2025年9月4日木曜日

ガザ虐殺 ジェノサイドと認定 国際学会即時停止求め決議 他3件

 国際ジェノサイド学者協会(IAGS)は8月31日、イスラエルがパレスチナ・ガザ地区で行っている「政策と行動」について、国際法上のジェノサイド(集団殺害)の要件を満たすと認定し、即時停止を求める決議を採択しました。IAGSは、過去から現代に至るジェノサイドの研究と分析、防止に向けた政策提言を行ってきた国際的影響力のある学術団体で、世界のジェノサイド研究者が参加しています。
 決議は、国際社会が「ジェノサイド防止条約に基づく責任を果たすべきだ」と訴え、各国にICC逮捕状の執行に協力するよう呼びかけました。

 イスラエル軍がパレスチナ・ガザ地区で続けるジャーナリスト殺害に対し、50カ国以上200を超える報道機聞が1日、共同で抗議し、報道の自由の保障を訴え、さらに国連安保理に「イスラエル軍の犯罪を止める強力な行動」を呼びかけました。
 この行動は国際ジャーナリスト連盟(IFJ)、国境なき記者団(RSF)国際市民運動ネットワーク「アバーズ」が共同で呼びかけました。

 ベルギーのプレボ外相は2日、今月ニューヨークで開かれる国連総会でパレスチナを国家承認すると発表しました。オーストラリア、英国、カナダ、フランスも同じ意向を示しており、パレスチナ・ガザ地区を侵攻するイスラエルに対する国際的な圧力が強まっています。
 プレボ氏はへの投稿で「パレスチナ、特にガザ地区での人道的惨事や、イスラエルが国際法に違反して行っている暴力」を受けての決定だと述べ、イスラエルに対し12の「強硬な」制裁を課すとしています。

 サイバーセキュリティ関連の大規模イベント「サイバーテック東京2025」が4日、都内のホテルで開かれるのに先立って、登壇者の3分の1以上がイスラエル人であることを問題視した日本の市民団体が1日、イベントを後援する日本政府の経産省及び内閣官房の担当者と後援の撤回などを求める交渉を行ないました。
 市民団体は事前に10項目の質問書を出しましたが、政府の担当者は文書で回答をせず、口頭で「答える立場にない」などの回答を何度も繰り返しました。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ガザ虐殺 ジェノサイドと認定 国際学会即時停止求め決議
                        しんぶん赤旗 2025年9月3日
【カイロ=米沢博史国際ジェノサイド学者協会(IAGS)は8月31日、イスラエルがパレスチナ・ガザ地区で行っている「政策と行動」について、国際法上のジェノサイド(集団殺害)の要件を満たすと認定し、即時停止を求める決議を採択しました。
  【ジェノサイド(集団殺害)】
    集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(ジェノサイド条約)の第2条は、集団殺
    害について、「国民的、人種的、民族的又は宗教的集団を全部又は一部破壊する意
    図をもって行われた」行為と定義し、▽集団構成員を殺す ▽重大な肉体的又は精
    神的な危害を加え ▽肉体の破壊をもたらすために意図された生活条件を集団に対
    し故意に課す ▽集団内における出生を防止することを意図する措置を課す ▽集
    団の児童を他の集団に強制的に移す五つを挙げています。これらの行為のため
    の共同謀議、直接・公然の教唆、未遂、共犯も処罰の対象となります。
 IAGSは、過去から現代に至るジェノサイドの研究と分析、防止に向けた政策提言を行ってきた国際的影響力のある学術団体で、世界のジェノサイド研究者が参加しています。
 ページに及ぶ決議は、イスラエルが2023年10月7日のガザ侵攻以降続けてきた「ガザのパレスチナ人に対するジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪を構成するすべての行為を直ちにやめる」よう求めています。これらの行為には、「どもを含む民間人に対す意図的な攻撃と殺害、飢えさせること、住民の生存にとって不可欠な人道援助、水、燃料その他の物資のはく奪、性的・生殖に関する暴力、住民の強制的な追放」が含まれるとしています
 また、政権や軍幹部がガザ住民を「人間の動物」と呼び、「ガザを更地にする」「地獄に変える」と発言したことを「集団を破壊する意図」の証拠と強調。さらに、イスラエルのネタニヤフ首相が米国のトランプ大統領によるガザからのパレスチナ人追放計画を支持したことについて、国連のパレスチナ調査委員長が「民族浄化に相当する」と表明したことに言及しました。
 IAGSは、イスラエルの行為をジェノサイドと認定するに当たって、▽国際刑事裁判所(ICC)によるネタニヤフ首相とガラント前国防相に対する逮捕状発出 ▽国際司法裁判所(ICJ)がジェノサイドの可能性があると認定して、イスラエルに停止を命じた暫定命令 ▽アムネスティ・インターナショナルなど国際人権団体の調査結果-を踏まえました。
 またイスラエルに対してハマスが行った攻撃も国際犯罪を構成するとしました。
 決議は、国際社会が「ジェノサイド防止条約に基づく責任を果たすべきだ」と訴え、各国にICC逮捕状の執行に協力するよう呼びかけました。


