2025年9月1日月曜日

対ロシア戦争へのめり込むイギリスとの軍事的な連携を強化する日本

 櫻井ジャーナルに掲題の記事が載りました。
 トランプはウクライナ戦争を何とか終わらせようとしていますが、英国は一貫して反対の姿勢を貫いています。それなら英仏独は自分たちの経済力だけでウクライナを援助すればいいというのがトランプの考えなのですが、英仏独はどんな見通しを持っているのでしょうか。
 日本が米国とベッタリなのは言うまでもありませんが、最近は英国とも連携を強化しているということです。いずれにしても戦争を放棄した筈の本来の日本の在り方からは既に大いに逸脱しつつあることが分かります。

 併せて「ウクライナのネオ・ナチ指導者が暗殺された背景」を紹介します。ネオ・ナチを直訳すると「新ナチズム」になりますが、むしろナチズムというよりそれとは「無縁」の、白人至上主義・極右過激主義を意味しているようです。ウクライナ政権には2014年のクーデター以降そうした要素が強くあります。
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対ロシア戦争へのめり込むイギリスとの軍事的な連携を強化する日本
                        櫻井ジャーナル 2025.08.29
 海上自衛隊は8月4日から12日にかけてイギリス、アメリカ、オーストラリア、スペイン、そしてノルウェーとフィリピン海で軍事演習を実施した。アメリカからは空母「ジョージ・ワシントン」、イギリスからは空母「プリンス・オブ・ウェールズ」、そして日本からは空母「かが」を含む艦船が参加、12日にプリンス・オブ・ウェールズはアメリカ軍の横須賀基地へ入港している。演習中、イギリス軍のF-35B戦闘機を「かが」に着陸する訓練も実施された。
 日本とイギリスは軍事面で関係を強め、イタリアと共に次世代戦闘機プロジェクトのGCAP(グローバル戦闘航空計画)を始動させている。プロジェクトの本社はイギリスに置かれ、機体の設計や開発を担当するエッジウィングはイギリスのBAEシステムズ、イタリアのレオナルド、そして日本の日本航空機産業振興(JAIEC)のジョイントベンチャー。なお、JAIECは日本航空宇宙工業会と三菱重工業が共同出資で設立した会社で、昨年7月10日に事業を開始した
 どのようなタグを付けても「かが」は航空母艦である。2022年3月に広島県呉市のジャパンマリンユナイテッド(JMU)造船所で初期改修を開始、24年4月に完了、さらに艦内の改修が26年後半に始まり、27年度末までに完了する予定だ。この改修はF-35B運用に向けてのもので、「空母化」と言える。飛行甲板の艦首部分を台形からアメリカ海軍のワスプ級およびアメリカ級強襲揚陸艦に見られるような正方形に形状を変更した。姉妹艦の「いずも」の改修は2024年度に開始、26年度末に完了する予定になっている。
 今回の演習について海上自衛隊は「自由で開かれたインド太平洋の実現」と、参加海軍間の戦術能力の向上および協力強化にあるとしているが、アメリカの戦略に基づき、中国の海上輸送路を抑え込むことにあるだろう。
 イギリスは同じアングロ・サクソン系国のオーストラリアやアメリカとAUKUSを創設、アメリカ、オーストラリア、インド、日本はクワドなるグループを編成、軍事的な連携を強化してきた。ロシア国家安全保障会議のニコライ・パトロシェフ議長はAUKUSが中国やロシアを仮想敵とする「アジアのNATO」だと批判した。
 実際、NATO(北大西洋条約機構)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は2020年6月、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、日本をメンバーにするプロジェクト「NATO2030」を開始すると宣言している。AUKUSの後、JAPHUS(日本、フィリピン、アメリカ)なる軍事同盟も編成した。
 AUKUSではアメリカ製の攻撃型原子力潜水艦を売却することになっている。そうした潜水艦を動かすためにはアメリカの軍人が乗り込む必要があり、事実上アメリカ海軍の潜水艦になるとも言えるだろう。山上信吾オーストラリア駐在大使はキャンベラのナショナル・プレス・クラブで2022年11月14日、日本がオーストラリアの原子力潜水艦を受け入れる可能性があると表明している。
 しかし、ここにきてドナルド・トランプ政権はAUKUSに消極的な姿勢を見せていることから、原子力潜水艦の売却規模を縮小するのではないかとも言われ始めた。その推測が正しいなら、イギリスが出てきても不思議ではない。
 東アジアだけでなく、ウクライナでもイギリスの攻撃的な姿勢が目立つ。ボリス・エリツィン時代にオリガルヒとしてロシアの資産を略奪していたミハイル・ホドルコフスキーによると、彼が所有していたロシアの石油会社ユーコスを支配していたのは、ジェイコブ・ロスチャイルドだったという。
 黒土が広がるウクライナは穀倉地帯としても有名だが、その約4分のは外国企業が所有している。2022年には約3分の1をカーギル、デュポン、モンサントの3社が所有、この3社は効率性を高めるため、コンソーシアム(⇒共同事業体)として契約を締結して事業を開始した。このコンソーシアムは事実上、ウクライナの土地の半分以上を支配している
 このカーギル、デュポン、モンサントの主要株主には巨大金融機関のブラックロック、バンガード、ブラックストーンが名を連ね、ウォロディミル・ゼレンスキーはブラックロックのほかJPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスと協力関係にある。ブラックロックは2022年後半からウクライナ政府のコンサルタントを務め、ブラックロック傘下の企業はウクライナの戦略的資産の大部分を支配するようになったと報道されている。ちなみに、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相はブラックロックで監査役を務めていた人物で、エマニュエル・マクロン仏大統領はロスチャイルド銀行で働いていた。
 ウラジミル・プーチン露大統領はイギリスのシティを拠点にしていたジェイコブ・ロスチャイルドが手にしようとしていた莫大なロシアの資産をロシア人の手に取り戻したわけだ。ジェイコブはロシアの資産を奪うために多額の資金を投じているはずで、ウクライナで負けるわけにはいかないのかもしれない


