「世に倦む日日」氏が掲題の記事を出しました。
記事はまず、トランプ旋風に対する政府の緊急総合対応には、通例であれば秋の「補正予算」に官僚たちが毎回虎視眈々と狙っている、自分たちの天下り先への投資が前倒しされている観がすると述べます。
そして野党側が国民救済のための政策を出すと政府やマスコミは必ず「その財源は何処から出るのか」と批判するのに、米国から超高額の兵器を買う段になるとその財源の有無は「決して問題視しない」というダブルスタンダードで米国絶対主義を貫いていると指摘します。
さらに米国への2012年~2022年の11年間における(日本企業による)投資額増加グラフを示し、(目分量で)2800億ドルから7000億ドル(約105兆円)に激増していると指摘します。
この増加は企業の内部留保の増加具合を思わせるもので、植草一秀氏が別掲の記事で指摘している処によれば、2023年度までに消費税で509兆円が徴収され、同じ期間に所得税・住民税負担は286円、法人の税負担は319兆円それぞれ減額されました。要するに国民から収奪された財産がそっくり企業の内部留保となり、その多くが、国内ではなく米国に投資されたというわけなので、日本の産業が近代化せず、活性化しないのは無理からぬことです。
同じことは新NISAについても言えることで、それを通じて個人資金が米国の資本市場に怒涛のように流出していることで、国内の金融機関(銀行・信金)の個人預金残高の伸び率が下がり、24年9月には初めて前年同月を割り込みました。
この先、人口減と高齢化で地方経済が衰退する中、メガバンクやネット銀行との熾烈な競争にさらされて経営体力が弱まる一方の地銀・信金にとって、個人預金の流出と残高減は頭の痛い問題だろうと「世に倦む日々」氏は述べます。
この先日本の中小企業にとって金融事情はより一層厳しくなります。
小泉・竹中政権の「新自由主義路線」を経て、安倍政権の「アベノミクス」以降、「米国至上主義」の下日本は衰亡の一途を辿ってきました。いまや米国の「単独覇権」は維持できないことは明白なので、日本も何時までも「米国追随」でなく、「グローバルな視点」に立つべきです。
追記 NHKによると農林中央金庫(農中)は市場での運用失敗で25年度に1兆5000億円規模の赤字を計上する可能性があると発表しました。ダイヤモンドオンラインは農林中央金庫が24年度に1兆9000億円の赤字を出すと伝えています。一方農協は備蓄米放出の100%近くを買い取っているということです。農協はその利幅で赤字を埋めようとしているので米価が下がらないといわれています。本当なら許されないことです。
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アメリカに貢ぎ、アメリカを支え、アメリカを繁栄させるため - 税金も、民間投資も、家計資産も
世に倦む日日 2025年4月30日
トランプ関税をめぐる右往左往が続いている。GW前の先週(4/25)、政府の綜合対策本部の会議が開催され、ガソリン料金定額引き下げを含む五本柱の緊急対応パッケージが決定された。五本柱で構成という中身を見ると、いかにも官僚が並べたいつもの標語の項目列であり、秋の臨時国会で毎度出て来る補正予算の口上に挙げる平板な題目の感が漂う。省庁の官僚たちが、待ってましたとばかり、本年度予算に盛り込めなかった(虎視眈々と狙っていた)経費分をここに入れ込もうと細工している印象を受ける。農業と農産品について柱が立ってないが、トランプから要求されるに違いない大豆やトウモロコシの購入分は勘定に入っているのだろうか。いずれにせよ、このパッケージで補正予算が組まれるのは間違いなく、参院選対策という時期や名目もあり、マスコミで発表して宣伝効果が上がりそうな規模にするのだろう。
石破茂は 4/15 の時点で今国会への補正予算案の提出を見送っている。会期末が 6/22 で、参院選の日程が 7/20。見送ったのは、トランプ関税対策の作業があったからと、3-5万円の給付金がマスコミに叩かれ、これで審議すると参院選にマイナス影響になるからが理由だが、どこかの時点で提出しないといけない。アメリカとの交渉はいつどう纏まるか不透明で、トランプの気まぐれに左右される。一方、自民党の議員たちは参院選で票を得るために必死になっている。本来、霞が関の官僚たちは、この時期は骨太の方針の立案に注力する季節で、骨太は来年度予算に直接繋がる計画作業であり、そこに神経集中させるのが通常だが、トランプ関税のせいで今はそれどころではないスクランブル(⇒混乱)の状態だろう。また、参院選の結果次第では政権の枠組みが変動し、8月末の来年度予算概算要求の前提も大きく変わる可能性が生じる。参院選で自民党が負けると、今後6年間、従来の政策の延長は展望が難しくなる。
