「世に倦む日々」氏が掲題の記事を出しました。
記事の趣旨は末尾に記載されている、トランプの登場で当面の「台湾有事(=対中戦争。当初は27年以前とされていた)が回避される方向」で、「CIAが主導してきた戦争計画は中断・頓挫の進行となる。それは、日本の平和を祈念する立場にとっては福音であり、歓迎すべき方向性だ」、「アメリカ(トランプ)が、CPC(⇒中国共産党)とPRC(⇒中華人民共和国)を是認して、共存する意思決定に出た場合、日米同盟による中国との戦争を予定し、そこへ向けて全力疾走してきた日本も、国策を転換しなければいけなくなる」ということに尽きます。
史上空前の戦争国家である米国に唆されて、日本が滅亡しかねない対中戦争の主役に駆り出されるほど悲惨な事態はありません。
それをあたかも日本の軍備拡張推進の好機にしようという、無知で浅薄なというしかないグループは一体何を考えているのでしょうか。
「台湾有事」こそは米CIAの「狂気」であり、それは「ガザ攻撃」に政治生命を賭けているネタニヤフの「狂気」に他なりません。
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戦後80年の憲法記念日 - トランプの登場で台湾有事の既定路線に変化の兆し
世に倦む日々 2025年5月6日
戦後80年、施行78周年の憲法記念日を迎え送った。ほぼ毎年、この時期に憲法の記事を書いている。同時に、この機会に過去にブログに上げきた自分の憲法記念日の記事を読むのが習慣になった。読み返すことで、この20年のこの国の変化もよく整理できる感じがする。私の立場は護憲派として変わらず、9条の理念と国家原則を守るべしという主張をずっと続けている。この立場は、最近では日本の左派の中でも少数派かもしれず、同じ意見の同志をネット上で見る頻度が少ない。時間が経つほどに少なくなり、少数派になっている感覚を否めない。2015年に安保法制の政治があった際、新9条論を唱えるリベラル左派が次々と出現した。9条2項を削除するか改変し、自衛隊と自衛権を憲法に位置づけるべしという主張であり、特にその時期に左翼内で台頭したしばき隊がこれを担いで扇動する一幕があり、今に続く悪い影響を残している。
その後、この新9条論を安倍晋三が見事にパクり、改憲派が推進する憲法改定の本丸政策となり、現在に至る状況となっている。新9条論を唱えた者たちの反省は聞かない。日本共産党が、自らの組織勢力の内部にしばき隊を抱え込み、しばき隊の邪論を擁護したことや、中国と敵対する安保外交政策で改憲政党と足並みを揃えたため、左翼世界での9条をめぐる政治構図は大きく変化した。嘗ての、土井たか子的な、あるいは9条の会のファウンダー(⇒創業者)たちが唱えた平和憲法への原理的なコミットは、現在の左翼リベラルでは希薄化し曖昧化し、その思想的影響力を後退させている。そうした左翼の愚態や混迷と反比例して、右翼の側の改憲論はますます勢いを大きくする一方で、世論の多数を容易に固めてきた。それがこの10年間の政治の流れだった。戦後民主主義の理想を純粋に仰ぐ者は、少数派の悲哀と忍苦と憂鬱に堪える日々を送らなければならなくなった。
改憲派は真っすぐに9条改訂の改憲発議を狙っている。その事実は、先月の国会での党首討論の模様を見ても明確に分かる。持ち時間を分けた3人の野党党首は、事前に相談して各自の質問事項を分担し、野田佳彦はトランプ関税、前原誠司は憲法改正、玉木雄一郎は暫定税率にフォーカスした。要するに、参院選の後は大連立し、一緒に素早く憲法改正しましょうねという合図であり、その将来路線の国民への示唆である。改憲の中身は二つで、9条を変えて自衛隊を明記すること(安倍改憲)と、緊急事態条項で政府がナチス的全権委任を得ること(橋下・馬場改憲)であり、5/3 の改憲派の集会に石破茂が寄せたビデオメッセージがそれを証明している。台湾有事の名の中国との戦争を前提にした改憲政策であり、戦争を始めても国家法制に不具合がないように、憲法を戦争する国の憲法に変えようとしている。戦争がリアルに見据えられていて、戦争のための憲法改正だ。
