2024年5月20日月曜日

冊子「わたしの戦争体験 ~ 」が新潟日報に掲載されました

 9条の会「湯の町湯沢平和の輪」では、戦争体験者の皆さんから寄せられた体験記事を「通信 湯沢平和の輪」に、09年~17年にわたって掲載しました。
 その戦争体験談 40編をまとめた小冊子「わたしの戦争体験-平和への思いを込めて」3月に完成し、関係者への贈呈分を含めて150冊を完売しました。
 新潟日報20日付の電子版にその記事が掲載されましたので紹介します。
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悲惨さ風化させない 空襲や兵役の記憶38編 編戦争体験集を発行 湯沢の住民団体
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 湯沢町の住民団体「湯の町湯沢平和の輪」は、8年にわたって団体の機関紙に掲載した戦争体験談38編をまとめた冊子「わたしの戦争体験-平和への思いを込めて」を発行した。終戦から80年近くが経過し、戦争を経験した人たちが減っていく中、冊子を通じ「戦争の悲惨さを風化させてはいけない」と、世代を超えて伝えていくつもりだ。

 「湯の町湯沢平和の輪」は、日本国憲法9条を堅持し、平和を願い求めていこうと、2005年12月に発足した。戦争当時を知る湯沢町にゆかりのある人から寄稿してもらったり、会員が聞き書きしたりした体験談を、毎月発行する機関紙「通信平和の輪」に掲載している。冊子には、機関紙の09年6月から17年10月までに掲載された分を収めた。
 内容は空襲や兵役体験、戦時下の暮らしなどさまざま。祝福されて出征し、兵隊としての教育を受けた回顧録や、焼夷弾が落とされ、夜は怖さで一睡もできなかったという長岡空襲の体験談、寒さの厳しい満州で暮らした記憶などが収録されている。
 団体の編集委員、小野塚美代子さん(80)は「自分では書けない」という高齢者の話も機関紙に掲載するために、傾聴講座に通って聞き書きの技術を磨いた。「当時は大変たったけれど、冊子を受け取った人に本当に喜んでもらえたことは、私の財産」と笑みを浮かべた。
 機関紙に掲載された戦争体験者のうち、約半数は既に亡くなっているという。編集委員で団体事務局も務める笛木 壌さん(79)は「戦争体験をまとめるのは、今をおいてないと思った。貴重な証言をまとめることができた。戦時中にも一人ー人に暮らしがあったことが読むと伝わると思う」と語った。
 B5判128頁。湯沢町図書館で読むことができる。問い合わせは笛木さん、025(785)5062.

 電子版記事⇒ https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/406481 

「ジェノサイド」や「民族浄化」などは不可 『ニューヨーク・タイムズ』のメモが示すもの

『ニューヨーク・タイムズ』編集部が作成したガザ報道の用語使用に関するメモが外部に流出しました。そのメモを入手した独立系メディア『インターセプト』がその内容を以下のように報じました。

 同メモは、記者がガザ報道に関する記事を書く場合どのような用語を使い、のような表現に注意すべきかの基準を示したもので、「大量虐殺」「占領地域」「民族浄化」、さらには「難民キャンプ」「パレスチナ」などの国連でも使われている用語や表現が「不使用」とされています
 その理由として、「紛争の性質上、あらゆる方面で扇動的な言葉遣いや扇動的な非難が行われている。たとえ引用文であっても、そのような言葉を使用する場合には細心の注意を払う必要がある。~ 激しい言葉遣いはしばしば事実を明確にするどころか曖昧にしてしまう可能性があるから」と明記しているということです。
 そして「占領地域」と呼んではいけない理由は、「紛争の現実を曖昧にし、紛争が10月7日に始まったという米国とイスラエルの主張に影響を与えからだということです。

 『ニューヨーク・タイムズ』編集部は、このような用語規制は「“すべての側の公平性”を目的とする」からだとしていますが、そんなたてまえ論とは裏腹に同紙のガザ報道では、規制されているはずの用語がハマスによるイスラエルでの戦闘を説明するときにはくり返し使用されていて、この規制一方に偏ったものであり、イスラエルのパレスチナ人への大量殺害には沈黙し容認するためのものであることが一目瞭然です。
 実際に『インターセプト』昨年10月7日から11月24日までの『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』『ロサンゼルス・タイムズ』の戦争報道分析した結果これらの大手紙は「虐殺」「大虐殺」「恐ろしい」などの用語を、イスラエルによって意図的に殺害されたパレスチナ民間人ではなく、もっぱらパレスチナ側の攻撃の犠牲となったイスラエル民間人に限定して使用していて、イスラエル人の死に言及して「虐殺」と表現したのは53回パレスチナ人の死についての同じ表現は1回だけでした。
 まさに「公平性」の対極にあるもので、パレスチナ側を残虐な存在と誤解させる以外の何ものでもありません。「語るに落ち」ました。
 長周新聞の記事を紹介します。
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「ジェノサイド」や「民族浄化」などはNG 『ニューヨーク・タイムズ』のメモが示すもの
                         長周新聞 2024年5月18日
 イスラエルのガザでの大虐殺について西側メディアは沈黙することで、それに加担する報道を続けている。アメリカでは大手メディアが、沈黙を拒否する学生たちのキャンパスでの活動を醜くく描くことで真実を覆い隠そうとする姿を重ねてさらけ出すことになった。こうしたなか、『ニューヨーク・タイムズ』編集部が作成したガザ報道の用語使用に関するメモが外部に流出したことで、「リベラル」を自認するジャーナリズムの犯罪性が浮き彫りになっている。このメモを入手した独立系メディア『インターセプト』が報じている。

