2025年2月27日木曜日

治安維持法100年 31都道府県で告発集会・宣伝 侵略遂行へ共産党・国民を弾圧

 戦前、天皇絶対の専制政治下における国民弾圧の武器として猛威を振るった治安維持法の制定から今年で100年を迎えます。
 同法は、天皇絶対体制である「国体」の変革を求めることを“極悪の犯罪”と見なし、日本共産党を最大の弾圧対象にし「目的遂行罪」を設け、知識人、宗教者など幅広い人々の言論の自由を奪い、反戦運動を取り締まりました。
 治安維持法は、天皇絶対主義下での戦争体制構築に向けての必須事項であるとともに、侵略戦争が拡大する中でより一層苛烈に運用されていきました。弾圧を担った特別高等警察(特高警察)は1933年、作家の小林多喜二を拷問して虐殺ました。
 国内の検挙者は6万8千人を超え、弾圧による死者は拷問で虐殺された93人を含め500人余に及びました。植民地の朝鮮や台湾、満州国でも死刑を含む弾圧が吹き荒れました。
 その悪法は戦後451015廃止されましたが、犠牲者に対して政府は謝罪も賠償もしていません。それどころか第2次安倍政権下で、特定秘密保護法、安保法制、共謀罪法と新たな戦時体制の構築が一挙に加速しました。
 治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟は31都道府県で民主団体と協力して集会や学習会、宣伝行動を多彩に計画しています
 しんぶん赤旗の3つの記事を紹介します。
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治安維持法100 31都道府県で告発集会・宣伝 侵略遂行へ共産党・国民を弾圧
                       しんぶん赤旗 2025年2月26日
 戦前、天皇絶対の専制政治による国民弾圧の武器として猛威を振るった治安維持法の制定(1925年3月19日成立、4月22日公布、5月12日施行)から今年で100年を迎えます。
 同法は、天皇絶対の体制である「国体」の変革を求める主張や運動を“極悪の犯罪”と見なし、「君主制の廃止」「侵略戦争反対」を掲げる日本共産党を最大の弾圧対象にしました。28年には天皇の命令である緊急勅令で最高刑を死刑とし、「目的遂行罪」を設けて弾圧の対象を拡大。知識人、宗教者など幅広い人々の言論の自由を奪い、反戦運動を取り締まりました。
 弾圧を担った特別高等警察(特高警察)は「おまえたちは陛下のご詔勅にそむいて反戦運動をやった。不忠の逆賊だ。そんな虫けらは殺してもよい」といって無法な拷問を加えました。
 作家の小林多喜二は33年、特高の拷問で虐殺されました。取り調べを受けた女性は「特高は私を素裸にした」「手帚(ほうき)を持ってきて、その柄で、私が女であるが故の辱めを与えようとした」と証言しています。
 同法による国内の検挙者は6万8千人を超え、弾圧による死者は拷問で虐殺された93人を含め500人余に及びました。植民地の朝鮮や台湾、かいらい政権「満州国」(中国東北部)でも死刑を含む弾圧が吹き荒れました。
 戦後、45年10月15日、同法は政治的自由への弾圧と人道に反する悪法として廃止されましたが、その犠牲者に対して政府は謝罪も賠償もしていません。
 今、大軍拡と敵基地攻撃能力の強化が進む中、警察権力の国民監視を拡大する悪法が目白押しです。特定秘密保護法、共謀罪法、経済秘密保護法に続き、石破茂政権は「能動的サイバー防御」法案を閣議決定しました。

 治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟は31都道府県で民主団体と協力して集会や学習会、宣伝行動を多彩に計画。永島民男事務局長は「各地の画期的な取り込みは、国民の中に治安維持法の時代のようになっているという警戒心があるからです。運動をさらに広げていきたい」と話しています。


2025 焦点・論点 治安維持法の歴史と今
       小樽商科大学名愉教授(日本近現代史荻野富士夫さん
                       しんぶん赤旗 2025年2月26日
 戦前の弾圧法として猛威を振るった治安維持法の施行から100年。石破茂政権が大軍拡を加速して戦争への道を歩む今、同法の歴史から何を学ぶべきか、小樽商科大学名誉教授の荻野富士夫さん(日本近現代史)に聞きました。      (伊藤紀夫)

   おぎの・ふじお 1953年埼玉県生まれ。小樽闘科大学名誉教授。専攻は日本近現
      代史。著書に『思想検事』『特高警察』『よみがえる戦時体制-治安体刑の
      現在』『検証 治安維持法-なぜ「法の暴力」が蔓延したのか』など多数

    侵略戦争と国民弾圧の武器「法の暴力」再来防ぐ運動を

 -小説『一九二八年三月十五日』で日本共産党への大弾圧を告発した小林多喜二が特高警察の拷問で虐殺されるなど、治安維持法は希代の悪法といわれていますが。
 治安維持法は「国体の変革」を目的とする結社の織、加入に刑罰を科す法律でした。君主制の廃止を主張する日本共産党は「国体」を変革する「悪逆非道」で不逞」な「秘密結社」として弾圧されたのです。928年の三・一五事件では党員、労働組合員ら約1600が検挙され、4が起訴されました。
 31年の満州事変(中国東北部への侵略)について多喜二は「戦争が外部に対る暴力的侵略であると同時に、国内においては反動的恐怖政治たらざるを得ない」と告発しました。治安維持法は「来るべき戦争遂行の準備」のための最強の武器となり、抵抗した多喜二は33年に虐殺されたのです。

 -25年3月、治安維持と同時に25歳以上の男性に選挙権を認める普通選挙法が成立します。共産党や民主的運動を抑えようという天皇制政府の意図が見えますね。
 治安維持法には前史がありました。ロシアで社会主義革命、国内で米騒動が起こるという世界的な変動に統治体制の再編を迫られた政府は、20年前後から新たな洽安立法の準備を急ぎました。すでにある治安警察法では労働運動や農民運動の取り締まりには有効だが「過激思想」の伝播や「秘密結社」には不十分と考えられました。22年の過激社会運動取締法案は廃案となりますが、その後も起草が続けられた結果、治安維持法、普通選挙法、日ソ基本条約が25年に三位一体で実現することになったわけです。

