自民党と維新は5日、国会に衆院議員定数「自動削減」法案を提出しました。その内容は新聞各紙が社説で「乱暴」、「脅し」、「強行は許されない」、「廃案にすべきだ」などの指摘が相次ぐもので、これほど問題満載の法案も珍しいというしかありません。
法案は、現行の衆院議員定数465から1割を目標に、420以下に削減すると規定し、もし法施行から1年以内に結論が出ない場合は、小選挙区25、比例代表20を自動的に削減する条項を盛り込む(「プログラム法案」)など、「結論ありき」の乱暴極まりない法案です。
しかも削減数だけは明示しながらその根拠を説明するものは何もないというお粗末さで、民主主義の土俵である選挙制度がこれほど乱暴に扱われたのも前代未聞です。
維新はこのプログラム法案を、17日までの今国会中に決めるように求めているということですがそれも無理な話です。自民はそうした維新の滅茶苦茶な要求を丸呑みして法案を共同提案したように思われますが、これほど未熟で独善的な法案も珍しく、維新には法案をまとめる能力そのものが備わっているのか大いに疑問です。
以下にしんぶん赤旗の記事2本と、読売新聞・東京新聞・新潟日報の各社説を紹介します。
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各紙社説で「横暴許すな」 定数削減法案
しんぶん赤旗 2025年12月7日
自民党と日本維新の会が5日に国会に提出した衆院議員定数「自動削減」法案に対し、新聞各紙が社説で「乱暴」「脅し」などと厳しく批判しています。「強行は許されない」「廃案にすべきだ」との指摘が相次ぎました。
「読売」は6日付社説で「こんな乱暴な法案を、政権を担っている与党が提出するとは。見識を疑いたくなる」と指摘。1年以内に削減方法の結論が出ない場合は小選挙区25、比例代表20を自動的に削減する条項が維新の要求で盛り込まれたとして、「与党入りしたからといって、自分たちの思い通りに物事を進められると思ったら、大きな誤りだ」「定数を削減して国民の代表を減らすことがなぜ、改革と言えるのか」と強調しました。「読売」は1面の政治部長論評で「有無を言わさず定数を減らすというやり方は、脅しに等しい」としています。
「毎日」は5日付の社説で、「必要性や根拠を示せないまま、一方的に主張を押し付けようとする。でたらめ以外の何物でもない」と厳しく批判。「今回の案には、自民が抵抗する『政治とカネ』の改革から論点をすり替える思惑がある」と指摘し、「与党が『身を切る改革』をうたうのであれば、より痛みを伴う企業・団体献金の規制強化や、政党交付金の減額などに踏み込む方が理にかなっている」と主張しました。
地方紙も6日付でいっせいに批判しました。西日本新聞は「こんな横暴を許してはならない。国会軽視も甚だしい」と強調。「合理的根拠を欠く与党の法案は廃案にすべきだ」と指摘しました。東京新聞は「期限切り合意迫る横暴」とし、琉球新報は「このような乱暴なやり方で国民の理解が得られると思っているのだろうか。連立与党の妥協の産物とも言える『改革』に大義はない」と断じ、山陽新聞は「疑問多く説明できるのか」と指摘しました。
5日付でも、秋田魁新報が「企業・団体献金などの規制強化こそが急がれる改革だろう」としたほか、「『問答無用』の規定撤回を」(神戸新聞)、「読み取れない熟議の姿勢」(高知新聞)、「熟議の否定にほかならぬ」(新潟日報)などの見出しが躍りました。
衆院定数「自動削減」法案提出を強行 自維 根拠示さず「削減ありき」
しんぶん赤旗 2025年12月6日
自民党と日本維新の会は5日、衆院議員定数「自動削減」法案を衆院に共同提出しました。法案は、現行の衆院議員定数465から1割を目標に、420以下に削減すると規定。削減方法を与野党間で協議し、法施行から1年以内に結論が出ない場合は、小選挙区25、比例代表20を自動的に削減する条項を盛り込むなど、「結論ありき」の乱暴極まりない法案です。
法案は議員定数の削減目標を1割と定めています。しかし、法案提出の理由には、法案の趣旨の措置を「定める必要がある」と記されているだけで、なぜ1割なのかという根拠や、その目的がどこにあるのかといった重要な説明は一切示されていません。国会審議を経る前から「削減幅」だけが先に決められています。