イスラエルの犯罪報道のみ「慎重に」
 『ニューヨーク・タイムズ』から流出したメモは、記者がガザ報道に関する記事を書く場合どのような用語を使い、そのような表現に注意すべきかの基準を示したものだ。そこでは「大量虐殺」「占領地域」「民族浄化」、さらには「難民キャンプ」などの国連でも使われている用語や表現が「不使用」とされている。「パレスチナ」という用語(領土および国連承認国家の両方をあらわす名称として広く使用されている)すらも「通常の文章や見出しには使用しない」と記載されている。
 メモにはその理由として、「紛争の性質上、あらゆる方面で扇動的な言葉遣いや扇動的な非難が行われている。たとえ引用文であっても、そのような言葉を使用する場合には細心の注意を払う必要がある。われわれの目標は明確で正確な情報を提供することであり、激しい言葉遣いはしばしば事実を明確にするどころか曖昧にしてしまう可能性がある」と明記している。
 たとえば、「虐殺」「大虐殺」「大量虐殺」などの用語は「情報よりも感情を伝えることがよくある。みずからの声で使用する前によく考えるように」と注意するよう指示している。また、占領地域」の用語に関しては、「それぞれの状況が若干異なるため、可能であればこの用語を避け、具体的に(例えば、ガザ、ヨルダン川西岸など)書く」と示している。
 国連はガザ、ヨルダン川西岸、東エルサレムを「イスラエルが占領したパレスチナ占領地」とみなしているのだが、「占領地域」という用語は「紛争の現実を曖昧にし、紛争が10月7日に始まったという米国とイスラエルの主張に影響を与えている」というのが、その理由だ。

“公平性”という欺瞞
 ニューヨーク・タイムズ』編集部は、このような用語規制は「あらゆる方面で」殺害を描写するうえで扇動的な用語を使わないようにするためだといい、「“すべての側の公平性”を目的とする」からだとしている。だが、そのようなたてまえとは裏腹に同紙のガザ報道では、規制されているはずの用語がハマスによるイスラエルでの戦闘を説明するときにはくり返し使用されてきた。実際には、この規制の適用は一方に偏ったものであり、イスラエルのパレスチナ人への大量殺害には沈黙し容認するためのものであることが一目瞭然となっている。
 『インターセプト』は今年1月、昨年10月7日から11月24日までの『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』『ロサンゼルス・タイムズ』の戦争報道の分析した結果を明らかにしていた。それによると、これらの大手紙は虐殺」「大虐殺」「恐ろしい」などの用語を、イスラエルによって意図的に殺害されたパレスチナ民間人ではなく、もっぱらパレスチナ側の攻撃の犠牲となったイスラエル民間人に限定して使用していた。
 たとえばこの間、イスラエル人の死に言及して「虐殺」と表現したのは53回、パレスチナ人の死についての同じ表現は1回だけであった。この時点でパレスチナ人の死者が約1万5000人に達していたが、それにもかかわらず「虐殺」の用語の割合は22対1であった。また、10月7日のハマスによる攻撃で死んだイスラエル人の大部分は現役、非番、または予備役だったにもかかわらず、「虐殺」や「大虐殺」などの用語が多用されていた。さらに、ハマスによって「虐殺された」人々の多くがイスラエル軍の手による「同士討ち」で死亡した(イスラエル側が認めている)という事実や、それらの人々がイスラエルによる包囲と以前のガザ虐殺に直接関与していたことについてはほとんど言及していなかった。

編集部内の対立を反映
 『インターセプト』によれば、このたびの用語統制メモの流出は、ガザ報道をめぐる『ニューヨーク・タイムズ』編集部内の対立・混乱を反映したものだ。この漏洩を受けて、同社ではきわめて異例の社内調査が始まった。だがその過程で、中東や北アフリカ系の従業員を標的にしたことが、さらに厳しい批判にさらされることになった。ジョー・カーン同紙編集長はスタッフに対し「漏洩調査は不成功に終わった」と語っている。
 ガザ報道をめぐる同社内の対立は、とくに「10月7日のハマスによる組織的な性暴力」をセンセーショナルに報じた「言葉なき叫び」と題する記事(12月28日付)がねつ造であったことから先鋭化していた。
 この扇動記事の内容は多くの西側メディアによって報じられ、イスラエルのガザでの残忍な攻撃と欧米のそれへの軍事支援を正当化するために利用された。しかし、その後さまざまな調査報告で、この記事にはなんら根拠がないことが判明した。この記事を寄せたのは、パレスチナ人への憎悪と暴力を煽るSNS上の複数の投稿に「いいね!」を付けていたフリーランスのイスラエル人ジャーナリストであった。
 ちなみに最近、60人以上のジャーナリズム専攻の大学教授らが『ニューヨーク・タイムズ』に「ハマスのメンバーが10月7日に大規模な性暴力をおこなった」という報道について、なぜ「このような粗末な記事が撤回も調査もなしに掲載された」のか、第三者機関による「独立した調査を依頼する」よう求める書簡を送る事態となっている。

