植草一秀氏の掲題のブログ記事を紹介します。
京都地裁の西川篤志裁判長は16日、「王将事件」(2013年12月、王将フードサービス社長の大東隆行氏が何者かによって射殺された事件)の実行犯として起訴された工藤会系組幹部の田中幸雄氏への判決公判で、「被告が実行犯であることに合理的な疑いがあり、犯罪の証明がない」などとして無罪を言い渡しました。
田中氏が大東氏を殺害した直接証拠はありませんでした。このため検察はいくつかの状況証拠を提示して田中氏が実行犯であると主張しました。争点となったのは「たばこの吸い殻」と「2台の盗難バイクと白い軽乗用車」でした。
「吸い殻」について裁判所は、田中氏が吸った吸い殻であることを認める一方、「吸い殻が現場で吸われ、消火されたと認定できない」と指摘し、バイクとスクーターの盗難については「盗んだ犯人が全くの別人ということも十分考えられる」、「盗難現場の車と被告が幼なじみから借りたが同一の可能性は高い」としましたが、「防犯カメラに写った軽乗用車が被告が借りた軽乗用車と同一だと断言できない」と判断し、「スクーターが盗まれた当時、被告が軽乗用車を使用していたという証拠がない」と指摘しました。
日本の刑事訴訟では有罪率が99%以上という極めて異常な状況にあります。これは「判検一体*」と言われる状況下で、判事が検事に忖度している結果としか考えられません。
(*「裁判官と検察官の間の人事交流(判検交流)によって、両者が一体化し、公正な裁判が損なわれるのではないか」という批判的文脈で使われています)
西欧では刑事裁判の有罪率は70%前後なので仮にこれを正常値とすれば、有罪のうちの約30%が冤罪ではないかという疑いが持たれます。
植草氏は、「直接証拠がなく、間接証拠を積み上げて犯罪を立証する場合、『被告が犯人でなければ合理的に説明がつかない』と言えなければ有罪を言い渡してはならない。京都裁判所の判断は妥当で、この種の正当な判断を示す裁判官は日本では稀にしか存在しない」と高く評価します。
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王将事件京都地裁判決
植草一秀の「知られざる真実」 2026年10月16日
刑事訴訟法第336条
「被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。」
「犯罪の証明」がない限り、無罪を言い渡さなければならない。「疑わしきは被告人の利益に」とも言われる。犯人であることについて合理的な疑いを差しはさむ余地がない程度に犯罪が証明されなければならない。
2013年12月に「餃子の王将」を展開する王将フードサービス社長の大東隆行氏が何者かによって射殺された。
警察は2022年10月に特定危険指定暴力団工藤会系組幹部の田中幸雄氏を逮捕した。
田中氏は別の銃撃事件で服役中だった。検察は無期懲役を求刑。これに対して田中氏は一貫して無罪を主張してきた。
10月16日の判決公判で京都地方裁判所の西川篤志裁判長は「被告が実行犯であることに合理的な疑いがあり、犯罪の証明がない」などとして無罪を言い渡した。
刑事訴訟法336条の条文を根拠とする判決である。
田中氏が大東氏を殺害した直接証拠は存在しなかった。
検察はいくつかの状況証拠を提示して田中氏が実行犯であると主張した。
争点となったのは二つの証拠についての評価。二つの証拠は「たばこの吸い殻」と「2台の盗難バイクと白い軽乗用車」。
現場に2本のたばこの吸い殻が落ちていた。その吸い殻に付着していた唾液のDNA型が被告のものと一致した。検察は、待ち伏せ中に被告がたばこを吸い直後に現場で捨てたと主張した。
他方、事件に使われたとみられるバイクとスクーターが同じ時間帯に盗まれ、スクーターの盗難現場の防犯カメラに被告が幼なじみから借りた白い軽乗用車と特徴が似た車が写っていたと検察が主張した。
吸い殻について裁判所は、田中氏が吸った吸い殻であることを認める一方、「吸い殻が現場で吸われ、消火されたと認定できない」と指摘した。
「極めて用意周到に計画して遂行された犯行とみられ、関わった人物が自分に捜査の手が及ばないよう工作したことは十分想定でき」、「別の真の実行犯が持ち込んだり、被告が犯行とは別の機会に上位の者に命じられて具体的な計画を知らされずに現場に残した可能性を排斥できない」との判断を示した。
