戦前、民主勢力を徹底的に弾圧した「治安維持法」に相当する「スパイ防止法」案は、中曽根康弘政権下の1985年に自民党が国会に提出しましたが、国民的な反対世論の高まりのなかで廃案になり、その後民主勢力はこの策動を許さず再び同法案が国会に上程されることはありませんでした。
石破政権は8月15日、極右・排外主義の参政党が出した「日本は『スパイ天国』云々」とした質問主意書に対し、「政府として、情報収集・分析体制の充実強化、違法行為の取締りの徹底等に取り組んでいるので、『スパイ活動が事実上野放しで、抑止力が全くない国家である』とは考えていない」とする答弁書を閣議決定し、「スパイ天国」を否定しています。
ところが参政党の神谷宗幣代表は10月1日、同法制定にむけたプロジェクトチームを党内に設置し、早ければ11月にも法案を提出する考えを示しました。日本維新は外国勢力によるスパイ防止に向けた体制を強化するなどとして、臨時国会に「スパイ防止基本法」案の提出を目指すとしました。また国民民主の玉木雄一郎代表も、自民党総裁選投開票日(4日)までに法案をとりまとめ、臨時国会に提出を目指す意向を表明しています。
今回自民党総裁に選ばれた高市早苗氏は総裁選で、「スパイ防止法」制定を公約に掲げました。自民・参政・維新・国民民主の恐るべき反動ブロックが形成されることになります。
しんぶん赤旗の3日付の掲題の記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
日常会話から思想まで監視 スパイ防止法案復活 いまなぜ
しんぶん赤旗 2025年10月3日
秋の臨時国会にむけ、「スパイ防止法」の制定をねらう各党の動きが強まっています。最高刑は「死刑」、40年前に廃案となった希代の悪法がなぜ今よみがえろうとしているのでしょうか。
「スパイ防止法」案は、中曽根康弘政権下の1985年に自民党が提出。外交・防衛にかかわる「国家秘密」を外国に漏らした者に死刑など厳罰を科す内容でした。何が「国家秘密」にあたるのか、何をもって「情報を漏らした」とみなすのか、政府が恣意(しい)的に判断することが可能で、報道・調査や日常会話に至るまで監視対象となりえる「現代の治安維持法」とも言えるものでした。同法は国民的な反対世論の高まりのなかで廃案になりました。
維新・国民・参政が主導
40年前に自民党が主導して廃案になった法案を、今度は国民民主、日本維新の会、参政党など補完勢力や極右・排外主義の「野党」が主導して現代によみがえらそうとしています。
参政党の神谷宗幣代表は参院選後いち早く、臨時国会への「スパイ防止法」案の提出を「準備している」(7月22日)と表明。10月1日には、同法制定にむけたプロジェクトチームを党内に設置し、早ければ11月にも法案を提出する考えを示しました。
日本維新の会は10月1日、「スパイ防止法」の策定などにかんする中間論点整理を公表。外国勢力によるスパイ防止に向けた体制を強化するなどとして、臨時国会に「スパイ防止基本法」案の提出をめざすとしました。
国民民主党の玉木雄一郎代表も、自民党総裁選投開票日(4日)までに法案をとりまとめ、臨時国会に提出をめざす意向を表明しています(9月24日)。
3党に共通するのは「外国勢力」への敵対視です。根底にあるのは外国人差別・排外主義です。
加えて40年前にはない危険な動きがあります。各党が、米国の中央情報局(CIA)のような情報機関の創設を主張していることです。排外主義をあおるだけでなく、“敵国”の情報収集やかく乱といった、海外での戦争実行に不可欠な情報機関の創設にまで踏み込んでいるのは重大です。
自民党は現時点で党を挙げて推進する動きは見えませんが、同党の「治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会」は5月、政府に「スパイ防止法」制定などを盛り込んだ提言を提出。主導したのは自民党総裁選の候補者の1人である高市早苗前経済安全保障担当相です。