ジャーナリスト殺害に抗議 報道機関が国際共同行動
                        しんぶん赤旗 2025年9月3日
【カイロ=米沢博史】イスラエル軍がパレスチナ・ガザ地区で続けるジャナリスト殺害に対し、50カ国以上200を超える報道機聞が1日、共同で抗議し、報道の自由の保障を訴えました。新聞は面を黒塗りにし、テレビやラジオは番組を一時停止して声明を発表。オンラインメディアもホームページのトップをブラックアウトしました。
 この行動は国際ジャーナリスト連盟(IFJ)、国境なき記者団(RSF)国際市民運動ネットワーク「アバーズ」が共同で呼びかけました
 RSFのティボー・ブルタン事務局長は、ガザでのジャーナリスト殺害の横行を「ジャーナリズムヘの戦争」と非難。IFJのアンソニー・ベランジエ事務局長も「人々の知る権利は深刻に損なわれている。国連はジャーナリストの安全と独立を保障する国際条約を制定すべきだ」と訴えました。
 RSFは声明で、ガザのジャーナリストの保護、イスラエル軍の不処罰の終結、外国報道機関のガザヘの自由な立ち入りの保障などを国際社会に要求。さに国連安保理に「イスラエル軍の犯罪を止める強力な行動」を呼びかけました。
 この国際行動には、ロイター通信、AP通信、中東のアルジャジーラ、仏紙ルモンド、スペイン紙バイスなどが参加しました。


パレスチナ国家承認ヘ ベルギー 英・仏・加・豪に続き
                        しんぶん赤旗 2025年9月3日
 ベルギーのプレボ外相は2日、今月ニューヨークで開かれる国連総会でパレスチナを国家承認すると発表しました。オーストラリア、英国、カナダ、フランスも同じ意向を示しており、パレスチナ・ガザ地区を侵攻するイスラエルに対する国際的な圧力が強まっています。
 プレボ氏は自身の(旧ツイッター)への投稿で「パレスチナ、特にガザ地区での人道的惨事や、イスラエルが国際法に違反して行っている暴力」を受けての決定だと述べました。また、占領地からの輸入禁止やイスラエル企業からの公共調達に関する政策の見直しをはじめ、イスラエルに対し12の「強硬な」制裁を課すとしています。
 パレスチナ問題を巡りイスラエルとパレスチナ独立国家の「2国家共存」による解決を目指すとした「ニューヨーク宣言」に署名するとも表明し、国家承認は「2国家解決」へのを開くと指摘しました。
 4月時点で国連加盟国の75%にあたる147カ国がパレスチナを国家承認しています


パレスチナでの虐殺に加担する「サイバーテック東京2025」/市民団体が政府交渉
                       レイバーネット日本 2025-09-03
    パレスチナでの虐殺に加担する「サイバーテック東京2025」
           〜市民団体が後援の撤回など求め、政府と交渉〜
竪場勝司
 サイバーセキュリティ関連の大規模イベント「サイバーテック東京2025」が9月4日、東京都内のホテルを会場に開かれる。登壇者の3分の1以上がイスラエルからの登壇者で、海外での暗殺作戦などを指揮した元モサド長官をはじめ、元軍人、元諜報機関幹部、関連企業幹部などが多く含まれている。イスラエルのサイバーセキュリティ企業は、パレスチナでの虐殺、民族浄化を支える基幹産業でもあり、日本の市民団体が9月1日、イベントを後援する日本政府の経産省及び内閣官房の担当者と、後援の撤回などを求める交渉を衆議院第二議員会館で行なった。市民団体が事前に出していた質問に対して、政府の担当者は文書で回答をせず、口頭で「答える立場にない」などの回答を何度も繰り返した。

政府側は文書回答せず、「答える立場にない」繰り返す
 「サイバーテック」は元々イスラエルで毎年開催されていたもので、2017年に初めて東京での開催が始まり、コロナ禍による中止をはさんで、今回が6年ぶりの東京での開催となった。
 政府との交渉は、「武器取引反対ネットワーク(NAJAT)」、「ジェノサイドに抗する防衛大学校卒業生の会」、「BDS Japan Bulletin」の3団体が呼びかけて実施した。約40人が参加し、司会進行はNAJAT代表の杉原浩司さんが務めた
 市民団体は事前に10項目にわたる質問書を経産省と内閣官房に送り、文書による回答を求めていた。政府側からの文書回答はなく、交渉会場で政府側が配布したのはイベントのプログラムを印刷した資料だった。「なぜ文書による回答ではないのか」と杉原さんが問いただしたのに対し、経産省の担当者は「本行事はサイバーセキュリティに関連した技術的課題に焦点を当てた、世界中の当局や企業の間で最新の動向や、共通的課題に対するグッドプラクティスを勉強し合うためのイベント、すなわちカンファレンスと展示会だ。お配りした文書で、回答が完結すると考えている」と述べた。