ガザ虐殺止めるため学生や高校生が行動 米欧など軍事支援国の足下で拡大

 別掲の記事で報じたように、米国の大手紙では〝ガザを攻撃しているイスラエル軍が悪者に見られないように″注意深く言葉を選んで記事を作っているようです。しかしSNSが発達している現在そんな「子供だまし」の方針が通用する筈がありません。
 イスラエルの大規模攻撃が続き、ガザ南部ラファへ追い詰められた百数十万人のパレスチナ避難民に対する総攻撃が予告されるなかで、アメリカをはじめ世界中の大学で、ガザの即時停戦と虐殺の停止を求めるとともに政府や大学当局に対してイスラエルへの軍事的、経済的、学術的な関係を絶つことを求める抗議行動が起きています。
 激しい抗議行動が広がっているのは、イスラエルへの武器弾薬供与等の軍事支援を続けるアメリカ、フランス、ドイツ、イギリス、オーストラリアなどのいわゆる「西側」の国々で、国境をこえて自国政府や大学に対してジェノサイドへの関与を問う声が高まっています(一部の高校でもストライキ学校閉鎖が行われています)。
 その一方で大学側は、カリフォルニア大学バークレー校などのごく一部の大学を除いて、警官を大学構内に入れて学生の抗議行動を弾圧することに全く躊躇しません。いまや「大学の自治」は空文化しあたかも「戦時中」であるかのような様相を呈しているのですが、それだけに学生たちの正義感、公平性は際立っています。
 長周新聞が報じました。1万字に及ぶ長文の記事ですが敢えて全文を紹介します。原記事には写真も豊富に載っていますが、紙面の都合で割愛し、【写真説明】として説明文だけを記載しました。

 なお記事の原題は「『Z世代』が動かす世界の世論 ガザ虐殺止めるため ~ 」です。Create転職」によると、「Z世代の語源は米国の「ジェネレーションZ」であり、年齢は明確に定義されていませんが、「1990年半ばから2010年代生まれの世代」を指すことが一般的で実年齢としては、大体25歳以下の若い世代を指すことが多いとされています。
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「Z世代」が動かす世界の世論 ガザ虐殺止めるため学生や高校生が行動 アメリカや欧州など軍事支援国の足下で拡大
                         長周新聞 2024年5月17日
【写真説明】テキサス大学オースティン校でパレスチナに連帯して行進する学生たち(4月24日、米国)
【写真説明】ガザ虐殺への抗議と大学のイスラエルや軍事企業との取引撤退を求めて行動するパリ政治学院の学生たち(3日、フランス)

 パレスチナ自治区ガザへのイスラエルの大規模侵攻が続き、数百万人の避難民が追い詰められたガザ南部ラファへの総攻撃が予告されるなかで、アメリカをはじめ世界中の大学で、ガザの即時停戦と虐殺の停止を求めるとともに政府や大学当局に対してイスラエルへの軍事的、経済的、学術的な関係を絶つことを求める抗議行動が広がっている。激しい抗議行動が広がっているのは、イスラエルへの武器弾薬供与等の軍事支援を続けるアメリカ、フランス、ドイツ、イギリス、オーストラリアなどのいわゆる「西側」の国々であり、その足下で国境をこえて自国政府や大学機関に対してジェノサイドへの関与を問う声が高まっている。学生たちの運動は社会的な共感を集め、高校生もストライキ(学校閉鎖)をおこなうなど、いわゆる「Z世代」が運動の主体として前面に登場している。