嘗てのような改憲のための改憲ではない。安倍晋三的な、自己目的的な無鉄砲な憲法改正ではない。アメリカの戦略と指示の下での中国との戦争が日程にあり、その総力戦を遂行するべく、国家の全資源をそこに集中投入するため、憲法を変える必要があるのである。具体的に、①スパイ防止法を制定し、②徴兵制を施行し、③核武装を実現するため、憲法9条を変える(殺す)必要に迫られているのであり、日本国憲法の存在自体を無意味なものにしないといけない。非戦平和憲法である現憲法を無効化して、初めて①②③は実行できるのであり、①②③の条件が整備されて初めて中国との正面戦争が可能になる。①は戦前の治安維持法と同じであり、これによって言論が統制される。今、こうして書いて公開する記事発信は犯罪になり、治安警察によって摘発され検挙され処罰される。反戦と政府批判の言論をする者は、中国のスパイと見做され、国家に叛逆する犯罪者となる。
4年前の2021年に米軍が発したアナウンスによれば、台湾有事は2027年までに開始される予定であり、すなわち、今から2年以内に発生する。この4年間、台湾有事(対中戦争)に向けてあらゆる準備が進められてきた。先島と奄美と九州に巨大なミサイル基地群が建設され、宇宙・サイバー・電磁波の部隊が創設・増強され、防衛費がGDP2%に増え(5兆円→10兆円)、敵基地攻撃能力が解禁されて長距離ミサイルの配備が決まった。民間の戦争協力を強制する経済安全保障法制の諸法も制定された。統合作戦司令部が発足した。豪州と準軍事同盟を組むだけでなく、フィリピンとも準軍事同盟の関係に入った。まさに準備万端であり、4年前に想定していたあらゆる作戦構想が壮大かつ完璧に実現している。2027年までに戦争本番に突入するとして、国内の工程表で残されている大きな課題はスパイ防止法と徴兵制と核武装だけだ。そして、その前提となる憲法改正だけだ。
5/4 にテレビ出演した加藤登紀子が、「この憲法を守り抜いた80年は(日本にとって)本当によかったと思う。守り抜けたことは日本の宝だ」と発言していた。同感する。加藤登紀子より10歳以上若い世代の私は、彼女とは少し異なる感想の表現が頭に浮かぶ。それは、人生が憲法に守られてきたという感慨であり、これまで長く守ってくれた憲法に感謝し、その憲法を守り抜いてきてくれた上の世代に感謝するという気分だ。われわれはラッキーだった。戦争になる危惧や不安を一度も感じずに、少年期から青年期を希望に満ちて送ることができた。戦後の平和主義の安定した太平洋高気圧の下で、若者の時代を不自由なく過ごすことができた。豊かで楽観的な日本経済の中で、中産階級として。こんな恵まれた人生を与えられる日本人が、これから出現するだろうか、過去に存在しただろうかと素朴に思う。日本国憲法とは、近代日本人の夢であり、成果であり、われわれの土台だった。
人は年をとると(大脳皮質の細胞の不活発と共に)信仰的な態度になる。映画『たそがれ清兵衛』で、仏壇の前に座ってゴニョゴニョ呟いている老母のように。今後の生存期間の残り少なさを自覚した者は、これまで生きてきた人生が何だったか意味を総括する動機づけが強くなるもので、過去の人生と関係性の積層に対して、感謝とか後悔とか憎恨とかの感情を抱きがちになるものだ。そうした平凡な高齢者庶民の一人として、清兵衛の老母が阿弥陀様を崇めて念仏を唱えていたように、私の場合は、戦後民主主義とその指導者たちの偉業を称揚し、平和憲法の意義を強調して(魔界に堕した)世間の人々を説伏しようという行動に向かう。人々の多数が親米保守の改憲右派になり、戦後民主主義を否定する脱構築の改憲左派になり、それらが圧倒的多数を占め、自分が少数派の異端になるほどに、護憲を説得する言葉を開発し提唱したいという意識が強くなり、清兵衛の老母のように呟きに情熱が入る。
