世に倦む日々氏が掲題の記事を載せました。
記事はタイトルの通り、「トランプ関税の戦略的正体」を明らかにしていて、「トランプ関税」は「トランプ減税」と表裏一体をなすもので、「トランプ関税」が恒久的なものであることを明らかにしています。
その概要は下記の通りです。
トランプは7月4日に「トランプ減税」を成立させました。それは24年の大統領選挙で公約したもので、トランプ政権1期目に実施された個人所得税の減税措置を恒久化するものです。
減税の対象は、チップや残業代への課税免除、法人税率の引下げ、児童税額控除の拡充や、相続税・贈与税の基礎控除の引き上げなど多岐に渡るもので、その減税額のトータルは10年間で約3兆4000億ドル(日本円で490兆円余り)財政赤字が拡大するという試算を米議会予算局が公表しています。
「トランプ減税」は、個人消費が刺激され経済成長を加速させるという真っ当なものではあるのですが、一方で財政赤字が拡大するので 世に倦む日々氏はその穴埋めを「トランプ関税」による海外からの収奪で行おうとするものなので「恒久的なものになる」と断言します。極めて明快な論理です。
では日本はどう対処すべきかについてですが、世に倦む日々氏は「中国がレアアースという切り札を使って有効に反撃し逆襲したように、日本も切り札を使って拒絶の意思を示すことだろう。他の国と違って日本は威力ある武器を所有している。日本が韓国と一体になって拒否の姿勢を貫けば、他の国も倣うだろうし、トランプ関税は挫折するだろう。勇気を出せるかどうかという問題だ」と述べます。しかし何故かその「切り札」が何であるかについては明記していません。
因みに日本の米国債保有高は世界一で1兆1308億ドル(約165兆円)に上ります。従ってそれである可能性は高いのですが・・・
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トランプ関税の戦略的正体 - 交渉継続しても合意はない、関税率を上げられるだけ
世に倦む日日 2025年7月10日
7/8、トランプが日本への相互関税を25%にすると発表。8/1 から実施され、現在10%の関税が15%上乗せされる。元々は 7/9 が期限だったので交渉期間が3週間ほど延びた形になったが、一方的で恐喝的で独善的な通告であり、日本側がめざす「パッケージでの合意」とは程遠い不当な仕打ちだ。赤沢亮正が4月から7回も訪米してベッセントやラトニックと協議してきたにもかかわらず、交渉は全く大筋合意に近づいておらず、歩み寄りしていなかった。トランプによる威圧的で制裁的な措置の押しつけばかりであり、日本は侮辱され嘲弄されている。マスコミ報道を見ると、「予想以上に日本が粘り腰で譲歩しないのでトランプ政権も焦っている」とか、「アメリカ側の姿勢が変わるまで安易に妥協せず交渉を続けるべし」という論評が多い。石破政権の現在の交渉手法を評価し、時間が経てば状況が好転して双方が一致できるだろうという甘い見方を示している。
私の認識は違う。トランプ関税の政策は、一見すると、場当たり的で非常識で一貫性がなく、通商政策としての論理性と合理性を欠き、経済政策として矛盾しているため、強行すると破綻しやすいもののように見受けられる。表象としては確かにそう見えるし、そう断定していいかもしれない。だがひょっとして、トランプ関税には、別の恐ろしい戦略が布石され遂行されているのではないか。それは何かと言うと、前嶋和弘も触れているニューノーマル(⇒新しい常態)である。具体的に述べよう。まず、すでに日本には10%の関税がかけられている。4月に賦課が開始されて3か月経った。アメリカ市場への依存度が高い輸出企業においては、すでに少なからずインパクトが出ていて、NHKのニュースで製造業の中小企業が紹介され、経営者が先行きへの不安を深刻に語る場面が頻出している。設備投資ができない、雇用を増やせない、賃上げに慎重にならざるを得ない、等々の悲観論が拾われてきた。
現状、日本企業は10%の関税率上昇の打撃と障害を企業努力で吸収し、円安の恩恵もあって大きな悪影響を出さずに凌いでいる。が、この経営的事実は、別角度から見れば、日本企業がアメリカの過剰収奪に耐えて経営を持続する耐性を涵養している姿であり、領主の苛斂誅求を貧苦の閾値で耐える封建農奴と同じだ。トランプはこの図をニューノーマルにする戦略で動いている可能性があり、つまり、日本側が粘り腰で交渉期限を延ばすに連れ、関税率を10%から15%に、20%に引き上げて行き、日本企業の耐性を高めさせ、乾いた雑巾を絞り上げる体質を強めさせ、ニューノーマルに慣れさせる思惑かもしれない。日本政府は、アメリカと交渉して納得できる合意をめざしているつもりでも、企業の方が渋々と自らトランプ関税をインプリメント(⇒実行)し、それを恰も「特別法人税」の如く前提的に企業会計の損益決算に織り込み、乾いた雑巾を絞って生き抜く経営にシフトするかもしれない。
以上が、懸念される日本にとってリスクの一点だが、もう一点ある。それは、7/8 に関税率を提示されたアジア諸国が、ベトナムのようにアメリカと先に合意してしまう展開だ。今回、マレーシア25%、インドネシア32%、タイ36%、カンボジア36%、ラオス40%、ミャンマー40%、バングラデシュ36%と各国の関税率が発表された。ベトナムは、アメリカ製品の輸入は0%で、ベトナム製品の輸出は20%という不平等な条件で 7/2 に合意してしまっている。時間をかけたくなかったのと、20%なら国益を守れるという見込みが立ったのだろう。中国の対米交渉を睨んだ上での妥協にも窺える。東南アジアの国々は、基本的にベトナムと似た経済構造と水準であり、アメリカに対して弱い立場という事情も同じで、トランプ関税への対処も同じ選択をしておかしくない。もしこれらの国々が次々とアメリカと妥結を急ぐ進行となった場合、日本だけが取り残される不利な形勢となる。