削減方法の具体的な検討は衆院議長の下に設置される選挙制度協議会で行うとしていますが、協議期間は1年に限定されています。この間に与野党で結論が得られなければ、自動的に与党案をもとに削減する仕組みです。
自民・維新両党は連立合意書に議員定数削減を明記し、同法案の臨時国会での成立を目指すとしています。一方、野党は相次いで批判。合理的根拠もなく「削減ありき」の法案を、会期末が17日に迫る今国会で拙速に推し進めることは認められないと声をあげています。
また、自民党の試算で、削減対象とされる25小選挙区が東京、大阪、群馬、長野など計20都道府県に上ると判明。自民党の支持が強い「保守地盤」も含まれることから、党内でも異論が噴出していました。さらに、比例区の定数は全ブロックで1~3議席ずつ減らすことが見込まれており、多様な民意を切り捨て、一部の政党によるファッショ的な国会運営がなされる危険があります。
議員定数削減は民意の反映に逆行するだけでなく、国会の役割である政府監視機能を弱めるものです。数の力で押し切ることは許されません。
社説 衆院定数削減 憲政の常道に反する暴論だ
読売新聞 2025/12/06
一方的に期限を設定して、その間に与野党で改革案をまとめられなければ、問答無用で衆院の定数を削減するという。
こんな乱暴な法案を、政権を担っている与党が提出するとは。見識を疑いたくなる。
自民党と日本維新の会が、衆院の議員定数削減の段取りを定めたプログラム法案を提出した。
それによると、現行定数465の「1割を目標」として、最低でも45議席を削減する。与野党各党が参加する協議会で選挙制度の見直しを含めて議論し、1年以内に結論を出せない場合には、自動的に定数を削減するという。
具体的な削減数として、現行の小選挙区比例代表並立制を前提に、小選挙区は「25議席」、比例選は「20議席」とも明記した。
選挙制度のあり方は民主主義の土俵である。定数も含め、与野党の幅広い合意を得て決めるべきものだ。そうした手続きを軽んじれば、立法府の権威を 貶 おとし めることになりかねない。
自動的に定数を削減する条項は、「身を切る改革」を掲げる維新の要求で盛り込まれた。与党入りしたからといって、自分たちの思い通りに物事を進められると思ったら、大きな誤りだ。
法案について、自民内からは「乱暴すぎる」といった反対意見が出ていた。それでも法案提出に踏み切ったのは、維新の連立離脱を避ける狙いからだろう。
法案の内容に問題があることを分かっていながら、連立維持を優先するとは自民もふがいない。
多党化時代を迎え、比較第1党の自民が、小政党の要求をのまなければならない場面は今後も出てくるはずだ。
だが、多数の民意を反映しているとは言えない小政党が極端な主張を唱え、大政党を振り回し、民主主義の根幹にかかわるような重要課題の行方を左右するのは、憲政の常道に反する。
自民と維新の危うい関係を見ていると、長年続いた自民、公明両党の連立の協力関係が政局や国会の運営にいかに注意を払っていたのかが、改めて分かる。
そもそも衆院の定数は、人口が7000万人余だった終戦直後の466と同水準だ。人口比で見ると、他の主要国より少ない。定数を削減して国民の代表を減らすことがなぜ、改革と言えるのか。
また国会では、現状でも多くの議員が複数の委員会を掛け持ちしている。これ以上の定数削減は、法律の制定や行政の監視といった機能に支障をきたしかねない。
<社説> 衆院定数削減案 期限切り合意迫る横暴
東京新聞 2025年12月6日
自民党と日本維新の会が衆院議員定数の削減法案を国会に提出した。連立政権合意に基づき、定数1割削減の手順を定める「プログラム法案」だが、国民の代表を選ぶルールを強引に変更しようとするもので、到底認められない。
法案は、衆院議員を現在の465人から「420人を超えない範囲」に減らすとし、具体的な削減内容は、選挙制度のあり方と併せて各党・会派による衆院協議会で結論を出すと定める。1年以内に結論が出ない場合、小選挙区は25、比例代表は20を自動的に削減する規定も盛り込まれた。