 敗戦後に廃止されるまで20年間ですが、弾圧対象が拡大しますね。
 前半10年間は共産党への弾圧に使われ、35年に組織的な運動を壊滅させるまで続きます28年には最高刑を死刑に引き上げ、「目的遂行罪」を設けて共産党の目的のため活動していると特高が判断すれば検挙、投獄できる打ち出の小づちとして使われます。しかし、それはあくまでも共産党とその周辺という範囲の拡張解釈でした。
 ところが、その後の10年間の拡張解釈では、社会民主主義、共産主義思想の啓蒙活動、大本数やキリスト教などの京教、反戦平和の主張にも襲いかかっていきました
 その中で「国体」は不可侵なものとして猛威を振るいます。「国体」は35年の天皇機関説事件を機とする「国体明徴」運動や国民精神総動員運動などを通じて、治安維持法という法的規範を飛び越えて国民全般を呪縛して侵略戦争へ動員していったのです。

 -日本の植民地でも治安維持法は猛威を振るっていたのでしょうか。
 植民地の朝鮮と台湾だけでなく、かいらい国家の「満州国」にも日本の治安維持法をモデルとした治安維持法が施行され、日本国内以上の「法の暴力」が吹き荒れました。日本の支配に抵抗する民族独立運動、抗日運動、共産主義運動を「国体の変革」をめざすものとして過酷に弾圧したのです。
 日本では治安維持法による死刑判決はありません。朝鮮では主に刑法との併合罪ですが59人が、「満州国」ではおそらく2000人弱が死刑となっています。抵抗運動に対する見せしめという意味もありますが、絶対に許さないという意思を示すために、最高刑での処罰が横行しました。

 -治安維持法は当時は適法だった″という政府の姿勢をどう見ますか。
 共謀罪法の審議で金田勝年法相(当時)は「治安維持法は当時適法に制定された」とし、刑の執行も「適法」と答弁しました(2017年)。「悪法も法な」という治安維持法擁護倫です。
 治安維持法が悪法だということは今ある程度、理解されていると思います。たとえば、中学、高校の教科書では、25年の普通選挙法の実施と一緒に並んで治安維持法の記述があり、受験の試験問題にも出題されています。去年のテレビドラマ「虎と翼」にもありましたが、映画や小説も含め、特高の人権じゅうりんの拷問、自白の強要、検察や予審での虚偽の尋問調書で有罪に持っていくことは知られてきています。
 そもそも社会変革の運動や思想を、強権で押さえ込むところに悪法の本質があります。天皇制政府が「不逞な輩」とした共産党の主張は植民地独立、男女普通選挙、言論・集会・出版・結社の自由、8時間労働制などですが、これらは戦後の憲法に盛り込まれた普遍的な価値観です。こうした主張を弾圧した法律は悪法でなくて何でしょうか

 -大軍拡に呼応して警察の権限を強化する立法が相次ぐ現状をどうとらえていますか。
 「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍晋三政権下で特定秘密保護法、安保法制、共謀罪法と新たな戦時体制の構築が一挙に加速した当時、私は「新しい戦前」という言葉で表現しました
 今、大軍拡を進める石破政権が閣議決定した「能動的サイバー防御」法案は警察と自衛隊に強大な権限を与えて国民を監視する仕組みになっています。もう「新しい戦中」の前夜で、治安維持法は今も形を変えて生きているといえます。
 52年に破壊活動防止法が制定されましたが、「治安維持法の再現」「特高警察の復活」という世論の猛反発の中で、その発動を阻んできました。「新しい戦中」にしないためには、戦時体制づくりの悪法の本質と問題点を洗いざらい指摘して反対運動を盛り上げ、国民が悪法を監視して歯止めをかけていくことが必要だと思っています。


         治安維持法関連年表 
                       しんぶん赤旗 2025年2月26日
 1889年 2月11日  大日本帝国憲法発布
 1894年 8月1日   日清戦争開始
 1900年 3月10日  治安警察法公布(結社・集会・デモを規制)
 1904年 2月10日  日露戦争開始
 1911年 8月21日  警視庁に特高警察課設置
 1922年 7月15日  日本共産党創立
 1925年 3月29日  普通選挙法成立(男性25歳以上に選挙権)
       4月22日  治安維持法公布(成立3月19日、施行5月12日)
 1928年 2月20日  普通選挙法初の総選挙 労農党19万票獲得
       3月15日  三・一五事件で共産党員と支持者1600人検挙
       6月29日  緊急勅令で治安維持法改定=最高刑死刑・目的遂行罪新設
       7月3日   特高警察課全県設置、思想検事各地裁配置
 1929年 3月5日   治安維持法事後承諾案に反対した山本宣治刺殺される
       4月16日  四・一六事件で1000人検挙
 1931年 9月18日  満州事変=中国東北部に侵略(柳条湖事件)
 1933年 2月20日  小林多喜二 築地署で拷問により虐殺される
       3月27日  日本が国際連盟から脱退
 1935年 12月8日  大本教弾圧
 1936年 5月29日  思想犯保護観察法公布
       11月25日 日独防共協定調印
 1937年 7月7日   中国への全面侵略戦争開始(盧溝橋事件)
       12月15日 第一次人民戦線事件446人検挙
 1938年 4月1日   国家総動員法公布
       11月29日 戸坂潤ら唯物論研究会幹部検挙
 1940年 2月6日~  生活綴方(つづりかた)教育関係者百数十人検挙
 1941年 3月10日  改定治安維持法公布(予防拘禁制度導入)
       12月8日  日本が米国の真珠湾を攻撃 太平洋戦争開始
       12月9日  開戦非常措置で宮本百合子ほか1000人以上検挙
 1944年 1月~翌年  横浜事件 『中央公論』改造』編集者ら検挙
 1945年 8月9日   戸坂潤獄死
       8月15日  終戦
       9月26日  哲学者三木清獄死
       10月10日 政治犯約3000人釈放
       10月15日 治安維持法廃止
 1952年 7月21日  破壊活動防止法、公安調査庁設置法公布
 2013年 12月13日 特定秘密保護法公布
 2015年 9月30日  安保法制(戦争法)公布
 2017年 6月21日  共謀罪法公布
 2025年 2月7日   「能動的サイバー防御」法案閣議決定

維新と自公の合意 社会保障費の削減を誇る異常(しんぶん赤旗)