そもそも制定は必要か
そもそも、「スパイ防止法」は必要なのでしょうか。維新は「諜報(ちょうほう)活動自体を取り締まる法律は存在しない。わが国はスパイ活動、スパイ天国だ」(空本誠喜インテリジェンス・スパイ防止法タスクフォース長)として必要性を主張。参政党も「外国勢力によるスパイ活動を包括的に取り締まる法律がないため、スパイ天国と言われている」(安達悠司スパイ防止法制定プロジェクトチーム座長)と強調するなど、“スパイ天国論”をふりまき、制定の意義を喧伝(けんでん)しています。
しかし、石破政権は「政府として、情報収集・分析体制の充実強化、違法行為の取締りの徹底等に取り組んでいる。そのため、『各国の諜報活動が非常にしやすいスパイ天国であり、スパイ活動は事実上野放しで抑止力が全くない国家である』とは考えていない」とする答弁書を閣議決定(8月15日)し、「スパイ天国」を否定しています。
実際、日本は不法なスパイ活動行為に対して、現行法で対処してきました。国立研究開発法人「産業技術総合研究所」の研究員が研究情報を中国企業に漏えいしたとして2023年に逮捕された事件は不正競争防止法違反で、2000年に海上自衛隊幹部が内部情報をロシア大使館の武官に流した事件は自衛隊法違反で処罰しています。
さらに、機密情報の漏えいなどに厳罰を科す特定秘密保護法(13年成立)や経済秘密保護法(24年)などが、「戦争する国づくり」の流れの中で強行されています。こうした中で、なぜこれほど「スパイ防止法」制定が声高に叫ばれているのか。
参政党の神谷宗幣代表は、「官僚、公務員(に)、極左の考え方を持った人たちが、浸透工作で社会の中枢にがっぷり入っている」「極端な思想の人たちはやめてもらわないといけない。これを洗い出すのがスパイ防止法だ」(7月14日)と、その狙いをあからさまに語っています。神谷氏は、共産主義者だけでなく社会主義者、自由主義者、宗教者などに弾圧を広げた治安維持法を正当化しており、「極端な思想の人」の対象が広範に及ぶ危険性があります。
国民監視をさらに強化し、思想までも取り締まり徹底的に言論弾圧しようとする「スパイ防止法」の狙いが浮かび上がっています。思想・言論の自由を統制することで「戦争国家づくり」を本格化させる動きです。2日、国会内で行われた集会では、「スパイ防止法」が「日本が戦争する国になる切り札的なものになる」と懸念が示されました。
ちらつく勝共連合の影
「スパイ防止法」制定の動きは、統一協会の政治団体「国際勝共連合」(1968年設立)がけん引してきました。
勝共連合は、78年に「スパイ防止法制定3千万人署名国民運動」を開始。翌79年には、同連合の全面的な支援で「スパイ防止法制定促進国民会議」が発足します。統一協会=勝共連合と癒着する自民党は、こうした動きと連動し、85年に「スパイ防止法案」を国会に提出しました。
今回も、「スパイ防止法」を推進する勢力の背後には、勝共連合=統一協会の影がちらつきます。
参政党の神谷宗幣代表が8月に提出した質問主意書の内容は、勝共連合の主張と酷似していました。神谷氏は根拠も示さず、「文化的マルクス主義」と呼ぶ潮流が「暴力革命ではなく、価値観・言語・教育・文化などを通じて既存の社会構造の変革を目指しているとされている」と決めつけました。これは、勝共連合が繰り返し訴えている「文化共産主義問題」と同じ内容です。
自民党総裁選で「スパイ防止法」制定を公約に掲げた高市早苗前経済安全保障担当相は、初当選後の1994年から2001年にかけて少なくとも5回、統一協会系の日刊紙「世界日報」に登場。また、19年3月に大阪市で開かれた高市氏の政治資金パーティーのパーティー券を、高市氏の地元・奈良県内の統一協会関連団体「世界平和連合奈良県連合会」が計4万円分購入していたことも、関係者が「しんぶん赤旗」日曜版に証言しています。
国民民主党の玉木雄一郎代表は、「世界日報」の元社長から16年に計3万円の寄付を受けています。
「スパイ防止法」巡る各党の見解 |