バイクとスクーターの盗難について裁判所は、「盗難の手口はごくありふれていて、盗んだ犯人が全くの別人ということも十分考えられる」、「盗難現場の車と被告が幼なじみから借りた白い軽乗用車が同一の可能性は高い」としたが、「防犯カメラに写った車は、警察が対象を絞り込んだ地域以外にあった車両の可能性も否定できず、被告が借りた軽乗用車と同一だと断言できない」と判断した。
また、「スクーターが盗まれた当時、被告が軽乗用車を使用していたという証拠がない」と指摘した。
田中氏が実行犯であることに合理的な疑いを差しはさむ余地がある。したがって、犯罪は証明されておらず、田中氏には無罪を言い渡さなければならないと判断した。
裁判所は判決で「証拠上、いかなる経緯や動機から犯行が行われたのか明らかでなく、犯行全体の実像に結び付くような事実が一切解明されていない」と指摘した。
直接証拠がなく、間接証拠を積み上げて犯罪を立証する場合、「被告が犯人でなければ合理的に説明がつかない」と言えなければ有罪を言い渡してはならない。
京都裁判所の判断は妥当だが、この種の正当な判断を示す裁判官は日本では稀にしか存在しない。
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湯沢平和の輪
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。
2026年10月17日土曜日
王将事件 京都地裁判決(植草一秀氏)
栃木県足利市、緊急の生活保護申請に応ぜず 困窮者保護は最優先 市民団体が意見書「責務果ニたさなかった」
しんぶん赤旗の掲題の記事を紹介します。
栃木県足利市で昨年9月に緊急の対応を求めた生活困窮者の生活保護申請に市が応じなかったことをめぐり、生活保護行政の重大問題だとして、「最優先の責務を果たさなかった」と同市を批判する意見書を、市民団体が発表しました。
生活保護制度は憲法25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」に基くもので 政府の義務であり国民の権利です。
しかし日本では本来生活保護を受けるべき人たちの僅かに2割(捕捉率)しか受給しておらず、生活保護受給世帯の比率は僅かに1・6%*に過ぎません(海外ではドイツ9・7%、イギリス9・3%、フランス5・7%などとなっています)。(* 2017年ベース)
この異常な低さは各地方自治体の福祉担当部署が行っている「生活保護の水際作戦」(=生活保護の申請に来た市民に対し申請書を交付せず追い返す)によるもので、地方自治体が憲法25条を平然と無視するというこの暴挙は、新自由主義路線を敷いた小泉・竹中政権の時に生れ、現在もそれが貫かれているということです。
関連記事
(24.6.26)生活保護申請を3回拒まれ 女性は身を寄せた先で暴行死
(24.3.14)生活保護「水際作戦」は桐生市だけじゃなかった(東京新聞)
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栃木県足利市、緊急の生活保護申請に応ぜず
困窮者保護は最優先 市民団体が意見書「責務果たさなかった」
しんぶん赤旗 2026年10月16日
栃木県足利市で昨年9月に緊急の対応を求めた生活困窮者の生活保護申請に市が応じなかったことをめぐり、生活保護行政の重大問題だとして、「最優先の責務を果たさなかった」と同市を批判する意見書を、市民団体が発表しました。発表したのは、生活保護制度の改善などを求める「生活保護問題対策全国会議」(代表幹事・尾藤庸喜弁護士)と、生活困窮者支援に取り組む「つくろい東京ファンド」(代表理事・稲葉剛)です。
(日隈広志)
同市は昨年、生活に困窮して体調悪化を訴えた男性への生活保護の緊急対応を行いませんでした。他方、この男性の生活保護申請に同行した日本共産党の尾関栄子、鳥井康子両市議に対して、「不当要求事案」だとして市は市議会に報告しました。市議会は今年6月、市議会議長による注意処分を尾関、鳥井両市議に行いました。