 衆院は今週予算案の採決をめぐって緊迫するはずでした。それは年度内に予算案が自然成立するためには3月2日までに衆院で可決して参院に送らなければならないのですが、少数与党の自公だけでは衆院を通過させられないからでした。
 ところが維新の会が高校無償化と国民医療費の削減を条件に、政府の来年度予算案に賛成することで合意しました。これはごく部分的な課題と引き換えに大軍拡などの重大な問題を含む予算案に賛成するもので、自公政権の延命に手を貸すものです。
 維新の会も国民党も、自公に対してどう対応することで国民に存在感を示せるかが最大の狙いなのでしょう。しかし結果的に今後も国民党か維新の会のどちらかを抱き込みさえすれば法案を通せるという安心感を自公に与えたに過ぎないものでした。

 この間 野田立民党は何の動きも見せませんでした。財務省寄りの野田代表としては予算案がそのまま通ることに何の抵抗もなかったのでしょう。何とも情けない話です。
 しんぶん赤旗が掲題の記事を出しました。
 併せて日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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【主張】維新と自公の合意 社会保障費の削減を誇る異常
                       しんぶん赤旗 2025年2月26日
 日本維新の会が、高校無償化と国民医療費の削減を条件に、政府の来年度予算案に賛成することで自民・公明両党と合意しました。ごく部分的な課題と引き換えに大軍拡など重大な問題を含む予算案に賛成し、自公政権の延命に手を貸すものです。
 重大なのは、3党合意に、部分的な改善どころか国民の命を脅かす改悪が入ったことです。維新は、合意文書に国民医療費の削減額として最低年4兆円という数字を書き込ませたことを成果だと誇り、社会保障費削減のための協議体設置も盛り込ませました。

■「改革」の名で改悪
 同党の吉村洋文代表は10兆円超の社会保障費削減を求めていると述べています。2022年度の国民医療費は約47兆円です。「社会保障改革」と称し診療報酬引き下げなどを政府に迫る構えです。
 自公政権の下、国民の暮らしを支える社会保障費は自然増分も圧縮され、医療・介護体制は危機に瀕(ひん)しています。拡充こそ必要なのに、大幅な削減を求め、それを条件に予算に賛成する―二重三重に反国民的で異常な態度です。
 23年度、一般病院の半数が赤字(福祉医療機構の調査)で、病院の統廃合、医療従事者不足など困難に直面しています。日本病院会など病院5団体は1月、国に「地域医療崩壊の危機」と診療報酬引き上げなどを緊急要望しました。介護も同様です。介護報酬引き下げで、訪問介護事業所ゼロの自治体が広がり、在宅介護が崩れつつあります。
 国民医療費を減らすためには、▽診療報酬をさらに減らす▽病院・病床・医師などを減らし医療体制を縮める▽患者負担を増やして受診抑制を起こさせる―ことが必要になります国民が医療や介護を受けにくくすることが、維新の言う「改革」の中身です。
 維新は「社会保険料を下げる改革案(たたき台)」で、社会保障支出削減のために医療の「人件費の適正化」を「断行する」とし、医療に市場原理を働かせることで「質の高い医療サービスを全ての国民に提供できる体制を確立する」と言います。しかし、金次第の市場原理や医療従事者の人件費削減でそうした体制ができるはずはありません

■保険料下げるには
 維新は、現役世代の社会保険料の軽減を前面に掲げます。高すぎる保険料引き下げは必要です。そのためには国民の医療・介護の切り捨てではなく、大企業・富裕層優遇税制と大軍拡に切り込み、国民健康保険や健康保険などへの公費投入を増やすことです。
 自民党政治の根本のゆがみに手をつけず、自公政権の「医療費適正化」政策の尻をたたく維新に、自民党はほくそ笑んでいることでしょう。
 大阪府内の国保料は全国最悪水準の高さです。自公政権は「国保の都道府県化」により、自治体の独自支援をやめさせ国保料引き上げの圧力をかけました。これを進んでやったのが維新です。独自に負担を軽減する自治体に府は「不適切」とする通知まで出しました。現役世代の保険料を下げたいと真剣に考えているのか。ならば、まず大阪万博で膨れ上がる予算を保険料軽減に使うべきです。


国民から総スカン、維新と自民の利害一致 これで予算案通過なら前代未聞のおぞましさ
                          日刊ゲンダイ 2025/2/25
 まあ、維新の卑しさと茶番国会は先刻承知だったが、あまりに露骨な理念不在の裏取引。ゆ党2党⇒維新・国民)は手柄欲しさを逆手に取られ、不祥事維新は予算をこれ幸いに目くらまし。
 自民はうまくやったつもりだろうが、有権者はふざけた“熟議”に怒り心頭。
  ◇  ◇  ◇
 こんな理念不在の裏取引のどこが「熟議」だというのか。
 少数与党で自分たちだけでは法案を通せない石破政権は口では「熟議の国会」とか言うのだが、やっているのは、相変わらずの密室談合政治。年度内の成立が危ぶまれていた2025年度予算案は、日本維新の会を取り込んで年度内成立にこぎつけそうだ。
 衆院は今週、予算案の採決をめぐって緊迫するはずだった。年度内に予算案が自然成立するためには、3月2日までに衆院で可決して参院に送らなければならない。自民、公明両党だけでは衆院を通過させられないため、与党側は国民民主党や日本維新の会と個別に「3党協議」を続けてきたが、交渉は難航していた
 そこへ裏金問題も影を落とす。予算委で正式に決まった旧安倍派の会計責任者の参考人招致を拒否したうえ、与野党で合意した国会外での参考人聴取も前日の19日に自民側がドタキャン。あまりにフザケた対応に野党側は態度を硬化させた。衆院予算委員会は今のところ25日の中央公聴会、26日に首相と関係閣僚が出席する集中審議までは決まっているが、その後の日程は未定だ。委員会採決の前提として、立憲民主党などの野党は参考人聴取を条件にしている。
 石破政権に打開策はなく、年度内の予算成立は難しいと思われたのだが、21日になって状況は一転。維新は公約の「教育無償化」と「社会保険料の引き下げ」が盛り込まれることになったとして、新年度予算案への賛成で与党と大筋合意したのだ。
 維新は25日にも緊急役員会と両院議員総会を開催し、与党との協議で妥結した予算案修正について諮るという。党内の了承を得られれば、自公維新3党で正式に合意し、新年度予算案の年度内成立が確実になる。
 
