世に倦む日々氏が掲題の記事を出しました。
衆院予算委初日の7日、高市首相が立民党の岡田克也議員に対して「(中国が台湾周辺で)戦艦を使った武力行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得る」と答弁したのは、歴代の内閣が踏襲してきた「〝台湾有事 即 存立危機事態″を明言しない」立場を逸脱したものでした。当日は異例の午前3時に高市氏が公邸に入り、官僚を隣室に待機させて質問通告書に基く予算委・答弁書案をチェックした日でした。
世に倦む日々氏は、高市氏がそんな異例のタイムスケジュールにしたのは、既に前例を踏み越える答弁をすることを決めていて、外務省官僚の異議を抑え込むための時間的余裕を持たせるためにそうしたのだと推理しています。納得が行くものでいつもながらの洞察力です。
とは言え、実際に官僚を説得できる筈がないので高市氏は最終的に首相の権限を振りかざして押し切ったものと思われます。いずれにせよ従来の日本政府の立場と整合しないこの高市答弁は全く不要であり、百害あって一利もないものでした。
もしもそれが自分の支持者らの歓心を得るためであったのであれば、余りにも低次元であって言葉を失います。ある識者は「高市氏には教養がない」とズバリと指摘しています。
中国は大阪総領事館が8日に激烈なXを出した以外はしばらく静観していました(その間に高市氏が取消発言をすることを期待していたと思われます)。しかし高市氏が10日の予算委でも大串博志議員(立民)の質問に対して「存立危機事態発言」の取り消しを拒否したため、中国は「怒り」を露わにし 取り敢えず国民に訪日の自粛を促しました。
18日に訪中した外務省の金井局長には、相手官僚からポケットに手を突っ込んだままで対応されるなどの冷遇を受けました。この先 日本への嫌がらせが何処まで拡大するのか予想もつかないし、それによって日本経済に与えられるマイナスの影響は莫大です。そして中国に進出している日本の工場や商店に与えられる被害も大きいことと苦難のほどがしのばれます。
10月の新米価格は過去最高を記録しましたが、石破政権とは対照的に高市政権は米価引き下げへの対応は何もしていません。高市政権は目立つことはやりたがりますが、基本的に国民生活の苦しさへの配慮を持っていません。そのことは「(いずれ)軍事は年額21兆円にする」と二つ返事でトランプに約束するという一事からも明瞭です。
もしも高市氏に愛国心があるなら即刻辞任すべきです。
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高市早苗の「台湾有事=日本有事」の発言と中国の怒涛の反発 - 高市の奸計と失敗
世に倦む日日 2025年11月18日
11/7、国会で台湾有事について質問した岡田克也に対し、「(中国が台湾周辺で)戦艦を使った武力行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得る」と高市早苗が答弁。これに対して中国側が猛反発し、一週間以上経った現在、日中関係が最悪の紛争状態になっている。この政治について分析を試みたい。まず最初に確認しなければいけないのは、この 11/7 が衆院予算委の初日で、例の、午前3時に高市が公邸に入り、官僚を集めて答弁の勉強会を行った日だという事実だ。この勉強会について高市は、私は官僚からレクを受けることはないと言っていた。この点が重要で、確かに高市はレクを受けたのではない。逆に官僚にレクを施していたのである。午前3時に公邸に入ったのは、「働いて働いて」のパフォーマンスと宣伝演出のためでもあったが、それ以上にディスカッションのためであり、外務・防衛官僚を説得する時間が必要だったからだ。
岡田克也からの質問内容は事前に届いていて、高市早苗が総裁選での発言で、歴代内閣の見解を踏み越え、台湾有事を存立危機事態に認定しているようだったので、その問題点を質すべく、野党のトップバッターとして立ったのだった。高市早苗はその意図を察し、カウンターを返し、逆に堂々と歴代内閣の見解を踏み越え、国会答弁で既成事実を作るべく、台湾有事は存立危機事態だと返答、台湾有事に自衛隊を出すと明言したのである。それは、歴代内閣が踏襲した立場を逸脱し、政府の認識を更改するものであったから、テレビの前で野党に言う前に、官僚たちに訓諭して念押しする必要があったのだ。未明の公邸で官僚たちは驚き、総理、それは中国を刺激しませんか、大丈夫ですかと顔面蒼白になったに違いないが、高市が、やかましい、台湾有事は日本有事じゃ、安倍さんの路線で行くんじゃと一喝し、議論が延々続くため、予め午前3時という開始時刻が必要だったのだろう。