この市と市議会の対応をめぐり、全国会議とつくろいファンドは同月19日、市と市議会に抗議を表明した公開質問状を提出。早川尚秀同市長と斎藤昌之同市議会議長は7月29日、それぞれ回答しました。
市に対しては、急迫状態にある生活困窮者への即日または数日での生活保護の開始を決定したことはあるかと質問。生活困窮者への住居支援といった生活困窮者自立支援法にもとづく「一時生活支援事業」の実施状況を問いました。
一方、市議会に対しては、尾関、鳥井両市議に対する注意処分の検討時に、困窮した男性に緊急の対応をしなかった「市の対応の適切性を検討したか」とただしました。
意見書によると、早川市長は回答で、市が過去3年間で「即日または数日での(生活)保護開始をした実績はない」としました。「一時生活支援事業は行っていない」とも答えました。
斎藤市議会議長は回答で、「政治倫理基準に違反する行為(公正な職務執行の妨げ)があったと認定したものです」と繰り返すだけでした。意見書は「(市の対応の適切性を)考慮したか否かに答えていない」と批判しています。
意見書は、生活保護法のもと、急迫した状況にある人に対して行政は速やかな保護開始に向けて動かねばならないと指摘。生活保護の申請権の保障や生活困窮者の速やかな保護という「最優先の責務」を、市が果たしていなかったと批判しました。急迫時の支援体制を直ちに改めるべきだと強調しています。
また市議会に対しては、尾関、鳥井両市議への処分を撤回し、市の生活保護行政を検証すべきだと主張しています。
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【足利市の生活保護同行処分】
昨年9月、栃木県足利市で脳梗塞の既往歴があり車中泊をしていた男性相談者から
栃木県足利市体調悪化の連絡を受け、日本共産党の尾関栄子、鳥井康子両市議が男性
に同行し、生活保護の緊急措置である「急迫保護」を市にくり返し要求。市は急迫保
護をせず、市議会議長に、両市議の行動が勤務時間外に男性に同行し「無言の圧力」
をかけた「不当要求事案」だと主張しました。自民党市議らが「職員へのハラスメン
トだ」などと訴え、今年3月から同市議会政治倫理審査会(政倫審)での審査が行わ
れました。政倫審は5月、両市議に市の政治倫理条例違反を認定し、議場での議会議
長による注意処分を議決しました。
17- 内閣支持率42%に下落 簗氏続投判断を8割問題視 時事世論調査
時事通信が9~12日に実施した10月の世論調査によると、高市内閣の支持率は前月比1・7ポイント減の42・4%で、これまでの最低値を更新しました。下落は5カ月連続です。
直近のNHK世論調査で高市内閣支持率が51%に下落し、内閣発足後最低を記録しました。また、簗農水相の「道路予算大幅カット」についての説明で「納得できない」が78%に達しました。
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内閣支持率42%に下落=簗氏続投判断、8割問題視―時事世論調査
時事通信 2026/10/15
時事通信が9~12日に実施した10月の世論調査によると、高市内閣の支持率は前月比1・7ポイント減の42・4%だった。下落は5カ月連続。これまでの最低値を更新した。不支持率は同0・4ポイント増の29・7%。農林水産相を辞任した簗和生衆院議員の問題が報じられる中、半月にわたり続投させた高市早苗首相の判断も影響したとみられる。
簗氏を巡っては9月30日以降、地元自治体の「道路予算カット」発言や衆院選で支援者を無料バスで運んだとする公選法違反疑惑が報じられたが、首相が事実上の更迭に踏み切ったのは10月14日だった。
簗氏を続投させるとしていた判断の是非について尋ねたところ、49・6%が「問題だ」と答え、「どちらかと言えば問題だ」の28・4%と合わせると、問題視する声は8割弱に上った。擁護する声は13・2%にとどまった。
先月の内閣改造・自民党役員人事を「評価する」とした人は28・0%。これに対し、「評価しない」との回答は50・6%と大きく上回った。
自民党派閥裏金事件に関与した簗氏と関芳弘文部科学相の起用については、「問題だと思う」が「どちらかと言えば」を含めて65・9%に上った。
