2026年10月15日木曜日

岩屋毅氏は「異例の厚遇」なのに高市首相は「呼び捨て」…中国の露骨な態度の差に隠された“日本政府へのメッセージ”

 元経産官僚の古賀茂明氏による掲題の記事を紹介します。
 岩屋毅前外相が9月27日~30日、中国を訪問し、中国の王毅外相や何立峰副首相と会談しました。これら要人たちが応対したことでも分かるように中国側が予想を超える待遇で岩屋氏をもてなしただけでなく、昨年11月、高市氏が「台湾有事が起きれば日中戦争に繋がる」と発言したことについても「謝罪」しなくても「是正ないし撤回すれば済む」という感触を示しました。
 大手メディアや中国の専門家と称する人々はこうした流れについて、「中国は不動産不況が拡大し深刻な経済状況にあるので、日本からの投資を引き出したくて仕方がない。本当は、日本との関係を改善したくて仕方ないのでは」という見解を示しています。
 しかし古賀氏は「それは全くの勘違いで、トンチンカンの極み」として、中国政府は、「高市首相はゴリゴリの歴史修正主義者で、発言を撤回しようが謝罪しようが彼女の本質は変わらない。高市首相は、日本が台湾を含む中国や韓国・北朝鮮を含むアジア諸国を侵略し、人々を虐殺し尊厳を踏み躙ったという事実を認めないどころか、それを正義の戦いだと信じ太平洋戦争を正当化するような人間だ」と見ていると述べます。冷徹な評価です。
 従って中国としては「そんな人間が首相に就いていることはとても容認できない」ことなので、高市氏が首相在任中は日中関係の正常化はあり得ないと 古賀氏は見ています。
 岩屋氏の訪中にまつわる全ての疑念が解消する明解な記事です。
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岩屋毅氏は「異例の厚遇」なのに高市首相は「呼び捨て」…中国の露骨な態度の差に隠された“日本政府へのメッセージ” 古賀茂明
                       古賀茂明 AERA 2026/10/13
 9月27日から30日にかけて岩屋毅前外相が中国を訪問し、中国の王毅外相や何立峰副首相と会談したことが話題になった。
 昨年秋に国会で高市早苗首相が、台湾に中国が武力行使すれば、日本にとっての存立危機事態に当たる可能性があり、集団的自衛権を行使するかもしれないという趣旨の発言をしたことに始まり、中国側の発言の撤回と謝罪を求める要求を高市首相が頑なに拒否し続けたことで、日中関係は戦後最悪の状況に陥った。今なお解決の糸口が全く見えない状況だ。
 一方、世界に目を向けると、日本同様中国と対立していた欧州諸国は、中国封じ込めはできないと悟り、また経済的にも損失の方が大きいと判断して、中国による経済支配を警戒しつつも、それを防ぎながら中国の経済力をうまく活用する道を探る路線に転換した。
 欧州主要国の首脳は皆自国の企業トップを引き連れて中国を訪問し、習近平国家主席と会談して、新しい関係をつくろうと努力している。豪州やカナダも同じだ。
 ASEANなどアジア諸国は、元々、中国と良好な関係を保っている国が多いが、ここへ来て、米国との関係を維持しながらも、より中国との関係を強めようという方向に動いている。マレーシア、インドネシア、ブルネイ、ベトナム、カンボジア、ラオスなどの首脳が欧州諸国同様に習主席と会談している。
 それ以外の中南米、中央アジア、アフリカなどの諸国も中国との外交・経済関係を拡大している。
 欧州でもアジアでも、アメリカと中国のどちらが信頼できるかという問いに対して、中国を挙げる世論の方が強くなったり、かなり拮抗したりするという状況だ。
 そして、高市首相が最も頼りにしているはずのトランプ米大統領も、習主席を国賓待遇で米国に招き、米中両国は第2次世界大戦における同盟国だったと発言して、中国を思い切り持ち上げた。
 トランプ大統領は、高市首相が「ドナルド、ドナルド」と何回もファーストネームで呼びかけても、高市首相の名前を呼ぶことすらせず、日本は完全にハシゴを外された状況だ。
 世界中見渡しても、習主席と話をできない主要国のリーダーは、高市首相ただ一人。日本外交は、完全に孤立してしまった感がある。
 それでも、日本の国民は異常なほど中国が嫌いだ。世界中に人権抑圧している国は溢れていて、それでも、日本はそういう国に何の苦情を言うこともなく仲良くしているのに、中国だけは「悪の権化」だと言わんばかりの反感を持っている。
 アメリカよりもはるかに嫌中感情が高いのだから、驚きではないか。この嫌中世論のおかげで、日中関係がこれほど悪化してもかえってそれが高市政権の支持率を下支えしているとさえ言われる。