 また経産省の担当者は「本行事は、みなさんが言うような、ガザ地区のおけるイスラエルの軍事的行為に関係するとは思っていない」、「イスラエルの軍事的行為に関する(日本)政府の見解について、私たちはお答えする立場にない」などとも発言した。これに対し杉原さんは「あなた方が後援を出して登壇をさせ、お墨付きを与えている。『立場にない』ではなく、あなた方は当事者だ。あなたの説明は、文書回答をしない理由にはなっていない」と厳しく指摘した。

イベントはイスラエルによる虐殺とは「無関係」と強弁
 ここから交渉は、各質問項目に政府側が口頭で回答し、回答内容をめぐる議論になった。「1年以内の占領終結をイスラエルに求め、各国政府にそのための行動を求めた24年9月18日の国連総会決議には日本政府も賛成票を投じている。この決議について、内容を把握し、サイバーセキュリティ政策に反映させる必要を認めているのか?」の質問に対して、経産省の担当者は「国連総会決議に関する政府の対応・見解については、私どもとして答える立場にない」と回答。杉原さんがさらに「日本政府がこの決議に賛成したということを持って、経産省がこの1年近くで何か具体的措置を講じたはあるのか」と問いただし、担当者は「決議の内容を反映させるような政策はなかった」と答えた。杉原さんは「反映させる政策はなく、やっているのはサイバーテックに後援を出したこと。私たちからみると、全く逆行することをやっている」と批判した。

 後援を決定した理由について経産省の担当者は「このイベントに後援名義を発出することは我が国産業界におけるサイバーセキュリティ対策の向上・促進につながると考えた。後援名義を発出することが、イスラエルの軍事的行為に与するものだとは考えていない。配布した資料にあるように各国の当局が登壇することが、その証左だ」と発言した。
 この後も、質問項目ごとのやり取りがあったが、経産省と内閣官房の担当者は「答える立場にない」の回答を頻発。「イベントは最先端のサイバーセキュリティ技術を学ぶ勉強会」とし、イスラエルによる虐殺行為とは「関係ない」との主張を繰り返した。

 交渉の最後に、市民団体側はイベントに対する後援撤回を強く求め、杉原さんは「そうしないと、日本政府はイスラエルのジェノサイドの共犯だということになる。フランスやイギリスでさえ、国際的非難を浴びて、武器見本市のイスラエル企業の出展を、一部であれ制限している。日本政府は何をやっているのか。幕張の見本市でも堂々と人を殺しているドローンの模型を展示させて、後援して。今度はサイバーセキュリティ。同じように虐殺に由来するような技術をPRさせて後援を出して、登壇させて。どこまで日本政府は堕ちるのか」と批判の声を強めた。

ウクライナ紛争の終結は近い? ビッグ・ビューティフル・アラスカ首脳会談 第一部

 リカルド・マルティンスが掲題の記事を出しました(第二部が出るということです)。
 8月15日に行われたトランプとプーチンによるアラスカ会談の詳細は明らかにされていません。上記の記事は会談1週間後に発表された推測記事ですが、それが合理的で説得力があればそれに反する新たな事実が明らかにされるまでは参考にされるべきでしょう。
 ただし日本を含めた西側の「ロシアは悪者」一辺倒の見方からすると納得できないでしょうから、「救国の騎士」視されているゼレンスキーの徹底抗戦論に与することになりますが、それを支持するウクライナ人24%に留まり、69%和平交渉による解決を支持していることとの齟齬は無視できません。
 リカルド・マルティンスは、戦争があと一、二年続けばウクライナはほぼ壊滅的状況になるはずで、今の方がウクライナ領土譲歩の規模が小さくなる可能性が高いことをトランプは認識していた…と述べています。トランプに比べると西側諸国の主張はいわゆる『外野の論調』の誹りを免れません。
 併せて櫻井ジャーナルの記事「舌先三寸でロシアを騙せると高を括っていた欧州の好戦派は自暴自棄」を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ウクライナ紛争の終結は近い? ビッグ・ビューティフル・アラスカ首脳会談 第一部
                 マスコミに載らない海外記事 2025年9月 3日
                  リカルド・マルティンス 2025年8月22日
                          New Eastern Outlook
 アラスカでのプーチン・トランプ大統領会談:真相は? この会談は、ウクライナにおける欧米各国の政策の矛盾を露呈し、世界の安全保障秩序の転換を示唆している。
 ウクライナ紛争の終結が見えてきた? ビッグ・ビューティフル・アラスカ首脳会談 第一部
 2022年2月にウクライナ紛争が始まって以来初めて、戦争に対するロシアの見解がドナルド・トランプ大統領に直接伝えられ、その後、トランプ大統領は、ゼレンスキー大統領を含む欧州各国首脳に電話し、三日後にはワシントンで直接会って伝えた
 アラスカという舞台は、ロシアとアメリカが文字通り隣国であることを改めて思い起こさせるものだった。ヨーロッパ諸国の憤りにもかかわらず、プーチン大統領をアメリカに招き入れ、たとえ一部が対話を避けても、外交の名の下、意見の相違は脇に置き、対話する姿勢をワシントンは示したのだ。
 この首脳会談の斬新さは開催地だけではない。トランプ大統領がウラジーミル・プーチン大統領の主張に耳を傾け、懐疑的な欧州諸国にそれを伝えようとした姿勢にこそ真価があった。二年にわたり、欧州はモスクワを政治的・外交的に孤立させる政策を維持し、平和はロシアの屈服によってのみもたらされると主張してきた。だが戦場ではロシアが優勢に立っている
 アラスカ首脳会談は、交渉する意志を持たずに平和を望み、勝者に敗北条件を課すというヨーロッパの姿勢の矛盾を露呈した。
 アラスカ首脳会談は、ロシアの敗北やウクライナの英雄的生存を願うだけでは平和は実現されないことを我々に想起させた。