パレスチナと境遇重ねる若者たち
 パレスチナ・ガザへのイスラエルによるあからさまなジェノサイド(大量虐殺)が進行するなかで、「テロリスト(ハマス)殲滅」「自衛権の行使」という名目で四万人近くもの民間人(大半が女性や子ども)を無差別に殺害してきたイスラエルと、それを容認して停戦仲介にも動かず、イスラエルに武器や弾薬を供給し続けるアメリカをはじめとする欧米諸国の対応に抗議する若者たちの運動が各国で高まってい
 パレスチナでは、70年以上続くイスラエルによる違法な土地収奪、占領、人種隔離政策のうえに、昨年10月7日から200日以上にわたってガザ地区への爆撃と地上侵攻が続いているが、国連安保理ではアメリカが拒否権を使って停戦決議を葬り、主要メディアの報道も一昨年2月以降のウクライナ戦争と比較しても圧倒的に少ない。
 だが、中東衛星メディア「アルジャジーラ」や独立系ジャーナリスト、現地の人々によって毎日のように無残な映像やガザ現地の声がネットやSNSを通じて世界に拡散され、とくにイスラエルを側面支援する欧米諸国で暮らす若者たちのなかで「なぜジェノサイドを容認するのか」「これ以上の虐殺を許すな」「パレスチナを解放せよ」の世論が堰を切ったように表面化した。
 抗議デモや座り込み、イスラエル支援企業へのBDS(ボイコット、投資撤退、制裁)運動、また大学にイスラエルや軍需関連企業との経済的、学術的な提携を絶つことを求める学生たちの学内キャンプ運動が拡大している。
 アメリカでは、ハーバード大学、ブラウン大学、コロンビア大学、ペンシルベニア大学、カリフォルニア大学などの名門校を皮切りにパレスチナに連帯する抗議行動が、大学当局の停学や卒業資格剥奪の処分、警察当局による暴力や逮捕の圧力にもかかわらず、全米150校にまで拡大した。
 1948年のイスラエル建国以来の盟友であるアメリカには、国内にユダヤ人も多く、イスラエルで事業を展開する企業をはじめ、金融・メディア・エンタメ・IT・軍需などのあらゆる業界に強力な資金力を持ったイスラエル・ロビーが存在するそれらの企業や投資家の代理人が送り込まれている米国議会は「大学が反ユダヤ主義に侵食されている」「ユダヤ人学生の保護を怠っている」として大学当局に圧力をかけ、大学は警察に学生運動の弾圧を要請。市警察だけでなく、テキサス州やカリフォルニア州などでは対テロ特殊訓練を受けた州警察の武装警官が警棒やテーザー銃などの武器をもって丸腰の学生たちを弾圧・逮捕し、オハイオ州立大では屋上に狙撃兵が配置されるなど常軌を逸した弾圧措置をとっている。
 抗議行動に参加する学生たちは、集会やメディア取材SNSを通じて口々にのべている。
 「これまでどんなに学内でマイノリティへの人種差別事件や銃乱射事件が起きても学生を守るための措置をとらず、銃規制もせず、政府や大学は“自分の身は自分で守れ”といってきた。だから私たちは子どものころから、銃乱射が起きたときに備えて木製の机でバリケードを作ったりする避難訓練を受けてきた。今回の抗議活動で学生たちが身を守るために作ったバリケードはそれを応用したものだ。すると今度は大学が警察を介入させ、学生に銃口を向けてくる」
 今回の行動で、大学という身近な場所でさえも虐殺と繋がっていることが明らかになった不正を不正ということすら許されず、誰からも守られない。みんなパレスチナやガザの人たちの境遇に自分を重ねている」
 「私はユダヤ人だが行動に参加している。ここには暴力は存在せず、お互いをリスペクトしあっている。でも警察はそんな私たちユダヤ系学生さえも羽交い締めにして連行する。イスラエルの残虐な行為は、ユダヤ人とは何の関係もない。私たちはユダヤ人としてシオニズム(ユダヤ人の名の下におこなわれる虐殺や占領)に反対する」
 「絶望すると同時に、私たちにはもう失うものがない。虐殺が正当化され、おかしいことがおかしいといえない世界で自分が優秀な成績をとって大学を卒業しても意味がない。たとえ逮捕されたり追放されてもかまわないと考える学生が増えている」
 「学生は歴史的に道徳的羅針盤だった。今まさに歴史の転換点にいる。自分たちの教育がパレスチナ人の命やあらゆる人命を犠牲にしておこなわれることがないように厳しく要求する。そして、イスラエルの違法な入植、アパルトヘイト政策、もっともらしい理由による大量虐殺行為を支援したり、利益を得たりする企業からの撤退を求める
 カリフォルニア大学バークレー校などマイノリティ出身の学生が多い大学では学内キャンプを取り締まらない大学もある。同校の歴史学教授は「バークレーでは、学生キャンプを違法とせず、大学の授業は休みとし、このこと自体を教育の場とみなしている。イスラエル批判と反ユダヤ主義を同一視することに問題がある。新たなマッカーシズムに対抗しなければならない。自分もイギリスでの学生時代に反アパルトヘイトのストライキをやった。“何も変わらない”と当時もいわれたがアパルトヘイトは終わったではないか。教え子たちのパレスチナ連帯キャンプを誇らしく思う」と語っている。
 これまでに全米で逮捕された学生は2500人をこえ、米下院はイスラエル批判や抗議を禁じる「反ユダヤ主義啓発法」を急遽可決するなど火消しに躍起だが、正当な抗議活動や言論を強権や暴力で封じる動きは、学生たちの怒りに油を注ぎ、教職員組合も「学生と学問領域を言論弾圧の暴力から守れ」とストライキを起こすなど世論はそれに反比例して拡大している。

