2025年2月24日月曜日

労基研「報告書」の問題点 全労連 土井直樹 厚生労働局長に聞く(上・下)

 21、22日付のしんぶん赤旗に掲題の記事が載りました。
 政府・財界は労働者の権利を守るための「労働基準法」の改悪には流石に手を出せないでいますが、ただ手を拱いているのではなく、それに代わる策によって労基法を実質的に骨抜きにすることを考えています。
 昨年1月に発足した厚労省の「労働基準関係法制研究会」(労基研)は「労基法の40年ぶりの改定」とマスコミにも注目されました。1月8日、労基研がまとめの「報告書」を公表しましたが、それはこれまでの2回に渡る労働組合からの要求の大半を無視した内容でまとめられました。それには長時間労働根絶など規制強化に向けた具体的内容はほとんどなく、副業・兼業の通算労働時間の割増賃金廃止などの改悪を提言しています。
 報告書の最大の狙いは、労基法労働時間や有給休暇の取得など働く上での最低基準を定めている機能を形骸化させ、「法定の最低基準を下回る働かせ方について労使合意を優先する」原則に置き換えようとするもので、財界の要求通りに企業ごとの労使協議だけで最低基準以下で働かせることを可能にする大変危険な内容です。
 しんぶん赤旗が全労連の土井直樹・厚生労働局長に問題点を関きました
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労基研「報告書」の問題点 全労連 土井直樹 厚生労働局長に聞く 
  労働者保護の歯止め外す
                       しんぶん赤旗 2025年2月21日
 労働基準法の適用除外の容易化に向けて議論していた厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」(労基研)がまとめの「報告書」を公表(1月8日)しました。全労連の土井直樹・厚生労働局長に問題点を関きました。             宝田文子)

 労基研は昨年1月に発足しました。「労基法の40年ぶりの改定」とマスコミにも注目され、私たちは職場の実態と労働者の要求を知らせるために二つの意見書を提出してきました。
 しかし労基研の最終報告書は労働組合の要求の大半を無視した内容でまとめられました。4週4休制の見直しや週44時間特例の撤廃、有給休暇の賃金算定改善など部分的な改善事項はありますが、長時間労働根絶など規制強化に向けた具体的内容はほとんどなく、副業・兼業の通算労働時間の割増賃金廃止などの改悪を提言しています。

労基法を解体
 そうした個別の論点以上に問題なのは、法規制の適用除外(デロゲーション)を「法定基準の調整・代替」と言い換えてごまかし、適用除外はすべて企業内の労使に任せるべきだという認めがたい方向性を示唆しているところです。私たちは労基法の解体だと指摘しています。
 労基法とは労働時間や有給休暇の取得など働く上での最低基準を定めた法律です。使用者に対して立場の弱い労働者を守るために原則として最低労働基準を労使に守らせる重要な機能があります。
 報告書の最大の狙いは、この機能を形骸化させ、「法定の最低基準を下回る働かせ方について労使合意を優先する」原則に置き換えようとしています。
 これは財界の要求通りに企業ごとの労使協議だけで最低基準以下で働かせることを可能にする大変危険な内容です。
 労基法は労働時間規制を外す裁量労働制の導入など財界の求めに応じて何度も規制緩和されてきました。一方で対象業務を限定するなど一定の歯止めもかけています。
 報告書は、この歯止めだけでなく規制緩和制度そのものも「複雑」とし、制度を「シンプル」にすると主張しています。さらに「多様な働き方を支える」ために企業ごとに「法定基準の調整・代替」を可能にする仕組みが必要で、こうした仕組みを機能させる「労使コミュニケーション」の基盤強化を要求しています。
「シンプル」と言えば聞こえは良いのですが、要は最低規制を簡素な形だけの飾りにして、 〝細かい部分は各企業の労使自治に委ねろ″という暴論です。そのために労使コミュニケーションの基盤強化を利用しています。

