2025年10月9日木曜日

総裁選で高市早苗選出、安倍回帰の反動と憂鬱 - 右翼票は自民党に戻るのか?

 世に倦む日々氏が掲題の記事を載せました。
 極右と呼ばれ安倍晋三氏に傾倒していた高市早苗氏が自民党総裁に選出されました。
 普通に考えれば「安倍路線が復活する最悪の事態」となりますが、果たして高市氏にその「真似」ができるかは疑問です。何より安倍・菅政権のように、官僚たちを制御することはまず出来ないと思われます。
 それに総裁選の直後、高市氏は公明党の斎藤鉄夫代表から  政治とカネ 2 靖国参拝 3 外国人排斥 の3点に懸念が示され、納得できる回答がなければ連立離脱もあり得ると釘を刺されました。これは公明党内部からの強烈な批判に基くもので、30年弱という極めて長期にわたって連立を組んで来た相手からの要求なので穏やかではあません。
 そのこともあり高市氏は取り敢えず年来の靖国参拝をやめると軌道を修正しました。何しろ公明党が離脱すると同党の固定票が回って来なくなるので、自民党議員の数十人(50人ほどとも)が選挙において落選の憂き目を見るという関係にあるのでこれは重大問題です(他の政党では代替不可)。

 また世に倦む日々氏は、(高市氏が「党内野党」であったときには自由に「極右路線」を主張できるのですが、)自民の指導部になった現在は、パトロンである経団連がそもそも「世界経済フォーラム」傘下の組織なので様々な制約が生れるとして、その右翼ぶりにも自ずから限度があると指摘し、結果的に自民党の「更に右側」で跳梁するのは参政党などに任せるしかないと述べます。

 いずれにしても高市氏はこれまでの発言とは異なる進み方を余儀なくされるので、従来の高市支持層を落胆させたり離反させることになりそうです。それを当人は全く予期しなかったということであれば 浅慮の誹りを免れません。
 詳しくは本文をお読みください。
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総裁選で高市早苗選出、安倍回帰の反動と憂鬱 - 右翼票は自民党に戻るのか?
                      世に倦む日日 2025年10月6日
10/4、自民党総裁選レースがようやく終わり、高市早苗が新総裁となった。ナンセンス。石破おろしの後、騒々しい無駄な時間が1か月も続いた。国政選挙でもないのに、恰も国民全員が参加する選挙戦が行われているかの如く、マスコミは宣伝と演出に狂奔し、自民党の「解党的出直し」を絶叫しまくった。二つの選挙で負けて低迷期に入った自民党の再興に貢献した。マスコミは「自民党の新総裁は日本の新総理と同じ」という論法でこの報道を正当化するが、明らかに公平中立の原則を踏み外している。積極的意義は何もなかった。何の政策論争もなかったし、真摯な反省の弁もなかった。総裁選が終われば即忘れるところの、その場凌ぎの空疎な話術が空中を飛び交っただけだ。10/6 のTBS世論調査では、自民党の支持率が先月比4.6ポイント上がっている。これを実現するための総裁選ショーであり、長い長い陳腐な政治CMだった。

結果は高市早苗の勝利に終わり、結局のところ、安倍路線が猛々しく復活する最悪の事態となった。ネットとマスコミでは右翼が沸騰して狂喜している。当選後の会見で、高市早苗は裏金議員を要職に起用することを明言、裏金問題は解決済みだと堂々と開き直った。安倍晋三の子分で幇間だった末延吉正は、総裁選で高市陣営に尽力した萩生田光一が幹事長代行だとマスコミ辞令の観測気球を上げた。憂鬱で神経が衰弱する。せっかく石破茂が登場して、長く続いた安倍政治の軌道が修正され転換に向かうかと希望していたのに、また暗黒に逆戻りする災難となってしまった。この1年、上脇博之の粉骨砕身の努力が功を奏し、選挙で政治を変え、自民党を追い詰め、自民党を安倍派と麻生太郎の支配から脱却させてきたのに、元の木阿弥となってしまった。スパイ防止法と9条改憲は現実味を帯びた。日銀の金融引き締めは制止されインフレが加速する。軍事費はさらに増額となる

10/4、総裁選の直後、高市早苗と斎藤鉄夫の会談があり、公明党が高市の右翼色を警戒し、靖国参拝を始めとする3点の懸念事項を示し、連立離脱もあり得ると釘を刺す一幕が発生した。この公明党の対応は異例で、永田町で注目を集める事件となっている。従来、公明党は踏まれてもどこまでも付いて行く卑屈な下駄の雪に徹し、安倍政治の時代、秘密保護法から安保法制まで何から何まで祖法を曲げて妥協、与党の地位維持を優先させてきた。が、その結果、創価学会は高齢化が進むばかりで萎え衰え、党組織は既得権勢力化してマンネリ化を極め、若い活力を吸収し育成する態勢が不全化する。比例得票数も減らし続け、2021年の衆院選で711万票だったのが、4年後の今回参院選では521万票に激減させた。まさに党存亡の危機に瀕しており、このままでは崩壊衰滅へ一直線だろう。「解党的出直し」は公明党にこそ焦眉の課題で、自民党の補完勢力で安泰の状況ではなくなっている