フランス 高校生も学校封鎖スト
【写真説明】イスラエルのラファ侵攻に反対して抗議行動をおこなうソルボンヌ大学の学生たち(4月29日、パリ)
 ストックホルム国際平和研究所によると、2019年から2023年までのイスラエルの主要通常兵器輸入先は、アメリカがトップで65%以上を占め、ついでドイツ(約30%)、イタリア(約4・7%)となっている。イギリスやフランスをはじめG7やEUに属する欧州主要国もイスラエル支持をうち出して支援を続けている。イスラエルと密接な関係にあるアメリカ国内での若者たちの行動は、これらの国々の学生たちも動かした。
 フランスでは昨年10月、マクロン政府がパレスチナ連帯デモを禁止したが、大規模な市民デモがくり返されてきた。フランス有数の名門校パリ政治学院で4月26日、学生たちがパレスチナに連帯する集会をおこない建物の一部を占拠。パレスチナ国旗や「虐殺をやめよ」などのプラカードを掲げ、大学当局にイスラエルのガザ虐殺への正式な抗議を表明するよう求めた。即座に機動隊が出動して学生らを逮捕・排除し、大学はキャンパスを閉鎖したが、その後も学生たちによる大規模デモが続いている。
 パリのソルボンヌ大学では、4月29日から学生ら100人がイスラエルによるガザ地区での虐殺に対する抗議活動をおこない、機動隊がデモ参加者を排除した。翌日、パリ市役所前広場では、逮捕された学生らの解放を求める人々で埋め尽くされ、「ソルボンヌはガザとともにある!」の声がこだました。
 学生たちは米国の大学やパリ政治学院の学生たちに連帯して、政府や大学にイスラエルとの提携撤退を求め、学内でキャンプを開始。「私たちがフランスで教え込まれてきた価値観が今、踏みにじられている」「イスラエルに武器を送り、無条件支持を表明している政府を強く批判する」「虐殺への批判の声は、大学をはじめ、生まれたいたるところで同時に潰されている」と抗議した。
 ソルボンヌ大学の学生たちは緊急声明で、「私たちは国際法の多くの基本原則に違反してラファ(ガザ南端の街)で続いているイスラエルの大量虐殺的行為に抗議するために立ち上がった。私たちは、以前から抗議の手段として占拠されていた象徴的場所であるソルボンヌの講堂を平和的に占拠することを決定した。この行動と抗議は、(ガザ地区)ラファの状況に対する学生たちの全般的な憤りから始まった。だが、私たちは88人もが警察に逮捕されるとは想像もしていなかった。これはフランスにおける学生運動に対する前例のない規模の弾圧だ」と訴えた。
【写真説明】平和的に抗議していたソルボンヌ大学の学生を連行するフランス警察(4月29日)
 会見で学生たちは次のように告発している。
 「この平和的行動に参加した学生たちは、深刻な暴力の被害者となった。学生たちの行動に過剰に反応した警備員による性的暴行、押し倒し、殴打、絞めつけ、侮辱がおこなわれた。この責任は大学にある。講堂内でおこなわれた学生総会では、イスラエルによるラファの違法な侵攻の緊急事態に対応し、大学ボイコットの要求を進める方法について議論した。だが大学当局の決定により、警察は予告なしに学生を強制排除し、学生総会が中断され、一方的に逮捕された」
 86人の拘留者が異なる警察署に分けられ15~22時間も拘留された。拘留中には、多くの身体的、心理的、言葉による暴力が続き、約10人の学生が全裸になるよう強制され、警官によって警棒で体を触られた。他の女子学生は警官からベールを取るよう強制され、『フランスにシャリーア法(イスラムの法)を導入したいのか?』などのイスラムへの侮辱もおこなわれた。ある学生は、『お前が何をしたか俺に言え、カメラを止めたらお前をぶっ潰してやる!』と叫ぶ警官によって壁に押し付けられた。診療は拒否され、低血糖発作、重度の呼吸困難に陥るなど学生が命の危険にさらされた。弁護士や家族への電話も拒否された。これらの違法行為は、パレスチナ支援者が受けている弾圧の状況と密接に関連している。これらの過剰な攻撃は個人的に私たちを狙ったものではなく、パレスチナとの連帯運動全体を標的としたものだ。逮捕数と不起訴処分の多さは、これらの自由への侵害が、犯罪者を逮捕することを目的とせず、むしろ運動の規模を縮小し、脅しをかけることを意図しているからだ。この占拠は力強く正当な政治行動だ。大学は思考と表現の自由を築く空間だ。私たちは多くの若者と労働者にこの行動に参加し、持続するよう呼びかける。大学に対する私たちの要求は明確で正当であり、どのような暴力的反応があろうとも私たちはそれを断固として要求しつづける」
 これに呼応してフランス高校生組合は5日に声明を発し、「6日から、私たちはガザの停戦とパレスチナ国家の承認を要求するために、高校を封鎖することを呼びかける」と表明した。
【写真説明】学校閉鎖を呼びかけるフランスの高校生(『BFMTV』より)
 同組合副会長のマネス・ナデル氏(16歳)は、フランスのニュースメディア『BFMTV』に出演し、「今ガザで起きている大虐殺――それ以外の言葉はない――を目の前にして、私たち高校生は、大学生がこの数週間おこなっている運動に呼応して動かなければいけない。明日と明後日に高校生による全国高校封鎖を実施する。数十校と大規模な範囲で学校が閉鎖されるだろう。私たちはすべての高校生に呼びかける――行動せよ!」とのべた。
 また、「米国の学生はバイデンに、イスラエルに対する態度を厳格化するよう強く求めている。私たちもマクロンに対して同じことをしなければならない。国際社会全体がダブルスタンダードをやめ、停戦を訴えるべきだ。イスラエルがやっていることは相応の対応ではなく大量虐殺だ」「停戦が実行されねばならない――人質たちの解放を可能にしながら。必要なのは銃声が鳴り止むことであり、国際法が優先されることだ」と訴えた。
【写真説明】学校を封鎖したフランスの高校生たち(6日、パリ)
 6日、フランス中央部にあるアンブロワーズ・ブルギエール高校では生徒約300人が「ガザ停戦」を求めて学校の正門を封鎖。他の複数の公立高校でも、生徒が数百人規模で授業を欠席して抗議デモを実施した。
 デモに参加した生徒は「目の前で虐殺がおこなわれてるのに何も進展しない。今の世の中はすべて繋がっていて、何でも把握できるのに何も起きない」「私たちは若いので意見をする必要がないと思われがちだが、私たちにも意見がある。何が正しくて正しくないかも知っている。大人と同じように運動する権利がある」とのべている。
 高校生組合は『X』で「フランス全土で平和のために高校が封鎖されている。ラファの差し迫った脅威に直面して、この国のすべての高校生には行動を起こす義務がある。人質の解放とパレスチナの承認を伴う即時停戦を要求しよう!」とコメントし、今後も活動を継続することを呼びかけた。
 学生の抗議活動はトゥールーズ政治学院、リヨン政治学院をはじめ、フランス国内の大学や高校に拡大している。1968年の「五月革命」以来、フランスの学生や高校生たちは定期的に運動を起こしてきたが、大学に機動隊が即座に出動するのは異常事態と捉えられており、学生運動の盛り上がりは「革命の五月」を想起させながら加速している。