何が問題だったのか
 アラスカで問題となったのは、ウクライナの当面の運命だけではなかった。首脳会談では、世界安全保障の構造や、国際外交の信頼性や、アメリカ、ロシア、欧州の力関係のバランスについても議論が交わされた。
 プーチン大統領にとって、この会談は、ロシアを「のけ者」ではなく、欧州のいかなる和平交渉にも不可欠な存在として位置付ける好機だった。一方トランプにとって、キーウへの揺るぎない支持を掲げるジョー・バイデンと対比させて、和平交渉の担い手としての地位を確立する好機だった。
 最近のギャラップ世論調査によれば、ウクライナ人の69%が和平交渉による解決を支持する一方、戦闘の継続を支持する人はわずか24%だ。
 だが欧州指導者たちは深い疑念を抱いていた。合意を急ぐあまりトランプ大統領が実利主義を装いロシアの主張を容認し、譲歩しすぎるのではないかと懸念する声が多かった。
 彼らにとって、アラスカは欧米諸国の結束が崩れる場所になる危険があった。だが、この懐疑的な見方は、不快な真実を露呈している。ヨーロッパは外交的に追い詰められているのだ。平和を要求しながらプーチン大統領との対話を拒否するのは結局、矛盾だ

平和に機会を与えよう
 快適な環境や、志を同じくする相手間で平和が築かれるのは稀なことを歴史が教えてくれる。平和を築くには、敵対者との対話が必要だ。
 アラスカ首脳会談は、2022年にロシアとウクライナの交渉官が和平協定案に署名したものの欧米諸国の圧力で崩壊した果たされなかったイスタンブールの約束を彷彿とさせた。
 当時、イギリスのボリス・ジョンソン首相がキーウに急行し、ゼレンスキー大統領に署名しないよう強く要求した。戦争の長期化はロシアを不可逆的に弱体化させると主張したのだ。おそらくブチャ虐殺事件は、外交を妨害するために画策されたか、利用されたか、操作されたのだ。
 アラスカで、歴史が決して繰り返されないようプーチン大統領は願っていた。彼のメッセージは明確だった。短期的な政治的利益のために和平過程を妨害すれば、紛争が今後何年も固定化してしまうリスクがある。ヨーロッパはいずれ交渉の席に戻らなければならないと彼は主張した。そして反抗的ではあっても、キーウに安全保障の保証は必要だが、欧米諸国からの無限の武器は必要ないと。

アラスカ会談の内幕
 すると非公開会議で実際何が議論されたのだろう? ロシアのより広範な構想、すなわちヨーロッパにおける安全保障の不可分性をプーチン大統領は示した。これは、NATO拡大がロシアとヨーロッパの安定を損なうと主張する際、長年モスクワが持ち出する原則だ。信頼できる安全保障の保証がウクライナに必要であることを認めつつ、ロシアの利益の相互承認も彼は求めた
 最も衝撃的だったのは、停戦という考えをプーチン大統領が拒否したことだ。紛争凍結は、ウクライナと支援諸国に再軍備とウクライナ軍再建のための時間を与えるだけだと彼は考えている。彼は真の和平合意、つまり困難な選択を後回しにするのではなく、今こそ決断を迫る和解を強く求めた。より血なまぐさい事態へと先送りするよりも、むしろそうすべきだ。
 戦争があと一、二年続く場合より、今の方がウクライナ領土譲歩の規模が小さくなる可能性が高いことをトランプ大統領は認識していた戦争が更に一、二年続けば、ウクライナはほぼ確実に海への出入り口を失い、経済的に壊滅的状況になるはずだ。
 トランプは奇跡を約束したわけではない。だがプーチン大統領の提案をウォロディミル・ゼレンスキー大統領に伝え、合意の枠組みを構築できるかどうか検討すると約束した。そうすることで責任の重荷を、キーウとヨーロッパの同盟諸国に押し付けたのだ。
 そして土曜日、トランプは自身のプラットフォーム「Truth Social」で以下のように結論づけた。「ロシアとウクライナ間の恐ろしい戦争を終わらせる最善の方法は、しばしば持続しない単なる停戦協定ではなく、戦争を終わらせる和平協定に直接進むことだと全員が判断した」。言うまでもなく、ゼレンスキー大統領と欧州同盟諸国は、この発言には全く不満だった。

