海外記事を紹介する「耕助のブログ」に掲題の記事が載りました。
トランプが、ガザとウクライナでの戦争を終わらせた功績は自分にあると主張し、自らを「和平の仲介者」と称し、ノーベル平和賞に値するなどと述べていることについての考察が行われています。
ガザの停戦に関しては、見るに堪えないイスラエルの虐殺行為が、別掲の記事に見られるように「不完全」なものではあったにしても、兎も角も「停戦」に漕ぎつけたことには確かにプラスの面はありました。しかし、戦争開始以後、米国は一貫してイスラエルのジェノサイドを援助してきたのでとてもノーベル平和賞には値しません。
その点ウクライナ戦争では、トランプは開戦時点では関与していないし停戦を目指す過程ではプーチンと複数回の会談(電話も含む)を行いロシア側の言い分も理解しているのでかなり事情は異なります。しかし、米国以外のNATOの主要メンバーとゼレンスキーは、ロシアの立場に配慮したトランプの和平案に一貫して反対しているので、当初トランプが考えていたように短時間で和平案はまとまりそうもありません。トランプは今後もプーチンとの会談を設定しているようなので奮闘を期待したいと思います。
雑なイントロの文章になりましたが、本文(タイトルも)はとても格調の高いものですので念のため。
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幻想から真の和平へ:ガザとウクライナにおけるトランプの試練
耕助のブログNo. 2709 :2025年11月8日
From illusion to real peace:Trump’s test in Gaza and Ukraine
by Jeffrey D Sachs and Sybil Fares
真の和平には、パレスチナ国家の樹立、ウクライナの中立、そして戦争推進派に立ち向かう勇気が必要だ。ドナルド・トランプ米大統領は自らを和平の仲介者と称している。彼のレトリックでは、ガザとウクライナでの戦争を終わらせた功績は自分にあると主張している。しかしその大げさな態度の下には、少なくともこれまでのところ実質的な内容がない。
問題はトランプの努力が足りないのではなく、適切な概念の欠如である。トランプは「和平」と「停戦」を混同しており、停戦はいずれ(通常はすぐに)戦争に戻る。実際、リンドン・ジョンソン以降、米国の大統領は、終わりのない戦争から利益を得る軍産複合体に服従してきた。トランプは、ガザとウクライナでの戦争の真の解決を回避することで、その路線を踏襲しているに過ぎない。
和平は停戦ではない。永続的な平和は、戦争を引き起こした根本的な政治的対立を解決することで達成される。これには、紛争を煽る歴史、国際法、政治的利害と向き合う必要がある。戦争の根源的要因に対処しなければ、停戦は虐殺の合間の単なる休憩に過ぎない。
トランプはガザのための「和平計画」{1}を提案した。しかし彼が提示したのは、停戦に過ぎない。彼の計画は、パレスチナ国家の樹立という核心的な政治問題に全く触れていない。真の和平計画とは、四つの成果を結びつけるものである:イスラエルによるジェノサイドの終結、ハマス武装解除、パレスチナの国連加盟、そして世界中におけるイスラエルとパレスチナとの外交関係の正常化だ。これらの基本原則がトランプの計画には欠けている。だからこそ、ホワイトハウスに対してどの国もこれに署名していないのだ。せいぜい一部の国々が「永続的な和平と繁栄のための宣言」{2}を支持しただけである。これは時間稼ぎのジェスチャーに過ぎない。
トランプの和平案は、パレスチナ国家樹立に向けた国際的な機運から注意をそらすため、アラブ・イスラム諸国に提示された。米国案はその機運を弱体化させ、イスラエルが「安全保障」を口実に、西岸地区の事実上の併合を継続し、ガザへの継続的な爆撃と緊急支援の制限を続けることを可能にするよう設計されている。イスラエルの野望はパレスチナ国家成立の可能性を根絶することだ。ベンヤミン・ネタニヤフ首相が9月の国連演説で明言した通りである{3}。これまでトランプとその側近は、単にネタニヤフの政策を推進してきたに過ぎない。
トランプの「計画」は既に崩壊しつつある。オスロ合意やキャンプデービッド首脳会談、その他全ての「和平プロセス」と同様に――それらはいずれもパレスチナ国家を紛争解決策ではなく遠い理想として扱ってきた。もしトランプが本当に戦争を終わらせたいのなら(それは疑わしいが)、ビッグテックや軍産複合体(米国が資金提供する巨額の武器契約の受益者{4})との関係を断たねばならない。2023年10月以降、米国はイスラエルへの軍事援助に217億ドル{5}を支出しており、その多くはシリコンバレーに還流している。
トランプはまた、最大の献金者であるミリアム・アデルソンとシオニスト・ロビーとも決別しなければならない。そうすることで、彼は少なくとも(パレスチナ国家を支持する{6})アメリカ国民を代表し、アメリカの戦略的利益を守ることになる。米国は、国連安全保障理事会{7}決議と国際司法裁判所(ICJ)の意見{8}に基づく二国家解決の実施を支持する、圧倒的な世界的合意に加わるだろう。
ウクライナでもトランプの和平努力は失敗だった。選挙戦中、トランプは「24時間で戦争を終結させる{9}」と繰り返し主張した。しかし彼が提案してきたのは停戦であり、政治的解決ではない。戦争は続いている。