労使の自治
 労使コミュニケーションは団体交渉ではありません。合意とも限らず労働者側の意昇を聞くだけかもしれません。経団連は、労働者の合意を取ることが煩わしいので労使合意と言わずに「労使コミュニケーション」という概念を持ち出しています。
 報告書では、このように労基法を形骸化する仕組みづくりは「長期的課題」として直ちに実現する法制度の全面見直しには踏み込んでいません。しかし、デロゲーションのポイントとなる過半数代表制の基盤強化を図りつつ、労働者の合意要件をなくす準備や規制単位の緩和などが仕掛けられています。経団連が求める「労使自治を軸とした労働法制」の実現に向けた地ならしといえます。
 企業ごとの労使自治で最低基準以下の労働条件を決められることが原則に成り代われば、規制緩和のための法改定の必要がなくなり財界にとってはおいしい話です。一方、労働者にとっては労基法に守られることなく使用者が決めた低賃金・長時間労働を強いられていた時代に逆戻りし、ますます過労死や精神疾患が増える恐れがあります。      (つづく)


労基研「報告書」の問題点 全労連 土井直樹 厚生労働局長に聞く 下
  過労死ライン容認の異常
                       しんぶん赤旗 2025年2月22日
 報告書は労使コミュニケーションの目指すべき姿として「労働者の全体を適切に代表する組織」や「労使委員会」のような在り方も視野に検討を進めながら、まずは過半数代表者の「基盤強化」を実施するとしています。
 過半数代表者とは労働祖合のない職場で、時間外労働などに関する労使協定を締結する労働者側の代表です。

不適正な選出も
 労働組合の織率は16%と低く、圧倒的な数の職場で労使協定を担うのが過半数代表者です。しかし、会社が意図的に管理職を選ぶなど不適正な選出が問題になっています。
 不適正な選出の改善は必要すが、過半数代表者は労働組合ではないのでストライキをすることもできず企業側と対等な交渉ができません。企業側の提案を断ることが難しい。形だけの「基盤強化」を建前に、企業の好きなようにデロゲンョン(法規制の適用除外)を進めようという本音が透けて見えます。
 報告書は労働組合にも触れていますが、組織率向上や使用の不当労働行為の罰則強化など労組の保護や尊重に資する施策への議論はなく、むしろ弱体化を狙っています。
 現在、労使協定は事業場ごとに結ぶことが原則ですが、報告書は本社一括で結ぶことも可能と提起しました。労働組合は工場などの事業場に過半数を代表する組織があっても、残念ながら会社全体ではなかなか過半数を代表する組織をつくれていません。本社一括になれば会社側の意図をくむ労働者と本社で労使協定を結んでしまえば、事業場の労働組合の声を問かずに済みます。そうやって影響力を低下させようとしています。
 本社一括になれば労働基準監督署の人員も少なくて済みます。労組が邪魔な財界と公務員を減らしたい政府の利害が一致した改悪の構想です。
 
労働者保護に背
 他にも問題点があります。労働者性の問題では、私たちは経済的従属性が高いフリランスは労働者保護法制を拡張適用して保護を図る必要があると考えますが、報告書は「引き続き専門的な研究の場を設けて総合的な検討を行う」と背を向けています
 残業規制については、「働き方改革」関連法施行から5年が経過し、最大月100時間未満を認める上限の見直しが法律で決まっていましたが、引き下げに向けた議論が全く行われていないことが分かりました。報告書は、過労死の高止まりや精神疾患の増加などの深刻な実態には触れず、「社会的合意がない」として過労死ラインの上限を維持する異常な姿勢を示してい
ます。
 テレワークには、「みなし労働時間制」を導入することが提起されていますが、使用者の実労働時間の管理義務がなくなり長時間労働が今より増えるため断固反対です。
 長時間労働を抑止し、使用者へのペナルテーとなる割増賃金の廃止にも私たちは反対していますが報告書は兼業・副業の割増賃金を廃止する方向で「労働時間負担」など使用者の言い分だけで、強引に進めようとしています。
 勤務間インターバル制度については、11時間に科学的根拠があるとした委員の意見を記載せず、11時間よりも短い時間を容認する意見など制度を緩和する主張を多く記載し、11時間より短くすることを正当化する不当な内容になっています。勤務間インターバル制度は労働者の健康と命を守るための措置であり、11時間より短い時間は考えられません。規制を弱めるのではなく、すぐに罰則規定のある義務として11時間の勤務間インターバル制度を法制化すべきです。
 今後の動きは、労働政策審議会での議論が始まるものと、引き続き専門的な研究会で議論されるものに分かれます。どちらにしても労働者の実態を正しく把握しないまま財界の思惑通りに議論することは許されません
 労基法解体の動きに全力で反対し、労働者を守る観点での議論を求め、1日7時間労働制の実現へ闘いを広げていく決意です。   (おわり)