自由な交渉の余地がなくなる最悪の事態になりかねない。それが第二のリスクである。今回、大国である中国とインドは独立不羈の姿勢を見せ、トランプ関税に屈服せず勇敢に抵抗する構えに出た。だが、弱小でアメリカ市場に頼る国々はそうはいかない。東南アジア諸国は、日本の対米交渉の行方を注視しつつベトナム方式(損切りの抜け駆け)の準備を進めるだろう。今回、薄々見えて来たのは、トランプ関税の戦略的正体である。仮説を立てれば、トランプ関税の真の狙いはシンプルに金銭(money)のアマウント(⇒取引金額)であり、日本に米国製自動車の輸入を拡大させるとか、コメ輸入を自由化させるとか、造船技術を提供させるとか、LNGの開発と輸入とか、そうした言わば定性的な通商項目ではないのだ。個々の国々との通商関係の再構築をめざしておらず、それを成果や目標として想定していない。シンプルに make money であり、金銭をぶん捕ること、諸国からみかじめ料をふんだくる仕組みを作ることだ。
トランプ関税の本質は、最初から言われているとおり、やくざのカツアゲであり、弱者を暴力で脅して金銭を巻き上げることだ。各国に示した関税率はみかじめ料の料率である。そうして集めた関税のアマウントを国内のトランプ減税政策の財源に充てるのであり、トランプ減税の柱であるところの個人の所得減税の恒久化を実現する財源に振り向けるのである。恒久化措置だから、この先ずっと穴埋め財源が必要であり、国内で調達できないゆえに、海外に徴税して税収を得ようとするのだ。それがトランプ関税の真相であり、トランプ関税とトランプ減税は表裏一体の関係にある。報道によると、今回成立したトランプ減税法案によって、10年間で約3兆4000億ドル、日本円で490兆円余り、財政赤字が拡大するという試算をアメリカ議会予算局が公表している。すなわち毎年50兆円の財源が必要なのであり、トランプ関税はその歳入を充たす海外徴税なのだ。トランプは、アメリカに税金を払えと諸国に言っているのであり、車を買えとかコメを買えというのは本質的な要求ではない。
国内のマスコミ論者は、第一のリスクも第二のリスクも指摘せず、ただ粘り強く交渉を続けろと言うだけだけれど、戦略もなく、胆力もなく交渉を続けても、トランプ側の戦略の術中に嵌って時間を無駄にするだけではないか。日本のマスコミは、7/20 から始まる政局とトランプ関税との関係についても正直に解説しない。今回の参院選が自民党大勝という結果に終わるはずがなく、仮に自公が50議席を維持できたとしても確実に政局の騒動が勃発する。石破おろしの動きが始まる。7/21 から 8/1 までは11日しかない。国内が政局で混乱すれば、対米交渉する主権行使の責任主体は蒸発し、自動的に25%の税率賦課となってしまう。トランプの戦略目的を考えれば、ひとまず15%とか20%にして交渉継続の形にするだろう。企業は、アメリカでの現地生産に変えるとか、国内工場をリストラするとかの決断を強いられ、一気に景気は真っ暗になるはずだ。
トランプ関税の政策というのは、対等な国と国との貿易交渉や関税協定の形態ではなく、通商政策の実体ではない。強請(⇒ゆすり)であり帝国主義の侵略である。したがって「パッケージでの合意」などはない。関税率の押しつけだけがあり、脅しながら、翻弄しながら、言いがかりをつけながら、じわじわと恐喝徴税(みかじめ料)をつり上げて行くだけだ。弱者である相手を恐怖で支配して理不尽な要求を通すのであり、学校でのいじめと同じだ。これに対処するには、中国がレアアースという切り札を使って有効に反撃し逆襲したように、日本も切り札を使って拒絶の意思を示すことだろう。他の国と違って日本は威力ある武器を所有している。日本が韓国と一体になって拒否の姿勢を貫けば、他の国も倣うだろうし、トランプ関税は挫折するだろう。勇気を出せるかどうかという問題だ。本来なら、選挙など悠長にやっている場合ではなく、与野党が協調して一時休戦し、トランプ関税に対する対抗策を一致結束して緊急に纏めるべきなのだ。
製造業を守る決意をしなくてはならず、今のまま交渉を継続しても打開の道はない。トランプの目的はストレートに金銭(money)であり、国内の個人所得減税(富裕層減税)の財源作りである。帝国主義の戦略の強制的徴税なのだから、「パッケージの提案」だの言っても無駄なのだ。逆に、現在の交渉を継続すればするだけ日本はトランプの術中に嵌る。罠にからめとられて餌食にされる。イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」に迷い込んだ客と同じ運命になる。7/9 昼、石破茂は「なめられてたまるか」と反発し、25%関税の無礼な一方的通告に対して怒りの態度を見せた。日本を格下の属国扱いし、日本首相をポチ犬と見ているトランプは、この事実を見逃さないだろう。参院選を機に、石破失脚工作の怒涛の攻勢に出るのは必至で、石破茂も、その襲撃を見越した上で反逆と憤激の言葉を発したに違いない。政治家として覚悟を決めたのなら、全力で闘争しないといけない。窮鼠猫を噛む局面を作って流れを変えないといけない。
日本人の矜持と底力を世界に証明しないといけない。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。