予算賛成は国民に対する裏切り
予算案に賛成するということは、政府与党の政策全般に賛成するのと同じことです。維新が教育無償化という一部分だけをつまみ食いして予算案全体に賛成するのはおかしいし、昨年の衆院選で自公を過半数割れに追い込んだ国民に対する裏切り以外の何物でもない。有権者は、こんな茶番国会を望んで野党に票を託したわけではありません。維新という政党の卑しさは兵庫県議会の問題でも明らかですが、自分たちの手柄欲しさに与党にスリ寄り、談合したわけで、とことん薄汚れた集団だということがハッキリしました」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)
 兵庫県の斎藤知事らの疑惑に関する百条委員会の音声データや文書を維新所属の兵庫県議3人が政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首に渡していた問題は、とても看過できるものではない。秘密会の音声データを流出させ、兵庫県知事選を通じて真偽不明の情報が拡散したことが知事選の結果に影響を与えたといわれる。その過程で誹謗中傷が殺到した元県議は自死してもいる。
 コンプライアンス違反などという言葉では片づけられないほどの重大スキャンダルなのだが、維新代表の吉村大阪府知事は県議らの行為について、「思いはわかるけどルール違反」などと生ぬるいことを言っていた。不祥事連発の維新はガバナンスも何もあったものじゃないという証左だが、そういう政党だからこそ、国政では自民にスリ寄る「ゆ党」という立場を恥とも思わず、予算案への賛成をまるで手柄のように喜々としていられるのだろう。
 
維新案は国民民主よりコスパが良かっただけ
 与党は当初、24年度補正予算で賛成に回った国民民主の方がくみしやすいと考えていたはずだ。とりわけ、大阪を中心に維新と対立関係にある公明は国民民主に肩入れしていた。ところが、「103万円の壁」の178万円への引き上げを強硬に主張する国民民主とは落としどころで折り合えず、予算案の年度内成立は暗礁に乗り上げつつあった。維新はそこに助け舟を出した格好だ。
 ハシゴを外された国民民主は、「こんな内容で予算案に賛成していいのか」などと維新を批判しているが、自分たちのことを棚に上げてよく言う。「ゆ党」の2党が手柄欲しさに、自民への恩着せ競争をしていたに過ぎず、そこを逆手に取られただけではないのか。
「野党が協力すれば自民党を追い込めるのに、それぞれバラバラに自党の利益を主張して個別に与党と交渉するからこういうことになる。我先にと自民党の補完勢力になりたがっているようにさえ見えておぞましい。予算案の成立が確実になれば、自民は野党の言うことになんて聞く耳を持ちませんよ。裏金問題の参考人聴取はウヤムヤに終わり、企業献金の廃止も突っぱねるでしょう。せっかく国民が自民党政治に『NO』を突きつけても、これでは何も変わらない。それも、決して自民がうまくやったわけではなく、野党が党利党略に走っていがみ合い、国民全体のことを考えていないからです。それで自民党を蝕む『政治とカネ』の問題が置き去りにされてしまうとしたら、国民は到底納得できません」(金子勝=前出)
 最大野党の立憲民主も野田代表が早々に「予算案を人質にした日程闘争はしない」と公言。自民党とすれば、「ゆ党」の国民民主か維新、どちらかを抱き込めばいいのだから、ずいぶんラクになった。
 
今さら「戦闘モード」は遅い
 24日都内で党大会を開いた立憲民主の野田は「戦闘モードに入りますよ、ここは。国会を動かすのは政党支持率ではありません。議席の数です」とか言っていたが、今ごろ戦闘モードでどうする。予算案成立が確実になった後では遅すぎる。
 だいたい、自民が国民民主ではなく維新を選んだのも単にコスパの問題だ。国民民主が主張する「103万円の壁」の178万円までの引き上げには7兆~8兆円の経費がかかるが、維新の「教育無償化」は6000億円で済む。来年4月から私立高校を対象に加算されている支援金の上限額を、所得制限を撤廃して45万7000円に引き上げるというが、必要経費と目先の数合わせだけの話で、この国をどうするかという理念はどこにもない。
「自民党のインナーと呼ばれる税調幹部は6000億円なら受け入れることができ、維新の協力で予算案が成立する見込みが立った。維新の側からしても、教育無償化の成果を得るだけでなく予算案を年度内に成立させたい思惑が他にありました。4月開幕の大阪万博の費用が新年度予算に計上されているからです。ここで両党の利害が一致し、予算案の年度内成立が確実になった。しかし、私立高校の実質無償化が本当に教育の底上げにつながるのかという議論がほとんどないまま拙速に決めてしまったことには疑問を感じます。それに、無償化というと聞こえがいいですが、税金の投入であり、結局は国民負担です。教育無償化とともに維新が主張していた社会保険料の負担軽減についても、これから協議するという曖昧な決着になっている。熟議の国会と言うのなら、税制や社会保障制度を抜本的に見直す議論を与野党でするべきではないでしょうか。党利党略で小手先のつじつま合わせに終始しているようでは、与党も野党も国民から総スカンを食うことになりかねません」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
 自民党政権が延命のために野党の要求を受け入れて財政支出を拡大すれば、それは国民負担としてはね返ってくる。われわれ国民は、政権や政党を存続させるために存在しているわけではないのだ。
 こんな茶番で予算案が通過するなら、前代未聞のおぞましさというほかない。

玉木氏の排外主義 分断持ち込み社会保障を壊す(しんぶん赤旗)

 しんぶん赤旗に掲題の記事(主張)が載りました。
 国民党の玉木代表は、高額療養費制度の改悪に関連して自身ので、「外国人やその扶養家族が、わずか90日の滞在で数千万円相当の高額療養費制度を受けられる現在の仕組みは、より厳格な適用となるよう制度を見直すべき」、「社会保険料は原則、日本人の病気や怪我のために使われるべき」だと述べました。
 玉木氏はの効能を重視していて大いに注力しているようですが、しんぶん赤旗は同発言は、事実においても 国際規約に照らしてもデタラメなもので、単に国民受けを狙った発言であると痛烈に批判しています。
 日刊ゲンダイも同趣旨の記事を出しているので併せて紹介します。
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【主張】玉木氏の排外主義 分断持ち込み社会保障を壊す
                       しんぶん赤旗 2025年2月25日
 排外主義をあおる、トランプ米大統領ばりの発言は看過できません。国民民主党の玉木雄一郎氏の発言です。
 高額療養費制度の改悪にかかわって、自身のXで「外国人やその扶養家族が、わずか90日の滞在で数千万円相当の高額療養費制度を受けられる現在の仕組みは、より厳格な適用となるよう、制度を見直すべき」だとし、社会保険料について「原則、日本人の病気や怪我(けが)のために使われるべき」だとのべました。
 「生活が苦しい」「負担が重い」という国民感情の矛先を外国人排斥に向けるもので、政治家として許されません。
 