欧州の不安な反応
 アラスカからトランプ大統領とプーチン大統領が慎重ながら満足した様子で戻ったのに対し、欧州各国首脳は懐疑と苛立ちと警戒さえ織り交ぜた表情を見せた。エマニュエル・マクロン大統領は「明確さ」を求め「武力による侵略を正当化する」可能性がある、いかなる取り決めにも反対を唱えた。フリードリヒ・メルツ外相は簡潔な発言にとどめ、ドイツにとっての最優先事項は「ウクライナの領土保全」つまり国境問題で譲歩は許されないことを強調した。
 欧州委員会を代表して発言したウルズラ・フォン・デア・ライエンは「平和は正義を犠牲にして得られるものではない」と強調した。これはトランプ大統領の現実主義が欧州の超えてはならない一線を軽視する可能性があるというブリュッセルの懸念を反映した発言だ。
 アラスカ訪問が、ワシントンとモスクワが、キーウや最も近い同盟諸国に相談することなく平和の輪郭を描く、いわば並行外交の始まりになるのを多くの欧州当局者は内心懸念していた。特に東欧諸国は反発した。EU内で長らく最も強硬な立場をとってきたポーランドとバルト三国は、トランプ大統領がプーチン大統領の主張に寛容になれば、ロシアが軍事的優位を主張するようになるのではないかと懸念していた。
 だが、この反応はヨーロッパの矛盾も露呈させた。指導者たちはアラスカを時期尚早、あるいは危険とさえみなしていたが、交渉への代替案を提示する者は誰もいなかった。ヨーロッパは平和を望んでいると主張しながら、プーチン大統領と交渉の席に着くのを拒否している。戦争初期には容認できたこの姿勢は、今やヨーロッパ大陸をアメリカの仲介に依存させ、ワシントンの変わりやすい政治の影響を受けやすくするリスクをはらんでいる

アラスカ首脳会談の意味
 アラスカ首脳会談は、ヤルタでもキャンプ・デービッドでもレイキャビクでもない。進展は見られず、地図も書き換えられなかった。だが会談が行われた事実こそ、この会談の重要性だ。意思疎通が、戦場でのやりとりと、対立する言説とに限定される戦争において、対話そのものが貴重資源なのだ。
 平和への道は決して直線的ではない。戦争を長引かせることに利益を見出す内外の妨害者連中のおかげで、平和は容易に実現できない。アラスカ首脳会談は、ロシアの敗北やウクライナの英雄的生存を願うだけでは平和は実現しないことを我々に想起させた。平和には外交と忍耐と妥協が必要だが、今日の地政学的状況には、これら資質が欠けている。

 トランプ大統領にとって、この首脳会談は、政治家として自身をアピールする好機だった。プーチン大統領にとって、不可欠な存在としてロシアを再定義する機会だった。欧州にとって、モスクワとの対話を拒否しても平和はもたらされず、欧州の地政学的役割は縮小するだけなのを不快にも思い知らされる出来事だった
 欧州諸国から懐疑的な目で見られ、芝居じみたものと一蹴されたにもかかわらず、アラスカ首脳会談は転換点であることが明らかになった。その後、ワシントンでトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談が行われ、面目を保つために、欧州首脳7人が自らこの会合に出席した。この点は次の記事で取り上げる。

 リカルド・マルティンスは社会学博士、専門は国際関係と地政学
記事原文のurl:https://journal-neo.su/2025/08/22/the-end-of-the-conflict-in-ukraine-at-sight-the-big-beautiful-alaska-summit-part-1/


舌先三寸でロシアを騙せると高を括っていた欧州の好戦派は自暴自棄
                         櫻井ジャーナル 2025.09.02
 ロシアは目的を達成するまでウクライナでの戦闘を止めないと推測されていた、常識通りの展開になっている西側諸国はロシアを舌先三寸で騙し、停戦に持ち込んで時間を稼いで戦力を回復させ、あわよくばNATO諸国の軍隊をウクライナへ入れようとしていたが、その目論見は外れた。おそらくインドや中国への配慮で話し合いには応じる姿勢を見せているものの、ロシアは妥協しないはずだ。
 これまでNATO諸国の好戦派は「核戦争を恐れるな」とか、「核兵器をひとつ落とせばロシアは屈服する」といったハッタリを口にしてきたが、アメリカ欧州アフリカ陸軍のクリストファー・ドナヒュー司令官はカリーニングラードを制圧のための計画を策定すると公言している。すでに兵器が枯渇しているNATO諸国がカリーニングラードをどのように制圧するのか不明だが、勿論、ロシアが傍観するはずはない