自動的に削減する規定は、定数削減を主張する維新の意向によるものだが、1年と期限を区切り、野党に定数削減を迫るのは極めて異例で、野党のみならず、自民党内からも反発の声が出ている。
議会制民主主義の土台となる選挙制度に関する議論は、党派を超えて幅広い合意を得るべきだ。
結論が得られなければ、政権の方針に従って定数を自動的に削減する「脅し」のような法案に幅広い賛同が集まるとは思えない。自らの横暴さにすら気付けないなら自民党の病根は極めて深い。
そもそもなぜ定数の1割削減が必要なのか。なぜ合意期限が1年なのか。定数削減に固執する維新からも、追随した自民からも、合理的な説明は聞こえてこない。
維新は当初、比例代表を50削減する案を主張していたが、中小政党に不利との激しい反発があり、小選挙区も減らすことにした。
比例代表を減らせば多様な民意が反映されにくくなる一方、小選挙区を減らせば、投票価値の格差である「1票の不平等」を解消しづらくなるとの問題がある。
本紙の試算では、小選挙区の定数を25削減すれば20都道府県で定数が減ることになる。議員1人当たりの人口が最も多い県と最も少ない県との1票の格差が広がっていくのは確実だ。
1票の格差に対し、司法が「違憲」「違憲状態」と判断すれば、国会はその都度、都道府県ごとの定数を調整し、格差の縮小に努めてきた。今回の定数削減は、「投票価値の平等」を追求してきたこれまでの取り組みに逆行する。
選挙制度や議員定数は、民意の反映方法や投票価値の平等など、さまざまな観点から丁寧に議論することが欠かせない。「削減ありき」は最もなじまない。
社説 議員定数削減法案 熟議の否定にほかならぬ
新潟日報 2025/12/5
議論を始める前から、あらかじめ結論が出なかった場合の措置を決めておく。これでは、最初から熟議を否定しているに等しい。
拙速で乱暴なやり方によって、民主主義の根幹である選挙制度を変更してはならない。
自民党と日本維新の会は5日にも、衆院議員定数465の1割を目標に削減するための法案を衆院に提出する。
法案によると、削減方法は衆院議長の下の与野党協議会で検討し、法施行から1年以内に結論を出す。結論が出ない場合、法案の実効性を担保する措置として小選挙区25、比例代表20の削減を明記し、今国会中の法案成立を期す。
維新は当初、担保措置として比例代表50削減を主張した。だが、公明党など一部野党が比例代表のみの削減に猛反発した。参院では依然として少数与党で、法案成立には野党の協力が欠かせない。
維新にとって定数削減は連立政権の絶対条件だ。小選挙区と組み合わせる方針転換は反発を和らげるための窮余の一策と言えよう。
そもそも、「比例代表50削減」についても説明が尽くされたとは言い難かった。まずは「小選挙区25、比例代表20削減」とした根拠を明らかにするべきだ。
共同通信社は小選挙区25、比例代表20の削減となった場合の定数配分を試算した。それによると、小選挙区は20都道府県で1~3減少し、比例代表も全国11ブロック全てで1~3減る。
本県は前回衆院選で小選挙区を6から5に1減しており、削減対象にならなかった。しかし、富山など3県は1減の2となり、鳥取県などと並んで全国最少となる。
定数削減は、地方の声が国政に届きにくくなるとの懸念がある。議員だけではなく、有権者にとっても大きな問題だ。
法案に関し、自民の鈴木俊一幹事長は党の政治制度改革本部などの合同会議で「国会でも丁寧な審議をしていく」と述べた。
だが、今国会の会期末は17日で日程は窮屈だ。また、鈴木氏は会期延長に否定的である。今国会中の法案成立にこだわらず、与野党で時間をかけて協議するべきだ。
削減方法は法施行から1年以内に結論を出すと期限を設けたことも看過できない。根拠について鈴木氏は記者会見で「世論調査で定数削減への高い支持があり、立憲民主党の野田佳彦代表も削減すると言った経緯がある」と述べた。
一方、野田氏は「与党だけで1割削減、1年以内に決めるといった枠組みを作ること自体、常識では考えられない」と問題視する。
期限の設定は、協議の加速化を促すのが狙いだろうが、期限よりも各党の幅広い合意を優先するべきだ。まして、議論がまとまらなかった場合を想定し、法案の実効性を担保する措置を講じるなど論外である。