■国際人権規約無視
 外国人でも健康保険・国民健康保険など公的医療保険に加入して保険料を払っている人が高額療養費制度の適用を受けるのは当然です。外国人が特別に優遇されているわけではありません
 日本政府は1979年に批准した国際人権規約のもと、「内外人平等」の原則に立って「国籍の別なく、所要の負担の下に、国民と同様の社会保障の実施」に努めるとしています(国連への報告書)。
 81年に批准した難民条約でも、公的扶助・公的援助について難民に「自国民に与える待遇と同一の待遇を与える」とされています
 玉木氏の発言は人権意識の決定的遅れを表しています。
 今回の発言には、外国人排斥とともに、保険料を短期間しか納めていない人が制度の“恩恵”を受けるのはおかしいという意味がふくまれていると考えられます。
 こうした考え方は、保険料納付期間や納付額が少ない人には少ない給付をとなりかねず、果てしない分断をもたらします。加入期間が短く低所得で納付額が少ない若い人は少ない給付でよいともなりかねません。「自己責任論」を強め、憲法が保障する生存権にもとづき、すべての人の生活を公的に支えるという社会保障を否定するものです。
 
■国庫負担増額こそ
 国民民主党は「現役世代の保険料負担を下げる」として医療費の削減を求めています。玉木氏は、がん患者などの命を脅かす政府の高額療養費制度の改悪案を「社会保険料を抑える方向での改革」と評価し「一定程度(患者負担を)上げていくのはやむを得ない」とのべ反対しません。
 昨年の総選挙公約でも重点政策に高額療養費制度の自己負担上限の見直しを掲げ、医療費削減のためとして尊厳死の法制化まで主張しました。医療費削減のために命を顧みない姿勢があらわです。
 高齢者の窓口負担引き上げも求め、15日のテレビ番組では「(高齢者で)病院がサロン化している」と根拠なく世代分断論をあおりました。世代分断論は「医者にかかるのも金次第」という「自己責任」論を強め、結局、全世代の社会保障への公的負担の抑制・削減をもたらします。それを狙う自民党は大喜びでしょう。
 重すぎる社会保険料を下げるには財界・大富裕層への優遇税制を改め、大軍拡を中止して社会保障への国庫負担を増やすことが不可欠です。外国人や高齢者をやり玉にして分断を持ち込むのは、そこから目をそらすものです。
 
 
玉木雄一郎代表が焦りこじらせご乱心? 国民民主党「不要論」加速でSNSに“噛みつき”投稿
                          日刊ゲンダイ 2025/02/25
 新年度予算案は、少数与党の自民・公明が「高校授業料無償化」を求める日本維新の会と合意の見通し。「年収の壁」引き上げをめぐり国民民主党との協議も大詰めだが、年収制限撤廃を求める国民民主に対し、自公は年収制限を残し、上限850万円までの4段階で減税額を変える案を提示して平行線だ。
「維新が賛成してくれるなら予算案は成立する。国民民主の要求をこれ以上のむ必要がなくなる」(自民党関係者)という背景がある。
 そんな中、国民民主の玉木雄一郎代表(役職停止中)が政治ジャーナリスト・田崎史郎氏の発言に噛みついた
 22日のテレビ番組で、田崎氏が「国民民主党はネット世論を非常に気にしている」「柔軟性を欠いていて、ネットの世界では受けているけれど、永田町ではなかなか難しくなってきている」と発言。
 これに反発し、玉木氏は自身のXに<ネット民は分かっていないとバカにするような前提自体がおかしい><受けを狙っているのではなく国民の生活を守りたいだけです>と猛反論したのだ。
 国民民主が永田町でビミョ~な存在になってきているのは事実だろう。
 確かに、シンプルであるべき税制を複雑化させる自公案は問題だが、そもそもマトモな恒久財源を示さず7兆~8兆円もの減税要求を突き付ける国民民主も無責任。8兆7000億円にまで膨らむ防衛費の削減でも主張したらどうなのか
 玉木氏は高額療養費をめぐっても、Xに排外主義をあおるようなミスリードな投稿をして物議を醸したばかり。玉木大好きの榛葉幹事長も「(自公国協議を)骨抜きにして邪魔したのは維新にも責任がある」とイチャモンをつけ、維新の吉村代表から「交渉が思い通りにいかないことを他党のせいにするのはやめた方がいい」とやり返されるなど、どうにも国民民主は迷走している。
 
ジャーナリストやメディアに文句ばかり
 政治評論家の野上忠興氏が言う。
「ジャーナリストから何を言われようと、ドーンと構えていればいいのに、いちいち反論するのは焦りの裏返しであり、器が小さい。やはり玉木さんは、女性スキャンダルで役職停止となり、表舞台で動けないことが致命的。党の支持率も野党でトップとはいえ、横ばいで陰りが見える。最新の日経新聞調査(21~23日実施)では前月比1ポイント減でした。ここまでカッコつけてきたから、思うようにいかずイライラしているのでしょう」
 玉木氏の最近のXの投稿では、日刊ゲンダイが今月18日にデジタルサイトにアップした「国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に『満額回答』で大ピンチ」という記事にも、<大ピンチなのは、国民民主党ではなく、国民の生活です>と“苦言”を呈していた。朝日新聞が記事とともに掲載した自身の写真にも不満タラタラだった。
 なんだかメディアに文句ばかりの石丸伸二・前安芸高田市長を彷彿させる……。玉木さん、ついにご乱心?