政党支持率は、自民党が22・1%(前月比1・1ポイント減)で首位。公明党が3・4%(同0・2ポイント増)で野党のトップを維持した。参政党が2・7%、国民民主党が1・9%、チームみらいが1・7%で続いた。以下、日本維新の会1・6%、立憲民主党1・5%、共産党1・4%、日本保守党0・4%、社民党0・3%、いのちの党0・2%。民主改革の会と中道改革連合はともに0・1%だった。「支持政党なし」は59・7%。
調査は全国18歳以上の2000人を対象に個別面接方式で実施。有効回収率は58・4%。
NHK 高市内閣支持率51%に下落、簗農水相の説明に「納得できない」78%
ぽぽんぷぐにゃん 2026年10月13日
【説明】NHK世論調査で高市内閣支持率が51%に下落。内閣発足後最低を記録しました。また、簗農水相の「道路予算大幅カット」についての説明で「納得できない」が78%にも。そして、きょうからは大山崎町長選(京都)も始まりました。共産が支持する現職の前川氏が3期目を目指し出馬。これらの問題について、ぽぽんぷぐにゃんが考えます。
【参考資料】高市内閣支持率51% 不支持32% NHK世論調査(NHKニュース)
簗農水大臣、疑惑対応の「お支えチーム」結成で陳謝「関係者に非常に負担をかけている」 問責決議案には「説明尽くす」考え(ABEMA TIMES)
簗農水相の更迭、高市首相が可能性に言及「違法性あれば躊躇しない」(朝日新聞)
京都・大山崎町長選が告示 共産支持の現職に自民推薦の新顔ら挑む (朝日新聞)
2026年10月15日木曜日
岩屋毅氏は「異例の厚遇」なのに高市首相は「呼び捨て」…中国の露骨な態度の差に隠された“日本政府へのメッセージ”
元経産官僚の古賀茂明氏による掲題の記事を紹介します。
岩屋毅前外相が9月27日~30日、中国を訪問し、中国の王毅外相や何立峰副首相と会談しました。これら要人たちが応対したことでも分かるように中国側が予想を超える待遇で岩屋氏をもてなしただけでなく、昨年11月、高市氏が「台湾有事が起きれば日中戦争に繋がる」と発言したことについても「謝罪」しなくても「是正ないし撤回すれば済む」という感触を示しました。
大手メディアや中国の専門家と称する人々はこうした流れについて、「中国は不動産不況が拡大し深刻な経済状況にあるので、日本からの投資を引き出したくて仕方がない。本当は、日本との関係を改善したくて仕方ないのでは」という見解を示しています。
しかし古賀氏は「それは全くの勘違いで、トンチンカンの極み」として、中国政府は、「高市首相はゴリゴリの歴史修正主義者で、発言を撤回しようが謝罪しようが彼女の本質は変わらない。高市首相は、日本が台湾を含む中国や韓国・北朝鮮を含むアジア諸国を侵略し、人々を虐殺し尊厳を踏み躙ったという事実を認めないどころか、それを正義の戦いだと信じ太平洋戦争を正当化するような人間だ」と見ていると述べます。冷徹な評価です。
従って中国としては「そんな人間が首相に就いていることはとても容認できない」ことなので、高市氏が首相在任中は日中関係の正常化はあり得ないと 古賀氏は見ています。
岩屋氏の訪中にまつわる全ての疑念が解消する明解な記事です。
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岩屋毅氏は「異例の厚遇」なのに高市首相は「呼び捨て」…中国の露骨な態度の差に隠された“日本政府へのメッセージ” 古賀茂明
古賀茂明 AERA 2026/10/13
9月27日から30日にかけて岩屋毅前外相が中国を訪問し、中国の王毅外相や何立峰副首相と会談したことが話題になった。
昨年秋に国会で高市早苗首相が、台湾に中国が武力行使すれば、日本にとっての存立危機事態に当たる可能性があり、集団的自衛権を行使するかもしれないという趣旨の発言をしたことに始まり、中国側の発言の撤回と謝罪を求める要求を高市首相が頑なに拒否し続けたことで、日中関係は戦後最悪の状況に陥った。今なお解決の糸口が全く見えない状況だ。
一方、世界に目を向けると、日本同様中国と対立していた欧州諸国は、中国封じ込めはできないと悟り、また経済的にも損失の方が大きいと判断して、中国による経済支配を警戒しつつも、それを防ぎながら中国の経済力をうまく活用する道を探る路線に転換した。
欧州主要国の首脳は皆自国の企業トップを引き連れて中国を訪問し、習近平国家主席と会談して、新しい関係をつくろうと努力している。豪州やカナダも同じだ。
