2015年12月5日土曜日

TPPの合意文書は日本語に翻訳されていない

 大筋合意したTPP協定の正文は英語で約2000ページ(付属書を入れると約5000ページ)ですが、正文のうちで日本語に翻訳されたのはわずか97ページの「概要」だけだということです。
 もちろん翻訳に時間がかかるから放置されているのではありません。英文の翻訳者はいくらでもいますから、大量に動員すればあっという間に翻訳など仕上がります。
 それをしないのはそもそも国民に詳細を知られたくない、大筋合意した以上いまさら覆されたくない、内容に関して突っ込まれたくないからです。
 TPPでは、政府調達の入札手続きなどにも今後は英語での公示文書を作ることが努力義務として課されるという、かねてから指摘されていた問題もあります。
 
 自分で売国的な協定に合意しておきながら、批准されるまでその内容を国民に知らせないようにするというのは、犯罪ではないでしょうか。
 日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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許していいのかTPP合意文書「日本語訳」がない驚愕
日刊ゲンダイ 2015年12月3日
 TPP大筋合意を受けて、安倍首相は「攻めの農業に転換し商品の輸出額を1兆円にする」などと吠えているが、そんな中、とんでもない事実が明らかになった。合意文書の全容が日本語で公開されていないのである。臨時国会も開かず、議論から逃げ回っているうえに、文書も翻訳しないとは怠慢の極みというか、よほど後ろ暗いことがあるとしか思えない。「英語化は愚民化」(集英社新書)の著者で九大准教授の施光恒氏は、「これぞ、TPP交渉の本質」と看破した。
 
■政治家は誰も読んでいない?
 政府は11月5日にTPP合意文書の概要を公開しましたが、2000ページに及ぶ正文(英語)の翻訳は作成されていません。日本語に翻訳されたのはわずか97ページの「概要」だけですが、正文も100人ぐらいの翻訳者を動員すればあっという間にできるはず。やっていないのは、そもそも説明する気がないのでしょう。大筋合意した以上、いまさら覆されたくない、内容に関して突っ込まれたくないのだと思います。
 これだけ大量の英語の文書に、政治家が目を通しているとは思えません。官僚だって、全容をきちんと把握している人はいるのだろうか。だとしたら、検証も何もない。これだけ重要かつ広範な領域にわたる条約の正文を英語のまま放置したうえに、臨時国会も開かないのですから、とんでもない話です。
 
 農業分野では各県のJAから自民党の公約違反という声が噴出していますが、農業以外の分野はどうなっているのか、ちっとも伝わってこない。合意事項は7年後に見直すといいますから、なおさら懸念は膨らみます。
 たとえば、医療問題。政府は「国民皆保険は守る」と繰り返していますが、TPP発効後、政府が薬価を取り仕切る今の制度は障壁だといわれる可能性は否定できない。「医薬品の償還価格(日本では薬価)」の決定ルールについて将来、協議を行うことが日米間の交換文書に記されているのです。
 
 こうした懸念事項を政治家、マスコミ、そしてもちろん一般市民が十分に議論して、TPPという条約を批准すべきか議論するのが民主主義です。しかし、日本語訳がなければ始まりません。政治的に重要な文書を英語のまま放置するのは、英語の分かる「上級国民」だけが政治に参加する資格があり、英語の分からない「愚民」はつべこべ言うなと、安倍政権が考えているからなのでしょう。
 
 そもそも、大筋合意文書に日本語がない、ということもおかしいのです。正文は英、仏、スペイン語だけ。日本はTPP経済圏の中で、経済規模は2番目に大きいのですから、交渉過程で日本語も公用語にしろと主張するべきでした。
 
 TPPでは、政府調達の入札手続きにも英語での公示文書を作ることが努力義務として課せられる。入札だけでなく、その後の行政手続きも、すべて英語との併用を義務付けられていくのでしょう。こんなふうに、小さな自治体から霞が関まで日本中が英語化されれば、参入してくる外資に対して、日本人は国内でも競争や交渉に負けることになるでしょう。日本の国力は地に落ちます。言語という問題ひとつとっても、TPPが日本にとってロクでもないものであることがわかります。