だから、高市早苗の 11/7 の答弁は、本人にとっては失言でも迂闊でもなく、ミスでも勇み足でもなく、計画的で作為的で戦略的な政治だった。その後に中国から反発が起きることも計算づくだった。それが真相だ。安倍晋三と同じように中国を挑発したのであり、「台湾有事=日本有事」という安倍晋三の安保戦略をこの機に標準国策に固めようとしたのだ。予算委冒頭の岡田克也の質疑を好機と捉え、逆に狡猾に利用し、「台湾有事=日本有事」の命題を日本政府の公式的な立場と方針に据えようと策謀したのである。おそらく、危機感で震えた外務官僚の誰かが当該の件を密かに立憲民主に注進し、11/10の大串博志の予算委質疑の進行になったのだろう。「総理、本当に今ここで撤回しなくていいんですか。軌道修正された方がいいと思うがいかがでしょうか」と何度も高市に迫った場面がテレビで流れたが、大串の表情と口調に確かな自信が窺えた。その自信には根拠があったのである。
つまり、大串博志の質疑は、高市早苗の暴走に歯止めをかけようとした外務官僚の手引きがあり、外務官僚の代弁だったと推察できる。結局、高市は撤回せず、大串博志と外務官僚が懸念し予想したとおりの日中紛争の炎上となった。誰も本質を看破しないが、高市の答弁はこの機を狙った戦略的一手であり、文字どおり政府の見解と立場を一歩進め、転換させ、台湾有事に自衛隊を出動させる軍事政策を宣告したものだ。高市はこの認識と方針を改定する安保3文書に入れ込む思惑であり、自衛隊の作戦要綱も大枠準備する計画なのに違いない。アメリカから集団的自衛権の発動要請が来た場合、どう台湾有事に対応するか、部隊の編制と運用と補給を決めて構える肚だろう。実際には、すでにシミュレーションだけでなく日米共同演習が念入りに行われていて、空自の戦闘機が台湾海峡上の中国海軍の輸送船をミサイル攻撃する演習を実践している。本番でもこの作戦が指令され遂行されるだろう。
中国の反発は激越で、過去に見たこともない露骨で攻撃的な反論を返している。しかも小手先ではなく、国務院外交部と人民解放軍がストレートに、日本に対して本格的で全面的な反撃攻勢をかけている。国家の総力を挙げて反発し、中国の本気度を示し、台湾に軍事的に手を出すなと日本にメッセージしてきた。高市早苗に対して正面から発言の撤回を迫っている。国家(政府と軍)がこれほど激怒し、エキセントリックな表現を乱発するのを見たのは初めてだ。驚かされる。また、いかにも習近平らしい未熟で乱暴な話法に不快と脱力を覚えるのも事実だ。読者の皆様は知るとおり、私はこの、文革期や北朝鮮のモードを彷彿させる習近平の嗜好と文化様式が苦手で、それへの批判を幾度も書いてきた。大阪総領事の薛剣は、本来は汚い罵詈を言う人物ではないのだろう。だが、習近平のコードとプロトコルに準拠して国家意思を端的に示せば、この悪態になる。知性派の王毅も徐々にこの仕様に染まった。
習近平の指導と命令に服し従わなければ、中国では粛清され抹殺されてしまう。その習近平は、国家のリーダーとして十分な知性と教養を携えておらず、国際政治で説得的で論理的な説明や対話ができる能力を備えていない。昔の毛沢東の英雄像を倒錯的に追慕し、その価値観と文化性しか頭にない、スターリン型の貧相で愚鈍な独裁者だ。残念ながら、近代的な国際外交のセンスやレベルの前提がない。それが現実だが、無能な指導者ばかり民主的方法で選び担いでいる日本人も、中国の政治的内実に文句は言えまい。下には王毅や毛寧のような優秀な人物も多くいる。が、トップは、あのような野蛮で凶暴な言辞を「中国独自の社会主義」と考える個性だ。そうして中国の国家が回っている。秩序が維持されて経済が回っている。まさに、小林節や長谷部恭男が言う「人間は不完全な存在」の真理に項垂れるしかない。胡錦涛が国家主席を続けていたら、中国はこんな不面目な外交史を残すことはなかっただろう。
が、いずれにせよ、この外交衝突の原因を作ったのは高市早苗であり、中国を悪辣に挑発した高市発言が禍の根本であって、事態の責任は全面的に高市政権に帰する。高市は発言を撤回しなければならず、台湾有事で集団的自衛権を行使するとした強硬な姿勢を取り止め、日本政府の従来の見解の位置に引き戻す必要がある。中国の反発と報復はエスカレートし、11/14 には渡航自粛を呼びかけ、11/16 には日本留学を慎重に検討するよう呼びかけた。人の往来を止め、インバウンド需要を抑える経済制裁だ。報道では、次はレアアース禁輸が待ち構えていると言われ、さらにそれでも高市が突っ張って撤回しなかった場合、次の段階として軍事的圧力をかけて来るだろうという予想が出ている。11/16 のバンキシャの中で、日テレの北京特派員がそう説明していた。野村総研の木内登英は、中国人の訪日自粛の経済的影響を試算し、GDPが0.3%押し下げられ、経済損失はマイナス2.2兆円に上ると発表した。
