世に倦む日々氏が掲題の記事を出しました。
4日のニューヨーク市長選挙で、イスラム教徒の社会主義者で34歳の若者、マムダニ氏が勝利しました。当初はダークホースと見られていたにもかかわらずにです。彼は支持者を前にした勝利演説で、「トランプ、よく聞け。私たちの誰かに手を出そうとするなら、あなたはまず、私たち全員を相手にしなければならない」「トランプのような億万長者が課税を逃れることを許してきた腐敗文化に終止符を打つ」と宣言しました。
世に倦む日々氏は「この言葉は、トランプに承服せず抵抗するアメリカ国内と世界中の人々をどれほど励まし勇気づけ、希望を抱かせる福音として響いたことだろう」と述べます。
そして「この30年、アメリカへの従属と没入を日毎に深め、アメリカの一部と化す社会の形態変化と構造転換に突き進んでいる日本への影響は大きい」とする一方で、それを暗に主導してきたNHKに代表される日本のメディアの報道姿勢は、まさにアメリカ(CIA)に奉仕する日本政府と一体であると批判します。
同氏は「この数年間、中国脅威論の高まりと共に、反共主義の思想が唯一不可侵の正義だった。反共が常識であり、~ 共産主義は悪であった」「現在の日本の標準的な政治思想は反共主義である。基準は反共であり反中親米である」と日本を論評し、そこまで「無前提かつ無思考的に」アメリカに追従するのであれば、「今後、全米主要都市でマムダニと同じ有力左派候補が立ち、支持を集め、トランプ共和党や民主党右派を凌駕する勢いを拡大した場合、アメリカ全体の空気が変わり、日本の空気も確実に変わる進行に導かれるという観測が成り立つ」と述べます。
そしてやがてアメリカ(従って日本)にも、「極右リバタリ(自由至上主義)を信奉するイデオロギーを相対化させ、マムダニ的な社会主義思想の積極的価値を認める者も増えるだろう。而して、社会主義とは何かが正しく説明されるべきときが近づいている。社会主義の理念や定義や歴史について、偏見と歪曲のプロパガンダやナラティブ(言説)の文脈ではなく、学問的で正確な言説で理解を広めることが意味を持つときが間もなく来る」と期待しています。
併せて田中龍作ジャーナルの記事「マムダニ新NY市長と99%の側に立てない日本のオールドメディア」を紹介します。
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マムダニ勝利の衝撃と興奮 - 社会主義がアメリカで立ち、日本に影響を与える
世に倦む日日 2025年11月7日
11/4 に投開票されたNY市長選挙で、社会主義者でイスラム教徒のマムダニが勝利する快挙があった。若干34歳。何もかも異例づくめで驚かされる。絵に描いたようなカリスマ性に圧倒される。トランプ訪日後に発表された世論調査で高市早苗の支持率が82%になり、神経衰弱で鬱々と沈んでいたが、それを吹き飛ばす画期的な朗報を得た。すっかり気分は回復し、老人性の興奮が続く躁状態に転じ、Xで「マムダニ」と検索して余韻を確認する愉しみに耽っている。6月の予備選で勝利し、ダークホースとして浮上し注目されていた報道は見ていたが、まさか本選で勝利を射止めるとは思わず、NYで革命が起きたような政治的事件の発生に映る。本人も自ら民主的社会主義者だと表明していて、サンダースと同じ民主党左派に属す新星だ。このところ、アメリカは猛毒の極右リバタリアン(⇒自由至上主義者)が台頭して全土を制圧した感があり、赤狩りが吹き荒れる最悪の暗黒空間になっていた。
アメリカの左派はどうしているのだろう、赤狩りに対する反撃は立ち起こらないのか。数年前、あれほどアメリカのZ世代は社会主義に親近的に変容していると報告されていたのに、あっと言う間に反共リバタリアンとキリスト教右派の病魔が席巻・支配する思想冥界に墜ちてしまったのかと、そう残念に思って悲観していた。その喪失感と屈折感を一気に払拭する逸材が登場し、待望と瞠目のヒーローの理念型が出現し、心躍る気分を抑えられない。さすがにアメリカはダイナミックだ。いつまでも若い国だ。老衰と随順と沈黙を知らない。世界を進歩の方向にリードする変化の絵を見せ、世界が必要とする才能ある若者を送り出す。支持者を前にした勝利演説でマムダニはこう言い放った。「トランプ、よく聞け。私たちの誰かに手を出そうとするなら、 あなたはまず、私たち全員を相手にしなければならない」「トランプのような億万長者が課税を逃れることを許してきた腐敗文化に終止符を打つ」と。