ドイツ 言論封じる弾圧に抗議
【写真説明】「真実のないところに学問はない」ガザ虐殺に抗議して学内に座り込むドイツ・フンボルト大学の学生たち(3日、ベルリン)
 ホロコーストの過去を抱えるドイツでは、政府が「イスラエル支持は国是」とし、イスラエル批判やパレスチナ支持の言動は「反ユダヤ主義」「ホロコーストを肯定する者」とするレッテルが貼られ、法的に罰せられる。それを主張すれば、それがユダヤ人市民であったとしても、メディア人、学者、芸術家、作家、スポーツ選手に至るまで職場を追われたり、支援金が凍結されたり、活躍の場を奪われるという言論封殺がおこなわれてきた。
 アメリカ以上に覚悟を要するといわれるドイツでも、パレスチナに連帯する抗議行動が国内で広がりを見せている。
 ベルリンの名門フンボルト大学では3日、平和的に中庭に座っていた学生たちが、ガザ地区での大量虐殺に抗議したとしてドイツ警察に逮捕された。座り込みに参加した学生たちは、「アカデミック(学術)・ボイコット」を提唱し、ガザでのイスラエルの大量虐殺に抗議して、ドイツの加担を正式に拒否するよう大学に要求。また、抗議者たちは軍事利用のための科学研究の停止を求め、イスラエルに対する武器禁輸を求めている。
 また七日、ベルリン自由大学で約150人の学生たちが、大学の中庭にテント設置を試みたところ、大学側はただちに警察の出動を求め、80人以上が逮捕されたベルリン市長は「反ユダヤ主義とイスラエルへのヘイトは、意見の表明ではない。犯罪行為だ」と談話を発し、取り締まりを強化した。
 これについて、200人以上の教員が「ベルリンの大学教員による声明」で「抗議キャンプの具体的な要求にわれわれ教員が同意しているかを問わず、われわれはわれわれの学生たちの側に立ち、平和的な抗議をおこなう彼らの権利を擁護する。これには大学の敷地の占拠も含まれる。われわれは、ベルリンの大学指導部に対して、警察の動員及び刑事訴追を控えることを要求する」と訴え、議論を呼んでいる。
 ライプチヒ大学では、100人弱のデモ参加者が講義棟を占拠。ドアをバリケードでふさぎ、敷地内にテントを設営した。大学は七日午後に警察を呼ぶとともに、一部の参加者を刑事告訴した。
 ドイツ政府は、親パレスチナ的発言をした移民出身のドイツ国民に対して国籍剥奪までおこなっており、ホロコーストを掲げてイスラエルの虐殺を全面的に支持し、「自由と民主主義」とかけ離れた言論統制を強化することへの国内外の反発は今後さらに高まる趨勢にある。

イギリス 消防連盟も連帯を表明
【写真説明】エディンバラ大学の学生はキャンパス内の一部を占拠し、大学に武器製造者や大量虐殺への共謀から撤退することを求めた(11日、英国)
 イギリスでも、ケンブリッジ大学、オックスフォード大学、リバプール大学、ロンドン大学、エディンバラ大学など20以上の大学で学生や教員の抗議活動がおこなわれている。
 名門オックスフォード大学では6日から学生たちが敷地内にテントを張り、抗議活動を開始。学生たちは、大学に対してイスラエル軍などと関係する企業への投資撤退、それらの企業からの研究費を拒否すること、破壊されたガザ地区の教育システムの再建を支援することなどを要求している。
 学生たちは「大学の資金は教育に使われるべきであり、破壊行為に使われるべきではない」「大学や警察の反応は不安だが、勇気をもって立ち上がった人々が世界的なうねりを生み出しているという事実に背中を押されている」と主張。ケンブリッジ大学の抗議に参加するユダヤ人学生は、「ケンブリッジには、私たちのような考えを持つユダヤ人学生が多くいる。イスラエル国家が私たちの名の下におこなっている大量虐殺に対して声を上げることが、私たちの義務だと信じているユダヤ人たちだ」と語っている。
 オックスフォード大とケンブリッジ大の親パレスチナ団体は共同声明で、大学に対しイスラエル政府への「財政的・精神的支援」をやめるよう要求し、「パレスチナ人の命を犠牲にして大学の利益を増やし続けることはできず、彼らの評価がイスラエルの犯罪をごまかすことで築かれてはならない」と主張している。
 スナク英首相は7日の閣議で「キャンパス内での反ユダヤ主義の高まりは受け入れられない」とのべ、官邸に各大学責任者を呼びつけて強硬策をとるよう求めた。
 これに対して、イギリス消防団連盟(FBU)は、「親パレスチナ活動家による抗議デモが広がっている。これまでのデモで警察はデモ参加者の排除を支援するために消防救助局に支援を要請した。だがFBUは消防士の役割が人道的であることを明確にしており、隊員に対し法執行活動に関与しないよう勧告する」と声明を出し、「消防団連盟には、パレスチナの人々と連帯してきた長く誇り高い歴史がある。この連帯は、現在停戦とイスラエルへの武器供給の停止を求めて抗議しているすべての人々に及ぶ」「消防士の役割は、命を救い、地域社会を守ることだ。消防士が警察のデモ参加者の排除を支援するよう求められることに正当性はない。消防士は警察とともに法執行活動に参加することを拒否する。私たちは抗議活動参加者の権利とガザの平和と正義の呼びかけを支持する」と政府の動きを牽制した。