ASEANなどアジア諸国は、元々、中国と良好な関係を保っている国が多いが、ここへ来て、米国との関係を維持しながらも、より中国との関係を強めようという方向に動いている。マレーシア、インドネシア、ブルネイ、ベトナム、カンボジア、ラオスなどの首脳が欧州諸国同様に習主席と会談している。
それ以外の中南米、中央アジア、アフリカなどの諸国も中国との外交・経済関係を拡大している。
欧州でもアジアでも、アメリカと中国のどちらが信頼できるかという問いに対して、中国を挙げる世論の方が強くなったり、かなり拮抗したりするという状況だ。
そして、高市首相が最も頼りにしているはずのトランプ米大統領も、習主席を国賓待遇で米国に招き、米中両国は第2次世界大戦における同盟国だったと発言して、中国を思い切り持ち上げた。
トランプ大統領は、高市首相が「ドナルド、ドナルド」と何回もファーストネームで呼びかけても、高市首相の名前を呼ぶことすらせず、日本は完全にハシゴを外された状況だ。
世界中見渡しても、習主席と話をできない主要国のリーダーは、高市首相ただ一人。日本外交は、完全に孤立してしまった感がある。
それでも、日本の国民は異常なほど中国が嫌いだ。世界中に人権抑圧している国は溢れていて、それでも、日本はそういう国に何の苦情を言うこともなく仲良くしているのに、中国だけは「悪の権化」だと言わんばかりの反感を持っている。
アメリカよりもはるかに嫌中感情が高いのだから、驚きではないか。この嫌中世論のおかげで、日中関係がこれほど悪化してもかえってそれが高市政権の支持率を下支えしているとさえ言われる。
予想を超える岩屋氏への「厚遇」
しかし、今そこに変化の兆しが見える。日本人の多くは、大嫌いな中国が「日本を抜いた」と言われるのが嫌で嫌で仕方なく、それを認めようとしない人も多かったが、最近、ようやくそれを認めざるを得ないなと考える人が増えてきたようだ。
ヒューマノイドロボットがアクロバティックな演技をしたのを見て、あるいは、Deep SeekのAIモデルを使ってみて、さらに、BYDのEV「ラッコ」を見て、もはや、中国の力を認めないわけにはいかないというところに来たのだ(ちなみに、スズキが発表した新しい軽EVの性能がラッコを上回るなどと話題になっているが、実は、その電池はBYD系の中国企業の製品だ。ガソリン車のエンジンにあたるのが電池。車の心臓部分は中国製だから、日本車と言うより、中国車と言った方が良いのだが、そういうことを言う人はいない)。
「中国はやはりすごいんだ」という認識が広まってくると、中国を好きにはならないが、もう少しうまくやって、世界の国が中国との取引で経済的利益を得ているように、日本も少しは儲けることを考えた方がいいのではないかと考える人も出てくる。
ただし、そのために、日本側から頭を下げるかどうかということになると、まだそこはハードルが高い状況である。
そんな中で、岩屋氏らが訪中した。もちろん、ネトウヨたちは、「中国に媚びを売りに行く媚中派だ」とか「日本の恥だ」とか、岩屋氏に対してものすごい誹謗中傷をしている。
しかし、中国側が予想を超える待遇で岩屋氏をもてなしたことで、にわかに、日本が謝らなくても日中関係が改善するのではないかという期待が高まっている。
大手メディアや中国の専門家と称する人々が、その根拠として挙げる話がいくつかある。例えば、「中国の経済は、不動産不況が拡大し、極めて深刻な状況にある。そこで、日本からの投資を引き出したくて仕方がない。日本人観光客にも来てほしい。本当は、日本との関係を改善したくて仕方ないのだが、拳を振り上げた手前、そうも言えず、痩せ我慢をしている。しかし、先端産業を除いた大部分の産業の深刻な不景気はもはや我慢の限界を超え、中国経済は崩壊寸前に追い詰められた。そこで、ついに軟化の兆しを見せ始めたのだ」というようなストーリーに人気がある。
また、これも経済の話だが、中国では若者の失業率が高く、このまま放置すると政府批判が高まり、政権基盤が危うくなるという話もよく聞こえてくる。
高市首相はゴリゴリの歴史修正主義者