この言葉は、トランプに承服せず抵抗するアメリカ国内と世界中の人々を、どれほど励まし勇気づけ、希望を抱かせる福音として響いたことだろう。どれほどカタルシス(⇒精神の浄化)を覚えさせ、精神の高揚に導いたことだろう。素晴らしい政治の瞬間であり、感動的な青年政治家の演説だった。政治はときどき気まぐれに、こんな歓喜の場面を庶民の人生にプレゼントしてくれる。ガザの悲劇に心を痛める世界中のイスラム教徒が、ディアスポラ(⇒民族離散)として欧州の地べたで生きるムスリムが、彗星のごとくNYに登壇した救世主のメッセージに歓呼したに違いない。だけでなく、ベネズエラやコロンビアやキューバの人々も、トランプ・アメリカの帝国主義の暴政に脅され恐怖する中南米の人々も、祝福しただろう。理不尽で前時代的な関税収奪の恐喝と代償の押しつけに歯噛みしている人々も、マムダニがトランプに発した挑戦状の言葉に喝采したはずだ。虐められ続けたアメリカの大学関係者も、マムダニの言葉に癒されただろう。
NYでオキュパイ・ウォール・ストリート(⇒ウォール街占拠)の運動があったのは、14年前の2011年の出来事だ。私もまだ若く生産力のエネルギーがあった。毎日長いブログを書いてNYの抗議者たちに声援を送り、その刻一刻をトラックしていた。マムダニは20歳。ズコッティ公園を占拠する学生の一人だっただろうか。運動の最終局面、11月の公園は黄金色の銀杏並木に染まって美しく映え、ドラマの終焉を哀しく演出していた。"The Whole World Watching" とか "This is what democracy looks like" とか、アメリカ左派の伝統的な標語が集会で繰り出され、また、グローバル新自由主義に反抗する "We are 99%" とか "Tax The Rich" の言葉も開発されて世界に浸透した。そこから5年後の2016年、バーニー・サンダースが大統領選挙の予備選で旋風を起こし、民主党候補まであと一歩という地点まで迫る。サンダースが出馬していれば、トランプに勝って大統領になっていただろう。無念の挫折から9年、満を持して左派はマムダニを押し出した。
マムダニ革命と大袈裟に呼びたい心境を抑えられないが、この政治の成功の日本への影響はきわめて大きいと予想する。この30年、日本はアメリカへの従属と没入を日毎に深め、アメリカの一部と化す社会の形態変化と構造転換に突き進んでいる。先日(11/5)、ルイビルで貨物機墜落の事故が起きたが、翌日(11/6)のNHKの7時のニュースでは、国内で起きた事故よりも詳しく、長々と仔細を報道した。明らかに、現在のNHKの7時のニュースは、日本在住のアメリカ人をメインの視聴者として設定し、アメリカ人の情報ニーズを満たす編集にシフトしている。MLBやNBAの話題が無闇に延々と割り込み、日本のスポーツの報道を押し出すのはその所為だ。NHKは、日本駐在のアメリカ人に見せるニュース番組を制作している。あるいは、アメリカCIAによる検査に合格し満点を取る、アメリカCIAに忖度して彼らを喜ばせる報道番組に注力していると言ってもいい。NHKの報道はまさにアメリカに奉仕する奴隷だ。日本政府と同じだ。
アメリカの潮流の変化なら、どんな要素や成分でも今の日本は有意味に受容する態度となり、それに合わせる準備をする。奴隷らしく素直に媚び諂う。アメリカの中心地で起きた重大な政治的変化は、日本に影響を及ぼさないわけにはいかない。そもそも、今年の参院選で参政党が躍進し、日本保守党が場違いな票を獲得したのも、アメリカでトランプ旋風が吹き荒れ、反共極右と移民排斥がメインストリームとなった影響だ。昨年の都知事選での意味不明な石丸現象も、E.マスクの病的なリバタリアニズム(⇒自由至上主義)と幼児的に政治乱入する自己顕示妄動があり、日本の世間がそれを正当化する思想的状況になっている実態を見逃がせない。アメリカでMAGAとE.マスクが流行っているから、日本のマスコミがその傾向(偏向)を肯定し、同じイデオロギーに日本人が共鳴する地盤ができるのである。日本においてアメリカは普遍的な善であり正義なのだ。その価値観は日本の与野党で差はない。また、アメリカの政治的流行が右でも左でも、日本では無前提かつ無思考的にそれは善で正義に化ける。