ヒステリックな当局の弾圧 正義は学生の側にある
【写真説明】オランダのアムステルダム大学でのパレスチナ連帯行動に参加した学生逮捕に抗議するデモが起きた(12日)
 オランダ・アムステルダム大学では6日、ガザ虐殺に抗議する学生たちがテントを張り、平和的な座り込みをおこなったところ、大学当局から出動要請を受けた武装警官が警棒で襲いかかりテントを破壊。170人以上の学生が逮捕された。無抵抗な女子学生たちを警棒で殴ったり、地面に押さえつける警官の傍若無人な威嚇の映像がSNSで拡散された。翌日にはそれに抗議する大規模デモがおこなわれた
 アムステルダム大学の教職員らは9日に発した抗議声明で要旨次のように訴えた。
 「アムステルダム大学の職員は、経営評議会(大学当局)の行動に恐怖を覚えている。過去3日間、評議会はガザで継続されるジェノサイドに大学が加担していると訴える学生たちに対し、過激な暴力を容認し、警察の介入を要請し続けた。今日、われわれは大学構内で暴力の現場を目撃した。またアムステルダム市長の協力のもと、抗議者たちを標的とした警察の介入を見た。市警察はブルドーザー、警察犬、催涙スプレー、催涙ガスを用い、警察を支援していた者も傍観者も容赦なく攻撃した。経営評議会は学生や職員との対話に悪意をもって臨み、話し合いによる解決を明確に拒み、学生たちが提示した合理的要求について交渉を継続する意思を見せていない。われわれは、評議会のこの完全な無視に衝撃を受けている」
 「経営評議会は、大学の安全確保を口実に、ガザ連帯キャンプを解体するオランダ警察の行動を支持している。これらの行動は到底受け入れられるものではない。われわれは、責任を負うべきすべての関係者を非難する
 教職員たちは抗議の意を示すべく13日にキャンパス外で抗議デモをおこなうと宣告した。
 同様の大学での抗議活動は、イタリア、デンマーク、ノルウェー、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、ベルギー、スイス、ハンガリー、アイルランド、フィンランドに至る欧州全域に広がっている。また、カナダ、韓国、メキシコ、オーストラリアなどの世界各地の大学や高校でもパレスチナ連帯デモが同時多発的に広がっており、SNSなどを通じて状況を共有しながら統一した動きとなっている。
 オーストラリア・シドニーのユダヤ人高校生は9日、ガザ虐殺に抗議して学校ストライキを実施したことを明かし、集会で次のようにのべている。
 「昨日、副校長に私が集会でスピーチすることを伝えると、彼はちょっと悲鳴のような声をあげた。彼は、私が私たちの学校のことを話すのではないかと本当に心配していた。今日、ミュアフィールド高校の名前を出せたことをとても誇りに思う。」
「今日ここに立つことが私にとってどういう意味を持つかということから始めたい。私の祖母はまだよちよち歩きのころ、現在のウクライナ南東部にある地域で、選択の余地なく銃を突きつけられ、家族とともに家を追われた。彼らは持ち運べるものを持っていき、オデッサ近くのキャンプに向けて数百㌔行進することを余儀なくされた。そのキャンプでは、他の多くの人々がゆっくりと餓死するか、薬が手に入らないために死亡した。ここ数日間、ラファから避難してきた高齢の祖父母と幼児の家族の写真を見ると、私は祖母の顔が浮かぶ。彼女の妹、そして彼女の両親の顔が浮かぶ。そして、歴史がくり返されることも。」
 私の先祖が想像を絶する被害とトラウマを受けた、それと同じ恐怖が今(ガザで)起きていることに対して私は立ち向かう義務がある。私は日常的な活動家でもなければ、勇敢で名誉ある人でもない。私たちは皆、激しい憤りを共有してここに立っている。」
【写真説明】メルボルンの州立図書館前で、授業をボイコットしてガザ虐殺に反対する高校生や大学生たち(3月、オーストラリア)
                               5月13日付)

20- 書評:『ホロコーストからガザへ』 著 サラ・ロイ 編訳 岡真理 他

 長周新聞に「ホロコーストからガザへ」(サラ・ロイ著)についての書評が載りました。

 昨年10月7日以降、ガザに対するイスラエルの侵攻が、集中治療室に入っている患者の命を奪うことにも等しいものであることはいまや衆知の事実です。
 同書は、少なくともこの16年間、ガザのパレスチナ人民が国家として成立できる要件である〝生活の糧″の全てを奪われてきたのはオスロ合意(1993年)が起点になっているとしています。
 オスロ合意とは、1993年に当時の米国のビル・クリントン大統領の仲介でイスラエルラビン首相とパレスチナ解放機構(PLOアラファト議長)の間で同意された一連の協定のことで、主に以下の点が合意内容とされています。
1.イスラエルを国家として、PLOをパレスチナの自治政府として相互に承認する。
2.イスラエルが占領した地域から暫定的に撤退し、5年にわたって自治政府による自治を認
 める。その5年の間に今後の詳細を協議する。(ウィキペディアより)

 オスロ合意自体は決してパレスチナ国家の破滅を目指したものではありませんが、中東国家の中でダントツの軍備を誇ったイスラエルとパレスチナ難民国家の間で、イスラエルの武力を伴った入植行為の横行を放置していれば、パレスチナ国家は必然的に破滅に向かうことになります。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『ホロコーストからガザへ』  サラ・ロイ 編訳 岡真理、小田切拓、早尾貴紀
                       長周新聞 書評 2024年5月18日
 昨年10月7日のハマスのイスラエル攻撃を機にしたイスラエルの大量虐殺、それをめぐる国際情勢の急速な事態の進展は、覆い隠されてきた「天井のない監獄」と化したガザ地区の現実を白日の下にさらすことになった。そのもとで、「ハマスのテロに対するイスラエルの自衛」という西側メディアの宣伝は通用しなくなっている
 イスラエルのパレスチナ占領と傍若無人な振る舞いはそれ以前から続いてきたが、今ほど問題にされてこなかった。そこには、どのようなカラクリがあったのか――。本書は、ガザ地区研究の専門家であるユダヤ系アメリカ人、サラ・ロイ(ハーバード大学中東研究所上級研究員)が政治経済学者として調査分析した内容の紹介を通して、そのような問題意識に答える一冊だ。2009年3月、日本を訪れたさいの講演、対談、インタビューなどをもとに構成したもので、日本の中東研究者・ジャーナリストの三氏が編訳している。
 ガザ地区は16年以上もイスラエルの徹底した封鎖状態にあり、世界から遮断されていた。ハマスが政権をとったため、それへの懲罰として監獄化したというものではない。サラ・ロイはガザ地区の経済を歴史的にたどるなかで、イスラエルとガザ地区、ヨルダン川西岸の相互の関係を相対的に分析したうえで、「今のパレスチナを理解するためには、オスロ合意を理解しなければならない」と強調している。

