改憲に必要な議会の承認に関しては、衆参両院の三分の二以上の賛成が必要とする日本国憲法は「一番スタンダード(標準的)」であると、改憲論者の言いがかりに反論しています。
 
 日本国憲法には時代を越えて長く通用する生命力があり、それにはちゃんとした理由があるということなのです。そして、その理由の一つである人権規定が多いという「とても進歩的」な側面を支えてきたのが12条であり、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」という規定だったのではないでしょうか。
 この規定は、憲法が保障する「自由及び権利」を守るために国民が「不断の努力」を行うことを求め、国民は自由と権利を守るために努力すべきこと、それらが侵されそうになったら抵抗すべきことを要請しているのです。このような国民一人一人の努力が積み重なり集まることになれば、それは集団的な行動となり政治・社会運動となります。
 したがって、政治や行政・司法はこのような国民の努力を支える憲法上の義務を負っていることになります。自由と権利のために運動することはもとより、そのために努力する個人や集団を支援することは憲法に書かれている要請なのです。
 
 冒頭で、私が「政治・社会運動に関わる人々にとって、日本国憲法12条は運動理念にも等しい重要な意味を持っている」と書いたのは、このような意味からです。自由や権利を守るという点で国民も政治・行政・司法も中立ではなく、それを「保持」するために「不断の努力」を行わなければならず、それは憲法上の義務なのだということを忘れてはなりません。
 
 自由と権利が忘れられ奪われ失われるような時代にあって、国民一人一人ができる範囲とやり方で自由と権利を守るために努力することはますます重要になっています。自由と権利を守る砦として憲法12条を政治と生活に活かすこと、その旗を掲げて「不断の努力を行う」ことこそ、憲法を守る国民としてのあるべき姿なのだということを再確認したいものです。

蓮池薫氏 安倍首相は言葉だけでなく結果を 拉致問題

 日刊ゲンダイが拉致問題で蓮池薫氏にインタビューしました。
 02年に帰国出来た5人の拉致被害者の一人 蓮池薫氏は、現在 新潟産業大准教授として教壇に立っています。
 インタビューで蓮池氏は極めて抑制的な表現をしていますが、やはり当事者として誰よりも拉致問題について深く考えているということが伝わります。
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 注目の人 直撃インタビュー  
拉致問題で蓮池薫氏 「安倍首相は言葉だけでなく結果を」
日刊ゲンダイ 2018年7月2日
 史上初の米朝首脳会談を受け、安倍首相も金正恩朝鮮労働党委員長とのトップ会談に意欲を見せている。2004年の小泉再訪朝以降、1ミリも進展しない拉致問題は解決に向かうのか。北朝鮮事情を肌で知る、拉致被害者で新潟産業大准教授の蓮池薫氏に聞いた。
 
■融和で非核化は進まざるを得なくなる
  ――米朝会談では両トップが「朝鮮半島における完全な非核化に向けてともに努力する」とした共同声明に署名。しかし、CVID(完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄)まで踏み込まず、ICBM(大陸間弾道ミサイル)をはじめとするミサイルに触れなかったことなどから、評価が分かれています。
 判断は時期尚早だと思います。完全な非核化に向け、ある程度の形をつくるには時間を要するでしょうし、1回や2回の協議では終わらないでしょう。「完全な」という文言が入っただけでも、スタートラインに立てたとはいえる。私は北に連れて行かれ、長いこと向こうで暮らしましたが、米朝対立は非常に根が深い。今日明日で変えられるようなものではない。家族や親戚を含めれば、朝鮮戦争(1950~53年)で被害を受けていない人は南北双方ほとんどおらず、70年近くにわたってだまし合い、陥れるような状態が続いてきた。長く続いた不信の時代を経ての非核化ですから、信頼感が醸成され、「今回は大丈夫だろう」という手応えがあって進む部分が大きいと思います。
 
  ――北朝鮮国内ではどう受け止められているのでしょうか。
 米朝会談はおおむね事実に基づいて報じられ、米国に対する批判的な内容はほとんどありません。約40分の記録映画を見て、信じられない思いでした。トランプ大統領にも敬称をつけ、「おふたりは何々をされた」と敬語を用いて紹介していた。国民は今までとは随分違うという印象を持ったと思います。戦争の対立構図の象徴だった米国と北の国旗が色鮮やかに並び、友好や平和のシンボルとして描き出されていた。対米イメージを国民レベルからも変えていく。これも今後の交渉ではプラスになるでしょう。この融和的環境は、北が逆に非核化で進まざるを得なくする要素にもなる、という思いを抱きました。
 
