外交評論家の孫崎享氏が掲題の記事を出しました。
題記の事実は、海外情勢に明るい識者たち(一部の人たちを除き)が等しく指摘していることです。
孫崎氏は最近の世論調査や要人の発言に基いて、これまでは「米国に隷属していれば日本は安全で繁栄もする」という姿勢で貫かれてきたが、ここにきて風向きが変わってきたと述べています。日本も自らに責任の持てる健全な姿に転換するべきです。
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日本外交と政治の正体 孫崎享
対米隷属を続ければ日本の繁栄と安全はない
日刊ゲンダイ 2025/05/08
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
第2次大戦以降、日本政府の米国に対する姿勢は、田中角栄内閣時代を除いてほぼ一貫している。それは、米国に隷属していれば、「経済は繁栄する」「軍事上の安全は保たれる」と信じてきた、ということである。
もっとも、日米両国間の歴史的な事象を検証すれば、そんなことは決してないのだが、ともかく日本政府、国民はそれを信じて米国隷属の道を選択してきた。
石破首相が2月上旬に訪米した際も、この姿勢は変わらず、石破首相はトランプ大統領と密接な関係を築くことができたとアピールした。
しかし、トランプ大統領は4月8日の「共和党全国議会委員会の夕食会」という準公式的な場で、こう発言したのだ。
「(日本を含む)これらの国々は我々を訪れ、私の尻にキスをしている。彼らは死んでもディール(取引)をしようとして、『何でもします。閣下』と言っている」
トランプ関税を巡る日米関税交渉が本格化し、米国は自動車関税に関して交渉に応ずる意思がないことが分かった。すると、石破首相は5月2日、「我々の国益を譲ってまで早く妥結をすればいいというものではない」と踏み込んだ。
日米両国における長い歴史の中で、日本の首相の口からこうした毅然とした言葉を聞くことはほとんどなかったが、関税交渉の雰囲気を反映し、日本国内の世論も変化しつつある。
朝日新聞は世論調査の結果として、「日米間には安全保障条約がある」と前置きした上で、「いざという場合」に米国が本気で日本を守ってくれると思うか尋ねていた。その結果、「守ってくれる」は15%にとどまり、「そうは思わない」という懐疑派が77%に達した、と報じていた。
これまでの世論調査で「米国が本気で日本を守ってくれるとは思わない」の回答が8割近くを占めた例はほとんどなかったのではないか。
「良好な日米関係」が日本の経済発展に資すると強く主張しているのが経済界である。しかし、ここでも異変が起きている。
4月29日付の読売新聞は、「トランプ米大統領による関税措置は『米国は、もう今までの米国ではない。頼りにするな』という深刻な警告だ」と語った新浪剛史・経済同友会代表幹事の発言を報じていた。
日本人の心境の変化の背景には、自動車関税を巡る日米対立があるだろう。自動車は日本の対米輸出の約3割を超える。
トランプ大統領にとって、自動車と鉄鋼は、「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」(米国を再び偉大に)の中心の産業だが、この分野は日米双方ともに安易な妥協はできない。つまり、今後も日米両国の対立が続き、それは日本国内の米国不信が拡大することになる。
孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。