ガザの経済を歴史的に辿る
 1993年、クリントン米大統領の立ち会いでイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)が交わしたオスロ合意は「パレスチナを独立させて二国家解決」をたてまえとした。ロイは、この合意は和平プロセスの出発点ではなく、イスラエルの植民地占領支配を強化し、パレスチナの独立を不可能にするワナであったと指摘する。なによりもこれを機に、パレスチナは封鎖によって自力で経済を支えることができなくなったのである。
 イスラエルはまず西岸地区に隔離壁を築き、道路を鉄柵や土塁で閉じ込めることでイスラエルとガザ地区、西岸地区を完全に分離・隔絶した。そのため、それまでイスラエルと全面的な依存関係にあったパレスチナ経済は崩壊の一途をたどった。ガザ地区の人々はイスラエルに出て働き収入を得ていたが、働き口と商品市場を奪われ大量の失業と極度の貧困が強いられた。オスロ合意から2000年までの7年間でパレスチナの国民所得が36%も減少した。
 さらに、第二次インティファーダ⇒一斉蜂起2000年9月)を機に、イスラエルはパレスチナの開発による植民地収奪ではなく「反開発」、つまり家屋、学校、道路、工場、病院、モスク、ビニールハウスなどを破壊し、畑を荒らし樹木は抜くという徹底した破壊政策をとったそのもとで、教育と医療の機会をも奪っていった。
 そして2005年の「ガザ撤退」とは、ガザ地区をフェンスで囲い込み、工場など民間部門をなくし、実質的な経済活動が成り立つ余地のない監獄に変えるものとなった。ロイは、イスラエルのガザ地区と西岸地区で占領はそれぞれ異なったやり方であったが、それは「密接に関係する形で決定・実施」されていったとのべている。また、ガザ地区に対する封鎖政策が西岸地区の占領政策を推進するテコになったと指摘している。イスラエルには、パレスチナをずたずたに分断し、孤立化することによって精神的に結束できなくする狙いがあった
 ロイはまた、オスロ合意の文書では「占領」という言葉がいっさい見られないことを告発している。「自治」の名の下で占領が隠ぺいされるなかで、段階を画した破滅的な占領政策が貫かれてきたのだ。そのもとで、国際的にもパレスチナ問題は占領下の国家主権回復の問題ではなく、国境をめぐる一争議に変容させられていった

「自治」という名で占領隠蔽
 「二国間の解決」といいながら、パレスチナ国家の建設や政治的主権を優先課題にはせず、パレスチナ問題を「国際社会が面倒を見てあげる人道上の一問題」にすり替えていった。ロイは、こうして国際社会はパレスチナ人を政治的主張者としてではなく、人道支援の対象者、つまり「物乞い」に変えてしまったとのべている。
 歴史的な事実は、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のもとで、ガザ地区の90%以上の住民が生活必需品を人道支援に頼るように追い込まれてきたことを教えている。オスロ合意以後、120億㌦を上回る額が国際援助に投入されたにもかかわらず、パレスチナ経済はすさまじく弱体化し、公的な組織や制度は徹底的に粉砕されてしまった。
 ロイは、こうしたアメリカとイスラエルの占領政策に従い保身をはかるファタハを中心とするパレスチナ自治政府に対する不満が、06年のパレスチナ総選挙で西岸地区を含めて、民衆がオスロ合意の和平プロセス自体を根本から批判する「ハマスに政権を託した」ことを明確にしている。
 しかし、西側諸国は選挙で選ばれたハマスをテロ組織と見なし、「対テロ戦争」の一貫として自治政府に軍事支援をおこない、ハマスとの内戦を煽るにいたる。そして、自治政府は欧米の出先機関として「パレスチナ人の口を封じる」役割をも担った。
 こうして、パレスチナ人を真に代表しないPLOが欧米やイスラエルとの交渉相手とされ、イスラエルの暴圧的な占領に対するパレスチナ側のいかなる抵抗も「不当」で「違法」と見なす構図が国際的に容認されてきた。本書はそのもとでおこなわれる日本の民間企業を含めたパレスチナ援助・支援が、そうした占領を強めるものであることに注意を喚起している。
 昨年来のガザ地区をめぐる惨状と、グローバルサウスや欧米の学生・Z世代のパレスチナ連帯・解放、反植民地主義の高まりのもとで、そして国連総会の143カ国がパレスチナを国家として認め国連正式加盟を支持し、アメリカとイスラエルの孤立が露わとなるなかで、15年前のロイの分析と指摘の正しさがより鮮明に浮かび上がっている。
 ロイがホロコーストの生存者を両親に生まれ育った自己の内面世界の変遷を倫理的に明らかにした章もある。現在焦点となっている「反ユダヤ主義」を売り物にして真実を攪乱する風潮を寄せ付けない先駆けの発言として注目される。
                 (青土社発行、四六判・268ページ、2600円+税)