  ――北朝鮮の軟化は口先だけではないと。
 北が望む体制保証、米朝国交正常化、経済制裁の解除と支援が実現するメドが立てば、非核化を進めると思います。完全な非核化には技術的な検証などさまざまな段階を踏む必要があり、その過程で摩擦が生じることも当然あるでしょうが、北は非核化の意思がないまま交渉入りしたわけではないとみています。
 
  ――安倍首相も日朝首脳会談の実現を模索しています。
 日本はかなり積極的で、金正恩委員長も否定的ではないという感触がある。ただ、日本にとって問題なのは拉致問題が進展し、日本が望むレベルの回答を得られるかどうか。北の出方を見極め、水面下の交渉を進めて解決の確約をほぼ得た上で、首脳会談で決着をつける形が望ましいと思います。
 
  ――北朝鮮は党機関紙や国営メディアを通じて「拉致問題は解決済み」と繰り返しています。
 4月末の南北首脳会談以降、党機関紙「労働新聞」の論評などで「既に解決された問題を騒ぐ前に過去の罪悪を謝罪し、賠償するのが筋だ」という趣旨の主張をしていますが、これは微妙な言い回しです。彼らが言いたいのは、「拉致問題を持ち出す前」に「戦後賠償をやれ」ということ。拉致問題は過去の清算を済ませてから、という論調なのです。拉致問題の交渉を否定しているわけではありません。論評はすべて個人名の署名記事で、のちのち問題になったら「個人的な見解だ」と言い逃れができる余地がある。安倍首相が日朝首脳会談に意欲を見せて間もなく、国営ラジオの平壌放送も「日本は既に解決された拉致問題を引き続き持ち出し、自分たちの利益を得ようと画策している」と主張しましたが、平壌放送は国内では流れない。対外向けの放送です。拘束力のある外務省談話、外務省声明のような形式では一切言及していません。
 
  ――国家として拉致問題の交渉を拒んでいるわけではない。
 日朝対話が始まれば、拉致問題は必ず話し合われます。間違いない。北は交渉に応じてきます。問題は北がどういう形で回答を出し、どのレベルで解決しようとするか。あるいはごまかそうとするか。安倍首相は国会で「何をもって拉致問題を解決したと言うのかという問いが度々ある」「誰を拉致したかを知っているのは北朝鮮だ」「知っていることを全て話し、全ての拉致被害者を帰国させてほしい」と答弁していました。何人を拉致し、誰がどこにいるのかを北は把握しているのだから、被害者全員の情報を出してくるだろうというニュアンスで話をされた。北の情報を日本が検証し、「正直に出してきた」となれば解決に至るのだと私は受け止めました。ただし、その判断には日本独自の情報力が必要です。
 
政府は確証ある生存者情報を持っている
  ――日本政府の情報収集力を疑問視する声があります。
 拉致問題対策本部が09年に設立されて以来、情報収集のための国家予算がそれなりに計上されています。民主党政権時代の拉致問題担当相が退任後、(北朝鮮に拉致された可能性のある)特定失踪者に関する複数の生存者情報を出したこともあった。おそらく、政府が情報収集した結果でしょう。安倍首相は米朝会談を前にしたトランプ大統領に対し、金正恩委員長が「拉致問題は解決済み」と主張しても、受け入れないよう要請したと報じられている。国家のトップがあやふやな情報をもとに、他国のトップに掛け合うとは思えない。確証のある生存者情報があってのことでしょう。そうした状況からいって、政府はかなりの生存者情報を把握しているのではないか。北が誠意を持って対応せず、出し渋るようだったら、日本独自の情報を活用して前に進めなければなりません。
 
  ――14年のストックホルム合意に基づく再調査は頓挫したままですが、展望は開けるのでしょうか。
 当時とは状況が違います。あの時も北は外交的に追い込まれてはいました。韓国と中国が接近し、朴槿恵大統領に訪中で先を越され、習近平国家主席も慣例を破って北朝鮮の頭越しに訪韓した。日本に少し近づけば、孤立状態を緩和できると考えたと聞きます。北が特別調査委員会を立ち上げ、活動を始めると宣言し、日本は独自制裁の一部を解除した。北は初期段階の成果は得ましたが、本来の目的である日朝平壌宣言に基づく国交正常化と、1兆円ともいわれる戦後賠償にはたどり着けそうになかった。国際社会が求める核・ミサイル問題を棚上げしたまま拉致問題を解決しても、日本から経済協力を得られる状況になかったからです。だから、拉致カードは使わなかったのです。
 