半月ほど前、4/17 放送の報道1930に出演した田中均が、トランプ関税についての日本の対策でこう提言していた。
要するにね、トランプ流交渉というのは、いかに日本にものを買わすかということなんだと思うし、私も、日本にとって必要なものは買えばいいと思うんですよ。(略)日本がGDP比2%の(防衛費の)枠内で何にお金が使えるかというと、アメリカから装備品を買うしかないわけですよね。だから、F-35を100機(105機)買った。他にこれからミサイルを買うとかいろんな話が出て来るわけでね。僕が申し上げているのは、アメリカが要求しているから買うということではなくて、日本として必要なものは一つの政治的パッケージとして買ってもいいじゃないかということです。
日米関係や日中関係のコメントでは、相対的にリベラルで良識派の立ち位置の田中均の発言だから、つい監視が甘くなって聞き流してしまいそうになる。だが、財政面の根拠という角度から鑑みたとき、ずいぶん無神経で粗雑で放漫な態度の議論とは言えないか。
田中均と同じ主張をしている者は多い。聞きながら思うのは、アメリカの要求に従って日本がアメリカに出費する場合については、誰も財源の留意をしないという問題だ。給付金や消費減税はおろか、高額療養費の負担上限についてさえ、マスコミ報道の論者たちは、口を開けば「財源、財源」と口を尖らせる。「将来世代の負担はどうするのか」と恫喝して封殺する。介護士や保育士の処遇改善の話が出る度に、また医薬品の安定供給が言われる度に、松原耕二が口を割り込んで人差し指を立て、「借金をこれ以上増やすんですか」と詰め寄り、議論を白紙に戻してしまう。消費増税を国民が呑まないかぎり、1円たりとも社会保障を改善させたり充実させたりする政策の採用は許さないという剣幕で、番組の議論を締める。政治家に対して「国民の耳に痛いことを言え」と迫り、穴が空きまくって崩壊しかけている社会保障の予算手当てを阻んでくる。
F-35を105機購入した費用は2.5兆円。2.5兆円は、日本の税収の3.5%の割合になる。この武器購入の支出について、松原耕二などマスコミは「安倍さんの爆買い」という表現で面白可笑しく演出し、フリップに金額を書き込まない。そして、財源(将来の借金)の話は一切しない。現在、日本の防衛費は9.9兆円でGDP比1.8%になっている。ずっと5兆円規模を維持していたので、一気に2倍に膨れ上がった。国民所得は増えておらず、経済成長もしていないのに、5兆円の防衛費を10兆円にし、2年後には12兆円にする計画で動いている。これを財源措置する防衛増税は、小手先のものは別にして実施されておらず、基本的に赤字国債で調達される。松原耕二たちは、社会保障の論議となると、目の色を変えて「財源、財源」と咆哮するが、武器購入や防衛費となると財源論はオミットする。財源論で予防線を張る姿勢がなく、赤字国債前提で素通りだ。
松原耕二たちにとって、軍事費は聖域であり、アメリカの要求に応じて日本が無駄な金を払うことは、理由や意味を問うべきでない当然の掟であるらしい。実は、この問題は国の予算だけではない。誰も指摘しないポイントだが、日本からのアメリカへの投資の問題がある。トランプ関税の禍が始まって以降、ずっと、日本からの対米投資は世界一とか、日本はこんなにアメリカに投資して経済貢献しているという議論がマスコミで発信され、石破茂らが繰り返し内外に強調している。昨年末には、孫正義がトランプの大統領就任を祝賀して15兆円の投資を約束し、さらに年初には、他2社と共に78兆円のAI開発事業を行うとホワイトハウスの会見で発表する幕もあった。JETROの統計グラフを確認しても、日本企業の対米投資は右肩上がりで上昇して10年間で2倍以上の規模になっている。JETROが詳細を紹介しているが、医薬品やEV、半導体、食品など製造業向けが多い。
企業買収や工場建設や拠点展開など、実に旺盛活発な勢いで投資してきた実績と現状が理解できる。あらためて要注目なのは、このグラフの右肩上がりのカーブである。日本経済の一部が逞しく高度成長している。この右肩上がりの姿は、日本企業の経常利益と内部留保の推移でも同型であり、現在の日本経済の華やかな一面の真実なのだ。日本経済は、衰退し劣化し凋落し、成長不能のED体質に疾患し萎靡しながら、他面で、猛々しく右肩上がりの絶倫運動を続けている。無論、経常利益が勢いよく増えているから、それを対米投資に回せるのである。が、ここで立ち止まって考える必要がある。麻生太郎が財務大臣のとき、アベノミクスの初めの頃だが、財務官僚を代弁して企業に言っていたのは、もっと企業は(国内に)投資しろという説教と催促だった。内部留保にばかり回すな、少しは国内に設備投資しろと注文を付けていた。つまり、日本企業は儲けた金を国内投資に回してないのだ。