 1991年12月にソ連が消滅して以降、ネオコンをはじめとする新世代の好戦派はソ連との約束を無視してNATOを東へ拡大させてきた。これはバルバロッサ作戦の再現にほかならない。ウクライナを支配下に置くため、ネオコンたちは2004から05年にかけて「オレンジ革命」、そして2013年11月から14年2月にかけてネオ・ナチのクーデターを実行したわけである。彼らの誤算は、オレンジ革命もクーデターもウクライナを完全に征服することができなかったことだ。現在の戦闘はそうした計算違いから始まったと考える人もいるだろうが、そもそも、その計算自体が間違っていた。
 誤算を認めたくないのか、ロシア征服を仕掛けた勢力はウクライナの敗北が決定的になる中、自分たちが前面に出ざるをえなくなってきた。その結果、NATO諸国は傭兵を送り込むだけでなく、自国の将兵や技術者を派遣、死傷者を増やしている
 ウクライナでの戦闘でロシアが勝利したことを認識しているアメリカはウクライナから離れようとしているが、イギリス、フランス、ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国はロシアとの戦争にのめり込んでいる。そこでロシアはNATOと戦うと腹を括ったようで、ヨーロッパ諸国の部隊を攻撃するようになった
 例えば、ロシアのFSB(連邦保安庁)はドイツが資金を出した戦術弾道ミサイル「サプサン」とミサイルの発射装置を製造する工場を破壊、その際にドイツの技術者が死亡している。
 その1週間後には、ドニプロペトロウシクのパウロフラード(パブログラード)にあり、射程距離3000キロメートルという巡航ミサイルの「フラミンゴ」を組み立てていた工場をロシア軍は破壊、その時にはイギリスの技術者が死亡している。フラミンゴを保管していた兵器庫も破壊された。

 8月2日には、オチャコフでロシアのスペツナズ(特殊部隊)がオチャコフでイギリス陸軍のエドワード・ブレイク大佐とリチャード・キャロル中佐、そしてイギリスの対外情報機関MI-6の工作員ひとりを拘束したと報道されている。
 ところで、ウィンストン・チャーチルの側近でNATOの初代事務総長になったヘイスティング・イスメイはNATO創設の目的について、ソ連をヨーロッパから締め出し、アメリカを引き入れ、ドイツを押さえつけることにあるとしていた。ソ連からの攻撃に備えるためではないということを認めているのだが、実態はヨーロッパを支配する仕組みだった。
 2次世界大戦でドイツと戦った国は事実上、ソ連のみ。西部戦線で戦っていたのはレジスタンスだった。その一方、ナチスが支配するドイツはアメリカやイギリスの金融機関が資金面から支えていた
 大戦の終盤からアレン・ダレスをはじめとするウォール街人脈はフランクリン・ルーズベルト大統領には無断でナチスの高官や協力者を逃亡させ、さらに保護、訓練、雇用している。サンライズ作戦、ラットライン、ブラッドストーン作戦、ペーパークリップ作戦などだ。こうした工作ができた理由のひとつは、ルーズベルトが1945年4月12日に急死したことにある。

 イギリスとアメリカの支配層はヨーロッパを統合するため、1948年にACUE(ヨーロッパ連合に関するアメリカ委員会)を設置、翌年の4月にはNATO(北大西洋条約機構)を創設した
 その時期、米英の支配層が警戒していたのはドイツと戦ったレジスタンスのメンバー。この抵抗運動の参加者はコミュニストが多かったが、そうでない人もいた。そのひとりがシャルル・ド・ゴール。大戦後、彼が命を狙われたのはそのためだ。ド・ゴールはNATOの軍事組織からフランスを離脱させ、本部を追い出した。
 大戦中、レジスタンス対策で米英はゲリラ組織ジェドバラを創設したが、戦後、その人脈はアメリカの軍や情報機関へ入り込む一方、NATOへも潜り込み、その人脈は1951年からCPC(秘密計画委員会)の下で活動するようになる。1957年にはCPCの下部組織としてACC(連合軍秘密委員会)が創設された。
 この委員会を通じてアメリカのCIAやイギリスのMI-6はNATO内に設置された秘密部隊のネットワークを操る。そのネットワークの中で特に有名な組織がイタリアのグラディオだ。

 秘密部隊は全てのNATO加盟国に設置され、それぞれ固有の名称がつけられている。イタリアのグラディオは有名だが、そのほかデンマークはアブサロン、ノルウェーはROC、ベルギーはSDRA8といった具合。このネットワークは現在も存在していると見られている。
 このネットワークを作った勢力は遅くとも1992年にロシアを征服するプロジェクトを始めた。第2期目のビル・クリントン政権にしろ、ジョージ・W・ブッシュ政権にしろ、バラク・オバマ政権にしろ、このプロジェクトに基づいて動いている。選挙期間中、ロシアとの関係修復を訴えていたドナルド・トランプだが、やはりこの流れから逃れることはできなかったそしてジョー・バイデンはルビコンを渡った。彼らはロシアとの戦争を止めることができない。