昨年も改憲の危機だった。昨年は、上脇博之と赤旗新聞の奮闘により、自民党の裏金問題が熱い政局として浮上、維新などが執拗かつ周到に詰めた改憲工作が頓挫する結果となった。間一髪で改憲発議を回避することができた。上脇博之の見事な研究と追及のおかげで奇跡的に憲法が守られた。今年は、また新たに情勢が変わり、トランプ関税の騒動一色となり、永田町とマスコミの関心はトランプ関税で塗りつぶされている。そのため、改憲論議はまたもや二の次の順位となった。台湾有事を勃発させる1-2年前というタイミングなのに、改憲の政局が熱を帯びてない。逆に、何やら台湾有事そのものが遠ざかった雰囲気が漂っていて、護憲派の焦燥と悲観を和らげる空気感となっている。一見して、トランプは台湾有事(対中戦争)に熱心でない印象を受ける。強烈な反共主義者であり、汚い中国ヘイトを撒き散らし、中国を野蛮に挑発してアメリカ国民を扇動しつつ、トランプの本気がどこにあるのか不明だ。
もし、昨年の米大統領選で民主党が勝利していたなら、台湾有事の工程はさらに詰められ、台湾内部での親米親中両派の対立が熾烈になっていたはずで、そこにアメリカ(CIA)が介入工作していたと想像される。工程表では軍事衝突の1-2年前の時点だから、戦争する側からすれば、そこまで政情不安を高めないといけない。が、その気配がなく、トランプ政権が台湾問題を言挙げする頻度が少ない。強い関心がないように見受けられる。おそらく、トランプは習近平との間で何らか大きなディールを成立させる図を目論んでいて、すなわち経済的な果実の獲得を第一に追求しているため、安全保障面での中国との緊張や紛争を避ける選択をしているのかもしれない。本心は察しかねるが、表面上はそう理解できる。トランプ政権の政策は国王たるトランプの専断専決であり、基本的にブレーンの介在はない。構想もない。トランプ個人の政治思想を垣間見るに、中国やロシアのような大国と戦争する事態は排除していると窺える。
中国やロシアとの戦争はアメリカの国益(アメリカ国王たる自分の利益)にならないという判断のようだ。なので、権威主義vs民主主義の陣営対立と闘争と決戦とか、中国を崩壊させる封じ込め戦略とか、そうした新冷戦のイデオロギーに執着する傾向が薄く、もっとビジネス・オリエンテッド(⇒指向)な意図で政治を発想している可能性がある。例えば、日本はアメリカの同盟国だが、トランプから見て日本は中国と同質同類の脅威であり、アメリカの国益を侵害する敵国だという認識をしている。ロシアに対しては相互関税を見送る措置をとっていて、トランプの思想の特異な特徴が端的に表れている。そこにはトランプ独特の価値観と世界観がある。2018年のペンス演説で新冷戦を宣言して以来、7年間、アメリカ(CIA)は中国を崩壊と解体に導く戦略の推進に全力を注ぎ、世界を強力に再編してきた。2021年のデービッドソンによる「6年以内台湾有事」の宣告もその重大な一環であり、新冷戦戦略の総仕上げとなる軍事力の行使が布石されていた。
戦略は着々と遂行され、諸工程が成功裏に done (⇒実行)され、首尾よく update (⇒更新)され、世紀の goal を見通す段階に入っていたが、ここへ来て、2期目トランプ登場というハプニングにより、戦略は俄かに先行き不透明な情勢になった。ディールという限り、二者の存立を前提とした商談の政治が企図されていて、したがって、相手の存在を認めず叩き潰すというイデオロギー的な論理と目標は排除されている。従来のCIA(アメリカ)の新冷戦戦略とは異なる思考にトランプはあると看て取ることも可能で、もしそれが真実であるなら、トランプ政権が安泰で続いた場合、台湾有事(対中戦争)は回避される僥倖が生じる。CIAが主導してきた戦争計画は中断・頓挫の進行となる。それは、日本の平和を祈念する立場にとっては福音であり、歓迎すべき方向性だ。アメリカ(トランプ)が、CPC(⇒中国共産党)とPRC(⇒中華人民共和国)を是認して共存する意思決定に出た場合、日米同盟による中国との戦争を予定し、そこへ向けて全力疾走してきた日本も、国策を転換しなければいけなくなる。