27- 侵攻3年-戦争を検証せず「侵略したロシアが悪い」のワンフレーズを刷り込むマスコミ(世に倦む日々)

「世に倦む日々」氏が掲題の記事を出しました。
 マスコミがロシアの「ウクライナ侵攻」と称しているウクライナ戦争の直接的な根源は2014年の「マイダン革命」にあり、その起源は2004年のオレンジ革命(CIAがウクライナで起こしたカラー革命工作)に遡ることができます。それはこれまで植草一秀氏や櫻井ジャーナルらが繰り返し述べてきたところです(植草氏はさらに1990年2月の東西ドイツ統一に関する米ソ協議に遡る必要があると述べています)。

 いずれにしても日本(や西側諸国)のメディアが、ウクライナ戦争について、「侵略したロシアが悪い」のワンフレーズで報道しているのは間違っています。歴史的事象を評価する際に、「その前段階を全て捨象する」手法が成り立って良い筈がありません。
 ウクライナ戦争が勃発した当初ウクライナの前史に明るい識者たちは「一番悪いのは米国」で一致していました。その国の大統領が目下そうした前史とは無関係に振る舞っていることにも問題はありますが、そこに拘っていては和平への動きが取れないのでトランプならではの強引さで進めるしかないのでしょう。
 ゼレンスキーにすれば「意外」な展開でしょうが、彼にも責任はあるし、海外からの支援金から多額を着服した噂は開戦の年から流れていました。

 虚像の英雄「ゼレンスキー」を持ち上げて、ウクライナ人民の多数を死なせ、今も国民に塗炭の苦しみを強いている「勢力」にも反省が必要です。
 5200字余りの長文ですが、「世に倦む日々」氏はさらに続編を準備中ということです。

 併せて植草一秀氏の記事「ロ=悪・ウ=善 図式 は完全な誤り」を紹介します。
 その説くところは共通していますが、「ウクライナ戦争」前段の歴史的事実をより詳しく論じており、「ウクライナ戦争」を考える上での新たな視野が提供されています。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
侵攻3年 - 戦争を検証せず「侵略したロシアが悪い」のワンフレーズを刷り込むマスコミ
                        世に倦む日日 2025年2月25日
侵攻3年。トランプ新政権が大統領選の公約に従って和平プロセスを打ち出し、この戦争をめぐる景観はガラッと一変した2/12 のトランプとプーチンの電話会談後に米露が急接近、2/18 にリヤドで4時間半かけて米露高官協議が行われ、①停戦、②ウクライナの大統領選、③最終合意の3段階で和平プロセスを進める合意が報道され、米露首脳会談に向けて調整が進められている旨が伝えられた。米露外相が対面で会談するのは侵攻後初であり、双方の在外公館の業務正常化が協議され、米露の外交関係の回復が確認された。2/21 の英紙記事では、侵攻3年に合わせたG7首脳声明で、トランプ米政権が「ロシアによる侵略」の表現を盛り込むことに反対していると報じられた。アメリカがウクライナ戦争に関する方針を180度転換し、中国以上にロシアとの協調姿勢を鮮明にする姿となり、ウクライナとEUが取り残される局面となった

ウクライナ戦争をめぐる国際情勢は劇的に変化し、トランプ米政権がそれを主導している。そのアメリカ政府の方針転換に対して、日本を含めた西側マスコミは猛然と反発し、トランプ批判の論陣を張り、「侵略したロシアが悪い」のワンフレーズの刷り込みを繰り返している。西側マスコミが依然として従来路線のままCIA工作機関の役割と任務を果たしていて、これは、トランプ新政権が未だCIA全体を掌握しきれていない証左であり、CIAとトランプが鎬を削り合っている権力闘争の反映と言えるだろう。また、CIAがホワイトハウスから独立した(アメリカ帝国主義の)超然たる国家権力だという真実もよく納得できる。それにしても、正直なところ、これほど極端に景色が変わるとは想像していなかった。トランプは大統領就任後半年以内に停戦を実現させると語っていて、復活祭の 4/20 までに停戦合意を成就させる予定でいる

この2週間ほどの動きで明確になったのは、ゼレンスキーの失脚であり、停戦が発効した5月以降、ゼレンスキーの居場所はないという事実だ。ゼレンスキーは和平プロセスの第1段階で消える。第2段階で新しい大統領が選出され、ロシアに親和的な新大統領が第3段階の最終協定に署名する。第1段階の停戦合意の条件は、東部南部4州の放棄とNATO加盟断念であり、ロシア側の要求に沿った内容だ。無論、これはゼレンスキーもEUも承諾できないものだが、トランプには呑ませる自信があるのだろう。トランプの自信の根拠は、おそらくゼレンスキー(と政権及び軍幹部)の汚職の情報把握であり、アメリカや西側諸国から渡った膨大な支援マネーが一体どこに回ったか暴露してやるぞという脅しをかけているものと想像される。トランプがゼレンスキーに寸毫のリスペクトもなく、ゼレンスキーがトランプに何も反論できないのはこの由縁だろう

22年2月の侵攻から9か月後の22年11月、『ウクライナ戦争の結末を大胆予想 - アメリカが手を引いて終わり』という記事を上げた。結局、その予想どおりの展開となった。ベトナム戦争にせよ、イラク戦争にせよ、アフガン戦争にせよ、大きな戦争は常にアメリカが始め、途中で思惑どおりに行かなくなって挫折し、アメリカが撤退して終わるパターンが経験法則だった。その現代史をずっと目撃してきたから、この予測には確信があった。侵攻から9か月の時点で、すでに Ukraine fatigue ⇒ウクライナ疲れは深刻になっていて、欧州だけでなくアメリカ国内でも、インフレ物価高が庶民生活を直撃する中、バイデン政権による無尽蔵なウクライナ支援投入に反対する世論が高まっていた。そこから2年経ち、24年の米大統領選でウクライナ問題は重要な争点となり、支援継続中止と停戦を公約にしたトランプが勝利して今回の進行に至る。「アメリカが手を引いて終わり」が現実となった