新自由義を乗り越える(上)(下) 中西新太郎名誉教授(横浜市立大学)

 小泉・竹中政権で始まった新自由主義政策は安倍政権でさらに強化されて現在に至っています。自由主義は本来が弱肉強食の世界で、それを政策によって緩和する機能が政治に要請されています。ところが新自由主義は逆で 強者を助けて 弱者は「怠けた結果」と見做して切り捨てます。
 新自由主義は非正規雇用者を激増させました。かつては「結婚する」、「子どもを持つ」などはごく普通のことでしたが、いまではそれは余裕を持つ一部の人たちにしか許されず、「普通のこと」ではなくなりました。

 かつては日本にはぶ厚い中産階級が存在していると言われましたが、いまでは殆どなくなり、富裕層と貧困層に2分されました。そして大企業の内部留保は実に空前の637兆円に達しました(25年1月)。

 しんぶん赤旗に、「文化社会学」の中西新太郎名誉教授(横浜市立大学)による掲題の記事(上下2回)が載りました。
 (上)編のタイトル:「直面する『普通』の崩壊」の意味は上述の通りです。

 ところで先の参院選では極右の参政党が若い層の支持を集めて躍進しました。それについて中西教授は、新自由主義により自己責任を徹底された若者たちのー定の部分には、主張の正しさよりも「この人を信じたい」という自分の気持ちを大切にする文化が根付いていて、選挙でも自分の思いを否定されたくないという感覚が見られるとして、そこに、論理性や事実認定に乏しく議論に耐えるものではない参政党の単純なキヤツチフレーズが染み込み、心を動かしたのではないかと分析しています。
 またホストクラブに通う女性についても相手の目的が金銭だと理解していても「彼を大事に思う自分の気持ち」が大事と考えているから、という分析をしていて、どちらも政治的分析では解明し切れないところを衝いているように思われます。
 それにしてもその対象が、中西教授が言うところの 論理性や事実認定に乏しく議論に耐えるものではない参政党であったとは寂し過ぎることで、この流れは一刻も早く変わって欲しいものです。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
自由義を乗り越える(上) 直面する「普通」の崩壊
横浜市立大学名誉教授 中西新太郎さんに聞く
                        しんぶん赤旗 2025年8月31日
「普通に生きること」が、もはや特権になってしまったのか。非正規雇用の拡大、体験格差、自己責任を強調する新自由主義のもとに育った若者たち(新自由主義ネイティブ)の中には、将米への希望を持てず「人生は無理ゲー(攻略が極めて困難なゲーム)だ」と語ることもあるといいます。問われているのは個人の努力ではなく、支え合う社会をどう築くかです。横浜市立大学の中西新太郎名誉教授に間きました。               (土屋智紀)

    なかにし・しんたろう 1948年生まれ。横浜市立大学名誉教授。専攻は文化社
      会学。著書に『若者保守化のリアルー「普通がいい」というラディカルな夢』
      『若者は社会を変えられるか?』、共著に『教育DXは何をもたらすか-「個
      別最適化」社会のゆくえ』など多数。
「新自由主義ネイティ」とは。
 これは私が使っている言葉で、世間では「Z世代」とも呼ばれています。新自由主義政策が進む中で育ち、格差や貧困が固定化され、非正規雇用が「普通」になった1990年代後半
から現在までを生きる20歳代の世代です

「体験格差」
 学校教育でも厳しい管理が当たり前となり、競争と統制の中で育っています。例えば「体験格差」といって、小中学校時に年に3回以上家族で遊びにいった経験や、習い事の体験が全くない人が多くいます。同時に学校で「規範を重視する(ゼロトレランス)」という厳しい管理統制策も始まり、学カテストによる激しい競争、管理と統制、格差と貧困が「普通」になっています
 
-若者の生きづらとは
 非正規雇用が前提の社会では、従来は「普通」とされていた「結婚する」「子どもを持つ」などの人生設計が現実的ではありません。若者の間では「人生はクソゲー」(低品質でつまらないコンピューターゲームを酷評する言葉)「無理ゲー」(現実世界で困難な状況を表すスラング)といった言葉が広がり、将来への展望が持てないほどの感覚が根付いています。
 例えば、闇バイトに応募し、特殊詐欺の使い捨て労働力に動員される若者たちが非難されるのは当然ですが、だからといって、闇バイトに応募する若者を、私たち社会の側がどれだけ受け止められるでしょうか。また、「トー横界隈(かいわい)」(東京都の歌舞伎町にある新宿東宝ビル周辺)など大都市繁華街の「界隈」に集う若年女性たちの売春、パパ活、「ホスト狂い(ホス狂)」(女性客がホストクラブで習慣的に多額のお金を使うこと)などの行動を「自暴自棄だ」と非難するのは簡単ですが、それらの事例から、若者が生きる現実をうかがい知ることができるのも事実です。