したがって、その論理と視角を敷衍すれば、今後、全米主要都市でマムダニと同じ有力左派候補が立ち、支持を集め、トランプ共和党や民主党右派を凌駕する勢いを拡大した場合、アメリカ全体の空気が変わり、日本の空気も確実に変わる進行に導かれるという観測が成り立つ。バイデン政権がインフレ克服に失敗した後、アメリカの世論はあまりに極端に右翼化し、偏狭な保守的人種主義に旋回・固着し、そして、反中プロパガンダの過剰な扇動によって反共イデオロギーの中毒に陥った。異常に右の針路を選びすぎ、位置どりを右寄りに誤りすぎた。理性を失い、強権独裁を許し、大学を壊し、市民社会の正常性を失った。暴走する関税策によってインフレは止まらない。マムダニという強烈な左からのインパクトが炸裂したのは、アメリカが極右リバタリに振れすぎた反動であり、バランス回復を求めたホメオスタシス(⇒恒常性維持機能)の生理現象と言えるだろう。アメリカの相似形のコピーで生きる日本も、アメリカ政治の恒常性維持機能を模倣しておかしくない。価値観の振り子の動きが変わって当然だ。
この数年間、中国脅威論の高まりと共に、反共主義の思想が唯一不可侵の正義だった。反共が常識であり、反共反中がNHKのアナウンサーの定番の言葉であり、マスコミの常套句であり、共産主義は悪であった。何の問いも衒いもなく、デフォルト(⇒標準状態)で共産主義・社会主義は悪であり、ロシア革命とソ連は悪の歴史であり、否定され尽くした上に否定され、拒絶と抹殺と侮蔑の念押しが教育される対象だった。オーウェルの『1984年』の Two Minutes Hate の日常がずっと続いている。トランプの口汚い共産主義罵倒と同じ表現と主張を誰もがしている。テレビを見ても、SNSを見ても、その言説ばかりが撒き散らされ、夥しく強烈にシャワーされ、無限に反復されて人々の意識を上塗りしている。反共でなければ日本人ではない。共産党と社民党は愚かで変質的な異端であり、彼らに同調するXのポストは誹謗中傷の集団リンチを受ける。それが当然視される。反共が絶対善だから、立花孝志は逮捕されないのだ。反共が無謬の正義だから、スパイ防止法(治安維持法)が制定されるのだ。
現在の日本の標準的な政治思想は反共主義である。基準は反共であり反中親米だ。嘗ては憲法9条が日本の基準の思想だった。私の世代は子どもの頃、学校でそう教育された。今は反共になるよう教育環境が体制化されている。なので、40代以下の世代は安倍と高市と維新が大好きな反共有権者がデフォルトだ。反共がマジョリティである。その意味で、マムダニ革命は彼らにとって意外で不具合だろう。NYはアメリカを代表する先端都市で、反共青年たる彼らの価値観の中心地である。そのNYが、社会主義にコミットし、社会主義政策を説得し公約する若者を指導者に選び、極右トランプに対抗する立場を公然と示した。その事実は、反共日本人にとって混乱と矛盾を生ぜしめる困惑の思想的事態に違いない。絶対善であるアメリカは、なぜNYで、これほど異端で異形な、悪の思想の指導者を据えたのだろうと。一時的な判断のミスか偶然のバグなのか、それとも今後も続いて奔流となるトレンドなのか、そう思い始めた者も少なくないはずだ。
