しんぶん赤旗に掲題の記事が載りました。
「スパイ防止法(国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案)」は中曽根康弘政権が40年まえの1985年に国会に提出しましたが、国民の大反対運動で廃案になりました。法案は議員、メディアなどの言論活動や市民の言動を政府が不都合と見なせば「犯罪」とするもので、最高刑を死刑とする重罰規定も盛り込まれました。
その悪法制定の策動が40年前に失敗しその後も制定できなかったのは、憲法と民主主義に反する弾圧法という大問題があり、国民の「良識」がそれを許さなかったからでした。
ところで参政党の神谷宗幣代表と国民民主党の玉木雄一郎代表はどちらもSNSの活用に熱心で大量の読者を獲得しているうえに、女性関係がデタラメという共通点まで持っていますが、神谷氏は7月22日、「スパイ防止法」を秋の臨時国会に提出べく法制局とも相談していると語り、玉木氏は8月26日、「スパイ防止法の立法化に向けて議論している」と発言し、11日には「スパイ防止法等インテリジェンス(情報分析:軍事用語)のあり方検討ワーキングチーム」の初会合を開きました。
荻野富士夫・小樽商科大学名誉教授は、「特定秘密保護法、共謀罪法、経済秘密保護法、能動的サイバー防御法など、国民を監視する憲法違反の悪法を次々に制定した上に、スパイ防止法という屋上屋を重ねるのは、戦時中の弾圧法のように、戦争に反対する『危険な思想』をあぶりだして排除するためのテコとして、スパイ防止法を使おうとしているのではないか」と言います。また
五十嵐仁・法政大学名誉教授(政治学)は、「スパイ防止法制定は自民党が統一協会・勝共連合と一体で進めてきた悲願であり、それが40年前に頓挫しその後も制定できなかったことに対して、極右・排外主義勢力(⇒参政党)と補完勢力(⇒国民民主党)が自民党におもねる形で、悲願達成に向けて『お手伝いします』と表明したもの」と語ります。
いずれにしても「良識を失った所業」というしかありません。これまで国民の良識によって「反戦平和への道」が守られてきたものを、SNSの扇動力を使って「極右」に奔り、こうした「戦争への道」を開こうとするのは実に恐ろしいことです。
スパイ防止法をテコとする反動ブロック形成の危険な動きは、米国の軍拡要求に従う「戦争する国づくり」を加速する歴史的な暴挙といえます。この悪法を阻止する平和と民主主義、人権を守る国民的共同を広げる時です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〝2025とくほう・特報″ なぜ今 「スパイ防止法」 反動の絆 阻止へ共同 戦争準備へ目・耳・口ふさぐ
しんぶん赤旗 2025年9月13日
秋の臨時国会に向けて参政党や国民民主党などが「スパイ防止法」の制定をめざして動き出しています。同法は「スパイ防止」の名目で軍事・外交などの「国家機密」を守るために国民の目、耳、□をふさぎ、報道の自由や国民の知る権利、基本的人権を侵害する悪法です。なぜ、今、こうした危険な動きが出ているのか、その狙いは何かを探りました。 (伊藤紀夫)
参政党の神谷宗幣代表は参院選後の7月22日、秋の臨時国会に向けて準備している法案について「一つはスパイ防止法」とし、「どういう枠組みにするかによっては単独ではできない可能性があるので、今、法制局とも相談しながら、どういった内容にするのかを含めて検討している」と述べました。
国民民主党の玉木雄一郎代表は8月26日、「スパイ防止法は公約にも掲げた」「立法化に向けて議論している」と発言。同党は11日、「スパイ防止法等インテリジェンスのあり方検討ワーキングチーム」の初会合を開きました。
自民党は5月27日、高市早苗前経済安全保障相が石破茂首相に「諸外国と同水準のスパイ防止法の導入に向けた検討も推進すべき」とする「提言」(自民党政務調査会)を手渡して要請。参院選中、自民党はXで「スパイ防止法の導入」をアピールしました。
日本維新の会は5月14日の参院決算委員会で松沢成文氏が「日本はスパイ天国とやゆされ
ている」「日本にも包括的なスパイ防止法をつくるべきだ」「違反者に重罰を科す」と主張。同党の青柳仁士政調会長は「次の国会も法案提出も含めて検討していく」と述べています。
40年前から悲願
同法は中曽根康弘政権の1985年に自民党が「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」として国会に提出し、国民の大反対運動で廃案になったものです。国防とそれにかかわる外交問題を「国家秘密」とし、政党や国会議員の国政調査、マスコミなどの言論活動、市民の言動をも政府が不都合と見なせば「犯罪」とするもので、最高刑を死刑とする重罰規定も盛り込まれました。