予想を超える岩屋氏への「厚遇」
 しかし、今そこに変化の兆しが見える。日本人の多くは、大嫌いな中国が「日本を抜いた」と言われるのが嫌で嫌で仕方なく、それを認めようとしない人も多かったが、最近、ようやくそれを認めざるを得ないなと考える人が増えてきたようだ。
 ヒューマノイドロボットがアクロバティックな演技をしたのを見て、あるいは、Deep  SeekのAIモデルを使ってみて、さらに、BYDのEV「ラッコ」を見て、もはや、中国の力を認めないわけにはいかないというところに来たのだ(ちなみに、スズキが発表した新しい軽EVの性能がラッコを上回るなどと話題になっているが、実は、その電池はBYD系の中国企業の製品だ。ガソリン車のエンジンにあたるのが電池。車の心臓部分は中国製だから、日本車と言うより、中国車と言った方が良いのだが、そういうことを言う人はいない)。
「中国はやはりすごいんだ」という認識が広まってくると、中国を好きにはならないが、もう少しうまくやって、世界の国が中国との取引で経済的利益を得ているように、日本も少しは儲けることを考えた方がいいのではないかと考える人も出てくる。
 ただし、そのために、日本側から頭を下げるかどうかということになると、まだそこはハードルが高い状況である。
 そんな中で、岩屋氏らが訪中した。もちろん、ネトウヨたちは、「中国に媚びを売りに行く媚中派だ」とか「日本の恥だ」とか、岩屋氏に対してものすごい誹謗中傷をしている。
 しかし、中国側が予想を超える待遇で岩屋氏をもてなしたことで、にわかに、日本が謝らなくても日中関係が改善するのではないかという期待が高まっている。
 大手メディアや中国の専門家と称する人々が、その根拠として挙げる話がいくつかある。例えば、「中国の経済は、不動産不況が拡大し、極めて深刻な状況にある。そこで、日本からの投資を引き出したくて仕方がない。日本人観光客にも来てほしい。本当は、日本との関係を改善したくて仕方ないのだが、拳を振り上げた手前、そうも言えず、痩せ我慢をしている。しかし、先端産業を除いた大部分の産業の深刻な不景気はもはや我慢の限界を超え、中国経済は崩壊寸前に追い詰められた。そこで、ついに軟化の兆しを見せ始めたのだ」というようなストーリーに人気がある。
 また、これも経済の話だが、中国では若者の失業率が高く、このまま放置すると政府批判が高まり、政権基盤が危うくなるという話もよく聞こえてくる。
 