私は、NYで起きた事は他の都市でも起きると、そう確信するし期待もする。そして、その潮流を察知した日本人は政治の態度を徐々に変えるだろうと思う。極右リバタリを信奉するイデオロギーを相対化させ、マムダニ的な社会主義思想の積極的価値を認める者も増えるだろう。而して、社会主義とは何かが正しく説明されるべきときが近づいている。社会主義の理念や定義や歴史について、偏見と歪曲のプロパガンダやナラティブの文脈ではなく、学問的で正確な言説で理解を広めることが意味を持つときが間もなく来る。だから、その準備をしようと前向きな姿勢になる。マムダニの降臨はありがたい慶事だった。アメリカ左派は着実に前進し、人類の進歩に貢献している。さて最後に、マムダニがイスラム教徒で社会主義者という事実も、政治思想的に意義が大きく可能性を予感させる点を強調したい。ナセルがそうだった。アラファトとスカルノもその範疇に近かった。当然のことだが、社会主義とイスラム教は同一の政治的思想的人格において同居し得る。
また、周知のとおり、キリスト教では「解放の神学」(⇒キリスト教社会主義の一形態)の存在と活躍があった。中南米の現代政治で大きな役割を果たし、堀田善衛が熱く注目して言及しエールを送っていた。イタリアの「歴史的妥協」の現代史もある。われわれは先人の積み重ねを持っている。私は政治思想史を専門に学び、ウェーバーを演習で読んだ学生なので、関心の焦点は自ずとそこに向かう。それはすなわち、言わずもがな、四半世紀ぶりに野党に戻った公明党と共産党を結びつけるという政治目標の一点をめざす動機に媒介された関心と課題ということだ。松本清張の悲願を引き継ぐ野心と構想という意味だ。マムダニはそこに啓示と着想と自信を与える。だから、マムダニの奇跡は二重三重に貴重な宝なのである。
マムダニ新NY市長と99%の側に立てない日本のオールドメディア
田中龍作ジャーナル 2025年11月7日
マムダニ新NY市長の誕生を日本のマスコミは、まるで革命でも起きたかのように伝える。いまさら何やってんだ、と言いたくなる。
拙ジャーナルの前稿『【NY市長選挙】マムダニ氏を当選させたウォール街占拠者たちの怒り』(6日付)でも述べたが、氏が登場する土壌となったのは、99%の人々が生きてゆけないような貧困社会だ。
庶民を生活苦に落とし込む搾取構造の頂点に君臨するウォール街。ど真ん中のズコッティ公園で、生活困窮者たちは炊き出しを受けながら命をつないでいた。
ある日、公園からデモ隊約100人が出た。目指すはゴールドマン・サックス社。強欲金融資本の総本山だ。うち十数人が同社の玄関前に座り込んだ。ピューリッツァー賞受賞のクリス・ヘッジズ氏(当時55歳)の姿があった。
氏は海外特派員として20年間にわたり中米、中東、アフリカ、東欧情勢を見つめてきた。
NY市警の現場班長と見られる警察官が拡声器を手に警告した。「座り込みを止めて退去しなさい。さもなくば逮捕する」と。
誰一人たじろがなかった。NY市警はゴボウ抜きにしていった。クリス・ヘッジズ氏も例外ではなかった。
市警は氏がピューリッツアー賞受賞者であることを知っていたのか。後ろ手錠にはしなかった。
一人また一人と逮捕されるたびに、デモ参加者からは「Shame(警察は)恥を知れ」と怒声があがった。クリス氏逮捕の瞬間、怒声はひときわ大きくなった。
デモに先立ち市民集会がズコッティ公園であった。地元ラジオ局が中継するなか、氏は次のように呼びかけた―
「東独の反体制派リーダーと会った時、『(東西ドイツの統一は)多分1年後くらいだろうね』と語り合っていたら、1時間もしないうちにベルリンの壁が崩壊し、東西を行き来する人々で溢れ返った。改革を信じて前進することが大事だ。途中であきらめるな」。
フリージャーナリストが国会記者会館の前庭で腰を下していただけで、会館の職員は警察を呼んだ。記者クラブは国有地を無料で利用しながら独占する。権力とマスコミの一体化だ。米国では考えられない。=2020年、官邸前 撮影:田中龍作=
14年かかったが、生活困窮者が立ち上がり、彼らの代表を市長に押し上げた。
ピューリッツアー受賞ジャーナリストまでが、99%の側に立つ米国。新聞テレビが政治権力と財界の側に立つ日本。
米国をはるかに凌ぐ貧困国家ニッポンで、マムダニ氏のような政治家が登場するメディア環境はないのだろうか。
~終わり~
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。