■これまでは局面打開の努力が足りなかった
  ――核・ミサイル問題解決の道筋が見え、国際社会による経済支援が現実味を帯び、日本に拉致カードを切る可能性が高まった。
 拉致問題の解決を前提に、安倍首相も平壌宣言の実現に言及しています。日本が経済協力として提示するのは中国や韓国によるものとは異なり、北にとって有利な内容だと強調する必要があると思います。対中貿易が9割を占める北は、中国の経済的属国になりかねないという危機感を強めている。経済的にバランスを取ろうとすれば、支援に積極的な韓国が浮上しますが、政治的変動が起こり得ます。文在寅大統領を支える革新政権から保守政権に交代すればギャップが大きく、先が見通せなくなる。その点、日本の経済協力は「過去の清算」という性格のものなので、北の求めに応じる形にならざるを得ない。これは北にとって非常に使い勝手がいいものになるでしょう。
 
  ――第2次安倍政権発足以降の5年半、拉致問題は進展しませんでした。安倍首相の本気度を疑う声も上がっています。
 北が核・ミサイル開発を進め、日本に打つ手がほとんどない中でも、何とかして局面を打開し、北をその気にさせてやろうという努力は足りなかったように思う。安倍首相もそうですし、加藤拉致問題担当相にも言えます。しかし、核・ミサイル問題が動く可能性が出てきた。内政での政治的目的もあるかもしれませんが、結果さえ出してくれればいいと思う。「やります」という言葉で世論を誘導するだけではなく、これだけ環境が整ってきているのですから、今回は本気で取り組んで結果を出してほしい。安倍首相も「今度こそ」という思いを強く持っていると信じたいです。 (聞き手=本紙・坂本千晶)
 
 ▽はすいけ・かおる 1957年、新潟県柏崎市生まれ。中大法学部在学中の78年、郷里の海岸で北朝鮮工作員に拉致される。02年に帰国後、中大に復学して卒業。05年、初の翻訳書「孤将」(金薫著)を刊行、執筆や翻訳に携わる。09年、「半島へ、ふたたび」で新潮ドキュメント賞受賞。新潟産業大准教授として教壇に立つ。専門は韓国語、朝鮮・韓国文化。

03- 「ペンは負けない」 ジャーナリストの良心宣言

 政治の腐敗を絶つ決め手は「国民の怒り」ですが、それを支えるのが記者たちの筆であり、カメラです。
 大阪北部を大地震が襲った日の夜、安倍首相は岸田政調会長と高級日本料理店で「しゃぶしゃぶ」を楽しみましたが、「定額働かせ放題」の労働法改悪が成立した6月29日の夜には、今度は報道各社の幹部やコメンテーターたちを夕食に招きました。
 
 権力になびくメディアの姿があぶり出される一方で、反骨のジャーナリストたちが1日、シンポジウム「ペンは負けない カメラは見逃さない ― ジャーナリストの良心宣言2018」を開きました。そこでは東京新聞の望月衣塑子記者、元朝日新聞記者の竹信三恵子さん、沖縄タイムスの阿部岳記者らがマイクを握りました。
 田中龍作ジャーナルの記事を紹介します。
 
 因みに、「ペンは剣よりも強し」の名言は英作家エドワード・ブルワー・リットンの歴史劇『リシュリューあるいは謀略』(1939年)の中で登場しました。
 17世紀、仏宰相リシュリューは、部下の司令官らが自分を暗殺しようとしていることを知ったとき、武力で制圧することはせずに、「偉大な人間の統治下では、ペンは剣よりも強し。見よ、魔法使いの杖を」と述べた(ウィキペディアより)ことに始まります。
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「ペンは負けない、カメラは見逃さない」 出るか、第2の望月衣塑子
田中龍作ジャーナル 2018年7月1日 
 もう誰も驚かなくなった。「労働者を奴隷のごとく働かせる」法律が、国会で制定された6月29日の夜だった。「寿司友セブン」で知られる報道各社の幹部とコメンテーターが安倍首相と夕食を共にしたのである。彼らにしてみれば庶民の厳しい暮らしなんぞ別世界だ。 
 
 マスコミはいつから権力の下僕と化してしまったのだろうか。「見て見ぬフリをしてはならない。不正を暴き世に知らしめなくてはならない」・・・反骨のジャーナリストたちがきょう、都内に集って現状を憂えた。
 東京新聞の望月衣塑子記者、元朝日新聞記者の竹信三恵子さん、沖縄タイムスの阿部岳記者がマイクを握った。
 