高市首相はゴリゴリの歴史修正主義者
 さらに、最近、中国が高市発言の「撤回を求める」という言葉を使わなくなったということも大袈裟に語られた。岩屋氏に対して、王外相が「是正もしくは撤回」と言ったとか、何副首相が「克服」という言葉を使ったということがその例として挙げられた。これは関係改善を求めるシグナルだと言うのだ。
 そしてこれも非常によく語られることだが、11月18、19日に中国の深圳で行われるAPEC首脳会議で、ホストとなる習主席が、さすがに高市首相と会談しないわけにはいかず、その際に高市首相からうまく働きかければ、関係改善を望む中国側は、高市首相の問題発言を撤回・謝罪しなくても、関係改善に動くのではないかという話もある。
 しかし、私に言わせれば、これらは全くの勘違いで、トンチンカンの極みだ。中国側に一切取材しないまま、自分たちに都合の良い解釈をしているだけのマスコミには、本当に呆れるばかりである。
 どういうことか。まず、中国が高市首相をどう見ているかがわかっていない。中国の高市首相を見る目は、単に右翼とかタカ派というような生やさしいものではない。中国では、高市首相は、ゴリゴリの歴史修正主義者だという評価が確立している。これは中国政府関係者の誰と話しても同じだ。
 したがって、高市首相が発言を撤回しようが謝罪しようが、彼女の本質は変わらないと見ている。だから撤回すれば良いということ自体意味がないということなのだ。
 高市首相が歴史修正主義者というのは、具体的にどういうことを意味するのだろうか。これまで中国政府関係者や中国の学者などの話を聞いたことをまとめるとこんなイメージになる。
〈高市首相は、日本が台湾を含む中国や韓国・北朝鮮を含むアジア諸国を侵略し、人々を虐殺し、尊厳を踏み躙ったという事実を認めないどころか、それを正義の戦いだと信じ、それらの諸国に対して何の負い目も感じていない。太平洋戦争も正当化するような人間だ。過ちを認めず、むしろ正当化までする人間は、歴史から学ぶことができず、いかなる教訓も得ることができない。必ず同じ過ちを犯すはずだ。現に、新型軍国主義を推進して、日本を戦争する国に変えているではないか。長距離ミサイルを各地に配備しているのは、抑止力ではなく、中国を直接攻撃する能力を備えるためである。いずれは、台湾と組んで、その独立のために中国に戦争を仕掛ける可能性も否定できない〉
 高市首相は、それほど危険な人物だと見られている。そんな人間が首相に就いていることは、中国にとってとても容認できないことだ。

次期総裁選は高市首相と林前総務相の戦い?
 したがって、中国側が譲歩して高市首相率いる日本と関係改善を図ることなど考えられない。
 しかし、高市氏が首相であるという事実は動かしようがない。そこで、高市氏が首相である間は、無理には動かず、ポスト高市政権を待とうということになる。
 来年の自民党総裁選挙では、高市首相と林芳正前総務相の戦いになるという予想が有力だ。林氏は、日中友好議員連盟の会長だった。ハト派である旧宏池会系の旧岸田派の幹部でもあった。自民党の多くの嫌中派議員とは違い、中国と話をすることが大事だと考えている。
 この林氏を推しているのが、森山裕前自民党幹事長、そして、石破茂前首相、さらに中谷元防衛相、村上誠一郎元総務相らのグループだ。反高市の急先鋒の集まりと言っても良い。
 そして、岩屋氏もまた、このグループの主要メンバーの一人だ。今回岩屋氏は、中国との貿易を促進する由緒ある民間の団体である日本国際貿易促進協会の会長として訪中した。岩屋氏の前に長く会長を務めていたのが、元自民党総裁・元衆議院議長の河野洋平氏だ。その河野氏が亡くなる直前に岩屋氏に後を継いでくれと頼んだ。その経緯は中国政府もよく知っている。
 河野氏と言えば、1993年に宮澤喜一内閣の官房長官として、従軍慰安婦問題について、日本軍が関与した事実を認め、心からのお詫びと反省の気持ちを表明した「河野談話」を発表した人だ。中国政府から見ると、田中角栄元首相や95年に「村山談話」を出した村山富市元首相と並ぶ最も大事な日本の政治家の一人である。その河野氏の後を継いだ岩屋氏も当然大事にしたいと考えるのは自然なことだ。
 もちろん、岩屋氏本人への信頼がなければ、今回の厚遇にはつながらなかっただろう。中国側は、岩屋氏の会談相手を誰にするか最後まで迷っていたようだ。
 岩屋氏は、「中国は大事な隣人であり、立場が異なっても常に話し合い、ウィンウィンの関係を築くべきだ」という信念を持っていることは知る人ぞ知る話ではあった。しかも、その立場をどんな誹謗中傷を受けても、また、選挙戦のさなかであっても、決して変えない信念の人でもある。
 私は、9月の中旬に岩屋氏や村上氏らと会食をする機会を得たが、そのときの会話からも、そうした日中友好への強い思いを感じ取ることができた。