さらに、最近、中国が高市発言の「撤回を求める」という言葉を使わなくなったということも大袈裟に語られた。岩屋氏に対して、王外相が「是正もしくは撤回」と言ったとか、何副首相が「克服」という言葉を使ったということがその例として挙げられた。これは関係改善を求めるシグナルだと言うのだ。
そしてこれも非常によく語られることだが、11月18、19日に中国の深圳で行われるAPEC首脳会議で、ホストとなる習主席が、さすがに高市首相と会談しないわけにはいかず、その際に高市首相からうまく働きかければ、関係改善を望む中国側は、高市首相の問題発言を撤回・謝罪しなくても、関係改善に動くのではないかという話もある。
しかし、私に言わせれば、これらは全くの勘違いで、トンチンカンの極みだ。中国側に一切取材しないまま、自分たちに都合の良い解釈をしているだけのマスコミには、本当に呆れるばかりである。
どういうことか。まず、中国が高市首相をどう見ているかがわかっていない。中国の高市首相を見る目は、単に右翼とかタカ派というような生やさしいものではない。中国では、高市首相は、ゴリゴリの歴史修正主義者だという評価が確立している。これは中国政府関係者の誰と話しても同じだ。
したがって、高市首相が発言を撤回しようが謝罪しようが、彼女の本質は変わらないと見ている。だから撤回すれば良いということ自体意味がないということなのだ。
高市首相が歴史修正主義者というのは、具体的にどういうことを意味するのだろうか。これまで中国政府関係者や中国の学者などの話を聞いたことをまとめるとこんなイメージになる。
〈高市首相は、日本が台湾を含む中国や韓国・北朝鮮を含むアジア諸国を侵略し、人々を虐殺し、尊厳を踏み躙ったという事実を認めないどころか、それを正義の戦いだと信じ、それらの諸国に対して何の負い目も感じていない。太平洋戦争も正当化するような人間だ。過ちを認めず、むしろ正当化までする人間は、歴史から学ぶことができず、いかなる教訓も得ることができない。必ず同じ過ちを犯すはずだ。現に、新型軍国主義を推進して、日本を戦争する国に変えているではないか。長距離ミサイルを各地に配備しているのは、抑止力ではなく、中国を直接攻撃する能力を備えるためである。いずれは、台湾と組んで、その独立のために中国に戦争を仕掛ける可能性も否定できない〉
高市首相は、それほど危険な人物だと見られている。そんな人間が首相に就いていることは、中国にとってとても容認できないことだ。
次期総裁選は高市首相と林前総務相の戦い?
したがって、中国側が譲歩して高市首相率いる日本と関係改善を図ることなど考えられない。
しかし、高市氏が首相であるという事実は動かしようがない。そこで、高市氏が首相である間は、無理には動かず、ポスト高市政権を待とうということになる。
来年の自民党総裁選挙では、高市首相と林芳正前総務相の戦いになるという予想が有力だ。林氏は、日中友好議員連盟の会長だった。ハト派である旧宏池会系の旧岸田派の幹部でもあった。自民党の多くの嫌中派議員とは違い、中国と話をすることが大事だと考えている。
この林氏を推しているのが、森山裕前自民党幹事長、そして、石破茂前首相、さらに中谷元防衛相、村上誠一郎元総務相らのグループだ。反高市の急先鋒の集まりと言っても良い。
そして、岩屋氏もまた、このグループの主要メンバーの一人だ。今回岩屋氏は、中国との貿易を促進する由緒ある民間の団体である日本国際貿易促進協会の会長として訪中した。岩屋氏の前に長く会長を務めていたのが、元自民党総裁・元衆議院議長の河野洋平氏だ。その河野氏が亡くなる直前に岩屋氏に後を継いでくれと頼んだ。その経緯は中国政府もよく知っている。
河野氏と言えば、1993年に宮澤喜一内閣の官房長官として、従軍慰安婦問題について、日本軍が関与した事実を認め、心からのお詫びと反省の気持ちを表明した「河野談話」を発表した人だ。中国政府から見ると、田中角栄元首相や95年に「村山談話」を出した村山富市元首相と並ぶ最も大事な日本の政治家の一人である。その河野氏の後を継いだ岩屋氏も当然大事にしたいと考えるのは自然なことだ。
もちろん、岩屋氏本人への信頼がなければ、今回の厚遇にはつながらなかっただろう。中国側は、岩屋氏の会談相手を誰にするか最後まで迷っていたようだ。