 望月記者は「安倍政権はメディアコントロールを徹底したがっている」。元朝日新聞の竹信美恵子さんは「内容がない安倍政権にとってメディアは生命線になっている」。二人はこの国のジャーナリズムが危機的な状況にあることを指摘した。
 沖縄タイムズの阿部岳記者は「本土メディアの記者が少ない沖縄で、唯一現場に立ち会えるのが地元紙。なかったことにさせない」と淡々と語った。
 
 『なかったことにさせない』という阿部記者の言葉に筆者は震えた。これこそジャーナリズムの神髄ではないだろうか。
 この他、登壇した現役記者は、神奈川新聞、埼玉新聞といずれもローカル紙の記者だった。全国紙からはOB記者のみ。テレビ局はOGディレクターだった。これが日本の組織ジャーナリズムの現状だろう。
 「ジャーナリズムは会社ではなく個人が支える」。朝日新聞元科学部長の柴田鉄治さんが喝破した。第2、第3の望月衣塑子、阿部岳が出てくるだろうか。
〜終わり~

2018年7月2日月曜日

拉致問題を解決できるのか 新設「北東アジア第2課」

 7月1日新設の外務省「北東アジア第2課」は、約30人いた北東アジア課を、韓国担当の「1課」と、北朝鮮担当の「2課」に分割したもので、安倍政権は第2課を新設する目的について「諸課題に効果的に対応するため」とアピールし、メディアも「拉致問題解決に一歩前進」と歓迎しています。
 しかしそれは実態からは遊離した話で、外務省内では、北朝鮮が安倍首相に強い反感を持っていることから「安倍政権下での拉致問題解決はまず無理」と見られているにもかかわらず、失敗したら責任を取らされるのは外務官僚です。そこで、その犠牲となる部署を新設したのではないかということです。役人も中々難儀なことです。
 
 安倍首相の下では拉致問題の解決はできないというのは素人が見ても明らかなことなので、それをどうするのかということこそが根本問題の筈です。
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拉致問題にどこまで本気か 新設「北東アジア第2課」の役割
日刊ゲンダイ 2018年6月30日
 7月1日新設される外務省のアジア大洋州局「北東アジア第2課」。現在、約30人いる北東アジア課を、韓国担当の「1課」と、北朝鮮担当の「2課」に分割する。新設される第2課は、日朝会談の実現と、拉致問題の解決に総力をあげるという。
 
 安倍政権は、第2課を新設する目的について「諸課題に効果的に対応するため」などとアピール。メディアも「拉致問題解決に一歩前進」と歓迎している。ところが、第2課について、霞が関ではきな臭いウワサが駆け巡っている。
「外務省内では『安倍政権下での拉致問題解決は無理』との声が少なくない。原因は、これまで『対話のための対話では意味がない』と訴えてきた安倍首相にあります。でも、失敗したら外務官僚が責任を取らされるのは明らかです。そこで、“エリートに傷がつかないように第2課を新設したのだろう”とみられています。エリートは第1課に残し、第2課は省内のエリートに代わって、“詰め腹”を切らされる役割。国鉄の清算事業団と同じですよ」(外務省関係者)
 第2課に割り振られる人員の選考基準や人数について外務省に問い合わせると、「人事に関わる事項について、お答えすることは差し控えたい」との回答だった。
 
 新しい課をつくってまで、安倍政権は日朝会談の実現に奔走しているが、肝心の北朝鮮からは相手にされていない。
 北朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は、<安倍は権力の座に居続けるために、わが国の『脅威』を利用している>(28日)、<財布を見せびらかして朝鮮半島問題に干渉するのをやめるべきだ>(29日)などと、連日、批判している。
 元外交官の天木直人氏がこう言う。
「政府には、拉致被害者の生存者がいるのかどうか、検証するノウハウさえない。安倍首相の周辺には、『いずれ北は経済支援欲しさに頭を下げてくる』と主張する者もいますが、本当でしょうか。朝鮮半島の非核化が実現すれば、アメリカや中国、ロシアのビジネス資本が大量に入ってくる。日本の経済支援などあてにする必要がないのです。安倍政権下で拉致問題を解決するのは難しいでしょう。外交の失敗そのものですよ」
 
 新設される北東アジア第2課の顔ぶれを見れば、どこまで外務省が本気か見えてくる。