侵攻から1年半が経った23年8月、『見えてきたウクライナ軍の敗北 - 反転攻勢の挫折とフェイドアウトに動くアメリカ』という記事を上げた。今から1年半前で、ちょうど3年間の中間点だが、この頃にはもうウクライナ(NATO)が軍事的に勝利するという想定や展望は西側から消えていて、和平をどう進めて決着させるかに関心が移っている。トランプの和平案や米露協調外交への突然の転換は、そこだけ照準を合わせれば意外で衝撃的だが、3年間の経過を追跡すれば、必然の流れでしかなく、軍事的に敗北したNATOとウクライナが停戦和平で不利な条件を強いられるのは不可避と言える。要するに、NATOの主力であるアメリカが日和ったのであり、戦争遂行・ウクライナ支援から継戦断念・対ロシア協調に路線を旋回させた。外交革命と呼べる転機が眼の前に出現している。アメリカが軍事支援を止めれば、それを肩代わりできる存在はなく、誰も責任を引き受けられない

マスコミは今、「侵略したのはロシア」「悪いのはロシア」とヒステリックに絶叫し、3年間続けて来たロシア叩きのプロパガンダの音量を再び上げ、刷り込み報道に躍起になっている。ロシア憎悪の世論を再燃させ、トランプ主導の和平プロセスを潰すべく反撃に出て、西側の世論の扇動に注力している。3年間、ゼレンスキーを正当化し擁護し神聖化し、NATOの広報官として洗脳任務に徹し、「ロシアの敗北と権威主義陣営の崩壊」を折伏し続けてきた自分たちの立場とイデオロギーを守るためだ。マスコミは、22年2月にロシアが軍事侵攻したという一点のみ捉え、ロシアを侵略者として規定し、悪魔化した表象を固定づけたまま動かさない。ウクライナを正義として美化し絶対視した認識と態度のまま、問題を複眼的・多面的に考察しようとしない。ロシア側の論理を検討せず、戦争を客観的に検証しようとしない

マスコミに反論しよう。そもそも、戦争は22年2月に始まったものではなく、2014年の「マイダン革命」なるCIAが後押ししたカラー革命を契機にして内戦と紛争が始まっている。さらに言えば、CIAのウクライナでの佞悪なカラー革命工作は、2004年のオレンジ革命にまで起源を遡ることができる。そして背景には、ロシア(ゴルバチョフ)を騙し裏切って強引に推し進めた、NATOの一方的な東漸拡大の事実がある。幾度も指摘したが、このNATOの東漸拡大が開始されたとき、老ジョージ・ケナンは渾身の反対意見をニューヨークタイムズに寄稿し、「戦争になるぞ」と警告を発して政府の安保外交当局(自分の弟子たち)を批判した。1997年、ケナン93歳。ソ連封じ込めの冷戦戦略の設計主任として名高い保守派の元外交官。アメリカの戦後の国際政治学の権威中の権威。今回の戦争は、まさにケナンの予言が的中した事態そのものであり、ケナンの慧眼に刮目させられる

侵攻から3年、ケナンの予言と警告が日本のマスコミで紹介されたことは一度もない。生前のキッシンジャーが、ウクライナ戦争へのアメリカのコミットに慎重な姿勢を示し続け、ロシアに対して中立的で宥和的だったのは、キッシンジャーがケナンの弟子だったからだ。キッシンジャー以上にケナンの忠実な弟子だったのが日本の岡本行夫で、開戦前にコロナで死去していたが、2014年の紛争以来、ずっとロシアに同情的でNATOに批判的な論評をサンデーモーニングで発し続けていた。番組のスタジオの黒板に東欧の地図を描き、バルト3国にNATOの基地が配備されるなどとんでもない、ロシアの安全保障の臨界点を破る許されない暴挙だと力説、ロシア叩きが主流の当時の保守論壇からは異色の論説を発信していて注目された。岡本行夫が生きていれば、おそらくキッシンジャーと同じ態度でこの問題に臨み、右も左も「防露膺懲」⇒ロシア懲らしめ一色に染まった日本の空気を鎮静化する役割を果たしただろう

日本のマスコミは、ミンスク合意についても触れない。今回のトランプの和平プロセスは、22年の侵攻からの戦争を停戦させる動きだが、22年のロシアの侵攻は14年の紛争内戦からの延長であり、その決壊と爆発だった点は言うまでもない。14年からの紛争内戦を停戦させる交渉と協定こそ、ミンスク合意と呼ばれる和平プロセスで、14年9月に第1次、15年2月に第2次の合意文書が調印されている。ミンスク合意の立役者はEU全体の指導者でもあったドイツ首相のメルケルで、関係首脳が徹夜する協議を指揮して苦心の合意を纏めた経緯があった。ミンスク合意の肝は、東部2州にロシア系住民の自治権を認める恒久法を制定することで、ドンバス2州をクリミア州と同じく自治共和国とする憲法改正を実施することだった。だが、15年に協定が成立したにもかかわらず、ウクライナは協定を遵守せず、東部ではロシア系勢力への攻撃や住民の被害が続き、業を煮やしたプーチンが21年から履行を求めて軍事圧力に出る

ウクライナ国境へのロシア軍集結と包囲威嚇は1年近く続き、衝突回避をめぐってバイデン政権とプーチン政権の間で交渉があったが、決裂して22年2月に侵攻という最悪の事態となった。21年12月から22年2月の経過を振り返ると、バイデン政権によるプーチンへの挑発が露骨で、CIAの衛星写真を公開しつつ、早く侵攻しろとプーチンを嗾けていた印象が強い。ミンスク合意をゼレンスキー政権に守らせようという態度はなく、ロシアとの間で妥協して欧州の平和安定を確保しようという意思は全くなかった。この間、米英はすでにウクライナ国内で活発に情報機関の活動を進め、武器を供与し、軍を指導育成し、作戦を立案し、侵攻してきたロシア軍を撃退する準備を整えていた。バイデン政権において、ロシア軍侵攻はウェルカムであり、NATOが全面支援する通常兵器の戦争で確実に勝てるという計算だったのだろう。この機にプーチン体制を潰し、NATOの積年の悲願であるロシア連邦解体まで実現させようと目論んだのに違いない

開戦してすぐの段階で、トルコが仲介に入って停戦交渉の動きがあった。このときテーブルに上がった和平の条件も、ウクライナのNATO非加盟や非ナチス化があり、東部2州の地位の問題も含まれていた。今回のトランプ和平と中身はほとんど同じだ。米英の干渉と妨害によってこの和平プロセスは潰される結果となったが、もしゼレンスキーがこの協議に応じて停戦を決断していれば、双方で14万人を超える戦死者はなく、民間人の犠牲もはるかに少なくて済んだ。米英の尻馬に乗って戦争を継続させたゼレンスキーの責任は重い。私はずっと早期停戦を訴え続け、軍事戦ではなく外交戦の方が(クリミアも含めて)ウクライナが領土回復できる可能性が大きいのだと言い続けた。国際社会が必ず結束してウクライナを応援するから、外交戦での領土回復を選ぶべきだと言った。3年経って、戦争を無理に継続させたがために、国際社会(グローバルサウス)のウクライナへの関心と同情は薄れ、ウクライナは外交で領土を回復させる目標達成が難しくなっている