法政大学名誉教授(政治学)の五十嵐仁さんは「スパイ防止法の制定は自民党が統一協会・勝共連合と一体で進めてきたもので、悲願だったわけです。それが40年前に失敗し、その後も制定できなかったのは、憲法と民主主義に反する弾圧法という大問題があり、国民の反対も強かったからです。今、その悲願達成へ極右・排外主義勢力と補完勢力が自民党におもねる形で、お手伝いしますと表明したということでしょう」と語ります。
今なぜ再び「スパイ防止法」が浮上しているのか。五十嵐さんは「政府は日本周辺の緊張をあおり、サイバー攻撃を未然に防ぐためとして能動的サイバー防御法を通すなど、戦争準備の動きを着々と進めています。その機運に乗ってスパイ防止法制定を掲げれば保守層の支持が得られると計算しているのでしょう。自公が衆参両院で過半数割れし、極右・排外主義勢力と補完勢力がチャンスとばかりに政権への売り込みを図る中、反動ブロックを結びつける絆としてスパイ防止法制定連合のような形になる危険も考えられます」。
あぶりだし排除
神谷代表は7月14日の街頭演説で、公務員について「極端な思想の人たちは辞めてもらわないといけない。これを洗い出すのがスパイ防止法だ」と述べ、思想選別の意図を示しました。これについて神谷氏は記者会見で「昔、共産主義者がやっていた天皇制の打倒、国体の破壊、そういったことを言って、それを実際に計画したり行動すること、もしくはそういう団体に情報を流すことに問題があるわけで、それをちゃんとチェックするような法律をつくらなければいけない」と主張しました。参院選では「共産主義がはびこらないように治安維持法をつくった」「それは共産主義者にとっては悪法でしょうね」と正当化しています。
1925年に天皇制権力が制定した治安維持法は、「国体の変革」を目的とする結社の組織と加入を「極悪非道」の犯罪とし、「君主制の廃止」を掲げる日本共産党を弾圧し、特高警察による拷問・虐殺が横行しました。28年には最高刑を死刑とし、「目的遂行罪」を設けて弾圧対象を広げ、宗教者や知識人など
幅広い人たちの言論の自由を奪いました。
治安維持法に詳しい荻野富士夫小樽商科大学名誉教授(日本近現代史)は「当時、共産党は帝国主義戦争反対、植民地の独立、18歳以上の男女普通選挙権、言論・集会・出版・結社の自由、8時間労働制などを主張しました。これは現在の憲法の中に生きている世界的な普遍的価値です。治安維持法が悪法である本質は社会変革の思想や運動を強権で弾圧するところにあります」と強調します。
「参政党は『新日本憲法(構想案)』前文に天皇中心の『国体』を明記し、国民主権と民主主義、人権を否定する戦前の価値観からスパイ防止法制定に動いています。戦争に駆り立てた『国体』観で思想を取り締まる時代錯誤の発想です」。荻野さんは批判します。
治安維持法とともに一連の戦時弾圧法制は、国民に「見ざる、聞かざる、言わざる」を強い、無謀な侵略戦争を拡大していきました。37年に中国への全面侵略戦争を開始した直後、1898年制定の「軍機保護法」が改定され、「軍事上の秘密」を外国にもらしたものなどに死刑や無期懲役を科す規定が盛り込まれました。1941年に「国防」にかかわる外交問題も「国家機密」として死刑を含む重罰を設けた「国防保安法」公布の9カ月後、アジア太平洋戦争に突入したのです。
荻野さんは「特定秘密保護法、共謀罪法、経済秘密保護法、能動的サイバー防御法など、国民を監視する憲法違反の悪法を次々に制定した上に、スパイ防止法という屋上屋を重ねるのはなぜか。36年には急に軍機保護法違反の記事が相次いで報道され、今と同じように『日本はスパイ天国』と意図的に強調され、法改定の機運がつくられました。この戦時中の弾圧法のように、戦争に反対する『危険な思想』をあぶりだして排除するための名目、あるいはテコとして、スパイ防止法を使おうとしているのではないか」と言います。
五十嵐さんは「自公政権は安保3文書に基づいて、ハード面での大軍拡、敵基地攻撃体制整備をどんどん進めています。これと並行してソフト面で国民を監視して取り締まる戦争準備の
法制度を具体化しています。スパイ防止法制定の動きはその一環です。その危険性について声を大にして訴えていく必要があります」と語ります。
スパイ防止法をテコとする反動ブロック形成の危険な動きは、米国の軍拡要求に従う「戦争する国づくり」を加速する歴史的な暴挙といえます。この悪法を阻止する平和と民主主義、人権を守る国民的共同を広げる時です。