本来なら、国内経済を活発にさせるはずの企業資金が、アメリカに投資され、アメリカ経済の成長と繁栄のために使われている。日本経済を豊かにするための投資に活用されてない。日本国民の立場から聞けば、アメリカへの投資をもっと増やせという言葉は、日本国内への投資をさらに減らせという意味に他ならない。言うまでもなく、GDPは、個人消費+民間設備投資+公共投資+輸出の総計である。民間設備投資はGDPの重要な構成要素であり、これを拡大しなければ経済は成長せず、個人消費も増えない。日本は民間設備投資が滞っているから、設備が古いままで技術革新が進まず、だから生産性も低いのだと、新自由主義者のJ.クラフトでさえ指摘している。にもかかわらず、政府も企業も「アメリカへの投資を増やせ」が最優先であり、企業買収と工場建設を促し、アメリカへの貢献に血道を上げる。国内投資は二の次なのだ。アメリカへの投資が増えれば相対的に国内への投資は減る。
これは基本的な認識だが、マスコミが意図的に隠しているため盲点になっている。そのため、アメリカへの投資拡大は善いことだ、進めるべき政策だ、日本を幸福に導く方向性だと国民は素朴に信じ込んでいる。大事な日本の資金を、日本を潤わせるためでなくアメリカを繁盛させるために使うことを、国民が(観念倒錯して)歓迎するよう仕向けている。アメリカへの投資にばかりウエイトを置かせ、日本企業を過剰にその方面にフォーカスさせることは、必要な国内経済への投資を削減させ遅延させることだ。日本経済に水と養分を与えず、干乾びさせることだ。例えば、孫正義がアメリカに投資する15兆円も、元々は日本で携帯電話やネット通信で稼いだ利益であり、日本国民がソフトバンクのサービス事業に支払った料金が原資である。その貴重で膨大な15兆円が、なぜ国民経済のために有益に使われず、アメリカの国益のために使われるのだろうか。なぜ、その批判が公論として上がらないのだろう。
以上、税金(国家予算)と民間設備投資 の二つにおいて、日本の富が一方的にアメリカのために使われ、アメリカ経済に貢献するべく流し込まれている実態を確認した。3つ目に注目すべき経済の現実図は、新NISAを通じた個人資金のアメリカ資本市場への怒涛の流入である。昨年6月の日経記事では、新NISAによって「家計の円売り」が加速し、投資信託運用会社などによる海外投資が1-5月で5.6兆円超の買い越しになったと報告されていた。2024年の累計額は12.7兆円で、2023年の4兆円から3倍増となっている。新NISAの制度的利点や、アメリカ株の相場への期待感や、円安ドル高の為替環境を考えれば、個人が手持ち資金をアメリカ株の投資信託に注ぎ込むのは自然な動機と判断と言える。政府と野党を含め、世間がこぞって「貯蓄から投資へ」とキャンペーンするのだから、それを信用するのは無理もないだろう。だが、これも客観視すれば、日本の国民経済にマイナスの影響を与えている
ニッキンの記事によると、国内の金融機関(銀行・信金)の個人預金残高の伸び率が下がり、2024年9月には初めて前年同月を割り込んだ。信金の残高の伸びがマイナスになった。重要な経済的事件に違いないが、NHKなどマスコミは報じていない。国内の金融機関から個人預金が逃げ出す原因をNISAが作っていて、NISAの「投資」を通じて円資産がドル資産に化けている。人口減と高齢化で地方経済が衰退する中、メガバンクやネット銀行との熾烈な競争にさらされて経営体力が弱まる一方の地銀・信金にとって、個人預金の流出と残高減は頭の痛い問題だろう。本来なら、小規模商工業者やサラリーマンがそこに預金して資産運用し、それが貸出資金となって地域経済を潤し発展するというのがあるべき姿だ。「貯蓄から投資へ」の政策推進により、日本の家計資産はアメリカの金融資本を増殖させ繁栄させる原資となった。若い労働者は、老後資金2000万円のためにNISA(米株投信)に金を入れている。
日本の富が、国の予算も、企業の投資も、個人の貯金も、何もかも構造的・自発的にアメリカに貢がれ、巨大な幾筋ものチャネルから滔々と流れ込んでいる。日本経済を支えたり育てたりする原資にならない。国の予算は緊縮され、企業はコストカットに徹し、個人は日本経済を諦め見捨てている。