岩屋氏は、「中国は大事な隣人であり、立場が異なっても常に話し合い、ウィンウィンの関係を築くべきだ」という信念を持っていることは知る人ぞ知る話ではあった。しかも、その立場をどんな誹謗中傷を受けても、また、選挙戦のさなかであっても、決して変えない信念の人でもある。
私は、9月の中旬に岩屋氏や村上氏らと会食をする機会を得たが、そのときの会話からも、そうした日中友好への強い思いを感じ取ることができた。
日中関係改善のキーマン
実は、9月24日に行われた呉江浩中国大使主催の中国の建国記念日・国慶節の祝賀パーティーが一つの決定的な節目になったのではないかと私は見ている。パーティーが始まる前、VIPルームで、呉大使は岩屋氏と懇談していたはずだ。そこで、岩屋氏への信頼を深めたことは想像に難くない。
だが、人前でなければ、いろいろと中国におべんちゃらを言う議員はたくさんいる。VIPルームで大使に挨拶はしても、人前に出るのは避けてそのまま会場を後にする与野党議員の姿を私も目にした。彼らは、「媚中派」と言われるのを恐れているのだ。こういう議員は信頼できない。
公の場で、中国に対してどういう態度を取るのかが重要だと中国側は考える。このパーティーでスピーチをした岩屋氏は、高市首相の名前こそ出さなかったが、日本政府に日中関係改善のために行動を求めるという趣旨の、強いメッセージを出した。これは大変勇気のいることで、聞いていた私はびっくりした。
こうした信念の人、そして裏表がなく誠実で信頼できる人柄ということを中国側は高く評価したのではないだろうか。それによって今回の岩屋訪中団への厚遇につながったのだと私は見ている。
つまり、中国側は、相手をよく観察して評価し、その評価に応じて対応をはっきり変えているということだ。
林政権が実現したとき、日中関係改善のキーマンとして活躍してくれるだろうという期待をおそらく裏切らないと信じられる政治家として岩屋氏を厚遇したというように理解するべきである。
ところが、単に、中国側が日本の政治家に外相や副首相を会わせたという表面的な事実だけを見て、「経済的に苦しくなった中国がついに折れてきた。うまくいけば、高市首相が発言を撤回したり謝ったりしなくても日中関係が改善する可能性が見えてきた。深圳で行われるAPEC首脳会議がそのチャンスだ」などと寝ぼけたことを言っている大手メディアや有識者と言われる人は、そのあたりのことを全くわかっていない。
米中首脳会談でわかったのは、中国は米国との関係の安定化を非常に重視しているということだ。米国も実は全く同じ。
世界中が、米中の覇権争いの中で、何とかバランス外交を展開して、自国の利益を最大化しようとしている中で、高市政権がいかに孤立しているかが明らかになっているのだが、日本国内では、それを問題だとする世論は全く強くならない。
それどころか、中国が軟化したなどという全くトンチンカンな報道やSNS上の情報が飛び交っているのを見て、中国側は呆れているだろう。
首相「呼び捨て」は政府や国民に対しての警告か
9月30日、中国の外務省副報道局長が、会見で高市首相を呼び捨てにした。日本政府はこれに抗議したと報じられている。岩屋氏が帰国する日に行われたこの呼び捨て発言は、岩屋氏厚遇と高市氏への厳しい対応を際立たせることによって、とんでもない勘違いをしている日本政府や日本国民に対して警告を発する意味合いを込めたものだと理解すればわかりやすい。
そうでなければ、一国の首相を呼び捨てにするなどということを、言葉を非常に大切にする中国政府がするはずがない。中国は、こんな無礼なことをすることで高市首相が怒るだろうと予測しているだろう。しかし、高市政権との間がどんなに険悪なものになっても、かまわないと考えているのではないか。
ここまで書いたところで、トランプ大統領が米中首脳会談で、習主席に高市首相との対話を促したが前向きな反応はなかったこと、また、高市首相側がAPEC首脳会議の際に習主席との会談をセットするように中国側に求めたが、中国政府はこれを断り、格下の李強首相が会ってやると逆提案し、日本側がこれを断ったというニュースが流れてきた。
ここまで私が書いてきたことを前提にすれば全て腑に落ちる話ではないだろうか。私たちは、日本の政府やメディアのピンボケぶりをよく理解した上で、日中関係を見ていかなければ、とんでもなく間違った判断に誘導される恐れがあるということを肝に銘じておかなければならない。