日本国内も、バイデン政権とNATO・EUに足並みを揃えて、右から左まで主戦論一色で燃え上がり、トルコ仲介の和平協議で停戦せよと言う者は(マスコミでは)誰もいなかった。停戦するなと咆哮し、あくまで戦闘でロシア軍を叩きのめしてウクライナ領から追い出せと怒号し、軍事でロシアを屈服させよという声ばかりが横溢した。そこは国際法上はウクライナ領ではあるけれど、ロシア語を話すロシア系住民が多く住み、マイダン革命以来凄惨な迫害を受け、CIAが後押しするネオナチ民兵によって民族浄化の暴力を受け続けてきた土地である。けれども、そのことをマスコミ論者は説明せず、その認識は広がらなかった。比喩を使って結論を言えば、この戦争は、微分的にはロシアがウクライナを侵略した戦争だが、積分的にはNATOがロシアを侵略した戦争であり、数次にわたるカラー革命を導火線として大戦争に発展したケースである。すなわち、ロシアにとっては防衛戦争だった

ロシアのNATO(アメリカ)に対する防衛戦争であり、そして、3年の激戦と死闘の末に、遂にアメリカが撤退を決めて白旗を上げ、ロシアの要求を丸呑みして停戦協議に入った図に他ならない。今後の行方は未だ不明だけれど、現時点の情勢からはそう総括できる。要するに、これまでのアメリカの戦争の負けパターンと同じで、国内で厭戦論が高まり、その民意が選挙に影響し、途中で戦線離脱して逃亡を決め込む幕となった。ベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争と同じ負け戦の図式だ。アメリカ(NATO)はなぜロシアに負けたのか、あれほどロシアを国際的に孤立させることに成功し、経済制裁で完璧に干し上げ、スターリンク等の軍事力(先端技術と兵器物量)で圧倒的に優位だったのに、なぜNATO(アメリカ)はこの戦争でロシアに勝てなかったのか、次回の稿で論じたい



ロ=悪・ウ=善 図式 は完全な誤り
               植草一秀の「知られざる真実」 2025年2月21日
トランプ大統領がウクライナ停戦実現に向けてロシアとの協議を加速させていることに対して一部メディアがトランプ批判を展開している。一部メディアとは欧米主要メディアのこと。
実は、偏向しているのは、この欧米主要メディアである。
欧米主要メディアはグローバル巨大資本の支配下にある。
グローバル巨大資本が2022年2月24日のウクライナ戦乱拡大時点から一貫して偏向した情報を流布し続けてきた。端的に表現すれば 〈ロシア=悪・ウクライナ=善〉 という図式での主張流布である。

私はウクライナ戦乱拡大の時点から、この主張が適正でないことを述べてきた。
戦乱発生直後に上梓した『日本経済の黒い霧』(ビジネス社)https://x.gd/7wOAm 
において、基本的見解を示した。この時点の基本判断は現在も変わらない。
その後、『千載一遇の金融大波乱』(ビジネス社)https://x.gd/LdW4a にも基本的な論点を記述した。
紛争解決に武力行使を用いた点でロシアが批判される側面はある。しかし、ウクライナに一切の責任がないなかでロシアが領土的野心で軍事侵攻したとの見立ては間違っている。ロシアの行動を〈小悪〉と表現するなら、米国とウクライナの行動は〈大悪〉と表現できる

問題を正しく理解するには2004年に遡る必要がある。さらに1990年2月の東西ドイツ統一に関する米ソ協議に遡る必要がある。
東西ドイツ統一に際してソ連のゴルバチョフ大統領はNATOの東方拡大に警戒感を示した。
これに対して米国のベーカー国務長官がNATOは1インチも東方拡大しないことを確約した。
冷戦終焉に伴い、東側の軍事同盟であるワルシャワ条約機構は解体された。
NATOも当然解体されるとの前提に基づく行動だった。しかし、NATOは解体されなかった。解体されないどころか東方拡大が実行された

ソ連との約束を一方的に反故にしたのは米国である。NATOは遂にロシアに接する地域にまで東方拡大する様相を呈した。
ロシアとNATOを隔てる最後の緩衝地帯=バッファーゾーンがベラルーシとウクライナ。
ウクライナのNATO加盟はNATOによるロシア軍事攻撃の前提条件と映る。

1962年、ソ連がキューバにミサイル基地を建造する動きが発覚。米国はソ連との核戦争をも辞さない対応を示した。
ソ連によるキューバへのミサイル配備とウクライナのNATO加盟は同等の意味を有する。一国の安全保障体制を確立する際に他国の安全保障を脅かしてはならない。
これが「安全保障の不可分性の原理」である。国際社会で確立されている原理だ。
ウクライナのNATO加盟は「安全保障の不可分性の原理」に反する。

1962年に米国が示した反応を踏まえれば、ロシアがウクライナのNATO加盟に激しい反応を示すのは当然のこと。米国はこのことを誰よりもよく理解している
ソ連が崩壊してウクライナが独立を果たしたのは1991年8月。
ウクライナは独立して33年しか経過していない歴史の浅い国。
当初、親ロ政権が樹立されたが、その後、2004年と2014年の2度にわたり米国が工作して親ロ政権を打倒して親米政権が樹立された

2014年の政権転覆は暴力革命による非合法政府樹立だった。
2014年に樹立された非合法政府は東部ロシア系住民地域に対する大弾圧を実施。
その結果、ウクライナ東部で内戦が勃発した。その内戦を終結させるために2015年にミンスク合意が制定された。
ウクライナ政府がミンスク合意を誠実に履行していれば22年の戦乱拡大は発生していない。
22年の戦乱拡大の責を負うのはロシアではなく米国とウクライナである。
歴史的経緯を正確に押さえることなくしてウクライナ問題の適正な理解は得られない。

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