2012年8月1日水曜日

原子力規制委員会のメンバーは適正でしょうか


1日、国会は、新設される原子力規制委員会の委員長候補の田中俊一氏を呼んで、所信を聴きました。同委員会は委員長+委員4名の構成で、委員長は天皇により認証される認証官、任期は5年です。
500人の規模になるとみられる新設の原子力規制庁は、大半が悪評高い原子力安全・保安院からの移籍になると見られるので、今後同庁が健全に機能するためには、その上位に位置する同委員会には、より厳正な中立性と透明性とが要求されます。

同委員会の政府人事案には、超党派の国会議員で構成する「原発ゼロの会」が31日、国会内で記者会見して、「『利用と規制の分離』『原子力ムラとの決別』をうたった規制委設置法の趣旨を大きく逸脱している」として、再検討を求める声明を発表しました。
またインターネットでは、5人のメンバーのうち委員長を含む3人までが原子力ムラのメンバーであることに、早くから批判が集中していました。
しかし大手メディアは今回も政府決定の委員会人事には好意的で、批判等は殆どしていません。このまま行くと来週中には、国会で同意が得られる見込みです。




以下に日刊ゲンダイの記事と東京新聞の社説を紹介します。

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なぜ「原子力村」のメンバーを選ぶのか 「原子力規制委」人事に異論
慶大教授 金子勝 日刊ゲンダイ2012.7.31 

細野豪志環境大臣は「原子力村」の官僚に取り囲まれ、その虜になってしまった。新たな「原子力規制委員会」の人事のことだ。野田内閣は先週26日、「原子力規制委員会」の委員長に田中俊一氏(67)を起用する人事案を衆参両院に提示した。

田中氏は、福島原発事故後、謝罪した原子力研究者16人のうちのひとりだ。福島に除染に入っていることもあって、大手メディアは、市民派だとか実務派などと評価している。だが本当にそうなのか。この間、田中氏が、福島県民の被害を放置する役割を果たしてきたことは明らかだ。
「原子力損害賠償紛争審査会」の委員として発言している議事録や彼の発言を追いかけてみれば、そのことがよく分かる。

100ミリシーバルト未満は健康に影響はないと公然と発言し、20ミリシーバルト未満の地域は帰宅しても大丈夫だと言い張り、自主避難者の賠償を打ち切ろうとしてきた。環境省が除染の基準を1ミリシーバルトにしようとした時も、5ミリシーバルトが現実的だと主張している。食品の安全基準を500ベクレルから100ベクレルに引き下げ、水の安全基準を100ベクレルから10ベクレルに引き下げようとした時も、風評被害をもたらす、と反対してきた。福島県出身でありながら、福島県民を見殺しにし、東電の賠償金額を削減することで自らの地位を上げようとしている人物にしか見えない。

そもそも彼は、「日本原子力研究所」の副理事長や「原子力委員会」の委員長代理をつとめ、福島原発事故を起こした張本人のひとりだ。今も原子力ムラ機関に天下っている、推進側の人間である。
細野大臣は、「原子力村」からは原子力規制委員会のメンバーは選ばないと明言していたはずだが、田中氏は明らかに原子力村のひとりである。こんな人事をしたら、老朽原発の40年廃炉というルールも藻くずと消え、5兆円を無駄にしている「もんじゅ」も六ケ所村もずるずる続き、一層の国民負担がのしかかる。福島原発事故の前に逆戻りである。少なくとも国会は、「原子力規制委員会」の候補者を国会に呼び、一つ一つの事実を問いたださなければいけない。
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【社説】 原子力規制委 「ムラ人事」ではだめだ
東京新聞 2012731 

政府が新たに発足させる原子力規制委員会の人事案を国会に提示した。顔ぶれを見ると「原子力ムラ」との決別はとても期待できない。選考過程も密室で決まっている。ゼロから見直しすべきだ。
原子力規制委員会の設置は福島原発事故の反省を踏まえて、原発推進を目指す原子力ムラ勢力から脱却した規制機関をつくることが、そもそもの目的だった。
これまでの原子力安全委員会と原子力安全・保安院はともにムラの強い影響下にあった。国会の事故調査委員会報告が「規制する側が規制される側の虜(とりこ)になっていた」と指摘した問題だ。それが事故の遠因でもある。
委員長はじめ委員は五年の任期中、破産した場合などを除いて罷免されないなど、委員会は国家行政組織法第三条に基づく高い独立性を付与されている。だからこそ、委員たちが本当に独立した人材であるかどうかが決定的に重要なポイントになる。

ところが今回、委員長候補である田中俊一氏の経歴を見ると、とても原発政策について中立、独立の立場の人間とは思えない。国の原子力政策を推進してきた原子力委員会の委員長代理を務めたほか、核燃料サイクルの推進研究をする日本原子力研究開発機構の副理事長でもあった。
福島事故の後、住民が帰還する汚染基準について楽観的な高めの数字を主張するなど、識者からは「田中氏は原子力ムラの村長さん」という批判も出ている。
国会事故調報告は新しい規制組織の要件について高い独立性とともに、委員の選定は第三者機関に第一次選定として相当数の候補者を選ばせたうえで、国会が最終決定する透明なプロセスを経るよう提言した。だが、なぜ田中氏なのか、他の候補者はいなかったのかなど、まったく不透明だ。
規制委は原発再稼働を認める現行の暫定基準を見直し、新たな基準作りも担う。このままでは規制委が原子力ムラに乗っ取られ、関西電力大飯原発だけでなく全国の原発がなし崩し的に再稼働されてしまうのではないか、という懸念も広がっている。
人事案の最終決定は国会が同意するかどうかにかかっている。ところが、事故調報告を受けた国会は民主、自民両党の反対で黒川清事故調委員長の国会招致さえ決まらない。今回の人事が原発政策の大本を決めるのは間違いない。国会は事故調の提言に沿って委員選考をやり直してほしい。