日中関係改善のキーマン
 実は、9月24日に行われた呉江浩中国大使主催の中国の建国記念日・国慶節の祝賀パーティーが一つの決定的な節目になったのではないかと私は見ている。パーティーが始まる前、VIPルームで、呉大使は岩屋氏と懇談していたはずだ。そこで、岩屋氏への信頼を深めたことは想像に難くない。
 だが、人前でなければ、いろいろと中国におべんちゃらを言う議員はたくさんいる。VIPルームで大使に挨拶はしても、人前に出るのは避けてそのまま会場を後にする与野党議員の姿を私も目にした。彼らは、「媚中派」と言われるのを恐れているのだ。こういう議員は信頼できない。
 公の場で、中国に対してどういう態度を取るのかが重要だと中国側は考える。このパーティーでスピーチをした岩屋氏は、高市首相の名前こそ出さなかったが、日本政府に日中関係改善のために行動を求めるという趣旨の、強いメッセージを出した。これは大変勇気のいることで、聞いていた私はびっくりした。
 こうした信念の人、そして裏表がなく誠実で信頼できる人柄ということを中国側は高く評価したのではないだろうか。それによって今回の岩屋訪中団への厚遇につながったのだと私は見ている。
 つまり、中国側は、相手をよく観察して評価し、その評価に応じて対応をはっきり変えているということだ。
 林政権が実現したとき、日中関係改善のキーマンとして活躍してくれるだろうという期待をおそらく裏切らないと信じられる政治家として岩屋氏を厚遇したというように理解するべきである。
 ところが、単に、中国側が日本の政治家に外相や副首相を会わせたという表面的な事実だけを見て、「経済的に苦しくなった中国がついに折れてきた。うまくいけば、高市首相が発言を撤回したり謝ったりしなくても日中関係が改善する可能性が見えてきた。深圳で行われるAPEC首脳会議がそのチャンスだ」などと寝ぼけたことを言っている大手メディアや有識者と言われる人は、そのあたりのことを全くわかっていない。
 米中首脳会談でわかったのは、中国は米国との関係の安定化を非常に重視しているということだ。米国も実は全く同じ。
 世界中が、米中の覇権争いの中で、何とかバランス外交を展開して、自国の利益を最大化しようとしている中で、高市政権がいかに孤立しているかが明らかになっているのだが、日本国内では、それを問題だとする世論は全く強くならない。
 それどころか、中国が軟化したなどという全くトンチンカンな報道やSNS上の情報が飛び交っているのを見て、中国側は呆れているだろう。

首相「呼び捨て」は政府や国民に対しての警告か
 9月30日、中国の外務省副報道局長が、会見で高市首相を呼び捨てにした。日本政府はこれに抗議したと報じられている。岩屋氏が帰国する日に行われたこの呼び捨て発言は、岩屋氏厚遇と高市氏への厳しい対応を際立たせることによって、とんでもない勘違いをしている日本政府や日本国民に対して警告を発する意味合いを込めたものだと理解すればわかりやすい。
 そうでなければ、一国の首相を呼び捨てにするなどということを、言葉を非常に大切にする中国政府がするはずがない。中国は、こんな無礼なことをすることで高市首相が怒るだろうと予測しているだろう。しかし、高市政権との間がどんなに険悪なものになっても、かまわないと考えているのではないか。
 ここまで書いたところで、トランプ大統領が米中首脳会談で、習主席に高市首相との対話を促したが前向きな反応はなかったこと、また、高市首相側がAPEC首脳会議の際に習主席との会談をセットするように中国側に求めたが、中国政府はこれを断り、格下の李強首相が会ってやると逆提案し、日本側がこれを断ったというニュースが流れてきた。
 ここまで私が書いてきたことを前提にすれば全て腑に落ちる話ではないだろうか。私たちは、日本の政府やメディアのピンボケぶりをよく理解した上で、日中関係を見ていかなければ、とんでもなく間違った判断に誘導される恐れがあるということを肝に銘じておかなければならない。