この数字は単にインバウンド消費だけの規模だが、今後、中国市場での日本製品の買い控えや販売自粛にも波及すると予想され、その影響も大きくなるだろう。中国政府の怒りの熱量は、2012年の尖閣国有化のときよりも甚だしく巨大だ。そしてまた、中国市場における日本製品一般のブランド力と競争力も13年前と比較して大きく後退している現状があり、中国で事業する日本企業には損害が大きいと悲観する。レアアース禁輸が決定された場合、日本の製造業への打撃がどうなるか、現時点でシンクタンクの観測は出てないが、株価の下落も含めて巨大な影響を受けるに違いない。何と言っても、あれほど居丈高に関税政策を振り回して世界をひれ伏させていたトランプが、たった一つ、中国がレアアースのカードを切った途端、虎が猫になったように態度が萎縮した。中国に妥協し忖度して「G2」時代を言うようになった。中国のレアアース恐るべし。当然、この「産業のビタミン」砲を今回も中国は応用するだろう。
私の見方として、今回の中国の変化で重要なのは、中国軍全体が自衛隊との戦争に備えて態勢を準備し始めたと思われる点である。これまでは、防衛の正面主力は米軍であり、米軍の空母打撃群、ミサイル戦力、宇宙サイバー戦力、等々の捕捉と警戒と攻略計画を中心に動き、戦略を立てていたのだろうが、今後はそこに日本自衛隊が大きく入り、フォーカスされて作戦立案されるだろう。自衛隊がどう動いた場合にどう叩くというプランが、かなり先制的で集中的な性格と想定で組まれ、リソースが配置されるに違いない。これまでは中国の国家安保戦略の主敵はアメリカであり、日本はアメリカの従属変数で、できればアメリカと離間させて中国寄りに取り込みたいペリフェラル(⇒周辺機器)だったのが、一気に正面の敵となり、台湾に手を出した場合は全軍を壊滅させる代償を与えるべき対象となった。日本は嘗て中国で無辜の民を2000万人も虐殺した国だ。中国は賠償を放棄して国交正常化したのに、友好の誓約を日本に裏切られた立場である。士気は上がるだろう。
レアース禁輸が実施され、それでも高市が撤回を拒み、「台湾有事=日本有事=自衛隊出動」の構想に固執した場合、軍事的圧力のフェーズに移行し、尖閣沖に海軍の艦隊を並べて示威するとか、過去にない威嚇に出て緊張を高めるだろう。サイバー攻撃の演習(威力実験)も行われ、中国軍のハイテク技術の実力を日本政府と自衛隊に思い知らせるという恐怖の事態も発生するだろう。それに対して日本側がどう対抗措置を講ずるか、私にはあまりアイディアがない。想像が浮かばない。すべてアメリカ頼りであり、アメリカの指示に従って奉仕するだけで、米軍のプログラムの補助役だけだろう。米軍は半分腰を引きながら自衛隊を指揮している。トランプ政権になって、その無責任で中途半端な傾向が顕著になった。軍事衝突を覚悟した挑発を中国軍相手にどこまで敢行できるか、大いに疑問だ。日本は無自覚的に、為政者がどこまでも無責任に、日中戦争のトゥキディデスの罠に嵌って行く気配を感じる。責任を日米が押し付け合い逃げ合っているうちに、開戦しているのではないか。
今回、この問題についてXでポストすると、通常より多く反響が返って来る。私は台湾有事についてずっとブログで言論を続け、誰よりも強い危機感で警鐘を鳴らしてきたと自負する立場であり、この問題への関心から離れられず、刻一刻の推移をネットで見守っている。正直、已矣哉(⇒慨嘆・絶望)の気分であり、憤慨と激情を抑えられない。左翼リベラルがもう少し緊張感を持ってこの問題に対峙し、アメリカのアジア戦略を正確に把握して真剣に警戒していれば、ここまで事態が切迫することはなかったと思う。台湾有事がアメリカの国家戦略であり、本気で中国と戦争する(=日本を中国と軍事衝突させる)計画と工程で動いているという、当たり前の客観的事実を、内田樹や田岡俊次や升味佐江子は頑として認めず、虚構であり陽動であり演出であるとして否定、一蹴してきた。彼らの言説を日本の左翼は安易に信じ、台湾有事に向けての日米同盟の策動を止める動きを起こさなかった。3年前、敵基地攻撃能力の閣議決定が無風で通過したときは愕然とした。
政局にもならず、デモも起きなかった。テレビの政治番組で喧々諤々の議論にもならなかった。中国と戦争するということがどういうことなのか、真摯に戦争のリアルな図を、開戦に至るプロセスをイマジネーションする者がなく、日米同盟(CIA)の政治の裏側を考察し解読する者がなかった。日本がどうなるのか、国民生活がどう変わるのかをシミュレーションして提示する者がいなかった。左翼論者は台湾有事を論壇商売のネタとしてしか扱わず、左翼市場のオーディエンス(⇒聴衆・観客)の浅薄な興味に供じる床屋政談の材料にしかしなかった。今でもまだ冗談半分に捉えて冷笑的に傍観している者が多い。丸山真男の『戦争責任論の盲点』ではないが、もし本当に戦争に突入したら、ここ数年間の左翼幹部陣や論壇系重鎮の不明と不作為の責任は、後々糾弾されなければいけない問題だろう。「後々」という機会が、すなわち「戦後」がある保証はどこにもないけれど。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。