今回、公明党が高市早苗に対して強気に出たのには、上に示した内部の理由に加えて重要な背景がある。安倍時代と違って、それが可能な前提条件が出来しているのである。すなわち、自民党も衰退期に入っていて、安倍時代のように恣⇒ほしいまま)に権勢をふるえる境遇ではなくなっている事実だ。具体的には、自民党の右側に極右参政党が新興野党として出現、自民党が従来得ていた右翼票を回収するポジションにつけた。そのため、自民党が右翼回帰しても、右翼票をすべて自民党が吸収できるとは限らず、参政党と競争して奪い合う関係にならざるを得ない。一方、自民党が右翼化し再安倍化すれば、それを忌避する公明党支持層とはますます乖離し、公明党が選挙で自民党候補の票集めするモチベーションが下がる。公明党そのものの得票と議席も減る。公明党支持者(創価学会)にとって、石破茂の穏健なスタンスが最も適合的で歓迎できる連立相手だった。要するに、現在の自民党は常に左右から引っ張られて内部が分裂し動揺する状態にあり、嘗ての恒常的安定性を失っている

こう説明すると、自民党支持の右翼から、否、参政党などは一過性の現象であり、嘗ての「たちあがれ日本」のような一時流行の極右政党で、いずれは消滅するものだという反論が返ってくるかもしれない。だが、私はその見方に同意しない。参政党であれ何であれ、必ず自民党の右側に大きな極右政党が成立する政治環境に日本は変質していて、西欧諸国と同じ段階に至っていると考える。具体的に中身を指摘すれば、外国人問題がある(移民拒否)。韓国的な逆ジェンダー問題がある(男性の反乱)。外国人問題は現在きわめて重要で、必ず選挙の争点になり、「日本人ファースト」を掲げる極右政党が支持を伸ばす構図になっている。SNSが絶えずそれを刺激し、移民が優遇されていると扇動し、若者に不遇感を焚きつけて移民嫌悪の情動に駆り立てている。(E.マスク)の影響力は大きい。自民党は経団連政党なので、移民排斥を公約に掲げられないし、外国人の急増にブレーキをかけられない

特に、日本に移住する中国人の問題や日本で事業拡大する中国人投資の問題は、必ず選挙で極右政党が目玉にする争点となり、極右政党が自民党に対して自らの「優越」を強調するセールスポイントとなる。ドイツのAfDや英国のリフォームUKのような地歩を占めようと活動する。自民党は経団連政党であり、言わばWEF(世界経済フォーラム傘下政党だから、移民やジェンダーの問題で参政党と同じ過激な極右政策を採ることはできない。つまり、前に挙げた「第三の対立軸」において、自民党は(立憲や共産と同じ)リベラリズムの立場を要請される。また、その責任と役割が自民党を信頼感のある国民政党の表象にするのであり、林芳正や石破茂はその政治性を代表するシンボルと言えるだろう。このとき、定義が曖昧で意味が散乱している「保守」は、戦後日本政治における保守本流の 保守 の語義に帰着し、石橋湛山、田中角栄、大平正芳、宮澤喜一の流れとなって収斂する。保守と右翼の概念が実体として分離する

私は、石破辞任の翌日の 9/8 に、「そろそろ自民党も分裂した方がよく、日本の『保守』も3分裂すべき」と書いた。手直しすると、①石破茂と公明党と立憲民主党の中道保守系②小泉進次郎と維新のネオリベ系③高市早苗と参政党・保守党の極右系 の3派に分解整理されるのが合理的だという見解であり、政界再編の提案だ。自民党の中にはこの3系統の集合体がある。斎藤鉄夫が果敢な行動に出たように、①と③とは基本的に相容れない。②と③は融和的だが、③が例えばフランスのルペンのように左派的政策を掲げた場合は、やはり②との対立衝突が必至となる。高市早苗が掲げている「積極財政」は、アベノミクスの「第二の矢」と同じで、一見するとケインズ政策を標榜し、ネオリベの「小さな政府」と対極に映るのだが、そこには佞悪な偽装と詭計がある。この「積極財政」は庶民には投資されないのだ。大企業の補助金や富裕層の減税や軍事の増強に使われ、教育や社会保障には使われない