貧困の重し
 つまり、自身を破滅へと追い込む行動を支える基盤の存在-社会で生きている全域にわたり「貧困化という重し」が若者を覆っているのです。
 新自由主義社会のルールや規範は、「重しに負けず前向きに生きよ」と促します。そのため若者たちは、前向きに生きられない重しを抱えているからこそ、「ダメさ」を引き受けることと、「ダメさ」に押しつぶされそうになる不安とのせめぎ合いの日々が続きます。「自死」が20代の死因のトップだということはよく知られている事実ですが、「死にたいと思ったことがある」20代は女性で37・9%、男性で31・9%という調査結果(日本財団、自殺意識調査2016年)は、生きづらい日本の姿を鮮明にしています。
「普通」に生きることが難しく、自己肯定感も低い-。日本財団の調査では、「自分が社会を変えられる」と思う18歳は他国と比べて圧倒的に少ないのです。社会の一員だと感じられない若者が多く、孤立感が深まっています。      (つづく)


自由義を乗り越える(下) 違和感 政治につなげて
横浜市立大学名誉教授 中西新太郎さんに聞く
                        しんぶん赤旗 2025年9月1日

-社会はその困難にどう向き合っているのでしょうか。
 日本の政治は、困難を個人の問題として扱います。「自己責任」が強調され、貧困や虐待、いじめなども社会構造の問題として捉えられません。個別の支援策はあっても、自民党がよく訴える「本当に困っている人だけを支える」という限定的な対応が多く、根本的な制度改革には至っていません
 例えば「貧困問題」は、2000年代初頭に大問題になりましたが、政府は、その最大の元凶の「雇用の非正規化」をかたくなに変えません。スキルを身につけさせる「リスキリング(学び直し)」という政策で、個人に「もっと頑張れ」と強いて個別に解決させようどしています。
 実はこの政策は効果が低いです。方、北欧諸国のような福祉国家は、ある政策の効果が低ければ正面から検証して他の政策をとります。日本とは全く異なります

-若者の政治参加については。
 今回の参議院選挙では、参政党や国民民主党のような新興政党が、多くの新自由主義ネイティブ(Z世代)の支持を集めました。参政党は、自民党の安倍派よりもさらに右寄りの極右政党です。国民民主党は新自由主義的な性格がありますが、参政党の主張は論理性や事実認定に乏しく、議論に耐えるものではありま。それでも支持される景の一つには、「思いの強さ」があります。

正しさより
 新自由主義により孤化、自己責任を徹底された若者たちの定の部分には、主張の正しさよりも「この人を信じたい」という自分の気持ちを大切にする文化が根付いています。選挙も「推し活」(アイドルやキャラクタなどの「推し」を応援する活動)のように捉えられ、自分の思いを否定されたくないという感覚が見られます。
 例えば、ホストクラブに通う女性が、相手の目的が金銭だと理解していても「彼を大事に思う自分の気持ち」を優先するように、若者は「推し活」などを通じて、自分の思いの確かさを何よりも尊重します。選挙も「推し活」に近く、「この人を応援する自分が大事」という感覚もあります。排外主義的な傾向については、例えばTikTokなどを見ると、日本食に感激する外国人の動画が大量に流れています。それを見て「日本ってすごい」と感じる一方、自分たちは貧困で、そんな食事を日常的に楽しめない。このギャップが、排外主義的な感情に結びつくこともあります。日本が経済的に豊かではなくなった現実を、多くの人が肌で感じている証左ではないでしょうか。

中産階級も
 国民民主党が支持を集めたことについては、今や、企業で働く若者も将来の展望が不安定です。
 中産階級層も含めて生活の見通しが立たず、「手取りを増やす」といった即効性のある政策に心をつかまれるのは当然です。かつては自民党に安定を期待していた層も、今は他の選択肢を探しています。
 貧困の広がりは、私たちが想定していた以上に深刻です。そこへ単純なキヤツチフレーズが染み込み、心を動かしたのではないでしょうか。しかし、新自由主義の政策は何も変わりません。

声が出発点
「自己責任ではなく、支え合う社会へ」「新自由主義の枠組みを超えよう」という日本共産党の主張は、本質的に、若者の真の願いからそれほど離れていません。福祉国家のように、制度の効果を検証しながら新自由主義で破壊された社会を改善する政治が求められています。
 若者の「モヤモヤ」や違和感を出発点に、現場に根ざした運動が力を持つ時代です。今の若者は、バイト先のハラスメントやスキマバイトの孤立など、日常の中で苦しさを感じています。それを「仕方ない」で終わらせず、社会的な課題として共有することが大切です。運動は普通の生活の中から生まれるもの。現場に根ざした声を政治につなげていくことが、今こそ必要だと思います。            (おわり)