ウクライナのネオ・ナチ指導者が暗殺された背景
                         櫻井ジャーナル 2025.08.31
 ウクライナの最高議会で議長を務めた経験のあるアンドレイ・パルビーが8月30日、ポーランドに近いリビウで殺害された。この人物はウクライナにおけるネオ・ナチの幹部のひとりだ。
 1991年にオレフ・チャフニボクとウクライナ社会ナショナル党(後のスボボダ)を結成、1998年から2004年にかけて彼は準軍事組織「SNPU(ウクライナ愛国者)」を率いていた。2004年に彼はオレンジ革命に参加しているが、これはビクトル・ヤヌコビッチを排除し、新自由主義者のビクトル・ユシチェンコを大統領に据えるため、アメリカが仕掛けたものだ。

 ユシチェンコ時代にオレンジ革命の指導層は西側資本の手先としてウクライナ人の富を略奪、自分たちの富を築いたが、国民は貧困化していく。その結果、2010年の大統領選挙ではヤヌコビッチが勝利、大統領に就任した。彼を嫌っていたアメリカ政府は2013年11月から14年2月の期間、ウクライナでクーデターを仕掛けて成功させている。そこから現体制は始まった。
 年明け後にクーデターは激しくなり、キエフのユーロマイダン(ユーロ広場、元の独立広場)ではネオ・ナチのメンバーが登場して暴力行為をエスカレートさせていく。2月18日頃から棍棒、ナイフ、チェーンなどを手にしながら石や火炎瓶を投げ、ピストルやライフルで銃撃を始めた。その頃、2500丁以上の銃をネオ・ナチは広場へ持ち込んでいたとも言われている。
 こうした状況を一気に悪化させたのは広場での狙撃。第1発目は音楽協会ビルから撃たれたのだが、そこを管理していたのはアンドレイ・パルビーにほかならない。スナイパー⇒狙撃手)は外国からも雇われていた
 この狙撃を調査するため、2014年2月25日にエストニアのウルマス・パエト外相がキエフへ入った。その結果を彼は26日にEUのキャサリン・アシュトン外務安全保障政策上級代表(外交部門の責任者)へ電話でスナイパーはヤヌコビッチでなく、反ヤヌコビッチ勢力だと報告しているが、ヤヌコビッチの排除を優先するアシュトンは「議会を機能させなければならない」と応じている。

 2017年11月にはパエトの報告を裏付けるドキュメントがイタリアで放送されている。その中で自分たちが狙撃したする3人のジョージア人が登場、警官隊と抗議活動参加者、双方を手当たり次第に撃つよう命じられたとしている。この3人は狙撃者グループの一部で、治安部隊のメンバーとしてジョージアから送り込まれたいう。
 その証言者によると、キエフのクーデターはジョージアで実行されたバラ革命と同じシナリオ。狙撃の指揮者はアンドレイ・パルビーだとも語っている。
 またふたりの研究者、オタワ大学のイワン・カチャノフスキーとカリフォルニア州のCETIS(テロ情報研究センター)のゴードン・ハーンも狙撃はスボボダや右派セクターなどによって行われたという結論に達しいている。(Medea Benjamin & Nicolas J. S. Davies, “War In Ukraine,” OR, 2022)

 パルビーは2014年5月2日のオデッサ虐殺において中心的な役割を果たした。この虐殺では、数十人のロシア系住民が労働組合会館に閉じ込められ、建物が放火された後に殺害された。元SBU職員のヴァシリー・プロゾロフによると、パルビーは当日、武装民族主義過激派のオデッサへの移送を組織し、その調整を監督していた。
 その日、オデッサではサッカーの試合が予定されていて、サッカー・ファンを乗せた列車が午前8時に到着、そのファンをネオ・ナチの「右派セクター」が挑発、広場へと誘導、住民虐殺に繋がった。

 西側諸国はロシアを舌先三寸で騙すことに失敗、停戦に持ち込んでウクライナの戦力を回復させるための時間を稼ぐという目論見は失敗に終わった。ウクライナは兵力も兵器も枯渇、ロシア軍の勝利は決定的で、戦争を推進してきたネオコンや配下のヨーロッパの「エリート」は迷走している。簡単に勝てるという前提で結束していた反ロシア勢力は分裂を始めているが、今回の暗殺にもそうした背景があるのかもしれない