地方のインフラ整備にも投下されない。災害対策にも使われない。安倍晋三がそうだった。庶民の経済と生活には超吝嗇な緊縮財政だった。アベノミクスの「第二の矢」というのは、「資本家と富裕層を潤すための大型財政出動」で、「資本家のための大きな政府」の意味に他ならない。「財政出動」という標語で騙されるのは、それが伝統的にケインズ政策の範疇だからである。安倍晋三を師匠と仰いで麻生太郎の指示で動く高市早苗も、同じことをするだろうし、同じパターンで消費増税を狙って来るだろう。③の極右系の高市早苗の看板は「積極財政」であり、経済政策のイメージでは②のネオリベ系より①の中道保守系に近いと錯覚させる。けれども真実は②と同じで、①とは無縁だ。ケインズともピケティとも無縁である。庶民への配分投資には関心がない。中間層を厚くする意思も契機もない。政府財政と中央銀行の金融を資本家のために動員し、株価を上げ内部留保を爆増させるのがアベノミクスだった

今回、全国党員票で高市早苗が圧勝している。その真相を探ると、地域の党員が高市早苗の「積極財政」の主張に石破茂的な「地方創生」の図を重ねて虚像に期待し、逆に、小泉進次郎に滲むネオリベ傾向を嫌ったからではないか。地方の自民党員(農協・土建業・商工会・医師会・etc)は、竹中平蔵の「小さな政府」に対して拒絶感があり、地方を荒廃させた元凶だという敵意を強く持っている。実際には、小泉改革以上にアベノミクスが地方を疲弊させた悪魔なのだが、地方の自民党の面々は、特に若い世代にアベノミクスの株儲けの恩恵に授かった者が多く、その連中は熱心な安倍信者のままなのである。その一方で、彼らは地域経済を回している経営者でもあり、外国人労働者がいなければ地域経済が立ち行かない実情も知っている。むしろ、そこに深刻に直面していて、移民と共生する地域社会に改造する責任担当役となっている。参政党的な「日本人ファースト」など、彼らにとって本来は幻想で言語道断なのだ

極右政策のトップイシューである外国人規制が無理であり、大量の移民定住を促進して地域の農業・建設・介護等を回すしかない現実を、地方党員は知っている経団連もまた、参政党の極右政策を自民党が担ぐ不可能を承知している。したがって、③の自民党極右派は本質的に矛盾した地平に立っていて、増殖する極右有権者相手にどれほど人気取りの動機で排外的言説を並べても、それを法令化して実行することはできないのだ。自民党は極右の需要に応えられず、選挙で参政党票を自民党が奪還するのには一定の限界がある。自民党は「日本人ファースト」をスローガン設定できない。安倍晋三の時代は外国人問題が存在せず争点にならなかった。SNSの扇動もなかった。右の隣に参政党がなく、自民党の右翼化膨張が際限なく可能だった。今は条件が違う。かくして、論理的には自民党は分裂するしかない。公明党も行き詰まって破綻が見えているが、自民党も生物としての終末期が迫っていると言える

最後に、新総裁となった高市早苗のアキレス腱を幾つか並べよう。第一に、経歴詐称問題がある。高市早苗は、単なる「研修生」にすぎない身分を勝手に「連邦議会立法調査官」と詐称していた。この疑惑について、高市早苗は未だに説明責任を果たしていない。もし、トランプ訪日時に米マスコミがこの問題に興味を持ち、事実関係を検証して報道すれば、忽ち詐称の事実が明らかとなり、高市早苗の立場はなくなるだろう。第二に、裏金議員の登用の問題がある。役員人事で裏金議員を重用した場合、野党や世論から猛反発を受けるのは確実で、マスコミは世論調査をかける進行になるだろう。裏金問題は物価高対策(消費減税)とセットの政治問題で、衆院選も参院選もこれが重大な争点となり、自民党敗北を招く要因となった。裏金議員は復権させます、給付金はリセットします、消費税率は下げません、という方針が果たして通用するだろうか。「解党的出直し」の禊後の自民党の態度として国民が納得するだろうか

第三に、統一教会との癒着関係がある。SNS上で追及が途切れず続いている。週刊誌が新しい暴露記事を出すかもしれない。この件は、スパイ防止法の政局とも絡む問題性を孕んでいて、スパイ防止法がマスコミで議論されるような場面になれば、必然的に報道の表面に統一教会が浮上し、高市早苗と統一教会の疑惑が掘り下げられる展開になるはずだ。また、韓国で統一教会の疑獄事件の捜査が進行中であり、捜査の過程で自民党を揺るがす衝撃の事実が発覚し露呈しておかしくない。今、高市早苗の支持率は瞬間風速で高く上がるかもしれないが、上の3点を含めた醜聞報道の攻勢が続いたときは、それは一気に失墜するだろう