ウクライナ戦争の原因は謎ではない。主流メディアの薄っぺらい報道を見抜けばそれは明らかだ。戦争の口実(casus belli)は、米軍産複合体が推進したNATOの無限拡大(ウクライナやジョージアへの拡大を含む)と、2014年2月に米が支援したキエフでのクーデター(親NATO政権樹立)であり、これが戦争の火種となった。当時も今も、ウクライナ和平の鍵は同国がロシアとNATOの間の橋渡し役として中立を維持することにある。
2022年3月から4月にかけ、トルコがイスタンブール・プロセスでウクライナの中立復帰を基盤とした和平合意を仲介した際、米国と英国はウクライナ側に交渉離脱を促した。米国がウクライナへのNATO拡大を明確に放棄しない限り、持続可能な平和はありえない。唯一の道は、ロシア・ウクライナ・NATO諸国の相互安全保障の枠組みにおけるウクライナの中立を基盤とした交渉解決である。
軍事理論家カール・フォン・クラウゼヴィッツは、戦争を「別の手段による政治の継続」と定義した。その見解は正しい。しかしより正確に言えば、戦争とは紛争につながった政治の失敗である。政治的問題が先送りされたり否定されたりし、政府が本質的な政治課題について交渉に失敗すると戦争が頻発する。真の和平には、政治に取り組む勇気と能力、そして戦争利得者に対峙する姿勢が求められる。
ジョン・F・ケネディ以降、真に平和を模索した大統領はいない。ワシントンを注視する多くの観察者は、ケネディ暗殺が軍事産業複合体を権力の座に不可逆的に据えたと信じている。さらに、1960年代にJ・ウィリアム・フルブライトが指摘した(誤ったベトナム戦争に言及して)米国権力の傲慢さもまた一因だ。トランプは前任者たちと同様、米国の威圧、誤った誘導、財政的圧力、強制的制裁、プロパガンダが、プーチンをNATOへの服従に、イスラム世界をパレスチナに対するイスラエルの恒久支配への服従に追い込むのに十分だと信じている。
軍産複合体に縛られたトランプとワシントンの政治エリートたちは、自ら進んでこうした幻想を捨て去ることはないだろう。イスラエルによるパレスチナ占領が数十年続き、ウクライナでは2014年のクーデターを起点に10年以上の戦争が継続しているにもかかわらず、米国はその意志を押し通そうとする試みを続け、戦争は終わらない。その間も戦争マシンの金庫には金が流れ込み続ける。
とはいえ、現実は頑固なものであるため、まだ一筋の希望は残されている。
トランプがまもなくブダペストに到着し、ロシアのプーチン大統領と会談する予定だが、知識が豊富で現実的なホストであるハンガリーのオルバン首相は、トランプが基本的な真実を理解する手助けができるだろう。ウクライナに平和をもたらすためには、NATO の拡大を終わらせなければならないという真実である。同様に、イスラム世界におけるトランプの信頼する相手、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子、エジプトのアブデル・ファッタ・エル・シーシ大統領、インドネシアのプラボウォ・スビアント大統領は、ハマス武装解除と和平の前提条件として、歴史の終焉という漠然とした約束ではなく、パレスチナが国連加盟国となることの絶対的な必要性をトランプに説明することができる。
トランプが(戦争から)外交に回帰すれば、和平をもたらすことができる。もちろんトランプは軍産複合体、シオニスト・ロビー、そして好戦主義者たちに立ち向かわなければならない。しかし、世界とアメリカ国民が彼の味方につくだろ。
Links:
{1} https://www.bbc.com/news/articles/c70155nked7o
{2} https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/10/the-trump-declaration-for-enduring-peace-and-prosperity/
{3} https://www.gov.il/en/pages/speech-un260925
{4} https://costsofwar.watson.brown.edu/sites/default/files/papers/Profits-of-War_Hartung-Semler_Costs-of-War_Quincy-FINAL.pdf
{5} https://costsofwar.watson.brown.edu/paper/AidToIsrael
{6} https://www.reuters.com/world/americas/most-americans-believe-countries-should-recognize-palestinian-state-reutersipsos-2025-08-20/
{7} https://www.un.org/unispal/data-collection/security-council/
{8} https://www.icj-cij.org/node/204176
{9} https://edition.cnn.com/2025/04/25/politics/fact-check-trump-ukraine-war
https://johnmenadue.com/post/2025/10/from-illusion-to-real-peace-trumps-test-in-gaza-and-ukraine
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。